説明

車両用照明装置

【課題】 他車を眩惑することなく、また運転者に違和感を感じさせることなく安全交通に適した配光特性を得ることが可能な車両用照明装置を得る。
【解決手段】 車両の前部の左右にそれぞれ配設された一対のヘッドランプを備え、これら一対のランプから出射される照明光を重畳して当該車両の前方領域を照明する車両用照明装置において、これら一対のランプの一方のランプの配光特性のみを独立して変化制御できるようにする。例えば、雨天時に一方のランプの配光パターンRL1を他方のランプの配光パターンLL1と相違させることで、直前領域A1の明るさを幾分低減した配光特性を得ることができ、直前領域の路面での反射光による対向車の眩惑を防止する一方で、直前領域が暗黒に近い状態になることを回避して直前領域の視認性を改善する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車等の車両の照明装置に関し、特に前照灯の配光特性を適切に制御することが可能な車両用照明装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の安全走行を確保するために、自動車の走行状況に応じて前照灯の配光特性を適切に変化制御することが行われている。なお、本発明における「配光特性」とは前照灯により照明される領域の光度分布のパターン形状のことを示しており、したがって光度分布パターン形状が同じで単に照射方向が異なる場合には配光特性は同じであるとする。例えば、特許文献1,2に記載の技術は、自動車の左右の前照灯を構成している各プロジェクタ型ランプの配光特性を制御するもので、各ランプに内装されているシェードを移動させて各ランプの配光特性を変化制御し、これら両ランプから出射される照明光が重畳される自動車の前方の配光特性を適切に制御する技術が提案されている。また、特許文献1,2では、左右の各ランプに設けられているシェードの一部をそれぞれ同時に移動させることで、自車の直前領域の照明光を消光又は減光し、雨天時に路面で反射した照明光による他車への眩惑を防止している。また、特許文献3では、複数のランプをそれぞれ固有の配光特性を有するランプとした上で、これらランプの照射方向をそれぞれ個別又は同時に制御し、両ランプの照明光の重なり形態を変化させることで配光特性を変化制御する技術が提案されている。
【特許文献1】特開2004−327187号公報
【特許文献2】特開2005−11608号公報
【特許文献3】特開2003−200779号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1,2の技術では、左右のランプが同じ配光特性をしており、これらの同じ配光特性の照明光が重ねられて自動車の前方領域を照明しているため、両ランプの照明光が重なった領域と重ならない領域との明るさの差が極めて顕著なものになり、これが原因で運転者に違和感を生じさせるとともに、視認性が低下するという問題がある。例えば、図11は特許文献2のランプにおいて雨天走行時に自車の直前の路面での反射光によって他車を眩惑することがないように自車の前方を照明した場合の配光特性を示しており、左右のヘッドランプの各配光パターンLL0,RL0による照明光が重なった領域B0では明るくなり、一方のランプの照明光のみが照射された領域B2では若干暗くなる。また、両ランプの照明光がいずれも照射されない領域B1では暗黒に近い状態になる。この配光特性では、自車の直前領域B1において暗黒の状態となるため運転者は自車の直前領域が確認できなくなり視認性が低下する。また、自車の前方領域に明るい領域B0、若干暗い領域B2、暗黒に近い領域B1が並んだ状態で生じるため、照明領域の全体に筋状の明暗が生じることになり、運転者に違和感を感じさせるとともに安全走行を確保する上での障害になる。
【0004】
また、特許文献3の技術では、両ランプの各配光特性がそれぞれ固定された配光特性であるため、各ランプの照射方向を変化させることで両ランプの照明光が重ねられた照明領域の配光特性を変化させることは可能であるが、固定的な配光特性の組み合わせに限られるため、制御可能な配光特性の自由度が低くなる。そのため、特許文献1,2のような雨天時に自車の直前の明るさを低下させて路面での反射による他車の眩惑を防止するような配光特性を得ることは難しく、配光特性の制御の自由度が低くなり、ひいては安全走行の障害になるという問題がある。
【0005】
