説明

車両用運転支援装置

【課題】 情報提示の頻度が低いため、ドライバは立体音響を用いた情報提示に対して不慣れであり、緊急性を要する情報提示の状況下において、提示音声の正確な方向知覚に支障を生じる。
【解決手段】 車両周辺に障害物が検出されなかった場合、すなわち注意喚起の必要がない状況下において、所定の車両動作と関連付けられて、複数のスピーカを制御して音像定位方向がその所定の車両動作に伴う動作音の到来方向と略一致した立体音響による仮想音を出力する。こうして、乗車してから降車するまでの間に、障害物が存在しない場合に、音像定位方向の異なる仮想音を高頻度に出力する。これにより、ドライバに煩わしさや負担を感じさせることなく、ドライバに無意識に「訓練」を繰り返させる、ドライバの聴覚による方向知覚能力を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用運転支援装置に関し、特に、車両に障害物が近づいたときに報知音声を出力することができる車両用運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ドライバが見落とす可能性のある危険を予めドライバへ提示することによってドライバの危険回避操作を支援する車両用運転支援装置の研究が進められており、各種の提案がされている。例えば、見通しの悪い交差路で左右から来る車の存在を情報提供する、右折時の直進車両や歩行者、自転車の存在を情報提供する、車線変更時の後側方車両の存在を情報提供する、といったものである。
【0003】
こうした情報をドライバに伝える手段として、特に立体音響を用いた情報提示が検討されている。これには次のような技術的背景がある。すなわち、人間の聴覚は優れた音源位置の知覚能力を備えており、例えば視覚障害者は音を出すボールを用いた球技が訓練次第で可能である。また、聴覚を用いた情報提示であれば、視界の外にある対象についてもその相対的な位置関係の情報をそのままドライバに伝えることが可能であり、こうした用途に効果的である。
【0004】
かかる技術に関して、例えば、特許文献1は、対象の危険物に近いスピーカから報知音声を出力させて危険物の方向を定位させる技術を開示している。また、特許文献2も、周辺物体の相対方向に応じた位置に音像ができるように仮想音を発生する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−001851号公報
【特許文献2】特開2007−328603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に晴眼者は、日常生活において聴覚による方向知覚を意識的に行う機会が少ない。晴眼者は視覚による追認が不可欠である。聴覚による方向知覚の多くが無意識下で行われ、また得られる知覚も曖昧である。こうした聴覚のみによる方向知覚の不確かさは、「目隠し鬼」等の遊戯で容易に確認できる。上述したように、例えば視覚障害者は音を出すボールを用いた球技が訓練次第で可能である。言い換えると、聴覚のみによる方向知覚の精度を高めるためにはある程度の訓練が必要であると言える。
【0007】
しかしながら、一般に音声を用いた車両用の情報提示装置の多くは、情報提示の頻度が低い。これは、情報提示は注意喚起の意味合いを持つことから、高い情報提示頻度はドライバに煩わしさ等の好ましくない感情をもたらすため、その頻度は必要最小限に留めるよう調整されることによる。
【0008】
この結果、ドライバは立体音響を用いた情報提示に対して不慣れである状態が継続し、緊急性を要する情報提示の状況下において、戸惑いや反応の遅れを生じる。そして提示音声の正確な方向知覚に支障を生じるという問題が発生する。
【0009】
さらに、情報提示の頻度が低いということは、情報を提示していない時間が長いことを意味し、これは情報提示装置が価値をもたらさない、即ちデッドウェイトである時間の長さと同意であることから、ドライバに対して価格対効果の低さに対する不満を生じさせるといった課題も生じかねない。
【0010】
