説明

車両用空調装置、車両用空調装置の制御方法および制御装置

【課題】特定状況に対応する所定の設定操作を行う推薦確率を算出する確率モデルの構築に用いた複数の学習データのうち、その特定状況に関する学習データのみを削除し、残りの学習データを別の学習に利用できる車両用空調装置およびその制御方法を提供する。
【解決手段】車両用空調装置(1)は、複数の状態情報をそれぞれ学習データとして記憶する記憶部(61)と、確率モデルを構築する学習部(66)と、算出した推薦確率に応じて、乗員の設定操作に関連する設定情報等を、所定の設定操作となるように修正する(64)と、修正された設定情報等にしたがって空調制御を行う空調制御部(65)とを有する。学習部(66)は、複数の学習データを用いて確率モデルを構築する確率モデル構築手段(663)と、構築された確率モデルに学習データを入力し、得られた推薦確率が第1の閾値以上のとき、その学習データを削除する学習情報整理部(666)を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調装置、車両用空調装置の制御方法および制御装置に関し、特に、搭乗者の温感又は状況に応じて自動的に空調状態を最適化する車両用空調装置およびその車両用空調装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両用空調装置では、設定温度、外気温、内気温、日射量などの各種パラメータに応じて、各吹き出し口から送出される空調空気の温度、風量などを自動的に決定する。しかし、搭乗者の体感温度、温感(暑がり、寒がりなど)には個人差が存在する。そのため、自動的に決定された空調空気の温度、風量などが、最適な値とならないことがある。そのような場合、搭乗者は、必要に応じて操作パネルを操作して、設定温度を高くしたり、あるいは低くしたり、あるいは、風量を増加又は減少させるように空調装置を調節する。そこで、搭乗者が操作パネルを操作して、設定温度、風量などを変更した場合、そのときの各種パラメータを学習データとして用いて、空調空気の温度や風量を決定する制御式を修正する学習制御を組み込んだ空調制御装置が開発されている(特許文献1参照)。
【0003】
ところで、搭乗者が空調装置の設定を変更するのは、必ずしも温感などの違いによるものではなく、特定状況下における外部環境的な要因による場合もある。例えば、搭乗者が運転を行う直前に運動を行っていた場合には、通常よりも設定温度を低くすることもある。また、いつも渋滞する地点に差し掛かった場合に、車の排ガスが車内に充満するのを防ぐために、内気循環モードに設定することもある。しかし、特許文献1に記載された空調制御装置では、特定状況下における外部環境的要因のせいで空調装置の設定を変更したのか、温感などの違いによって変更したのかを区別することができない。そのため、上記のような特定状況に合わせて空調温度などを自動的に最適化することは困難であった。
【0004】
一方、走行中の自車両の位置を示すデータを学習制御に用いる学習データに加えて、温調学習とそれ以外の学習とを識別可能とした自動車用空気調和装置が開発されている(特許文献2参照)。
ここで、上記のような特定状況は、通常一つとは限らず、複数存在する。そして、それぞれの特定状況ごとに、最適な空調設定は異なる可能性が高い。したがって、各特定状況に対応した空調設定を行うためには、特定状況ごとに、学習制御に用いる学習データを収集することが必要となる。さらに、搭乗者は、車両を常に同一の目的地へ向けて同一のルートで走らせるとは限らず、例えば一週間、一ヶ月間といった一定期間の間に複数の目的地へ向けて、異なるルートで走行させることも多い。そのため、複数の特定状況に対応する学習データが同時に収集されることがある。そこで、特定状況ごとに対応する空調設定を早期に求めるためには、これら同時に収集されたデータを特定状況ごとに区別して利用することが望ましい。
【0005】
【特許文献1】特開2000−293204号公報
【特許文献2】特開2000−62431号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上述した従来技術による問題点を解消することを可能とする車両用空調装置、車両用空調装置の制御方法および制御装置を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、特定状況に対応する確率モデルの構築に用いた複数の学習データのうち、その特定状況に関する学習データのみを削除し、残りの学習データを他の特定状況に対応する確率モデルの学習に利用できるようにすることで、学習データの有効利用が可能な車両用空調装置およびその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の記載によれば、本発明に係る車両用空調装置は、状態情報を取得する情報取得部(51、52、53、55、56、57、58)と、複数の状態情報をそれぞれ学習データとして記憶する記憶部(61)と、状態情報を入力することにより乗員が所定の設定操作を行う推薦確率を算出するための確率モデルを、学習データを用いて構築する学習部(66)と、学習部(66)で構築された確率モデルに状態情報を入力して推薦確率を算出し、その推薦確率に応じて、乗員の設定操作に関連する設定情報又は制御情報を、所定の設定操作となるように修正する制御情報修正部(64)と、修正された設定情報又は制御情報にしたがって、空調部(10)の空調制御を行う空調制御部(65)とを有する。係る車両用空調装置において、学習部(66)は、記憶部(61)に記憶された複数の学習データを用いて確率モデルのグラフ構造に含まれるノードの条件付き確率を決定することにより、所定の設定操作に関連する確率モデルを構築する確率モデル構築手段(663)と、複数の学習データのそれぞれを構築された確率モデルに入力して推薦確率を求め、それら複数の学習データのうち、求めた推薦確率が第1の閾値以上である学習データを削除する学習情報整理部(666)とを有することを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に記載のように、学習部(66)は、学習情報整理部(666)で削除されなかった学習データを、別の確率モデルの構築に使用することが好ましい。
【0010】
係る構成により、確率モデルの構築に用いた学習データのうち、構築された確率モデルが対応する特定状況に関する学習データのみを特定して削除するので、他の特定状況に対応する確率モデルを構築する際、残りの学習データを利用できる。そのため、効率的な学習データの利用が可能となり、他の特定状況に対応した確率モデルを早期に構築することができる。なお、状態情報は、車両内外の空調情報、車両の位置情報、車両の挙動情報、時間情報又は車両の搭乗者の生体情報の少なくとも一つを含む。また、空調情報は、車内の内気温、車外の外気温及び日射量を含む。また、所定の設定操作とは、設定温度の変更、風量の変更、内気循環モードに設定する、デフロスタを作動あるいは停止させるといった、車両用空調装置の動作状態を変更させる操作をいう。また、設定情報とは、設定温度、風量、内外気の吸気比、各吹出口から送出される空調空気の風量比など、車両用空調装置の動作を規定する情報をいう。さらに、制御情報とは、空調空気の温度、ブロアファンの回転数、エアミックスドアの開度など、設定情報に基づいて求められ、空調部の各部の動作を制御する情報をいう。
【0011】
さらに、請求項3に記載のように、本発明に係る車両用空調装置は、確率モデルに状態情報を入力して得られた推薦確率が第2の閾値以上の場合、所定の設定操作の内容を搭乗者に報知し、且つ所定の設定操作を行うか否かを搭乗者に確認する確認操作部(59)を有し、且つ第1の閾値は、第2の閾値以上であることが好ましい。
第1の閾値をこのように設定することにより、構築された確率モデルが対応すると想定される特定状況に関する学習データを適切に削除することができる。
【0012】
また、請求項4の記載によれば、空調空気を車内に供給する空調部(10)と、状態情報を取得する情報取得部(51、52、53、55、56、57、58)と、記憶部(61)と、所定の設定操作と関連した少なくとも一つの確率モデルを有し、状態情報を確率モデルに入力して所定の設定操作を行う推薦確率を算出し、その推薦確率に応じて、乗員の設定操作に関連する設定情報又は制御情報を、所定の設定操作となるように修正する制御情報修正部(64)と、修正された設定情報又は制御情報にしたがって、空調部(10)の空調制御を行う空調制御部(65)とを有する車両用空調装置の制御方法が提供される。係る制御方法は、状態情報を学習データとして記憶部(61)に記憶する学習情報蓄積ステップと、記憶部(61)に記憶された学習データから、複数の学習データを選択し、その複数の学習データを用いて確率モデルのグラフ構造に含まれるノードの条件付き確率を決定することにより、所定の設定操作に関連する確率モデルを構築する確率モデル構築ステップと、確率モデルの構築後、複数の学習データのそれぞれを構築された確率モデルに入力して推薦確率を求め、複数の学習データのうち、求めた推薦確率が第1の閾値以上である学習データを削除する削除ステップと、を有することを特徴とする。
【0013】
また、請求項5に記載のように、本発明に係る制御方法において、学習情報蓄積ステップは、所定の設定操作が行われる度に、状態情報をその所定の設定操作と関連する学習データとして記憶部(61)に記憶することが好ましい。係る構成により、操作者が設定操作を行ったときの状態情報を確実に蓄積することができる。
【0014】
また、請求項6に記載のように、本発明に係る制御方法において、確率モデル構築ステップは、前記所定の設定操作を行った操作回数が所定回数以上となった場合、前記所定の設定操作に関連する複数の学習データを選択することが好ましい。あるいは、請求項7に記載のように、所定の設定操作に関連する確率モデルが構築されてから所定の時間が経過した場合、所定の設定操作に関連する別の確率モデルを構築するために、所定の設定操作に関連する複数の学習データを選択することが好ましい。係る構成により、十分な数の学習データを用いて、確率モデルを構築することができる。
【0015】
さらに、請求項8に記載のように、確率モデル構築ステップは、削除ステップで削除されなかった学習データを、別の確率モデルの構築に使用することが好ましい。
【0016】
さらに、請求項9の記載によれば、本発明に係る制御装置は、制御対象となる装置の状態情報を取得する情報取得部と、複数の状態情報をそれぞれ学習データとして記憶する記憶部(61)と、状態情報を入力することにより、所定の設定操作を行う推薦確率を算出するための確率モデルを、学習データを用いて構築する学習部(66)と、学習部(66)で構築された確率モデルに状態情報を入力して推薦確率を算出し、その推薦確率に応じて、所定の設定操作に関連する設定情報又は制御情報を、所定の設定操作となるように修正する制御情報修正部(64)と、修正された設定情報又は制御情報にしたがって、装置の制御を行う制御部(65)とを有する。係る制御装置において、学習部(66)は、記憶部(61)に記憶された複数の学習データを用いて確率モデルのグラフ構造に含まれるノードの条件付き確率を決定することにより、所定の設定操作に関連する確率モデルを構築する確率モデル構築手段(663)と、複数の学習データのそれぞれを構築された確率モデルに入力して推薦確率を求め、複数の学習データのうち、求めた推薦確率が第1の閾値以上である学習データを削除する学習情報整理部(666)とを有することを特徴とする。
