説明

車両用電動パワーステアリング装置

【課題】ナイトビジョン装置が歩行者を認識したときに、車両挙動をより安定化させることができる車両用電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】少なくとも操舵トルクに応じて電動アシストモータ16による操舵アシスト量を制御する車両用電動パワーステアリング装置1において、車両挙動に応じて前記操舵アシスト量を補正する補正部(反力制御部22、補正ゲイン算出部23)を備え、補正部は、運転者の車外の生体に対する認識を支援するナイトビジョン装置2が歩行者を認識しているときには、歩行者を認識していないときよりも操舵アシスト量に対する補正量を増大させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用電動パワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両操舵時の運転者の操舵力を軽減する車両用電動パワーステアリング装置には、操舵トルクに応じて操舵アシスト量を制御するものがある。この電動パワーステアリング装置では、一般的に、操舵トルクが大きくなるほど電動アシストモータで発生させるアシストトルク(操舵アシスト量)を増大させ、操舵トルクが小さくなるほどアシストトルクを減少させるように制御する。
また、電動パワーステアリング装置には、車両挙動に応じて前記アシストトルクを補正し、車両挙動の安定化を図るものも知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、夜間等で運転者が歩行者等の生体を認識し難い状況において、赤外線カメラ等で得た画像等に基づいて生体を検出し、表示装置上にシルエットとして表示することにより、運転者の生体に対する認識を支援する生体認識支援装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2007−168618号公報
【特許文献2】特開2006−153777号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記生体認識支援装置を備えた車両では、生体認識支援装置が生体を認識したときには、不測の事態に備えて車両挙動をより安定化させたいという要望がある。
【0005】
そこで、この発明は、生体認識支援装置が生体を認識したときに、車両挙動をより安定化させることができる車両用電動パワーステアリング装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る車両用電動パワーステアリング装置では、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
請求項1に係る発明は、少なくとも操舵トルクに応じて電動アシストモータ(例えば、後述する実施例における電動アシストモータ16)による操舵アシスト量を制御する車両用電動パワーステアリング装置(例えば、後述する実施例における電動パワーステアリング装置1)において、車両挙動に応じて前記操舵アシスト量を補正する補正部(例えば、後述する実施例における反力制御部22、補正ゲイン算出部23)を備え、該補正部は、運転者の車外の生体に対する認識を支援する生体認識支援装置が生体を認識しているときには、生体を認識していないときよりも前記操舵アシスト量に対する補正量を増大させることを特徴とする車両用電動パワーステアリング装置である。
生体認識支援手段が生体を認識しているときには運転環境が視界不良時であると推測することができる。生体認識支援装置が生体を認識しているときに、生体を認識していないときよりも前記操舵アシスト量に対する補正量を増大させることにより、夜間等の視界不良時に不測の事態に対応する際に車両挙動をより安定化させることができる。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に係る発明によれば、生体認識支援手段が生体を認識している間は、生体を認識していないときよりも操舵アシスト量に対する補正量を増大させることにより、夜間等の視界不良時に不測の事態に対応する際に車両挙動をより安定化させることができるので、夜間等の視界不良時にも安定した走行が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、この発明に係る車両用電動パワーステアリング装置の実施例を図1および図2の図面を参照して説明する。
図1の構成図に示すように、車両は、電動パワーステアリング装置1とナイトビジョン装置(生体認識支援装置)2を備えている。
【0009】
初めに、ナイトビジョン装置2を説明する。ナイトビジョン装置2は、車両のフロントバンパ下部等に設置され車両前方を指向する左右一対の赤外線カメラ31,32と、検出結果画像を表示するヘッドアップディスプレイ装置(以下、HUDと略す)33と、スピーカ等からなる警報装置34と、ナイトビジョン制御部30とを備えている。
【0010】
左右の赤外線カメラ31,32は遠赤外線を検出することにより高温部ほど高輝度となる赤外線画像を撮像し、ナイトビジョン制御部30へ出力する。
HUD33は、車両のインスツルメントパネル上部の運転席の正面位置において運転者の前方視界を妨げないように設けられている。HUD33の映像表示部は凹面ミラーで構成され、インスツルメントパネル内部からの映像を反射・投影する。
【0011】
