説明

車両用窓ガラス

【課題】簡単な構成でバスバーからのAgの析出を防止できる車両用窓ガラスを提供すること。
【解決手段】車体1に回動可能に支持されて、車体1の外側で車体1のウィンドウ開口4に接近および離反する方向に移動し、ウィンドウ開口4を開閉可能な車両用窓ガラス11において、ガラス板12の車室側ガラス面12aに下側被覆層13を形成し、その下側被覆層13の上に導体層14を形成する。そして、導体層14の上に上側被覆層15を形成し、その上側被覆層15の上に防水層16を形成する。これにより、車外環境下に置かれた場合おいても、上側被覆層15に水が浸入するのを防ぎ、導体層14のAgが上側被覆層15の上に析出されるのを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばデフォッガ用の熱線等の導体層を有する車両用窓ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車のリヤウィンドウ等の車両用窓ガラスには、曇りをとるためのデフォッガが設けられている。デフォッガは、複数本の電熱線が並列的に配線され、各電熱線の両端部にバスバーが電気的に接続されて構成されている。デフォッガの導体層(電熱線とバスバー)には、電気抵抗の低いAg(銀)が一般的に用いられており、車両用窓ガラスの車室側ガラス面に形成されている。
【0003】
ところで、近年、RV車等のバックドアを備える車両において、リヤウィンドウの車両用窓ガラスをガラスハッチ構造により開閉可能とするものがある。ガラスハッチ構造は、車両用窓ガラスの上縁がバックドアの上縁とともにヒンジ部材を介して車体のルーフ後端に上下に回動可能に支持されており、上方に跳ね上げることによってリヤウィンドウのウィンドウ開口を開放できるようになっている。
【0004】
リヤウィンドウのウィンドウ開口は、車両用窓ガラスの大きさよりも小さな開口面積を有している。そして、ウィンドウ開口には、その全縁に沿ってウェザストリップが取り付けられており、車両用窓ガラスを下げてウィンドウ開口を閉塞した場合に、車両用窓ガラスの車室側ガラス面に圧接されてウィンドウ開口を密閉するようになっている。
【0005】
図5は、従来例1を説明する模式図であり、図5(a)はガラスハッチ構造を有するリヤウィンドウの車両用窓ガラスを模式的に示した図、図5(b)は図5(a)のA−A’線断面である。従来例1の車両用窓ガラス100は、図5(a)に示すように、ガラス板101の車室側ガラス面101aの周縁部に、黒色セラミックス等のセラミックスカラー組成物からなる被覆層102が所定幅に亘って形成されており、被覆層102の上に導体層のバスバー103が形成されている。
【0006】
バスバー103は、ガラス板101の透過部107の左右両側に沿って上下に帯状に延在し、左右のバスバー103の間に亘って複数本の電熱線104が配線されている。なお、図5(a)に示される破線Lは、ウィンドウ開口の閉塞時におけるウェザストリップ110との当接部位を示している。
【0007】
従来例1の車両用窓ガラス100では、図5に示すように、ウェザストリップ110で囲まれる範囲の内側にバスバー103が設けられていた。従って、ウェザストリップ110の当接部位よりもガラス板101の中央寄り位置にバスバー103が位置しており、車両用窓ガラス100の透過部107が狭く、良好な後方視界を得ることが困難であった。
【0008】
図6は、従来例2を説明する模式図であり、図6(a)はガラスハッチ構造を有するリヤウィンドウの車両用窓ガラスを模式的に示した図、図6(b)は図6(a)のB−B’線断面である。従来例2の車両用窓ガラス200は、図6(a)に示すように、ガラス板201の車室側ガラス面201aの周縁部に、黒色セラミックス等のセラミックスカラー組成物からなる被覆層202が所定幅に亘って形成されており、被覆層202の上に導体層のバスバー203が形成されている。図6(a)に示される破線Lは、ウィンドウ開口の閉塞時におけるウェザストリップ210との当接部位を示している。
【0009】
バスバー203は、ガラス板201の透過部207の左右両側に沿って上下に帯状に延在し、左右のバスバー203の間に亘って複数本の電熱線204が配線されている。そして、図6(b)に示すように、バスバー203の上面には、被覆層205が設けられており、ウェザストリップ210からバスバー203を保護するように構成されている。従って、車両用窓ガラス200の透過部207を広げて、良好な後方視界を得ることができる。