【0017】
また、請求項10に記載のように、学習部(66)は、学習情報整理部(666)で削除されなかった学習データを、別の確率モデルの構築に使用することが好ましい。
【0018】
なお、上記各手段に付した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を適用した車両用空調装置について説明する。
本発明を適用した車両用空調装置は、搭乗者の温感又は特定状況に合わせて学習された少なくとも一つの確率モデルに基づいて、搭乗者の空調設定操作を推定し、自動的に空調設定を行うものである。特に、新たに確率モデルが構築された場合、確率モデルの構築に使用した複数の学習データのうち、その構築された確率モデルが対応する特定状況に関する学習データを特定して削除する。そして、残りの学習データを別の確率モデルの構築に利用可能とするものである。
【0020】
図1は、車両用空調装置1の全体構成を示す構成図である。図1に示すように、車両用空調装置1は、主に機械的構成からなる空調部10と、この空調部10を制御する制御部60とを有する。
【0021】
まず、空調部10の冷凍サイクルRの構成を説明する。車両用空調装置1の冷凍サイクルRは閉回路で構成され、その閉回路はコンプレッサ11より時計回りにコンデンサ15、レシーバ16、膨張弁17、およびエバポレータ18を含む。そして、コンプレッサ11は、冷媒を圧縮して高圧ガスにする。また、コンプレッサ11は、ベルト12を介して車載エンジン13より伝わる動力断続用の電磁クラッチ14を備える。コンデンサ15は、コンプレッサ11より送られてきた高温、高圧の冷媒ガスを冷却し、液化させる。レシーバ16は、液化された冷媒ガスを貯蔵する。また、冷却性能の低下を防ぐため、液化された冷媒に含まれるガス状の気泡を取り除き、完全に液化された冷媒のみを膨張弁17へ送る。膨張弁17は、液化された冷媒を断熱膨張させて低温、低圧化し、エバポレータ18へ送る。エバポレータ18は、低温、低圧化された冷媒と、エバポレータ18に送り込まれた空気との間で熱交換を行ってその空気を冷却する。
【0022】
次に、空調部10の空調ケース20内の構成について説明する。エバポレータ18の上流側には、ブロワファン21が配置されている。ブロワファン21は遠心式送風ファンで構成され、駆動用モータ22により回転駆動される。ブロワファン21の吸入側には、内外気切替箱23が配置される。内外気切替箱23内には、内外気サーボモータ24で駆動される内外気切替ドア25が配置される。そして内外気切替ドア25は、内気吸込口26と外気吸込口27とを切り替えて開閉する。そして、内気吸込口26又は外気吸込口27から取り込まれた空気は、内外気切替箱23を経由して、ブロアファン21によってエバポレータ18へ送られる。なお、ブロアファン21の回転速度を調整することにより、車両用空調装置1から送出される風量を調節することができる。
【0023】
エバポレータ18の下流側には、エバポレータ18側から順に、エアミックスドア28、およびヒータコア29が配置される。ヒータコア29には、ヒータコア29を通る空気を暖めるために、車載エンジン13の冷却に使用された冷却水が循環供給される。また、空調ケース20には、ヒータコア29をバイパスするバイパス通路30が形成されている。エアミックスドア28は、温調サーボモータ31により回動され、各吹き出し口から送出される空気を所定の温度にするために、ヒータコア29を通過する通路32からの温風とバイパス通路30を通過する冷風との風量割合を調整する。
【0024】
さらに、バイパス通路30を経由した冷風と、ヒータコア29を通過する通路32からの温風とが混合される空気混合部33の下流側には、空調空気を車内に送出するフット吹き出し口34、フェイス吹き出し口35、デフロスタ吹き出し口36が設けられている。そして、各吹き出し口には、各吹き出し口を開閉するためのフットドア37、フェイスドア38及びデフロスタドア39がそれぞれ設けられている。なお、フット吹き出し口34は、運転席または助手席の足元へ空調空気を送出し、フェイス吹き出し口35は、フロントパネルから運転席または助手席に向けて空調空気を送出する。また、デフロスタ吹き出し口36は、フロントガラスへ向けて空調空気を送出する。各ドア37、38及び39は、モードサーボモータ40により駆動される。
【0025】
次に、車両用空調装置1が有する情報取得部として機能する各種センサについて説明する。内気温センサ51は、車室内の温度Trを測定するために、ハンドル近傍のインストルメントパネルなどにアスピレータとともに設置される。また、外気温センサ52は、車室外の温度Tamを測定するために、コンデンサ15の外側前面の車両前方ラジエターグリルに設置される。さらに、車室内に照りつける日射光の強さ(日射量)Sを測定するために、日射センサ53が車室内のフロントガラス近傍に取り付けられる。なお、日射センサ53はフォトダイオードなどで構成される。これらセンサで取得された内気温Tr、外気温Tam及び日射量Sは、空調情報とされ、温調制御及び風量制御を行うために、制御部60で使用される。なお、温調制御及び風量制御の詳細は後述する。
【0026】
さらに、エバポレータ18から吹き出される空気の温度(エバポレータ出口温度)を測定するためのエバポレータ出口温度センサ、ヒータコア29へのエンジン冷却水の冷却水の水温を測定するためのヒータ入口水温センサ、及び冷凍サイクルR内を循環する冷媒の圧力を測定するための圧力センサなどが設けられる。その他、車室内には、搭乗者情報取得部としても機能する、運転席及びその他の席に搭乗している乗員の顔を撮影するための1台以上の車内カメラ54が設置される。また、車外の様子を撮影する車外カメラ55も設置される。
【0027】
車両用空調装置1は、上記の各センサからのセンシング情報の他、ナビゲーションシステム56から、車両の現在位置、進行方向、周辺地域情報、Gbook情報などの位置情報を取得する。また、車両操作機器57から、アクセル開度、ハンドル、ブレーキ、パワーウインドウ開度、ワイパー、ターンレバー若しくはカーオーディオのON/OFFなどの各種操作情報及び車速、車両挙動情報などを取得する。さらに、車載時計58より、曜日、現在時刻などの時間情報を取得する。また、車両用空調装置1は、運転席に心電検出センサ、心拍・呼吸センサ、体温センサ若しくは皮膚温センサなどを設置して、搭乗者の生体情報を取得するようにしてもよい。
このように、ナビゲーションシステム56、車両操作機器57及び車載時計58もまた、情報取得部として機能する。
【0028】
図2は、車両用空調装置1の制御部60の機能ブロック図である。
制御部60は、図示していないCPU,ROM,RAM等からなる1個もしくは複数個の図示してないマイクロコンピュータ、その周辺回路、電気的に書き換え可能な不揮発性メモリ等からなる記憶部61、及び各種センサ、ナビゲーションシステム56又は車両操作機器57などとコントロールエリアネットワーク(CAN)のような車載通信規格に従って通信を行う通信部62から構成される。
【0029】
さらに、制御部60は、このマイクロコンピュータ及びマイクロコンピュータ上で実行されるコンピュータプログラムによって実現される機能モジュールとして、照合部63、制御情報修正部64、空調制御部65及び学習部66を有する。
【0030】
制御部60は、上記のセンシング情報、位置情報、車両挙動情報などの状態情報を、各種のセンサ、ナビゲータシステム、車両操作機器などから取得すると、それらをRAMに一時的に記憶する。同様に、操作部であるA/C操作パネル59から取得された操作信号もRAMに一時的に記憶する。そして制御部60は、それら状態情報及び操作信号に基づいて空調部10を制御する。例えば、制御部60は、電磁クラッチ14を制御してコンプレッサ11のON/OFF切り換えを行ったり、ブロアファン21の回転数調整のために駆動用モータ22を制御する。また制御部60は、内外気サーボモータ24、温調サーボモータ31及びモードサーボモータ40を制御して各ドアの開度を調節する。これらの制御を行うことによって、車内の温度を、搭乗者の設定した温度に近づけるように、各吹き出し口から送出される空調空気の風量比、全体の風量及び温度を調節する。ここで制御部60は、空調空気の温度や風量などを決定するために、利用可能な確率モデルに、所定の状態情報を入力し、搭乗者が所定の操作(例えば、設定温度を下げる、風量を最大にする、内気循環モードに設定する等)を行う確率を推定する。その確率が所定閾値以上の場合には、自動的にその所定の操作を行う。
【0031】
制御部60は、上記の状態情報などを定期的に蓄積する。あるいは、搭乗者が車両用空調装置1を操作した場合には、その操作内容及びその操作時の各種情報を蓄積する。そして、そのような情報が所定数蓄積されると、統計的学習処理を行って確率モデルを生成する。あるいは、温調制御に使用する制御式を修正する。以下、これらの動作を行う各機能モジュールについて説明する。
【0032】
照合部63は、エンジンスイッチをONすると、車内カメラ54で撮影された画像と、車両用空調装置1に予め登録された登録済利用者に関する照合情報に基づいて、搭乗者の照合及び認証を行い、搭乗者が何れの登録済利用者か判定する。そして、搭乗者と判定された登録済利用者の識別情報(ID)及び登録済利用者に関連する個人情報を記憶部61から読み出す。
【0033】
ここで、照合部63は、例えば以下の方法によって搭乗者の照合及び認証を行う。照合部63は、車内カメラ54で撮影された画像を2値化したり、エッジ検出を行って搭乗者の顔に相当する領域を識別する。そして、識別された顔領域から、目、鼻、唇など特徴的な部分をエッジ検出等の手段によって検出し、その特徴的な部分の大きさ、相対的な位置関係などを特徴量の組として抽出する。次に、照合部63は、抽出された特徴量の組を、予め記憶部61に記憶されている、各登録済利用者に関して求められた特徴量の組と比較し、相関演算などを用いて一致度を算出する。そして、最も高い一致度が、所定の閾値以上となる場合、照合部63は、搭乗者を、その最も高い一致度となった登録済利用者として認証する。なお、上記の照合方法は、一例に過ぎず、照合部63は、他の周知の照合方法を使用して、搭乗者の照合及び認証を行うことができる。例えば、照合部63は、特開2005−202786号公報に記載された車両用顔認証システムを用いることができる。また、画像認証以外の方法を用いることも可能であり、例えば、スマートキーシステムを用いて搭乗者の照合及び認証を行うようにしてもよい。さらに、特開2005−67353号公報に記載された車両用盗難防止装置のように、スマートキーシステムと画像認証を組み合わせて照合及び認証を行うようにしてもよい。
