説明

車両用走行支援装置

【課題】 交差点での対向車線へのはみ出しやガードレール等への接触を抑制できる車両用走行支援装置を提供する。
【解決手段】 自車前方の目標走行ラインL*上に前方注視点P*を設定し、自車が設定した前方注視点P*を走行するように車両の走行を支援する車両用走行支援装置において、自車前方の交差点形状を認識する交差点形状認識部11と、自車の進行方向を検出する進行方向検出部15と、自車の進行方向に基づいて交差点の進行先走行路を決定し、進行先走行路の入口を形成する両端PL,PRを結ぶ第1の直線LL-Rと目標走行ラインL*との交点よりも交差点内側の位置に、進行先走行路に対する前方注視点P*を設定する前方注視点設定部14と、自車が前方注視点P*を走行するように左右前輪1L,1Rを転舵する操舵制御部16と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用走行支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用走行支援装置では、車速と所定の前方注視時間との積を前方注視点距離として求め、目標走行ライン上の自車前方に前方注視点距離だけ離れた前方注視点を設定し、車両が前方注視点を走行するように操舵制御による走行支援を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2008−170404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術にあっては、交差点進入時も車速に比例した前方注視点が設定されるため、車速によって交差点の外側、すなわち進行先走行路上に前方注視点が設定されることで、車両が対向車線にはみ出したり、ガードレール等に接触したりするおそれがあった。
本発明の目的は、交差点での対向車線へのはみ出しやガードレール等への接触を抑制できる車両用走行支援装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、進行先走行路の入口を形成する両端を結ぶ直線と目標走行ラインとの交点よりも交差点内側の位置に、進行先走行路に対する前方注視点を設定する。
【発明の効果】
【0006】
よって、本発明にあっては、車両を進行先走行路の入口手前に誘導できるため、交差点での対向車線へのはみ出しやガードレール等への接触を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1の車両用走行支援装置を適用した車両の操舵系を示す模式図である。
【図2】実施例1のコントロールユニット6の制御ブロック図である。
【図3】実施例1のコントロールユニット6で実行される操舵制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】実施例1の前方注視点設定方法を示す交差点進入時の模式図である。
【図5】交差点における実施例1の前方注視点設定作用を示す交差点進入時の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の車両用走行支援装置を実施するための形態を、図面に示す実施例に基づいて説明する。
〔実施例1〕
図1は、実施例1の車両用走行支援装置を適用した車両の操舵系を示す模式図であり、実施例1の車両の操舵系は、左右前輪(操向輪)1R,1Lと、ステアリングギア2と、ステアリングホイール3と、ステアリングシャフト4と、操舵アクチュエータ5と、コントロールユニット6と、車輪速センサ7と、カメラ8と、ナビゲーションシステム9とを備える。
【0009】
ステアリングギア2は、ドライバがステアリングホイール3を回転操作することでステアリングシャフト4に入力された回転運動を車幅方向の平行運動に変換し、左右前輪1L,1Rを転舵させる。
操舵アクチュエータ5は、例えば、電動モータであり、ステアリングシャフト4にトルクを出力して左右前輪1L,1Rを転舵させる。
車輪速センサ7は、各輪に設けられ、車輪の回転速度を検出する。
カメラ8は、自車前方を撮像する。
ナビゲーションシステム9は、GPS衛生からの信号を受信し、地図データベースを参照して自車位置を検出すると共に、ドライバの設定した目標地点までの走行ルートを生成し、当該走行ルートを車室内に設けた図外のディスプレイに表示する。
【0010】
コントロールユニット6は、車輪速センサ7、カメラ8およびナビゲーションシステム9等からの情報を入力し、所定の制御ロジックに基づいて操舵アクチュエータ5を駆動し、走行支援を行う。
