説明

車両運動制御装置

【課題】車両に横運動が発生していない状態においても、ドライバフィーリングよく車両を加減速する車両運動制御装置を提供する。
【解決手段】車両運動制御装置において、自車両前方のカーブ形状を取得するカーブ形状取得手段2と、自車両の位置を取得する自車位置取得手段3と、そのカーブ形状及びその自車両の位置に基づいて、車両に発生させる前後加速度指令値を演算する車両運動制御演算手段4と、を有し、車両運動制御演算手段4は、自車両がカーブ前からカーブ進入し、カーブ曲率が一定、もしくは最大になる地点まで走行する際に、複数の異なる負の前後加速度指令値を演算し、前記前後加速度指令値は、自車両前方のカーブ走行時に発生するであろう最大横加速度推定値、自車両前方の道路勾配、ドライバのペダル操作、旋回方向のうちの少なくともいずれか一つに基づいて変化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両運動制御装置に関し、特に車両の運動状態が好適になるよう車両を加減速する車両運動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ナビゲーションシステムのカーブ情報や旋回時の横加速度から、車両に発生する横加速度が設定値よりも過大となる際に減速を行うシステムが知られている(例えば特許文献1)。
【0003】
このような装置では、カーブを通過する際に発生する横加速度の大きさが設定値以上にならないように、予め設定された横加速度設定値と自車前方のカーブ曲率からカーブ走行時の目標車両速度を設定し、前記目標車両速度と実際の車両速度から、必要な減速度を作成している。このような減速度の作成方法は、車両がカーブを旋回走行可能な限界速度を超過してカーブに進入する場合、路外への逸脱を抑制する上で有効である。
【0004】
しかし、この設定横加速度を旋回可能な限界横加速度ではなく、ドライバが通常旋回時に許容するであろう横加速度に設定してカーブ前での減速制御を実行した場合、必ずしもドライバの減速フィーリングにあった減速になるとは限らない。この一因として、上述の目標車両速度による減速度作成方法では、カーブ進入前の総減速量(減速度の積分値)は規定できるものの、減速度の時間変化を規定できないことが挙げられる。
【0005】
仮にこのカーブ前の減速度が一定となるように減速制御をした場合、カーブや車両速度によってはドライバの減速フィーリングに合わない可能性がある。また、カーブ毎にこの減速度の時間変化を設定しようとした場合、莫大な適合工数と膨大なデータが必要となる。
【0006】
ドライバの減速フィーリングにあった加減速度の時間変化を規定する方法として、ドライバ操作により発生する横加加速度に基づく加減速度の作成方法が提案されている(例えば特許文献2,非特許文献1)。この方法により、カーブ毎に減速度の時間変化を設定することなくスキルドライバと同様の加減速を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−51487号公報
【特許文献2】特開2008−285066号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】自動車技術会論文集Vol39,No.3,2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、横加加速度に基づく加減速度の作成方法は、車両に横運動が発生した際に、その横運動と連係した加減速度の作成方法であり、例えばカーブ進入前、直線路での減速のような、車両に横運動が発生していない状態での減速度を設定することはできない。
【0010】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、車両に横運動が発生していない状態においても、ドライバフィーリングよく車両を加減速する車両運動制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記する課題を解決するために、本発明にかかる車両運動制御装置は、自車両前方のカーブ形状を取得するカーブ形状取得手段と、自車両の位置を取得する自車位置取得手段と、前記カーブ形状及び前記自車両の位置に基づいて、車両に発生させる前後加速度指令値を演算する車両運動制御演算手段と、を有し、前記車両運動制御演算手段は、自車両進行方向を正とする前後加速度指令値において、自車両がカーブ前からカーブに進入し、カーブ曲率が一定、もしくは最大になる地点まで走行する際に、負の前後加速度指令値を演算すると共に、該前後加速度指令値を、前記車両運動制御演算手段によって予め演算された自車両前方のカーブ走行時に発生するであろう最大横加速度推定値、自車両前方の道路勾配、ドライバのペダル操作、及び旋回方向のうちの少なくともいずれか一つに基づいて変化させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、車両に横運動が発生していない状態においても、ドライバフィーリングよく車両を加減速する車両運動制御装置を提供することができる。
【0013】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る車両運動制御装置の車両のカーブ前の前後加速度変化と前後加加速度変化を示した概念図。
【図2】本発明に係る車両運動制御装置の自車両と前方注視点の関係を示した概念図。
【図3】本発明に係る車両運動制御装置の横加速度推定値とカーブ遠方での前後加速度指令値の関係を示す図。
【図4】本発明に係る車両運動制御装置の前方注視点までの距離と前方注視点の移動速度の関係を示す図。
【図5】本発明に係る車両運動制御装置のカーブ曲率,速度,前後加速度の時間変化を示す図。
【図6】本発明に係る車両運動制御装置の比例ゲイン補正方法を示すブロック図。
【図7】本発明に係る車両運動制御装置の最大カーブ曲率の作成方法を示す図。
【図8】本発明に係る車両運動制御装置の最大横加速度推定値と補正ゲインCadjGyの関係を示す図。
【図9】本発明に係る車両運動制御装置の制御用縦断勾配の作成方法を示す図。
【図10】本発明に係る車両運動制御装置の縦断勾配と補正ゲインCadjgradの関係を示す図。
【図11】本発明に係る車両運動制御装置の横勾配と補正ゲインCadjgradの関係を示す図。
【図12】旋回方向によるカーブ半径の違いを示す図。
【図13】本発明に係る車両運動制御装置のカーブ曲率と補正ゲインCadjdirの関係の一例を示す図。
【図14】本発明に係る車両運動制御装置のカーブ曲率と補正ゲインCadjdirの関係の他例を示す図。
【図15】本発明に係る車両運動制御装置のドライバ要求加速度/減速度と補正ゲインCadjdrvの関係を示す図。
【図16】本発明に係る車両運動制御装置の第1の実施形態を示す図。
【図17】図16に示す車両運動制御装置の車両運動制御演算手段の一例を示す図。
【図18】図16の車両運動制御装置のフローチャートを示す図。
【図19】図16の車両運動制御装置の自車位置とノード点位置を示す概念図。
【図20】図16の車両運動制御装置の距離とカーブ曲率,カーブ曲率変化の関係図。
【図21】図16の車両運動制御装置のカーブ曲率,カーブ曲率変化と、前後加速度の時間変化を示す図。
【図22】本発明に係る車両運動制御装置の第2の実施形態を示す図。
【図23】図22に示す車両運動制御装置の車両運動制御演算手段の一例を示す図。
【図24】図22の車両運動制御装置のフローチャートを示す図。
【図25】図22の車両運動制御装置の自車位置とノード点位置の関係を示す概念図。
【図26】図22の車両運動制御装置の前後加速度の時間変化を示す図。
【図27】本発明に係る車両運動制御装置の第3の実施形態の一例を示す図。
【図28】本発明に係る車両運動制御装置の第3の実施形態の他例を示す図。
【図29】本発明に係る車両運動制御装置の第4の実施形態を示す図。
【図30】本発明に係る車両運動制御装置の第5の実施形態のフローチャートを示す図。
【図31】本発明に係る車両運動制御装置の第5の実施形態のカーブ曲率,カーブ曲率変化の関係図。
【図32】本発明に係る車両運動制御装置の第5の実施形態の前方注視点までの距離と前方注視点の移動速度の関係を示す図。
【図33】本発明に係る車両運動制御装置の第5の実施形態の前方注視点までの距離と前方注視点位置でのカーブ曲率の時間変化制限値の関係を示す図。
【図34】本発明に係る車両運動制御装置の第5の実施形態のカーブ曲率,速度,前後加速度,前後加加速度の時間変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る車両運動制御装置の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態の車両運動制御装置による車両のカーブ前の前後加速度変化と前後加加速度変化の概念図を示したものである。
【0017】
ここで、図1のbおよびb′がそれぞれ本実施形態の車両運動制御装置による前後加速度変化,前後加加速度変化である。なお、図1のaおよびa′はそれぞれ従来技術による前後加速度変化,前後加加速度変化である。
【0018】
図1に示すように、従来技術では車両がカーブ前のある地点に達した時間Aからカーブ進入開始の時間Bまでの間、一定の減速となる。その結果、車両速度が高い条件ではドライバがどの程度のカーブ曲率かを明確に認識する前に強い減速度が発生する可能性があり、結果、旋回時に所定の横加速度となっていたとしても、カーブ手前に過度に減速したという感じを受ける。
【0019】
本実施形態では、前記時間Aからカーブ曲率が一定になる時間Cまで前後加速度が変化し、自車位置がカーブ遠方である時の区間Dにおける、カーブ曲率に基づく減速から、自車位置がカーブ近傍である時の区間Eにおける、カーブ曲率の時間変化による減速へと移行する。その結果、減速開始から減速度が最大となるまでの区間Fのうち、減速開始直後の区間Gとカーブ近傍での減速へ移行する区間Hの2区間において、前後加加速度の増減が発生する。
【0020】
これにより、カーブ遠方にてドライバが“カーブがあるから減速が必要”と認識したことによる減速から、カーブ近傍にてドライバがカーブの曲率変化を認識し、“曲率変化が大きいからもう少し減速が必要”といった、カーブ曲率の時間変化に応じた減速へと移行することができ、ドライバフィーリングにあった減速が可能となる。
【0021】
(カーブ曲率およびカーブ曲率変化に基づく前後加速度指令値の演算方法)
実施形態の説明に先立ち、本発明の理解が容易になるよう、以下、図2〜図5を用いてカーブ曲率、およびカーブ曲率変化に基づく前後加速度指令値の演算方法について説明する。なお、本明細書において、前後加速度は加速側が正、減速側が負であり、減速度は減速側が正なる値である。図2に示すように、自車両が車両速度Vにて破線で示す走行コースを走行するシーンを考える。この時ドライバは自車前方の走行コースの形状を見て加減速を行うと考えられる。この時ドライバの見ている点を疑似的に表現した点として、自車両進行方向に前方注視点を設定し、この位置のカーブ曲率をκPP、カーブ曲率変化をdκPP/dxとする。ここで、前方注視点は、自車両前方のコース上にあって、自車両からある距離Lpp離れた点であり、Lppは車両速度Vに予め設定される時間Tppを積算して得られる値である。また、カーブ曲率κPPはカーブの方向によらず0以上の値とし、カーブ曲率半径が十分大きければ、カーブ曲率κPPを0とする。車両速度Vのままで前方注視点の位置へ進入すると考えた場合、発生するであろう横加速度推定値GyESTおよび横加速度の時間変化である横加加速度推定値dGyESTは、それぞれ以下の式(1)(2)で与えられる。ここで、横加速度推定値GyESTは、式(1)からわかるように、右旋回,左旋回によらず、常に0以上の値となる。
【0022】
【数1】

【0023】
【数2】

【0024】
ここで、自車位置がカーブ近傍にあり、車両から前方注視点までの距離が短い条件では、ドライバは上述の横加加速度に基づく加減速度の作成方法(特許文献2,非特許文献1)と同様のアルゴリズムで加減速すると仮定すると、横加加速度推定値dGyESTに基づく前後加速度指令値GxREQは以下の式(3)で与えられる。
【0025】
【数3】

