説明

車両用自動変速機の変速制御装置

【課題】手動変速モードにおいて強制的にアップシフトが行われる際に、運転者の手動操作によるアップシフト指令と重なり、運転者の意に反して変速レベル(変速レンジやギヤ段)が2重にアップすることを防止する。
【解決手段】変速レンジが強制的にアップシフトされ、それに伴って自動変速機10がアップ変速される際に、運転者の手動操作によってアップシフト指令RUPが入力された場合、タービン回転速度NTが予め定められた受付判定値NTsよりも高い時には、すなわち強制アップシフトに伴うアップ変速を運転者が未だ認識できない場合には、ステップS7でその手動操作によるアップシフト指令RUPがキャンセルされるため、運転者の意に反した2重のアップレンジが防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用自動変速機の変速制御装置に係り、特に、手動変速モードでの走行中に強制的にアップシフトする強制アップシフト手段を有する変速制御装置の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(a) 自動変速機の変速比に関する複数の変速レベル(例えば変速比やギヤ段、変速レンジ)を運転者の手動操作によるレベル切換指令に従って順次高速側或いは低速側へ電気的に切り換える手動変速モードを実行する手動変速制御手段と、(b) 前記手動変速モードでの走行中に予め定められたアップシフト条件に従って前記変速レベルを強制的にアップシフトする強制アップシフト手段と、を有する車両用自動変速機の変速制御装置が知られている。特許文献1に記載の装置はその一例で、手動変速モードであってもエンジンのオーバーランなどを防止するために変速レベルを強制的にアップシフトする技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−83327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記強制アップシフト手段によって強制的にアップシフトが行われる際に、それに気が付かないで運転者の手動操作によるアップシフトのレベル切換指令が為されると、運転者の意に反して変速レベルが2段階アップされるという問題があった。例えば変速レベルがギヤ段の場合、強制的なアップシフトと手動操作によるアップシフトとで、合わせてギヤ段が2段アップして運転者に違和感を生じさせる。変速レベルが変速レンジの場合は、強制的なアップシフトと手動操作によるアップシフトとで、合わせて変速レンジが2レンジアップするものの、運転状態によってはギヤ段(または変速比)は1段アップするだけの場合があり、ギヤ段そのものは運転者の意図通りであるが、変速レンジは2レンジアップしているため、その後の車速変化などで自動的にアップ変速が行われて手動変速操作に影響するなど運転者に違和感を生じさせることがある。エンジンが高回転になると、強制的にフューエルカットなどが行われてドラビリが悪化する可能性があるため、これを回避するために運転者自身でアップシフト操作を行う場合があるのである。
【0005】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、手動変速モードにおいて強制的にアップシフトが行われる際に、運転者の手動操作によるアップシフトのレベル切換指令と重なり、運転者の意に反して変速レベルが2重にアップすることを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、第1発明は、(a) 自動変速機の変速比に関する複数の変速レベルを運転者の手動操作によるレベル切換指令に従って順次高速側或いは低速側へ電気的に切り換える手動変速モードを実行する手動変速制御手段と、(b) 前記手動変速モードでの走行中に予め定められたアップシフト条件に従って前記変速レベルを強制的にアップシフトする強制アップシフト手段と、を有する車両用自動変速機の変速制御装置において、(c) 前記強制アップシフト手段によって前記変速レベルが強制的にアップシフトされる際に、前記運転者の手動操作によってその変速レベルをアップシフトするレベル切換指令が入力された場合、前記強制的なアップシフトに伴ってアップ変速される前記自動変速機の入力側回転速度が予め定められた受付判定値よりも高い時には、前記手動操作によるアップシフトのレベル切換指令をキャンセルする手動変速制限手段を設けたことを特徴とする。
【0007】
ここで、上記変速レベルは、変速比やギヤ段、或いは変速レンジを意味し、アップシフトは、その変速レベルを高速側へ切り換えることを意味する。したがって、変速レベルが変速比またはギヤ段の場合は、アップシフトはそのままそれ等の変速比やギヤ段を高速側へ切り換えるアップ変速を意味するが、変速レベルが変速レンジの場合、アップシフトはその変速レンジを高速側へ切り換えることを意味し、その変速レンジ内で変速比やギヤ段を高速側へ切り換えるアップ変速と必ずしも一致するわけではない。但し、強制アップシフト手段は、例えば動力源のオーバーランを防止するためのものであるため、変速レンジが強制的にアップシフトされるのに伴って、変速比やギヤ段もアップ変速される。本明細書では、変速レベルが高速側へ切り換えられることを「アップシフト」と言い、自動変速機の変速比やギヤ段が高速側へ切り換えられることを「アップ変速」と言い、変速レベルが変速比またはギヤ段の場合はアップシフトとアップ変速は実質的に同じ意味となる。
【0008】
第2発明は、第1発明の車両用自動変速機の変速制御装置において、前記受付判定値は、前記強制アップシフト手段によって前記変速レベルを強制的にアップシフトする旨の判定が為された時の前記自動変速機の入力側回転速度であることを特徴とする。
