説明

車両用過給装置

【課題】タービン羽根車に供給される排気エネルギーを任意に高めることのできる車両用過給装置を提供する。
【解決手段】第1排気スクロール21内(小容量側)に電気ヒータ14を設け、排気エネルギーが低下している状態で、且つエンジン負荷が大きい時に電気ヒータ14を通電する。これにより、タービン羽根車11に供給される排気エネルギーを高め、過給圧の上昇を図ってエンジンの出力トルクを向上でき、燃費を向上し、ドライバビリティを向上できる。電気ヒータ14からタービン羽根車11までの距離を短くでき、電気ヒータ14の通電開始から過給圧が上昇するまでの時間を最小に抑えるとともに、発熱ロスを抑えることができる。電気ヒータ14を第1排気スクロール21のみに設けるため、小型化と電力消費を抑えることができる。さらに、電気ヒータ14の通電範囲が必要時のみに抑えられるため、電力消費を抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボチャージャを用いて吸気の過給を行う車両用過給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ターボチャージャを用いた車両用過給装置では、エンジンの排気エネルギーを利用して吸気の加圧を行うため、排気エネルギーが下がると過給圧が下がってしまう。即ち、排気ガスの流量が少ない場合や、排気ガスの温度が低い場合に、過給圧が低下してしまう。その結果、アクセルを踏んだ際にターボラグが生じて、ドライバビリティが悪化する不具合があった。
【0003】
加速時に排気エネルギーを高めてターボラグを短縮する技術として、特許文献1に開示される技術が提案されている。
特許文献1の技術は、点火時期を遅角させることで排気エネルギーを高めようとするものである。
しかしながら、点火時期を適正時期より遅角させることで、適正タイミングの燃焼が行われなくなるため、結果的にエンジンの出力トルクの低下を招いてしまい、ドライバビリティの悪化を招くとともに、燃費(燃料消費量)も悪化してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−321804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、タービン羽根車に供給される排気エネルギーを任意に高めることのできる車両用過給装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
〔請求項1の手段〕
請求項1の車両用過給装置は、エンジンの排気出口からタービン羽根車までの間の排気通路内に配置した電気ヒータを発熱させることで、タービン羽根車に供給される排気エネルギーを高めることができる。
このため、排気エネルギーが低い状態であっても、電気ヒータによって排気エネルギーを高めることでタービン羽根車の駆動力を高めることができ、過給圧の上昇を図ってエンジンの出力トルクを向上できる。その結果、燃費の向上やターボラグの改善によりドライバビリティの向上を図ることができる。
【0007】
〔請求項2の手段〕
請求項2の電気ヒータは、タービンハウジング内における排気通路内(具体的には、タービンハウジング内で、且つタービン羽根車より排気上流側の排気通路内)に設けられるものである。
電気ヒータからタービン羽根車までの距離が短いため、電気ヒータで加熱された排気ガスが冷えずにタービン羽根車に与えられる。このため、電気ヒータの通電が開始されてから過給圧が上昇するまでの時間を最小に抑えてドライバビリティの向上を図ることができるとともに、電気ヒータの発熱ロスを抑えることができ、結果的に電気ヒータの電力消費を抑えて過給圧の上昇を図ることができる。
【0008】
〔請求項3の手段〕
請求項3の電気ヒータは、第1排気スクロール(小容量側)の排気通路内のみに設けられる。
これにより、電気ヒータによって加熱する範囲を小さくすることができ、電気ヒータの小型化が可能になり、電気ヒータのコストを抑えるとともに、電力消費を抑えてバッテリ負荷を小さくすることができる。
