説明

車両走行制御装置

【課題】車両走行時における燃費の向上とブレーキ負荷の低減とを両立することのできる車両走行制御装置を提供すること。
【解決手段】エンジン3で発生する動力によって走行する車両1の走行時に、エンジン3を停止すると共にエンジン3と駆動輪12との間でトルクの伝達を遮断することによって車両1を惰性で走行させる場合に、ブレーキ装置14の負荷を監視し、ブレーキ装置14の負荷状況に応じてブレーキ装置14のみで速度を調節する制御からエンジン3で発生させる減速力も併用して速度を調節する制御へ運転操作を誘導する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の車両では、車両の走行時におけるドライバの負担を軽減するため、車両の走行状態に応じて走行制御の一部を自動的に行い、ドライバの運転操作の補助を行っているものがある。例えば、特許文献1に記載された車両速度の制御方法では、駆動ユニットとブレーキの制御を行って車両の実際の速度を目標速度に追従させることにより、ドライバの運転操作の補助を行っており、駆動ユニットで発生させることのできる最小可能トルク以下の駆動トルクで走行をする場合には、ブレーキを作動させることにより、所望の駆動トルクで走行をする。
【0003】
また、この特許文献1に記載された車両速度の制御方法では、車両の実際の速度を目標速度に追従させるために、減速時に変速機のダウンシフトも行っている。これにより、減速時には、ダウンシフトによって減速比が大きくなることに伴って大きくなるエンジンブレーキと、通常のブレーキとを併用することにより、実際の車速を目標速度に追従させつつ、ブレーキの負荷の軽減を図っている。
【0004】
また、特許文献2に記載された自動慣性走行装置では、車両の走行時における燃費の向上や排気ガスの排出量の低減等を目的として、実際の車速が目標速度に達した場合には、電磁クラッチを切り離してエンジンをアイドリング運転させることにより惰性で走行し、惰性走行中に傾斜センサが下り勾配を検出したら、電磁クラッチを強制的に接続している。これにより、慣性走行をする場合であっても、下り坂ではエンジンブレーキを優先させることにより、下り勾配走行時の速度調節を行うので、ドライバの負担を軽減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−155419号公報
【特許文献2】特開2004−115015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、近年では、さらなる車両の走行時における燃費の向上や排気ガスの排出量の低減等を目的として、ドライバが駆動力の発生要求を行っていない場合に、クラッチを切り離してエンジンと駆動輪との間のトルクの伝達を遮断するのみでなく、このように惰性走行を行う場合には、エンジンも停止させる制御技術が開発されている。
【0007】
しかし、このように車両を惰性で走行させる場合、エンジンブレーキも駆動輪に伝達されなくなるため、車両を減速させる場合には、ブレーキのみによって減速させることになる。このため、ブレーキの負荷が大きくなり過ぎる場合があり、ブレーキパッド等の摩擦材が早期に摩耗する場合がある。
【0008】
一方、特許文献2に記載された自動慣性走行装置のように、惰性走行時に下り勾配が検出された場合に、強制的に電磁クラッチを接続してエンジンブレーキを優先させる場合、ドライバの意思に関わらずエンジンブレーキを発生させるため、ドライバが惰性走行を継続させたい場合でも車速が所望の速度よりも低下する場合がある。これにより、惰性走行による燃費の向上等の効果が低減する場合がある。これらのように、ブレーキの負荷が大きくなり過ぎることなく、効果的な惰性走行を行うことは、大変困難なものとなっていた。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、車両走行時における燃費の向上とブレーキ負荷の低減とを両立することのできる車両走行制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る車両走行制御装置は、動力源で発生する動力によって走行する車両の走行時に、前記動力源を停止すると共に前記動力源と駆動輪との間でトルクの伝達を遮断することによって前記車両を惰性で走行させる場合に、前記車両の制動装置の負荷を監視し、前記制動装置の負荷状況に応じて前記制動装置のみで速度を調節する制御から前記動力源で発生させる減速力も併用して速度を調節する制御へ運転操作を誘導することを特徴とする。
【0011】
また、上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る車両走行制御装置は、動力源で発生する動力によって走行する車両の走行時に、前記動力源を停止すると共に前記動力源と駆動輪との間でトルクの伝達を遮断することによって前記車両を惰性で走行させる場合に、前記車両の制動装置の負荷を監視し、前記制動装置の負荷状況に応じて前記制動装置のみで速度を調節する制御から前記動力源で発生させる減速力も併用して速度を調節する制御へ移行することを特徴とする。
【0012】
また、上記車両走行制御装置において、前記動力源で減速力を発生させる場合には、前記動力源への燃料の供給を停止した状態で前記動力源と前記駆動輪との間で前記トルクの伝達が可能な状態にすることが好ましい。
【0013】
また、上記車両走行制御装置において、前記制動装置は、摩擦材の摩擦力によって制動力を発生させることができるように設けられており、前記制動装置の負荷は、前記摩擦材の温度に基づいて判定することが好ましい。
【0014】
また、上記車両走行制御装置において、前記制動装置は、作動油の油圧によって作動可能に設けられており、前記制動装置の負荷は、前記作動油の温度に基づいて判定することが好ましい。
【0015】
また、上記車両走行制御装置において、前記制動装置の負荷は、前記制動装置で制動力を発生させる際に操作する操作子の操作時間に基づいて判定することが好ましい。
【0016】
