説明

車両用警報装置

【課題】 自車両と警報対象物との接近度合を運転者に警報する車両用警報装置を提供すること。
【解決手段】 自車両と警報対象物との衝突可能性を警報音で運転者に注意喚起する車両用警報装置において、警報音の出力周波数特性を警報対象物の接近情報(例えば相対速度)に基づいて調整する。具体的には、警報対象物が自車両に接近するほど警報音の出力周波数が高くなり、遠ざかるほど警報音の出力周波数が低くなる、ように調整する。また、警報音の音量を警報対象物との距離に基づいて調整する。これにより、警報音の音源が仮想的に自車両に向けて接近してくる印象を運転者に与えることができるため、運転者は警報対象物が接近している状況を警報音の仮想的な音源接近感によって直感的に感知することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、自車両と警報対象物との衝突可能性を警報音で運転者に注意喚起する車両用警報装置に係り、特に、運転者に警報対象物の接近感を伝える警報音を提供する車両用警報装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自車両と警報対象物(例えば先行車両など)との衝突可能性を警報音で運転者に注意喚起する車両用警報装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に開示された装置は、警報対象物の位置に応じて音場を形成し、警報音を出力するものであって、車両の接近などの危険を運転者に警告する際に、その危険要因の方向に警報音の音像を頭部伝達関数を模擬したディジタル・フィルタなどの信号処理を行った上で提示し、この音像を危険要因から運転者に向けて直線上を移動させるものである。
【特許文献1】特開平5−250589号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に開示された従来装置では、自車両に接近する車両などの危険要因を表現する音像を運転者に向けて直線上に単純に移動させているに過ぎないため、音像移動に伴う音量変化しか考慮されておらず、音信号の振動数特性の変化が生じることはほとんど無い。
【0005】
このように、警報対象物が自車両に接近する場合に、警報音の音場としての変化は小さく、音量が変化するのみであると、警報対象物の接近感や移動感が得られず、運転者へ与えるインパクトがさほど大きくない可能性がある。
【0006】
また、上記特許文献1に開示された従来装置では、DSPなどにより運転者の個人空間を侵害する警告音を形成させ、運転者に音刺激を与えるものとしているが、このような刺激は、警報音を発する本来の目的である「運転者が危険事象を早く認識・判断するための注意喚起」からかけ離れてしまうおそれがある。
【0007】
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、運転者に警報対象物の接近感を伝える警報音を提供する車両用警報装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、自車両と警報対象物との衝突可能性を警報音で運転者に注意喚起する車両用警報装置であって、警報音の出力周波数特性を上記警報対象物の接近情報に基づいて調整する、車両用警報装置である。
【0009】
この一態様において、上記警報対象物の接近情報は、例えば上記警報対象物との相対速度である。
【0010】
また、この一態様において、警報音の出力周波数特性は、例えば、上記警報対象物が自車両に接近するほど警報音の出力周波数が高くなり、遠ざかるほど警報音の出力周波数が低くなる、ように調整される。
【0011】
この一態様によれば、音のドップラー効果を利用して、警報音の出力周波数特性を変えてあたかも警報音音源が自車両へ向けて接近してくる印象を運転者に与えるようにすることができるため、運転者は警報対象物が接近している状況を警報音の仮想的な音源接近感によって直感的に感知することができる。
【0012】
なお、この一態様においては、警報音音源の接近感をより一層現実的なものとするために、警報音の音量を上記警報対象物との距離に基づいて調整すること、より具体的には、上記警報対象物との距離が短くなるほど警報音の音量を大きくすること、が好ましい。
【0013】
また、この一態様において、出力された警報音が運転者にとって上記警報対象物の接近方向から聞こえるように、警報音の音像を定位制御すると、警報音を出力するスピーカの配置にかかわらず、警報音が警報対象物の接近方向から聞こえるようにすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、運転者に警報対象物の接近感を伝える警報音を提供する車両用警報装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら実施例を挙げて説明する。