また、電気ヒータの小型化に伴って電気ヒータが軽量化されるため、車両重量を軽減することで燃費を向上することができる。
【0009】
〔請求項4の手段〕
請求項4の制御装置は、エンジンの回転数とエンジンに要求される要求負荷に応じて電気ヒータを通電制御する。
これにより、電気ヒータの通電範囲を抑えることができるため、電気ヒータの電力消費を抑えて、燃費を向上することができる。
【0010】
〔請求項5の手段〕
請求項5の制御装置は、エンジンを循環する冷却水の温度(冷却水温)、エンジンを潤滑するオイルの温度(油温)、エンジンの排気出口から電気ヒータに至る排気ガスの温度(排熱温度:例えば、エキゾーストマニホールドの温度等)のうちの少なくとも1つ温度に応じて電気ヒータの通電時間を変化させる。
冷却水温や油温の温度低下時に電気ヒータの通電時間を長くすることで、過給圧を高めてエンジン出力を大きくすることにより、「潤滑用のオイルの粘度が高い」ことによるドライバビリティの悪化を防ぐことができる。
あるいは、排熱温度の低下時に電気ヒータの通電時間を長くすることで、過給圧を高めてエンジン出力を大きくして「排熱温度の低下」によるドライバビリティの悪化を防ぐことができる。
【0011】
〔請求項6の手段〕
請求項6の制御装置は、エンジンの暖機時(ファーストアイドル時等)に電気ヒータを通電する。
これにより、電気ヒータで加熱された排気ガスによってターボチャージャの排気下流側に配置された触媒を加熱することができるため、触媒の早期暖機が可能になり、排気エミッションの低減と、燃費の改善を両立させることができる。
【0012】
〔請求項7の手段〕
請求項7の制御装置は、エンジンの暖機時(ファーストアイドル時等)に、電気ヒータを通電するとともに、ウエストゲートバルブを開く。
これにより、電気ヒータで加熱された排気ガスによって触媒を加熱することに加えて、ウエストゲートバルブを通過した高温の排気ガス(タービン羽根車で熱を奪われていない高温の排気ガス)によって触媒を加熱することができるため、触媒のさらなる早期暖機が可能になり、排気エミッションの低減効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ターボチャージャの軸方向に沿う断面図である(実施例1)。
【図2】(a)図1のA−A線に沿う断面図、(b)容量可変バルブとウエストゲートバルブの模式図である(実施例1)。
【図3】容量可変バルブとウエストゲートバルブの作動説明図である(実施例1)。
【図4】エンジン回転数およびエンジン要求負荷に対応した各運転モードの説明図である(実施例1)。
【図5】作動説明のためのタイムチャートである(実施例1)。
【図6】作動説明のためのタイムチャートである(実施例1)。
【図7】容量可変バルブとウエストゲートバルブの断面図と模式図である(実施例2)。
【図8】容量可変バルブとウエストゲートバルブの作動説明図である(実施例2)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面を参照して[発明を実施するための形態]を説明する。
車両用過給装置は、エンジンに供給される吸気の過給を行うものであり、
(a)エンジンから排出された排気ガスにより回転駆動されるタービン羽根車11を有するターボチャージャ12と、
(b)エンジンの排気出口からタービン羽根車11までの間の排気通路内(具体的な一例として、タービンハウジング13内の排気通路内)に配置され、通電により発熱する電気ヒータ14と、
(c)この電気ヒータ14の通電を行うECU15(エンジン・コントロール・ユニットの略:制御装置に相当する)と、
を備えて構成される。
【実施例】
【0015】
以下において本発明が適用された具体的な一例(実施例)を、図面を参照して説明する。実施例は具体的な一例を開示するものであって、本発明が実施例に限定されないことは言うまでもない。
なお、以下の実施例において上記[発明を実施するための形態]と同一符号は、同一機能物を示すものである。
【0016】
[実施例1]
実施例1を図1〜図6を参照して説明する。