また、上記車両走行制御装置において、前記制動装置の負荷は、前記制動装置で制動力を発生させる際に操作する操作子の操作量に基づいて判定することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る車両走行制御装置は、駆動源を停止させて車両を惰性で走行させ、制動装置のみで速度を調節する場合に、制動装置の負荷状況に応じて、動力源で発生させる減速力も併用して速度を調節するので、車両走行時における燃費の向上とブレーキ負荷の低減とを両立することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、実施形態に係る車両走行制御装置を備える車両の概略図である。
【図2】図2は、実施形態に係る車両走行制御装置の処理手順の概略を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明に係る車両走行制御装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【0020】
〔実施形態〕
図1は、実施形態に係る車両走行制御装置を備える車両の概略図である。同図に示し、本実施形態に係る車両走行制御装置2を備える車両1は、走行時における動力源として内燃機関であるエンジン3が設けられており、エンジン3は、クラッチ6を介して有段式の変速機8に連結されている。また、変速機8は、動力伝達経路を介して最終減速機10に接続されており、最終減速機10は、ドライブシャフトを介して駆動輪12に連結されている。エンジン3には、エンジン回転数を検出する回転数検出手段であるエンジン回転数センサ4が設けられており、エンジン3の運転時における回転数の検出を行うことが可能になっている。また、変速機8には、出力軸等の出力側の回転体の回転速度を検出することを介して車速を検出する車速検出手段である車速センサ9が設けられている。
【0021】
また、車両1には、走行時に制動力を発生させることができる制動装置であるブレーキ装置14が設けられている。このブレーキ装置14は、作動油であるブレーキオイルの油圧によって作動するホイールシリンダ16と、このホイールシリンダ16と組みになって設けられるブレーキディスク18とを有しており、ホイールシリンダ16とブレーキディスク18とは、駆動輪12を含む各車輪に設けられている。このうち、ブレーキディスク18は、車輪の回転時には車輪と一体となって回転可能に設けられている。また、ホイールシリンダ16とブレーキディスク18との間には、摩擦材であるブレーキパッド17が配設されており、回転するブレーキディスク18をブレーキパッド17の摩擦力によって減速させることにより、ブレーキ装置14は制動力を発生させることができる。
【0022】
また、ブレーキ装置14は、ホイールシリンダ16を作動させる際の油圧を制御する油圧制御装置15を有しており、ホイールシリンダ16と油圧制御装置15とは、油圧経路19で接続されている。また、ブレーキ装置14には、ブレーキパッド17の温度を検出する摩擦材温度検出手段であるブレーキ温度センサ20が設けられている。このブレーキ温度センサ20は、熱電対等の温度センサからなり、ブレーキパッド17に装着されている。
【0023】
また、車両1の運転席の近傍には、エンジン3で発生する動力を調節することができ、駆動力を調節する際に操作する操作子であるアクセルペダル24と、ブレーキ装置14で制動力を発生する際に操作する操作子であるブレーキペダル27と、クラッチ6の接続状態と切断状態との切替え操作が可能なクラッチペダル30と、が設けられている。さらに、この運転席の近傍には、変速機8が有する複数の変速段のうちのいずれかを選択可能で、また、いずれの変速段も選択しないニュートラル位置も選択可能なシフトレバー35が設けられている。
【0024】
また、これらのように設けられるペダル類やシフトレバー35の操作状態は、それぞれ運転操作検出手段によって検出可能に設けられている。詳しくは、アクセルペダル24の操作状態はアクセルセンサ25によって検出可能になっており、ブレーキペダル27の操作状態はブレーキセンサ28によって検出可能になっており、クラッチペダル30の操作状態はクラッチセンサ31によって検出可能になっている。同様に、シフトレバー35は、シフトレバー35の操作状態、即ち、シフトレバー35で選択する変速機8の変速段やニュートラル位置の選択状態を、シフトセンサ36によって検出可能に設けられている。
【0025】
さらに、車両1の運転席の近傍には、任意の情報を表示することができる情報伝達手段であるディスプレイ38が配設されている。
【0026】
これらのように設けられるエンジン3等の機関や装置は、車両1に搭載されると共に車両1の各部を制御するECU(Electronic Control Unit)40に接続されている。同様に、エンジン回転数センサ4や車速センサ9、ブレーキ温度センサ20、アクセルセンサ25、ブレーキセンサ28、クラッチセンサ31、シフトセンサ36等の各センサもECU40に接続されている。このように各装置やセンサ類が接続されるECU40は、これらの装置等との間で情報や信号のやり取りが可能になっており、これにより、車両1の各部は、センサ類での検出結果に基づいて、ECU40により制御されて作動する。例えば、エンジン3は、吸入空気量やインジェクタ(図示省略)による燃料噴射量、点火時期が、アクセルセンサ25で検出するアクセルペダル24の開度や、エンジン回転数センサ4で検出するエンジン回転数、エンジン冷却水温度等に応じて制御されることにより作動する。
【0027】
このように各部を制御可能なECU40のハード構成は、CPU(Central Processing Unit)等を有する処理部や、RAM(Random Access Memory)等の記憶部等を備えた公知の構成であるため、説明は省略する。
【0028】