【0010】
なお、特許文献1には、車両用窓ガラスの上に形成された銀の導体層を、還元剤を含む被覆層で覆うことにより、銀の導体層のマイグレーションを防止する技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−170753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来例2のように、バスバー203の上にも被覆層205を形成し、ウェザストリップ210の当接部位をバスバー203の上方に配置する構成とした場合、バスバー203は、ウェザストリップ210に対して車内側と車外側にまたがるように配置され、図6(b)に示すように、バスバー203のうち、ウェザストリップ210よりも常に車外側に位置する領域部分Dが発生する。
【0013】
そして、被覆層205のうち、バスバー203の領域部分Dを覆う部分は、常に車外側に位置し、雨水に晒され、結露が生じる環境下におかれる。被覆層205に用いられている黒色セラミックス等のセラミックスカラー組成物は、ポーラス状の構造体であり、無数の微細な穴を有している。従って、車外環境下では、バスバー203の領域部分Dを覆う被覆層205に雨水や結露などの水が染み込み、バスバー203のAgが被覆層205の表面上に析出するおそれがある。
【0014】
図7は、バスバーのAgが析出するメカニズムを説明する図であり、図6(b)のC部を拡大して示す模式図である。
【0015】
車両用窓ガラス200は、車室側ガラス面201aにバスバー203および電熱線204をプリントした後に、約650℃の高温で所望の形状に成形されて、電熱線204やバスバー203が焼成される。そして、その成形時に、バスバー203から被覆層205のセラミックスカラー組成物内にAgが拡散して、バスバー203から離間するに従って漸次Ag濃度が薄くなる濃度勾配が形成される。
【0016】
一方、車両用窓ガラス200の車室側ガラス面201aに当接されるウェザストリップ210やクッションゴム(図示せず)には、硫黄成分(S)が含まれており、この硫黄成分(S)が雨水などで溶出し、車両用窓ガラス200の成形時に被覆層205(セラミックスカラー組成物)内に拡散したAgが、濃度勾配で引き寄せられて被覆層205の表面上に析出する。
【0017】
Agが析出すると、被覆層205の表面が白色化し、例えばガラスハッチ構造によって車両用窓ガラス200を跳ね上げてウィンドウ開口を開放したときに、ウェザストリップ210との当接箇所に沿う白い枠として視認され、見栄えが悪いという問題がある。また、高温、高湿の条件下では、銀イオンが発生して、被覆層205の表面上でイオンマイグレーションが生じ、短絡やデフォッガ機能の低下等が懸念される。
【0018】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、バスバーを被覆する被覆層の表面上に、バスバーからAgが析出されるのを防ぐ車両用窓ガラスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決する本発明の車両用窓ガラスは、車体に回動可能に支持され、車体の外側で車体のウィンドウ開口に接近および離反する方向に移動してウィンドウ開口を開閉可能な車両用窓ガラスであって、ウィンドウ開口の開口面積よりも広い面積に亘って広がるガラス板と、ガラス板の車室側ガラス面に形成される下側被覆層と、下側被覆層の上に形成される銀の導体層と、導体層の上に形成されて導体層を被覆し、導体層の傷付きを防止する上側被覆層と、上側被覆層の上に形成されて上側被覆層を被覆し、上側被覆層への水分の浸入を防ぐ防水層を有することを特徴としている。
【0020】
本発明の車両用窓ガラスによれば、上側被覆層を防水層で被覆する構成を有しているので、上側被覆層への水の浸入を防ぐことができる。従って、例えば雨水に晒され、結露が付着する厳しい車外環境下においても、上側被覆層に水が浸入するのを有効に防ぐことができ、導体層の銀が上側被覆層の上に析出されるのを防ぐことができる。
【0021】
従って、上側被覆層の上面が銀の析出によって白色化するのを防ぎ、車両用窓ガラスの見栄えが悪くなるのを防ぐことができる。また、析出した銀に起因するイオンマイグレーションの発生を防ぐことができ、短絡やデフォッガ機能の低下を有効に防止できる。
