説明

車両用駆動システム

【課題】少ない電力損失で、複数ある蓄電装置のそれぞれに入出する電力を、各蓄電装置の状態に応じて制御する。
【解決手段】駆動源としてモータ2を備えた電動車両用の駆動システム1は、モータ2を駆動させるインバータ6a,6bと、インバータ6a,6bに接続された蓄電装置7a,7bと、をそれぞれ有する複数の電源回路3a,3bを有している。これら複数の電源回路3a,3bの内、各電源回路3a,3bに設けられたインバータ6a,6bを制御する制御装置5は、電源回路3a,3bのそれぞれに入出する電力の配分を、各電源回路3a,3bの蓄電装置7a,7bの状態に基づいて調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電気自動車や、ハイブリッド自動車などの電動車両に搭載される車両用駆動システムに関し、詳しくは、その電源システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題の高まりを受けて、例えば、ハイブリッド自動車や、電気自動車など、駆動源として電動機(例えば、モータ・ジェネレータ(以下、単にモータという))を搭載した電動車両が盛んに研究されている。
【0003】
このような電動車両は、バッテリに蓄えられた電力によってモータを回転させて走行することができるため、排気ガスの排出が少ないと共に、エネルギー回生を行って燃費の向上を図ることもできる。しかしその一方で、バッテリを充電するのに時間を要し、特に電気自動車の場合、このバッテリの容量によって車両の航続可能距離が制限されてしまうため、バッテリの大容量化が望まれていた。
【0004】
一般に、電動車両用のバッテリとしては、ニッケル水素電池や、リチウムイオン電池などが使用されているが、これらの電池は、1つ当たりの電圧及び容量が規格によって、おおよそ統一されており、実際には、所望の電圧まで直列に組み合わされたセルを組み合わせて使用されている。
【0005】
具体的には、所定のバッテリ容量を確保するために、複数のセルを接続して一つのバッテリを構成するが、セルを全て直列で接続すると電圧が高くなり、インバータ及びモータに過大な負荷が生じるため、このセルを並列に接続して所定のバッテリ容量を確保している。
【0006】
そして、電動車両は、通常、車両に応じて上記バッテリを更に並列に接続して、車両の蓄電装置を構成している。
【0007】
ところで、上述したように、複数のバッテリを用いて蓄電装置を構成すると、配線長や、バッテリの内部抵抗及び温度などのバラつきによって、各バッテリの消費電力に差が生じる。そのため、消費電力の大きなバッテリが、他のバッテリに比してバッテリ残量が早く少なくなり、この消費電力の大きなバッテリによって車両の航続距離が制限されてしまうことがあった。
【0008】
そこで、従来、並列に配列された各バッテリに対してコンバータを接続し、このコンバータを制御して、各バッテリのバッテリ残量を一定になるように制御する電源システムが案出されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−33785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1に記載のように、コンバータを各バッテリに接続すると、バッテリ同士を並列に配置しているものであっても、各バッテリのバッテリ残量を一定になるように制御できるが、バッテリに入出する電流は、必ずこのコンバータを通ることとなる。
【0011】
即ち、複数のバッテリを並列に接続した場合、これら複数のバッテリで1つの蓄電装置を形成しているため、この蓄電装置内のバッテリ間の充放電を制御しようとすると、モータを駆動させるインバータの他に、上記コンバータなどのバッテリを制御する装置が必ず必要となる。
【0012】
しかしながら、このようなコンバータは、内部にリアクトルやダイオードを有しており、バッテリに入出する電流がこれらリアクトルやダイオードを通ることによって、電力損失を生じるという問題があった。
【0013】