また、このように設けられるECU40の処理部は、アクセルセンサ25、ブレーキセンサ28、クラッチセンサ31、シフトセンサ36等の、車両1の操作手段の状態を検出するセンサ類での検出結果に基づいて車両1のドライバ100の運転操作の状態を取得する運転操作取得部42と、エンジン3の制御など車両1の走行制御を行う走行制御部44と、運転操作取得部42で取得したドライバ100の運転操作に基づいてフリーランを行う条件を満たしているか否かを判定するフリーラン判定部46と、運転操作取得部42で取得した運転操作が所定の運転操作であるか否かを判定する運転操作判定部48と、ブレーキ装置14の状態を取得する制動状態取得部50と、制動状態取得部50で取得したブレーキ装置14の状態が所定の状態であるか否かを判定する制動状態判定部52と、ブレーキ装置14の負担が大きいと制動状態判定部52で判定した場合に、ブレーキ装置14の負担を低減する制御を行う制動過多時制御部54と、を有している。
【0029】
この実施形態に係る車両走行制御装置2は、以上のごとき構成からなり、以下、その作用について説明する。車両1の走行時には、ドライバ100が操作をするアクセルペダル24の操作量であるアクセル開度をアクセルセンサ25で検出し、この検出結果を、ECU40が有する運転操作取得部42で取得する。運転操作取得部42で取得したアクセル開度は、ECU40が有する走行制御部44に伝達される。
【0030】
走行制御部44は、運転操作取得部42で取得したアクセル開度や、その他のセンサで取得した車両1の走行状態に基づいてエンジン3の制御を行うことにより、ドライバ100が要求する動力をエンジン3で発生させる。その際に、走行制御部44は、エンジン回転数センサ4での検出結果等に基づいてエンジン3の運転状態も検出しながら運転制御をする。エンジン3で発生した動力は、変速機8や最終減速機10を介して駆動輪12に伝達されることにより、駆動輪12で駆動力を発生する。
【0031】
また、車両1の走行時には、変速機8の変速比が車速に適した変速比になるように変速機8の変速段を切替えるが、この変速段の切り替えは、ドライバ100がシフトレバー35を操作し、任意の変速段を選択することにより行う。
【0032】
また、車両1の走行中に変速操作を行う場合には、ドライバ100がクラッチペダル30を踏み込むことによりクラッチ6を切断状態にし、エンジン3と変速機8との間のトルクの伝達を遮断した状態でシフトレバー35を操作することにより行う。変速操作が完了したらクラッチペダル30を戻すことにより、変速の前後でエンジン3の回転数に対する変速比が変化して、エンジン3で発生した動力が駆動輪12に伝達される。車両1は、これらの運転操作をドライバ100が行うことにより、ドライバ100が要求する駆動力を発生して走行する。
【0033】
また、走行中の車両1を減速させる場合には、ドライバ100がアクセルペダル24の踏み込み量を小さくすることによりエンジン3で発生する動力を小さくしたり、ブレーキペダル27を踏み込むことによりブレーキ装置14で制動力を発生させたりする。このように、ブレーキペダル27を踏み込んでブレーキ装置14で制動力を発生させる場合について説明すると、ブレーキペダル27を踏み込んだ際における踏力は、ブレーキ装置14の油圧制御装置15に伝達される。その際に、油圧制御装置15には、エンジン3の吸気時の負圧を利用する真空倍力装置等のブレーキブースタ(図示省略)が設けられているため、ブレーキペダル27を踏み込んだ際の踏力は、ブレーキブースタによって増加される。このように、ブレーキブースタによって増加された踏力は、油圧制御装置15でブレーキオイルの油圧に変換され、ブレーキオイルの油圧が上昇する。
【0034】
上昇したブレーキオイルの油圧は、油圧経路19を介してホイールシリンダ16に伝達され、ホイールシリンダ16は、この油圧によって作動する。ホイールシリンダ16の作動時には、ブレーキパッド17を、車輪と共に回転しているブレーキディスク18に押し付ける。これにより、ブレーキパッド17とブレーキディスク18との間で発生する摩擦力により、ブレーキディスク18の回転運動は熱に変換され、ブレーキディスク18の回転速度は低下し、車輪の回転速度も低下する。このため、車速が低下する。ブレーキペダル27を踏み込むことによって車両1を減速させる場合には、このようにブレーキパッド17とブレーキディスク18との間の摩擦力によって制動力を発生させることにより減速する。
【0035】
また、車両1は、ドライバ100が車両1を加速させる意思がないと判断できる場合には、エンジン3と駆動輪12との間のトルクの伝達経路を切り離し、さらにエンジン3の運転を停止させて慣性エネルギを用いて惰性で車両1を走行させる、いわゆるフリーランを行う。このフリーランは、ECU40が有する運転操作取得部42で取得するドライバ100の運転操作をECU40が有するフリーラン判定部46で判定し、ドライバ100は車両1を加速させる意思がないと判断することができ、エンジン3の運転状態も所定の条件を満たしている場合に行う。
【0036】
具体的には、クラッチセンサ31とシフトセンサ36との検出結果より、ドライバ100がクラッチペダル30を踏み込み、クラッチ6を切断した後、シフトレバー35をニュートラル位置に操作し、クラッチ6を再び接続したことを検出したら、フリーラン判定部46はフリーランを行うと判定する。つまり、ドライバ100がシフトレバー35をニュートラル位置に操作したということは、ドライバ100は車両1を加速させる意思がないと判断をし、フリーラン実行の判定をする。
【0037】
または、ドライバ100がクラッチ6を切断しない場合でも、シフトレバー35をニュートラル位置に操作し、エンジン回転数センサ4で検出するエンジン3の回転数が、フリーランの判定に用いる回転数として予め設定されてECU40の記憶部に記憶されている所定の回転数以下になったことを検出したら、フリーラン判定部46はフリーランを行うと判定する。つまり、ドライバ100がクラッチペダル30を踏まずにシフトレバー35をニュートラル位置に操作した場合も、ドライバ100がシフトレバー35を積極的にニュートラル位置に操作する意思の表れであり、ドライバ100は車両1を加速させる意思がないと判断をし、フリーラン実行の判定をする。
【0038】
または、ドライバ100がクラッチ6を切断したことを検出した場合には、シフトレバー35をニュートラル位置に操作しなくても、エンジン回転数が所定の回転数以下になったことを検出したら、フリーラン判定部46はフリーランを行うと判定する。つまり、ドライバ100がシフトレバー35をニュートラル位置に操作しなくても、クラッチペダル30を踏み続け、エンジン回転数が所定の回転数まで低下した場合には、ドライバ100は車両1を加速させる意思がないと判断をし、フリーラン実行の判定をする。
