説明

車両用自動変速機

【課題】 駆動源の回転数や車速が変化しても噛合い係合手段が不適切なタイミングで作動するのを防止する。
【解決手段】 エンジンの駆動力が油圧クラッチC4の引きずりトルクを介して伝達されるリバースドリブンギヤ33と、駆動輪に接続されて出力軸15と共に回転するセレクタSとを結合して後進変速段を確立するとき、入力軸13の回転数から算出したリバースドリブンギヤ33の回転数と、出力軸15の回転数から算出したセレクタSの回転数とに基づいてリバースドリブンギヤ33およびセレクタSの差回転を求め、差回転が所定値以上のときにセレクタSの作動を禁止することで、セレクタSおよびリバースドリブンギヤ33の係合スムーズに行われずに騒音や振動が発生したり、セレクタSの耐久性に悪影響が及んだりするのを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧クラッチの引きずりトルクにより回転するリバースドリブンギヤを、噛合い係合手段で出力軸に結合して後進変速段を確立する車両用自動変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの変速機との間に配置されたクラッチを係合解除し、時間の経過により変速機の各ギヤの回転数が低下した状態で後進変速段を確立することで、ギヤ鳴りの発生を防止する自動変速機が、下記特許文献1により公知である。
【0003】
また上記自動変速機は、前進車速が所定値以上になって各ギヤの回転数が増加した状態では後進変速段への変速を禁止するようになっており、またスロットル開度が大きく、かつシフトポジションがニュートラルポジションのときには、クラッチを係合解除して各ギヤの回転数を低下させるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭54−79352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、出力軸に相対回転自在に支持したリバースドリブンギヤを、ドグクラッチ等の噛合い係合手段で出力軸に結合して後進変速段を確立する自動変速機では、エンジンとリバースドリブンギヤとの間に油圧クラッチが配置されていると、その油圧クラッチが係合解除していても、引きずりトルクでリバースドリブンギヤ回転してしまい、回転停止した噛合い係合手段との間に差回転が発生することで噛合い係合手段のスムーズな作動が阻害される虞がある。
【0006】
これを防止するには、エンジン回転数が所定値以下のとき、つまりリバースドリブンギヤの回転数が所定値以下のときに噛合い係合手段の作動を許可すれば、回転停止した噛合い係合手段およびリバースドリブンギヤの差回転を低く抑えて噛合い係合手段のスムーズな作動を可能にすることができる。
【0007】
しかしながら、運転者は車両が完全に停止した状態で後進変速段にシフトチェンジするとは限らず、車両が微速で前進走行している間に後進変速段にシフトチェンジする場合がある。この場合、駆動輪の回転が出力軸に設けた噛合い係合手段に逆伝達され、油圧クラッチの引きずりトルクで回転するリバースドリブンギヤとの差回転が増加するため、エンジン回転数が所定値以下であっても噛合い係合手段がスムーズに作動できなくなる可能性がある。
【0008】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、駆動源の回転数や車速が変化しても噛合い係合手段が不適切なタイミングで作動するのを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、駆動源からの駆動力が入力される入力軸と、駆動力を駆動輪に出力する出力軸と、前記入力軸および前記出力軸に設けられて相互に噛合する複数のギヤと、前記複数のギヤの何れかを前記入力軸に結合して所定の前進変速段を確立する油圧クラッチと、前記入力軸に設けられて前記油圧クラッチにより該入力軸に結合可能なリバースドライブギヤと、前記出力軸に設けられて噛合い係合手段掛により該出力軸に結合されるリバースドリブンギヤと、前記リバースドライブギヤおよび前記リバースドリブンギヤを接続するリバースアイドルギヤと、車両の走行状態に応じて前記油圧クラッチおよび前記噛合い係合手段の作動を制御して変速を行う変速制御手段とを備え、前記変速制御手段は、前記噛合い係合手段で前記リバースドリブンギヤを前記出力軸に結合した状態で前記油圧クラッチを係合して後進変速段を確立する車両用自動変速機において、前記変速制御手段は、前記リバースドリブンギヤおよび前記噛合い係合手段の差回転を算出し、前記差回転が所定値以上のときに前記噛合い係合手段の作動を禁止することを特徴とする車両用自動変速機が提案される。