【0009】
第3発明は、第1発明の車両用自動変速機の変速制御装置において、前記受付判定値は、前記強制アップシフト手段によって前記変速レベルを強制的にアップシフトする旨の判定が為された時の前記自動変速機の入力側回転速度を基準として定められることを特徴とする。
【0010】
第4発明は、第1発明の車両用自動変速機の変速制御装置において、前記受付判定値は、前記強制アップシフト手段により前記変速レベルを強制的にアップシフトする旨の判定が為されて前記自動変速機がアップ変速される際の変速過渡時の入力側回転速度の最大値を基準として定められることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
このような車両用自動変速機の変速制御装置においては、強制アップシフト手段によって変速レベルが強制的にアップシフトされる際に、運転者の手動操作によってその変速レベルをアップシフトするレベル切換指令が入力された場合、自動変速機の入力側回転速度が予め定められた受付判定値よりも高い時には、すなわち強制アップシフトに伴う自動変速機のアップ変速を運転者が未だ認識できない場合には、その手動操作によるアップシフトのレベル切換指令がキャンセルされるため、運転者の意に反した変速レベルの2重のアップ(2段階アップ)が防止される。
【0012】
一方、受付判定値以下になると手動操作によるアップシフトのレベル切換指令が受け入れられるが、この段階では強制的なアップシフトに伴う自動変速機のアップ変速がある程度進行しており、車両の加速度変化や入力回転速度変化、動力源の回転速度変化などからその強制的なアップシフトの実行を運転者が認識できる。このため、運転者は意識的に更なるアップシフトを要求していると見做してそのレベル切換指令を受け入れることにより、運転者の意図通りに変速レベルの2重のアップが速やかに実行される。受付判定値は、このように強制的なアップシフトの実行を運転者が認識できる程度まで入力側回転速度が低下する値で、例えば強制的なアップシフトを行う旨の判定が為された時の入力側回転速度や、自動変速機が実際にアップ変速される際の変速過渡時の入力側回転速度の最大値などを基準として予め実験等により定められる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明が好適に適用される車両用自動変速機の一例を説明する骨子図である。
【図2】図1の車両用自動変速機の複数のギヤ段と、それを成立させるための係合要素との関係を説明する図である。
【図3】図1の車両用自動変速機を有する車両のエンジンから駆動輪までの動力伝達系の概略構成と併せて制御系統の要部を説明するブロック線図である。
【図4】図3の電子制御装置が備えている機能を説明するブロック線図である。
【図5】図1の車両用自動変速機の変速制御に関し、(a) は複数のギヤ段を運転状態に応じて自動的に切り換える変速マップの一例で、(b) はシフトレバーの操作で切り換えられる複数の変速レンジを説明する図である。
【図6】図4の手動変速制限手段の作動を具体的に説明するフローチャートである。
【図7】図4の強制アップシフト手段によって変速レンジがアップシフトされ、それに伴って自動変速機がアップ変速される際のタービン回転速度NTの変化の一例を示すタイムチャートである。
【図8】図4の強制アップシフト手段によって変速レンジがアップシフトされ、それに伴って自動変速機がアップ変速される際のタービン回転速度NTの変速後回転速度が、変速過渡時の車速増加によって上昇した場合を説明するタイムチャートである。
【図9】Sモードが選択された場合に変速レンジを手動操作でアップダウンさせる操作部材の別の例を説明する図である。
【図10】本発明の他の実施例を説明する図で、図6に対応するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、変速比が異なる複数のギヤ段を有する遊星歯車式、平行軸式などの有段変速機にも、変速比を連続的に変化させることができるベルト式等の無段変速機にも適用され得る。
【0015】
手動変速モードで切り換えられる変速レベルは、無段変速機の変速比、有段変速機の複数のギヤ段、或いは変速範囲が異なる複数の変速レンジの何れかであり、変速レベルとしてギヤ段や変速比を切り換えるギヤ段ホールドか、変速レンジを切り換えるレンジホールドかを運転者が任意に選択できるようになっていても良い。変速レンジは、例えば変速比が小さい高速側の変速範囲が異なる複数の変速レンジが設定され、無段変速機において変速比の制御範囲の上限(変速比が小さい高速側)が異なる複数の変速レンジが設定される場合でも、有段変速機において自動的に切り換えられるギヤ段の上限(変速比が小さい高速側ギヤ段)が異なる複数の変速レンジが設定される場合でも良い。無段変速機の変速比を変速レベルとして手動変速モードで切り換える場合、有段変速機と同様に予め段階的に設定された複数の変速比(車速等をパラメータとして複数の入力側最低回転速度を設定しても良い)を運転者のレベル切換指令に従って切り換えるように構成される。
【0016】
上記手動変速モードでは、例えばアップシフトスイッチおよびダウンシフトスイッチによる運転者のレベル切換指令に従って、それ等の変速比やギヤ段、或いは変速レンジを順番に高速側或いは低速側へ切り換えるように構成される。例えばシフトレバー等の単一の変速指示部材がアップシフト位置およびダウンシフト位置へ操作されることによりアップシフト指令やダウンシフト指令が出力されるように構成されるが、アップシフト用およびダウンシフト用の変速指示部材(レバーやパドル、スイッチなど)が別々に設けられても良い。
【0017】