【実施例】
【0016】
以下、図1〜8を用いて、本発明に係る車両用警報装置の一実施例について説明する。
【0017】
図1は、本実施例に係る車両用警報装置100の概略構成図である。車両用警報装置100は、自車両と衝突可能性のある先行車両などの警報対象物を検出し、検出された警報対象物と自車両との間の距離や相対速度などを算出するために、レーダセンサ101、画像センサ102、車速センサ103などの種々のセンサを有する。さらに、舵角センサやヨーレートセンサなど自車両状態を検出するセンサ類(図示せず)を有してもよい。また、これらセンサ類は、他の車載システムと共用であってもよい。
【0018】
車両用警報装置100は、更に、上記センサ類の出力信号を分析して、警報対象物を検出し、検出された警報対象物と自車両との衝突可能性を判断する衝突判定部104を有する。本実施例において、衝突判定部104は、例えば、ECU(Electronic Control Unit;電子制御装置)である。
【0019】
車両用警報装置100は、更に、衝突可能性を運転者に注意喚起するための警報音を生成する警報処理部105を有する。本実施例において、警報処理部105は、例えば、ECUである。
【0020】
車両用警報装置100は、更に、警報処理部105により生成された警報音を運転者に提供する出力部106を有する。本実施例において、出力部106は、1つ以上のスピーカを有する。
【0021】
このような概略構成を有する車両用警報装置100は、警報音によって警報対象物の自車両に対する接近度合が運転者に伝わるように、発生する警報音の周波数特性を調整することによって、警報音が運転者に対して音源が前方から自車両へ向けて接近してくる音として運転者に聞こえるようにする。
【0022】
このような音の「接近感」は、ドップラー効果を利用することにより作り出すことができる。これを図2を用いて説明する。
【0023】
図2に示すように、例えば他車両などの音源f_orgが時間変化と共に高周波域に遷移(f>f_org)し、音量(db)が高くなると、運転者には音源f_orgが自車両に接近しているように聞こえる(VA域)。逆に、音源f_orgが時間変化と共に低周波域に遷移(f<f_org)し、音量(db)が小さくなると、運転者には音源f_orgが自車両から遠ざかっているように聞こえる(VB域)。
【0024】
本実施例に係る車両用装置100(の警報処理部105)は、上記原理を利用して、図3に概念的に示すように、警報対象物Aが存在する場合に、それについての警報音を自車両に向かって接近する仮想的な移動音源f_orgとして運転者に出力することによって、より直感的に衝突可能性を有する警報対象物の接近を運転者に注意喚起する。
【0025】
このような警報音の生成方法について、図4を用いて詳述する。図4は、本実施例に係る車両用警報装置100の警報処理部105による警報処理の流れを示すフローチャートである。
【0026】
図4に示す警報生成処理の前提として、衝突判定部104が、センサ出力から自車両と衝突可能性のある警報対象物を検出し、警報対象物との衝突可能性が所定のレベルにまで高まった段階で警報処理部105に警報音生成を指示する。この指示をトリガとして、警報処理部105は、本フローを開始する。
【0027】
また、本実施例において、衝突判定部104は、上記警報音生成指示と共に、センサ出力から算出した自車両と警報対象物との相対速度ΔVと、自車両と警報対象物との距離Lと、自車両の車速Vとを警報処理部105へ渡す。
【0028】
警報処理部105は、まず、効果パラメータとして、周波数F及び相対速度DVを以下のように設定する(S401):
F=α×f
DV=β×ΔV
ここで、fは、警報対象物音源に相当するベース周波数であり、任意に設定することができる。ただし、その値は、高過ぎると高齢者には聞こえにくくなり、低過ぎると緊迫感が薄らぐことに留意して設定されるべきである。また、常数α及びβは、最終的に算出される警報音の出力周波数Fが運転者を注意喚起するのに効果的な周波数となるように、例えば適合等により設定される。
【0029】
次いで、このように設定された音源周波数F及び相対速度DVと、車速Vnとに当業者には既知のドップラー方程式を適用して、警報音の出力周波数Fが算出される(S402):
=F×{V/(V−DV)}。
【0030】