【0026】
ここで、Cxyは比例ゲインであり、最大横加速度推定値、前方注視点での道路勾配、ドライバのペダル操作等に応じて可変の値とし、その設定方法は後述する。ここで、式(2)の第二項(κPP・2V・dV/dt)の影響が第一項(dκPP/dt・V2)と比べて十分小さいとして式(2)を式(3)に代入すると、以下の式(4)が得られる。
【0027】
【数4】

【0028】
このように前方注視点におけるカーブ曲率の時間変化(dκPP/dt)に基づいた前後加速度指令値が得られる。更に(dκPP/dt)は式(5)のように変形することができる。
【0029】
【数5】

【0030】
ここで、(dx/dt)は前方注視点の移動速度VPPであるため、式(4)はVPPを用いて以下の式(6)で与えられる。
【0031】
【数6】

【0032】
これにより、カーブ近傍における前後加速度指令値を作成することができる。
【0033】
一方、自車位置がカーブ遠方にて、車両から前方注視点までの距離が長い条件では、ドライバはカーブ曲率変化のような詳細な情報を把握できず、漠然としたカーブ曲率に応じて減速を行っていると考えられる。この時の前後加速度指令値GxREQfarは、例えば図3に示すように、上述の式(1)により得られた横加速度推定値GyESTを用いて、横加速度推定値GyESTに応じてある横加速度設定値GyLMT0からGyLMT1まで前後加速度指令値GxREQfarが最小値GxREQfar_minとなるように減少(減速度としては増加)するように作成してもよい。また、自車両から遠方の前方注視点までの距離をLfarとし、ある設定横加速度GySETを用いて、前後加速度指令値GxREQfarを以下の式(7)で与えてもよい。ここで、min(A,B)はAとBのうちのどちらか小さい値を選択する関数であり、max(A,B)はAとBのうちのどちら大きい方を選択する関数である。
【0034】
【数7】

【0035】
ここで、Lfarは、前記LPP以上の値であれば、予め設定される値であっても、車両速度Vに予め設定される時間Tppを積算して得られる値であってもよい。また、GySET、およびGxREQfar_minは予め設定される値であっても、路面摩擦係数取得手段やドライバによる設定手段を備える構成であれば、路面摩擦係数やドライバによる設定値に応じて変化する値であってもよい。
【0036】
また、Cxは予め設定される値であっても、最大横加速度推定値、前方注視点での道路勾配、ドライバのペダル操作等に応じて変化する値であってもよい。GxREQfarの作成方法はこれらに限定するものではないが、前後加速度指令値GxREQfarによる減速度は、カーブ近傍での前後加速度GxREQによる減速度以下となるように作成する。
【0037】
以上のようにして得られたカーブ近傍およびカーブ遠方の前後加速度指令に基づいて、最終的な前後加速度指令値を作成することで、図1bに示したようにカーブ遠方(区間D)のカーブ曲率による減速から、カーブ近傍(区間E)のカーブ曲率変化による減速へと減速度が増加する前後加速度を発生させることができる。
【0038】
また、上述のように自車位置がカーブ近傍の場合とカーブ遠方の場合とで、前後加速度指令を別々に作成するのではなく、前記式(6)における前方注視点の移動速度VPPをカーブまでの距離で変化させることにより、自車位置がカーブ遠方にある時の減速からカーブ近傍での減速へと変化させてもよい。例えば、前方注視点でのカーブ曲率κPPがある値κPPlmt以上となった場合、図4に示すように、前方注視距離LppκがLppκ_lmtよりも大きい領域では、前方注視点の移動速度VPPをVPPminとし、自車両がカーブに近づき、前方注視距離Lppκ_nearで車両速度Vとなるように、前方注視距離Lppκが小さくなるに応じて前方注視点の移動速度VPPを増加させる。
【0039】
ここでLppκ_lmt,Lppκ_nearは、Lppκ_lmtがLppκ_near以上となるように、またVPPminは0以上、かつ車両速度V以下となるよう予め設定される値である。
【0040】
これは、自車位置がカーブ遠方であり、ドライバが漠然とカーブを認識しているような状態では、ドライバの視線の移動速度が小さく、自車両がカーブに近づいた状態では、ドライバがカーブに沿って視線を移動させるようになるに応じて視線の移動速度が増加するという行動を、前方注視点の移動速度の形で表現したものである。
【0041】
これにより、図5に示すような自車位置でのカーブ曲率がκvとなるコースを走行した場合、前方注視点でのカーブ曲率κpp、前方注視点の移動速度VPPは図5に示すように変化し、この結果、カーブ遠方での小さな減速度から、カーブが近づくにつれて徐々に減速度を増加させることができる。
【0042】
(前後加速度指令値における比例ゲインの設定)
上述の比例ゲインCxy,Cxは、自車両前方のカーブ走行時に発生するであろう最大横加速度推定値、自車両前方の道路勾配、ドライバのペダル操作、旋回方向の少なくともいずれか一つに基づいて変化する。以下、図6〜図15を用いて、その設定方法について説明する。
【0043】
図6は、比例ゲインCxy,Cxを演算するブロック図を示したものである。ここで、比例ゲインCxy,Cxは、比例ゲイン初期値Cxy0,Cx0に各補正ゲインを積算することで演算する。以下、最大横加速度推定値、道路勾配、ペダル操作、旋回方向に基づく補正ゲインの演算方法について説明する。
【0044】
まず、補正ゲイン演算部(最大横加速度推定値)21では、最大横加速度推定値GymaxESTに基づく補正ゲインCadjGyの演算を行う。上記最大横加速度推定値GymaxESTは、図7に示すような前方注視点のカーブ曲率と自車位置のカーブ曲率から作成されるカーブ曲率最大値κppmaxと車両速度Vとを用いて、以下の式(8)で与えられる。
【0045】
【数8】

【0046】
上記式(8)により得られた最大横加速度推定値GymaxESTに基づいて、補正ゲインCadjGyは、図8に示す形態で与えられる。図8において、Gyset1,Gyset2,Gyset3,Gyset4,Gyset5、およびCadjGy1,CadjGy2は、0≦Gyset1<Gyset2<Gyset3<Gyset4≦Gyset5,1<CadjGy1≦CadjGy2となるように設定される値であり、予め設定される値であっても、ドライバ自身の入力に応じて設定される値であっても、車両に発生可能な最大横加速度を取得する手段を備える場合には、車両に発生可能な最大横加速度に応じて設定される値であってもよい。
【0047】
これらGyset1,Gyset2,Gyset3,Gyset4,Gyset5、およびCadjGy1,CadjGy2を適宜設定することで、最大横加速度推定値GymaxESTが小さい時は補正ゲインCadjGyを0とする領域8A、最大横加速度推定値GymaxESTの増加に応じて補正ゲインCadjGyが増加する領域8B,8D,8E、最大横加速度推定値GymaxESTがある範囲の領域では補正ゲインCadjGyを1とする領域8Cを作成することができる。これにより、最大横加速度推定値GymaxESTが小さい領域では、補正ゲインCadjGyを1よりも小さくすることで、前後加速度指令値の絶対値が小さくなるように補正し、最大横加速度推定値GymaxESTがある範囲にある時は、補正を行わず、最大横加速度推定値GymaxESTが大きい領域では、補正ゲインCadjGyを1よりも大きくすることで、前後加速度指令値の絶対値が大きくなるように補正することができる。また、最大横加速度推定値GymaxESTが非常に大きい領域(図8中の領域8E)では、最大横加速度推定値GymaxESTの増加に対して補正ゲインCadjGyの増加をより大きくすることで、カーブ前の減速無しではカーブ進入後に道路を逸脱してしまうようなシーンで、前後加速度指令値の絶対値を更に大きくすることができる。
【0048】
ここで、最大横加速度推定値GymaxESTに対する補正ゲインCadjGyの設定方法は、図8に示した方法のみに限定されず、最大横加速度推定値GymaxESTの増加に対して、補正ゲインCadjGyが0から1となる領域、1となる領域、さらに1よりも大きくなる領域を与える方法であればよい。これにより、上述の式(6)にて作成される前後加速度指令値の大きさを横加速度に応じて増減することができる。
【0049】
次いで、補正ゲイン演算部(道路勾配)22では、道路勾配に基づく補正ゲインCadjgradの演算を行う。ここで、道路勾配として上り坂や下り坂のような縦断勾配を用いる場合、図9に示すように、前方注視点の縦断勾配θppと自車位置の縦断勾配θvから、制御用縦断勾配θctrlを作成して補正ゲインCadjgradを演算する。ここで、θは上り勾配では正、下り勾配では負となる変数である。θctrlの作成方法としては、前方注視点の縦断勾配θppと自車位置の縦断勾配θvを用いて、以下の式(9)で演算された値にフィルタ処理を行う。ここで、kgradは前方注視点の縦断勾配θppと自車位置の縦断勾配θvの重みを変更するため、0から1の範囲の値をとる定数である。なお、kgradは予め設定される値であっても、前方注視点の縦断勾配θppと自車位置の縦断勾配θvに応じて変化する値であってもよい。例えば、θpp,θvが共に正である場合と、θppが負、且つθvが正である場合とで、kgradを異なる値としてもよく、θppが負の場合には、θppが正の場合よりもその値を大きくしてもよい。
【0050】
【数9】