変速レベルとして変速レンジが切り換えられる場合、各変速レンジでは、例えば車速およびアクセル操作量或いはスロットル弁開度等の運転状態をパラメータとして予め定められた変速マップや演算式などの変速規則に従って、変速比或いはギヤ段の変速範囲内で自動的に変速が行われる。したがって、強制的なアップシフトで変速レンジが高速側へアップシフトされることにより、変速比またはギヤ段が変速規則に従って高速側へ切り換えられ、エンジンのオーバーラン等が回避されるが、運転者の手動操作による2重のアップシフトで変速レンジが更に高速側へ変更された場合、必ずしも常に変速比やギヤ段が高速側へ切り換えられる訳ではなく、運転状態によっては変速レンジのみアップして変速比やギヤ段は変化しない場合もある。
【0018】
変速レベルを手動で切り換える手動変速モードの他に、アクセル操作量や車速等の運転状態に応じて全てのギヤ段や変速比範囲で自動的に変速する自動変速モードを備えているのが一般的で、シフトレバーや選択スイッチ等のモード選択部材によって運転者が任意に選択できるように構成される。
【0019】
強制アップシフト手段は、例えばエンジン等の原動機(動力源)のオーバーランを回避するため、その原動機の回転速度或いは自動変速機の入力回転速度等が予め定められた上限値に達した場合に変速レベルを強制的にアップシフトするなど、予め定められた所定のアップシフト条件に従って変速レベルを強制的にアップシフトするように構成される。
【0020】
手動変速制限手段は、車両の加速度変化や入力回転速度変化、動力源の回転速度変化などから上記強制アップシフト手段による強制的なアップシフトの実行を運転者が認識できるようになるまでは、運転者の手動操作によるアップシフトのレベル切換指令をキャンセルし、運転者の意に反した変速レベルの2重のアップを防止する一方、運転者が意識的に変速レベルの2重のアップを欲している場合には速やかに変速レベルが2重にアップされるようにするためのものである。受付判定値は、強制アップシフト手段による強制的なアップシフトの実行を運転者が認識できる程度まで入力側回転速度が変化する値で、例えば強制的なアップシフトを行う旨の判定が為された時の入力側回転速度そのものでも良いが、その判定時入力側回転速度よりも予め定められた所定の変化幅だけ低い回転速度、アップ変速の進行で入力側回転速度が低下し始める最大値から所定の変化幅だけ低下した回転速度、或いはアップ変速の実行で入力側回転速度が変化し始めるイナーシャ相開始時の入力側回転速度よりも所定の変化幅だけ低い回転速度など、適宜定められる。入力側回転速度としては、自動変速機の入力軸などの入力回転速度が望ましいが、その入力回転速度に関連して変化するエンジン等の原動機の回転速度を用いることもできる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、車両用自動変速機(以下、自動変速機という)10の骨子図で、図2は複数のギヤ段を成立させる際の摩擦係合要素すなわち摩擦係合装置の作動状態を説明する作動表である。この自動変速機10は、車両の左右方向(横置き)に搭載するFF車両に好適に用いられるものであって、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース26内において、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置12を主体として構成されている第1変速部14と、ダブルピニオン型の第2遊星歯車装置16およびシングルピニオン型の第3遊星歯車装置18を主体としてラビニヨ型に構成されている第2変速部20とを共通の軸心C上に有し、入力軸22の回転を変速して出力回転部材24から出力する。この入力軸22は入力部材に相当するものであり、本実施例では走行用の動力源であるエンジン30によって回転駆動される流体式伝動装置としてのトルクコンバータ32のタービン軸である。また、出力回転部材24は自動変速機10の出力部材に相当するものであり、図3に示す差動歯車装置40に動力を伝達するためにそのデフドリブンギヤ(大径歯車)42と噛み合う出力歯車すなわちデフドライブギヤとして機能している。エンジン30の出力は、トルクコンバータ32、自動変速機10、差動歯車装置40、および一対の車軸44を経て一対の駆動輪46へ伝達されるようになっている(図3参照)。なお、この自動変速機10やトルクコンバータ32は中心線(軸心)Cに対して略対称的に構成されており、図1の骨子図においてはその中心線Cの下半分が省略されている。
【0022】
トルクコンバータ32は、エンジン30の動力を流体を介することなく入力軸22に直接伝達するロックアップクラッチ34を備えている。このロックアップクラッチ34は、係合側油室36内の油圧と解放側油室38内の油圧との差圧ΔPにより摩擦係合させられる油圧式摩擦クラッチであり、それが完全係合(ロックアップON)させられることにより、エンジン30の動力が入力軸22に直接伝達される。また、所定のスリップ状態で係合するように差圧ΔPすなわちトルク容量がフィードバック制御されることにより、例えば50rpm程度の所定のスリップ量でタービン軸(入力軸22)をエンジン30の出力回転部材(クランク軸)に対して追従回転させる。
【0023】