【0039】
即ち、フリーラン判定部46は、クラッチセンサ31によってクラッチ6の切断状態を検出し、且つ、シフトセンサ36によって変速機8がニュートラル位置であることを検出した場合、または、シフトセンサ36によって変速機8がニュートラル位置であることを検出し、且つ、エンジン回転数センサ4で検出した回転数が予め設定された所定回転数以下となった場合、または、クラッチセンサ31によってクラッチ6の切断状態を検出し、且つ、エンジン回転数センサ4で検出した回転数が予め設定された所定回転数以下となった場合に、フリーランを行うと判定する。
【0040】
所定の条件を満たすことによりフリーランを行うとフリーラン判定部46で判定した場合には、走行制御部44は、燃料噴射制御や点火制御を停止することにより、エンジン3の運転を停止させる。この場合、変速機8がニュートラル位置になっている、または、クラッチ6が切断された状態になっているため、駆動輪12とエンジン3とは、トルクの伝達が遮断された状態になっている。これにより、車両1は、動力を発生しないエンジン3を回転させることによる抵抗が発生しないため、走行抵抗が低減した状態で、フリーランを開始した際における車速に基づく運動エネルギによる惰性走行を続ける。
【0041】
フリーランを行う場合には、エンジン3を停止すると共に、エンジン3と駆動輪12との間でトルクの伝達を遮断するため、加速を行うことができないだけでなく、エンジンブレーキを使うこともできなくなっている。つまり、車両1の通常の走行時は、変速機8はいずれかの変速段が選択され、クラッチ6も接続した状態になっているため、アクセル開度を小さくし、エンジン3で発生する動力が現在の車速を維持する動力よりも小さくなった場合には、走行中の車両1の運動エネルギの一部は、エンジン回転数を車速に応じた回転数にするためのエネルギとして使用され、車速が低下する。即ち、車速に対してアクセルペダル24の踏み込み量を小さくした場合には、車両1の運動エネルギがエンジン3の回転抵抗によって消費されることにより、車速が低下する、いわゆるエンジンブレーキが発生する。エンジン3と駆動輪12との間でトルクの伝達を行うことが可能な状態の場合には、このようにエンジンブレーキを用いて減速度を調節し、速度調節を行うことが可能になっている。
【0042】
これに対し、フリーラン状態の場合には、エンジン3と駆動輪12との間でトルクの伝達が遮断されているため、エンジンブレーキを使用して速度調節を行うことが不可能になっている。このため、フリーラン時に車両1の速度を調節する場合には、ドライバ100がブレーキペダル27を踏み込み、ブレーキ装置14で発生する制動力を調節することによって調節する。ここで、このようにフリーラン状態の場合には、エンジンブレーキによる減速力が発生しないため、車両1の速度を調節する際の減速度は、ブレーキ装置14のみで発生させることになる。このため、ブレーキ装置14の負荷は、フリーラン状態ではない通常の走行状態の場合よりも大きくなり易くなっている。従って、本実施形態に係る車両走行制御装置2では、フリーラン状態で走行をしている場合に、ブレーキ装置14の負荷を監視し、ブレーキ装置14の負荷状況に応じて、ブレーキ装置14のみで速度を調節する制御から、エンジンブレーキも併用して速度を調節する制御へ、ドライバ100の運転操作を誘導する制御を行う。
【0043】
具体的には、ブレーキ装置14の負荷を監視する場合には、ブレーキ温度センサ20で検出するブレーキパッド17の温度を監視することにより行う。つまり、ブレーキ装置14で制動力を発生させる場合には、車輪と共に回転するブレーキディスク18と、ブレーキパッド17と間で摩擦力を発生させ、ブレーキディスク18の回転運動を熱に変換することにより制動力を発生させるため、制動力の発生時にはブレーキパッド17の温度が上昇する。このブレーキパッド17の温度は、ブレーキ装置14で頻繁に制動力を発生させたり、強い制動力を発生させたりすることにより上昇し易くなり、即ち、ブレーキ装置14が使用過多で、ブレーキ装置14の負荷が大きい場合に上昇し易くなる。このため、このブレーキパッド17の温度を継続的に検出してブレーキパッド17の温度に基づいてブレーキ装置14の負荷を判定し、ブレーキ装置14の負荷が大きいと判定された場合には、エンジンブレーキを併用して車両1の速度を調節する制御を行えるようにする。
【0044】
具体的には、少なくともフリーラン状態の場合には、ECU40が有する制動状態取得部50は、ブレーキパッド17の温度を検出するブレーキ温度センサ20の検出結果より、ブレーキパッド17の温度を継続的に取得する。フリーラン中は、ブレーキ装置14で発生する制動力によって速度の調節を行うので、ブレーキパッド17の温度は上がり易くなっているため、制動状態取得部50で取得したブレーキパッド17の温度に基づいて制動状態判定部52でブレーキ装置14の負荷を判定する。
【0045】
この判定により、ブレーキ装置14の負荷が大きいと判定された場合には、制動過多時制御部54では、ブレーキ装置14が使用過多の場合の制御として、ドライバ100に対してブレーキ装置14が使用過多である旨の警告を行い、エンジン3で発生させる減速力であるエンジンブレーキの使用を促す。これにより、ドライバ100がブレーキ装置14での制動とエンジンブレーキとを併用して速度調節を行った場合、過大となっていたブレーキ装置14の負担が低減する。
【0046】
図2は、実施形態に係る車両走行制御装置の処理手順の概略を示すフロー図である。次に、本実施形態に係る車両走行制御装置2の制御方法、即ち、当該車両走行制御装置2の処理手順の概略について説明する。なお、以下の処理は、フリーランを行う際における処理手順になっており、車両1の運転時に各部を制御する際に、所定の期間ごとに呼び出されて実行する。
【0047】