【0051】
上記式(9)により得られたθctrlを用いて、補正ゲインCadjgradは図10に示す形態で与えられる。図10において、θseta1,θseta2,θseta3,θseta4,θsetb1,θsetb2,θsetb3,θsetb4、及びCadjgrada1,Cadjgradb1は、θseta1<θseta2<0<θseta3<θseta4,0<Cadjgrada1,θsetb1<θsetb2<0<θsetb3<θsetb4,0<Cadjgradb1となるように設定される値であり、予め設定される値であっても、ドライバ自身の入力に応じて設定される値であってもよい。
【0052】
これらθseta1,θseta2,θseta3,θseta4,θsetb1,θsetb2,θsetb3,θsetb4、およびCadjgrada1,Cadjgradb1を適宜設定することで、図10(a)に示す前後加速度指令値が負の場合には、制御用縦断勾配θctrlがある負の値以下では補正ゲインCadjgradをCadjgrada1とする領域10aA、制御用縦断勾配θctrlの増加に応じて補正ゲインCadjgradが減少する領域10aB,10aD、制御用縦断勾配θctrlの絶対値が小さい時は補正ゲインCadjgradを1とする領域10aC、制御用縦断勾配θctrlがある正の値以上では補正ゲインCadjgradを0とする領域10aEを作成することができる。同様に、図10(b)に示す前後加速度指令値が正の場合には、制御用縦断勾配θctrlがある負の値以下では補正ゲインCadjgradを0とする領域10bA、制御用縦断勾配θctrlの増加に応じて補正ゲインCadjgradが増加する領域10bB,10bD、制御用縦断勾配θctrlの絶対値が小さい時は補正ゲインCadjgradを1とする領域10bC、制御用縦断勾配θctrlがある正の値以上では補正ゲインCadjgradをCadjgradb1とする領域10bEを作成することができる。
【0053】
これにより、縦断勾配の絶対値が小さい領域では補正を行わず、負の前後加速度指令値による制御、すなわち減速制御では、下り勾配での減速度を大きくし、上り勾配での減速度を小さくすることができる。また、制御用縦断勾配θctrlを前方注視点での縦断勾配に基づいて作成することにより、平坦路を走行中の自車両前方に下りカーブが存在する場合、自車位置が平坦路であっても、前方の下り勾配を考慮した減速制御を実現することができる。
【0054】
ここで、縦断勾配に対する補正ゲインCadjgradの設定方法は図10に示した方法のみに限定されず、縦断勾配に対して、縦断勾配の絶対値が小さい時には補正ゲインCadjgradが1となり、減速制御時(図10(a)参照)は、下り勾配時に補正ゲインCadjgraが1よりも大きく、上り勾配時に1よりも小さくなり、逆に加速制御時(図10(b)参照)には、下り勾配時に1よりも小さく、上り勾配時に1よりも大きくなるように与える方法であればよい。
【0055】
また、上記においては道路勾配として縦断勾配による場合の補正方法について示したが、カント(cant)と呼ばれる横勾配を取得可能である場合には、横勾配に応じて補正ゲインCadjgradを変更してもよい。例えば、カーブの旋回内側から外側への上り勾配を正とした場合、図11に示すように、横勾配の絶対値がある値以下の領域11Cでは上記補正ゲインCadjgradを1とし、領域11Cよりも横勾配が小さい値の領域11A,11Bでは補正ゲインCadjgradを1よりも大きくし、領域11Cよりも横勾配が大きい値の領域11D,11Eでは補正ゲインCadjgradを1よりも小さくする。これにより、旋回外側に向かって上り勾配となっているバンク路では横勾配が大きな値となるため、補正ゲインCadjgradが小さな値となり、過度な減速を抑制することができる。また、旋回外側に向かって下り勾配となっている場合には横勾配が小さい値となるため、補正ゲインCadjgradが大きな値となり、十分に減速することができる。
【0056】
また、補正ゲイン演算部(旋回方向)23では、旋回方向に基づく補正ゲインCadjdirの演算を行う。図12に示すように、同じカーブを走行する場合であっても、左旋回の車両12Aと右旋回の車両12Bで旋回半径は異なり、例えば日本のような車両が左側車線を走行する場合には、一般的に右旋回時の旋回半径ρRよりも左旋回の旋回半径ρLの方が小さくなる。自車走行車線毎のカーブ曲率が精度良く得られる場合には旋回方向に関する補正ゲインは不要となるものの、例えば、カーブ曲率が道路中心位置の値ρCで代表されている場合には、右旋回に対して左旋回では減速不足が発生する可能性がある。
【0057】
そこで、右旋回時のカーブ曲率を正とし、左旋回時のカーブ曲率を負とした場合、カーブ曲率に対する補正ゲインCadjdirを図13に示す形態で与える。図13に示すように、カーブ曲率が負、すなわち左旋回時には補正ゲインCadjdirが1よりも大きな値となる領域13A,13Bがあり、カーブ曲率が負であってもその絶対値が小さい領域、およびカーブ曲率が正となる領域13Cでは、補正ゲインCadjdirが1となるように与える。
【0058】
これにより、カーブ曲率の絶対値が小さい領域、即ちカーブ半径が大きい領域では、カーブ半径に対して車線違いによる影響が小さくなるため、補正ゲインCadjdirを1として補正を行わず、車線違いによる影響が大きくなるカーブ曲率の絶対値が大きい領域では、補正ゲインCadjdirを1よりも大きな値とすることで、右旋回に対して左旋回の前後加速度制御を補正することができる。
【0059】
図13においては、右旋回を基準として左旋回時の前後加速度指令値を補正する方法について示したが、図14に示すように、右旋回においても、カーブ曲率の絶対値が大きい領域14D,14Eでは、補正ゲインCadjdirが1よりも小さくなるように与えてもよい。
【0060】
また、補正ゲイン演算部(ペダル操作量)24では、ドライバのアクセルペダル操作量、もしくはブレーキペダル操作量に基づく補正ゲインCadjdrvの演算を行う。この補正ゲインCadjdrvは、ドライバのアクセル操作量から作成されるドライバ要求加速度、もしくはドライバ要求減速度を用いて、図15に示す形態で与えられる。
【0061】
ここで、ドライバ要求加速度は、一定速度走行時のアクセル操作量の時にその値が0となり、アクセルペダル操作量の増加に応じて増加する値である。また、ドライバ要求減速度は、ブレーキペダル操作量が0の時にその値が0となり、ブレーキペダル操作量の増加に応じて増加する値である。図15において、Gxdrvseta1,Gxdrvseta2,Gxdrvsetbは、Gxdrvseta1<Gxdrvseta2,0≦Gxdrvsetbとなるように設定される値であり、予め設定される値であっても、ドライバ自身の入力に応じて設定される値であっても、車両に発生可能な最大横加速度を取得する手段を備える場合には、車両に発生可能な最大横加速度に応じて設定される値であってもよい。
【0062】
これらGxdrvseta1,Gxdrvseta2,Gxdrvsetbを適宜設定することで、図15(a)に示す前後加速度指令値が負の場合、ドライバ要求加速度がGxdrvseta1以下の領域15aAでは補正ゲインCadjdrvを1とし、ドライバ要求加速度がGxdrvseta1よりも大きい領域15aBでは、ドライバ要求加速度の増加に応じて補正ゲインCadjdrvを減少させ、さらにドライバ要求加速度がGxdrvseta2以上では補正ゲインCadjdrvを0とする。また、図15(b)に示す前後加速度指令値が正の場合、ドライバ要求減速度が0以下の領域15bAでは補正ゲインCadjdrvを1とし、ドライバ要求減速度が0よりも大きい領域15bBでは、ドライバ要求減速度の増加に応じて補正ゲインCadjdrvを減少させ、ドライバ要求減速度がGxdrvsetb以上では、補正ゲインCadjdrvを0とする。
【0063】
また、車両に発生可能な最大横加速度を取得する手段を備える場合には、上述の式(8)によって得られる最大横加速度推定値GymaxESTと発生可能な最大横加速度に基づいて、上記Gxdrvseta1,Gxdrvseta2を変更してもよい。例えば、最大横加速度推定値GymaxESTが発生可能な最大横加速度以上となっている場合には、Gxdrvseta1,Gxdrvseta2をドライバ要求加速度の最大値以上の値に設定することで、補正ゲインCadjdrvはアクセルペダル操作量によらず常に1とすることができる。これにより、最大横加速度推定値GymaxESTが発生可能な最大横加速度を超えるような場合、ドライバのアクセルペダル操作によらず、減速制御を実施することが可能となる。
【0064】
なお、既述するように、上記方法により得られた各補正ゲインCadjGy,Cadjgrad,Cadjdir,Cadjdrvを比例ゲイン演算部25で比例ゲイン初期値Cxy0,Cx0に積算することで、比例ゲインCxy,Cxを得ることができる。
【0065】
以上のように、最大横加速度推定値、道路勾配、旋回方向、ペダル操作量から補正ゲインを作成して比例ゲインCxy,Cxを演算する方法を示したが、必ずしもこれら全ての補正ゲインを作成する必要はなく、前後加速度指令値に対して加算することで補正を行ってもよい。例えば、比例ゲインCxy,Cxを演算する際の補正ゲインとして補正ゲインCadjGyと補正ゲインCadjdirのみを演算し、得られた前後加速度指令値に対して、前後加速度指令値が0以外の値の時に道路勾配により発生する前後加速度Gxgradを加算することで、勾配に対する補正を行ってもよい。同様に、前後加速度指令値が負の値の時に、ドライバのアクセルペダル操作による前後加速度Gxaccを加算し、前後加速度指令値が正の値の時に、ドライバのブレーキペダル操作による前後加速度Gxbrkを加算することで、ドライバのペダル操作による補正を行ってもよい。
【0066】
(発明を実施するための第1の実施形態)
以下、図16〜図21を用いて、本発明の第1の実施形態による車両運動制御装置の構成及び動作について説明する。
【0067】
最初に、図16を用いて、本発明の第1の実施形態による車両運動制御装置の構成について説明する。
【0068】
図16は、本発明の第1の実施形態による車両運動制御装置の構成を示すシステムブロック図を示したものである。
【0069】
本実施形態の車両運動制御装置1は車両に搭載されるものであり、自車両前方のカーブ形状を取得するカーブ形状取得手段2と、自車位置を取得する自車位置取得手段3と、前記カーブ形状取得手段2と前記自車位置取得手段3により得られた情報に基づいて車両に発生させる前後加速度を演算する車両運動制御演算手段4を備える。また、前記車両運動制御演算手段4の演算結果は、前後加速度発生手段5に送られ、車両に前後加速度を発生可能なアクチュエータの駆動を行う。
【0070】
カーブ形状取得手段2は、自車両が走行するコースの地図情報からカーブ形状を取得する方法であっても、路車間通信により自車両進行方向のカーブ情報を取得する方法であっても、車車間通信により自車両進行方向の前方を走行する車両から、カーブ情報を取得する方法であっても、撮像手段により自車両前方のカーブ形状を取得する方法であってもよい。また、地図情報取得手段、路車間通信手段、もしくは車車間通信手段、もしくは撮像手段との通信によりカーブ形状情報を取得する方法であってもよい。
【0071】
自車位置取得手段3は、グローバルポジショニングシステム(GPS)により自車両の座標から自車両前方のカーブに対する自車位置を取得する方法であっても、路車間通信により自車両前方のカーブに対する自車位置を取得する方法であっても、撮像手段により自車両前方もしくは周囲、またはその両方の画像を取得し、自車両前方のカーブに対する自車位置を取得する方法であってもよい。また、GPS、もしくは路車間通信手段、もしくは撮像手段との通信によりカーブに対する自車位置を取得する方法であってもよい。
【0072】
ここで、カーブ形状取得手段2および自車位置取得手段3として、複数の方法を備えていてもよい。例えばカーブ形状取得手段2として地図情報および撮像手段によりカーブ形状情報を取得する手段を備え、自車位置取得手段3として、GPSおよび撮像手段により自車位置を取得する手段を備えていてもよい。複数の方法を組合せることで、カーブ遠方の情報として、地図情報、およびGPSによるカーブ形状情報および自車位置情報を用い、カーブ近傍では前記地図情報、およびGPSによるカーブ形状情報および自車位置情報に加え、撮像手段によるカーブ形状情報および自車位置情報を用いることで、より精度の良いカーブ形状情報および自車位置情報を得ることができる。
【0073】
また、GPSによる自車位置情報の取得が困難である際に、撮像手段によりカーブ形状情報、および自車位置情報を取得することで、前後加速度制御に必要なカーブ形状情報、および自車位置情報を取得することができる。逆に、撮像手段ではカーブ形状情報、および自車位置情報の取得が困難な状況では、GPSおよび地図情報によりカーブ形状情報、および自車位置情報を取得することで、前後加速度制御に必要なカーブ形状情報、および自車位置情報を取得することができる。
【0074】
前後加速度発生手段5は、例えば、エンジンのスロットル開度を制御することで前後加速度を発生させるエンジン、もしくはモータの駆動トルクを制御することで前後加速度を発生させるモータ、もしくは動力を各車輪に伝達する際の変速比を変えることで前後加速度を発生させる変速機、もしくは各車輪のブレーキパッドにブレーキディスクを押しつけることで前後加速度を発生させる摩擦ブレーキといった、前後加速度を発生可能な加減速アクチュエータを適用することができる。
【0075】
車両運動制御演算手段4は、記憶領域、および演算処理能力、および信号の入出力手段を有する演算装置であり、前記カーブ形状取得手段2および前記自車位置取得手段3により得られたカーブ形状および自車位置から車両に発生させる前後加速度指令値を演算し、前記前後加速度指令値となる前後加速度を発生し得る前記加減速アクチュエータを前後加速度発生手段5として、前記加減速アクチュエータの駆動制御器へ前記前後加速度指令値を送る。
【0076】
ここで、送る信号は前後加速度ではなく、前記加減速アクチュエータによって前記前後加速度指令値を実現し得る信号であればよい。
【0077】
例えば、前記加減速アクチュエータが油圧によりブレーキパッドをブレーキディスクに押し付ける油圧式摩擦ブレーキである場合、前後加速度指令値を実現する油圧指令値を油圧式摩擦ブレーキ制御器へ送る。また、油圧式摩擦ブレーキ制御器を介さず、前後加速度指令値を実現する油圧式摩擦ブレーキ駆動アクチュエータの駆動信号を油圧式摩擦ブレーキ駆動アクチュエータに直接送ってもよい。
【0078】
また、前後加速度指令値を実現する際に、前後加速度指令値に応じて駆動制御を行う前記加減速アクチュエータを変更してもよい。
【0079】
例えば、自車位置がカーブ遠方での減速における前後加速度指令値を実現するために、前記変速機の変速比を変更する指令値を変速機制御器に送り、カーブ近傍での減速における前後加速度指令値を実現するために、油圧指令値を油圧式摩擦ブレーキ制御器へ送ってもよい。
【0080】
以下、前記カーブ形状取得手段2として自車両が走行するコースの地図情報を用い、前記自車位置取得手段3としてGPSを用いる場合における前後加速度指令値の作成方法について説明する。
【0081】
ここで、前記車両運動制御演算手段4は、図17に示すように、自車両の速度を算出する自車速度算出手段41と、自車両の位置から前方注視点までの前方注視距離を算出する前方注視距離算出手段42と、前記前方注視距離におけるカーブ曲率及びカーブ曲率の時間変化を算出するカーブ曲率算出手段43と、前記前方注視距離におけるカーブ曲率及びカーブ曲率の時間変化と前記車両速度に基づいて前後加速度指令値を演算する前後加速度指令値演算手段44と、を備える。また、前記車両運動制御演算手段4は、最大横加速度推定値や、自車両前方の道路勾配、ドライバのペダル操作、前記旋回方向のうちの少なくともいずれか一つに基づいて前後加速度指令値を変化させる比例ゲインを演算する比例ゲイン演算部25を備える。
【0082】
図18は、第1の実施形態の前記車両運動制御装置1における演算フローチャートを示したものである。
【0083】
S001では、GPSによる自車位置データPv(Xv,Yv)、および自車位置情報と地図情報からカーブ形状データとして自車両進行方向にあるノード点位置データPn(Xn,Yn)を取得して演算を行う。ここで、nは、図19に示すように、自車両進行方向と逆方向にある最初のノード点位置を0とし、自車両進行方向に向かって1,2・・・,nmaxと増加する整数である。また、nmaxは、取得可能なノード点位置データ番号nの最大値である。演算後S100へ進む。
【0084】
S100では、GPSによる自車位置データPv(Xv,Yv)が更新されたか否かの判定を行い、データが更新されていればデータ更新フラグFGPSrefを1に、されていなければ0とする。演算後S200へ進む。更新の判定方法として、自車位置データPv(Xv,Yv)の前回値Pv_z1(Xv_z1,Yv_z1)との比較により更新されたか否かを判定しても、GPSから自車位置データの他に更新フラグを取得することで、更新されたか否かを判定してもよい。
【0085】
S200では、図17に示す自車速度算出手段41によって、自車位置の時間変化から、車両速度の算出を行う。ここで、データ更新フラグが0の時には、前回の車両速度算出結果を車両速度とする。データ更新フラグが1の時には、前回データ更新フラグが1になってから、今回データ更新フラグが1になるまでに要した時間ΔtPと、前回データ更新フラグが1だった時の自車位置データPv_Pz1(Xv_Pz1,Yv_Pz1)と今回の自車位置データPv(Xv,Yv)から算出した自車両の移動距離ΔLvから、自車両の移動速度である車両速度Vを算出する。
【0086】
S300では、図17に示す前方注視距離算出手段42によって、前方注視距離の演算を行う。図20に示すように、自車両進行方向のコース上に自車両の極近傍から遠方まで前方注視点PP0,PP1,PP2という3つの前方注視点を設定し、自車両から前方注視点PP0,PP1,PP2までの前方注視距離LPP0,LPP1,LPP2を算出する。
【0087】
ここで、前方注視距離LPP0,LPP1,LPP2は以下の式(10)の関係を満たすように予め設定される値であっても、予め設定される前方注視時間TPP0,TPP1,TPP2(ただしTPP0<TPP1<TPP2)と車両速度Vを用いて、それぞれ式(11)に示すように与えてもよい。ただし前方注視点PP0は自車両の極近傍の注視点とし、Lmaxは自車位置からノード点位置P1までの距離とノード点位置P1からノード点位置Pnmaxまでの各ノード点間距離を合計した値である。演算後S400へと進む。
【0088】
【数10】