コントロールユニット6は、走行支援として、ナビゲーションシステム9により生成された走行ルートに沿って自車を自動運転する。このとき、自車が走行路の車線幅中央の目標走行ライン上を走行するように、自車の走行ラインが目標走行ライン上から逸れたとき、走行路上の自車前方に前方注視点距離だけ離れた前方注視点を設定し、その前方注視点を車両が走行するように操舵アクチュエータ5を駆動して左右前輪1L,1Rを転舵させる操舵制御を実行する。
【0011】
図2は、実施例1のコントロールユニット6の制御ブロック図であり、コントロールユニット6は、目標走行ライン認識部10と、交差点形状認識部(交差点形状認識手段)11と、車速検出部12と、前方注視点距離設定部13と、前方注視点設定部(前方注視点設定手段)14と、進行方向検出部(進行方向検出手段)15と、操舵制御部(操舵制御手段)16と、を備える。
【0012】
目標走行ライン認識部10は、カメラ8から得られた撮像画像とナビゲーションシステム9から得られた自車位置情報とに基づいて、目標走行ラインL*を認識する。
交差点形状認識部11は、カメラ8から得られた撮像画像やナビゲーションシステム9の地図データベースに基づいて自車前方の交差点形状を認識する。ここでは、進行先走行路毎に、入口を形成する左右両端の点PL,PRと、点PL,PRを結ぶ第1の直線LL-Rと、進行先走行路のセンタラインLCと、第1の直線LL-RとセンタラインLCとの交点PCとを認識する。
車速検出部12は、各車輪速センサ7からの信号に基づいて、自車の車体速(車速)Vを検出する。車速Vの算出方法は任意であり、例えば、4輪の各車輪速の平均値、従動輪である左右後輪の車輪速の平均値を車速Vとしてもよい。
【0013】
前方注視点距離設定部13は、車速Vとあらかじめ設定された前方注視時間(例えば、1.5秒)T*との積を前方注視点距離D*として設定する。
前方注視点設定部14は、通常は前方注視点距離D*と目標走行ラインL*との交点を前方注視点P*として設定するが、交差点進入時には、各進行先走行路において、点PLと点PCとを結ぶ第2の直線LL-Cと、自車の進行方向を車両前方に延長した進行方向延長線LFとが交差する進行先走行路が存在しない場合には、第2の直線LL-Cと目標走行ラインL*との交点よりも所定距離だけ交差点内側の位置に、各進行先走行路に対する前方注視点Pを設定し、各前方注視点Pのうち、交差点進入時の車両の進行方向と合致する前方注視点Pを前方注視点P*として選択する。
進行方向検出部15は、ナビゲーションシステム9により生成された走行ルート(自動運転の走行ルート)に基づいて交差点進入時の車両の進行方向を取得する。
【0014】
操舵制御部16は、自車位置と前方注視点P*とを一定曲率で結ぶ目標曲線R*を算出し、目標曲線R*に基づいて左右前輪1L,1Rの操舵制御量を算出すると共に、算出した操舵制御量に基づいて操舵アクチュエータ5を駆動する。このとき、目標曲線R*上を通過するような操舵制御量を算出してもよいが、ステアリングシャフト4上にトルクセンサを設けてドライバの操舵介入を検出し、操舵介入時には操舵制御量をゼロとしたり、目標曲線R*上を通過する左右前輪1L,1Rの転舵角までドライバの操舵操作を誘導するような操舵トルクを与えたりしてもよい。
【0015】
[操舵制御処理]
図3は、実施例1のコントロールユニット6で実行される操舵制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。
ステップS1では、交差点形状認識部11において、ナビゲーションシステム9から自車位置を読み込む。
ステップS2では、交差点形状認識部11において、車両前方の交差点までの距離lが所定値以下であるか否かを判定し、YESの場合はステップS3へ進み、NOの場合はステップS9へ進む。
【0016】
ステップS3では、交差点形状認識部11において、交差点形状を認識する。
ステップS4では、交差点形状認識部11において、所定サイズ以下の交差点であるか否かを判定し、YESの場合はステップS5へ進み、NOの場合はステップS9へ進む。ここで、所定サイズ以下の交差点とは、自車の車幅をWとしたとき、交差点手前の目標走行ラインL*と道路左端の点PLとの距離がW/2+α以下の交差点とする。αは、操舵制御性能やドライバの心理的側面による安全マージンで、例えば、1.0[m]などに設定する。
ステップS5では、進行方向検出部15において、ナビゲーションシステム9から得られた自動運転の走行ルートに基づいて交差点進入時の車両の進行方向を取得する。ここでは、ウインカーの状態に基づいて車両の進行方向を取得してもよい。
【0017】