そこで、本発明は、蓄電装置及びインバータを有する複数の電源回路を電気的に独立して設け、これら独立した複数の電源回路の各蓄電装置が充放電する電力を、コンバータなどの装置を介さずに、蓄電装置の状況に応じて調整可能にすることによって、上記課題を解決した車両用駆動システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、走行用の電動機(2)を備えた車両用駆動システム(1)において、
前記電動機(2)を駆動させるインバータ(6a,6b)と、前記インバータ(6a,6b)に接続された蓄電装置(7a,7b)と、をそれぞれ有する複数の電源回路(3a,3b)と、
前記複数の電源回路(3a,3b)の各インバータ(6a,6b)を制御する制御装置(5)と、を備え、
前記制御装置(5)は、前記複数の電源回路(3a,3b)の各電源回路(3a,3b)と、前記電動機(2)との間における電力の入出力量の配分を、前記複数の電源回路(3a,3b)の各電源回路(3a,3b)での蓄電装置(7a,7b)の状態に基づいて調整する、ことを特徴とする。
【0015】
具体的には、前記制御装置(5)は、前記複数の電源回路(3a,3b)の各電源回路(3a,3b)における前記蓄電装置(7a,7b)の電気量(SOC,SOC)が平準化されるように、前記電源回路間の電力配分を設定する。
【0016】
更に、前記制御装置(5)は、前記複数の電源回路(3a,3b)における前記蓄電装置(7a,7b)の平均温度(TAVG)又は、これら複数の蓄電装置(7a,7b)のいずれか1つの温度が所定の温度(T)以下の場合、前記複数の電源回路からの総和として前記電動機(2)に入出する電力を維持しつつ、前記複数の電源回路(3a,3b)の各電源回路(3a,3b)における前記蓄電装置(7a,7b)から入出する電力を増減させると好適である。
【0017】
また、前記制御装置(5)は、前記複数の電源回路の総和としての最大放電量(WOUTT)及び最大充電量(WINT)を演算し、前記電動機(2)の要求トルク(TREQ)に応じた電力(WREQ)が、前記最大放電量(WOUTT)もしくは最大充電量(WINT)を超えた場合、これら最大放電量(WOUTT)もしくは最大充電量(WINT)を、前記電動機(2)に供給する電力(WREQ)とすると共に、
各電源回路(3a,3b)に割り振られた電力(WREQ1,WREQ2)が、該電源回路(3a,3b)の蓄電装置(7a,7b)の許容放電量(WOUT1,WOUT2)もしくは許容充電量(WIN1,WIN2)を超えている場合、これら許容放電量(WOUT1,WOUT2)もしくは許容充電量(WIN1,WIN2)を超えた分の電力は、他の電源回路(3a,3b)に配分すると好適である。
【0018】
更に、前記電動機(2)は、複数組の巻線を有する多重巻線モータであり、
前記複数の電源回路(3a,3b)における各インバータ(6a,6b)は、前記多重巻線モータの巻線(2a,2b)にそれぞれ接続されてなると好適である。
【0019】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これは、発明の理解を容易にするための便宜的なものであり、特許請求の範囲の構成に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に係る発明によると、例えばバッテリなどの蓄電装置と、この蓄電装置に接続されたインバータと、を有して電源回路を形成すると共に、この電源回路を、互いの蓄電装置間で電力の入出がない状態で複数設けることによって、各電源回路の蓄電装置に入出する電力を、それぞれの電源装置の状態に応じて、インバータを介し制御装置によって制御することができる。また、上記各電源回路の蓄電装置に入出する電力を、必要最小限の構成で制御することができるため、各蓄電装置に入出する電力を制御する際の電力損失を抑制することができる。
【0021】
請求項2に係る発明によると、それぞれの電源回路の蓄電装置の電気量が平準化されるように、各電源回路に入出する電力を制御することによって、蓄電装置間の電気量のばらつきを抑えることができる。これにより、複数の蓄電装置間の電気量が均一となり、特定の蓄電装置だけが極端に電気量が少なくなることを防止でき、駆動システム全体に蓄電された電気を最後まで使用することができる。また、それぞれのバッテリを平均的に使用して行くため、蓄電装置の劣化を抑制し、蓄電装置を長く使用することができる。