【0089】
【数11】

【0090】
S400では、前後加速度制御許可フラグの演算を行う。前後加速度制御許可フラグは、その値が1の時に前後加速度制御を許可し、0の時に前後加速度制御を禁止するものとする。前後加速度制御許可フラグの作成方法としては、例えば前記データ更新フラグFGPSrefが0となっている時間が所定時間以上となった場合、GPSによる自車位置データの取得が困難であるとして前後加速度制御許可フラグを0とする。
【0091】
また、自車位置データによる走行軌跡と地図データ上で自車が走行していると想定しているコース形状との乖離が大きい場合、地図データ上の自車の走行コースが実際のコースと異なるとして、前後加速度制御許可フラグを0とする。
【0092】
また、車両速度Vにより前後加速度制御許可フラグを0としてもよい。例えば、制御を開始する最低車両速度を予め設定しておき、最低車両速度よりも車両速度Vが小さければ、前後加速度制御許可フラグを0とする。
【0093】
また、上述のように、複数のカーブ形状データの取得手段、および自車位置データの取得手段を備える場合、その全ての取得手段において、カーブ形状データ、および自車位置データの取得が困難であると判断された場合、前後加速度制御許可フラグを0とする。例えば、GPSの他に撮像手段によりカーブ形状データ、および自車位置データを取得している場合、上述のようにGPSによる自車位置データの取得が困難と判定された上に、更に撮像手段によるカーブ形状データ、および自車位置データの取得が困難と判定された際に、前後加速度制御許可フラグを0とする。そして、これら以外の条件では1とする。演算後S500へ進む。
【0094】
S500では、図17に示すカーブ曲率算出手段43によって、ノード点位置データPn(Xn,Yn)からnが1以上の点における各ノード点位置のカーブ曲率κn、および自車位置のカーブ曲率κvと、ノード点間のカーブ曲率変化dκn/dxを算出し、前方注視距離LPP0,LPP1,LPP2でのカーブ曲率κPP0,κPP1,κPP2、およびカーブ曲率変化dκPP0/dx,dκPP1/dx,dκPP2/dxを算出する。ここで、カーブ曲率の算出方法としては、連続する3点のノード点Pn-1,Pn,Pn+1を通る円弧のカーブ曲率半径を求め、その逆数をとることでノード点Pnのカーブ曲率κnを求めることができる。
【0095】
また、自車位置のカーブ曲率κvは、自車位置がノード点位置P1と一致していれば、カーブ曲率κvはカーブ曲率κ1となり、一致していなければ、ノード点P0,Pv,P1からカーブ曲率κvを算出することができる。ここで、カーブ曲率κnおよびカーブ曲率κvはカーブの方向によらず正の値とする。
【0096】
また、カーブ曲率半径が十分大きければ、カーブ曲率κnを0としてもよい。これにより得られた各ノード点のカーブ曲率κnと各ノード点間距離からカーブ曲率変化dκn/dxを算出する。図20に示すように、ノード点間を線系補完し、ノード点Pn,Pn+1間の距離をLnとすると、ノード点Pn,Pn+1間のカーブ曲率変化dκn/dxは以下の式(12)で与えられる。
【0097】
【数12】

【0098】
同様に、自車位置Pvとノード点P1間のカーブ曲率変化dκv/dxは、自車位置Pvとノード点P1間の距離をLv1とすると、以下の式(13)で与えられる。
【0099】
【数13】

【0100】
各ノード点のカーブ曲率κn、およびカーブ曲率変化dκn/dxを算出した後、前方注視距離LPP0,LPP1,LPP2に対応したカーブ曲率κPP0,κPP1,κPP2、およびカーブ曲率変化dκPP0/dx、dκPP1/dx、dκPP2/dxを算出する。例えば、図20に示すように、PP0がPvとP1の間、PP1がP2とP3の間、PP2がPnとPn+1の間にある場合、カーブ曲率κPP0,κPP1,κPP2、及びカーブ曲率変化dκPP0/dx,dκPP1/dx,dκPP2/dxは、以下の式(14)〜(19)で与えられる。
【0101】
【数14】

【0102】
【数15】

【0103】
【数16】

【0104】
【数17】

【0105】
【数18】

【0106】
【数19】

【0107】
ここで、各ノード点のカーブ曲率κn、およびカーブ曲率変化dκn/dxの算出方法は上記方法に限らず、各ノード点でのカーブ曲率、およびカーブ曲率変化を算出可能な方法であればよい。演算後S600へと進む。
【0108】
S600では、図17に示す前後加速度指令値演算手段44によって前方注視距離LPP0,LPP1,LPP2でのカーブ曲率κPP0,κPP1,κPP2、およびカーブ曲率変化dκPP0/dx,dκPP1/dx,dκPP2/dx、および車両速度Vに基づいて前後加速度指令値初期値を作成する。ここで、車両近傍のカーブ曲率変化dκPP0/dx、dκPP1/dxによる前後加速度指令値GxREQiniPP0,GxREQiniPP1は上述の式(6)により算出し、車両遠方のカーブ曲率κPP2による前後加速度指令値GxREQiniPP2は、上述の図3に示した方法で作成する。
【0109】
ここで、前方注視距離LPP0,LPP1,LPP2を上述の式(11)で示した前方注視時間TPP0,TPP1,TPP2で作成するとした場合、前方注視点PP0,PP1,PP2の移動速度VPP0,VPP1,VPP2は、車両速度Vを微分して得られる車両前後加速度Gxを用いて、以下の式(20)で与えられる。
【0110】
ここで、他の制御器との通信や加速度センサによる直接測定により前後加速度を取得する手段を備える構成であれば、それにより得られた前後加速度から車両前後加速度Gxを作成してもよい。
【0111】
【数20】

【0112】
式(6),(20)から、前後加速度指令値GxREQiniPP0,GxREQiniPP1を以下の式(21)により演算する。また、図3から前後加速度指令値GxREQiniPP2を演算する。
【0113】
【数21】