次いで、このように算出された周波数を持つ警報音が生成される(S403)。相対速度ΔV及び車速Vは警報対象物の接近状況に応じて刻々と変化するため、警報音の出力周波数Fも刻々と変化することになり、上述のような警報音音源が自車両に接近してくる印象を運転者に与える周波数特性が作り出される。具体的には、警報対象物が自車両に接近するほど、警報音の周波数が高くなる。
【0031】
本実施例では、更に、警報音の音量Volmを警報対象物との距離Lに応じて可変とする。警報音の音量Volmは、常数γ(0<γ≦1)を用いて、図5に示すように、距離Lが小さくなるほど音量Volmが大きくなり、距離Lが大きくなるほど音量Volmが小さくなるように、設定される(S404):
Volm=γ×L
【0032】
このようにして音量Volmが設定されると、それに基づいてS403で生成された警報音が増幅され(S405)、そして出力部106へ出力される。
【0033】
このようにして、本実施例においては、警報処理部105により、警報対象物との相対速度に応じて運転者に音源が接近してくる感じを与える周波数特性を持った警報音が、警報対象物との距離に応じた音量で、生成される。より具体的には、警報対象物が自車両に接近するほど、警報音の周波数が高くなり、音量が大きくなる。
【0034】
このようにして生成された警報音は出力部106のスピーカによって運転者に提供される。出力部106のスピーカは、例えば図6に示すように、インパネ部分などから運転者頭部付近へ向けて出力される。
【0035】
インパネの外観デザイン上の制約や、メータ配置に関連する制約などにより図6のようなスピーカ配置が難しい場合、例えば図7に示すように、高指向性のスピーカをインパネ上部からフロントガラスへ向けて出力し、ウィンドウ反射により運転者頭部付近へ到達するようにしてもよい。
【0036】
図7の場合、警報音が運転者の前方からあたかもフロントガラス越しに聞こえるような効果が得られるため、上述のような本実施例による警報音音源の接近感をより直感的に運転者に与えることができる。
【0037】
出力部106は、複数のスピーカを備えてもよく、車室内レイアウト上可能であれば、四方に配置されてもよい。
【0038】
さらに、出力部106は、上記のような警報音専用のスピーカを持たず、オーディオ用のスピーカを流用してもよい。一例として、左右ドアの内側に設置されたドアスピーカを用いる場合を図8に示す。
【0039】
この場合、警報処理部105によって生成された警報音を頭部伝達関数(HRTF)を用いてDSP処理を行い、オーディオのスピーカから出力する。HRTF処理により、音像の定位制御が可能となるため、スピーカの設置位置が左右ドアであっても、警報音を前方に定位させることが可能であり、音源が前方から自車両に向かって接近してくる感じを作り出すことができる。
【0040】
この音像定位制御を利用すれば、スピーカ設置位置を自由に決めることができると共に、警報対象物が正面に接近している場合以外のあらゆる方向からの接近に応じて警報音に音源接近感を持たせることができる。ただし、正面以外の方向の場合、運転者が対象物接近方向を向くと運転操作に支障を及ぼす可能性もあるため、必要に応じて、サイドミラーやバックミラーなどへ運転者の視線を誘導するように警報音を提供することが好ましい。
【0041】
このように、本実施例によれば、出力された警報音がドップラー効果を伴って運転者に伝達されるように警報音の出力周波数特性が調整されるため、警報音の音源が仮想的に自車両に向けて接近してくる印象を運転者に与えることができる。
【0042】
その結果、運転者は、警報対象物が接近している状況を警報音の仮想的な音源接近感より直感的に感知し、例えば脇見状態から正面を向く、又はブレーキを操作するなどの危機回避行動に誘導される。
【0043】
また、本実施例によれば、このような警報音の出力周波数特性を警報対象物の相対速度の関数とすることにより、衝突可能性の高さ(緊急度又は緊迫度)に応じた注意喚起を運転者に与えることができる。
【0044】
さらに、本実施例によれば、出力される警報音に、上記のような出力周波数特性を持たせることに加えて、音量も警報対象物との距離に応じて設定することにより、よりリアルな音源接近感を運転者に与えることができる。
【0045】
なお、上記一実施例においては、警報音のベース周波数fは任意に設定できるものとしたが、上述のように警報音の周波数は運転者にとって可聴な周波数であって且つ警報として効果的な(適度な刺激となる)周波数であることが望まれる。このような適切な周波数には運転者ごとに個人差が生じると考えられる。
【0046】