自動変速機10は、第1変速部14および第2変速部20の各回転要素(サンギヤS1〜S3、キャリアCA1〜CA3、リングギヤR1〜R3)の連結状態に応じて第1速ギヤ段「1st」〜第6速ギヤ段「6th」の6つの前進ギヤ段が成立させられるとともに、後進ギヤ段「R」が成立させられる。図2に示すように、前進ギヤ段では、クラッチC1とブレーキB2との係合により第1速ギヤ段「1st」が、クラッチC1とブレーキB1との係合により第2速ギヤ段「2nd」が、クラッチC1とブレーキB3との係合により第3速ギヤ段「3rd」が、クラッチC1とクラッチC2との係合により第4速ギヤ段「4th」が、クラッチC2とブレーキB3との係合により第5速ギヤ段「5th」が、クラッチC2とブレーキB1との係合により第6速ギヤ段「6th」が、それぞれ成立させられるようになっている。また、ブレーキB2とブレーキB3との係合により後進ギヤ段「R」が成立させられ、クラッチC1、C2、ブレーキB1〜B3のいずれも解放されることによりニュートラル状態となるように構成されている。
【0024】
図2の作動表は、上記各ギヤ段とクラッチC1、C2、ブレーキB1〜B3の作動状態との関係をまとめたものであり、「○」は係合、「◎」はエンジンブレーキ時のみ係合を表している。第1速ギヤ段「1st」を成立させるブレーキB2には並列に一方向クラッチF1が設けられているため、発進時(加速時)にはクラッチC1のみを係合させ、エンジンブレーキを作用させるときにはクラッチC1とブレーキB2とを係合させる。また、各ギヤ段の変速比γ(=入力回転速度NIN/出力回転速度NOUT )は、第1遊星歯車装置12、第2遊星歯車装置16、および第3遊星歯車装置18の各ギヤ比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)ρ1、ρ2、ρ3に応じて適宜定められ、第1速ギヤ段「1st」の変速比γが最も大きく、高速側(第6速ギヤ段「6th」側)程小さくなる。
【0025】
このように本実施例の自動変速機10は、複数の摩擦係合装置すなわちクラッチC1、C2、およびブレーキB1〜B3を選択的に係合させることにより変速比γが異なる複数のギヤ段を成立させるものであり、図2の作動表から明らかなように、クラッチC1、C2、およびブレーキB1〜B3の何れか2つを掴み替える所謂クラッチツウクラッチにより連続するギヤ段の変速を行うことができる。これ等のクラッチC1、C2、およびブレーキB1〜B3(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキBという)は、多板式のクラッチやブレーキなど油圧アクチュエータによって係合制御される油圧式摩擦係合装置であり、油圧制御回路50(図3参照)のリニアソレノイド弁SL1〜SL5の励磁、非励磁や電流制御により、係合、解放状態が切り換えられるとともに係合、解放時の過渡油圧などが制御される。
【0026】
図3は、図1の自動変速機10などを制御するために車両に設けられた制御系統の要部、およびエンジン30から駆動輪46までの動力伝達系の概略構成を説明するブロック線図である。図3において、電子制御装置100は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン30の出力制御や自動変速機10の変速制御、ロックアップクラッチ34のON・OFF制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用やリニアソレノイド弁SL1〜SL5を制御する変速制御用、油圧制御回路50のリニアソレノイド弁SLUおよびソレノイド弁SLを制御するロックアップクラッチ制御用等に分けて構成される。
【0027】
上記電子制御装置100には、アクセル操作量センサ54により検出されたアクセルペダル52の操作量であるアクセル操作量Accを表すアクセル操作量信号、エンジン回転速度センサ56により検出されたエンジン30の回転速度であるエンジン回転速度NEを表す信号、冷却水温センサ58により検出されたエンジン30の冷却水温TW を表す信号、吸入空気量センサ60により検出されたエンジン30の吸入空気量Qを表す信号、吸入空気温度センサ62により検出された吸入空気の温度TA を表す信号、スロットル弁開度センサ64により検出された電子スロットル弁の開度θTHを表すスロットル弁開度信号、車速センサ66により検出された出力回転部材24の回転速度NOUT すなわち車速Vに対応する車速信号、ブレーキスイッチ70により検出された常用ブレーキであるフットブレーキ(ホイールブレーキ)の作動中(踏込操作中)を示すフットブレーキペダル68の操作(オン)BONを表す信号、レバーポジションセンサ74により検出されたシフトレバー72のレバーポジション(操作位置)PSHを表す信号、タービン回転速度センサ76により検出されたタービン回転速度NTを表す信号、AT油温センサ78により検出された油圧制御回路50内の作動油の温度であるAT油温TOIL を表す信号、アップシフトスイッチ80によって検出される変速レンジのアップシフト指令RUPを表す信号、ダウンシフトスイッチ82によって検出される変速レンジのダウンシフト指令RDNを表す信号、などがそれぞれ供給される。上記タービン回転速度NTは入力軸22の回転速度(入力回転速度NIN)で、自動変速機10の入力側回転速度に相当する。
【0028】
また、電子制御装置100からは、電子スロットル弁の開度θTHを操作するスロットルアクチュエータへの駆動信号、エンジン30の点火時期を指令する点火信号、エンジン30の吸気管または筒内に燃料を供給し或いは停止する燃料噴射装置によるエンジン30への燃料供給量を制御する燃料供給量信号、シフトインジケータを作動させるためのレバーポジションPSH表示信号、自動変速機10のギヤ段を切り換えるために油圧制御回路50内のリニアソレノイド弁SL1〜SL5を制御する信号、ロックアップクラッチ34の係合、解放、スリップ量を制御するリニアソレノイド弁SLUを駆動するための指令信号などがそれぞれ出力される。
【0029】