本発明は、こうした課題に対処するためになされたもので、立体音響を用いた情報提示をより効果的なものにすることができる車両用運転支援装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一側面によれば、障害物を検知したときに乗員にその障害物の存在を知らせるための報知音声を出力することが可能な車両用運転支援装置であって、車室内に配置された複数のスピーカと、車両に衝突する危険がある障害物を検出する検出手段と、前記検出手段により障害物が検出されたとき、前記障害物の方位を算出する算出手段と、前記複数のスピーカを制御して音像定位方向が前記算出手段で算出された方向と略一致した報知音声を出力する報知音声出力手段と、前記検出手段により障害物が検出されなかった場合において、所定の車両動作と関連付けられて、前記複数のスピーカを制御して音像定位方向が前記所定の車両動作に伴う動作音の到来方向と略一致した立体音響による仮想音を出力する仮想音出力手段とを備えることを特徴とする車両用運転支援装置が提供される。
【0012】
この構成によれば、乗車してから降車するまでの間に、障害物が存在しない場合に、音像定位方向の異なる仮想音が高頻度に出力される。これにより、ドライバに煩わしさや負担を感じさせることなく、ドライバに無意識に「訓練」を繰り返させることができる。結果、ドライバの聴覚による方向知覚能力を向上させることができる。
【0013】
本発明の好適な実施形態によれば、前記所定の車両動作は、集中ドアロック/アンロックであり、前記仮想音は、集中ドアロック/アンロックの仮想音であることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、ドアロック機構を利用して、ドライバの仮想音に対する方向知覚能力を向上させることができる。
【0015】
本発明の好適な実施形態によれば、前記集中ドアロック/アンロックの仮想音の出力順序は、運転席ドアを起点とする、時計回り、逆時計回り、又は、ランダムであることが好ましい。
【0016】
この構成によれば、ドライバの仮想音に対する方向知覚能力を効果的に向上させることができる。
【0017】
本発明の好適な実施形態によれば、前記所定の車両動作は、ドアミラー収納/展開動作であり、前記仮想音は、前記ドアミラー収納/展開動作の仮想音であることが好ましい。
【0018】
この構成によれば、ドアミラー収納/展開機構を利用して、ドライバの仮想音に対する方向知覚能力を向上させることができる。
【0019】
本発明の好適な実施形態によれば、前記所定の車両動作は、給油リッド若しくは給油口キャップの開動作であり、前記仮想音は、給油口キャップの開口音及び燃料注入音の少なくともいずれかであることが好ましい。
【0020】
この構成によれば、給油リッドの開動作を利用して、ドライバの仮想音に対する方向知覚能力を向上させることができる。
【0021】
本発明の別の側面によれば、障害物を検知したときに乗員にその障害物の存在を知らせるための報知音声を出力することが可能な車両用運転支援装置であって、車室内に配置された複数のスピーカと、車両に衝突する危険がある障害物を検出する検出手段と、前記検出手段により障害物が検出されたとき、前記障害物の方位を算出する算出手段と、前記複数のスピーカを制御して音像定位方向が前記算出手段で算出された方向と略一致した報知音声を出力する報知音声出力手段と、前記検出手段により障害物が検出されなかった場合において、現在時刻を通知する立体音響による音声を、前記複数のスピーカを制御して音像定位方向を変化させながら出力する仮想音出力手段とを備えることを特徴とする車両用運転支援装置が提供される。
【0022】
この構成によれば、現在時刻を音声で知らせる際にドライバの仮想音に対する方向知覚能力を向上させることができる。
【0023】
本発明の好適な実施形態によれば、前記仮想音出力手段は、ドライバを中心とする仮想アナログ時計文字盤上において、12時の位置と現在時刻に対応する短針位置との間で音像定位方向を順次移動させながら、現在時刻を通知する立体音響による音声を出力することが好ましい。
【0024】
この構成によれば、現在時刻を知らせる音声が仮想アナログ時計盤上で音像定位方向を順次移動しながら出力されるので、ドライバの仮想音に対する方向知覚能力を効果的に向上させることができる。
【0025】
本発明の好適な実施形態によれば、ドライバの操作指示に応じて前記仮想音出力手段により出力される仮想音の音像定位方向を調整する調整手段を更に有することが好ましい。