ナイトビジョン制御部30は、左右の赤外線カメラ31,32から得られたステレオ赤外線画像に基づいて、両画像の視差から熱源対象物を検出してHUD33上で白いシルエットとして映し出す。さらに、熱源対象物の中から歩行者(生体)を特定すると、注意喚起のために警報装置34を作動すると同時に、HUD33上に映し出された歩行者を目立つ色の枠で囲んで強調表示する。この注意喚起機能は、所定の速度域において歩行者の位置に到達するまでの時間を予測し、充分な回避操作が行えるタイミングで注意喚起を行う。
【0012】
また、ナイトビジョン制御部30は、歩行者を認識しているときには歩行者認識フラグNIGHT_F=1を、歩行者を認識していないときには歩行者認識フラグNIGHT_F=0を、それぞれナイトビジョン情報として電動パワーステアリング装置1のEPS制御装置20へ出力する。
【0013】
次に、電動パワーステアリング装置1について説明する。電動パワーステアリング装置1は、操舵アシストトルクを発生させる電動アシストモータ(以下、アシストモータと略す)16と、アシストモータ16の回転数を検出するモータ回転数センサ12と、ステアリングシャフトに印加される操舵トルクを検出する操舵トルクセンサ11と、車両の現在速度(車速)を検出する車速センサ13と、車両に発生するヨーレートを検出するヨーレートセンサ14と、車両の周囲の照度を検出する照度センサ15と、アシストモータ16を駆動するモータ駆動回路17と、EPS制御装置20と、を備えて構成されている。
操舵トルクセンサ11、モータ回転数センサ12、車速センサ13、ヨーレートセンサ14、照度センサ15は、それぞれ検出値に応じた出力信号をEPS制御装置20に出力する。
【0014】
EPS制御装置20は、EPS基本制御部21と、反力制御部(補正部)22と、補正ゲイン算出部(補正部)23を備えている。
EPS基本制御部21は、操舵トルクセンサ11、モータ回転数センサ12、車速センサ13の出力信号に基づいて、アシストモータ16のEPS基本制御量EPS_VALUEを算出する。EPS基本制御量EPS_VALUEの算出方法は公知の電動パワーステアリング装置と同じであるので詳細説明は省略するが、概略、アシストモータ16の回転数が大きくなるにしたがって(換言すると、操舵角速度が大きいほど)EPS基本制御量EPS_VALUEが小さくなり、操舵トルクが大きくなるにしたがってEPS基本制御量EPS_VALUEが大きくなり、車速が大きくなるにしたがってEPS基本制御量EPS_VALUEが小さくなるように設定される。
【0015】
反力制御部22は、ヨーレートセンサ14の出力信号に基づいて反力補正量CNT_VALUEを算出する。反力補正量CNT_VALUEは、例えば車両の旋回走行時などにおいてヨーレートが発生したときに、このヨーレートを打ち消す方向のトルクを発生させる反力成分であり、ヨーレートが大きくなるにしたがって反力補正量CNT_VALUEが大きくなるように設定されている。
【0016】
補正ゲイン算出部23は、車速センサ13と照度センサ15の出力、および、ナイトビジョン装置2から入力されるナイトビジョン情報(歩行者認識フラグNIGHT_F)に基づいて、反力補正量CNT_VALUEに対する補正ゲインNight_Gainを算出する。
【0017】
補正ゲイン算出部23において実行される補正ゲイン算出処理を図2を参照して説明する。
まず、車速センサ13により検出された車速に基づいて車速フラグF_Vの値を設定する。この実施例では、車速が所定値未満のとき(低中速)には車速フラグF_V=0に設定し、車速が前記所定値以上のとき(高速)には車速フラグF_V=1に設定する。
また、照度センサ15により検出された照度に基づいて照度フラグF_Luxの値を設定する。この実施例では、照度が所定値以下のとき(夜間)には照度フラグF_Lux=1に設定し、照度が所定値を越えるとき(昼間)には照度フラグF_Lux=0に設定する。
【0018】
そして、車速フラグF_Vおよび照度フラグF_Luxの値と、ナイトビジョン制御部30から出力される歩行者認識フラグNIGHT_Fの値が、AND回路24に入力される。AND回路24は、車速フラグF_V=1、且つ、照度フラグF_Lux=1、且つ、歩行者認識フラグNIGHT_F=1のときに、補正フラグF_HOSEI=1の値をスイッチ25出力し、車速フラグF_Vと照度フラグF_Luxと歩行者認識フラグNIGHT_Fのうち少なくとも1つが0のときに、補正フラグF_HOSEI=0の値をスイッチ25へ出力する。
【0019】
スイッチ25は、補正フラグF_HOSEI=0が入力されたときには、反力補正量CNT_VALUEに対する補正ゲインNight_Gainとして「1.0」を出力するように動作し、補正フラグF_HOSEI=1が入力されたときには、反力補正量CNT_VALUEに対する補正ゲインNight_Gainとして「1.5」を出力するように動作する。
【0020】
すなわち、ナイトビジョン装置2が歩行者を認識していないとき、あるいは、ナイトビジョン装置2が歩行者を認識しているが車速が所定値未満(中低速)であるとき、あるいは、ナイトビジョン装置2が歩行者を認識しているが照度が所定値を越えているとき(昼間)には、補正フラグF_HOSEI=0がスイッチ25に入力されるので、このときには補正ゲイン算出部23において補正ゲインNight_Gainとして「1.0」が算出されることとなる。
【0021】
また、ナイトビジョン装置2が歩行者を認識しており、且つ、車速が所定値以上(高速)であり、且つ、照度が所定値以下であるとき(夜間等)には、補正フラグF_HOSEI=1がスイッチ25に入力されるので、このときには補正ゲイン算出部23において補正ゲインNight_Gainとして「1.5」が算出されることとなる。