【0034】
制御情報修正部64は、確率モデルに基づいて、設定温度Tset、風量W、内気循環モード/外気導入モードの設定など搭乗者が直接設定可能な設定情報である、空調装置1の制御パラメータを自動調整するか否かを決定する。そして、制御情報修正部64は、制御パラメータを自動調整する場合、確率モデルに関連付けられた修正情報に基づいて、制御パラメータを修正する。なお、確率モデルに関連付けられた修正情報とは、その確率モデルによって規定される修正において、制御パラメータの修正後の値、あるいは、制御パラメータを所望の修正値に変更するために制御パラメータに加えられ、若しくは乗じられる修正量をいう。
本実施形態では、確率モデルとして、ベイジアンネットワークを用いた。ベイジアンネットワークは、複数の事象の確率的な因果関係をモデル化するものであり、各ノード間の伝播を条件付き確率で求める、非循環有向グラフで表されるネットワークである。なお、ベイジアンネットワークの詳細については、本村陽一、岩崎弘利著、「ベイジアンネットワーク技術」、初版、電機大出版局、2006年7月、繁桝算男他著、「ベイジアンネットワーク概説」、初版、培風館、2006年7月、又は尾上守夫監修、「パターン識別」、初版、新技術コミュニケーションズ、2001年7月などに開示されている。
【0035】
本実施形態では、確率モデルは、車両用空調装置1に登録された利用者毎に生成される。また、確率モデルは、設定操作の種類ごと(例えば、設定温度Tsetを下げる若しくは上げる、風量Wを調節する、内気循環モードにする等)に生成される。そして、記憶部61には、確率モデルの構造情報が、各利用者情報及び設定操作と関連付けて記憶される。具体的には、確率モデルを構成する各ノード間の接続関係を表すグラフ構造、入力ノードに与えられる入力情報のタイプ、各ノードの条件付き確率表(以下、CPTという)とともに、利用者の識別番号(ID)、設定操作の内容と一意に対応する設定操作番号k、その設定操作で修正される制御パラメータ及びその修正値(例えば、設定温度Tsetが3℃下げられる場合には、(Tset,-3)、風量Wを最大値Wmaxにする場合には、(W,Wmax)など)が各確率モデルごとに規定され、記憶部61に記憶される。
【0036】
制御情報修正部64は、照合部63によって搭乗者として特定された登録済み利用者に関連付けられた確率モデルを記憶部61から読み出す。制御情報修正部64は、読み出された1以上の確率モデルのそれぞれに、所定の状態情報を入力して、搭乗者が各確率モデルに関連付けられた設定操作を行う推薦確率を求める。すなわち、各確率モデルについて一意に規定され、各確率モデルとともに記憶部61に記憶された設定操作番号kで表される設定操作を行う推薦確率を求める。推薦確率は、例えば確率伝播法(belief propagation)を用いて計算することができる。そして、制御情報修正部64は、求めた推薦確率が、搭乗者がその設定操作を行うことがほぼ確実であると考えられる第1の閾値Th1(例えば、Th1=0.9)以上の場合、その設定操作を自動的に実行する。具体的には、その設定操作に関連する制御パラメータの値を、確率モデルに関連付けられた、すなわち、その確率モデルに対して一意に規定され、各確率モデルとともに記憶部61に記憶された制御パラメータの修正値を用いて修正する。
【0037】
また、求めた推薦確率が第1の閾値Th1未満であるものの、搭乗者がその設定操作を行う可能性が高いと考えられる第2の閾値Th2(例えば、Th2=0.6)以上である場合には、制御情報修正部64は、A/C操作パネル59あるいはナビゲーションシステム56などの表示部を通じてその設定操作内容を表示して搭乗者に知らせる。そして、搭乗者にその設定操作を行うか否かを確認する。そして、搭乗者がその設定操作を行うことを承認する操作(例えば、所定の操作ボタンを押す)をA/C操作パネル59などを通じて行った場合、制御情報修正部64は、その設定操作を行う。なお、A/C操作パネル59あるいはナビゲーションシステム56を通じて設定操作内容を音声で搭乗者に知らせてもよい。また、車両用空調装置1にマイクロフォンを接続し、制御部60に音声認識プログラムを搭載することにより、搭乗者の音声に反応して設定操作を行うか否かを確認してもよい。
【0038】
以下、設定温度Tsetを3℃下げることを例として説明する。ここで、上記の第1の閾値Th1は0.9とし、第2の閾値Th2は0.6とする。
図3に、このような特定状況の一例を示す。ここで示される状況は、搭乗者(Aさん)が、土曜日の午後はいつも運動公園でテニスを行い、その後、4時ごろ自家用車に乗ると、車両用空調装置の設定温度を普段よりも下げることを好むといったものである。一方、それ以外の場合、例えば、職場からの帰宅時などでは、そのような設定操作を行わないような場合を考える。
【0039】
図4に、車両用空調装置1の制御パラメータを自動調節するために使用される確率モデルの一例のグラフ構造を示す。図4に示す確率モデル101では、3個の入力ノード102、103、104がそれぞれ出力ノード105に接続されている。また、各入力ノード102、103、104には、それぞれ入力される状態情報として曜日(x1)、時間帯(x2)、現在位置(x3)が与えられる。そして、出力ノード105は、設定温度Tsetを3℃下げる確率を出力とする。
【0040】
図5(a)〜(d)に、図4に示した確率モデル101の各ノードについてのCPT106〜109を示す。CPT106〜108は、それぞれ入力ノード102〜104に対応し、入力される状態情報に対する事前確率を規定する。また、CPT109は、出力ノード105に対応し、各入力ノードの情報の値ごとに割り当てられた条件付き確率分布を規定する。
【0041】
ここで、曜日が土曜日(x1=1)、時間帯が昼(x2=1)、現在位置が公園(x3=1)と各入力ノードに与えられる情報が全て既知の場合、設定温度Tsetを3℃下げる確率P(x4=1|x1=1,x2=1,x3=1)は、図5(d)より、0.95となる。したがって、得られた推薦確率は、第1の閾値Th1以上であるため、制御情報修正部64は、設定温度Tsetを3℃下げるよう制御パラメータを修正する。
【0042】
また、曜日が土曜日(x1=1)、時間帯が昼(x2=1)であるものの、例えば、ナビゲーションシステム56の電源が入っておらず、現在位置を知ることができない場合、図5(c)に示した現在位置が公園である場合の事前確率P(x3)を用いて、P(x4=1|x1=1,x2=1,x3)が計算される。この場合、
P(x4=1|x1=1,x2=1,x3)
= P(x4=1|x1=1,x2=1,x3=1)・P(x3=1)
+ P(x4=1|x1=1,x2=1,x3=0)・P(x3=0)
= 0.95・0.15 + 0.55・0.85 = 0.61
となる。したがって、得られた推薦確率は、第1の閾値Th1よりも小さいが、第2の閾値Th2以上であるため、制御情報修正部64は、設定温度Tsetを3℃下げるか否か、A/C操作パネル59などを通じて搭乗者に確認する。
【0043】
さらに、曜日が月曜日(x1=0)、時間帯が夜(x2=0)、現在位置が職場(x3=0)の場合、設定温度を3℃下げる確率P(x4=1|x1=0,x2=0,x3=0)は、図5(d)より、0.1となる。したがって、得られた推薦確率は、第1の閾値Th1及び第2の閾値Th2よりも小さいため、制御情報修正部64は、設定温度Tsetを変更せず、設定温度Tsetを変更することについて、搭乗者に確認することもしない。
【0044】
なお、上記の例では、簡単化のために、2層のネットワーク構成としたが、中間層を含む、3層以上のネットワーク構成としてもよい。また、入力ノードに与えられる状態情報の区分も、上記の例に限られない。なお、状態情報の区分については、後述する学習部66において説明する。
【0045】
また、同一の操作グループ(設定温度の修正、風量の変更、内外気の切り替え若しくは風量比の設定など)に関連する確率モデルが複数存在する場合、すなわち、特定の制御パラメータの修正を行う確率を出力とする確率モデルが複数存在する場合、制御情報修正部64は、それら複数の確率モデルそれぞれについてその確率を計算する。なお、特定の制御パラメータとは、風量、内外気の切り替え、風量比なども含む。そして、得られた確率のうち、最大となるものを選択し、推薦確率として上記の処理を行う。例えば、風量設定に関する確率モデルM1(風量Wを最大にする)とM2(風量Wを中程度にする)が存在する場合を考える。この場合、制御情報修正部64は、確率モデルM1に基づいて風量Wを最大にする確率PM1を求め、同様に、確率モデルM2に基づいて風量Wを中程度にする確率PM2を算出する。そして、制御情報修正部64は、PM1>PM2であれば、PM1を推薦確率とし、上記の閾値Th1、Th2と比較して、風量Wを最大にするか否かを決定する。逆に、PM2>PM1であれば、PM2を推薦確率とし、上記の閾値Th1、Th2と比較して、風量Wを中程度にするか否かを決定する。
【0046】
なお、上記では、理解を容易にするために、確率モデルM1とM2が、異なる設定操作に関連付けられるように規定した。しかし、確率モデルM1とM2は、同じ設定操作(例えば、ともに風量Wを最大にする)に関連付けられてもよい。このことは、例えば、搭乗者が異なる2以上の状況(一方は、日中で晴天の場合、他方は、スポーツジムの帰り道の場合等)で、同一の操作を行う場合があることに対応する。それぞれの状況に対応する確率モデルが生成されていれば、それらの確率モデルは、同一の操作グループに属する設定操作が関連付けられることになる。
制御情報修正部64は、上記の処理によって、設定温度Tset、風量Wなどの各制御パラメータを必要に応じて修正すると、それらの制御パラメータを制御部60の各部で利用可能なように、制御部60のRAMに一時記憶する。
【0047】
空調制御部65は、各制御パラメータの値及び各センサから取得したセンシング情報をRAMから読み出し、それらの値に基づいて、空調部10の制御を行う。そのために、空調制御部65は、温度調節部651、コンプレッサ制御部652、吹出口制御部653、吸込口制御部654及び送風量設定部655を有する。また、空調制御部65は、制御情報修正部64において修正された制御パラメータがRAMに記憶されている場合には、その修正されたパラメータを読み出して使用する。
【0048】