【0010】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、入力軸回転数を検出する入力軸回転数検出手段と、出力軸回転数を検出する出力軸回転数検出手段とを備え、前記変速制御手段は、入力軸回転数および出力軸回転数から前記差回転を算出することを特徴とする車両用自動変速機が提案される。
【0011】
尚、実施の形態の第1入力軸13は本発明の入力軸に対応し、実施の形態の4速−リバースクラッチC4は本発明の油圧クラッチに対応し、実施の形態のエンジンEは本発明の駆動源に対応し、実施の形態の電子制御ユニットUは本発明の変速制御手段に対応する。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の構成によれば、セレクタがリバースドリブンギヤを出力軸から切り離した状態では、駆動源に接続された入力軸の回転は係合解除した油圧クラッチの引きずりトルクによりリバースドライブギヤに伝達され、リバースドライブギヤの回転はリバースアイドルギヤを介してリバースドリブンギヤに伝達される。一方、駆動輪の回転は出力軸に伝達されて噛合い係合手段を回転させるので、リバースドリブンギヤおよび噛合い係合手段に差回転が発生し、この差回転は駆動源の回転数が大きいほど、また車速が大きいほど大きくなる。
【0013】
リバースドリブンギヤおよび噛合い係合手段の差回転が大きい状態で、後進変速段を確立すべく噛合い係合手段をリバースドリブンギヤに係合しようとすると、差回転によって係合がスムーズに行われずに騒音や振動が発生したり、噛合い係合手段の耐久性に悪影響が及んだりするが、差回転が所定値以上のときに噛合い係合手段の作動を禁止することで上記問題を解決することができる。
【0014】
また請求項2の構成によれば、入力軸回転数はリバースドリブンギヤの回転数と一定の関係があり、出力軸回転数は噛合い係合手段の回転数と一定の関係があるため、入力軸回転数および出力軸回転数リバースドリブンギヤおよび噛合い係合手段の差回転を算出することができる。しかも既存の入力軸回転数検出手段および出力軸回転数検出手段を利用できるので、リバースドリブンギヤの回転数および噛合い係合手段の回転数を検出する特別の回転数検出手段を設ける必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】平行軸式の自動変速機のスケルトン図。
【図2】図1の2部拡大図。
【図3】自動変速機の制御系のブロック図。
【図4】入力軸回転数および出力軸回転数から差回転を算出する手法の説明図。
【図5】セレクタの作動を禁止する車速、差回転およびエンジン回転数の条件を示すグラフ。
【図6】作用を説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図1〜図6に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0017】
図1には、前進5段、後進1段の平行軸式の自動変速機Tが示される。(A)には自動変速機Tの全体が示され、(B)には(A)の後方に隠れる一部だけが示される。
【0018】
エンジンEのクランクシャフト11にトルクコンバータ12を介して第1入力軸13が同軸に接続されており、この第1入力軸13に対して第2入力軸14、出力軸15、アイドル軸16およびリバースアイドル軸17が平行に配置される。第1入力軸13に固設したドライブギヤ18がアイドル軸16に固設した第1アイドルギヤ19に噛合し、アイドル軸16に固設した第2アイドルギヤ20が第2入力軸14に固設したドリブンギヤ21に噛合する。これにより、第1入力軸13および第2入力軸14は常時接続され、所定のレシオで同方向に回転する。
【0019】