車両用過給装置は、ターボチャージャ12を用いてエンジン(燃料の燃焼により回転動力を発生する内燃機関:ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等を問わない、レシプロエンジン、ロータリーエンジン等を問わない)に供給される吸気の過給を行うものである。
【0017】
ターボチャージャ12は、エンジンから排出される排気ガスのエネルギーによって、エンジンに吸い込まれる吸気を加圧する過給器であり、図1に示すように、
・エンジンから排出された排気ガスによって回転駆動されるタービン羽根車11と、
・このタービン羽根車11を収容する渦巻き形状のタービンハウジング13と、
・タービン羽根車11の回転力により駆動されて吸気を加圧するコンプレッサ羽根車16と、
・このコンプレッサ羽根車16を収容する渦巻き形状のコンプレッサハウジング17と、
・タービン羽根車11の回転をコンプレッサ羽根車16に伝達するシャフト18と、
・このシャフト18を高速回転自在に支持するベアリングハウジング19と、
を備えて構成される。
そして、ターボチャージャ12は、タービンハウジング13とコンプレッサハウジング17の間にベアリングハウジング19を配置し、Vバンド、スナップリング、ボルト等の結合手段を用いて結合される。
【0018】
タービン羽根車11は、シャフト18に結合されて回転自在に支持されるハブと、このハブの周囲に形成される複数のタービン羽根とで構成される。
なお、タービン羽根における最外周の端縁はリーディングエッジと称され、タービン羽根における排気下流側の端縁はトレーリングエッジと称され、リーディングエッジとトレーリングエッジの間のタービン羽根の外周側端縁はシュラウドエッジと称される。
【0019】
タービンハウジング13の内部には、排気ガスをタービン羽根車11へ向けて吹き出す第1、第2排気スクロール21、22が設けられている。
第1排気スクロール21は、エンジンから排出された排気ガスを旋回させ、旋回させた排気ガスをタービン羽根車11の排気上流端部(リーディングエッジ)へ向けて吹き付ける第1排気出口21aを有する。
第2排気スクロール22は、エンジンから排出された排気ガスを第1排気スクロール21と同一方向へ旋回させ、旋回させた排気ガスをタービン羽根車11の途中部位(シュラウドエッジ)へ向けて吹き付ける第2排気出口22aを有する。
【0020】
タービンハウジング13の内部には、図2(a)示すように、第1排気スクロール21と第2排気スクロール22を区画する仕切壁23が設けられている。
第1排気スクロール21の排気上流部は、タービンハウジング13の排気入口(エキゾーストマニホールドとの接続口)と常に連通し、排気ガスが常時第1排気スクロール21に供給されるように設けられている。
【0021】
また、第1排気スクロール21の排気上流部は、図2(a)示すように、仕切壁23によって排気下流方向に向かって絞られている。
この絞り部を形成する仕切壁23には、第1排気スクロール21と第2排気スクロール22とを連通する容量可変用連通穴24が形成されている。この容量可変用連通穴24は、容量可変バルブ25によって開閉される。
この容量可変バルブ25は、図示しない電動アクチュエータを介してECU15により開閉制御および開度制御されるものであり、容量可変バルブ25が容量可変用連通穴24の開度調整を行なうことで、第2排気スクロール22からタービン羽根車11に向かう排気ガス量のコントロールがなされる。
【0022】
第2排気スクロール22の外壁には、図2(a)示すように、第2排気スクロール22に導かれた排気ガスの一部を、タービン羽根車11を迂回(バイパス)させて排気下流側(マフラー側)に導くウエストゲート用連通穴26が形成されている。このウエストゲート用連通穴26は、ウエストゲートバルブ27によって開閉される。
このウエストゲートバルブ27は、図示しない電動アクチュエータを介してECU15により開閉制御および開度制御されるものであり、ウエストゲートバルブ27がウエストゲート用連通穴26の開度調整を行なうことで、タービン羽根車11を迂回する排気ガス量のコントロールがなされる。
【0023】