ステップS6では、前方注視点設定部14において、各進行先走行路の第2の直線LL-Cのいずれかが車両の進行方向を延長した進行方向延長線LFと交差しているか否かを判定し、YESの場合はステップS7へ進み、NOの場合はステップS9へ進む。
ステップS7では、前方注視点設定部14において、各進行先走行路の第2の直線LL-Cと目標走行ラインL*との交点よりも所定距離だけ交差点内側の位置に、各進行先走行路に対する前方注視点Pを設定する。
ステップS8では、前方注視点設定部14において、各進行先走行路の前方注視点Pのうち、交差点進入時の車両の進行方向と合致する前方注視点Pを前方注視点P*として選択する。
【0018】
ステップS9では、車速検出部12において、各車輪速センサ7からの信号に基づいて、自車の車体速(車速)Vを検出する。
ステップS10では、前方注視点距離設定部13において、車速Vとあらかじめ設定された前方注視時間T*との積を前方注視点距離D*として設定する。
ステップS11では、前方注視点設定部14において、前方注視点距離D*と自車の進行先走行路の目標走行ラインL*との交点を前方注視点P*として設定する。
ステップS12では、操舵制御部16において、自車位置と前方注視点P*とを一定曲率で結ぶ目標曲線R*を算出し、目標曲線R*に応じた左右前輪1L,1Rの操舵制御量を算出する。
ステップS13では、操舵制御部16において、操舵制御量に基づいて操舵アクチュエータ5を駆動する。
【0019】
次に、作用を説明する。
[交差点における前方注視点設定作用]
実施例1では、交差点までの距離lが所定値以下であって、当該交差点が所定サイズ以下である場合、図4に示すように、交差点の各進行先走行路の入口を形成する両端PL,PRを結ぶ第1の直線LL-Rと目標走行ラインL*との交点よりも交差点内側の位置に、各進行先走行路に対する前方注視点Pをそれぞれ設定する。
よって、各前方注視点Pから車両の進行方向に応じて選択される前方注視点P*は、進行先走行路にかかわらず、進行先走行路の入口付近に設定されるため、交差点を抜けて進行先走行路に進入する前に進行先走行路の入口付近に車両を誘導することができ、交差点での対向車線へのはみ出しやガードレール等への接触を抑制できる。
【0020】
また、実施例1では、交差点進入後、第2の直線LL-Cと車両の進行方向を延長した進行方向延長線LFとが交差していない場合には、上記のように交差点内側の位置に前方注視点P*を設定し(図5(a))、第2の直線LL-Cと進行方向延長線LFとが交差している場合には、車速Vと前方注視時間T*とに基づいて設定された前方注視点距離D*と目標走行ラインL*との交点を前方注視点P*として設定する(図5(b))。
【0021】
各前方注視点Pは、車速Vに依存せず、交差点形状に基づいて設定されるため、仮に交差点通過時は常に前方注視点Pに基づいて前方注視点P*を設定した場合、目標曲線R*の曲率半径が徐々に小さくなり、操舵制御量が大きくなることで、ドライバに違和感を与えてしまう。
これに対し、車両の進行方向延長線LFと第2の直線LL-Cとが交差している場合は、車速Vに応じた前方注視点距離D*に基づいて前方注視点P*を設定する通常の方法に復帰することで、スムーズな操舵制御を実現でき、ドライバに与える違和感を軽減できる。
このとき、進行方向延長線LFと第1の直線LL-Rとの交差ではなく、進行方向延長線LFと第2の直線LL-Cとの交差を見ているため、車両が進行先走行路のセンタラインLCを越えて対向車線にはみ出してしまうのを抑制できる。
【0022】
実施例1では、交差点が所定サイズ(W/2+α)を超える場合には、車速Vに応じた前方注視点距離D*に基づいて前方注視点P*を設定する。交差点の道路幅が大きい場合、車速Vに基づく前方注視点P*を設定したとしても、対向車線へのはみ出しやガードレール等への接触は発生しにくい。よって、この場合は車速Vに応じた通常の方法で前方注視点P*を設定することで、スムーズな操舵制御を実現できる。
【0023】
次に、効果を説明する。
実施例1の車両用走行支援装置にあっては、以下に列挙する効果を奏する。
(1) 自車前方の目標走行ラインL*上に前方注視点P*を設定し、自車が設定した前方注視点P*を走行するように車両の走行を支援する車両用走行支援装置において、自車前方の交差点形状を認識する交差点形状認識部11と、自車の進行方向を検出する進行方向検出部15と、自車の進行方向に基づいて交差点の進行先走行路を決定し、進行先走行路の入口を形成する両端PL,PRを結ぶ第1の直線LL-Rと目標走行ラインL*との交点よりも交差点内側の位置に、進行先走行路に対する前方注視点P*を設定する前方注視点設定部14と、自車が前方注視点P*を走行するように左右前輪1L,1Rを転舵する操舵制御部16と、を備えた。これにより、交差点での対向車線へのはみ出しやガードレール等への接触を抑制できる。