【0026】
この構成によれば、仮想音の音像定位位置をユーザに合わせて調整することが可能になる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、立体音響を用いた情報提示がよりドライバにとってより効果的なものになる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の運転支援装置が適用される車両の概略平面図。
【図2】実施例1における運転支援装置の構成を示すブロック図。
【図3】実施例1の制御処理を示すフローチャート。
【図4】障害物検出時における仮想音出力制御の例を説明する図。
【図5】訓練モードにおける集中ドアロック操作時の立体音響出力制御の例を示す図。
【図6】ドアミラー収納/展開動作時の仮想音を生成する例を説明する図。
【図7】給油リッド開動作時の仮想音を生成する例を説明する図。
【図8】実施例2における運転支援装置の構成を示すブロック図。
【図9】実施例2の制御処理を示すフローチャート。
【図10】実施例2における時報音声を生成する例を説明する図。
【図11】変形例における運転支援装置の構成を示すブロック図。
【図12】変形例に係る制御処理を示すフローチャート。
【図13】変形例における仮想音の音像定位位置の調整処理を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の実施に有利な具体例を示すにすぎない。また、以下の実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の課題解決手段として必須のものであるとは限らない。
【0030】
以下の実施形態では、立体音響を用いた情報提示を行う運転支援装置において、ドライバの立体音響による方向知覚の精度を高めるための訓練機能を提供する。上述したとおり、立体音響による注意喚起音の方向知覚の精度が低いのは、そもそもそのような注意喚起の頻度が低いことに原因がある。そこで、立体音響による方向知覚の頻度を増やせばよく、また、注意喚起の意味合いを持たないコンテンツであれば、ドライバに煩わしさ等の好ましくない感情をもたらさない、という発想のもと、上記訓練機能は所定の車両動作に関連付けられて動作する。すなわち、乗車してから降車するまでの間に、所定の車両動作に伴い音像定位方向の異なる複数回の立体音響による情報提示が動作する。この際、ドライバは煩わしさや負担を伴わない。無意識に「訓練」が繰り返される結果、ドライバは聴覚による方向知覚能力が向上し、ドライバの不慣れな状態が解消される。即ち、情報提示の実効性が向上することになる。なお、所定の車両動作とは、例えば、車両ドアの集中ロック動作、ドアミラーの収納/展開動作、給油口開動作、時計機能などが考えられる。
【0031】
くわえて、装置の稼働率が上がり、立体音響による情報提示の機会が増えることで、ドライバがシステムに対して感じる主観的な価値も向上する。
【0032】
図1は、本発明の運転支援装置が適用される車両の概略平面図である。
【0033】
自動車10は、車体の例えば四隅など適宜の箇所に、車両の周囲に存在する障害物を検知する障害物センサ12を備え、障害物センサ12によって、車両の周囲に位置する物体(例えばガードレール、家、壁、歩行者、自転車など)を検出する。障害物センサ12としては、超音波、赤外線、レーダーを利用したセンサなどを採用することができる。
【0034】
フロントウインドウの上端且つ車幅方向中央部分には、自動車10の前方を監視するための前方監視カメラ14と、ドライバの頭部16に向けて配設されたドライバ監視カメラ18が配置されている。この監視カメラ18を用いてドライバの視線を検出することが可能である。
【0035】
図1において参照符号20はインストルメントパネルを示し、22はハンドルを示す。インストルメントパネル20には、ドライバの音声を入力するマイクロホン17及び時計19が設けられている。また、左右フロントドアにはドアミラー13が設けられている。このドアミラー13は、ドアミラー操作部27を介してドアミラーアクチュエータ15の作動により開閉が可能である。また、左右のフロントドア及びリヤドアにはそれぞれドアロックアクチュエータ21が設けられており、個々にドアロック/アンロックを行えるほか、集中ドアロック操作部25を介して集中ドアロック/アンロックを行うことができる。さらに、例えば車両左後方の位置には、給油リッド23が給油口に対して開閉可能に設けられている。この給油リッド23は給油リッド開スイッチ29を介してオープンすることができる。