【0022】
請求項3に係る発明によると、各電源回路の蓄電装置の平均温度又は、これら複数の蓄電装置のいずれかの温度が所定の温度以下の場合、複数の電源回路全体としての電動機への供給電力量は維持した状態で、各蓄電装置から入出する電力を増減させることによって、蓄電装置の内部発熱を促して蓄電装置の温度を上げることができる。そして、これにより、蓄電装置の温度を、速やかに最適な温度まで昇温させることができる。
【0023】
請求項4に係る発明によると、駆動システム全体での最大放電量及び最大充電量を算出することによって、電動機からの要求がこれらシステム全体の最大充放電量を超えたとしても、複数の電源回路全体として上記最大量を超えて電力を入出させようとすることを防止することができる。また、各蓄電装置に関しても許容充電量及び許容放電量を算出するため、個々の蓄電装置から入出する電力も許容量を超えることを防止することができる。更に、システム全体で入出する電力が最大量を超えないように制限されているため、個々の蓄電装置の許容量を超えた電力については、他の電源回路の蓄電装置に割振ることができる。
【0024】
請求項5に係る発明によると、電動機を複数の巻線組の巻線を有する多重巻線モータによって構成したことによって、電動機を複数有していない車両に対しても、効率よく各蓄電装置の充放電量を管理することができると共に、高調波を相殺して電動機の効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用駆動システムを示すシステム図。
【図2】図1の車両用駆動システムの制御装置を示すブロック図。
【図3】本発明の実施形態に係る車両用駆動システムの平準化制御を示すフローチャート図。
【図4】本発明の実施形態に係る車両用駆動システムの昇温制御を示すフローチャート図。
【図5】(a)平準化制御を行った場合とそうでない場合のバッテリ残量の変化を示すグラフ、(b)昇温制御を行った場合の車速とバッテリ電力との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態に係る車両用駆動システムついて図面に沿って説明をする。なお、以下の説明中において、電動機とは、例えばモータなどの電気エネルギーを運動エネルギーに変換する電力機のことを指し、モータとは、単に回転駆動する狭義のモータではなく、エネルギー回生も行う広義のモータ(モータ・ジェネレータ)を意味する。また、蓄電装置の放電はプラスの値、蓄電装置の充電はマイナスの値で表すこととする。
【0027】
[車両用駆動システムの概要]
図1は、電気自動車(EV自動車)や、ハイブリッド自動車などに代表される電動車両の車両用駆動システム1を示すシステム図である。この車両用駆動システム1は、電動機2を回転させて車両の駆動輪を駆動させると共に、電動機2を回生させてエネルギーの回収を行うものであり、電動機2と、この電動機2に接続された電源回路3a,3bと、電動機2を制御する制御装置5と、を有している。
【0028】
上記電動車両の走行用の電動機2は、複数の相を有した巻線を複数組設けた多重巻線モータから構成されており、具体的には、それぞれ120度ずつずらされたU相、V相、W相の3相からなる3相巻線2a,2bを2組備えた3相2多重モータから構成されている。
【0029】
また、上記電源回路3a,3bは、上記巻線2a,2bに接続してモータ2に流れる電気を制御する3相インバータ6a,6bと、この3相インバータ6a,6bに接続された蓄電装置7a,7bと、を有して構成されており、該蓄電装置7a,7bは、例えば、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池、燃料電池及び大容量キャパシタや、これらの組み合わせからなるバッテリによって構成されている。
【0030】
ところで、3相インバータ6a,6bと蓄電装置7a,7bとからなる上記電源回路3a,3bは、モータ2の巻線数と同数設けられており、本実施形態においては、2組の3相巻線のうち、いずれか一方の3相巻線2aに接続した第1電源回路3aと、いずれか他方の3相巻線2bに接続した第2電源回路3bと、の2つの電源回路をシステム全体として有している。
【0031】