温度調節部651は、設定温度Tset及び各温度センサ及び日射センサ53の測定信号に基づいて、各吹き出し口から送出される空調空気の必要吹出口温度(空調温度Tao)を決定する。そして、その空調空気の温度が空調温度Taoとなるように、エアミックスドア28の開度を決定し、温調サーボモータ31へ、エアミックスドア28の開度が設定された位置になるように制御信号を送信する。例えば、エアミックスドア28の開度は、内気温Trと設定温度Tsetの差を、外気温Tam、日射量Sなどで補正した値を入力とし、エアミックスドア28の開度を出力とする制御式に基づいて決定される。ここで、エアミックスドア28の開度を、一定の時間間隔(例えば、5秒間隔)毎に判定する。そのような制御を行うための各測定値から空調温度Taoを求めるための温調制御式及びエアミックスドア28の開度の関係式を以下に示す。
【数1】

上式において、Doは、エアミックスドア28の開度を表す。また、係数kset、kr、kam、ks、C、a、bは定数であり、Tset、Tr、Tam、Sは、それぞれ、設定温度、内気温、外気温及び日射量を表す。ここで、制御情報修正部64が設定温度Tsetを修正している場合、その修正された設定温度Tsetを使用する。また、エアミックスドア28の開度Doは、ヒータコア29を経由する通路32を閉じた状態(すなわち、冷房のみが動作する状態)を0%、バイパス通路30を閉じた状態(すなわち、暖房のみが動作する状態)を100%として設定される。温調制御式の各係数kset、kr、kam、ks、C及びエアミックスドアの開度を求める関係式の係数a、bは温調制御パラメータとして、登録済利用者ごとに設定され、登録済利用者の個人設定情報に含まれる。
なお、温度調節部651は、空調温度Tao及びエアミックスドア28の開度を、ニューラルネットワークを用いた制御やファジイ制御など、他の周知の制御方法を用いて決定してもよい。算出された空調温度Taoは、制御部60の他の部で参照できるように、記憶部61に記憶される。
【0049】
コンプレッサ制御部652は、温度調節部651で求められた空調温度(必要吹出口温度)Tao、設定温度Tset及びエバポレータ出口温度などに基づいて、コンプレッサ11のON/OFFを制御する。コンプレッサ制御部652は、車内を冷房する場合、デフロスタを作動させる場合などには、原則としてコンプレッサ11を作動させ、冷凍サイクルRを作動させる。ただし、エバポレータ18がフロストすることを避けるために、エバポレータ出口温度が、エバポレータ18がフロストする温度近くまで低下すると、コンプレッサ11を停止する。そして、エバポレータ出口温度がある程度上昇すると、再度コンプレッサ11を作動させる。なお、コンプレッサ11の制御は、可変容量制御など周知の方法を用いて行えるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0050】
吹出口制御部653は、A/C操作パネル59を通じて搭乗者が設定した風量比の設定値、温度調節部651で求められた空調温度Tao、設定温度Tsetなどに基づいて、各吹き出し口から送出される空調空気の風量比を求め、その風量比に対応するように、フットドア37、フェイスドア38及びデフロスタドア39の開度を決定する。吹出口制御部653は、風量比の設定値、空調温度Tao、設定温度Tsetなどと各ドア37〜39の開度との関係を表す制御式にしたがって各ドア37〜39の開度を決定する。このような制御式は予め規定され、制御部60において実行されるコンピュータプログラムに組み込まれている。なお、吹出口制御部653は、他の周知の方法を用いて、各ドア37〜39の開度を決定することもできる。そして、各ドア37〜39が決定された開度となるように、モードサーボモータ40を制御する。
また、吹出口制御部653は、制御情報修正部64が風量比の設定値又は設定温度Tsetを修正している場合には、その修正された設定値又は設定温度Tsetを使用して各ドア37〜39の開度を決定する。
【0051】
吸込口制御部654は、A/C操作パネル59から取得した吸込口設定、設定温度Tset、空調温度Tao、内気温Trなどに基づいて、車両用空調装置1が内気吸気口26から吸気する空気と外気吸気口27から吸気する空気の比率を設定する。吸込口制御部654は、外気温Tam、内気温Trと設定温度Tsetとの差などと吸気比との関係を表す制御式にしたがって内外気切替ドア25の開度を決定する。このような制御式は予め設定され、制御部60において実行されるコンピュータプログラムに組み込まれている。なお、吸込口制御部654は、他の周知の方法を用いて、内外気切替ドア25の開度を決定することもできる。吸込口制御部654は、内外気サーボモータ24を制御し、内外気切替ドア25を求めた吸気比となるように回動させる。また、吸込口制御部654は、制御情報修正部64が吸気設定値又は設定温度Tsetを修正している場合には、その修正された吸気設定値又は設定温度Tsetを使用して内外気切替ドア25の開度を決定する。
【0052】
送風量設定部655は、A/C操作パネル59から取得した風量W、設定温度Tset、空調温度Tao、内気温Tr、外気温Tam及び日射量Sなどに基づいて、ブロアファン21の回転速度を決定する。そして、駆動用モータ22へ、ブロアファン21の回転速度が設定値になるように制御信号を送信する。例えば、風量設定が手動設定になっている場合には、送風量設定部655は、A/C操作パネル59から取得した風量Wとなるようにブロアファン21の回転速度を決定する。また、風量設定が自動設定になっている場合には、送風量設定部655は、内気温Tr、空調温度Taoなどと風量Wとの関係を表す風量制御式にしたがってブロアファン21の回転速度を決定する。あるいは、風量制御式を、設定温度Tset及び空調情報(内気温Tr、外気温Tam及び日射量S)と、風量Wの関係を直接的に表すものとしてもよい。このような風量制御式として、周知の様々なものを用いることができる。なお、このような制御式は予め設定され、制御部60において実行されるコンピュータプログラムに組み込まれている。あるいは、送風量設定部655は、空調情報と風量Wの関係を定めたマップを予め準備しておき、そのマップを参照して測定された空調情報に対応する風量Wを決定するマップ制御など、他の周知の方法を用いて、ブロアファン21の回転速度を決定することもできる。また、送風量設定部655は、制御情報修正部64が風量W又は設定温度Tsetを修正している場合には、その修正された風量W又は設定温度Tsetを使用してブロアファン21の回転速度を決定する。
【0053】
学習部66は、搭乗者が車両用空調装置1の操作を行った場合に、新しい確率モデルの生成を行うか否か、又は既存の確率モデルの更新を行うか否かを判定し、必要な場合、確率モデルの生成又は更新を行う。また、学習部66は、必要に応じて、上述した温調制御式又は風量制御式などの制御式を修正する。そのために、学習部66は、学習情報蓄積部661と、クラスタリング部662と、確率モデル構築部663と、確率モデル評価部664と、制御式修正部665と、学習情報整理部666とを有する。以下、学習部66に含まれる各部について詳細に説明する。
【0054】
学習情報蓄積部661は、取得した状態情報に搭乗者が行った設定操作を関連付け、搭乗者の設定操作を推定する確率モデルの構築に必要な学習情報として記憶部61に蓄積させる。
一般的に、搭乗者は、車内が搭乗者にとって適切な空調状態となっていない場合、車両用空調装置1の設定操作を行う。そのため、搭乗者が車両用装置1の設定操作を頻繁に行う場合、搭乗者の設定操作を推定する確率モデルの構築が必要と考えられる。しかし、適切な確率モデルを構築するためには、統計的に正しい推定を行えるだけのデータが必要となる。そこで、学習情報蓄積部661は、車両用空調装置1の設定操作が行われる度に、その操作時に取得した各状態情報(外気温Tamなどの空調情報、車両の現在位置などの位置情報、車速などの車両挙動情報、心拍数などの生体情報)を学習情報として、上述した設定操作番号k及び搭乗者のIDに関連付けて、記憶部61に記憶させる。あるいは、車両用空調装置1の設定操作とは無関係に、定期的に収集された各状態情報のうち、その設定操作時に最も近い時点、または設定操作の直前若しくは直後に収集された状態情報を学習情報として、上述した設定操作番号k及び搭乗者のIDに関連付けて、記憶部61に記憶してもよい。さらに、この車両用空調装置1の設定操作とは無関係に、定期的(例えば、5秒間隔)に収集された各状態情報に、現在の設定状態に対応する設定操作番号k及び搭乗者IDを関連付けて記憶部61に記憶してもよい。あるいはその定期的に収集された各状態情報の内のさらに定期的に(例えば、1分あるいは5分間隔)にサンプリングされた各状態情報に、現在の設定状態に対応する設定操作番号k及び搭乗者IDを関連付けて記憶部61に記憶してもよい。そして、このような定期的に収集された各状態情報も、確率モデルの構築に使用してもよい。
また、搭乗者Aが、設定操作番号kに対応する設定操作α(例えば、設定温度を3℃下げる、風量Wを最大にする、内気循環に切り換えるなど)を行った操作回数iAkも記憶部61に記憶する。なお、上記の学習情報DAkは、例えば次式のように表される。
【数2】

ここで、dijkは、各状態情報の値である。iは、上記の操作回数iAkを示す。また、jは、状態情報の各値に対して便宜的に指定される状態項目番号であり、本実施形態では、j=1に対して内気温Tr、j=2に対して外気温Tam、j=3に対して日射量Sが割り当てられる。そして、j=4以降に、位置情報、車両挙動情報、生体情報などが割り当てられる。また、kは設定操作番号である。
これら学習情報DAk及び操作回数iAkは、登録済み利用者及び設定操作ごとに別個に記憶される。
【0055】
クラスタリング部662は、確率モデルの各ノードについてのCPTを求めるために、学習情報DAkに含まれる各状態情報のうち、予め複数の区分に分類できないものについてクラスタリングを行って、その状態情報の値の区分を決定する。
【0056】
確率モデルの入力ノードに与えられる状態情報として、車両の現在位置情報、外気温、内気温などの温度情報、時間情報など、取り得る値を限られたパターンに限定することができない情報、または連続的に変化するような情報が用いられる場合がある。このような情報を入力パラメータとするCPTを設定するためには、入力される状態情報の値をどのように区分するかが重要となる。例えば、図3に示した例のように、運動後の公園の駐車場にいるという特定状況において、設定温度を3℃下げるという設定操作に対応する確率モデルを構築する場合を想定する。この場合、確率モデルの入力ノードに与えられる状態情報の一つとして上記のように車両の位置情報を用いるためには、車両の位置情報を、少なくともその公園の駐車場にいる場合とその他の場所にいる場所にいる場合とで区分することが重要となる。同様に、特定の国道を走行中という特定状況において、内気循環にするという設定操作に対応する確率モデルを構築する場合を想定する。この場合、確率モデルの入力ノードに与えられる状態情報の一つとして車両の位置情報を用いるためには、車両が国道上を走っている場合とその国道以外の場所にいる場合とを区分することが重要となる。この二つの例に示されるように、車両の位置情報に関して、公園の駐車場という範囲と国道上という範囲とでは、その位置も範囲も異なり、事前に特定状況に応じた区分を決定できないことが明らかである。