本実施形態に係る車両走行制御装置2の処理手順では、まず、ドライバ100のフリーラン操作によるフリーラン状態であるか否かを判定する(ステップST101)。この判定は、フリーラン判定部46で行う。フリーラン判定部46は、ドライバ100の運転操作がフリーランを行う際における上述した条件を満たすことにより、走行制御部44でエンジン3の運転を停止させているか否かを判定する。即ち、運転操作がフリーランを行う際における上述した条件を満たすことによりエンジン3の運転が停止している場合には、ドライバ100のフリーラン操作によるフリーラン状態であると判定する。
【0048】
この判定により、ドライバ100のフリーラン操作によるフリーラン状態であると判定された場合(ステップST101、Yes判定)には、次に、ドライバ100のブレーキ操作があるか否かを判定する(ステップST102)。この判定は、運転操作判定部48によって行う。運転操作判定部48は、ブレーキセンサ28の検出結果に基づいて運転操作取得部42で取得したブレーキペダル27の操作状態が、ブレーキペダル27を踏み込んでいる状態であるか否かを判定し、ブレーキペダル27を踏み込んでいる状態の場合には、ドライバ100のブレーキ操作があると判定する。
【0049】
この判定により、ドライバ100のブレーキ操作があると判定された場合(ステップST102、Yes判定)には、次に、判定式の値が一定値を超えているか否かを判定する(ステップST103)。この判定は、ブレーキ温度センサ20で検出したブレーキパッド17の温度を制動状態取得部50で継続して取得し、このブレーキパッド17の温度に基づいて制動状態判定部52で判定する。詳しくは、少なくともフリーラン状態の場合には、制動状態取得部50でブレーキパッド17の温度を継続的に取得し、取得したブレーキパッド17の温度とフリーラン状態が開始されてからの経過時間とを乗算した値とが、予め設定された一定値を超えるか否かを、制動状態判定部52で判定する。
【0050】
つまり、制動状態判定部52は、下記の判定式(1)を満たしているか否かを判定する。なお、この判定に用いる一定値は、ブレーキ装置14の使用過多をブレーキパッド17の温度に基づいて判定する場合における閾値として予め設定され、ECU40の記憶部に記憶されている。
(ブレーキパッドの温度×時間)>一定値・・・(1)
【0051】
この判定により、判定式の値が一定値を超えていると判定された場合(ステップST103、Yes判定)、即ち、(ブレーキパッドの温度×時間)>一定値の関係を満たすと判定された場合には、フットブレーキ使用過多と判断し、警告を行う(ステップST104)。この警告は、制動過多時制御部54で行う。フリーラン時における制動状態が、上記判定式(1)を満たしていると制動状態判定部52で判定した場合には、制動過多時制御部54は、フットブレーキの使用過多、つまり、ドライバ100がブレーキペダル27を足で操作することにより制動力を発生させることができるブレーキ装置14の使用過多であると判断し、ディスプレイ38を用いて警告を行う。例えば、制動過多時制御部54は、ディスプレイ38の表示を制御し、エンジンブレーキの使用推奨情報をディスプレイ38に表示することによって、警告を行う。
【0052】
ディスプレイ38の表示を視認したドライバ100は、このディスプレイ38に表示された情報に促されて、フリーランを行う際における運転操作から、エンジン3を運転させる走行である通常の走行時における運転操作に、運転操作を切替える。具体的には、クラッチペダル30を解放することによってクラッチ6を接続し、シフトレバー35を操作することにより、変速機8を、いずれかの変速段を選択している状態にする。
【0053】
これにより、エンジン3と駆動輪12との間で、トルクの伝達を行うことができるようになるため、アクセルペダル24を全閉の状態にしてドライバ100が駆動力の発生要求を行っていない場合には、エンジンブレーキが発生する。この場合、エンジン3への燃料の供給を停止させた状態、即ち、フューエルカットの状態を維持する。つまり、エンジン3と駆動輪12との間で、トルクの伝達を行うことができるようになることにより、車両1の走行に伴う駆動輪12の回転トルクがエンジン3に伝達されるが、エンジン3は、フューエルカットの状態が維持されることにより動力を発生しない状態になっているため、駆動輪12の回転トルクは、エンジン3を回転させるトルクとして使用される。換言すると、慣性によって車両1が走行をする際における駆動輪12の回転トルクに対して、エンジン3が回転抵抗となるため、車両1には減速度が発生し、いわゆるエンジンブレーキが発生する。
【0054】
このように、フリーランを行っている場合にエンジンブレーキを発生させる場合には、エンジン3がフューエルカットの状態で、エンジン3と駆動輪12との間でトルクの伝達が可能な状態にすることにより発生させる。これにより車両1は減速し、エンジンブレーキによって速度が調節される。このように、ブレーキ装置14が使用過多であると判断された場合には、制動過多時制御部54は、ディスプレイ38にエンジンブレーキの使用推奨情報を表示することにより、ブレーキ装置14のみで速度を調節する制御から、エンジンブレーキも併用して速度を調節する制御へ、ドライバ100の運転操作を誘導する制御を行う。このように、ブレーキ装置14が使用過多であると判断された場合の制御を行なったら、この処理手順から抜け出る。
【0055】
これらに対し、ドライバ100のフリーラン操作によるフリーラン状態ではないと判定された場合(ステップST101、No判定)、または、ドライバ100のブレーキ操作はないと判定された場合(ステップST102、No判定)、または、(ブレーキパッドの温度×時間)>一定値の関係を満たさないと判定された場合(ステップST103、No判定)には、ブレーキ装置14の使用過多時の警告は行わずに、この処理手順から抜け出る。
【0056】