一方、上記モータ2を制御する制御装置(ECU)5は、各電源回路3a,3bのインバータ6a,6bにゲート駆動信号を出力して、上記3相2多重モータ2をPWM制御しており、モータ2の力行時には、上記第1及び第2電源回路3a,3bの第1及び第2インバータ6a,6bによって、これら第1及び第2インバータ6a,6bに接続された第1及び第2蓄電装置7a,7bからの直流電力を交流電力に変換して、モータ2の3相巻線2a,2bに供給するように構成されている。また、モータ2の回生時には、上記モータ2の巻線2a,2bに発生した交流電力を直流電力に変換して上記第1及び第2蓄電装置7a,7bに供給するように構成されている。
【0032】
ついで、上述した制御装置5について、より詳しく説明をする。図2に示すように、制御装置5の入力側には、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ9、ブレーキの操作量を検出するブレーキセンサ10、モータ2の回転数を検出するモータ回転数センサ11などが接続されている。
【0033】
また、各蓄電装置7a,7bには、蓄電装置の温度、電流、電圧などの情報を検出するセンサ群が設けられていると共に、これら蓄電装置のセンサ群が検出した情報に基づいて、蓄電装置の許容放電量WOUT、許容充電量WIN及びバッテリ残量SOCを演算する、バッテリ状態演算手段としての蓄電装置ECU12a,12bが設けられており、上記制御装置5の入力側には、これら蓄電装置ECU12a,12bも接続されている。
【0034】
一方、制御装置5の出力側には、上述した第1電源回路3aの第1インバータ6a及び第2電源回路3bの第2インバータ6bが接続されている。
【0035】
また、制御装置5は、上記第1及び第2インバータ6a,6bを制御するゲート駆動信号を生成するゲート駆動信号生成手段11を有しているおり、このゲート駆動信号生成手段13は、三角波発振器、などから構成されている。
【0036】
ところで、上記複数の電源回路3a,3bは、互いに独立して設けられている。そのため、制御装置5は、各電源回路3a,3bのインバータ6a,6bを制御することによって、複数の電源回路3a,3bの各電源回路3a,3bと、電動機2との間における電力の入出力量の配分を調整することができる。そして、上記制御装置5は、蓄電装置ECU12a,12bからの入力される各蓄電装置の情報に基づいて、上記各電源回路3a,3bに入出する電力の配分を調整するように構成されている。
【0037】
具体的には、制御装置5は、各電源回路3a,3bに入出する電力の配分に関連する部分として、アクセル開度、ブレーキ操作量及びモータ回転数に基づいて、モータ2の要求トルクWREQを演算する要求トルク演算手段15と、各電源回路3a,3bに入出する電力の配分を決める電力配分手段16と、を有している。
【0038】
また、上記電力配分手段16は、複数の電源回路全体、即ち、システム全体に入出する電力を制限するリミット手段17と、蓄電装置7a,7bの状態に応じて各電源回路3a,3bに入出する電力を配分する配分手段19と、各蓄電装置7a,7bの許容充放電量を超えて割り振られた電力を、他の蓄電装置に再配分する再配分手段20と、最終的に第1及び第2電源回路3a,3bに配分された割振電力をトルク換算するトルク換算手段21と、を有している。
【0039】
なお、上述した「電源回路を独立して設ける」とは、電気回路的に上記複数の電源回路の蓄電装置間が接続されておらず、これら蓄電装置間で電力のやりとりがなく、互いに独立した別系統の電気回路を形成していることを意味している。
【0040】
[平準化制御]
ついで、各蓄電装置のバッテリ残量を平準化する平準化制御について図3に基づいて説明をする。電動車両は、運転席に乗り込んだ運転者によって、アクセルペダルが操作されると、モータ2を駆動させて車両を走行させ、ブレーキが所定領域内で踏み込まれると、モータ2を回生させて車両を減速させる。
【0041】
上記電動車両の走行中、制御装置5は、まず、要求トルク演算手段15によって、入力されたアクセル開度、ブレーキ操作量、モータ回転数ωなどの情報を基に、モータ2の要求トルクTREQを演算する(S1)。
【0042】