【0036】
車室内の四隅にはそれぞれスピーカが設けられている。具体的には、右前方(R)スピーカ24、左前方(L)スピーカ26、右後方(Rs)スピーカ28、左後方(Ls)スピーカ30が設けられる。この4個のスピーカ24〜30を使って、障害物Oが衝突又は接触の可能性がある時に警報のメッセージ又は音響音が出力され、ドライバはスピーカ24〜30から出力される立体音響音によって障害物Oの方位を認知することができる。
【0037】
以下、集中ドアロック動作、ドアミラーの収納/展開動作、給油リッド開動作に関連付けられた訓練機能を有する運転支援装置の動作を実施例1、時計機能に関連付けられた訓練機能を有する運転支援装置の動作を実施例2として説明する。図2は、第1実施例に係る運転支援装置の機能構成を示すブロック図、図8は、第2実施例に係る運転支援装置の機能構成を示すブロック図である。
【0038】
(実施例1)
図2において、障害物検出部201は、障害物センサ12及び前方監視カメラ14より入力した情報に基づき、他の車両、歩行者、二輪車、ガードレールなどの障害物Oを検出する。障害物検出部201が検出した障害物Oが車両と接触又は衝突する危険性が大きいときには、この障害物Oの車両に対する方位及び距離が方位・距離算出部202によって求められる。次いで、障害物Oを表現する音像の定位のための障害物仮想音制御部203によって、方位・距離算出部202で求めた障害物Oの方位に対応した音像定位ができるよう仮想音の出力方法が制御される。
【0039】
ドアロック制御部204は、集中ドアロック操作部25の操作に応じてドアロックアクチュエータ21にロック/アンロック動作を行わせる。ドアロック仮想音制御部205は、ドアロック制御部204の制御に応じてドアロック仮想音の音像定位方向を制御する。
【0040】
ドアミラー制御部206は、ドアミラー操作部27の操作に応じてドアミラーアクチュエータ15にドアミラー開閉動作を行わせる。ドアミラー仮想音制御部207は、ドアミラー制御部206の制御に応じてドアミラー仮想音の音像定位方向を制御する。
【0041】
給油仮想音制御部208は、給油リッド開スイッチ29の操作に応じて給油仮想音の制御を行う。
【0042】
スピーカ制御部209は、障害物仮想音制御部203、ドアロック仮想音制御部205、ドアミラー仮想音制御部207、又は給油仮想音制御部208による制御に基づいてスピーカ24〜30の各出力を制御する。
【0043】
上記の処理及び制御は運転支援プログラムによって実行される。この運転支援プログラムの概要を図3のフローチャートに基づいて説明する。先ずステップS1で障害物センサ12や前方監視カメラ14から信号を取り込んで、撮影画像などから障害物Oの抽出処理が行われる(S2)。ここでは例えば、予め記憶されている車両、歩行者、二輪車の画像データとのマッチングによる抽出、あるいは、車車間通信による相手車両位置、速度検出による抽出などを行うことができる。
【0044】
障害物Oが現れたときにはステップS3からS4に進んで、このステップS4で当該障害物Oが自車に衝突又は接触する危険度の算出処理が実行される。この危険度は、例えば障害物Oの種類、障害物Oと自車との距離、障害物Oの移動速度や移動方向によって自車に衝突するまでの時間を算出し、この衝突までの時間によって危険度が算出される。その後、算出した方位に立体音響を定位させるような仮想音を算出し(S6)、これに応じて各スピーカの出力が制御される(S7)。
【0045】
例えば、図4の(a)の1に示すように、ドライバの正面に障害物である自転車が検出された場合、自転車を表す「チリン、チリン」という仮想音を、(b)に示すように、スピーカLとスピーカRを用いて立体音響を生成する。このとき、スピーカLからの音は、障害物からの距離がスピーカRより遠い分、スピーカRよりも早いタイミングで出力される。一方、スピーカRからの音は、障害物からの距離がスピーカLより近い分、スピーカLよりも遅れて、弱いレベルで出力される。
【0046】