本発明の目的は、他車への眩惑を防止するとともに運転者における視認性を高めて安全走行に有効な配光特性を得ることができる車両用照明装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、車両の前部の左右にそれぞれ配設された少なくとも一対のランプを備え、これら一対のランプから出射される照明光を重畳して当該車両の前方領域を照明する車両用照明装置において、これら一対のランプの一方のランプの配光特性のみを独立して変化制御できるように構成したことを特徴とする。例えば、配光特性の制御として、いずれか一方のランプの照明領域のうちの一部領域の明るさを変化制御する。この場合、車両の直前の照明領域を減光または消光することが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、一方のランプの配光特性を独立して変化制御することで、当該一方のランプの照明光と他方のランプの照明光との重畳形態を任意に変化でき、様々な配光特性の車両用照明装置が構成できる。これにより、例えば、雨天時における自車の直前領域の明るさを幾分低減した配光特性を得ることができ、当該直前領域の路面での反射光によって対向車を眩惑することが防止できる。また、同時に直前領域が暗黒に近い状態になることを回避して自車の直前領域の視認性を改善するとともに、直前領域が暗黒に近い状態になって照明領域に筋状の明暗が生じることはなく、運転者に違和感を感じさせることもない。また、高速走行時に対向車を眩惑することなく自車の走行先の領域を明るく照明する配光特性を得ることも可能になる。
【実施例1】
【0008】
次に、本発明の実施例を図面を参照して説明する。図1は本発明を自動車の前部の左右に配設される一対のヘッドランプで構成される照明装置に適用した実施例の概略図であり、自動車CARの運転席の運転者がステアリングホイールSW近傍に設けられたランプモード切替スイッチLMSWを切替操作して後述するモードの切り替えを行うと、当該ランプモード切替スイッチLMSWからのモード信号を受けて中央処理装置(以下、CPUと称する)1はランプ制御部2を制御し、このランプ制御部2によって左側ヘッドランプLHLと右側ヘッドランプRHLの各配光特性、すなわち配光のパターン形状をそれぞれ独立して制御するようになっている。実施例1では切り替え可能なランプモードとして、「走行モード(ハイビームモード)」、「すれ違いモード(ロービームモード)」、「雨天走行モード(ウェットロードモード)」の切り替えが可能とされている。
【0009】
前記左右の各ヘッドランプLHL,RHLについて、図2に右側のヘッドランプRHLの概略図を示す。右側ヘッドランプRHLは、ランプボディ11と、このランプボディ11の前面開口に取着された透明カバー12とで構成される灯室13内にハイビーム用プロジェクタ型ランプHPLと、ロービーム用プロジェクタ型ランプLPLを内装している。ここではこれらハイビーム用とロービーム用の各プロジェクタ型ランプHPL,LPLは一部の構成が相違するが基本的には同じ構成である。図3はロービーム用プロジェクタ型ランプLPLの断面図であり、当該プロジェクタ型ランプLPLはエイミング機構21を介して前記ランプボディ11内に支持されている。エイミング機構21は、詳細は省略するが、上側の左右位置に設けられたエイミングスクリュ211と、下側の一部に設けられたエイミングモータ機構212を備えており、エイミングスクリュ211を調整することでプロジェタク型ランプLPLの光軸を水平方向に調節でき、エイミングモータ機構212を駆動することで光軸を鉛直方向に調整できるように構成されている。
【0010】
前記ロービーム用プロジェクタ型ランプLPLは、回転楕円形状をしたリフレクタ22と、このリフレクタ22の前縁に取着される円環状をしたホルダ23と、このホルダ23の前縁に固定リング25により支持されたレンズ24とでランプハウジングが構成されている。前記リフレクタ22により構成される第1焦点位置には光源としての放電バルブ26がバルブソケット27により内装支持されている。また、前記レンズ24は前記リフレクタ22の第2焦点に焦点を一致させた凸レンズで構成される。さらに、前記ホルダ23内には前記放電バルブから出射した光の一部を遮光するための第1シェード28と第2シェード29が配設されている。第1シェード28はホルダ23内において光軸よりも下側を遮光するように所要の形状をした固定シェード構造として構成される。また、第2シェード29はホルダ23内において光軸よりも上側の一部を遮光する可動シェード構造として構成される。