そして、上記モータ2の要求トルクTREQが演算されると、リミット手段17が、この要求トルクTREQに上記モータ回転数ωを掛けて、モータ2の要求出力WREQを演算する(S7)。
【0043】
このリミット手段17は、上記モータの要求出力WREQを演算すると、第1蓄電装置ECU12aから入力された第1蓄電装置7aの最大放電量WOUT1と、第2蓄電装置ECU12bから入力された第2蓄電装置7bの最大放電量WOUT2とを足し合わせ、複数の電源回路3a,3bの総和としてのシステム最大放電量WOUTTを演算する(S8)。
【0044】
また、第1蓄電装置ECU12aから入力された第1蓄電装置7aの最大充電量WIN1と、第2蓄電装置ECU12bから入力された第2蓄電装置7bの最大充電量WIN2とを足し合せ、システム最大充電量WINTを演算する(S9)。
【0045】
そして、リミット手段17は、これらシステム最大放電量WOUTT及びシステム最大充電量WINTを演算し終わると、先に演算してあったモータ2の要求出力WREQと、これらシステム最大放電量WOUTT及びシステム最大充電量WINTと、を比較し、モータ2の要求出力WREQが上記システム最大放電量WOUTTを超えていた場合(WREQ>WOUTT)、モータ2の要求出力WREQをこのシステム最大放電量WOUTTに制限する(S10,S11)。また、モータ2の要求出力WREQが上記システム最大充電量WINTを超えていた(小さかった)場合(WREQ<WINT)、モータ2の要求出力WREQをシステム最大充電量WINTに制限する(S12,S13)。
【0046】
モータ2の要求出力WREQが決定すると、制御装置5は、配分手段19によって、第1蓄電装置7aのバッテリ残量SOCと、第2蓄電装置7bのバッテリ残量SOCとの差分(SOC―SOC)に基づいて、上記第1及び第2電源回路3a,3bに割り当てる出力配分比λを算出する(S14)。
【0047】
そして、この出力配分比λを算出すると、配分手段19は、出力配分比λに基づいて第1電源回路から入出する電力と、第2電源回路から入出する電力とを決定する(S15〜S17)。
【0048】
具体的には、上記出力配分比λは、0〜1の値の範囲で設定され、図3のステップS14のグラフに示すように、第1蓄電装置2aのバッテリ残量SOCと第2蓄電装置2Bのバッテリ残量SOCとの差分SOC―SOCを横軸に取ると、第2蓄電装置2bよりも第1蓄電装置2aのバッテリ残量が多い場合には、出力配分比λが0.5よりも大きく、第1蓄電装置2aよりも第2蓄電装置2bのバッテリ残量が多い場合には、出力配分比が0.5よりも小さくなるように設定される(S14)。
【0049】
そして、システム(蓄電装置)が放電する場合には(WREQ≧0)、第1電源回路2aの放電量WREQ1を、モータ2の要求出力WREQに出力配分比λを掛けたものとし、第2電源回路3bの放電量WREQ2を、モータ2の要求出力WREQに(1−λ)を掛けたものとする(S15,S16)。
【0050】
また、システムが充電する場合には(WREQ<0)、第1電源回路3aの充電量WREQ1を、モータ2の要求出力WREQに(1−λ)を掛けたものとし、第2電源回路3bの充電量WREQ2を、モータ2の要求出力WREQに出力配分比λを掛けたものとする(S15,S17)。
【0051】
これら第1及び第2電源回路3a,3bが放電又は充電する電力WREQ1,WREQ2が一応決定すると、制御装置5は、次に、この配分が各電源回路3a,3bに最適か否かを検証するため、再配分処理(S18〜S25)を行う。
【0052】
即ち、制御装置5は、システムが放電する場合、再配分手段20によって、上記配分手段19によって配分された第1電源回路3aの割振電力WREQ1が、第1蓄電装置7aの最大放電量(許容放電量)WOUT1よりも大きい場合(WREQ1>WOUT1)、第1電源回路3aの割振電力WREQ1を、第1蓄電装置7aの最大放電量WOUT1とすると共に、第2電源回路3bの割振電力WREQ2を、モータ2の要求出力WREQから第1電源装置7aの最大放電量WOUT1を引いた値とする(S18,S19)。
【0053】