なお、容量可変バルブ25とウエストゲートバルブ27は、「それぞれ独立した2つの電動アクチュエータ」によって駆動されるものであっても良いし、「1つの電動アクチュエータ」と「回動特性の変換を行うリンク装置」とを用いて駆動されるものであっても良い。
【0024】
この実施例の車両では、エンジンの排気出口からタービン羽根車11までの間の排気通路内に、通電により発熱する電気ヒータ14が搭載されている。
具体的な一例として、この実施例では、電気ヒータ14がタービンハウジング13内における排気通路内に配置されている。
さらに具体的な一例として、この実施例では、図2(a)示すように、電気ヒータ14が第1排気スクロール21における排気通路内(容量可変用連通穴24の形成部位と第1排気出口21aとの間の排気通路内)に配置されている。
【0025】
電気ヒータ14の種類は限定されるものではないが、具体的な一例としてこの実施例では温度上昇に応じて抵抗値が上昇する正の温度係数を有するPTCサーミスタを発熱体としたセラミックヒータを用いるものである。
この電気ヒータ14は、第1排気スクロール21の通路内形状に合致するように形成され、第1排気スクロール21内に装着した後、図示しない固定手段(ネジ等)を用いてタービンハウジング13内に固定されるものである。
もちろん、電気ヒータ14は、第1排気スクロール21内を排気ガスが容易に通過できるように通過抵抗が抑えらるものであり、具体的な一例としてこの実施例では断面形状が格子形状を成すハニカムヒータを採用するものである。
【0026】
この電気ヒータ14は、ECU15により通電状態が制御される。
具体的に電気ヒータ14は、車両に搭載されたバッテリ28から電力の供給を受けるものであり、電気ヒータ14とバッテリ28の間に介在されたコントローラ29(例えば、リレーやスイッチ素子等を用いた通電の断続手段)によって電気ヒータ14の通電と非通電が切り替えられる。このコントローラ29がECU15により制御されるものであり、ECU15がコントローラ29を制御することで、結果的に電気ヒータ14の通電状態の制御が実施される。
【0027】
上述したように、容量可変バルブ25、ウエストゲートバルブ27および電気ヒータ14は、ECU15により作動制御(開閉制御および通電制御)がなされる。
ECU15は、CPUやメモリを搭載する周知のコンピュータを用いた電子制御装置であり、エンジン運転状態(運転者の操作状態を含む)に基づいて容量可変バルブ25、ウエストゲートバルブ27および電気ヒータ14の作動制御を実施する。
【0028】
ECU15は、排気エネルギーが小さく、且つ大きなエンジン出力が要求される場合に電気ヒータ14を通電するものであり、ECU15にはエンジン回転数が低く、エンジンに要求される要求負荷(アクセル開度など)が大きい場合に電気ヒータ14を通電するヒータ制御手段(制御プログラム)が設けられている。
具体的にECU15には、エンジン回転数とエンジン要求負荷に基づいて電気ヒータ14の通電を実施するヒータ制御用のマップが搭載(記憶)されており、エンジン運転状態とマップに基づいて電気ヒータ14の通電を実施するように設けられている。
【0029】
また、この実施例のECU15には、冷却水温(エンジンを循環する冷却水の温度)、油温(エンジン潤滑用オイルの温度)、排気温度(エンジンとターボチャージャ12の間に介在されるエキゾーストマニホールドの温度)が各センサ類によって読み込まれる。
そして、ECU15は、上述した制御により電気ヒータ14の通電を実施する際、
(i)冷却水温が所定水温より低い時、
(ii)油温が所定油温より低い時、
(iii)排気温度が所定排気温より低い時、
のいずれかの場合に、電気ヒータ14の通電時間を長くする低温時延長手段(制御プログラム)が設けられている。
なお、電気ヒータ14の通電延長時間は、固定タイプであっても良いし、検出温度に応じて延長時間を可変する可変タイプであっても良い。
【0030】
さらに、この実施例のECU15には、エンジンの冷間始動直後におけるファーストアイドル時など、始動直後のエンジン暖機時に電気ヒータ14を通電して、ターボチャージャ12の排気下流側の排気通路の途中に配置される触媒を積極的に加熱する暖機促進手段(制御プログラム)が設けられている。