また、図4の(a)の2に示すように、ドライバの斜め右前方に障害物である自転車が検出された場合、自転車を表す「チリン、チリン」という仮想音を、(c)に示すように、スピーカRとスピーカRsとを用いて立体音響を生成する。このとき、スピーカRsからの音は、障害物からの距離がスピーカRより遠い分、スピーカRよりも早いタイミングで出力される。一方、スピーカRからの音は、障害物からの距離がスピーカRsより近い分、スピーカLよりも遅れて、弱いレベルで出力される。
【0047】
ステップS3において障害物は存在しないと判断された場合は、訓練モードに移行する。まず、ステップS8で、集中ドアロック/アンロック操作があったかどうかを判断する。ここで集中ドアロック/アンロック操作があった場合、ステップS9〜S12における、ドアロック/アンロック動作と連動する立体音響による情報提示を行う。集中ドアロック/アンロック操作があると、個々のドアのロック機構の動作に時間差を与え、かつ動作中のドアロックアクチュエータの方向に定位する音像の仮想作動音を出力する。この仮想音はドアロック機能の動作に同期して出力するようにしてもよいが、必ずしも同期させる必要はない。
【0048】
図5を参照して、具体例を説明する。集中ドアロック操作があると(S8,図5(a))、はじめに、運転席側ドアロック位置に仮想音を定位させる(S9)。具体的には、図5(b)に示すように、スピーカRとスピーカRsとを用いて、右フロントドア(運転席ドア)のドアロック仮想音を出力する。次に、後右席ドアロック位置に仮想音を定位させる(S10)。具体的には、図5(c)に示すように、スピーカRとスピーカRsとを用いて、右リヤドアのドアロック仮想音を出力する。次に、後左席ドアロック位置に仮想音を定位させる(S11)。具体的には、図5(d)に示すように、スピーカLとスピーカLsとを用いて、左リヤドアのドアロック仮想音を出力する。さいごに、前左席ドアロック位置に仮想音を定位させる(S12)。具体的には、図5(e)に示すように、スピーカLとスピーカLsとを用いて、左フロントドアのドアロック仮想音を出力する。
【0049】
このように、それぞれのスピーカの出力タイミング及び出力レベルが、順次、各ドアロック作動音の到来方向と略一致するように制御される。なお、図5の例では、ドアロック仮想音の出力順序を運転席ドアを起点とする時計回り(CW)としたが、逆回り(CCW)でも、ランダムでも構わない。
【0050】
ステップS13では、ドアミラー収納/展開操作があったかどうかを判断する。ここでドアミラー収納/展開操作があった場合、ステップS14,S15におけるドアミラー収納/展開動作と連動する立体音響による情報提示を行う。ドアミラー収納/展開操作があると、左右のドアのドアミラーの動作に時間差を与え、かつ動作中のドアミラーアクチュエータの方向に定位する音像の仮想作動音を出力する。この仮想音はドアミラーの動作に同期して出力するようにしてもよいが、必ずしも同期させる必要はない。
【0051】
図6を参照して、具体例を説明する。ドアミラー収納/展開操作があると(S13,図6(a))、まず、右側ドアミラー位置に仮想音を定位させる(S14)。具体的には、図6(b)に示すように、スピーカRとスピーカRsとを用いて、右側ドアミラー13のアクチュエータ15の仮想音を出力する。次に、左側ドアミラー位置に仮想音を定位させる(S15)。具体的には、図6(c)に示すように、スピーカLとスピーカLsとを用いて、左側ドアミラー13のアクチュエータ15の仮想音を出力する。
【0052】
ステップS16では、給油リッド開スイッチ29による給油リッド23の開操作があったかどうかを判断する。ここで給油リッド開操作があった場合、ステップS17,S18における給油動作に係る立体音響による情報提示を行う。
【0053】
給油リッド開操作があると(S16)、給油口位置に給油口キャップの開口仮想音を定位させる(S17)。具体的には、図7に示すように、スピーカLとスピーカLsとを用いて仮想音を出力する。このときの仮想音としては例えば、「キュポン」というコルク栓の開栓音などでもよい。その後、給油時のガソリン注入仮想音を定位させる(S18)。S17と同様に、スピーカLとスピーカLsとを用いてその仮想音を出力する。このときの仮想音としては例えば、「トク、トク、トク」というグラスへの注水音を用いてもよい。