以上の車両走行制御装置2は、フリーランを行う場合には、制動状態取得部50でブレーキパッド17の温度を取得し、ブレーキ装置14の使用が過多であるか否かをブレーキパッド17の温度に基づいて制動状態判定部52で判定している。つまり、フリーラン状態の場合には、ブレーキパッド17の温度に基づいて、制動状態判定部52でブレーキ装置14の負荷を監視している。さらに、このように監視するブレーキ装置14の負荷の状況に応じて、制動過多時制御部54で、フリーランを行うことによってブレーキ装置14のみで速度を調節する制御から、エンジンブレーキも併用して速度を調節する制御へ、ドライバ100の運転操作を誘導している。これにより、フリーランによって燃料消費量を抑えることができると共に、ブレーキ装置14の負荷が大きい場合には、エンジンブレーキを併用して速度の調節を行うことをドライバ100に促すことにより、フリーランによってブレーキ装置14が使用過多になった場合でも、ブレーキ装置14の負荷を低減することができる。この結果、車両走行時における燃費の向上とブレーキ負荷の低減とを両立することができ、ブレーキ装置14の負荷状況を考慮しながら最大限の燃費低減を図ることができる。
【0057】
また、このようにブレーキ装置14の負荷を低減することができるので、ブレーキパッド17やブレーキディスク18が早期に摩耗したり、ブレーキオイルが早期に劣化したりすることを抑えることができる。この結果、消耗品の交換頻度を低減することができる。
【0058】
また、フリーランを行っている場合は、ブレーキ装置14の負荷が過大になった場合に、エンジンブレーキを使用するように制御している。これにより、ドライバ100が燃費を向上させることを目的としてフリーランを行う場合に、必要以上にエンジンブレーキが発生することにより、フリーラン時における慣性エネルギがエンジンブレーキによって不必要に低下することを抑制できる。従って、フリーランを含めて車両1を走行させる際に、フリーランによる走行距離を、より確実に長くすることができる。この結果、より確実に燃費の向上を図ることができる。
【0059】
また、フリーランを行っている場合にエンジンブレーキを発生させる場合には、エンジン3がフューエルカットの状態で、エンジン3と駆動輪12との間でトルクの伝達が可能な状態にするので、エンジンブレーキによって車両1を減速させる際に、エンジンブレーキで発生可能な最大限の減速力を発生させることができる。この結果、ブレーキ装置14で発生させる減速力を極力低減させることができるので、より確実にブレーキ負荷を低減することができる。
【0060】
また、ブレーキ装置14の負荷は、ブレーキパッド17の温度に基づいて判定するので、より確実に負荷の判断を行うことができる。つまり、ブレーキ装置14は、車輪と一体となって回転をするブレーキディスク18とブレーキパッド17との摩擦力で、ブレーキディスク18の回転運動のエネルギを熱に変換することによってブレーキディスク18及び車輪の回転を低下させ、車両1を減速させる。このため、ブレーキ装置14でより多くの減速力を発生させ、ブレーキ装置14の負荷が大きくなるに従って、ブレーキパッド17やブレーキディスク18の発熱量も多くなるので、ブレーキパッド17の温度を検出することにより、ブレーキ装置14の負荷を判定することができる。従って、ブレーキパッド17の温度に基づいてブレーキ装置14の負荷を判定することにより、精度良くブレーキ装置14の負荷を判定することができるため、フリーラン時に不必要にエンジンブレーキを併用しないようにすることができ、ブレーキ装置14の負荷が過大になった場合にのみ、適切にエンジンブレーキを併用させることができる。この結果、より確実に、車両走行時における燃費の向上とブレーキ負荷の低減とを両立することができる。
【0061】
なお、上述した車両走行制御装置2では、ブレーキ装置14の負荷はブレーキパッド17の温度に基づいて判定しているが、ブレーキパッド17の温度以外によって判定してもよい。例えば、ブレーキ装置14は、ブレーキオイルの油圧によってホイールシリンダ16が作動することにより制動力を発生するが、ブレーキ装置14の負荷は、このブレーキオイルの温度に基づいて判定してもよい。つまり、ブレーキ装置14で制動力を発生させる場合、ブレーキパッド17の温度が上昇するが、ブレーキパッド17の熱はホイールシリンダ16を介してブレーキオイルにも伝達されるため、ブレーキオイルの温度も上昇する。このため、ブレーキ装置14の負荷が大きい場合には、ブレーキパッド17の温度と同様に、ブレーキオイルの温度も上昇する。従って、ブレーキ装置14の負荷を判定する場合には、このようにブレーキ装置14の負荷が大きくなるに従って上昇するブレーキオイルの温度に基づいて判定してもよい。
【0062】
このように、ブレーキオイルの温度によってブレーキ装置14の負荷を判定する場合には、油圧制御装置15や油圧経路19等のブレーキオイルの流路に、ブレーキオイルの温度を検出することができる作動油温度検出手段であるオイル温度センサ(図示省略)を設ける。フリーラン状態の場合には、このオイル温度センサでの検出結果より制動状態取得部50でブレーキオイルの温度を取得し、取得したブレーキオイルの温度に基づいて、ブレーキ装置14の負荷が大きいか否かを制動状態判定部52で判定する。
【0063】
このように、ブレーキオイルの温度に基づいてブレーキ装置14の負荷を判定する場合には、ブレーキパッド17の温度に基づいてブレーキ装置14の負荷を判定する場合と同様に、下記の判定式(2)を満たしているか否かによって判定する。なお、この判定に用いる一定値は、ブレーキ装置14の使用過多をブレーキオイルの温度に基づいて判定する場合における閾値として予め設定され、ECU40の記憶部に記憶されている。
(ブレーキオイルの温度×時間)>一定値・・・(2)
【0064】
この判定により、(ブレーキオイルの温度×時間)>一定値を満たしていると判定された場合には、ブレーキ装置14の使用過多であると判断し、エンジンブレーキの使用推奨情報を制動過多時制御部54でディスプレイ38に表示させ、警告を行う。ブレーキオイルも、ブレーキパッド17と同様に、ブレーキ装置14の負荷が大きくなるに従って上昇するので、このように、ブレーキオイルの温度に基づいてブレーキ装置14の負荷を判定することにより、精度良くブレーキ装置14の負荷を判定することができる。この結果、より確実に、車両走行時における燃費の向上とブレーキ負荷の低減とを両立することができる。
【0065】