また、この実施例の暖機促進手段は、エンジン暖機時に電気ヒータ14を通電する際、ウエストゲートバルブ27を開くように設けられ、タービン羽根車11を迂回した排気ガス(タービン羽根車11に熱を奪われていない高温の排気ガス)が触媒を加熱するように設けられている。
【0031】
次に、ECU15による容量可変バルブ25、ウエストゲートバルブ27および電気ヒータ14の作動を、モード1〜5の5つに分類して説明する(表1参照)。
【表1】

【0032】
(i)モード1は、排気ガスの全てを第1排気スクロール21のみに流すとともに、第1排気スクロール21を通過してタービン羽根車11に供給される排気ガスを電気ヒータ14で加熱する運転モードであり、図3(a)に示すように、容量可変バルブ25とウエストゲートバルブ27が共に閉じられた状態で、電気ヒータ14の通電を行う運転モードである。
具体的にこのモード1は、図4に示すように、エンジン回転数が低くエンジン要求負荷が大きい場合(加速開始時等)の初期(ターボラグが発生している状態)に選択される運転モードである。
【0033】
(ii)モード2は、モード1と同様、排気ガスの全てを第1排気スクロール21のみに流すものであるが、モード1とは異なり電気ヒータ14を通電しない運転モードであり、図3(a)に示すように、容量可変バルブ25とウエストゲートバルブ27が共に閉じられた状態で、電気ヒータ14の通電が停止される運転モードである。
具体的にこのモード2は、図4に示すように、
・エンジン回転数が低くエンジン要求負荷が大きい場合に選択される運転モードである。
【0034】
(iii)モード3は、排気ガスの全てを第1、第2排気スクロール21、22のみに流すとともに、電気ヒータ14を通電しない運転モードであり、図3(b)に示すように、容量可変バルブ25が開かれ、ウエストゲートバルブ27が閉じられた状態で、電気ヒータ14の通電が停止される運転モードである。
具体的にこのモード3は、図4に示すように、
・エンジン回転数が低くエンジン要求負荷が中程度の場合、
・エンジン回転数が中程度でエンジン要求負荷が中程度の場合、
・エンジン回転数が中程度でエンジン要求負荷が大きい場合に選択される運転モードである。
【0035】
(iv)モード4は、排気ガスの一部をタービン羽根車11を迂回させるとともに、電気ヒータ14を通電しない運転モードであり、図3(c)に示すように、容量可変バルブ25とウエストゲートバルブ27が共に開かれた状態で、電気ヒータ14の通電が停止される運転モードである。
具体的にこのモード4は、図4に示すように、
・エンジンがアイドル状態の場合、
・エンジン回転数が低くエンジン要求負荷が小さい場合、
・エンジン回転数が中程度でエンジン要求負荷が小さい場合、
・エンジン回転数が高くエンジン要求負荷が大きい場合、
・エンジン回転数が高くエンジン要求負荷が中程度の場合、
・エンジン回転数が高くエンジン要求負荷が小さい場合に選択される運転モードである。
【0036】
(v)モード5は、モード4と同様、排気ガスの一部をタービン羽根車11を迂回させるものであるが、モード4とは異なり第1排気スクロール21を通過してタービン羽根車11に供給される排気ガスを電気ヒータ14で加熱する運転モードであり、図3(c)に示すように、容量可変バルブ25とウエストゲートバルブ27が共に開かれた状態で、電気ヒータ14の通電を行う運転モードである。
具体的にこのモード5は、図4に示すように、冷間始動時におけるファーストアイドル時など、触媒の素早い加熱が要求される場合に選択される運転モードである。
【0037】
各運転モード(モード1〜5)の選択例を図5、図6に示す。
図5は、アイドル状態からスロットル開度を全開にした場合の運転モードの変移を示すタイムチャートであり、図5の最下段に示すように、アイドル状態からの加速開始時にモード1が選択されて、電気ヒータ14が通電されるように設けられている。
【0038】
また、図6は、電気ヒータ14の通電時間の延長を示すタイムチャートであり、
(i)冷却水温が所定水温より低い時、
(ii)油温が所定油温より低い時、