そして、その後、第2蓄電装置7bの割振電力WREQ2が第2蓄電装置7bの最大放電量(許容放電量)WOUT2よりも大きくなっていないかを検証し(WREQ2>WOUT2)、大きい場合には、第2蓄電装置の割振電力WREQ2を、第2蓄電装置7bの最大放電量WOUT2とし、第1蓄電装置7aの割振電力WREQ1を、モータ2の要求出力WREQから第2電源装置7bの最大放電量WOUT2を引いた値とする(S20,S21)。
【0054】
一方、システムが充電する場合、上記配分手段19によって配分された第1電源回路3aの割振電力WREQ1が、第1蓄電装置2aの最大充電量(許容充電量)WIN1よりも小さいと(WREQ1<WIN1)、再配分手段20によって、第1電源回路3aの割振電力WREQ1が、第1蓄電装置2aの最大充電量WIN1にされると共に、第2電源回路3bの割振電力WREQ2が、モータ2の要求出力WREQから第1電源装置7aの最大充電量WIN1を引いた値とされる(S22,S23)。
【0055】
そして、その後、第2蓄電装置7bの割振電力WREQ2が第2蓄電装置7bの最大充電量(許容充電量)WIN2よりも小さくなっていないかを検証し(WREQ2<WIN2)、小さい場合には、第2蓄電装置7bの割振電力WREQ2を、第2蓄電装置7bの最大充電量WIN2とし、第1蓄電装置7aの割振電力WREQ1を、モータ2の要求出力WREQから第2電源装置7bの最大充電量WIN2を引いた値とする(S24,S25)。
【0056】
上記割振電力再配分が行われ、第1及び第2電源回路3a,3bの割振電力WREQ1,WREQ2が最終的に決定すると、制御装置5は、トルク換算手段21によって、これら第1及び第2電源回路3a,3bの割振電力WREQ1,WREQ2をモータ2の回転数ωで除してトルク換算する(S26)。
【0057】
そして、これらトルク換算された第1電源回路3aの割振電力WREQ1を、第1インバータ6aへの第1トルク指令値TREQ1とし、トルク換算された第2電源回路3bの割振電力WREQ2を、第2インバータ6bへの第2トルク指令値TREQ2とし、制御装置5は、これら第1及び第2トルク指令値TREQ1,TREQ2に基づいて、ゲート駆動信号を生成して、第1及び第2インバータ6a,6bを制御することで、第1及び第2蓄電装置7a,7bのバッテリ残量を平準化している(S27)。
【0058】
なお、モータ2の回転数が所定の最小制御回転数ωMIN以下の場合(|ω|>ωMIN)、上記平準化制御は、行われずに、各電源回路3a,3bのインバータ6a,6bへのトルク指令値TREQ1,TREQ2は、電動機2の要求トルクを電源回路3a,3bの数で除した値とする。
【0059】
[昇温制御]
ついで、蓄電装置7a,7bの温度を上昇させる昇温制御について図4に基づいて説明をする。なお、以下の説明において、ステップS1〜S13に示すモータ要求出力決定工程、ステップS17〜S25に示す再配分工程、ステップS26のトルク換算工程、ステップS3及びS27に示す制御回避工程については、ステップS6で蓄電装置の温度入力が必要なこと以外、図3に示す平準化制御と同様の制御であるため、その説明を省略し、相違点であるステップS30,S31の配分工程のみを説明する。
【0060】
制御部5は、各電源回路3a,3bの蓄電装置7a,7bの平均温度TAVGが所定の温度T以下の場合、複数の電源回路3a,3bから総和として電動機2に入出する電力(複数の電源回路全体として入出する電力の総和)WREQを維持しつつ、複数の電源回路3a,3bの各電源回路3a,3bにおける蓄電装置7a,7bから入出する電力を増減させる昇温制御を行う。
【0061】
具体的には、図4に示すように、リミット手段17によってモータ2の要求出力WREQが決定されると、配分手段30は、各蓄電装置7a,7bの平均温度TAVGに応じて、それぞれの蓄電装置7a,7bから入出させる電力を増減させる際の出力振幅Wを設定する(S30)。
【0062】
より詳しくは、配分手段30は、ステップS30のグラフに示すように、蓄電装置7a,7bの性能の低下が始まる虞のある所定の低温度Tから温度が下がるに従って、出力振幅Wが大きくなるようにし、蓄電装置7a,7bの平均温度TAVGが0度に到達した際に、その値が最も大きくなるように設定されている。
【0063】