前記シフトレバー72は、例えば運転席の近傍に配設され、図3に示すように5つのレバーポジション「P」、「R」、「N」、「D」、または「S」へ手動操作されるようになっている。「P」ポジションは、自動変速機10内の動力伝達が遮断されるニュートラル状態(中立状態)とし、且つメカニカルパーキング機構によって機械的に出力回転部材24の回転を阻止(ロック)するための駐車ポジション(位置)であり、「R」ポジションは自動変速機10を前記後進ギヤ段「R」として後進走行するための後進走行ポジション(位置)であり、「N」ポジションは自動変速機10内の動力伝達が遮断されるニュートラル状態とするための中立ポジション(位置)であり、「D」ポジションは自動変速機10の全変速範囲である第1速ギヤ段「1st」〜第6速ギヤ段「6th」の総ての前進ギヤ段を用いて変速制御を行う自動変速モード(Dレンジ)を成立させる前進走行ポジション(位置)であり、「S」ポジションは前進ギヤ段の変速範囲を制限した複数種類の変速レンジを切り換えることにより手動変速が可能なシーケンシャルモード(以下、Sモードという)を成立させる前進走行ポジション(位置)である。この「S」ポジションには、シフトレバー72の操作毎に変速レンジをアップ側にシフトさせるためのアップシフト位置「+」、シフトレバー72の操作毎に変速レンジをダウン側にシフトさせるためのダウンシフト位置「−」が備えられており、それ等の操作が前記アップシフトスイッチ80、ダウンシフトスイッチ82によって検出される。アップシフト位置「+」およびダウンシフト位置「−」は何れも不安定で、シフトレバー72はスプリング等の付勢手段により自動的に「S」ポジションへ戻されるようになっており、アップシフト位置「+」またはダウンシフト位置「−」への操作回数或いは保持時間などに応じて変速レンジが変更される。シフトレバー72はモード選択部材で且つ変速指示部材として機能する。
【0030】
図4は、上記電子制御装置100による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図4において、エンジン出力制御手段102は、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータにより電子スロットル弁を開閉制御する他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置による燃料噴射を制御し、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置による点火時期を制御するなどしてエンジン30の出力制御を実行する。スロットル制御は、予め記憶された関係からアクセル操作量Accに基づいてスロットルアクチュエータを駆動し、アクセル操作量Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させるように行われる。
【0031】
変速制御手段104は、自動変速機10の変速制御を行うもので、シフトレバー72が「D」ポジションへ操作されることにより前記自動変速モード(Dレンジ)を成立させ、自動変速制御手段112により例えば図5の(a) に示すように車速Vおよびアクセル操作量Accをパラメータとして予め設定された変速マップに従って、総ての前進ギヤ段「1st」〜「6th」を用いて自動変速を行う。図5(a) の変速マップは変速規則に相当するもので、実線はアップ変速を判断するためのアップ変速線であり、破線はダウン変速を判断するためのダウン変速線である。
【0032】
また、シフトレバー72が「S」ポジションへ操作されることにより前記Sモードを成立させ、手動変速制御手段114によりアップシフト指令RUPやダウンシフト指令RDNに従って図5(b) に示すように最高速ギヤ段すなわち変速比γが小さい高速側の変速範囲が異なる6つの変速レンジD、5、4、3、2、Lを順次高速側(アップ側)または低速側(ダウン側)へ切り換えるとともに、各変速レンジの変速範囲内において前記図5(a) の変速マップに従って自動変速を行う。したがって、例えば下り坂などでシフトレバー72をダウンシフト位置「−」へ繰り返し操作すると、変速レンジが例えばDレンジから、5レンジ、4レンジ、3レンジへ切り換えられ、第6速ギヤ段「6th」から第5速ギヤ段「5th」、第4速ギヤ段「4th」、第3速ギヤ段「3rd」へ順次ダウンシフトされて、エンジンンブレーキ力が増大させられる。このSモードで成立させられる第1速ギヤ段「1st」は、エンジンブレーキ作用が得られるように前記ブレーキB2が係合させられる。
【0033】
上記Sモードは手動変速モードに相当し、そのSモードで運転者のシフトレバー操作に従って切り換えられる複数の変速レンジD〜Lは変速レベルであり、アップシフト指令RUPおよびダウンシフト指令RDNはレベル切換指令に相当する。また、「S」ポジションは手動変速モード選択位置で、本実施例では自動変速モード選択位置である「D」ポジションを経由しないと「S」ポジションまでシフトレバー72を移動操作できないようになっており、自動変速モードであることを前提としてSモードへ切換操作できる。
【0034】