【0011】
すなわち、図4に図3のA−A線断面図を示すように、前記第1シェード28はホルダ23内の光軸よりもほぼ下側領域を遮光する固定遮光壁として構成される。前記第1シェード28は左右領域の一方が水平方向に向けられ、他方が若干下方に傾斜されている。前記第2シェード29は、前記ホルダ23内の上側に沿った左右の領域を遮光する固定構造の補助シェード291と、この補助シェード291の間に鉛直方向に向けて設けられている所要幅寸法の空隙内において鉛直方向に移動可能な可動シェード292とを有している。また、前記ホルダ23の上部外側にはシェードモータ293が配設されており、前記可動シェード292はこのシェードモータ293によって鉛直方向に移動可能とされている。ここでは前記可動シェード292は下端縁が円弧状に形成されるとともに、鉛直方向に向けられた一方の辺にはラック歯292aが形成されており、このラック歯292aが前記シェードモータ293のピニオン293aに噛合されてラック・ピニオン機構を構成している。この構成では、シェードモータ293を駆動するとラック・ピニオン機構により可動シェード292は鉛直方向に移動される。通常では可動シェード292の下端縁は補助シェード291の下端縁とほぼ同じ鉛直方向の位置にあるが、雨天走行モード時等においてはシェードモータ293によって下動され、可動シェード292の下端縁は補助シェード291の下端縁よりも光軸方向に向けて下方に突出される。
【0012】
前記ハイビーム用プロジェクタ型ランプHPLは基本的には図3及び図4で説明したロービーム用プロジェクタ型ランプLPLと同じ構成であるが、ランプハウジングのホルダ23内には第1シェード28及び第2シェード29に相当するシェードは設けられてはいない。また、左側のヘッドランプLHLについても同様にハイビーム用とロービーム用の各プロジェクタ型ランプを備えているが、両プロジェクタ型ランプの左右方向の配置は右側のヘッドランプRHLとは反対である。
【0013】
ここで、左右の各ヘッドランプLHL,RHLのロービーム用プロジェクタ型ランプLPLでは、放電バルブ26を点灯すると、放電バルブ26から出射した光は回転楕円形状のリフレクタ22の内面で反射されて第2焦点に集光され、さらにレンズ24を透過して平行に近い光束として出射される。第1シェード28は第2焦点位置に配置されており、この第1シェード28により所要のカットラインの照射パターンで出射される。このとき、第2シェード29の可動シェード292を退避位置、すなわち可動シェード292の下端縁を補助シェード291の下端縁と同じ位置となるように鉛直上方に移動した状態では、これら第1シェード28及び第2シェード29によって構成される配光特性は、図5(a)のように、光軸よりも右側領域では水平線Hよりも下側に水平のカットラインが形成され、光軸よりも左側領域では右側領域から斜め上方に向けられたカットラインの配光パターンL1となる。一方、可動シェード292を下動してその下端縁を補助シェード291の下端縁よりも鉛直下方に突出したときには、リフレクタ22で反射されてホルダ23内の光軸よりも上側を通過する照明光の光軸に沿った部分が遮光されるため、その配光特性は、図5(b)のように、光軸の鉛直線Vに沿った直下領域、すなわち自車の直前領域が可動シェード292により遮光され、あるいは減光された配光パターンL2となる。
【0014】
次に実施例1における各モードでの配光特性について説明する。実施例1の構成では、運転者がランプモード切替スイッチLMSWを「走行モード」に切り替えたときには左右のヘッドランプLHL,RHLの各ハイビーム用プロジェクタ型ランプHPLが点灯される。各ハイビーム用プロジェクタ型ランプHPLでは放電バルブ26からの光はリフレクタ22で反射され、レンズ24を透過して前方の全領域に向けて出射され、しかも左右の各ヘッドランプLHL,RHLの各ハイビーム用プロジェクタ型ランプHPLの照明光が重畳されるため、図6(a)の配光特性となる。同図において、LH1は左側ヘッドランプLHLのハイビーム用プロジェクタ型ランプHPLの配光パターン、RH1は右側ヘッドランプRHLのハイビーム用プロジェクタ型ランプHPLの配光パターンである。また、ここでは、左右の各ハイビーム用プロジェクタ型ランプHPLの配光は若干左右にずれるように設定されているものとする。
【0015】