また、この振幅Wは、0度よりも低い所定の温度帯でも上記最大値WAMAXを維持すると共に、この温度帯から限界温度Tに向かって温度が低下するに従って、出力振幅Wも小さくなるように設定されている。
【0064】
そして、出力振幅Wが決まると、配分手段30は、第1電源回路3aの割振電力WREQ1を、モータ2の要求出力WREQを電源回路3a、3bの数で除した値に、上記振幅Wの正弦波の式:W*Sin(ωt)を足した値に設定する(S31)。
【0065】
また、配分手段30は、第2電源回路3bの割振電力WREQ2を、モータ2の要求出力WREQを電源回路3a、3bの数で除した値に、上記振幅Wの正弦波の式:W*Sin(ωt)を引いた値に設定する(S31)。
【0066】
これら配分手段30によって設定された第1及び第2電源回路3a,3bの割振電力WREQ1,WREQ2は、再配分手段20によって再配分処理をされ、最終的な第1及び第2電源回路3a,3bの割振電力WREQ1,WREQ2となる(S18〜S25)。
【0067】
このように、第1及び第2電源回路3a,3bの割振電力WREQ1,WREQ2が、モータ2の要求出力WREQを電源回路3a、3bの数で除した値に、振幅Wの正弦波の式を足した/引いた値に設定することによって、システム全体としては、モータ2の要求出力WREQを出力しつつ、各電源回路3a,3bの蓄電装置7a,7bから入出する電力は時間と共に増減し、蓄電装置7a,7bの温度を所定温度Tまで速やかに上昇させることができる。
【0068】
なお、上記第1及び第2電源回路3a,3bの割振電力WREQ1,WREQ2は、正弦波の式を使用する必要は必ずしもなく、蓄電装置7a,7bから入出させる電力を一定周期で増減できれば、例えば余弦波のような式を用いても良いことは言うまでもない。
【0069】
また、上記複数の蓄電装置7a,7bの少なくともいずれか一つの温度Tが所定の温度T以下の場合、昇温制御を実施するようにしても良い。
【0070】
更に、電動車両は、上述した平準化制御と、昇温制御とのどちらか一方のみを実施するようにしても良いと共に、蓄電装置間のバッテリ残量の差分の大きさや、バッテリ温度を基準として、どちらの制御を実行するかを決定するようにしても良い。
【0071】
上述したように、複数の電源回路3a,3bを互いに独立して設けることによって、コンバータなどの装置を介さずに、蓄電装置7a,7bの状態に応じて、各電源回路3a,3bに入出する電力を、インバータ6a,6bを介して、少ない電力損失で制御することができる。
【0072】
また、それぞれの電源回路3a,3bの蓄電装置のバッテリ残量(電気量)が平準化されるように、各電源回路3a,3bに入出する電力を制御することによって、図5(a)の中段のグラフに示すように、消費電力の激しい蓄電装置7a,7bが他の蓄電装置7a,7bよりも早くなくなって、車両の航続距離を制限することを防止することができる。
【0073】
即ち、図5(a)の下段のグラフに示すように、蓄電装置間のバッテリ残量のばらつきを抑えることによって、駆動システム全体に蓄電された電気を最後まで使用することができる。また、それぞれの蓄電装置7a,7bを平均的に使用して行くため、蓄電装置7a,7bの劣化を抑制し、長く使用することができる。
【0074】
更に、各電源回路3a,3bの蓄電装置7a,7bの平均温度TAVG又は、これら複数の蓄電装置7a,7bのいずれかの温度が所定の温度T以下の場合、複数の電源回路全体としてのモータ2への供給電力量は維持した状態で、各蓄電装置7a,7bから入出する電力を増減させることによって、蓄電装置7a,7bの内部発熱を促して蓄電装置の温度を上げることができる。そして、これにより、蓄電装置7a,7bの温度を、速やかに最適な温度まで昇温させることができる。
【0075】
また、駆動システム全体での最大放電量WOUTT及び最大充電量WINTを算出することによって、モータからの要求がこれらシステム全体の最大充放電量WOUTT,WINTを超えたとしても、複数の電源回路全体として上記最大量を超えて電力を入出させようとすることを防止することができる。また、各蓄電装置に関しても最大充電量及び最大放電量を算出するため、個々の蓄電装置7a,7bから入出する電力も最大量を超えることを防止することができる。また、システム全体で入出する電力が最大量を超えないように制限されているため、個々の蓄電装置の最大量を超えた電力については、他の電源回路の蓄電装置に割振ることができる。