第2入力軸14には1速ドライブギヤ22、2速ドライブギヤ23および3速ドライブギヤ24が相対回転自在に支持されており、1速ドライブギヤ22は1速クラッチC1を介して第2入力軸14に結合可能であり、2速ドライブギヤ23は2速クラッチC2を介して第2入力軸14に結合可能であり、3速ドライブギヤ24は3速クラッチC3を介して第2入力軸14に結合可能である。第1入力軸13には4速ドライブギヤ25、5速ドライブギヤ26およびリバースドライブギヤ27が相対回転自在に支持されており、4速ドライブギヤ25は4速−リバースクラッチC4を介して第1入力軸13に結合可能であり、5速ドライブギヤ26は5速クラッチC5を介して第1入力軸13に結合可能であり、4速ドライブギヤ25と一体に連結されたリバースドライブギヤ27は4速−リバースクラッチC4を介して第1入力軸13に結合可能である。
【0020】
出力軸15には1速ドリブンギヤ28、2速ドリブンギヤ29、3速ドリブンギヤ30および5速ドリブンギヤ32が固設されるとともに、4速ドリブンギヤ31およびリバースドリブンギヤ33が相対回転自在に支持される。1速ドリブンギヤ28、2速ドリブンギヤ29、3速ドリブンギヤ30、4速ドリブンギヤ31および5速ドリブンギヤ32は、それぞれ1速ドライブギヤ22、2速ドライブギヤ23、3速ドライブギヤ24、4速ドライブギヤ25および5速ドライブギヤ26に噛合し、リバースドリブンギヤ33はリバースアイドル軸17に相対回転自在に支持したリバースアイドルギヤ34を介してリバースドライブギヤ27に接続される。そして4速ドリブンギヤ31およびリバースドリブンギヤ33は、ドグクラッチよりなるセレクタSを介して出力軸15に選択的に結合可能である。
【0021】
出力軸15に固設したファイナルドライブギヤ35がディファレンシャルギヤDのケースに固設したファイナルドリブンギヤ36に噛合し、ディファレンシャルギヤDから左右に延びるドライブシャフト37,37が左右の駆動輪W,Wに接続される。
【0022】
図3に示すように、自動変速機Tの変速を制御する電子制御ユニットUには、第1入力軸の回転数を検出する入力軸回転数検出手段Saと、出力軸の回転数を検出する出力軸回転数検出手段Sbと、シフトレバーにより指示されたシフトポジションを検出するシフトポジション検出手段Scと、例えばファイナルドリブンギヤ36の回転数から車速を検出する車速検出手段Sdと、エンジン回転数を検出するエンジン回転数検出手段Seと、アクセル開度を検出するアクセル開度検出手段Sfとが接続される。
【0023】
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用を説明する。
【0024】
電子制御ユニットUは、シフトポジション検出手段Scで検出したシフトポジションと、車速検出手段Sdで検出した車速と、アクセル開度検出手段Sfで検出したアクセル開度とに基づいて、1速クラッチC1、2速クラッチC2、3速クラッチC3、4速−リバースクラッチC4、5速クラッチC5およびセレクタSの作動を制御して自動変速機Tに所定の変速段を確立する。
【0025】
即ち、シフトレバーによって「D」ポジションが選択されているとき、1速クラッチC1が係合すると、エンジンEの駆動力が第1入力軸13→ドライブギヤ18→第1アイドルギヤ19→アイドル軸16→第2アイドルギヤ20→ドリブンギヤ21→第2入力軸14→1速クラッチC1→1速ドライブギヤ22→1速ドリブンギヤ28→出力軸15→ファイナルドライブギヤ35→ファイナルドリブンギヤ36→ディファレンシャルギヤD→ドライブシャフト37,37の経路で左右の駆動輪W,Wに伝達され、1速変速段が確立する。
【0026】
2速クラッチC2が係合すると、エンジンEの駆動力が第1入力軸13→ドライブギヤ18→第1アイドルギヤ19→アイドル軸16→第2アイドルギヤ20→ドリブンギヤ21→第2入力軸14→2速クラッチC2→2速ドライブギヤ23→2速ドリブンギヤ29→出力軸15→ファイナルドライブギヤ35→ファイナルドリブンギヤ36→ディファレンシャルギヤD→ドライブシャフト37,37の経路で左右の駆動輪W,Wに伝達され、2速変速段が確立する。
【0027】
3速クラッチC3が係合すると、エンジンEの駆動力が第1入力軸13→ドライブギヤ18→第1アイドルギヤ19→アイドル軸16→第2アイドルギヤ20→ドリブンギヤ21→第2入力軸14→3速クラッチC3→3速ドライブギヤ24→3速ドリブンギヤ30→出力軸15→ファイナルドライブギヤ35→ファイナルドリブンギヤ36→ディファレンシャルギヤD→ドライブシャフト37,37の経路で左右の駆動輪W,Wに伝達され、3速変速段が確立する。
【0028】