ランプモード切替スイッチLMSWを「すれ違いモード」に切り替えたときには左右のヘッドランプLHL,RHLの各ロービーム用プロジェクタ型ランプLPLが点灯される。左右の各ロービーム用プロジェクタ型ランプLPLはそれぞれ図5(a)に示したように同じカットラインの配光特性であり、図6(b)のように、左側ヘッドランプLHLのロービーム用プロジェクタ型ランプの配光パターンLL1と右側ヘッドランプRHLのロービーム用プロジェクタ型ランプLPLの配光パターンRL1とが若干水平方向にずれた状態で重畳される。これにより、光度が高められたすれ違い配光特性での照明が行われる。
【0016】
ランプモード切替スイッチLMSWを「雨天走行モード」に切り替えると、左右のヘッドランプLHL,RHLのロービーム用プロジェクタ型ランプLPLの一方の配光特性のみが変化される。ここでは対向車に対する眩惑を考慮して対向車側、すなわち右側ヘッドランプRLのロービーム用プロジェクタ型ランプLPLの配光特性のみが変化される。すなわち、右側ヘッドランプRLのロービーム用プロジェクタ型ランプLPLのシェードモータ293を駆動することにより可動シェード292の下端縁が鉛直下方の光軸に向けて補助シェード291よりも下方に突出される。この可動シェード292の突出により当該ロービーム用プロジェクタ型ランプLPLの配光特性は図5(b)に示したように、自車の直前領域への配光が消光あるいは減光される特性となる。このため、左右のヘッドランプLHL,RHLの各ロービーム用プロジェクタ型ランプLPLの照明光が自動車の前方領域において重畳されると、図6(c)のように、左側ヘッドランプLHLのロービーム用プロジェクタ型ランプLPLの配光特性は図5(a)と同じ配光パターンLL1となり、右側ヘッドランプRHLのロービーム用プロジェクタ型ランプLPLの配光特性は図5(b)と同じ配光パターンRL2となる。
【0017】
すなわち、左右の各ロービーム用プロジェクタ型ランプLPLの照明光が重畳された自車の前方領域の大部分の領域A0,A2はすれ違いモードと同じ配光特性となるが、図6(c)の自車の直前領域A1では右側のロービーム用プロジェクタ型ランプLPLからの照明光が消光又は減光されているため左側のロービーム用プロジェクタ型ランプLPLからの照明光のみになり、当該直前領域A1は明るさが若干低い配光特性となる。これにより、雨天時における自車の直前領域A1の路面での反射光によって対向車を眩惑することが防止される。また、この配光特性では、左右両方のロービーム用プロジェクタ型ランプLLPL,RLPLを重畳した場合でも、自車の直前領域A1が暗黒に近い状態にはならないため、当該直前領域A1の視認性は改善される。また、得られる配光特性は、左右両方のロービーム用プロジェクタ型ランプLPLの照明光が重なった明るい領域A0と、いずれかのロービーム用プロジェクタ型ランプLPLの照明光のみが照射された明るさが若干低い領域A1,A2のみであり、図11に示した従来の配光特性のような暗黒に近い領域が生じないため、配光領域に筋状の明暗が目立つことがなくなり、運転者に違和感を感じさせることもなく、この点でも視認性が向上する。
【実施例2】
【0018】
実施例2の照明装置では、運転者において「走行モード」、「すれ違いモード」、「ミドルビームモード」に切り替えが可能な例を示している。ここで「ミドルビームモード」は、自動車が高速で走行する際に自車の遠い前方を照明すると同時に対向車に対する眩惑を防止することが可能なモードである。図1に示したと同様にシステム構成された自動車のヘッドランプLHL,RHLに対し、図7は実施例2の左右のヘッドランプを右側のヘッドランプRHLで代表して示す概略構成図である。ランプボディ11と、このランプボディ11の前面開口に取着された透明カバー12とで構成された灯室13内に複数のハイビーム用光源ユニットHLUとロービーム用光源ユニットLLUとが配列されている。各光源ユニットHLU,LLUは後述するように光半導体素子、ここではLED(発光ダイオード)を光源とし、それぞれが所定の配光特性での照明を行うようになっている。また、灯室13内には各光源ユニットHLU,LLUの放熱を行うためのヒートシンク14が配設され、さらに図示は省略するが各光源ユニットを発光させるための回路ユニットや灯室13内の前記光源ユニットを除く領域及び回路ユニットを覆い隠すためのエクステンションが配設されている。
【0019】