【0076】
更に、モータ2を複数の巻線組の巻線を有する多重巻線モータによって構成したことによって、電動機を複数有していない車両に対しても、効率よく各蓄電装置の充放電量を管理することができると共に、高調波を相殺して電動機の効率を向上させることができる。
【0077】
なお、本実施形態では、電動機として、3相2多重巻線モータを使用したが、この巻線は、相数は何相でも良いと共に、その組数も何組であっても良い。また、本発明は、多重巻線モータを使用せずに、複数のモータを設けた電動車両に適用しても良い。
【0078】
更に、上記実施形態に記載された発明は、どのように組み合わされても良いことは、言うまでもない。
【符号の説明】
【0079】
1 車両用駆動システム
2 電動機(モータ)
5 制御装置
6a,6b インバータ(第1インバータ,第2インバータ)
7a,7b 蓄電装置(第1蓄電装置,第2蓄電装置)
3a,3b 電源回路(第1電源回路,第2電源回路)
SOC,SOC 電気量(バッテリ残量)
AVG 蓄電装置の平均温度
所定の温度
OUTT 複数の電源回路全体での最大放電量(システム最大放電量)
INT 最大充電量(システム最大充電量)
REQ 要求トルク(TREQ
REQ 電動機に供給する電力(要求出力)
REQ1,WREQ2 各電源回路に割り振られた電力(割振電力)
OUT1,WOUT2 許容放電量
IN1,WIN2 許容充電量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用の電動機を備えた車両用駆動システムにおいて、
前記電動機を駆動させるインバータと、前記インバータに接続された蓄電装置と、をそれぞれ有する複数の電源回路と、
前記複数の電源回路の各インバータを制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記複数の電源回路の各電源回路と、前記電動機との間における電力の入出力量の配分を、前記複数の電源回路の各電源回路での前記蓄電装置の状態に基づいて調整する、
ことを特徴とする車両用駆動システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記複数の電源回路の各電源回路における前記蓄電装置の電気量が平準化されるように、前記電源回路間の電力配分を設定する、
請求項1記載の車両用駆動システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記複数の電源回路における前記蓄電装置の平均温度又は、これら複数の蓄電装置のいずれか1つの温度が所定の温度以下の場合、前記複数の電源回路からの総和として前記電動機に入出する電力を維持しつつ、前記複数の電源回路の各電源回路における前記蓄電装置から入出する電力を増減させる、
請求項1又は2記載の車両用駆動システム。
【請求項4】
前記制御装置は、前記複数の電源回路の総和としての最大放電量及び最大充電量を演算し、前記電動機の要求トルクに応じた電力が、前記最大放電量もしくは最大充電量を超えた場合、これら最大放電量もしくは最大充電量を、前記電動機に供給する電力とすると共に、
各電源回路に割り振られた電力が、該電源回路の蓄電装置の許容放電量もしくは許容充電量を超えている場合、これら許容放電量もしくは許容充電量を超えた分の電力は、他の電源回路に配分する、
請求項1乃至3のいずれか1項記載の車両用駆動システム。
【請求項5】
前記電動機は、複数組の巻線を有する多重巻線モータであり、
前記複数の電源回路における各インバータは、前記多重巻線モータの巻線にそれぞれ接続されてなる、
請求項1乃至4のいずれか1項記載の車両用駆動システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−175770(P2012−175770A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33807(P2011−33807)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】