ドグクラッチよりなるセレクタSが右動して4速ドリブンギヤ31を出力軸15に結合した状態で4速−リバースクラッチC4が係合すると、エンジンEの駆動力が第1入力軸13→4速−リバースクラッチC4→4速ドライブギヤ25→4速ドリブンギヤ31→セレクタS→出力軸15→ファイナルドライブギヤ35→ファイナルドリブンギヤ36→ディファレンシャルギヤD→ドライブシャフト37,37の経路で左右の駆動輪W,Wに伝達され、4速変速段が確立する。
【0029】
5速クラッチC5が係合すると、エンジンEの駆動力が第1入力軸13→5速クラッチC5→5速ドライブギヤ26→5速ドリブンギヤ32→出力軸15→ファイナルドライブギヤ35→ファイナルドリブンギヤ36→ディファレンシャルギヤD→ドライブシャフト37,37の経路で左右の駆動輪W,Wに伝達され、5速変速段が確立する。
【0030】
シフトレバーで「R」ポジションを選択すると、先ずセレクタSを左動してリバースドリブンギヤ33を出力軸15に結合した後に4速−リバースクラッチC4が係合する。これにより、エンジンEの駆動力が第1入力軸13→4速−リバースクラッチC4→リバースドライブギヤ27→リバースアイドルギヤ34→リバースドリブンギヤ33→セレクタS→出力軸15→ファイナルドライブギヤ35→ファイナルドリブンギヤ36→ディファレンシャルギヤD→ドライブシャフト37,37の経路で左右の駆動輪W,Wに逆回転となって伝達され、後進変速段が確立する。
【0031】
ところで、後進変速段を確立すべくセレクタSを左動してリバースドリブンギヤ33を出力軸15に結合するとき、出力軸15に相対回転自在に支持されたリバースドリブンギヤ33と、出力軸15に固設されたセレクタSとの差回転によってセレクタSのドグ歯とリバースドリブンギヤ33のドグ歯とのスムーズな係合が妨げられ、騒音や振動が発生したりセレクタSの耐久性に悪影響を及ぼしたりする可能性がある。
【0032】
リバースドリブンギヤ33とセレクタSとの間に差回転が生じる理由は以下の通りである。車両が停止状態にあるとき、出力軸15およびセレクタSはファイナルドライブギヤ35、ファイナルドリブンギヤ36、ディファレンシャルギヤDおよびドライブシャフト37,37を介して左右の駆動輪W,Wに接続されて回転を停止した状態にある。一方、4速−リバースクラッチC4が係合解除した状態にあっても、その引きずりトルクによってエンジンEのクランクシャフト11の回転が第1入力軸13から4速−リバースクラッチC4を介してリバースドライブギヤ27に伝達され、リバースドライブギヤ27からリバースアイドルギヤ34およびリバースドリブンギヤ33に伝達されるため、停止したセレクタSと、図2の矢印A方向に回転するリバースドリブンギヤ33との間に差回転が生じることになる。
【0033】
後進変速段を確立するとき車両は停止状態にあるのが原則であるが、運転者が前進変速段から後進変速段にシフトチェンジするとき、車両が完全に停止せずに微速で前進している場合がある。このように車両が微速で前進している場合、駆動輪W,Wの回転がドライブシャフト37,37、ディファレンシャルギヤD、ファイナルドリブンギヤ36およびファイナルドライブギヤ35を介して出力軸15に逆伝達され、出力軸15およびセレクタSをリバースドリブンギヤ33の回転方向である矢印A方向と逆方向の矢印B方向に回転させる。このように、車両の前進走行時にはセレクタSとリバースドリブンギヤ33との間の差回転が車両の停止時に比べて大きくなり、セレクタSのドグ歯のスムーズな係合が一層困難になる問題がある。
【0034】
そこで、本実施の形態では、リバースドリブンギヤ33およびセレクタSの差回転が所定値(例えば、1000rpm)以上のときにセレクタSの左動を禁止し、セレクタSのドグ歯とリバースドリブンギヤ33のドグ歯とがスムーズに噛み合わずに騒音や振動が発生したり、セレクタSの耐久性が低下するのを防止している。
【0035】
図4に示すように、リバースドリブンギヤ33およびセレクタSの差回転は、自動変速機に既存の入力軸回転数検出手段Saで検出した入力軸回転数(第1入力軸13の回転数)と、出力軸回転数検出手段Sbで検出した出力軸回転数(出力軸15の回転数)とに基づいて算出される。即ち、リバースドライブギヤ27、リバースアイドルギヤ34およびリバースドリブンギヤ33のフリクションは4速−リバースクラッチC4の引きずりトルクに比べて小さいため、第1入力軸13からリバースドリブンギヤ33までの伝達経路にスリップは殆ど発生せず、よって入力軸回転数を第1入力軸13からリバースドリブンギヤ33までのレシオ、つまりリバースドライブギヤ27、リバースアイドルギヤ34およびリバースドリブンギヤ33のレシオで除算することでリバースドリブンギヤ33の回転数を算出することができる。