また、ブレーキ装置14の負荷は、ブレーキ装置14を構成する部材等の温度以外によって判定してもよく、例えば、ブレーキペダル27の操作時間に基づいて判定してもよい。つまり、ブレーキ装置14の負荷は、ブレーキ装置14の使用時間が長くなるに従って大きくなるが、ブレーキ装置14を使用する場合には、ブレーキペダル27を操作して制動力を発生させる。このため、ブレーキペダル27の操作時間を検出することにより、ブレーキ装置14の使用状況を判定することができ、ブレーキ装置14の負荷を判定することができる。
【0066】
このように、ブレーキ装置14の負荷の判定にブレーキペダル27の操作時間を用いる場合は、ブレーキペダル27を操作した場合には、ブレーキセンサ28の検出結果よりブレーキペダル27を操作していることを運転操作取得部42で取得することができるため、このブレーキペダル27を操作した際の積算時間を操作時間として制動状態取得部50で取得する。制動状態判定部52では、このブレーキペダル27の操作時間を、フットブレーキを使用している時間とし、下記の判定式(3)を満たしているか否かによって、ブレーキ装置14の負荷を判定する。
フットブレーキを使用している時間>一定値・・・(3)
【0067】
なお、この判定に用いる一定値は、ブレーキ装置14の使用過多を、フットブレーキを使用している時間に基づいて判定する場合における閾値として予め設定され、ECU40の記憶部に記憶されている。
【0068】
この判定により、フットブレーキを使用している時間>一定値を満たしていると判定された場合には、ブレーキ装置14の使用過多であると判断し、制動過多時制御部54で警告を行う。フットブレーキであるブレーキ装置14は、使用時間が長くなるに従ってブレーキパッド17等の温度が上昇し、負荷が大きくなるので、ブレーキ装置14で制動力を発生させる際に操作するブレーキペダル27の操作時間に基づいてブレーキ装置14の負荷を判定することにより、精度良くブレーキ装置14の負荷を判定することができる。この結果、より確実に、車両走行時における燃費の向上とブレーキ負荷の低減とを両立することができる。
【0069】
また、ブレーキペダル27の操作状況を用いてブレーキ装置14の負荷を判定する場合には、ブレーキペダル27の操作時間以外に基づいて判定してもよく、例えば、ブレーキペダル27の操作量に基づいて判定してもよい。つまり、ブレーキ装置14の負荷は、ブレーキ装置14で発生させる制動力が大きくなるに従って大きくなるが、ブレーキ装置14で発生させる制動力は、ブレーキペダル27の踏み込み量が大きくなるに従って大きくなる。このため、ブレーキペダル27の踏み込み量を継続的に検出することにより、ブレーキ装置14の使用状況を判定することができ、ブレーキ装置14の負荷を判定することができる。
【0070】
このように、ブレーキ装置14の負荷の判定にブレーキペダル27の踏み込み量を用いる場合は、ブレーキセンサ28で検出するブレーキペダル27の踏み込み量を運転操作取得部42で継続的に取得し、取得したブレーキペダル27の踏み込み量に基づいて、ブレーキ装置14の負荷が大きいか否かを制動状態判定部52で判定する。
【0071】
このように、ブレーキペダル27の踏み込み量に基づいてブレーキ装置14の負荷を判定する場合には、継続的に取得したブレーキペダル27の踏み込み量が、下記の判定式(4)を満たしているか否かによって判定する。なお、この判定に用いる一定値は、ブレーキ装置14の使用過多をブレーキペダル27の踏み込み量に基づいて判定する場合における閾値として予め設定され、ECU40の記憶部に記憶されている。
(ブレーキペダルの踏み込み量×時間)>一定値・・・(4)
【0072】
この判定により、(ブレーキペダルの踏み込み量×時間)>一定値を満たしていると判定された場合には、ブレーキ装置14の使用過多であると判断し、制動過多時制御部54で警告を行う。ブレーキ装置14は、ブレーキペダル27の踏み込み量が大きくなるに従ってブレーキパッド17等の温度が上昇し、ブレーキペダル27の踏み込み量が大きい状態が長くなるに従って負荷が大きくなる。このため、ブレーキペダル27の操作量である踏み込み量に基づいてブレーキ装置14の負荷を判定することにより、精度良くブレーキ装置14の負荷を判定することができる。この結果、より確実に、車両走行時における燃費の向上とブレーキ負荷の低減とを両立することができる。
【0073】
また、ブレーキ装置14の負荷状況は、これらのように様々な手法で判定することができるが、ブレーキ装置14の負荷を判定する場合には、これらを組み合わせて行ってもよく、また、上述した手法以外によって判定してもよい。ブレーキ装置14の負荷を判定する手法は、フリーラン時におけるブレーキ装置14の負荷を適切に判定することができる手法であれば、その手法は問わない。
【0074】
また、車両1の走行中にエンジン3を停止し、フリーランを行うための判定条件として、さらに、シフトレバー35がニュートラル位置になってからの経過時間、またはクラッチ6が切断状態になってからの経過時間を設定してもよい。この場合、経過時間は、車両1の走行状態などに応じて変更できるようにしてもよく、ドライバ100によって任意に変更できるようにしてもよい。または、エンジン3を停止するための判定は、車速、クラッチ6の切断時間、シフトレバー35のニュートラル位置保持時間、ステアリングの操舵角などから総合的に判断する、或いは、判断条件を適宜設定して判断してもよい。
【0075】
また、実施形態に係る車両走行制御装置2では、変速機8は、変速比が異なる変速段を複数有しており、ドライバ100が任意の変速段を手動で選択する手動変速機となっているが、変速機8は自動変速機であってもよい。例えば、遊星歯車とクラッチ等を用いることにより変速比を切替える有段式の自動変速機や、ベルトとプーリ等が用いられることにより、変速比を無段階に切替えることができる無段変速機であってもよい。
【0076】