【0022】
また、本発明の車両用窓ガラスは、導体層および上側被覆層がウィンドウ開口の開口端縁に対向する位置に形成されていてもよい。これによれば、例えばウィンドウ開口を閉塞した状態で、導体層の少なくとも一部がウィンドウ開口の開口端縁よりも車外側に配置された場合に、その導体層を覆う上側被覆層の上に防水層が設けられているので、上側被覆層に水が浸入するのを防水層によって効果的に防ぐことができる。従って、例えば雨水に晒され、結露が付着する厳しい車外環境下においても、導体層からの銀の析出を有効に防ぐことができる。
【0023】
本発明の車両用窓ガラスは、防水層が上側被覆層に防水テープを貼着することによって構成されることが好ましい。これによれば、車両用窓ガラスを成形した後に貼着作業を行うことで防水層を形成することができ、製造作業を簡単化でき、製造コストを低減することができる。
【0024】
また、本発明の車両用窓ガラスは、防水層が上側被覆層の上面にUV硬化樹脂を塗布してUV硬化させることによって構成されることが好ましい。これによれば、防水層を短時間で形成することができ、製造時間をより短縮することができる。特に、UV硬化樹脂は、セラミックスカラー組成物と比較して気密性が高く、水の浸入を確実に防ぐことができる。そして、UV硬化樹脂を塗布してからUV光が当たる場所に置くことによって自然に硬化させることができ、別途に硬化させる作業を行う必要がないので、製造作業を簡単化でき、製造コストを低減することができる。
【0025】
また、本発明の車両用窓ガラスは、車体に回動可能に支持され、車体の外側で車体のウィンドウ開口に接近および離反する方向に移動してウィンドウ開口を開閉可能な車両用窓ガラスであって、ウィンドウ開口の開口面積よりも広い面積に亘って広がるガラス板と、ガラス板の車室側ガラス面に形成される下側被覆層と、下側被覆層の上に形成される銀の導体層と、導体層の上に形成されて導体層を被覆する上側被覆層とを有し、上側被覆層がUV硬化樹脂によって構成されたことを特徴としている。
【0026】
本発明の車両用窓ガラスによれば、上側被覆層がUV硬化樹脂によって構成されているので、セラミックスカラー組成物と比較して気密性が高く、UV硬化後には、導体層への水の浸入を確実に防ぐことができる。
【0027】
従って、例えば雨水に晒され、結露が付着する厳しい車外環境下に置かれる場合においても、導体層に水が浸入するのを有効に防ぐことができ、導体層の銀が析出されるのを防ぐことができる。
【0028】
従って、上側被覆層の上面が銀の析出によって白色化するのを防ぎ、車両用窓ガラスの見栄えが悪くなるのを防ぐことができる。また、析出した銀に起因するイオンマイグレーションの発生を防ぐことができ、短絡やデフォッガ機能の低下を有効に防止できる。
【0029】
そして、UV硬化樹脂は、UV硬化後に所定の硬度を有するので、導体層を保護し、ウェザストリップ等によって導体層に傷が付くのを防ぐことができる。また、UV硬化樹脂を濃色とすることによって、導体層を覆い隠すことができ、導体層の存在を目立たなくすることができる。
【0030】
そして、上側被覆層をUV硬化樹脂によって構成することで、上側被覆層を短時間で形成することができ、車両用窓ガラス全体の製造時間をより短縮することができる。また、UV硬化樹脂を塗布した後に、UV光が当たる場所に置くことによって自然に硬化させることができ、別途に硬化させる作業を行う必要がないので、製造作業を簡単化でき、製造コストを低減することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、上側被覆層を防水層で被覆するので、上側被覆層への水の浸入を防ぐことができる。従って、例えば雨水に晒され、結露が付着する厳しい車外環境下においても、上側被覆層に水が浸入するのを有効に防ぐことができ、導体層の銀が上側被覆層の上に析出されるのを防ぐことができる。
【0032】
従って、上側被覆層の上面が銀の析出によって白色化するのを防ぎ、車両用窓ガラスの見栄えが悪くなるのを防ぐことができる。また、析出した銀に起因するイオンマイグレーションの発生を防ぐことができ、短絡やデフォッガ機能の低下を有効に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】第1実施の形態における車両用窓ガラスの構成を説明する正面図。