【0036】
また出力軸回転数検出手段Sbは検出可能な最小回転数が決められているため、出力軸回転数検出手段Sbの検出回転数と前記最小回転数とのうち、何れか大きい方をハイセレクトしたものを出力軸回転数として選択する。そして選択した出力軸回転数に出力軸15からセレクタSまでのレシオ(実施の形態では1)を乗算することでセレクタSの回転数を算出し、相互に逆方向であるリバースドリブンギヤ33の回転数およびセレクタSの回転数を加算することで差回転を算出することができる。
【0037】
以上のように、差回転を算出する際に使用する入力軸回転数検出手段Saおよび出力軸回転数検出手段Sbは既存のものをそのまま使用できるため、リバースドリブンギヤ33およびセレクタSの回転数を検出するための特別の検出手段を設ける必要がない。
【0038】
図5に示すように、セレクタSの左動を禁止する差回転は1000rpmである。車速がゼロでセレクタSの回転数がゼロのとき、クランクシャフト11とリバースドリブンギヤ33との間には所定のレシオが存在するため、差回転が1000rpmになるエンジン回転数は2000rpmである。つまり、車速がゼロのときは、エンジン回転数が2000rpmのときに差回転が1000rpmになる。前進車速が増加すると駆動輪W,Wに接続されたセレクタSの回転数が増加するため、差回転を1000rpm未満に抑えるには、エンジン回転数を車速がゼロのときの2000rpmよりも低くする必要がある。例えば、車速が8km/hのときには、エンジン回転数を1200rpmよりも低くする必要がある。
【0039】
エンジンEのファーストアイドル回転数は、冷却水温に応じて1200rpm〜1700rpmの範囲で変化するが、車速がゼロであれば、上記ファーストアイドル回転数の範囲内で差回転が上限値の1000rpmを超えることはない。
【0040】
次に、上記作用を図6のフローチャートに基づいて更に説明する。
【0041】
先ずステップS1でリバースドリブンギヤ33の回転数を算出し、ステップS2で出力軸回転数検出手段Sbで検出した出力軸15の回転数と出力軸回転数検出手段Sbが検出可能な最小回転数とを比較してハイセレクトし、ステップS3でハイセレクトした出力軸15の回転数からセレクタSの回転数を算出し、ステップS4でリバースドリブンギヤ33およびセレクタSの差回転を算出する。
【0042】
続くステップS5でシフトポジション検出手段Scで検出したシフトポジションが「R」ポジションであるとき、ステップS6で車速検出手段Sdで検出した車速が所定値(例えば、図5の8km/h参照)以上であるか、ステップS7でエンジン回転数検出手段Seで検出したエンジン回転数が所定値(例えば、図5の2000rpm参照)以上であるか、ステップS8でリバースドリブンギヤ33およびセレクタSの差回転が所定値(例えば、図5の1000rpm参照)以上であれば、ステップS9で後進変速段のインギヤ、つまりセレクタSの左動を許可する。そしてステップS10でセレクタSの左動が許可されていればステップS11でセレクタSの左動を実行し、許可されていなければステップS12でセレクタSの左動を実行しない。
【0043】
前記ステップS5でシフトポジション検出手段Scで検出したシフトポジションが「R」ポジションでないとき、ステップS13で車速検出手段Sdで検出した車速が前記所定値以上であるか、ステップS14でエンジン回転数検出手段Seで検出したエンジン回転数が前記所定値以上であるか、ステップS15でリバースドリブンギヤ33およびセレクタSの差回転が前記所定値以上であれば、ステップS17で後進変速段のインギヤ、つまりセレクタSの左動を禁止し、前記ステップS13〜ステップS15の答が全てYESであれば、ステップS16でセレクタSの左動を許可する。
【0044】
前記ステップS13〜ステップS17を設けた理由は、以下の通りである。シフトレバーのシフトポジションは「P」、「R」、「N」、「D」、「L」の順番で配置されているため、例えば「D」ポジションから「P」ポジションにシフトチェンジするとき、シフトレバーは必ず「R」ポジションを通過することになり、また「D」ポジションから「R」ポジションにシフトチェンジするとき、「R」ポジションを通り超して「P」ポジションに入ってしまうこともある。