このように、変速機8が自動変速機の場合でも、エンジン3と駆動輪12との間でトルクの伝達を遮断することができるため、フリーランを行うことができる。また、変速機8が自動変速機の場合でも、走行レンジをドライバ100が任意で切替えることができ、車両1の走行中に走行レンジを、エンジン3で発生した動力を駆動輪12の伝達しないレンジであるN(ニュートラル)レンジにすることにより、ドライバ100は車両1を加速させる意思がないと判断することができる。このため、変速機8が無段変速機等の自動変速機の場合でも、ドライバ100が車両1を加速させる意思がないと判断できる場合には、フリーランに移行し、ブレーキ装置14の負荷が大きい場合には、エンジンブレーキも併用して速度を調節する制御へ移行することにより、燃費の向上とブレーキ負荷の低減とを両立することができる。
【0077】
また、上述した車両走行制御装置2では、フリーラン時にブレーキ装置14の負荷が大きいと判定された場合には、エンジンブレーキの使用推奨情報をディスプレイ38に表示することにより、エンジンブレーキも併用して速度調節を行う制御へ運転操作を誘導しているが、運転操作の誘導は、ディスプレイ38以外を用いて行ってもよい。例えば、運転操作を誘導する場合には、車内に設けられるスピーカ(図示省略)から音声や警告音等を出力することにより、運転操作を誘導してもよい。
【0078】
また、上述した車両走行制御装置2では、フリーラン時にブレーキ装置14の負荷が大きいと判定された場合には、このように運転操作の誘導を行っているが、フリーラン時にブレーキ装置14の負荷が大きいと判定された場合には、制御を切替えてもよい。つまり、エンジンブレーキを併用して速度の調節を行う制御に移行する際に、ドライバ100の運転操作を誘導して移行するのではなく、車両走行制御装置2側で制御を移行してもよい。
【0079】
この場合、走行制御部44によって、必要に応じてクラッチ6等を接続することにより、ドライバ100の運転操作に関わらずエンジン3と駆動輪12との間でトルクの伝達を行うことができるように設け、フリーランを行っている場合に、ブレーキ装置14の負荷が大きくなっていると制動状態判定部52で判定した場合には、制動過多時制御部54から走行制御部44に指示してクラッチ6等を接続する。これにより、ブレーキ装置14の負荷が小さい場合には、フリーランによって燃料消費量を抑えることができ、速度調節に用いるブレーキ装置14の負荷が大きくなったらエンジンブレーキによって減速力を発生させ、エンジンブレーキを併用して速度の調節を行うことができるため、ブレーキ装置14の負荷を低減できる。この結果、車両走行時における燃費の向上とブレーキ負荷の低減とを両立することができ、ブレーキ装置14の負荷状況を考慮しながら最大限の燃費低減を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
以上のように、本発明に係る車両走行制御装置は、動力源を停止させて惰性で走行をする制御を行う車両に有用であり、特に、惰性走行時は制動装置のみで速度の調節を行う車両に適している。
【符号の説明】
【0081】
1 車両
2 車両走行制御装置
3 エンジン
6 クラッチ
8 変速機
14 ブレーキ装置
16 ホイールシリンダ
17 ブレーキパッド
18 ブレーキディスク
20 ブレーキ温度センサ
27 ブレーキペダル
28 ブレーキセンサ
30 クラッチペダル
31 クラッチセンサ
35 シフトレバー
36 シフトセンサ
38 ディスプレイ
40 ECU
42 運転操作取得部
44 走行制御部
46 フリーラン判定部
48 運転操作判定部
50 制動状態取得部
52 制動状態判定部
54 制動過多時制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源で発生する動力によって走行する車両の走行時に、前記動力源を停止すると共に前記動力源と駆動輪との間でトルクの伝達を遮断することによって前記車両を惰性で走行させる場合に、前記車両の制動装置の負荷を監視し、前記制動装置の負荷状況に応じて前記制動装置のみで速度を調節する制御から前記動力源で発生させる減速力も併用して速度を調節する制御へ運転操作を誘導することを特徴とする車両走行制御装置。
【請求項2】
動力源で発生する動力によって走行する車両の走行時に、前記動力源を停止すると共に前記動力源と駆動輪との間でトルクの伝達を遮断することによって前記車両を惰性で走行させる場合に、前記車両の制動装置の負荷を監視し、前記制動装置の負荷状況に応じて前記制動装置のみで速度を調節する制御から前記動力源で発生させる減速力も併用して速度を調節する制御へ移行することを特徴とする車両走行制御装置。
【請求項3】
前記動力源で減速力を発生させる場合には、前記動力源への燃料の供給を停止した状態で前記動力源と前記駆動輪との間で前記トルクの伝達が可能な状態にすることを特徴とする請求項1または2に記載の車両走行制御装置。
【請求項4】
前記制動装置は、摩擦材の摩擦力によって制動力を発生させることができるように設けられており、
前記制動装置の負荷は、前記摩擦材の温度に基づいて判定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両走行制御装置。
【請求項5】
前記制動装置は、作動油の油圧によって作動可能に設けられており、
前記制動装置の負荷は、前記作動油の温度に基づいて判定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両走行制御装置。
【請求項6】
前記制動装置の負荷は、前記制動装置で制動力を発生させる際に操作する操作子の操作時間に基づいて判定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両走行制御装置。
【請求項7】
前記制動装置の負荷は、前記制動装置で制動力を発生させる際に操作する操作子の操作量に基づいて判定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両走行制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−47054(P2012−47054A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187084(P2010−187084)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】