【図2】図1のII−II線断面図。
【図3】車両用窓ガラスが車両に装着された状態を示す図。
【図4】第2実施の形態における車両用窓ガラスの構成を説明する断面図。
【図5】従来例1を説明する図。
【図6】従来例2を説明する図。
【図7】Agの析出現象を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
[第1実施の形態]
次に、本発明の第1実施の形態について図面を用いて説明する。
【0035】
図1は、本実施の形態における車両用窓ガラスの構成を説明する正面図、図2は、図1のII−II線断面図、図3は、車両用窓ガラスが車両に装着された状態を示す図である。
【0036】
本実施の形態における車両用窓ガラス11は、図3に示すように、自動車のバックドア2のリヤウィンドウ3に用いられるものであり、ガラスハッチ構造を有している。
【0037】
バックドア2のリヤウィンドウ3には、左右に広がる横長のウィンドウ開口4が形成されている。そして、ウィンドウ開口4の開口端縁には、ウェザストリップ5が開口端縁の全周に亘って設けられている。
【0038】
車両用窓ガラス11は、車両用窓ガラス11の上縁が左右一対のヒンジ部材6を介して車体1のルーフ後端に上下に回動可能に支持されている。車両用窓ガラス11の下端でかつ左右方向中央位置には、バックドア2に設けられたラッチ7に係止可能なストライカ8が設けられており、車両用窓ガラス11を閉状態に保持できるようになっている。そして、図示していないが、ウィンドウ開口4の左右両側には、ガスダンパーが設けられており、車両用窓ガラス11を開状態に保持できるようになっている。なお、ガラスハッチ構造は、公知であるので、その詳細な説明は省略する。
【0039】
車両用窓ガラス11は、図1に示すように、平面視略矩形でかつ、車体外形に合わせて若干湾曲した板状を有している。車両用窓ガラス11は、ウィンドウ開口4(図3を参照)の開口面積よりも広い面積に亘って広がる大きさのガラス板12を有しており、閉状態にて車室側ガラス面12a側にウェザストリップ5(図3を参照)が圧接されてウィンドウ開口4を密閉するように形成されている。図1に示される破線Lは、閉状態でウェザストリップ5に当接する当接部位を示している。
【0040】
車両用窓ガラス11のガラス板12の車室側ガラス面12aには、図2に示すように、下側被覆層13、導体層14、上側被覆層15、防水層16が形成されている。下側被覆層13と上側被覆層15は、例えば黒色セラミックス等のセラミックスカラー組成物によって構成され、導体層14は、電気抵抗の小さいAg(銀)によるものが用いられている。
【0041】
下側被覆層13は、車室側ガラス面12aの周縁部を所定幅に亘って被覆するように設けられており、具体的には、ガラス板12の外端縁からウェザストリップ5の当接部位Lよりもガラス板12の中央寄りの位置まで延出している。したがって、図1に示すように、下側被覆層13によって囲まれる領域内には透過部17が形成され、透過部17を透過してウィンドウ開口4から車両後方を視認できるようになっている。
【0042】
下側被覆層13の上には、導体層14のバスバー22が形成されている。導体層14は、デフォッガ21のバスバー22と電熱線23によって構成されている。バスバー22は、ガラス板12の透過部17の左右両側に沿って上下に帯状に延在している。バスバー22は、ウェザストリップ5の当接部位Lに沿って配置されており、車両後方に広い視野を確保することができる。
【0043】
デフォッガ21の電熱線23は、図1に示すように、左右のバスバー22の間に亘って配線されており、透過部17を左右に横切るように、上下に所定間隔をおいて複数本が配線されている。バスバー22には、給電部24が設けられている。給電部24は、図示していないコネクタが接続されて、車両から電源を供給できるようになっている。
【0044】
上側被覆層15は、導体層14を被覆して、導体層14の傷付きを防止するためのものであり、本実施の形態では、図2に示すように、導体層14のバスバー22の上に形成されている。上側被覆層15は、バスバー22よりも幅広に形成されており、下側被覆層13と協働してバスバー22を完全に被覆する構成を有している。
【0045】