【0024】
(2) 前方注視点設定部14は、自車の進行方向を車両前方に延長した進行方向延長線LFと進行先走行路の入口を形成する両端PL,PRを結ぶ第1の直線LL-Rとが交差する場合には、車速Vとあらかじめ設定された前方注視時間T*とに基づいて設定された前方注視点距離D*と目標走行ラインL*との交点を前方注視点P*として設定する。これにより、スムーズな操舵制御を実現でき、ドライバに与える違和感を軽減できる。
【0025】
(3) 前方注視点設定部14は、第2の直線LL-Cと自車の進行方向延長線LFとが交差する場合には、車速Vとあらかじめ設定された前方注視時間T*とに基づいて設定された前方注視点距離D*と目標走行ラインL*との交点を前方注視点P*として設定する。これにより、車両が進行先走行路のセンタラインLCを越えて対向車線にはみ出してしまうのを抑制できる。
【0026】
(他の実施例)
以上、本発明を実施するための形態を、実施例に基づいて説明したが、本発明の具体的な構成は、実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。
実施例では、交差点におけるすべての進行先走行路で前方注視点Pを求めた後、交差点進入時の自車の進行方向と合致する進行先走行路の前方注視点Pを前方注視点P*として選択する例を示したが、自車の進行方向と合致する進行先走行路の前方注視点のみを求める構成としてもよい。
実施例では、走行支援として操舵制御を実行する例を示したが、操舵制御と加減速制御とを組み合わせてもよい。加減速制御を加えることで、旋回トレース性能をより高めることができる。
【符号の説明】
【0027】
1L,1R 左右前輪(操向輪)
2 ステアリングギア
3 ステアリングホイール
4 ステアリングシャフト
5 操舵アクチュエータ
6 コントロールユニット
7 車輪速センサ
8 カメラ
9 ナビゲーションシステム
10 目標走行ライン認識部
11 交差点形状認識部(交差点形状認識手段)
12 車速検出部
13 前方注視点距離設定部
14 前方注視点設定部(前方注視点設定手段)
15 進行方向検出部(進行方向検出手段)
16 操舵制御部(操舵制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車前方の目標走行ライン上に前方注視点を設定し、自車が設定した前方注視点を走行するように車両の走行を支援する車両用走行支援装置において、
自車前方の交差点形状を認識する交差点形状認識手段と、
自車の進行方向を検出する進行方向検出手段と、
自車の進行方向に基づいて前記交差点の進行先走行路を決定し、前記進行先走行路の入口を形成する両端を結ぶ直線と前記進行先走行路の目標走行ラインとの交点よりも交差点内側の位置に、前記進行先走行路に対する前方注視点を設定する前方注視点設定手段と、
自車が前記前方注視点を走行するように操向輪を転舵する操舵制御手段と、
を備えたことを特徴とする車両用走行支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用走行支援装置において、
前記前方注視点設定手段は、自車の進行方向を車両前方に延長した進行方向延長線と前記進行先走行路の入口を形成する両端を結ぶ直線とが交差する場合には、車速とあらかじめ設定された前方注視時間とに基づいて設定された前方注視点距離と前記目標走行ラインとの交点を前記前方注視点として設定することを特徴とする車両用走行支援装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の車両用走行支援装置において、
前記進行先走行路の入口を形成する両端を結ぶ直線を第1の直線とし、
前記第1の直線と前記進行先走行路のセンタラインとの交点と、前記第1の直線の左端とを結ぶ直線を第2の直線としたとき、
前記前方注視点設定手段は、前記第2の直線と前記自車の進行方向延長線とが交差する場合には、車速とあらかじめ設定された前方注視時間とに基づいて設定された前方注視点距離と前記目標走行ラインとの交点を前記前方注視点として設定することを特徴とする車両用走行支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−88409(P2013−88409A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232366(P2011−232366)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】