(iii)排気温度が所定排気温より低い時、
のいずれかの場合、図6の最下段に示すように、図5に比較して(図6中の破線参照)、電気ヒータ14の通電時間が延長されるものである。
【0039】
(実施例の効果1)
この実施例のターボチャージャ12は、上述したように、電気ヒータ14を発熱させることで、タービン羽根車11に供給される排気エネルギーを高めることができる。
このため、排気ガスによるタービン羽根車11の駆動力を高めることができ、過給圧の上昇を図ってエンジンの出力トルクを向上できる。その結果、燃費の向上やターボラグの改善によりドライバビリティの向上を図ることができる。
【0040】
(実施例の効果2)
この実施例のターボチャージャ12は、上述したように、電気ヒータ14をタービンハウジング13内の排気通路の内部に設けている。
これによって、電気ヒータ14からタービン羽根車11までの距離を短くでき、電気ヒータ14で加熱された排気ガスの熱が周囲に奪われるのを抑えて、電気ヒータ14で加熱された高温の排気ガスをタービン羽根車11に与えることができる。この結果、電気ヒータ14の通電が開始されてから過給圧が上昇するまでの時間を最小に抑えてドライバビリティの向上を図ることができる。さらに、電気ヒータ14の発熱ロスを抑えることができ、電気ヒータ14の電力消費を抑えて過給圧の上昇を図ることができる。
【0041】
(実施例の効果3)
この実施例のターボチャージャ12は、上述したように、電気ヒータ14を第1排気スクロール21(小容量側)の排気通路内のみに設けている。
これにより、電気ヒータ14によって加熱する範囲を小さくすることができ、電気ヒータ14の小型化が可能になる。その結果、電気ヒータ14のコストを抑えるとともに、電力消費を抑えてバッテリ負荷を小さくすることができる。
また、電気ヒータ14の小型化に伴って電気ヒータ14が軽量化されるため、車両重量を軽減することで燃費を向上することができる。
【0042】
(実施例の効果4)
この実施例のターボチャージャ12は、上述したように、エンジンの回転数とエンジンに要求される要求負荷に応じて電気ヒータ14を通電制御する。具体的には、エンジン回転が低くて排気エネルギーが低下している状態で、且つ大きなエンジン出力が要求される加速開始時に電気ヒータ14を通電している。
これにより、電気ヒータ14の通電範囲を必要時のみに抑えることができ、電気ヒータ14の電力消費を抑えることができるため、結果的に燃費を向上することができる。
【0043】
(実施例の効果5)
この実施例のターボチャージャ12は、上述したように、
(i)冷却水温が所定水温より低い時、
(ii)油温が所定油温より低い時、
(iii)排気温度が所定排気温より低い時、
のいずれかの場合、電気ヒータ14の通電時間を延長する。
冷却水温や油温の温度低下時に電気ヒータ14の通電時間を長くすることで、過給圧を高めてエンジン出力を大きくすることにより、「潤滑用のオイルの粘度が高い」ことによるドライバビリティの悪化を防ぐことができる。
あるいは、排熱温度の低下時に電気ヒータ14の通電時間を長くすることで、過給圧を高めてエンジン出力を大きくして「排熱温度の低下」によるドライバビリティの悪化を防ぐことができる。
【0044】
(実施例の効果6)
この実施例のターボチャージャ12は、上述したように、冷間始動時におけるエンジンの暖機時(ファーストアイドル時等)に電気ヒータ14を通電する。
これにより、電気ヒータ14で加熱された高温の排気ガスによってターボチャージャ12の排気下流側に配置された触媒を加熱することができるため、触媒の早期暖機が可能になり、排気エミッションの低減と、燃費の改善を両立させることができる。
【0045】
(実施例の効果7)
この実施例のターボチャージャ12は、上述したように、冷間始動時におけるエンジンの暖機時(ファーストアイドル時等)に電気ヒータ14を通電する際に、ウエストゲートバルブ27を開く。
これにより、電気ヒータ14で加熱された排気ガスによって触媒を加熱することに加えて、ウエストゲートバルブ27を通過した高温の排気ガス(タービン羽根車11で熱を奪われていない高温の排気ガス)によって触媒を加熱することができるため、触媒のさらなる早期暖機を実現でき、排気エミッションの低減効果をより大きくすることができる。