【0045】
このような場合にシフトレバーが「R」ポジションに入った瞬間にセレクタSが作動し、シフトレバーが「R」ポジションを通過した瞬間にセレクタSが作動を停止すると、セレクタSが中途半端な位置で停止してしまう可能性がある。しかしながら、本実施の形態では、シフトレバーが「R」ポジションを通り超して「P」ポジションに入っても、セレクタSの作動を最後まで継続することで、セレクタSの中間止まりを防止することができる。またシフトレバーが「R」ポジションまたは「P」ポジションに向けて移動中に、前記ステップS6〜ステップS8の条件でセレクタSの左動許可が成立しなくても、その左動を禁止しないことでセレクタSの中間止まりを防止することができる。
【0046】
以上のように、本実施の形態によれば、リバースドリブンギヤ33およびセレクタSの差回転が所定値以上の場合にはセレクタSの作動を禁止するので、エンジン回転数の増加や車速の増加によって差回転が増加した状態でシフトレバーを「R」ポジションに操作してもセレクタSは作動せず、よってセレクタSの耐久性に悪影響が及んだりするのを防止することができる。特に、エンジン回転数や車速だけからセレクタSの作動の可否を判定する場合に比べて判定精度を高め、セレクタSが不適切なタイミングで作動するのを確実に防止することができる。
【0047】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0048】
例えば、後進変速段の確立を禁止する差回転の閾値は、冷却水の水温により持ち替えることが可能である。即ち、冷却水の水温が低いときはオイルの粘度が高くなって変速ショックが発生し易いため、前記差回転の閾値を低く設定することで変速ショックの発生を一層確実に防止することができる。
【符号の説明】
【0049】
13 第1入力軸(入力軸)
15 出力軸
27 リバースドライブギヤ
33 リバースドリブンギヤ
34 リバースアイドルギヤ
C4 4速−リバースクラッチ(油圧クラッチ)
E エンジン(駆動源)
S セレクタ(噛合い係合手段)
S1 入力軸回転数検出手段
S2 出力軸回転数検出手段
U 電子制御ユニット(変速制御手段)
W 駆動輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源(E)からの駆動力が入力される入力軸(13)と、
駆動力を駆動輪(W)に出力する出力軸(15)と、
前記入力軸(13)および前記出力軸(15)に設けられて相互に噛合する複数のギヤと、
前記複数のギヤの何れかを前記入力軸(13)に結合して所定の前進変速段を確立する油圧クラッチ(C4)と、
前記入力軸(13)に設けられて前記油圧クラッチ(C4)により該入力軸(13)に結合可能なリバースドライブギヤ(27)と、
前記出力軸(15)に設けられて噛合い係合手段(S)により該出力軸(15)に結合可能なリバースドリブンギヤ(33)と、
前記リバースドライブギヤ(27)および前記リバースドリブンギヤ(33)を接続するリバースアイドルギヤ(34)と、
車両の走行状態に応じて前記油圧クラッチ(C4)および前記噛合い係合手段(S)の作動を制御して変速を行う変速制御手段(U)とを備え、
前記変速制御手段(U)は、前記噛合い係合手段(S)で前記リバースドリブンギヤ(33)を前記出力軸(15)に結合した状態で前記油圧クラッチ(C4)を係合して後進変速段を確立する車両用自動変速機において、
前記変速制御手段(U)は、前記リバースドリブンギヤ(33)および前記噛合い係合手段(S)の差回転を算出し、前記差回転が所定値以上のときに前記噛合い係合手段(S)の作動を禁止することを特徴とする車両用自動変速機。
【請求項2】
入力軸回転数を検出する入力軸回転数検出手段(Sa)と、出力軸回転数を検出する出力軸回転数検出手段(Sb)とを備え、
前記変速制御手段(U)は、入力軸回転数および出力軸回転数から前記差回転を算出することを特徴とする、請求項1に記載の車両用自動変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−32792(P2013−32792A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167970(P2011−167970)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】