変速制御手段104はまた、上記手動変速制御手段114によるSモードの実行時に予め定められたアップシフト条件に従って変速レンジを強制的にアップシフトする強制アップシフト手段118、およびその強制アップシフト手段118による強制アップシフトの実行時に手動操作によるアップシフトを制限する手動変速制限手段120を機能的に備えている。強制アップシフト手段118は、例えばエンジン30のオーバーランを回避するため、タービン回転速度NTが予め定められた上限値NTupに達した場合に変速レンジを強制的に1レンジだけアップシフトするもので、そのアップシフトに伴って自動変速機10のギヤ段がアップ変速される。例えば変速レンジが2レンジで、第2速ギヤ段「2nd」での走行中に、車速Vの増加に伴って図5(a) のA点またはB点に達した時にタービン回転速度NTが上限値NTupに到達し、3レンジへアップシフトされると、A点は第4速ギヤ段「4th」の領域で、B点は第3速ギヤ段「3rd」の領域であるため、何れの場合も第3速ギヤ段「3rd」へアップ変速される。この場合は、NT≧NTupになることが予め定められたアップシフト条件である。上限値NTupは一定値であっても良いが、ギヤ段の種類すなわちアップ変速に伴ってタービン回転速度NTが低下するまでの応答性の相違などを考慮して、ギヤ段毎に異なる値が設定されても良いし、変速応答性に影響するアクセル操作量Acc等の駆動力要求量、或いはその他の運転状態をパラメータとして定められても良い。
【0035】
図7は、上記のように変速レンジが2レンジで、第2速ギヤ段「2nd」での走行中に、車速Vの増加に伴ってタービン回転速度NTが上限値NTup以上となり、強制アップシフト手段118により3レンジへ強制的にアップシフトされることにより、自動変速機10が第2速ギヤ段「2nd」から第3速ギヤ段「3rd」へアップ変速された場合の、タービン回転速度NTの変化を示すタイムチャートである。この図7の時間t1は、NT≧NTupになって強制アップシフト判断が為され、変速レンジが3レンジへ切り換えられた時間である。また、図7の時間t3は、変速レンジのアップシフトに伴って2→3アップ変速が実行され、その2→3アップ変速が終了して第3速ギヤ段「3rd」が成立した時間であり、変速比γの減少に応じてタービン回転速度NTが低下させられる。
【0036】
手動変速制限手段120は、上記強制アップシフト手段118による強制アップシフトに伴ってアップ変速が行われる際に、運転者のシフトレバー操作でアップシフト指令RUPが入力された場合に、一定の条件下でそのアップシフト指令RUPをキャンセルし、運転者の意に反して変速レンジが2重にアップレンジされることを防止するためのもので、図6のフローチャートに従って信号処理が行われる。この図6のフローチャートはSモードが選択されている場合に実行され、ステップS1では、前記強制アップシフト手段118により変速レンジが強制的にアップシフトされたか否かを判断する。そして、変速レンジが強制的にアップシフトされた場合にはステップS2以下を実行する。ステップS2では、その強制アップシフトに伴って実行される自動変速機10のアップ変速が終了したか否かを判断し、変速終了まではステップS3以下を実行するが、変速が終了したら一連の信号処理を終了する。図7の時間t1は、強制アップシフトが実行されてステップS1の判断がYES(肯定)になった時間で、時間t3は、アップ変速が終了してステップS2の判断がYESになった時間であり、この時間t1〜t3の間だけステップS3以下が繰り返し実行される。
【0037】
ステップS3では、運転者によりシフトレバー72がアップシフト位置「+」へ操作され、アップシフトスイッチ80からアップシフト指令RUPが入力されたか否かを判断する。アップシフト指令RUPが入力された場合はステップS4を実行し、ステップS1で強制アップシフトの実行判断が為された後の1回目のアップシフト指令RUPか否かを判断する。そして、2回目以上の場合はステップS6を実行し、そのアップシフト指令RUPを受け入れることにより、そのアップシフト指令RUPに従って前記手動変速制御手段114が変速レンジをアップシフトすることを許可する。これにより、例えば前記図5(a) のA点、B点に示す運転状態で2レンジでの走行中に、強制アップシフト手段118によるアップシフトに続いて運転者のアップシフト操作によるアップシフトが連続して実行された場合、何れも4レンジまでアップシフトされる。その場合に、A点は3→4アップ変速線を超えているため、4レンジへのアップシフトに伴って自動変速機10が第4速ギヤ段「4th」までアップ変速されるが、B点は3→4アップ変速線の手前であるため、第4速ギヤ段「4th」へアップ変速されることはなく、4レンジへのアップシフトに拘らず第3速ギヤ段「3rd」に保持される。
【0038】
一方、ステップS1で強制アップシフトの実行判断が為された後のアップシフト指令RUPの入力回数が1回目の場合は、ステップS4に続いてステップS5を実行する。ステップS5では、タービン回転速度NTが予め定められた受付判定値NTs以下か否かを判断し、NT≦NTsであれば前記ステップS6を実行するが、NT>NTsの場合にはステップS7でアップシフト指令RUPの受付を拒否(キャンセル)し、ステップS2以下を繰り返す。すなわち、運転者によるアップシフト操作が2回以上繰り返された場合は、強制アップシフトに伴うアップ変速の進行度合に拘らず無条件でアップシフト指令RUPを受け入れるが、1回目のアップシフト指令RUPの入力時にタービン回転速度NTが受付判定値NTsよりも高い場合は、そのアップシフト指令RUPをキャンセルするのである。
【0039】
上記受付判定値NTsは、強制アップシフト手段118による強制アップシフトに伴うアップ変速の実行を運転者が認識できる程度までタービン回転速度NTが低下する値で、本実施例では図7に示すように強制アップシフトが実行された時のタービン回転速度NTすなわち上限値NTupよりも、予め定められた所定の変化幅ΔNT1だけ低い回転速度が設定される。変化幅ΔNT1は、実験等により予め一定値が定められても良いが、変速の種類やアクセル操作量Acc等の運転状態をパラメータとして異なる値が設定されるようにしても良い。図7の時間t2は、上限値NTupを基準にしてそれよりも所定の変化幅ΔNT1だけ低い回転速度が受付判定値NTsとして設定された場合に、タービン回転速度NTがその受付判定値NTs以下になった時間であり、その時間t2よりも前に1回目のアップシフト指令RUPが入力された場合は、運転者の意に反して2重のアップシフトすなわち変速レンジが2段階アップすることを防止するために、ステップS7でそのアップシフト指令RUPがキャンセルされる。また、時間t2以後に1回目のアップシフト指令RUPが入力された場合は、強制アップシフトに伴うアップ変速を運転者が認識した上でアップシフト操作が為されたものと見做して、ステップS6でそのアップシフト指令RUPを受け入れる。