【0046】
[実施例2]
実施例2を図7および図8を参照して説明する。なお、この実施例2において上記実施例1と同一符号は、同一機能物を示すものである。
上記の実施例1のウエストゲートバルブ27は、容量可変バルブ25を通過した排気ガスをバイパスさせる例を示し、容量可変バルブ25が開かれていない状態では排気ガスのバイパスが行うことができないものであった。
これに対し、この実施例2のウエストゲートバルブ27は、容量可変バルブ25より排気上流側にウエストゲート用連通穴26が設けられて、容量可変バルブ25より排気上流側の排気ガスをバイパスさせるものであり、容量可変バルブ25の開閉状態に関わらずに排気ガスのバイパスが可能なものである。
【0047】
次に、この実施例2における容量可変バルブ25、ウエストゲートバルブ27および電気ヒータ14の作動を、モード1〜5の5つに分類して説明する(表2参照)。
【表2】

【0048】
モード1〜4は、実施例1と同じ作動を実行するものである。
なお、
・モード1、2では図8(a)に示すように容量可変バルブ25とウエストゲートバルブ27が共に閉じられて第1排気スクロール21のみに排気ガスが導かれ、
・モード3では図8(b)に示すように容量可変バルブ25が開かれ、ウエストゲートバルブ27が閉じられて、第1、第2排気スクロール21、22の両方へ排気ガスが導かれ、
・モード4では図8(c)に示すように容量可変バルブ25とウエストゲートバルブ27が共に開かれて、第1、第2排気スクロール21、22の両方へ排気ガスが導かれるとともに、排気ガスの一部がタービン羽根車11をバイパスするものである。
【0049】
モード5は、実施例1と同様、電気ヒータ14を通電して第1排気スクロール21を通過してタービン羽根車11に供給される排気ガスを電気ヒータ14で加熱するとともに、排気ガスの一部をタービン羽根車11を迂回させて高温の排気ガスを触媒に導く運転モードであるが、図8(d)に示すように、実施例1とは異なり容量可変バルブ25を閉じて、第2排気スクロール22からタービン羽根車11への排気通路を閉塞するものである。
【0050】
このモード5では、第2排気スクロール22が閉じられるため、タービン羽根車11に導かれる排気ガス量を、実施例1に比較して抑えることができる。即ち、冷間始動時のファーストアイドル時等においてタービン羽根車11に熱を奪われる排気ガスの割合を減らすことができる。
これにより、上述した「実施例の効果7」を更に高めることができる。
即ち、冷間始動時におけるエンジンの暖機時(ファーストアイドル時等)に電気ヒータ14を通電してウエストゲートバルブ27を開く際に、第2排気スクロール22が閉じられるため、タービン羽根車11で熱を奪われていない高温の排気ガスを大量に触媒に導くことができ、触媒のさらなる早期暖機が可能になり、排気エミッションの低減効果をより大きくすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
上記の実施例では、電気ヒータ14をON−OFF制御する例を示したが、エンジン運転状態に応じて電気ヒータ14の通電量をデューティ比制御等を用いて連続的あるいは段階的に可変制御しても良い。
【0052】
上記の実施例では、エンジン回転数が低くエンジン要求負荷が大きい場合(加速開始時等)に電気ヒータ14を通電する例を示したが、電気ヒータ14もON条件は実施例に限定されるものではなく、例えばエンジン回転数がアイドルよりも少量増加している場合であっても、
(i)冷却水温が所定水温より低い時、
(ii)油温が所定油温より低い時、
(iii)排気温度が所定排気温より低い時、
の少なくともいずれかの場合で、エンジン要求負荷が大きい場合に電気ヒータ14を通電して排気エネルギーを高めるように設けても良い。
【0053】
上記の実施例では、触媒が搭載されていることからも解るように、ガソリンエンジンのターボチャージャ12に本発明を適用する例を示したが、触媒を搭載しないエンジン(例えばディーゼルエンジン等)のターボチャージャ12に本発明を適用しても良い。