そして、本発明の特徴的な構成である防水層16は、上側被覆層15およびバスバー22に水が浸入するのを防ぐためのものであり、図2に示すように、上側被覆層15の上に形成されている。防水層16は、上側被覆層15よりもさらに幅広に形成されており、下側被覆層13と協働してバスバー22および上側被覆層15を完全に被覆する構成を有している。
【0046】
防水層16は、例えば、防水テープを貼着することによって形成することができる。かかる構成によれば、車両用窓ガラス11を成形した後に貼着作業を行うことで防水層16を形成することができ、製造作業を簡単化でき、製造コストを低減することができる。防水テープは、例えば上側被覆層15よりも幅広の横幅を有するものを使用することができる。
【0047】
また、防水層16の他の実施例としては、上側被覆層15の上に、UV硬化樹脂や撥水剤を塗布して硬化させ、形成すること(オーバーコート)ができる。かかる方法によれば、防水層16を短時間で形成することができ、製造時間をより短縮することができる。
【0048】
特に、UV硬化樹脂は、下側被覆層13および上側被覆層15に用いられるセラミックスカラー組成物と比較して気密性が高く、水の浸入を確実に防ぐことができる。そして、UV硬化樹脂を塗布した後に、車両用窓ガラス11をUV光が当たる場所に置くことによって自然に硬化させることができ、別途に硬化させる作業を行う必要がないので、製造作業を簡単化でき、製造コストを低減することができる。また、UV硬化樹脂は、使用期間(ポットライフ)が長く、室内保管が可能であり、溶剤を使用しないので環境に優しく、遮光下であれば長期間の保管が可能であるという利点も有している。
【0049】
上記構成を有する車両用窓ガラス11によれば、上側被覆層15を防水層16で被覆するので、上側被覆層15への水の浸入を防ぐことができる。従って、例えばバスバー22のウェザストリップ5よりも常に車外側に位置する領域部分Dを覆う上側被覆層15のように、雨水に晒され、結露が付着する厳しい車外環境下に置かれる場合においても、上側被覆層15に水が浸入するのを有効に防ぐことができ、バスバー22のAgが上側被覆層15の上に析出されるのを防ぐことができる。
【0050】
従って、上側被覆層15の上面がAgの析出によって白色化するのを防ぎ、特に、ガラスハッチ構造により車両用窓ガラス11を跳ね上げてリヤウィンドウ3のウィンドウ開口4を開放したときに、車両用窓ガラス11の見栄えが悪くなるのを防ぐことができる。また、Agの析出に起因するイオンマイグレーションの発生を防ぐことができ、短絡やデフォッガ機能の低下を有効に防止できる。
【0051】
また、本実施の形態では、ウェザストリップ5や、ヒンジ部6のブッシュ等の付属部品に、絶縁性の高い材料からなる部品を用いることが好ましい。このように絶縁性の高い材料部品を用いることで、イオンマイグレーションが発生する可能性をより低減し、イオンマイグレーションに起因した発熱等を防ぐことができる。
【0052】
[第2実施の形態]
次に、本発明の第2実施の形態について図4を用いて説明する。図4は、第2実施の形態における車両用窓ガラスの構成を説明する断面図であり、上記した第1実施の形態の図2に対応する図である。なお、第1実施の形態と同様の構成には、同一の符号を付することでその詳細な説明を省略する。
【0053】
本実施の形態において特徴的なことは、上側被覆層18を濃色のUV硬化樹脂によって構成したことである。車両用窓ガラス11のガラス板12の車室側ガラス面12aには、下側被覆層13、導体層14、上側被覆層18が順に積層されて形成されている。上側被覆層18は、導体層14を被覆するものであり、バスバー22よりも幅広な形状を有し、下側被覆層13と協働してバスバー22を完全に被覆している。
【0054】
上側被覆層18は、濃色のUV硬化樹脂によって構成されている。上側被覆層18は、未硬化のUV硬化樹脂をバスバー22の上面およびその周囲にまで塗布し、その後、UV硬化させることによって形成される。
【0055】
UV硬化樹脂は、例えば下側被覆層13に用いられるセラミックスカラー組成物と比較して、気密性が高く、UV硬化後には、導体層14側への水の浸入を確実に防ぐことができる。従って、例えばバスバー22のウェザストリップ5よりも常に車外側に位置する領域部分Dを覆う上側被覆層18のように、雨水に晒され、結露が付着する厳しい車外環境下に置かれる場合においても、水が浸入するのを有効に防ぐことができ、バスバー22のAgが析出されるのを防ぐことができる。