【0040】
ここで、本実施例では上限値NTupよりも所定の変化幅ΔNT1だけ低い回転速度が受付判定値NTsとして設定されるが、上限値NTupをそのまま受付判定値NTsとしても良いし、強制アップシフトに伴って実行されるアップ変速の進行でタービン回転速度NTが低下し始める最大値NTmax を基準にしてそれよりも所定の変化幅ΔNT2だけ低い回転速度を受付判定値NTsとしても良い。また、アップ変速によりタービン回転速度NTが変化し始めるイナーシャ相開始時のタービン回転速度NTを基準にして受付判定値NTsを設定することもできるなど、自動変速機10の変速特性等を考慮して適宜定められる。また、車両加速度が大きくなると、図8に一点鎖線で示すようにアップ変速後(第3速ギヤ段「3rd」の成立時)のタービン回転速度NTが高くなり、上限値NTupよりも所定の変化幅ΔNT1だけ低い回転速度が受付判定値NTsとして設定されると、タービン回転速度NTがその受付判定値NTsを下回ることなくアップ変速が行われる可能性がある。このため、その場合でもタービン回転速度NTが受付判定値NTsを下回るように、すなわち車両加速度が大きい程受付判定値NTsが高くなるように、車両加速度をパラメータとして受付判定値NTsを設定することもできる。
【0041】
このように本実施例の変速制御装置においては、強制アップシフト手段118によって変速レンジが強制的にアップシフトされ、それに伴って自動変速機10がアップ変速される際に、運転者の手動操作によってその変速レンジをアップシフトするアップシフト指令RUPが入力された場合、自動変速機10の入力回転速度であるタービン回転速度NTが予め定められた受付判定値NTsよりも高い時には、すなわち変速レンジの強制アップシフトに伴って実行される自動変速機10のアップ変速を運転者が未だ認識できない場合には、ステップS7でその手動操作によるアップシフト指令RUPがキャンセルされるため、運転者の意に反した2重のアップレンジが防止される。
【0042】
例えば図5(a) の変速マップのA点に示す運転状態で2レンジでの走行中に、強制アップシフト手段118によるアップシフトに続いて運転者のアップシフト操作が行われると、従来は運転者の意に反して変速レンジが2レンジアップして4レンジとなり、自動変速機10が第4速ギヤ段「4th」までアップ変速されて運転者に違和感を生じさせるが、本実施例ではそのような意に反した第4速ギヤ段「4th」までのアップ変速が防止されるのである。これは、変速レンジではなく変速レベルとしてギヤ段(或いは変速比)を直接切り換えるギヤ段ホールドの場合も同じである。図5(a) の変速マップのB点に示す運転状態で2レンジでの走行中に、強制アップシフト手段118によるアップシフトに続いて運転者のアップシフト操作が行われると、従来は運転者の意に反して変速レンジが2レンジアップして4レンジとなることは上記A点の場合と同じであるが、B点は3→4アップ変速線の手前であるため、第4速ギヤ段「4th」へアップ変速されることはなく、4レンジへのアップレンジに1らず第3速ギヤ段「3rd」に保持される。この場合、ギヤ段としては運転者の意図した通りの第3速ギヤ段「3rd」であるが、変速レンジは4レンジであるため、その後の車速変化等により運転者の意に反して第4速ギヤ段「4th」へ自動的にアップ変速が行われるなど、その後の手動変速操作に影響して運転者に違和感を生じさせる恐れがある。本実施例では2レンジアップが防止されて3レンジで止まるため、そのような運転者の意に反した第4速ギヤ段「4th」への自動アップ変速が防止され、運転者に違和感を生じさせる恐れがない。
【0043】
一方、受付判定値NTs以下の時には、ステップS6で手動操作によるアップシフト指令RUPが受け入れられ、変速レンジが1レンジだけアップシフトされるが、この段階では強制的なアップシフトに伴う自動変速機10のアップ変速がある程度進行しており、車両の加速度変化やエンジン回転速度NEの変化などからその強制的なアップシフトの実行を運転者が認識できる。このため、運転者は意識的に更なるアップシフトを要求していると見做してそのアップシフト指令RUPを受け入れることにより、運転者の意図通りの2重のアップレンジが速やかに実行される。
【0044】
また、本実施例では、手動操作によるアップシフト指令RUPが初回のみキャンセルされ、2回目以後は、タービン回転速度NTが受付判定値NTsよりも高い場合でも手動操作によるアップシフト指令RUPがそのまま受け入れられてアップシフトが実行される。すなわち、運転者が2回連続してアップシフト操作した場合は、運転者が2重のアップレンジを要求しているため、強制的なアップシフトによるアップレンジと合わせて2重のアップレンジを速やかに行うことが運転者の意図に合致しているのである。また、降坂路等で車速Vが大きく増加する場合、強制的なアップシフトに伴うアップ変速中も車速Vが増加し、それに伴ってアップ変速後のタービン回転速度NTが上昇するため、例えば図8に一点鎖線で示すようにタービン回転速度NTが受付判定値NTsまで低下することなくアップ変速が行われる可能性があるが、その場合でも2回以上のアップシフト操作でアップシフトを実行することができる。本実施例の自動変速機10は6段変速でギヤ段の数が比較的多いため、強制的なアップシフトに伴うアップ変速時のタービン回転速度NTの変化幅が小さくなり、運転者がアップ変速を認識できるように受付判定値NTsをできるだけ低回転に設定すると、上記のように車速Vの増加に伴ってタービン回転速度NTが受付判定値NTsまで低下することなくアップ変速が行われる可能性が高くなる。