図8(a)は前記ハイビーム用光源ユニットHLUの断面図である。ユニットハウジング31の前面開口にはレンズ32が取着されるとともに、ユニットハウジング31内には光源としてのLEDモジュール34とリフレクタ35Hが配設されている。LEDモジュール34はLED341と、当該LED341を封止した透明樹脂342とで構成されており、ユニットハウジング31内に固定した支持基板33に搭載されている。前記LEDモジュール34は当該支持基板31に接続した電気コード36を介して図示を省略した回路ユニットに電気接続され、車載電源によって発光するようになっている。また、透明樹脂342は所要の曲面に形成され、LED341で発光した光を所要の方向に出射させる。前記リフレクタ35HはLEDモジュール34から出射した光を反射し、レンズ32を透過して出射させることで所要の配光特性を得るようになっている。このハイビーム用光源ユニットHLUでは前記LEDモジュール34はレンズ32の光軸上に配置されており、LEDモジュール34から出射した直接光及びリフレクタ35Hで反射した光をレンズ32で集光することにより、出射される照明光はほぼ平行に近い光束としてヘッドランプの光軸に沿って水平方向に向けられ、光軸の近傍を照明する配光特性となる。ここで、実施例2では、図9(a)のように、左側のヘッドランプLHLのハイビーム用光源ユニットHLUからの照明光は光軸よりも左側領域の水平線に沿った領域LH11を照明する配光特性となる。また、右側のヘッドランプRHLのハイビーム用光源ユニットHLUからの照明光は光軸よりも右側領域の水平線に沿った領域RH11を照明する配光特性となる。
【0020】
一方、ロービーム用光源ユニットLLUは、図8(b)の断面図に示すように、基本的にはハイビーム用光源ユニットHLUとほぼ同じ構成であるが、LEDモジュール34を支持基板33のレンズ32の光軸に対して鉛直上方に偏位させた位置に支持している。また、リフレクタ35Lはその一部を複数の異なる傾斜の反射面で構成している。これにより、左右の各ヘッドランプLHL,RHLの各ロービーム用光源ユニットLLUでは、LEDモジュール34から出射した光を直接レンズ32を透過させ、あるいはリフレクタ35Lで反射してレンズ32を透過させ後は、図9(b)のように光軸よりも右側領域では水平線よりも若干下方にカットラインを有する領域を照明し、光軸よりも左側領域では水平線に沿ってカットラインを有する領域を照明する配光特性LL11,RL11となる。
【0021】
実施例2の各モードでの配光特性について説明する。ランプモード切替スイッチLMSWを「走行モード」に切り替えると、左右の各ヘッドランプLHL,RHLの各ハイビーム用光源ユニットHLUとロービーム用光源ユニットLLUが共に点灯され、これら左右のヘッドランプLHL,RHLの各ハイビーム用及びロービーム用の各光源ユニットHLU,LLUの照明光は自動車の前方領域において重畳される。これにより、図10(a)に示すように、水平線よりも下方の左右領域は左右のヘッドランプのロービーム用光源ユニットLLUで照明される配光パターンLL11,RL11となり、水平線に沿った左右領域は左右のヘッドランプのハイビーム用光源ユニットHLUで照明される配光パターンLH11,RH11となり、これらが重畳された配光特性となる。
【0022】
一方、ランプモード切替スイッチLMSWを「すれ違いモード」に切り替えると、左右の各ヘッドランプLHL,RHLの各ロービーム用光源ユニットLLUのみが点灯される。左右の各ヘッドランプの各ロービーム用光源ユニットLLUの照明光を重ねると、図10(b)に示すように水平線よりも下方の左右領域のみを照明する配光パターンLL11,RL11が重畳された配光特性となる。したがって、対向車を含めて他車を眩惑することはない。
【0023】
ランプモード切替スイッチLMSWを「ミドルビームモード」に切り替えると、左右のヘッドランプLHL,RHLの各ロービーム用光源ユニットLLUを点灯させると同時に、対向車を眩惑するおそれが無い側のヘッドランプ、ここでは左側のヘッドランプLLのハイビーム用光源ユニットHLUを同時に点灯させる。換言すれば対向車を眩惑するおそれのある側、ここでは右側のヘッドランプRLのハイビーム用光源ユニットHLUを点灯しないようにする。これにより、左右のヘッドランプLHL,RHLの照明光を重ねると、図10(c)に示すように、水平線よりも下方の左右領域は左右のヘッドランプの各ロービーム用光源ユニットLLUで照明される配光パターンLL11,RL11となり、水平線に沿った左側領域は左側のヘッドランプLLのハイビーム用光源ユニットHLUで照明される配光パターンLH11となり、これらが重畳される。これにより、水平線に沿った右側領域が右側のヘッドランプのハイビーム用光源ユニットで照明されることはなく、自車の進行方向を遠方まで照明して自車の高速走行時の安全走行を確保する一方で、対向車に向けられた右側領域は水平線の下方領域を照明するのみであり、対向車の眩惑を防止する配光特性が得られる。