そこで、上記実施例に係る警報装置にベース周波数fを外部から調整可能とする機能を設け、例えば新車購入時や車検時などにディーラー等の業者が運転者の聴力検査を行い、その検査結果に基づいてその運転者にとって最適な周波数を設定・更新できるようにしてもよい。
【0047】
この場合、更に、1台の車両を複数人で利用するユーザのために、各運転者にとって最適なベース周波数fをユーザ情報と関連付けて予め記憶しておき、乗車時に運転者の個人認証を行ってその運転者に関連付けて記憶されたベース周波数fを呼び出して設定・使用するようにすることが好ましい。この場合の運転者の個人認証は、例えば、スマートキー(登録商標)や生体認証を利用して行われてもよく、或いは、ドライビング・ポジション・メモリ機能と連動させて、シート・ポジション(前後、上下、リクライニング角等)、ステアリング・ハンドル位置(チルト機構/テレスコピック機構による)、及びミラー角度(ドアミラー、ルームミラー等)などと共に設定されるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、車両用警報装置に利用できる。搭載される車両の外観、重量、サイズ、走行性能等は問わない。
【0049】
なお、本発明は、自動二輪車にも応用が可能である。この場合、出力部の少なくともスピーカは運転者着用のヘルメットに内蔵され、車両に搭載された警報装置により生成された警報音信号は上述の音像定位制御により車両前方から音源が接近しているように音像制御された上で無線にてそのヘルメット内蔵スピーカへ飛ばされることになる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施例に係る車両用警報装置の概略構成図である。
【図2】ドップラー効果の原理を説明するためのグラフである。
【図3】本発明の一実施例による警報音源の仮想移動の概念を示す図である。
【図4】本発明の一実施例に係る車両用警報装置による警報処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】本発明の一実施例に係る車両用警報装置による対象物までの距離と警報音量との関係を示すグラフである。
【図6】本発明の一実施例に係る車両用警報装置のスピーカの一配置例を示す図である。
【図7】本発明の一実施例に係る車両用警報装置のスピーカの別の一配置例を示す図である。
【図8】本発明の一実施例に係る車両用警報装置のスピーカの更に別の一配置例を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
100 車両用警報装置
101 レーダセンサ
102 画像センサ
103 車速センサ
104 衝突判定部
105 警報処理部
106 出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両と警報対象物との衝突可能性を警報音で運転者に注意喚起する車両用警報装置であって、
警報音の出力周波数特性を前記警報対象物の接近情報に基づいて調整する、ことを特徴とする車両用警報装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両用警報装置であって、
前記警報対象物の接近情報は、前記警報対象物との相対速度である、ことを特徴とする車両用警報装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の車両用警報装置であって、
警報音の出力周波数特性は、前記警報対象物が接近するほど警報音の出力周波数が高くなり、遠ざかるほど警報音の出力周波数が低くなる、ように調整される、ことを特徴とする車両用警報装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項記載の車両用警報装置であって、
警報音の音量を前記警報対象物との距離に基づいて調整する、ことを特徴とする車両用警報装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項記載の車両用警報装置であって、
出力された警報音が運転者にとって前記警報対象物の接近方向から聞こえるように、警報音の音像を定位制御する、ことを特徴とする車両用警報装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−190193(P2006−190193A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−2966(P2005−2966)
【出願日】平成17年1月7日(2005.1.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】