【符号の説明】
【0054】
11 タービン羽根車
12 ターボチャージャ
13 タービンハウジング
14 電気ヒータ
15 ECU(制御装置)
21 第1排気スクロール
21a 第1排気出口
22 第2排気スクロール
22a 第2排気出口
26 ウエストゲート用連通穴
27 ウエストゲートバルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンから排出された排気ガスにより回転駆動されるタービン羽根車(11)を有するターボチャージャ(12)を用いた車両用過給装置において、
この車両用過給装置は、前記エンジンの排気出口から前記タービン羽根車(11)までの間の排気通路内に配置され、通電により発熱する電気ヒータ(14)を備えることを特徴とする車両用過給装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用過給装置において、
前記ターボチャージャ(12)は、排気ガスを旋回させて前記タービン羽根車(11)に吹き付けるタービンハウジング(13)を備え、
前記電気ヒータ(14)は、前記タービンハウジング(13)内における排気通路内に設けられることを特徴とする車両用過給装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用過給装置において、
前記タービンハウジング(13)は、前記タービン羽根車(11)の排気上流側へ排気ガスを吹き付ける第1排気出口(21a)を有する第1排気スクロール(21)と、前記第1排気出口(21a)より排気下流側の前記タービン羽根車(11)へ排気ガスを吹き付ける第2排気出口(22a)を有する第2排気スクロール(22)とを備え、
前記電気ヒータ(14)は、前記第1排気スクロール(21)における排気通路内のみに設けられることを特徴とする車両用過給装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の車両用過給装置において、
前記電気ヒータ(14)の通電制御を行う制御装置(15)は、前記エンジンの回転数と前記エンジンに要求される要求負荷に応じて前記電気ヒータ(14)を通電制御することを特徴とする車両用過給装置。
【請求項5】
請求項4に記載の車両用過給装置において、
前記制御装置(15)は、前記エンジンを循環する冷却水の温度、前記エンジンを潤滑するオイルの温度、前記エンジンの排気出口から前記電気ヒータ(14)に至る排気ガスの温度のうちの少なくとも1つ温度に応じて前記電気ヒータ(14)の通電時間を変化させることを特徴とする車両用過給装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の車両用過給装置において、
前記電気ヒータ(14)の通電制御を行う制御装置(15)は、前記エンジンの暖機時に前記電気ヒータ(14)を通電することを特徴とする車両用過給装置。
【請求項7】
請求項6のいずれかに記載の車両用過給装置において、
前記ターボチャージャ(12)は、前記タービン羽根車(11)の排気上流側の排気ガスを、前記タービン羽根車(11)を迂回させて、前記タービン羽根車(11)の排気下流側へ導くウエストゲート用連通穴(26)の開閉を行うウエストゲートバルブ(27)を備え、
前記制御装置(15)は、前記電気ヒータ(14)の通電制御の他に、前記ウエストゲートバルブ(27)の開閉制御を行うものであり、前記エンジンの暖機時に、前記電気ヒータ(14)を通電するとともに、前記ウエストゲートバルブ(27)を開くことを特徴とする車両用過給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−19342(P2013−19342A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153850(P2011−153850)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】