【0054】
以上、実施例1として、集中ドアロック/アンロック動作、ドアミラーの収納/展開動作、給油リッド開動作に関連付けられた立体音響の方向知覚の訓練機能を有する運転支援装置の動作を説明した。この実施例1によれば、ドライバは、集中ドアロック/アンロック動作、ドアミラーの収納/展開動作、給油リッド開動作を行う都度、音像定位方向の異なる複数回の立体音響による情報提示に接することになる。これにより、ドライバは特に煩わしさや負担を感じることなく、無意識に「訓練」が繰り返される。こうしてドライバは聴覚による方向知覚能力が向上し、ドライバの不慣れな状態が解消される。
【0055】
(実施例2)
次に、実施例2として、時計機能に関連付けられた訓練機能を有する運転支援装置の動作を説明する。
【0056】
図8では図2と同じブロックには同じ参照番号を付してその説明を省略する。なお、図8には、時計機能に関連付けられた訓練機能の説明に必要な構成だけが示されていることに留意されたい。図8に示される機能ブロックを図2の構成に組み込むことも可能である。
【0057】
視線検出部801は、ドライバ監視カメラ18で撮影したドライバ頭部の画像からそのドライバの視線を検出する処理を行う。音声認識部802は、マイクロホン17を介して入力されたドライバの音声を認識する。この音声認識部802は所定のナビゲーション機能に関する動作指示音声を認識可能であり、本実施例に係る「時計機能」の動作指示音声も認識可能である。
【0058】
障害物が検出されなかった場合において、時刻情報提供開始判定部803は、時刻情報の提供開始の判定を行う。例えば、視線検出部801による、ドライバが一定時間時計を視認しているかどうかの検出結果、及び、音声認識部802による、ドライバの「いま何時?」といった発声があったかの認識結果に基づいて、時刻情報の提供開始の判定を行うことができる。時刻情報取得部804は、時刻情報提供開始判定部803からの指令に応じて時計19から時刻情報を取得する。時報データ生成部805は時刻情報取得部804で取得された時刻情報に基づいて時報データを生成する。時報データ音声出力制御部806は、時報データ生成部805で生成された時報データに基づいて立体音響による時報音声の制御を行う。スピーカ制御部209は、障害物仮想音制御部203又は時報データ音声制御部806による制御に基づいてスピーカ24〜30の各出力を制御する。
【0059】
図9は、図8の構成による運転支援装置の動作を示すフローチャートである。ステップS1〜S3の障害物の検出処理及びステップS4〜S7の障害物が検出されたときの立体音響制御処理は、図3と同じであるから、ここでは説明を省略する。
【0060】
ステップS3において障害物が存在しないと判断された場合、訓練モードに移行する。まず、ステップS21において、時刻情報提供開始判定部803は、視線検出部801で検出されたドライバの視線に基づいて時計19を一定時間視認しているかを判断する。また、ステップS22において、時刻情報提供開始判定部803は、音声認識部802で認識されたドライバの音声が時報機能動作の指示であるかを判断する。ステップS21,S22のいずれかがYESであれば、処理はステップS23に移行する。
【0061】
ステップS23では、時計19から時刻情報を取得する。その後、取得した時刻情報に応じたアナウンス音及び予報音・正報音を出力する。ここでは、アナウンス音として「午前○時○分○秒をお伝えします。」とのメッセージを出力し、予報音・正報音として「プッ・プッ・プッ・ポーン」という音を出力するものとする。ステップS24〜S28においては、このようなアナウンス音及び予報音・正報音を、音像定位方向を変化させながら出力する。
【0062】
図10の例は、ドライバ頭部を中心とする円に沿って音像定位方向を変化させながら予報音・正報音を出力する例を示している。はじめに、ステップS24で、同図(a)に示すように、「午前○時○分○秒をお伝えします。」というアナウンス音を出力し、続いてステップS25で、(b)に示すように、「プ」という1回目の予報音を出力する。これらのアナウンス音及び1回目の予報音については、スピーカRとスピーカLとを用いて、音像がドライバ正面方向に定位するように制御する。
【0063】