【0057】
そこで、クラスタリング部662は、車両の現在位置情報、外気温、内気温などの温度情報、時間情報など、事前に値の区分を画定できない状態情報については、狭域のクラスタに分類する段階と広域のクラスタに分類する段階に分けてクラスタリングして、特定状況に対応する状態情報の値が、狭い範囲に分布している場合にも、広い範囲に分布している場合にも対応できるように区分を決定する。なお、クラスタリング部662は、ワイパー、ターンレバー若しくはカーオーディオのON/OFFなどのように、元々限られた区分の離散した値しか取らない状態情報に対しては、クラスタリングを行わない。
【0058】
図6は、クラスタリングの手順を示す動作フローチャートである。
まず、クラスタリング部662は、学習情報DAkから、対象となる状態情報について記憶されている値(d1jk,d2jk,...,dijk)をクラスタリングを行うデータとして抽出する。そして、各データ間のユークリッド距離Udijを算出する(ステップS201)。ユークリッド距離Udijは、例えば状態情報が位置情報の場合、データ間の物理的な距離である。あるいは、状態情報が時間情報の場合には、ユークリッド距離Udijは、データ間の時間差に相当する。同様に、状態情報が温度情報であれば、ユークリッド距離Udijは、データ間の温度差に相当する。次に、ユークリッド距離の最小値Udijminが、第1の距離Td1以下か否かを調べる(ステップS202)。ステップS202において、ユークリッド距離の最小値Udijminが、第1の距離Td1以下の場合、その最小値となったデータ同士を一つのクラスタとする(ステップS203)。なお、第1の距離Td1は、状態情報が位置情報の場合、例えば300mに設定することができる。また、第1の距離Td1は、状態情報が時間情報の場合、例えば5分に設定することができる。その後、ステップS201の前に制御を戻す。そして、クラスタリング部662は、再度ステップS201の処理を行う。この場合、クラスタリング部662は、一つのクラスタと他のクラスタとのユークリッド距離を、最短距離法に基づいて算出する。すなわち、二つのクラスタC1、C2間のユークリッド距離D(C1,C2)は、以下の式で表される。
【数3】

ここで、x、yは、それぞれクラスタC1、C2に含まれるデータであり、Udxyは、xとyとのユークリッド距離を表す。なお、各データ自体も、内包されるデータ数が1のクラスタと見做すことができる。
一方、ステップS202において、ユークリッド距離の最小値Udijminが、第1の距離Td1よりも大きい場合、クラスタリング部662は、各クラスタについて、クラスタ内に含まれるデータ数の多い方から順に、二つのクラスタを選択し、C1、C2とナンバリングする(ステップS204)。
【0059】
次に、クラスタリング部662は、クラスタC1、C2に含まれないデータについて、各データ間のユークリッド距離Udijを算出する(ステップS205)。そして、ユークリッド距離の最小値Udijminが、第2の距離Td2以下か否かを調べる(ステップS206)。なお、第2の距離Td2は、第1の距離Td1よりも大きく、例えば状態情報が位置情報である場合、3kmに設定することができる。また、状態情報が時間情報の場合、第2の距離Td2を例えば60分に設定することができる。ステップS206において、ユークリッド距離の最小値Udijminが、第2の距離Td2以下の場合、その最小値となったデータ同士を一つのクラスタとする(ステップS207)。その後、ステップS205の前に制御を戻す。そして、クラスタリング部662は、再度ステップS205の処理を行う。この場合も、一つのクラスタと他のデータまたは他のクラスタとの距離を、最短距離法に基づいて算出する。
一方、ステップS206において、ユークリッド距離の最小値Udijminが、第2の距離Td2よりも大きい場合、クラスタリング部662は、各クラスタについて、クラスタ内に含まれるデータ数の多い方から順に、二つのクラスタを選択し、C3、C4とナンバリングする(ステップS208)。
【0060】
クラスタリング部662は、上記で求めた各クラスタC1〜C4について、それぞれ重心G1〜G4を算出し、さらに重心G1〜G4からそのクラスタに含まれる最も離れたデータまでの距離r1〜r4を求める。そして、各クラスタC1〜C4に対応する状態情報の値の範囲を、それぞれ重心G1〜G4を中心とした半径r1〜r4の領域として決定する(ステップS209)。クラスタリング部662は、求めた重心G1〜G4、距離r1〜r4、各クラスタに含まれるデータ数を、クラスタC1〜C4に関連付けて記憶部61に記憶する。
最後に、クラスタリング部662は、クラスタC1〜C4の何れにも含まれないデータを一つのクラスタC5としてまとめる(ステップS210)。そしてクラスタC5の範囲を、クラスタC1〜C4の何れにも含まれない範囲として設定する。
【0061】
上記のように、データ間の距離が相対的に近い狭域のクラスタと、データ間の距離が相対的に遠い広域のクラスタとに区分する階層的なクラスタリングを行うことにより、確率モデルの入力ノードに与える状態情報を適切に区分することができる。
【0062】
確率モデル構築部663は、予めグラフ構造が決定された複数の標準モデルに対し、学習情報及びクラスタリング部662で規定された各状態情報の区分に基づいて、各標準モデルに含まれるノードのCPTを作成することにより、仮の確率モデルを生成する。
様々な状況に対応可能な、汎用的な確率モデルを構築するためには、多数のノードを含む、非常に大きな確率モデルを構築する必要がある。しかし、そのような確率モデルの学習には、非常に長い計算時間を要し、また、学習に必要なハードウェアリソースも膨大なものとなる。そこで、本実施形態では、状態情報のうち、設定操作と特に関連が深そうなものを幾つか入力ノードに与えられるパラメータとして選択し、それら入力パラメータの組み合わせに対する条件付き確率によって設定操作を行う確率を求める2層構成のグラフ構造を標準モデルとして15種類準備した。しかし、標準モデルの数は、15種類に限られない。標準モデルの数は、得られる状態情報の数や、学習対象とする設定操作の種類に応じて、適宜最適化できる。また、標準モデルは、入力パラメータを1個だけとするものや、取得可能な全ての状態情報を入力パラメータとするものであってもよい。さらに、標準モデルは、2層構成のグラフ構造に限られず、制御部60を構成するCPUの能力に応じて、3層以上のグラフ構造のものを標準モデルとして使用してもよい。
それらの標準モデルは、記憶部61に記憶される。そして、確率モデル構築部663は、各標準モデルについて、その標準モデルに含まれる各ノード間の条件付き確率を決定して仮の確率モデルを構築する。すなわち、仮の確率モデルでは、入力パラメータとして用いられる状態情報の値の区分に基づいて、その仮の確率モデルに関連付けられた設定操作を行う確率が決定される。
【0063】
以下、図を用いて詳細に説明する。
図7(a)〜(d)に、15個の標準モデルのうちの4個を例として示す。図7(a)〜(d)に示す標準モデル501〜504は、何れも入力ノードと出力ノードからなる2層構成のベイジアンネットワークである。各標準モデル501〜504は、入力ノードに与えられるパラメータが異なる。
【0064】
確率モデル構築部663は、記憶部61から読み出した学習情報DAkから、各ノードについて、各状態情報の値の区分ごとに該当する数nを数える。そして、その数nを全事象数Nで除した値を、事前確率及び条件付き確率の値とする。その際、クラスタリング部662によって入力パラメータとして用いられる状態情報の値の区分が求められている場合には、記憶部61からその区分、すなわち、各クラスタの重心及び半径を読み出し、その区分に従って状態情報を分類する。一方、クラスタリングがなされていない入力パラメータについては、予め定められた区分に従ってその状態情報を分類する。例えば、図7(b)の標準モデル502を例として説明する。ここで、30個のデータの組を含む学習情報DAkがあり、このうち、入力ノードの一つに割り当てられている車両の現在位置情報について調べる。ここで、現在位置情報は、クラスタリング部662により、国道(会社近辺)、国道(自宅近辺)、職場の駐車場、スポーツジムの駐車場、その他、の5個にクラスタリングされたものとする。そして、国道(会社近辺)である回数(y11=0)が8回、国道(自宅近辺)である回数(y11=1)が6回、職場の駐車場である回数(y11=2)が6回、スポーツジムの駐車場である回数(y11=3)が5回、その他(y11=4)が5回とすると、現在位置情報に対する事前確率P(y11)は、それぞれ、P(y11=0)=0.27、P(y11=1)=0.2、P(y11=2)=0.2、P(y11=3)=0.17、P(y11=4)=0.17となる。同様に、出力ノードについては、親ノードである各入力ノードに与えられる状態情報の現在位置(y11)、曜日(y12)、時間帯(y13)の取り得る値の組み合わせのそれぞれについて、学習情報DAk中に出現する数を計算し、それを全データ数である30で割ることによって、条件付き確率が求められる。このように、確率モデル構築部663は、事前確率及び条件付き確率を求めることにより、各ノードに対応するCPTを決定する。
【0065】
なお、確率モデル構築部663は、学習に用いるデータ数が十分でないと考えられる場合には、ベータ分布を用いて確率分布を推定し、CPTとして用いてもよい。また、学習情報DAkの中に、一部の入力情報の値の組み合わせが存在しない、すなわち、未観測データがある場合、未観測データに対する確率分布を推定し、その分布に基づいて期待値を計算することで、対応する条件付き確率を計算する。このような条件付き確率の学習については、例えば、繁桝算男他著、「ベイジアンネットワーク概説」、初版、培風館、2006年7月、p.35-38、p.85-87に記載された方法を用いることができる。
同様に、確率モデル構築部663は、出力ノードに対して、入力ノードに与えられた情報に基づく条件付き確率の分布を示すCPTを設定する。なお、初期状態では、CPTは、全ての状態に対して等しい値となるように設定される。
【0066】
確率モデル評価部664は、確率モデル構築部663において構築された全ての仮の確率モデルに対して情報量基準を用いて、最も適切なグラフ構造を有する仮の確率モデルを選択する。
本実施形態では、情報量基準として、AIC(赤池情報量基準)を用いた。AICは、確率モデルの最大対数尤度と、パラメータ数に基づいて、以下の式に基づいて求めることができる。
【数4】

ここで、AICmは、確率モデルMに対するAICを表す。また、θmは、確率モデルMのパラメータ集合を、lmm|X)は、データXを所与としたときの確率モデルMにおけるそのデータの最大対数尤度の値を、kmは確率モデルMのパラメータ数をそれぞれ表す。ここでlmm|X)は、以下の手順で計算できる。まず、各ノードにおいて、親ノードの変数の各組み合わせについて、学習情報DAkから出現頻度を求める。その出現頻度に条件付き確率の対数値を乗じた値を求める。最後にそれらの値を足し合わせることでlmm|X)が算出される。また、kmは、各ノードにおける、親ノード変数の組み合わせの数を足し合わせることで求められる。