【0114】
ここで、Cxy0,Cxy1は、路面摩擦係数やドライバのアクセル操作といった他の情報を利用可能であれば、上述の図6にて示した補正ゲインのうち利用可能なもの(例えば、最大横加速度推定値による補正ゲインCadjGy)を、予め設定される定数Cxy00,Cxy10に積算して得られる値である。ここで、定数Cxy00,Cxy10は、他の条件に応じて変更する値であってもよい。例えば、dκPPm/dxが正の場合とdκPPm/dxが負の場合とで異なる値としてもよい。これらカーブ形状や自車位置以外の情報を利用する構成については、第2の実施形態にて説明する。演算後、S700へと進む。
【0115】
S700では、前後加速度指令値初期値GxREQiniPP0,GxREQiniPP1,GxREQiniPP2に前後加速度制御の介入閾値による処理や、フィルタ処理,セレクト処理,加算処理等を行い最終的な前後加速度指令値GxREQfinを作成する。例えば、上記前後加速度指令値GxREQiniPP0,GxREQiniPP1,GxREQiniPP2に対して、その符号や増減方向に応じた時定数をそれぞれ設定したフィルタ処理を行い、その値に応じたセレクト処理や加算処理を行う。
【0116】
更に、減速側の前後加速度制御介入閾値GxBRKs、および加速側の前後加速度制御介入閾値GxACCsとし、これらの値による前後加速度制御の介入閾値による処理を行う。ここで、前記前後加速度制御介入閾値GxBRKs,GxACCsは予め設定される値である。
【0117】
また、前後加速度指令値GxREQiniPP0,GxREQiniPP1,GxREQiniPP2のうち、2つが同時に0以外の値となっている領域では、両者が同符号であれば、その絶対値が大きい方の値とし、異符合であれば、両者を加算した値とする。また、上記前後加速度指令値GxREQiniPP0,GxREQiniPP1,GxREQiniPP2のうち、3つが同時に0以外の値となっている領域では、3つのうち同符号の2つの絶対値を比較して、その大きい方の値と、残る異符合の値を加算した値とする。これにより、GxREQiniPP0が正でGxREQiniPP2が負、すなわち自車両極近傍の位置ではカーブ曲率変化が負で、自車両前方にカーブ曲率変化が正となるカーブが存在する場合での減速度を小さくすることができ、連続カーブを走行している際の減速フィーリングを向上させることができる。
【0118】
また、ここで加算をする際に、その符号に応じて重み付けをしてもよい。例えば、減速を優先したければ、正となっている値が小さくなるような係数を積算して加算し、逆に加速を優先するのであれば、負となっている値が小さくなるような係数を積算して加算してもよい。
【0119】
これにより、図21に示すようなカーブ曲率κPP0,κPP1,κPP2、およびカーブ曲率変化dκPP0/dx,dκPP1/dx,dκPP2/dxとなるカーブを走行し、点線で示す前後加速度指令値GxREQiniPP0,破線で示すGxREQiniPP1,一点鎖線で示すGxREQiniPP2が得られた場合には、実線で示したような前後加速度指令値GxREQfinが得られる。ここで、上記前後加速度指令値GxREQiniPP0,GxREQiniPP1,GxREQiniPP2からGxREQfinを作成する方法は、上記内容に限ったものではないが、図21のT21で示した、負の前後加速度、すなわち減速している際のGxREQiniPP2からGxREQiniPP1へと遷移する区間において、減速度が過度に減少しないようにする。
【0120】
同様に、図21のT10で示したGxREQiniPP1からGxREQiniPP0へと遷移する区間においても、負の前後加速度、すなわち減速している際のGxREQiniPP1からGxREQiniPP0へと遷移する区間において、減速度が過度に減少しないようにする。演算後S800へと進む。
【0121】
S800では、前後加速度制御許可フラグが1であれば、前後加速度指令値GxREQfinを実現する指令値を、前後加速度制御許可フラグが0であれば、前後加速度制御を行わないようにする指令値を図16に示す前記前後加速度発生手段5へ送信する。
【0122】
ここで、前後加速度制御許可フラグが1の時に送信する信号としては、上述の通り、前記前後加速度指令値GxREQfinを送信することで前記前後加速度発生手段5により前後加速度指令値GxREQfinを実現することができる場合には、前後加速度指令値GxREQfinを制御指令値として送信する。
【0123】
また、前記前後加速度発生手段5に応じた指令値にする必要がある場合には、前後加速度指令値GxREQfinに基づいて前記前後加速度発生手段5を制御する指令値を作成して送信する。例えば、前記前後加速度発生手段5が油圧式摩擦ブレーキであり、油圧指令値を油圧式摩擦ブレーキ制御器に送ることで前後加速度制御を行う場合には、前後加速度指令値GxREQfinに基づいて油圧指令値を作成し、作成した油圧指令値を制御指令値として送信する。
【0124】
これにより、車両に前後加速度指令値GxREQfinに基づく前後加速度を発生させる。
【0125】
また、上述のように、前後加速度指令値を実現する指令を複数の前後加速度発生手段5に送信してもよい。例えば、カーブ遠方からの前後加速度指令値であるGxREQiniPP2に基づいて作成された前後加速度を実現する前後加速度発生手段5を前記変速機もしくはエンジン、またはその両方とし、カーブ近傍での前後加速度指令値であるGxREQiniPP1、およびGxREQiniPP0に基づいて作成された前後加速度を実現する前後加速度発生手段5として更に前記油圧摩擦ブレーキを加えることができる。
【0126】
これにより、カーブ遠方の比較的一定な減速を、エンジンのスロットル開度や変速機のギア比を変更することによりエンジンブレーキでの減速を行い、カーブ近傍の変化が大きい減速を、油圧摩擦ブレーキにより実現することができる。これにより、ドライバがカーブ遠方で進行方向にある程度カーブ曲率の大きいカーブを視認した際に、アクセルをオフにしてエンジンブレーキによる減速を行い、カーブ近傍にてカーブ曲率変化を明確に認識してからブレーキを操作して減速を行うことと同様の減速を実現することができる。
【0127】
以上のように、本実施形態では、車両に発生する減速が、カーブ遠方の減速からカーブ近傍への減速へと減速パターンが変化することで、ドライバが前方のカーブを詳細に認識する前から過度の減速を行うことなく、ドライバフィーリングを向上させることができる。また、最大横加速度推定値やドライバのアクセル操作、道路勾配、旋回方向といった他の情報を利用して比例ゲインを補正することで、ドライバフィーリングをより一層向上させることができる。
【0128】
(発明を実施するための第2の実施形態)
以下、図22〜図26を用いて、本発明の第2の実施形態による車両運動制御装置の構成及び動作について説明する。なお、第1の実施形態と同様の構成については同符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0129】
最初に、図22を用いて、本発明の第2の実施形態による車両運動制御装置の構成について説明する。
【0130】
図22は、本発明の第2の実施形態による車両運動制御装置の構成を示すシステムブロック図を示したものである。
【0131】
第2の実施形態の車両運動制御装置1′は車両に搭載されるものであり、自車両前方のカーブ形状を取得するカーブ形状取得手段2と、自車位置を取得する自車位置取得手段3と、車両運動情報取得手段6と、ドライバ入力情報取得手段7と、横運動連係前後加速度取得手段8と、路面情報取得手段9を備えると共に、前記カーブ形状取得手段2と前記自車位置取得手段3、および前記車両運動情報取得手段6、前記ドライバ入力情報取得手段7、前記横運動連係前後加速度取得手段8と、前記路面情報取得手段9とにより得られた情報に基づいて車両に発生させる前後加速度を演算する車両運動制御演算手段4′を備える。
【0132】
また、前記車両運動制御演算手段4′の演算結果は、前後加速度発生手段5および情報提示器10に送られ、車両に前後加速度を発生させることのできるアクチュエータの駆動、およびドライバへの情報提示を行う。
【0133】
ここで、カーブ形状取得手段2、自車位置を取得する自車位置取得手段3、および前後加速度発生手段5は上述の第1の実施形態と同様であるため、その詳細な説明は省略する。
【0134】
前記車両運動情報取得手段6では、車両の運動情報として、少なくとも車両速度Vもしくは前後加速度Gx、またはその両方を取得する。ここで、車両速度V及び前後加速度Gxはセンサ等により直接検出された値を取得しても、他の電子制御器が演算した結果を通信により取得してもよい。
【0135】
また、車両速度Vおよび前後加速度Gxそのものが入力されなくとも、これらを推定可能な値であればよい。例えば、車両速度Vの代わりに各車輪の車輪速度Vw[wheel](wheelにはFL(左前輪),FR(右前輪),RL(左後輪),RR(右前輪)がそれぞれ入る)を取得して、車両速度Vを推定してもよい。
【0136】
ドライバ入力情報取得手段7では、ドライバからの入力情報として、少なくともドライバ要求前後加速度GxDrvREQを取得する。ここで、ドライバ要求前後加速度GxDrvREQは、ドライバが直接入力した値を取得しても、他の電子制御器が演算した結果を通信により取得してもよい。また、ドライバ要求加速度GxDrvREQそのものが入力されなくとも、これを推定可能な値であればよい。例えば、ドライバ要求前後加速度GxDrvREQの代わりに、アクセルペダル操作量やブレーキペダル操作量から、ドライバ要求前後加速度GxDrvREQを推定してもよい。また、アクセルペダル操作量のみから、ブレーキ操作による減速を除いたドライバ要求前後加速度GxDrvREQを推定してもよい。
【0137】
また、エンジンを駆動源とした車両であれば、エンジントルク、およびシフトポジションの情報を取得し、ドライバ要求前後加速度GxDrvREQを推定してもよい。また、ドライバ要求前後加速度GxDrvREQの他に制御のON/OFF情報や、ドライバが制御量を調整、もしくは選択した際の値を取得してもよい。
【0138】
横運動連係前後加速度取得手段8では、例えば特許文献2や非特許文献1に示されている車両の横加加速度に基づく前後加速度GxGVCを取得する。ここで、前後加速度GxGVCそのものが入力されなくとも、これを推定可能な値であればよい。例えば、前後加速度GxGVCの代わりに横加加速度を取得して前後加速度GxGVCを演算してもよい。また、操舵角やヨーレイト、横加速度といった横運動情報を取得して前後加速度GxGVCを演算してもよい。
【0139】
路面情報取得手段9では、路面情報として、少なくとも路面摩擦係数μおよび路面縦断勾配Gradを取得する。ここで、路面摩擦係数μおよび路面縦断勾配Gradそのものが入力されなくとも、これを推定可能な値であればよい。例えば、路面摩擦係数μの代わりに前後加速度Gx、前記各車輪速Vw[wheel]、前記車両速度V等を取得して路面摩擦係数μを推定する方法であってもよい。また、操舵により発生するセルフアライニングトルクを取得して路面摩擦係数μを推定する方法であってもよい。
【0140】
また、各車輪の制駆動力Fwx[wheel]、もしくはそれに代わる情報(例えばエンジントルクやブレーキ圧)を取得して路面摩擦係数μを推定する方法であってもよい。また、路面縦断勾配Gradの代わりに、各車輪の制駆動力Fwx[wheel]、もしくはそれに代わる情報(例えばエンジントルクやブレーキ圧)と車両の前後加速度Gxを取得し、車輪で発生している力と実際に発生した前後加速度の差分から路面縦断勾配Gradを推定してもよい。また、平坦路での車両前後方向の加速度を測定するよう取り付けられた加速度センサによる値(情報)を取得し、車両速度Vを微分して得られた前後加速度の差分から路面縦断勾配Gradを推定してもよい。
【0141】
車両運動制御演算手段4′は、記憶領域、および演算処理能力、および信号の入出力手段を有する演算装置であり、前記カーブ形状取得手段2と前記自車位置取得手段3、および前記車両運動情報取得手段6,前記ドライバ入力情報取得手段7,前記横運動連係前後加速度取得手段8と、前記路面情報取得手段9により得られた情報に基づいて車両に発生させる前後加速度、およびドライバへの情報提示を演算し、前後加速度発生手段5および情報提示器10に指令値を送る。ここで、前後加速度発生手段5に送る指令値としては、上述の第1の実施形態と同様に対象とする加減速アクチュエータに応じた指令値とする。
【0142】
また、情報提示器10としては、ドライバが五感の少なくとも一つにより認識可能な情報を提示する情報提示器とし、情報提示器10に送る指令値としては、前記情報提示器を駆動可能な指令値とする。例えば、表示ランプやディスプレイのようにドライバの視覚に情報を与える表示器を情報提示器10とする場合、車両に発生させる前後加速度に基づいて表示ランプの点灯やディスプレイへの表示を行う指令値を送る。
【0143】
また、ビープ音や音声のようにドライバの聴覚に情報を与える音発生器を情報提示器10とする場合、車両に発生させる前後加速度に基づいてビープ音や音声による案内をする指令値を送る。
【0144】
また、ハンドルやペダル,シートの振動等のようにドライバの触覚に情報を与える振動発生器を情報提示器10とする場合、車両に発生させる前後加速度に基づいてハンドルやペダル、シートを振動する振動発生器に指令値を送る。また、情報提示器10として、前記表示器,音発生器,振動発生器を組合せて用いてもよい。
【0145】
以下、前記カーブ形状取得手段2として自車両が走行するコースの地図情報、前記自車位置取得手段3としてGPSを用い、車両運動情報取得手段6,ドライバ入力情報取得手段7,横運動連係前後加速度取得手段8,路面情報取得手段9として、他の電子制御器との通信手段を用いて、車両速度V,前後加速度Gx,ドライバ要求前後加速度GxDrvREQ,横運動連係前後加速度GxGVC,路面摩擦係数μ,路面縦断勾配Gradを取得し、さらに他の電子制御器との通信手段、もしくはスイッチ等の入力手段を用いて、前後加速度制御スイッチON/OFF情報Fctrlsw,ドライバ設定値GDrvSetを取得する場合での前後加速度指令値の作成方法について説明する。
【0146】
ここで、前記車両運動制御演算手段4′は、図23に示すように、自車両の位置から前方注視点までの前方注視距離を算出する前方注視距離算出手段42′と、前後加速度制御スイッチON/OFF情報と、自車両の速度と、カーブ形状と、自車両の位置と横運動連係前後加速度とに基づいて前後加速度制御モードを演算する前後加速度制御モード演算手段45と、演算された前記前後加速度制御モードに基づいて前記前方注視距離におけるカーブ曲率及びカーブ曲率の時間変化を算出するカーブ曲率算出手段43′と、前記前方注視距離におけるカーブ曲率及びカーブ曲率の時間変化と、前記車両速度とに基づいて前後加速度指令値を演算する前後加速度指令値演算手段44′と、演算された前記前後加速度制御モードに基づいて演算された前記前後加速度指令値を実現する制御指令値を出力する制御指令値出力手段46とを備える。また、前記車両運動制御演算手段4′は、最大横加速度推定値や、自車両前方の縦断勾配を除いた道路勾配、ドライバのペダル操作、前記旋回方向のうちの少なくともいずれか一つに基づいて前後加速度指令値を変化させる比例ゲインを演算する比例ゲイン演算部を備える。
【0147】
図24は、第2の実施形態の車両運動制御装置1′における演算フローチャートを示したものである。
【0148】
S010では、第1の実施形態1と同様に、カーブ形状、および自車位置データを取得して演算を行う。演算後S011へと進む。
【0149】
S011では、車両速度V,前後加速度Gx,ドライバ要求前後加速度GxDrvREQ,横運動連係前後加速度GxGVC,路面摩擦係数μ,路面縦断勾配Grad,前後加速度制御スイッチON/OFF情報Fctrlsw,ドライバ設定値GDrvSet等の車両運動情報,ドライバ入力情報,路面情報,横運動連係前後加速度を取得する。また、上述のように、これらの値を直接取得せずに推定を行う場合には、推定に必要なデータを取得して演算を行う。演算後S110へと進む。
【0150】
S110では、第1の実施形態と同様にGPSによる自車位置データPv(Xv,Yv)が更新されたか否かの判定を行い、データが更新されていればデータ更新フラグFGPSrefを1、されていなければ0とする。演算後S111へ進む。
【0151】
S111では、S010で得られたカーブ形状・自車位置データの更新を行う。S110にて演算されたデータ更新フラグが0である場合、すなわちS010にて取得するGPSによる自車位置データが更新されず、S011にて取得する車両運動情報等のデータのみが更新されている場合には、S010で得られたカーブ形状・自車位置データと車両運動情報により得られた車両速度Vから演算される自車両の移動距離に基づいて、カーブ形状・自車位置データを更新する。
【0152】
例えば、ある時間t0においてデータ更新フラグが1、すなわちGPSによるデータ更新が行われたとし、この時に得られたカーブ形状データをPt0_n(Xt0_n,Yt0_n)(nは0以上nmax_t0以下の整数)、自車位置データをPt0_V(Xt0_V,Yt0_V)とする。
【0153】
また、図25に示すように、この時のノード点Pt0_n,Pt0_n+1の距離をDt0_n+1、自車位置Pt0_Vとノード点Pt0_1の距離をDt0_V1とする。t0のΔtv後であるt1での演算では、データ更新フラグが0、すなわちGPSによるデータ更新が行われず、車両運動情報等の更新のみが行われた場合、車両速度VとΔtvから自車両の移動距離Dt1_Vを算出し、自車位置と各ノード点の位置関係を更新する。
【0154】
本実施形態では、上述の通り、自車両の進行方向と逆方向にある最初のノード点をP0と設定している。そのため、Dt1_VとDt0_V1の大小関係により、各ノード点の番号nが変わることになる。Dt1_VがDt0_V1以下の場合には、図25(a)に示すように、t1においても自車位置はノード点Pt0_0、Pt0_1の間にあるため、t1における各ノード点および、ノード点間距離、ノード点番号の最大値nmax_t1、およびDt1_V1は以下の式(22)〜(25)で与えられる。
【0155】
【数22】