次に、ステップS26で、(c)に示すように、「プ」という2回目の予報音を出力する。ここでは、スピーカRとスピーカRsとを用いて、アナログ時計文字盤の12時の位置から、その12時の位置と現在の短針位置とがなす角度の1/3の角度だけ進んだ位置の方向に音像を定位させる。
【0064】
さらに、ステップS27で、(d)に示すように、「プ」という3回目の予報音を出力する。ここでは、スピーカRとスピーカRsとを用いて、時計文字盤の12時の位置から、その12時の位置と現在の短針位置とがなす角度の2/3の角度だけ進んだ位置の方向に音像を定位させる。
【0065】
さいごに、ステップS28で、(e)に示すように、「ポーン」という正報音を出力する。ここでは、スピーカRsとスピーカLsとを用いて、現在の短針位置の方向に音像を定位させる。
【0066】
以上、実施例2として、時計機能に関連付けられた立体音響の方向知覚の訓練機能を有する運転支援装置の動作を説明した。この実施例2によれば、ドライバは、時計機能を使用する都度、音像定位方向の異なる複数回の立体音響による時報情報の提示に接することになる。これにより、ドライバは特に煩わしさや負担を感じることなく、無意識に「訓練」が繰り返される。こうしてドライバは聴覚による方向知覚能力が向上し、ドライバの不慣れな状態が解消される。
【0067】
(変形例)
実施例1において、ドアミラーの収納/展開動作の際に、各ドアミラーに音像が定位した仮想音を提示することを示したが、これら仮想音の音像定位位置の調整機能を付加することも可能である。
【0068】
図11にそのような調整機能を有する運転支援装置の構成を示す。図11では図2と同じブロックには同じ参照番号を付し、その説明を省略する。また、図11には、ドアミラーの収納/展開動作に関連付けられた訓練機能以外の訓練機能に係るブロックは省略されていることに留意されたい。
【0069】
運転席側のコンソール部には、調整モードの開始を指示する調整モード開始スイッチ501、前後方向における音像定位位置を調整するための前後調整スイッチ502、左右方向における音像定位位置を調整するための左右調整スイッチ503、調整された音像定位位置を確定するための確定スイッチ504が設けられる。これらの操作情報は音像定位誤差検出部505に入力され、ここで音像定位誤差が算出され記憶される。
【0070】
図12は、図11の構成による運転支援装置の動作を示すフローチャートである。図3と同じ工程には同じ参照番号を付し、その説明は省略する。以下、図13とともに参照しながら説明する。
【0071】
ステップS2の前に、調整モード開始スイッチ501が操作されたどうかによって調整モードを開始するか否かを判断する(S30)。調整モードを開始するときは処理はステップS31に進む。本例においては、左ドアミラーを利用して定位誤差を検出し、音像定位位置を修正する例を示す。
【0072】
ステップS31では、左ドアミラーの位置に仮想音を定位させる(図13(a))。ドライバはこの仮想音を聴いて、その音像定位位置が左ドアミラーの位置と一致しているかを確かめ、一致していないならば、前後調整スイッチ502及び/又は左右調整スイッチ503を操作して一致するよう調整することができる。ステップS32では、例えば左右調整スイッチ503の操作があったどうかを判断する。左右調整スイッチ503の操作があったときは、その操作量に応じて左ドアミラーの仮想音の左右方向における音像定位位置を調整する(図13(b))。
【0073】
本例では、前後調整スイッチ502の操作により左ドアミラーの仮想音の左右方向における音像定位位置を調整できる(図13(c))。ステップS33で、前後調整スイッチ502の操作があったどうかを判断する。前後調整スイッチ502の操作があったときは、その操作量に応じて左ドアミラーの仮想音の前後方向における音像定位位置を調整する(図13(d))。各スピーカの出力はこの調整結果に応じて制御され(S38)、ドライバはこれを聴いて一致の度合を確認でき、確定スイッチ504が操作されると上記調整が確定される。
【0074】
ステップS37で確定操作があったかどうかを判定する。確定操作がされたときは、音像定位誤差検出部505は、音像定位位置の左右、前後方向への移動量より定位誤差を算出し、これを記憶する。これにより調整モードを抜ける。
【0075】