【0067】
確率モデル評価部664は、全ての確率モデルについてAICを求めると、AICの値が最も小さい仮の確率モデルを選択する。
なお、情報量基準を用いた確率モデルの選択(言い換えれば、グラフ構造の学習)については、ベイズ情報量基準(BIC)、竹内情報量基準(TIC)、最小記述長(MDL)基準など他の情報量基準を用いてもよい。さらに、これらの情報量基準の算出式の正負を反転させたものを、情報量基準として用いてもよい。この場合には、情報量基準の値が最大となる仮の確率モデルを選択する。
【0068】
ここで、確率モデル評価部664は、選択された仮の確率モデルの入力ノードに与えられる状態情報が、温調制御式などの制御式の入力パラメータ、すなわち空調情報(内気温Tr、外気温Tam及び日射量S)のみを含むか否かを判断する。そして、入力ノードに与えられる状態情報が空調情報のみを含む場合には、専ら搭乗者の温感に対して温調制御が最適化されていないと考えられるため、確率モデルの追加は行わない。そして後述するように、制御式修正部665が制御式の修正を行う。
【0069】
一方、選択された仮の確率モデルの入力ノードに与えられる状態情報が空調情報以外の情報を含む場合には、特定状況に対応した空調設定を行う確率モデルが構築されたと考えられるため、確率モデル評価部664は、選択された仮の確率モデルを、記憶部61に保存し、制御情報修正部64で使用する確率モデルとして追加する。この場合、制御式の修正は行われない。そして、学習情報DAkに関連付けられた搭乗者のID、設定操作番号kを取得し、追加された確率モデルに関連付けて記憶部61に記憶する。さらに、その確率モデルに基づいて修正される制御パラメータ及び修正値を、設定操作番号kに基づいて特定し、その確率モデルに関連付けて記憶部61に記憶する。なお、設定操作番号kと、修正される制御パラメータ及び修正値の関係は、例えばルックアップテーブルとして予め規定され、記憶部61に保持される。
【0070】
制御式修正部665は、温調制御式又は風量制御式の修正を行う。
一例として、温調制御式を修正する場合、制御式修正部665は、学習情報DAkに記憶された空調情報と、設定操作後の設定温度Tset及び空調温度Taoに基づいて、温調制御パラメータKset、Kr、Kam、KS及びCを変数とする連立方程式を立て、その連立方程式を解くことによって修正後の温調制御パラメータを求める。あるいは、制御式修正部665は、特開平5−147421号公報に記載されているように、搭乗者が設定温度Tsetを変更した量ΔTsetと、その設定操作をおこなったときの日射量Sの分布に基づいて、設定温度変更量ΔTsetを日射量Sの1次式で近似的に表し、その近似結果に基づいて温調制御パラメータKSを修正するようにしてもよい。さらに、制御式修正部665は、特開2000−293204号公報、特開2000−071060号公報、特開平5−208610号公報あるいは特開平5−169963号公報に記載されているような、他の様々な周知の方法を用いて温調制御式あるいは風量制御式を修正するようにしてもよい。また、マップ制御によって風量等を決定している場合には、制御式修正部665は、周知の方法に基づいて、学習情報DAkを用いてそのマップを修正することができる。
なお、何れの制御式を修正するかは、設定操作αに関連して決定される。設定操作αが空調温度の設定に関するものであれば、制御式修正部665は温調制御式を修正し、設定操作αが風量の設定に関するものであれば、制御式修正部665は風量制御式を修正する。
【0071】
学習情報整理部666は、学習部66で新たな確率モデルが構築されると、構築された確率モデルが対応する特定状況に関する状態情報を削除する。そこで、学習情報整理部666は、そのような状態情報を決定するために、その確率モデルに、学習情報DAkに含まれた各操作回ごとの状態情報の組を入力する。その結果、確率モデルが出力する推薦確率が高ければ、その状態情報を削除する。ここで、推薦確率が高いか否かを判断するために、学習情報整理部666は、得られた推薦確率Pを閾値TPと比較する。この閾値TPは、得られた推薦確率がその閾値以上であれば、確率モデルに関連付けられた設定操作を搭乗者が行う可能性が高いと考えられる閾値以上の値に設定することが好ましい。本実施形態では、確率モデルにより算出された推薦確率Pが制御情報修正部64において使用される第2の閾値Th2以上であれば、搭乗者がその確率モデルに関連付けられた設定操作を行う可能性が高い、すなわち、その確率モデルが対応する特定状況にある可能性が高いと想定しているため、閾値TPは、その第2の閾値Th2以上であることが好ましい。
【0072】
図8を用いて、学習情報整理部666における学習情報に含まれる状態情報の削除の動作フローを説明する。
まず、学習情報整理部666は、新たに構築された確率モデルMAqkに、学習情報DAK内のm番目(m=1,2,..,n2)の状態情報の組を代入し、推薦確率Pを算出する(ステップS301)。なお、最初は、m=1から開始するものとする。次に、学習情報整理部666は、算出した推薦確率Pが、所定の閾値TP以上か否かを調べる(ステップS302)。本実施形態では、閾値TPを80%に設定した。そして、推薦確率Pが閾値TP以上である場合、その状態情報の組は、確率モデルMAqkが対応する特定状況の状態情報である可能性が高いので、学習情報DAKから削除する(ステップS303)。そして、学習情報整理部666は、ステップS304へ制御を移行する。一方、ステップS302において、推薦確率Pが閾値TP未満である場合、その状態情報の組は、確率モデルMAqkが対応する特定状況とは異なる特定状況の状態情報である可能性が高いので、学習情報整理部666は、その状態情報の組を削除せずに学習情報DAKに残し、制御をステップS304に移行する。
【0073】
その後、学習情報整理部666は、mが学習情報DAK中に含まれる状態情報の組の最大数n2と等しいか否か判定する(ステップS304)。そして、mがn2よりも小さければ、mを1インクリメントする(ステップS305)。そして制御をステップS301の前に戻す。
一方、ステップS304において、mがn2と等しければ、学習情報DAK内の全ての状態情報の組について削除すべきか否かの判定を終えたことになるので、残った状態情報の組を若い番号から順に詰めるように整理する(ステップS306)。そして、操作回数iAKを残った状態情報の数に設定する。
このように、構築された確率モデルに対応する特定状況に関する状態情報のみを削除することで、その確率モデルでは対応していない他の特定状況に関する状態情報は削除されずに残るので、他の特定状況に対応する確率モデルの構築に必要な学習データを早期に集めることができる。
【0074】
以下、図9及び図10に示したフローチャートを参照しつつ、本発明を適用した車両用空調装置1の空調制御動作について説明する。なお、空調制御動作は、制御部60により、制御部60に組み込まれたコンピュータプログラムにしたがって行われる。
【0075】
図9に示すように、まず、エンジンスイッチがONとなると、制御部60は、車両用空調装置1を稼動させる。そして、通信部62を通じて、各センサ、ナビゲーションシステム56、車両操作機器57などから各状態情報を取得する(ステップS101)。以後、各状態情報の取得は、定期的(例えば、5秒間間隔)に行われる。同様に、記憶部61から各設定情報を取得する。次に、制御部60の照合部63は、搭乗者の照合・認証を行う(ステップS102)。そして、搭乗者と判定された登録済利用者の個人設定情報を記憶部61から読み出す(ステップS103)。
【0076】
次に、制御部60は、搭乗者が車両用空調装置1の設定操作を行ったか否かを判定する(ステップS104)。なお、制御部60は、A/C操作パネル59から操作信号を受信すると、設定操作が行われたと判断する。搭乗者が設定操作を行っていない場合、制御部60の制御情報修正部64は、その搭乗者及び何れかの操作グループ関連する制御パラメータ(例えば、設定温度Tset)の修正に関連付けられている確率モデルMAqkのうち、現在の設定と異なる設定に変更するものを選択する(ステップS105)。なお、確率モデルMAqkは、搭乗者Aの設定操作番号kの設定操作についてq番目に構築された確率モデルであることを表す。そして、選択された確率モデルに、観測された状態情報を入力する。そして、その確率モデルに関連付けられている設定操作を行う確率を算出する(ステップS106)。そして、その制御パラメータに関連する同一操作グループ内の設定操作について算出された確率のうち、最も高い確率を推薦確率Pとして求める。
【0077】
次に、推薦確率Pを、第1の所定値Th1と比較する(ステップS107)。推薦確率Pが第1の所定値Th1(例えば、0.9)以上の場合、制御情報修正部64は、推薦確率Pを出力した確率モデル(以下、選択確率モデルという)に関連付けられた修正情報に基づいて、対応する車両用空調装置1の制御パラメータを修正する(ステップS108)。一方、推薦確率Pが、第1の所定値Th1未満の場合、制御情報修正部64は、推薦確率Pを、第2の所定値Th2(例えば、0.6)と比較する(ステップS109)。そして、推薦確率Pが第2の所定値Th2以上であれば、制御情報修正部64は、A/C操作パネル59の表示部などを通じて、選択確率モデルに関連付けられた設定操作番号kに対応する設定操作を行うか否かを表示し、確認する(ステップS110)。そして、搭乗者がその設定操作を行うことを承認した場合、選択確率モデルに関連付けられた修正情報に基づいて制御パラメータを修正する(ステップS108)。一方、搭乗者が承認しなかった場合には、その制御パラメータを修正しない。すなわち、選択確率モデルに関連付けられた制御パラメータに関連する設定操作は行わない。また、ステップS109において、推薦確率Pが第2の所定値Th2未満の場合も、その制御パラメータを修正しない。
【0078】
その後、制御情報修正部64は、全ての確率モデルに関して確率を算出したか否かを確認することにより、全ての制御パラメータの調節が終わったか否かを判定する(ステップS111)。まだ確率を算出していない確率モデルがある場合、すなわち、設定情報の修正の有無を調べていない操作グループがある場合には、制御をステップS105の前に戻す。一方、全ての確率モデルについて、確率算出を終了している場合には、空調制御部65は、必要に応じて修正された制御パラメータに基づいて、所望の空調温度、風量などが得られるように、エアミックスドア、ブロアファンの回転数、各吹き出し口のドアの開度を調節する(ステップS112)。
【0079】