【0045】
なお、上記実施例ではシフトレバー72がアップシフト位置「+」またはダウンシフト位置「−」へ操作されることにより、アップシフトスイッチ80またはダウンシフトスイッチ82からレベル切換信号としてアップシフト指令RUPまたはダウンシフト指令RDNが出力されるが、図9に示すようにステアリングホイール130にアップシフト用パドル132およびダウンシフト用パドル134を配設し、前記シフトレバー72或いは図示しないSモードスイッチによりSモードが選択された状態で、それ等のパドル132、134がそれぞれ手前側(運転者側)に引張り操作されることにより、アップシフトスイッチ136、ダウンシフトスイッチ138からそれぞれアップシフト指令RUP、ダウンシフト指令RDNが出力されるようにしても良い。パドル132、134の代わりに、アップシフト用およびダウンシフト用の押釦スイッチをステアリングホイール130に設けたり、アップシフト用およびダウンシフト用のレバーをステアリングコラムに設けたりするなど、種々の態様が可能である。
【0046】
また、前記実施例ではアップシフト指令RUPが入力されてステップS3の判断がYESになった場合に先ずステップS4を実行し、アップシフト指令RUPが2回以上入力された場合はそのままステップS6を実行してそのアップシフト指令RUPを受け付けるが、図10のフローチャートに示すようにステップS4を省略し、アップシフト指令RUPが入力されてステップS3の判断がYESになった場合には常にステップS5を実行し、タービン回転速度NTが受付判定値NTs以下の場合だけステップS6を実行してアップシフト指令RUPを受け付けるようにしても良い。この場合でも、運転者の意に反した2重のアップレンジが防止されるとともに、NT≦NTsの場合にはアップシフト指令RUPが受け付けられて運転者の意図通りの2重のアップレンジが速やかに実行される。但し、車両加速度が大きい場合に、前記図8に一点鎖線で示すようにタービン回転速度NTが受付判定値NTs以下にならずにアップ変速が終了する可能性があるため、例えば車両加速度が大きい程受付判定値NTsが高くなるように、車両加速度をパラメータとして受付判定値NTsを設定することが望ましい。
【0047】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0048】
10:自動変速機 72:シフトレバー 100:電子制御装置 114:手動変速制御手段 118:強制アップシフト手段 120:手動変速制限手段 NT:タービン回転速度(入力側回転速度) NTs:受付判定値 RUP:アップシフト指令(レベル切換指令) RDN:ダウンシフト指令(レベル切換指令)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動変速機の変速比に関する複数の変速レベルを運転者の手動操作によるレベル切換指令に従って順次高速側或いは低速側へ電気的に切り換える手動変速モードを実行する手動変速制御手段と、
前記手動変速モードでの走行中に予め定められたアップシフト条件に従って前記変速レベルを強制的にアップシフトする強制アップシフト手段と、
を有する車両用自動変速機の変速制御装置において、
前記強制アップシフト手段によって前記変速レベルが強制的にアップシフトされる際に、前記運転者の手動操作によって該変速レベルをアップシフトするレベル切換指令が入力された場合、前記強制的なアップシフトに伴ってアップ変速される前記自動変速機の入力側回転速度が予め定められた受付判定値よりも高い時には、前記手動操作によるアップシフトのレベル切換指令をキャンセルする手動変速制限手段を設けた
ことを特徴とする車両用自動変速機の変速制御装置。
【請求項2】
前記受付判定値は、前記強制アップシフト手段によって前記変速レベルを強制的にアップシフトする旨の判定が為された時の前記自動変速機の入力側回転速度である
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用自動変速機の変速制御装置。
【請求項3】
前記受付判定値は、前記強制アップシフト手段によって前記変速レベルを強制的にアップシフトする旨の判定が為された時の前記自動変速機の入力側回転速度を基準として定められる
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用自動変速機の変速制御装置。
【請求項4】
前記受付判定値は、前記強制アップシフト手段によって前記変速レベルを強制的にアップシフトする旨の判定が為されて前記自動変速機がアップ変速される際の変速過渡時の入力側回転速度の最大値を基準として定められる
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用自動変速機の変速制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−62964(P2012−62964A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207609(P2010−207609)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】