【0024】
このように実施例2では、「すれ違いモード」及び「ミドルビームモード」では、対向車を眩惑することなく、自車の走行状況に対応した適切な照明が確保でき、視認性が向上する。また、左右のヘッドランプの異なる配光特性の照明光を重ねることで、光度の高い領域と低い領域とが生じ難くなり、照明領域の全体において筋状の明暗が生じ難くなって運転者に違和感を生じさせることもない。
【0025】
以上の実施例1,2では左側通行、すなわち自車の右側を対向車が走行する場合の例であるが、右側通行の場合には、実施例1の雨天走行モードでは対向車側である左側のヘッドランプにより直前領域を減光ないし消光するようにし、実施例2ではミドルビームモード時に左側のヘッドランプのハイビーム用光源ユニットを点灯しないようにすればよい。
【0026】
本発明は、左右のヘッドランプの照明光を重畳して所定の配光特性を得るようにしたヘッドランプであれば、いずれか一方のヘッドランプの配光特性を独立に変化制御することを可能とすることにより実現できるので、ヘッドランプの具体的な構成が実施例1,2の構成に限定されるものではない。例えば、実施例1のプロジェクタ型ランプを用いて実施例2のミドルビームモードでの配光を行うようにすることができ、反対に実施例2の光源モジュールによるランプを用いて実施例1の雨天走行モードでの配光を行うようにしてもよい。また、ランプモード切替スイッチLMSWを手操作する構成例について説明したが、自動車の車速、ワイパー動作信号、車載カメラで撮像した自車の周囲状況、車外通信により得られる情報等に基づいてヘッドランプの配光特性を自動に切り替わるように構成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の照明装置の概念構成図である。
【図2】実施例1の右側ヘッドランプの概略斜視図である。
【図3】ロービーム用プロジェクタ型ランプの断面図である。
【図4】図3のA−A線に沿う断面図である。
【図5】左右のロービーム用プロジェクタ型ランプの配光パターン図である。
【図6】走行モード、すれ違いモード、雨天モードの各配光パターン図である。
【図7】実施例2の右側ヘッドランプの概略斜視図である。
【図8】ハイビーム用及びロービーム用の光源ユニットの断面図である。
【図9】ハイビーム用及びロービーム用の光源ユニットの配光パターン図である。
【図10】走行モード、すれ違いモード、ミドルビームモードの各配光パターン図である。
【図11】従来の配光特性の問題を説明するための配光パターン図である。
【符号の説明】
【0028】
1 中央処理装置
2 ランプ制御部
SW ステアリングホイール
LMSW ランプモード切替スイッチ
LHL,RHL ヘッドランプ
HPL ハイビーム用プロジェクタ型ランプ
LPL ロービーム用プロジェクタ型ランプ
HLU ハイビーム用光源ユニット
LLU ロービーム用光源ユニット



【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前部の左右にそれぞれ配設された少なくとも一対のランプを備え、これら一対のランプから出射される照明光を重畳して当該車両の前方領域を照明する車両用照明装置において、前記一対のランプの一方のランプの配光特性のみを独立して変化制御できるように構成したことを特徴とする車両用照明装置。
【請求項2】
前記配光特性の変化制御は、いずれか一方のランプの照明領域のうちの一部領域の明るさを変化制御することを特徴とする請求項1に記載の車両用照明装置。
【請求項3】
車両の直前の照明領域を減光または消光することを特徴とする請求項2に記載の車両用照明装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−99222(P2007−99222A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−295224(P2005−295224)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】