図10に示すように、ステップS104において、搭乗者が車両用空調装置1の設定操作を行った場合、設定信号を参照してどの設定操作が行われたかを特定する(ステップS113)。そして、搭乗者のIDと、行われた設定操作に対応する設定操作番号kと、その設定操作が行われた操作回数iAkと関連付けて、各状態情報のうち、その設定操作の前後の一定期間(例えば、設定操作時が行われた時点から±10秒間)内に取得された状態情報を学習情報DAkの要素として記憶部61に記憶する(ステップS114)。
【0080】
その後、制御部60の学習部66は、操作回数iAkが所定回数n1*j(j=1,2,3)と等しいか否か判定する(ステップS115)。なお、所定回数n1は、例えば10回である。そして、学習部66は、iAk=n1*jと判定した場合、学習部66のクラスタリング部662は、その搭乗者及び設定操作番号kに関連付けられて記憶部61に記憶されている学習情報DAkのうち、連続的な値を取る状態情報などについて、クラスタリングを行う(ステップS116)。なお、学習情報のクラスタリングは、図6のフローチャートに示した手順に従って行われる。
その後、学習部66は、クラスタリングされた学習情報DAkを用いて、その設定操作に関する確率モデルMAqkを構築する(ステップS117)。具体的には、上述したように、学習部66の確率モデル構築部663が、各標準モデルに対して、CPTを作成して仮の確率モデルを構築し、学習部66の確率モデル評価部664が、それぞれの仮の確率モデルについて情報量基準を算出し、情報量基準の値が最も小さい仮の確率モデルを、使用する確率モデルMAqkとして選択する。そして、その確率モデルMAqkを搭乗者のIDなどと関連付けて記憶部61に記憶する。一方、ステップS115において、iAkがn1*jと等しくない場合、制御をステップS120の前に移行する。
【0081】
次に、確率モデル評価部664は、確率モデルMAqkの入力パラメータが、空調情報(内気温Tr、外気温Tam及び日射量S)のみからなるか否かを判定する(ステップS118)。そして、空調情報のみを入力パラメータとしている場合には、確率モデル評価部664は、搭乗者の温感に対して温調制御が最適化されていないと判断する。そして、学習部66の制御式修正部665は、設定操作αに関連する制御式を修正する(例えば、設定操作αが設定温度の変更の場合には、温調制御式の各定数Kset、Kr、Kam、KS及びCの調整を行う)(ステップS119)。そして、確率モデルMAqkを廃棄する。一方、ステップS118において、確率モデルMAqkの入力パラメータに、空調情報以外の情報が含まれている場合には、確率モデル評価部664は、特定の状況に対応する確率モデルが構築されたと判断する。この場合、確率モデル評価部664は、設定操作αに関連する制御式を修正せず、制御をステップS120の前へ移行する。
【0082】
次に、学習部66は、操作回数iAkが所定回数n2(例えば、n2=30)と等しいか否か判定する(ステップS120)。iAkがn2と等しくなければ、iAkを1だけインクリメントし(ステップS121)、制御をステップS112の前へ移行する。一方、ステップS120において、iAk=n2であれば、学習部66の学習情報整理部666は、記憶部61に記憶されている、その搭乗者及び設定操作番号kに関連付けられて記憶部61に記憶されている学習情報DAkに含まれる状態情報のうち、構築された確率モデルが対応する特定状況についての状態情報を削除する(ステップS122)。なお、状態情報の削除は、図8に示した動作フローに従って行われる。
さらに、その時点で記憶部61に記憶されている確率モデルMAqkを確立されたものとし、以後その確率モデルMAqkの更新は行わない。学習部66は、確立された確率モデルMAqkに対して、更新されないことを示すフラグ情報を付す。例えば、更新フラグfを確率モデルに関連付けて記憶部61に記憶し、その更新フラグfが'1'の場合は、更新(すなわち、書き換え)禁止、更新フラグfが'0'の場合は更新可能として、更新可否を判別可能とすることができる。また、iAkを学習情報DAkに残っている状態情報の組の数に設定する。
【0083】
なお、所定回数n2は、n1よりも大きな数で、統計的に十分正確な確率モデルを構築可能と考えられるデータ数に対応する。所定回数n1及びn2は、経験的、実験的に最適化することができる。
また、上記のフローチャートのステップS115において、学習部66は、確率モデルの構築を行うか否かを判定するために、操作回数iAkと所定回数n1*j(j=1,2,3)を比較する代わりに、同一の設定操作に関連する確率モデルを前回構築したときからの経過時間が第1の所定時間(例えば、1週間、1ヶ月)経過したか否かを判定するようにしてもよい。この場合、学習部66は、その経過時間が第1の所定時間以上となったとき、確率モデルの構築を行う。すなわち、学習部66は、上記のステップS116〜S122の処理を実行する。このように、経過時間に基づいて確率モデルの構築を行うか否かを判定するために、制御部60は、確率モデルが構築された時の作成日時をその確率モデルに関連付けて記憶部61に記憶しておく。そして、学習部66は、経過時間を算出する際に、設定操作αに関連する確率モデルのうち、最新の確率モデルに関連付けられた作成日時を記憶部61から取得し、現在の時間との差を求めることによって経過時間を算出する。
さらに、学習部66が経過時間に基づいて確率モデルの構築を行うか否かを判定する場合、上記のステップS120では、学習部66は、経過時間を第1の所定時間よりも長い第2の所定時間(例えば、4週間、6ヶ月)と比較するようにしてもよい。そして、経過時間が第2の所定時間よりも長い場合、学習部66は、学習情報DAkの消去、更新フラグfの書き換えを行う。
【0084】
次に、学習部66は、設定操作番号kに対応する設定操作に関連する確率モデルの数が、所定数Tn以上になったか否か判定する(ステップS123)。なお、本実施形態では、所定数Tnを5に設定した。ステップS123において、その設定操作に関連する確率モデルの数が所定数Tn未満である場合、学習部66は、制御をステップS112の前に移行する。一方、ステップS123において、その設定操作に関連する確率モデルのうち、最初に構築された確率モデルを削除する(ステップS124)。その後、制御をステップS112の前に移行する。
【0085】
なお、最初に構築された確率モデルを削除する代わりに、使用頻度の最も低い、すなわち、その確率モデルを用いて得られた確率が最も高くなる回数が最も少ないものを削除してもよい。あるいは、その確率モデルを用いて得られた確率の平均値が最も低いものを削除するようにしてもよい。このように、確率モデルの数を制限することで、推薦確率の計算に要する時間が一定以上に増加することを防止することができる。なお、このような確率の計算結果に基づいて確率モデルの削除を行うために、上記のステップS108で制御パラメータの修正が行われる度に、各確率モデルについて求めた確率をログ情報として、記憶部61に記憶しておく。
また、上記のフローチャートのステップS115において、学習部66は、確率モデルの構築を行うか否かを判定するために、操作回数iAkと所定回数n1*j(j=1,2,3)を比較する代わりに、同一の設定操作に関連する確率モデルを前回構築したときからの経過時間が第1の所定時間(例えば、1週間、1ヶ月)経過したか否かを判定するようにしてもよい。この場合、学習部66は、その経過時間が第1の所定時間以上となったとき、確率モデルの構築を行う。すなわち、学習部66は、上記のステップS116〜S124の処理を実行する。このように、経過時間に基づいて確率モデルの構築を行うか否かを判定するために、制御部60は、確率モデルが構築された時の作成日時をその確率モデルに関連付けて記憶部61に記憶しておく。そして、学習部66は、経過時間を算出する際に、設定操作αに関連する確率モデルのうち、最新の確率モデルに関連付けられた作成日時を記憶部61から取得し、現在の時間との差を求めることによって経過時間を算出する。
さらに、学習部66が経過時間に基づいて確率モデルの構築を行うか否かを判定する場合、上記のステップS120では、学習部66は、経過時間を第1の所定時間よりも長い第2の所定時間(例えば、4週間、6ヶ月)と比較するようにしてもよい。そして、経過時間が第2の所定時間よりも長い場合、学習部66は、学習情報DAkの消去、更新フラグfの書き換えを行う。
以後、車両用空調装置1は、稼動停止となるまで上記のステップS101〜S124の制御を繰り返す。
【0086】
以上説明してきたように、本発明を適用した車両用空調装置は、新たに確率モデルが構築された場合、確率モデルの構築に使用した複数の学習データのうち、その構築された確率モデルが対応する特定状況に関する学習データを特定して削除し、残りの学習データを別の確率モデルの構築に利用する。したがって、蓄積した学習データを効率的に利用することができる。
【0087】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。例えば、搭乗者は運転者に限られない。車両用空調装置の設定操作を誰が行ったかを判別することにより、運転者以外の同乗者が操作する場合にも好適に用いることができる。例えば、車両用空調装置のA/C操作パネル59が、運転席用と助手席用の二つ準備されている場合、制御部60は、どちらのA/C操作パネル59が操作されたかによって、運転者が操作したのか、同乗者が操作したのかを判定してもよい。また、制御部60は、特開2002−29239号公報に記載されているように、A/C操作パネル59上に赤外線温度センサなどで構成される操作乗員検出センサを設けて、運転者か同乗者のどちらが操作を行ったかを判定するようにしてもよい。
そして、同乗者が操作を行った場合には、運転者の照合及び認証と同様に、車内カメラ54で撮影した画像データに基づいて、同乗者の照合及び認証も行い、その操作時の各センサ値などの状態情報を、運転者ではなく、その同乗者に関連付けて記憶する。
【0088】
また、搭乗者が特定人に限定されるような場合、あるいは、誰が運転する場合でも行うような設定操作について確率モデルを構築する場合には、照合部63を省略してもよい。この場合、確率モデル及び確率モデルの学習に用いる学習情報は、搭乗者が誰であっても共通して使用される。
【0089】
また、確率モデルの構築及び確率モデルを用いた設定操作に用いる状態情報として、状態情報取得時の車両用空調装置の設定情報(設定温度、風量など)を含んでもよい。
さらに、上記の実施形態では、制御情報修正部64において修正される制御パラメータは、設定温度や風量など、A/C操作パネル59を通じて搭乗者が直接設定できるパラメータとした。しかし、制御情報修正部64は、確率モデルに基づいて修正する制御パラメータを、温調制御式を用いて算出される空調温度Tao若しくは風量制御式を用いて算出されるブロアファン21の回転数、エアミックスドア28の開度など、空調部10の各部の動作に直接関連する制御情報としてもよい。
【0090】