【0022】
そして、EPS制御装置20は、反力制御部22により算出された反力補正量CNT_VALUEに、補正ゲイン算出部23により算出された補正ゲインNight_Gainの値を乗じてEPS補正制御量EPS_HOSEI_VALUEを算出し、EPS基本制御部21により算出されたEPS基本制御量EPS_VALUEからEPS補正制御量EPS_HOSEI_VALUEを減算して、アシストモータ16の目標電流Ioを求め、この目標電流Ioをモータ駆動回路17へ出力する。つまり、この実施例では、ヨーレートに基づいて車両挙動を推定し、車両挙動を安定する方向へアシストモータ16に対する制御量を補正する。
モータ駆動回路17では、アシストモータ16の実電流が前記目標電流Ioと一致するように、フィードバック制御が行われる。
【0023】
このように構成された電動パワーステアリング装置1によれば、ナイトビジョン装置2が歩行者を認識しており、且つ、車速が所定値以上(高速)であり、且つ、照度が所定値以下であるとき(夜間等)には、補正ゲインNight_Gainが1.5であり、ナイトビジョン装置2が歩行者を認識していないときの補正ゲインNight_Gain=1.0よりも大きい値に設定されるので、ナイトビジョン装置2が歩行者を認識していないときよりもEPS補正制御量EPS_HOSEI_VALUEが大きい値となり、車両挙動をより安定化させた操舵アシストを行うことができる。
【0024】
ここで、ナイトビジョン装置2が歩行者を認識しているときには運転環境が視界不良時であると推測することができるので、この電動パワーステアリング装置1によれば、夜間等の視界不良時に不測の事態に対応する際に車両挙動をより安定化させることができる。よって、夜間等の視界不良時にも安定した走行が可能となる。
【0025】
特に、この実施例では、ナイトビジョン装置2が歩行者を認識していても、低中速走行の場合にはEPS補正制御量EPS_HOSEI_VALUEを通常値とし、高速走行時にのみEPS補正制御量EPS_HOSEI_VALUEを通常値より増大させているので、高速時に車両挙動をより安定化させることができる。
【0026】
また、この実施例では、周囲の照度が所定値以下の場合のみEPS補正制御量EPS_HOSEI_VALUEを通常値より増大させているので、歩行者の行動予測が困難な暗いときに車両挙動をより安定化させることができる。
【0027】
〔他の実施例〕
なお、この発明は前述した実施例に限られるものではない。
例えば、前述した実施例では、生体を歩行者としたが、生体は人間に限られるものではなく、犬、鹿、熊等の動物の場合もあり得る。
【0028】
また、前述した実施例では、操舵アシスト量に対する補正量を通常値よりも増大させる場合の条件として、(1)生体認識支援装置による生体の認識と、(2)車速が所定値以上であることと、(3)周囲の照度が所定値以下であることの、3つの条件を全て満たしたときとしたが、前記(1)の条件を満たしたときに操舵アシスト量に対する補正量を通常値よりも増大させてもよいし、あるいは前記(1)と(2)の条件を満たしたときに操舵アシスト量に対する補正量を通常値よりも増大させてもよいし、あるいは前記(1)と(3)の条件を満たしたときに操舵アシスト量に対する補正量を通常値よりも増大させてもよい。
【0029】
また、EPS補正制御量EPS_HOSEI_VALUEを通常値より増大させるときの補正ゲインNight_Gainの値「1.5」はあくまで例示であり、通常時の補正ゲインNight_Gainの「1」よりも大きい値であれば、適宜の値に設定可能である。
【0030】
また、前述した実施例では、ヨーレートセンサで検出されるヨーレートから車両挙動を推定し、検出されたヨーレートに応じて操舵アシスト量に対する補正量求めているが、車両挙動の推定はこれに限るものではない。例えば、操舵角と車速に基づいて算出される規範ヨーレートとヨーレートセンサにより検出された検出ヨーレートとの偏差(以下、ヨーレート偏差と略す)に基づいて車両挙動を推定し、ヨーレート偏差に応じて操舵アシスト量に対する補正量を求めてもよい。あるいは、これらを組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】この発明に係る車両用電動パワーステアリング装置の実施例における構成図である。
【図2】実施例における補正ゲイン算出部のブロック図である。
【符号の説明】
【0032】
1 電動パワーステアリング装置
16 電動アシストモータ
22 反力制御部(補正部)
23 補正ゲイン算出部(補正部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも操舵トルクに応じて電動アシストモータによる操舵アシスト量を制御する車両用電動パワーステアリング装置において、
車両挙動に応じて前記操舵アシスト量を補正する補正部を備え、
該補正部は、運転者の車外の生体に対する認識を支援する生体認識支援装置が生体を認識しているときには、生体を認識していないときよりも前記操舵アシスト量に対する補正量を増大させることを特徴とする車両用電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−42717(P2010−42717A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−206774(P2008−206774)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】