ステップS3で障害物が検出された場合において、ステップS6で、音像定位方向が障害物の方位と一致する仮想音が算出されるが、その後のステップS40で、定位誤差を読み出し、これにより上記算出した仮想音の音像定位位置が補正される。
【0076】
また、ステップS13においてドアミラー収納/展開操作があった場合は、ステップS14’として、補正後の制御量により右側ドアミラー位置に仮想音を定位させ、ステップS15’として、補正後の制御量により左側ドアミラー位置に仮想音を定位させることになる。
【0077】
このように、仮想音の音像定位位置を調整することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
障害物を検知したときに乗員にその障害物の存在を知らせるための報知音声を出力することが可能な車両用運転支援装置であって、
車室内に配置された複数のスピーカと、
車両に衝突する危険がある障害物を検出する検出手段と、
前記検出手段により障害物が検出されたとき、前記障害物の方位を算出する算出手段と、
前記複数のスピーカを制御して音像定位方向が前記算出手段で算出された方向と略一致した報知音声を出力する報知音声出力手段と、
前記検出手段により障害物が検出されなかった場合において、所定の車両動作と関連付けられて、前記複数のスピーカを制御して音像定位方向が前記所定の車両動作に伴う動作音の到来方向と略一致した立体音響による仮想音を出力する仮想音出力手段と、
を備えることを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項2】
前記所定の車両動作は、集中ドアロック/アンロックであり、前記仮想音は、集中ドアロック/アンロックの仮想音であることを特徴とする請求項1に記載の車両用運転支援装置。
【請求項3】
前記集中ドアロック/アンロックの仮想音の出力順序は、運転席ドアを起点とする、時計回り、逆時計回り、又は、ランダムであることを特徴とする請求項2に記載の車両用運転支援装置。
【請求項4】
前記所定の車両動作は、ドアミラー収納/展開動作であり、前記仮想音は、前記ドアミラー収納/展開動作の仮想音であることを特徴とする請求項1に記載の車両用運転支援装置。
【請求項5】
前記所定の車両動作は、給油リッド若しくは給油口キャップの開動作であり、前記仮想音は、給油口キャップの開口音及び燃料注入音の少なくともいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の車両用運転支援装置。
【請求項6】
障害物を検知したときに乗員にその障害物の存在を知らせるための報知音声を出力することが可能な車両用運転支援装置であって、
車室内に配置された複数のスピーカと、
車両に衝突する危険がある障害物を検出する検出手段と、
前記検出手段により障害物が検出されたとき、前記障害物の方位を算出する算出手段と、
前記複数のスピーカを制御して音像定位方向が前記算出手段で算出された方向と略一致した報知音声を出力する報知音声出力手段と、
前記検出手段により障害物が検出されなかった場合において、現在時刻を通知する立体音響による音声を、前記複数のスピーカを制御して音像定位方向を変化させながら出力する仮想音出力手段と、
を備えることを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項7】
前記仮想音出力手段は、ドライバを中心とする仮想アナログ時計文字盤上において、12時の位置と現在時刻に対応する短針位置との間で音像定位方向を順次移動させながら、現在時刻を通知する立体音響による音声を出力することを特徴とする請求項6に記載の車両用運転支援装置。
【請求項8】
ドライバの操作指示に応じて前記仮想音出力手段により出力される仮想音の音像定位方向を調整する調整手段を更に有することを特徴とする請求項1に記載の車両用運転支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−208606(P2010−208606A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60091(P2009−60091)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】