また、本発明は、空調と直接関係のない状態情報に基づいて、空調装置を自動的に制御するような場合に広く適用できる。例えば、制御部60がワイパーを動作させる信号を受け取ったときにデフロスタを稼動させたり、シガーライターが使用された場合には、外気モードにしたり、カーオーディオのスイッチがONとなった場合には、風量を下げるといった制御を自動的に行うことができる。さらに、自動的に修正する対象となる制御パラメータは、車両用空調装置の制御に直接的には関係しないものであってもよい。例えば、風量が0に設定されたときにはパワーウインドウを自動的に開放するようにしてもよい。このような場合には、制御部60から車両の操作装置へ制御信号を送信することになる。
【0091】
また、確率モデルの構築において、上記の実施形態では、予めグラフ構造を規定した標準モデルを準備したが、そのような標準モデルを準備する代わりにK2アルゴリズムや遺伝的アルゴリズムを用いてグラフ構造の探索を行うようにしてもよい。例えば遺伝的アルゴリズムを用いる場合には、各ノード間の接続の有無を各要素とする遺伝子を複数準備する。そして、上記の情報量基準を用いて各遺伝子の適応度を計算する。適応度が所定以上の遺伝子を選択し、交叉、突然変異などの操作を行って次の世代の遺伝子を作成する。このような操作を複数回繰り返して、最も適合度の高い遺伝子を選択する。選択された遺伝子で記述されるグラフ構造を確率モデルの構築に使用する。さらに、これらのアルゴリズムと、標準モデルからの確率モデルの構築とを組み合わせて用いてもよい。
さらに、上記の実施形態では、確率モデルとしてベイジアンネットワークを用いたが、例えば、隠れマルコフモデルのような、他の確率モデルを用いてもよい。
【0092】
なお、本発明を適用する空調装置は、フロントシングル、左右独立、リア独立、4席独立、上下独立の何れのタイプのものであってもよい。何れかの独立タイプの空調装置に本発明を適用する場合には、内気温センサ、日射センサなどが複数搭載されてもよい。
【0093】
さらに本発明は、空調装置以外にも適用することが可能である。複数の状態情報を取得し、それらの状態情報を所定の制御と関連した確率モデルに入力してその所定の制御を行う推薦確率を求め、推薦確率が一定以上の場合に、その所定の制御を行う制御装置にも本発明を適用することができる。
上記のように、本発明の範囲内で様々な修正を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明を適用した車両用空調装置の全体構成を示す構成図である。
【図2】車両用空調装置の制御部の機能ブロック図である。
【図3】特定状況の一例を示す図である。
【図4】車両用空調装置の設定値の自動調節に用いられる確率モデルの一例のグラフ構造を示す図である。
【図5】(a)〜(d)は、それぞれ図4に示した確率モデルの各ノードについての条件付き確率表を示す図である。
【図6】本発明を適用した車両用空調装置の学習情報のクラスタリング手順を示すフローチャートである。
【図7】(a)〜(d)は、それぞれ確率モデルの基礎となるグラフ構造を有する標準モデルを示す図である。
【図8】本発明を適用した車両用空調装置の学習情報に含まれる状態情報の削除手順を示すフローチャートである。
【図9】本発明を適用した車両用空調装置の制御動作を示すフローチャートである。
【図10】本発明を適用した車両用空調装置の制御動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0095】
1 車両用空調装置
10 空調部
11 コンプレッサ
21 ブロアファン
22 駆動用モータ
24 内外気サーボモータ
25 内外気切替ドア
28 エアミックスドア
31 温調サーボモータ
37 フットドア
38 フェイスドア
39 デフロスタドア
40 モードサーボモータ
51 内気温センサ
52 外気温センサ
53 日射センサ
54 車内カメラ
55 車外カメラ
56 ナビゲーションシステム
57 車両操作機器
58 車載時計
59 A/C操作パネル
60 制御部
61 記憶部
62 通信部
63 照合部
64 制御情報修正部
65 空調制御部
651 温度調節部
652 コンプレッサ制御部
653 吹出口制御部
654 吸込口制御部
655 送風量設定部
66 学習部
661 学習情報蓄積部
662 クラスタリング部
663 確率モデル構築部
664 確率モデル評価部
665 制御式修正部
666 学習情報整理部
101 確率モデル
102〜105 ノード
106〜109 条件付き確率表(CPT)
501〜504 標準モデル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調空気を車内に供給する空調部(10)と、
前記車両内外の空調情報、前記車両の位置情報、前記車両の挙動情報、時間情報又は前記車両の搭乗者の生体情報の少なくとも一つを含む状態情報を取得する情報取得部(51、52、53、55、56、57、58)と、
複数の前記状態情報をそれぞれ学習データとして記憶する記憶部(61)と、
前記状態情報を入力することにより乗員が所定の設定操作を行う推薦確率を算出するための確率モデルを、前記学習データを用いて構築する学習部(66)と、
前記学習部(66)で構築された確率モデルに前記状態情報を入力して前記推薦確率を算出し、該推薦確率に応じて、乗員の設定操作に関連する設定情報又は制御情報を、前記所定の設定操作となるように修正する制御情報修正部(64)と、
前記修正された設定情報又は制御情報にしたがって、前記空調部(10)の空調制御を行う空調制御部(65)とを有する車両用空調装置であって、
前記学習部(66)は、
前記記憶部(61)に記憶された複数の学習データを用いて確率モデルのグラフ構造に含まれるノードの条件付き確率を決定することにより、前記所定の設定操作に関連する確率モデルを構築する確率モデル構築手段(663)と、
前記複数の学習データのそれぞれを前記構築された確率モデルに入力して推薦確率を求め、該複数の学習データのうち、求めた推薦確率が第1の閾値以上である学習データを削除する学習情報整理部(666)と、
を有することを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記学習部(66)は、前記学習情報整理部(666)で削除されなかった学習データを、別の確率モデルの構築に使用する、請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記確率モデルに前記状態情報を入力して得られた推薦確率が第2の閾値以上の場合、前記所定の設定操作の内容を搭乗者に報知し、且つ前記所定の設定操作を行うか否かを搭乗者に確認する確認操作部(59)を有し、
前記第1の閾値は、前記第2の閾値以上である、請求項1又は2に記載の車両用空調装置。
【請求項4】
空調空気を車内に供給する空調部(10)と、前記車両内外の空調情報、前記車両の位置情報、前記車両の挙動情報、時間情報又は前記車両の搭乗者の生体情報の少なくとも一つを含む状態情報を取得する情報取得部(51、52、53、55、56、57、58)と、記憶部(61)と、所定の設定操作と関連した少なくとも一つの確率モデルを有し、前記状態情報を前記確率モデルに入力して前記所定の設定操作を行う推薦確率を算出し、該推薦確率に応じて、乗員の設定操作に関連する設定情報又は制御情報を、前記所定の設定操作となるように修正する制御情報修正部(64)と、前記修正された設定情報又は制御情報にしたがって、前記空調部(10)の空調制御を行う空調制御部(65)とを有する車両用空調装置の制御方法であって、
前記状態情報を学習データとして前記記憶部(61)に記憶する学習情報蓄積ステップと、
前記記憶部(61)に記憶された学習データから、複数の学習データを選択し、該複数の学習データを用いて確率モデルのグラフ構造に含まれるノードの条件付き確率を決定することにより、前記所定の設定操作に関連する確率モデルを構築する確率モデル構築ステップと、
前記確率モデルの構築後、前記複数の学習データのそれぞれを前記構築された確率モデルに入力して推薦確率を求め、該複数の学習データのうち、求めた推薦確率が第1の閾値以上である学習データを削除する削除ステップと、
を有することを特徴とする制御方法。
【請求項5】
前記学習情報蓄積ステップは、前記所定の設定操作が行われる度に、前記状態情報を該所定の設定操作と関連する学習データとして前記記憶部(61)に記憶する、請求項4に記載の制御方法。
【請求項6】
前記確率モデル構築ステップは、前記所定の設定操作を行った操作回数が所定回数以上となった場合、前記所定の設定操作に関連する複数の学習データを選択する、請求項4又は5に記載の制御方法。
【請求項7】
前記確率モデル構築ステップは、前記所定の設定操作に関連する確率モデルが構築されてから所定の時間が経過した場合、前記所定の設定操作に関連する別の確率モデルを構築するために、前記所定の設定操作に関連する複数の学習データを選択する、請求項4又は5に記載の制御方法。
【請求項8】
前記確率モデル構築ステップは、前記削除ステップで削除されなかった学習データを、別の確率モデルの構築に使用する、請求項4に記載の制御方法。
【請求項9】
制御対象となる装置の状態情報を取得する情報取得部と、
複数の前記状態情報をそれぞれ学習データとして記憶する記憶部(61)と、
前記状態情報を入力することにより、所定の設定操作を行う推薦確率を算出するための確率モデルを、前記学習データを用いて構築する学習部(66)と、
前記学習部(66)で構築された確率モデルに前記状態情報を入力して前記推薦確率を算出し、該推薦確率に応じて、前記所定の設定操作に関連する設定情報又は制御情報を、前記所定の設定操作となるように修正する制御情報修正部(64)と、
前記修正された設定情報又は制御情報にしたがって、前記装置の制御を行う制御部(65)とを有する制御装置であって、
前記学習部(66)は、
前記記憶部(61)に記憶された複数の学習データを用いて確率モデルのグラフ構造に含まれるノードの条件付き確率を決定することにより、前記所定の設定操作に関連する確率モデルを構築する確率モデル構築手段(663)と、
前記複数の学習データのそれぞれを前記構築された確率モデルに入力して推薦確率を求め、該複数の学習データのうち、求めた推薦確率が第1の閾値以上である学習データを削除する学習情報整理部(666)と、
を有することを特徴とする制御装置。
【請求項10】
前記学習部(66)は、前記学習情報整理部(666)で削除されなかった学習データを、別の確率モデルの構築に使用する、請求項9に記載の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−195102(P2008−195102A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−29432(P2007−29432)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】