【0156】
【数23】

【0157】
【数24】

【0158】
【数25】

【0159】
また、Dt1_VがDt0_V1よりも大きい場合、t1において自車位置がノード点Pt0_1よりも先にあるため、t1における各ノード点および、ノード点間距離、およびDt1_V1は以下の式(26)〜(29)で与えられる。
【0160】
【数26】

【0161】
【数27】

【0162】
【数28】

【0163】
【数29】

【0164】
ここで、kは式(29)で得られるDt1_V1が0以上、かつnmax_t1が正となる最小の整数である。
【0165】
例えば、図25(b)に示すように、自車位置がノード点Pt0_1,Pt0_2の間にある場合には、kは1となる。S010で得られたカーブ形状データのうち、上述の条件を満たすkが存在しない場合には、nmax_t0をkとする。また、データ更新フラグが1であれば、S010で得られた各ノード点でのデータ、および自車位置データを、カーブ形状データ、および自車位置データとする。演算後S310へと進む。
【0166】
S310では、図23に示す前方注視距離算出手段42′によって、前方注視距離の演算を行う。上述の第1の実施形態と同様に、自車両進行方向のコース上に自車両の極近傍から遠方まで前方注視点PP0,PP1,PP2という3つの前方注視点を設定し、自車両から前方注視点PP0,PP1,PP2までの前方注視距離LPP0,LPP1,LPP2を算出する。
【0167】
ここで、前方注視距離LPP0,LPP1,LPP2は上述の式(10)の関係を満たすように予め設定される値であっても、予め設定される前方注視時間TPP0,TPP1,TPP2(ただしTPP0<TPP1<TPP2)と車両速度Vを用いて、それぞれ上述の式(11)に示すように与えてもよい。
【0168】
また、路面摩擦係数μに応じて前方注視距離LPP0,LPP1,LPP2を変更してもよい。例えば、路面摩擦係数μがある所定の値以下であれば、路面摩擦係数μが小さいほど前方注視距離LPP0,LPP1,LPP2が長くなるように変更する。ただし、前方注視点PP0は自車両の極近傍の注視点とし、Lmaxは自車位置からノード点位置P1までの距離とノード点位置P1からノード点位置Pnmaxまでの各ノード点間距離を合計した値である。演算後S410へと進む。
【0169】
S410では、図23に示す前後加速度制御モード演算手段45によって、前後加速度制御モードGxModeの演算を行う。前後加速度制御モードGxModeは、その値が0の時には前後加速度制御を行わず、その値が1の時には横運動連係前後加速度GxGVCに基づく前後加速度制御を行い、さらに2の時には横運動連係前後加速度GxGVCおよび自車位置データ、およびカーブ形状データに基づく前後加速度制御を行うように設定される値である。
【0170】
前後加速度制御モードGxModeの作成方法としては、例えば前後加速度制御スイッチON/OFF情報Fctrlswにおいて、前後加速度制御スイッチOFFの時のFctrlswが0、前後加速度制御スイッチONの時のFctrlswが1とすると、Fctrlswが0の時には前後加速度制御モードGxModeを0とする。
【0171】
また、車両速度Vにより前後加速度制御モードGxModeを0としてもよい。
【0172】
例えば、制御を開始する最低車両速度を予め設定しておき、最低車両速度よりも車両速度Vが小さければ、前後加速度制御モードGxModeを0とする。
【0173】
また、横運動連係前後加速度GxGVCの取得が困難、かつ自車位置データ、およびカーブ形状データの取得が困難な際に前後加速度制御モードGxModeを0とする。前後加速度制御モードGxModeが0となる条件にない場合、カーブ形状データ、および自車位置データの状況に応じて、前後加速度制御モードGxModeを1もしくは2とする。
【0174】
例えば、前記データ更新フラグFGPSrefが0となっている時間が所定時間以上となった場合、GPSによる自車位置データの取得が困難として前後加速度制御モードGxModeを1とする。また、S111の式(29)で演算されたDt1_V1が0の場合には、前後加速度制御モードGxModeを1とする。また、自車位置データによる走行軌跡と地図データ上で自車が走行していると想定しているコース形状との乖離が大きい場合には、地図データ上の自車の走行コースが実際のコースと異なるとして、前後加速度制御モードGxModeを1とする。
【0175】
また、車両運動として車両速度Vに加えて、操舵角やヨーレイト、横加速度といった横運動情報が取得可能である場合、これらから推定される走行軌跡とGPSにより得られた自車位置軌跡をそれぞれ演算し、これらの乖離が大きければ、GPSの精度が低下しているとして、前後加速度制御モードGxModeを1とする。また、これら以外の条件では前後加速度制御モードGxModeを2とする。
【0176】
これにより、GPSによるデータ取得が困難な状況においても、横運動連係前後加速度GxGVCに基づく前後加速度制御を実施することができる。演算後S510へ進む。
【0177】
S510では、図23に示すカーブ曲率算出手段43′によって、前記前後加速度制御モードGxModeが2であれば、上述の第1の実施形態のS500と同様に、カーブ曲率,カーブ曲率変化を演算し、それ以外であれば、カーブ曲率,カーブ曲率変化を共に0とする。演算後、S610へと進む。
【0178】
S610では、図23に示す前後加速度指令値演算手段44′によって前方注視距離LPP0,LPP1,LPP2でのカーブ曲率κPP0,κPP1,κPP2、およびカーブ曲率変化dκPP0/dx,dκPP1/dx,dκPP2/dx、および車両速度Vに基づいて前後加速度指令値初期値を作成する。ここで、車両近傍のカーブ曲率変化dκPP0/dx,dκPP1/dxによる前後加速度指令値GxREQiniPP0,GxREQiniPP1は上述の式(6)により算出し、車両遠方のカーブ曲率κPP2による前後加速度指令値GxREQiniPP2は、上述の式(7)により算出する。
【0179】
ここで、前方注視距離LPP0,LPP1,LPP2を上述の式(11)で示した前方注視時間TPP0,TPP1,TPP2で作成するとした場合、前方注視点PP0,PP1,PP2の移動速度VPP0,VPP1,VPP2は、前後加速度Gxを用いて、上述の式(20)で与えられる。また、これにより得られた値から、前後加速度指令値GxREQiniPP0,GxREQiniPP1を上述の式(21)により演算する。また、上述の式(7)からGxREQiniPP2を演算する。ここで、Cxy0,Cxy1、およびCxは、路面摩擦係数μやドライバ要求前後加速度GxDrvREQにより変化する値である。
【0180】
その設定方法としては、例えばdκPPm/dxが正の場合の定数として予め設定された値Cxy0_ini,Cxy1_ini、およびCx_iniと路面摩擦係数μよる補正係数kμ、およびドライバ要求前後加速度GxDrvREQによる補正係数kGxDrvを用いて以下の式(30)〜(31)で与える。
【0181】
【数30】