【0056】
そして、UV硬化後は、所定の硬度を有するので、バスバー22を保護し、ウェザストリップ5等によってバスバー22に傷が付くのを防ぐことができる。また、UV硬化樹脂の濃色によって、バスバー22を覆い隠すことができ、バスバー22の存在を目立たなくすることができる。
【0057】
そして、上側被覆層18をUV硬化樹脂によって構成することで、上側被覆層18を短時間で形成することができ、車両用窓ガラス11全体の製造時間をより短縮することができる。また、第1実施の形態と比較して、上側被覆層18の上に防水層16を別途設ける必要がなく、防水テープ等の部品点数や作業工数を削減できる。
【0058】
また、UV硬化樹脂を塗布した後に、車両用窓ガラス11をUV光が当たる場所に置くことによって自然に硬化させることができ、別途に硬化させる作業を行う必要がない。従って、車両用窓ガラス11の製造作業を簡単化でき、製造コストを低減することができ、製品の低価格化を図ることができる。
【0059】
また、UV硬化樹脂は、使用期間(ポットライフ)が長く、室内保管が可能であり、溶剤を使用しないので環境に優しく、遮光下であれば長期間の保管が可能であるという利点も有している。
【0060】
なお、上述の第2実施の形態では、濃色のUV硬化樹脂を用いた場合を例に説明したが、濃色に限定されるものではなく、例えば、UV硬化後に、上側被覆層18の上に塗料を塗ってもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 車体
4 ウィンドウ開口
5 ウェザストリップ
11 車両用窓ガラス
12 ガラス板
12a 車室側ガラス面
13 下側被覆層
14 導体層
15 上側被覆層(第1実施の形態)
16 防水層
18 上側被覆層(第2実施の形態)
21 デフォッガ
22 バスバー
23 電熱線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に回動可能に支持され、前記車体の外側で前記車体のウィンドウ開口に接近および離反する方向に移動して前記ウィンドウ開口を開閉可能な車両用窓ガラスであって、
前記ウィンドウ開口の開口面積よりも広い面積に亘って広がるガラス板と、
該ガラス板の車室側ガラス面に形成される下側被覆層と、
該下側被覆層の上に形成される銀の導体層と、
該導体層の上に形成されて前記導体層を被覆し、前記導体層の傷付きを防止する上側被覆層と、
該上側被覆層の上に形成されて前記上側被覆層を被覆し、前記上側被覆層への水分の浸入を防ぐ防水層と、
を有することを特徴とする車両用窓ガラス。
【請求項2】
前記導体層および前記上側被覆層は、前記ウィンドウ開口の開口端縁に対向する位置に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用窓ガラス。
【請求項3】
前記防水層は、前記上側被覆層に防水テープを貼着することによって構成されることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用窓ガラス。
【請求項4】
前記防水層は、前記上側被覆層の上面にUV硬化樹脂を塗布してUV硬化させることによって形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用窓ガラス。
【請求項5】
車体に回動可能に支持され、前記車体の外側で前記車体のウィンドウ開口に接近および離反する方向に移動して前記ウィンドウ開口を開閉可能な車両用窓ガラスであって、
前記ウィンドウ開口の開口面積よりも広い面積に亘って広がるガラス板と、
該ガラス板の車室側ガラス面に形成される下側被覆層と、
該下側被覆層の上に形成される銀の導体層と、
該導体層の上に形成されて前記導体層を被覆する上側被覆層と、を有し、
該上側被覆層がUV硬化樹脂によって構成されたことを特徴とする車両用窓ガラス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−260381(P2010−260381A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−110490(P2009−110490)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】