【0182】
【数31】

【0183】
ここで、補正係数kμおよびkGxDrvは0から1の値であり、kμは路面摩擦係数μが小さい領域では大きい領域よりもその値が小さくなるように設定し、kGxDrvはドライバ要求前後加速度GxDrvREQがある値以上では、その増加に応じて減少し、最終的に0となるように設定する。また、GxREQiniPP2を演算する際、式(7)におけるGySET、およびGxREQfar_minは路面摩擦係数μに応じて値を変更する。例えば、路面摩擦係数μがある値以下では、GySETおよびGxREQfar_minを小さな値に変更する。
【0184】
また、第1の実施形態で述べたように、Cxy0,Cxy1、およびCxは、上述の図6に示した補正ゲインのうち、縦断勾配による補正を除いた補正ゲインを、予め設定される定数Cxy00,Cxy10、およびCx0に積算することで演算してもよい。ここで、定数Cxy00,Cxy10およびCx0は、dκPPm/dxが正の場合とdκPPm/dxが負の場合で異なる値としてもよい。演算後、S611へと進む。
【0185】
S611では、前後加速度指令値初期値を路面縦断勾配Gradによって補正した、前後加速度指令値補正値GxREQhoseiPPm(m=0,1,2)を作成する。ここで、路面縦断勾配Gradにより車両に発生する前後加速度GxGradを用いて、前後加速度指令値補正値を以下の式(32)で与える。
【0186】
【数32】

【0187】
ここで、前後加速度GxGradは上り勾配で負、下り勾配で正となる値である。
【0188】
このように、本第2の実施形態では、縦断勾配による補正を加算することで補正する方法について示しているが、加算ではなく、上述の図6に示したように、縦断勾配に基づく補正ゲインを積算することで補正を行ってもよい。演算後S710へと進む。
【0189】
S710では、前後加速度指令値補正値GxREQhoseiPP0,GxREQhoseiPP1,GxREQhoseiPP2に前後加速度制御の介入閾値による処理や、フィルタ処理,セレクト処理,加算処理等を行って得られた値GxREQfinに、更に横運動連係前後加速度GxGVCを組合せることで、最終的な前後加速度指令値GxREQfinGVCを作成する。ここで、GxREQfinの演算は、上述の第1の実施形態に示したS700での演算のGxREQiniPP0,GxREQiniPP1,GxREQiniPP2を、それぞれGxREQhoseiPP0,GxREQhoseiPP1,GxREQhoseiPP2として同様の演算を行う。前記GxREQfinと横運動連係前後加速度GxGVCの組合せ方法としては、例えば図26に示すように、両者が同符合の場合にはその絶対値の大きい方をGxREQfinGVCとし、異符合の場合には両者を加算した値をGxREQfinGVCとする。
【0190】
また、両者を加算する際に重み付けをして加算してもよい。
【0191】
ここで、前後加速度指令値GxREQfinGVCの演算方法として、GxREQfinを演算してからGxGVCと組合せる方法について説明したが、この方法に限ったものではない。例えば、GxREQfinを演算する際の自車両の極近傍の前方注視点PP0による前後加速度指令値補正値GxREQhoseiPP0の代わりに、GxGVCを用いてGxREQfinを演算し、この値を前後加速度指令値GxREQfinGVCとしてもよい。演算後S810へと進む。
【0192】
S810では、図23に示す制御指令値出力手段46によって、前後加速度制御モードが1もしくは2であれば、前後加速度指令値GxREQfinGVCを実現する指令値を、前後加速度制御モードが0であれば、前後加速度制御を行わないようにする指令値を前記前後加速度発生手段5へ送信し、同時に前後加速度制御状態に応じた情報提示指令値を情報提示器10へと送信する。
【0193】
ここで、前後加速度制御モードが0以外の時に送信する信号としては、上述の通り、前後加速度指令値GxREQfinGVCを送信することで前記前後加速度発生手段5により前後加速度指令値GxREQfinGVCを実現することができる場合には、前後加速度指令値GxREQfinGVCを制御指令値として送信する。
【0194】
また、前記前後加速度発生手段5に応じた指令値にする必要がある場合には、前後加速度指令値GxREQfinGVCに基づいて前記前後加速度発生手段5を制御する指令値を作成して送信する。例えば、前記前後加速度発生手段5が油圧式摩擦ブレーキであって、油圧指令値を油圧式摩擦ブレーキ制御器に送ることで前後加速度制御を行う場合、前後加速度指令値GxREQfinGVCに基づいて油圧指令値を作成し、作成した油圧指令値を制御指令値として送信する。これにより、車両に前後加速度指令値GxREQfinGVCに基づく前後加速度を発生させることができる。
【0195】
また、上述のように、前後加速度指令値を実現する指令を複数の前後加速度発生手段5に送信してもよい。例えば、自車位置がカーブ遠方での前後加速度指令値であるGxREQhoseiPP2に基づいて作成された前後加速度を実現する前後加速度発生手段5を、前記変速機もしくはエンジン、またはその両方とし、カーブ近傍での前後加速度指令値であるGxREQhoseiPP1,GxREQhoseiPP0およびGxGVCに基づいて作成された前後加速度を実現する前後加速度発生手段5として更に前記油圧摩擦ブレーキを加えることができる。
【0196】
これにより、カーブ遠方の比較的一定な減速をエンジンのスロットル開度や変速機のギア比を変更することでエンジンブレーキによる減速を行い、カーブ近傍の変化が大きい減速を油圧摩擦ブレーキにより実現することができる。これにより、ドライバがカーブ遠方で進行方向にある程度カーブ曲率の大きいカーブを視認した際に、アクセルをオフにしてエンジンブレーキによる減速を行い、カーブ近傍にてカーブ曲率変化を明確に認識してからブレーキを操作して減速を行うことと同様の減速を実現することができる。
【0197】
情報提示器10への指令値としては、例えば前後加速度制御中であることをドライバへ伝えるよう表示器、または音発生器への駆動指令値を送信する。また、前後加速度制御モードが1の時には、カーブ前での減速が行われないことと、その理由をドライバへ伝えるよう表示器、または音発生器への駆動指令値を送信する。
【0198】
また、本第2の実施形態で用いた予め設定する値(例えば、前方注視時間TPP0,TPP1,TPP2や横加速度設定値GySET)は、ドライバ設定値GDrvSetに応じて変更してもよい。例えば、ドライバ設定値GDrvSetが0〜10の値を取るとし、ドライバ設定値GDrvSetが0では、前方注視点によるカーブ前からの前後加速度制御を行わず、横運動連係前後加速度GxGVCによる前後加速度制御のみを行うものとし、ドライバ設定値GDrvSetが大きいほどカーブ遠方からの減速が大きくなるとした場合には、ドライバ設定値GDrvSetが0では前方注視時間TPP0、TPP1、TPP2を全て非常に小さな値とし、GDrvSetの増加に応じてTPP2を大きな値とし、横加速度設定値GySETを小さな値としてもよい。これにより、カーブ遠方からの減速度が変化するため、ドライバの嗜好に応じてカーブ前の減速開始タイミングやその減速量を変更することができる。ここで、ドライバ設定値GDrvSetに応じて、前方注視時間TPP0,TPP1,TPP2ではなく、上述の図8に示したGyset1,Gyset2,Gyset3,Gyset4,Gyset5、およびCadjGy1,CadjGy2を変更することで、発生する減速量を変更してもよい。
【0199】
以上のように、第2の実施形態では、自車位置がカーブ遠方にある時の減速からカーブ近傍に近づいた時の減速へと減速パターンを変化させるに当たり、車両運動情報や路面情報を用いることで、よりドライバフィーリングにあった前後加速度制御を実現することができる。また、最大横加速度推定値やドライバのアクセル操作、道路の横勾配、旋回方向といった他の情報を利用して比例ゲインを補正することで、ドライバフィーリングをより一層向上させることができる。
【0200】
(発明を実施するための第3の実施形態)
以下、図27及び図28を用いて、本発明の第3の実施形態とその変形形態による車両運動制御装置の構成及び動作について説明する。なお、第1,2の実施形態と同様の構成については同符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0201】
最初に、図27を用いて、本発明の第3の実施形態による車両運動制御装置の構成について説明する。
【0202】
図27は、本発明の第3の実施形態による車両運動制御装置の構成を示すシステムブロック図を示したものである。
【0203】
第3の実施形態の車両運動制御装置1″は、自車両前方のカーブ形状を取得するカーブ形状取得手段2と、自車位置を取得する自車位置取得手段3と、車載電子制御器12と通信する車両通信手段11と、前記カーブ形状取得手段2と前記自車位置取得手段3、および前記車両通信手段11により得られた情報に基づいて車両に発生させる前後加速度を演算する車両運動制御演算手段4″を備える。
【0204】
また、前記車両運動制御演算手段4″の演算結果は、車両通信手段11および車載電子制御器12を介して前後加速度発生手段5および情報提示器10に送られ、車両に前後加速度を発生させることのできるアクチュエータの駆動を行う。ここで、車載電子制御器12は、車両運動制御装置1″と通信する手段であり、且つ前後加速度発生手段5および情報提示器10を駆動制御可能な車載の電子制御器である。また、前後加速度発生手段5を駆動制御する際に、車両に前後加速度を発生させる加減速アクチュエータを車載電子制御器12が直接駆動制御しても、加減速アクチュエータを制御する電子制御器との通信により、加減速アクチュエータを駆動制御してもよい。同様に、情報提示器10を駆動制御する際に、情報提示器を車載電子制御器12が直接駆動制御しても、情報提示器を制御する電子制御器との通信により、情報提示器を駆動制御してもよい。また、本第3の実施形態の車両運動制御装置1″は、必ずしも車両に組込まれている必要はなく、ドライバが容易に持ち出し可能な形状であってもよい。このように、車載電子制御器12を設けることにより、車両運動制御装置1″の小型化を実現することができる。
【0205】
ここで、カーブ形状取得手段2、自車位置を取得する自車位置取得手段3、および前後加速度発生手段5、情報提示器10は上述の第1,2の実施形態と同様であるため、その説明は省略する。
【0206】
車両運動制御演算手段4″は、前記カーブ形状取得手段2と前記自車位置取得手段3、前記車両通信手段11により得られた情報に基づいて車両に発生させる前後加速度指令値を作成し、前記車両通信手段11を介して、車載電子制御器12と通信をすることで、車両の前後加速度制御を行う。ここで、本実施形態での前後加速度指令値の作成方法は、上述の第1の実施形態と同様であるため、その説明は省略する。
【0207】
車両通信手段11は、車両に搭載された車載電子制御器12と通信する手段である。例えば、車両運動制御装置1″と車載電子制御器12をコネクタにより結線することで、車両に搭載された電子制御器と通信する方法であっても、予め車両運動制御装置1″の識別符号を車両に搭載された車載電子制御器12に登録しておき、無線通信により車載電子制御器12と通信する方法であってもよい。
【0208】
ここで、前後加速度発生手段5および情報提示器10が車両通信手段11と通信する手段を備える場合、図28に示すように、第3の実施形態の変形形態として、車両運動制御装置1″が車両通信手段11を介して、直接前後加速度発生手段5および情報提示器10と通信して前後加速度発生手段5および情報提示器10の駆動制御をしてもよい。
【0209】
これにより、GPS搭載の携帯電話、もしくは小型の携帯ナビゲーション機器等に本実施形態を組込むことが可能となり、ドライバは自分の携帯電話、もしくは小型の携帯ナビゲーション機器を車両に持ち込むことで、本実施形態の前後加速度制御を実現することができる。
【0210】
(発明を実施するための第4の実施形態)
以下、図29を用いて、本発明の第4の実施形態による車両運動制御装置の構成及び動作について説明する。なお、第1〜3の実施形態と同様の構成については同符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0211】
図29は、本発明の第4の実施形態による車両運動制御装置の構成を示すシステムブロック図を示したものである。
【0212】
第4の実施形態の車両運動制御装置1′′′は、自車両前方のカーブ形状を取得するカーブ形状取得手段2と、自車位置を取得する自車位置取得手段3と、車載電子制御器12と通信する車両通信手段11と、設定情報取得手段13とを備え、前記カーブ形状取得手段2、前記自車位置取得手段3、前記設定情報取得手段13、および前記車両通信手段11により得られた情報に基づいて車両に発生させる前後加速度を演算する車両運動制御演算手段4′′′を備える。
【0213】
また、前記車両運動制御演算手段4′′′の演算結果は、車両通信手段11および車載電子制御器12を介して前後加速度発生手段5および情報提示器10に送られ、車両に前後加速度を発生させることのできるアクチュエータの駆動を行う。また、本第4の実施形態の車両運動制御装置1′′′は、必ずしも車両に組込まれている必要はなく、ドライバが容易に持ち出し可能な形状であってもよい。
【0214】
ここで、カーブ形状取得手段2、自車位置を取得する自車位置取得手段3、および前後加速度発生手段5、情報提示器10、車両通信手段11、車載電子制御器12は上述の第1,2,3の実施形態と同様であるため、その説明は省略する。
【0215】
設定情報取得手段13は、上述の前方注視時間TPP0,TPP1,TPP2や横加速度設定値GySET等、ドライバが設定可能な定数の設定情報、もしくは予めいくつかの設定された定数の組合せにより、複数の制御モードを備える場合は、その制御モードの選択した設定情報を取得する。例えば、上記前方注視時間TPP0,TPP1,TPP2や横加速度設定値GySETをある範囲内でドライバが直接入力し、その入力された値を設定情報としてもよい。
【0216】
また、“スポーツモード”や“ノーマルモード”といったいくつかの定数の組合せによる制御モードを有し、ドライバが選択した制御モードに対応する定数を設定情報としてもよい。
【0217】
車両運動制御演算手段4′′′は、前記設定情報取得手段13により取得した設定情報を記憶する手段を備え、前記カーブ形状取得手段2と前記自車位置取得手段3、前記設定情報取得手段13、前記車両通信手段11により得られた情報に基づいて車両に発生させる前後加速度指令値を作成し、前記車両通信手段11を介して車載電子制御器12と通信をすることで車両の前後加速度制御を行う。ここで、本実施形態での前後加速度指令値の作成方法は、上述の実施形態1,2と同様であるため、その説明は省略する。
【0218】
これにより、GPS搭載の携帯電話、もしくは小型の携帯ナビゲーション機器等に本実施形態を組込むことが可能となり、更にドライバ毎にその設定を変更することが可能となる。これにより、一台の車両を複数人でシェアする状況にあっても、ドライバは自分で定数を設定した携帯電話、もしくは小型の携帯ナビゲーション機器を車両に持ち込むことで、自分で設定した本実施形態の前後加速度制御を実現することができる。
【0219】
(発明を実施するための第5の実施形態)
以下、図30〜34を用いて、本発明の第5の実施形態による車両運動制御装置の構成及び動作について説明する。
【0220】
第5の実施形態による車両運動制御装置の構成は、第1の実施形態による車両運動制御装置1の構成と同様であるものの、前後加速度指令値を演算する際の前方注視点の数が異なる。
【0221】
図30は、第5の実施形態による前記車両運動制御装置1における演算フローチャートを示したものである。
【0222】
S020では、第1の実施形態と同様にカーブ形状、および自車位置データを取得して演算を行う。演算後S120へと進む。
【0223】
S120でも、第1の実施形態と同様に、GPSによる自車位置データPv(Xv,Yv)が更新されたか否かの判定を行い、データが更新されていればデータ更新フラグFGPSrefを1、されていなければデータ更新フラグFGPSrefを0とする。演算後S220へと進む。
【0224】
S220でも、第1の実施形態と同様に、自車位置の時間変化から車両速度の算出を行う。演算後S320へと進む。
【0225】
S320では、前方注視距離の演算を行う。図31に示すように、自車両進行方向のコース上に自車両の極近傍から遠方まで前方注視点PP0,PP3という2つの前方注視点を設定し、自車両から前方注視点PP0、PP3までの前方注視距離LPP0,LPP3を算出する。
【0226】
ここで、前方注視距離LPP0,LPP3は、予め設定される前方注視時間TPP0,TPP3(ただしTPP0<TPP3)と車両速度V、および前方注視点の移動速度VPP0,VPP3を用いて、式(33)により与えられる。
【0227】
【数33】

【0228】
ここで、LPP0_z1,LPP3_z1は前方注視距離LPP0,LPP3それぞれの前回値、κPP0_z1,κPP3_z1はカーブ曲率κPP0,κPP3それぞれの前回値、Δtは演算の単位ステップ時間であり、min(A,B)はAとBのうちの小さい方の値を選択する関数である。また、前方注視点の移動速度VPP0、VPP3は、車両速度Vを微分して得られる車両前後加速度Gx、および前方注視点の移動速度制限値VPPlmt0,VPPlmt3を用いて、以下の式(34)で与えられる。ここで、他の制御器との通信や、加速度センサによる直接測定により前後加速度を取得する手段を備える構成であれば、それにより得られた前後加速度から車両前後加速度Gxを作成してもよい。
【0229】
また、前方注視点の移動速度制限値VPPlmt0,VPPlmt3は、前方注視距離の前回値LPP0_z1,LPP3_z1に基づいて予め設定される値であり、図32に示すように、LPP0_z1,LPP3_z1がLPP_nearより小さければVppmax、LPP_near以上LPP_lmt以下では、LPP0_z1,LPP3_z1の増加に応じて下に凸の曲線でその値が減少し、LPP_lmtより大きければVPPminとなるように設定してもよい。
【0230】
また、図33に示すように、前方注視点位置でのカーブ曲率の時間変化制限値dκPPlmt0/dt,dκPPlmt3/dtを、LPP0_z1,LPP3_z1がLPP_nearより小さければdκPPmax/dt、LPP_near以上LPP_lmt以下ではLPP0_z1,LPP3_z1の増加に応じて下に凸の曲線でその値が減少し、LPP_lmtより大きければ0となるように設定し、前方注視点の移動速度制限値VPPlmt0,VPPlmt3を、それぞれdκPPlmt0/dt,dκPPlmt3/dtおよび前方注視点位置でのカーブ曲率変化の前回値dκPP0_z1/dx,dκPP3_z1/dxを用いて以下の式(35)で与えてもよい。演算後S420へと進む。
【0231】
【数34】

【0232】
【数35】

【0233】
S420では、第1の実施形態と同様に前後加速度制御許可フラグの演算を行う。演算後S520へと進む。
【0234】
S520では、ノード点位置データPn(Xn,Yn)からnが1以上の点における各ノード点位置のカーブ曲率κn、および自車位置のカーブ曲率κvと、ノード点間のカーブ曲率変化dκn/dxを算出し、前方注視距離LPP0,LPP3でのカーブ曲率κPP0,κPP3、およびカーブ曲率変化dκPP0/dx,dκPP3/dxを算出する。ここで、カーブ曲率の算出方法としては、連続する3点のノード点Pn-1,Pn,Pn+1を通る円弧のカーブ曲率半径を求め、その逆数をとることでノード点Pnのカーブ曲率κnを求めることができる。
【0235】
上述の第1の実施形態と同様に、各ノード点のカーブ曲率κn及びカーブ曲率変化dκn/dxを算出した後、前方注視距離LPP0,LPP3に対応したカーブ曲率κPP0,κPP3及びカーブ曲率変化dκPP0/dx,dκPP3/dxを算出する。例えば、図31に示すように、前方注視点PP0がPvとP1の間、PP3がPnとPn+1の間にある場合には、カーブ曲率κPP0,κPP3及びカーブ曲率変化dκPP0/dx,dκPP3/dxは、以下の式(36)〜(39)で与えられる。
【0236】
【数36】

【0237】
【数37】

【0238】
【数38】

【0239】
【数39】

【0240】
ここで、各ノード点のカーブ曲率κn、およびカーブ曲率変化dκn/dxの算出方法は上記方法に限らず、各ノード点でのカーブ曲率、およびカーブ曲率変化を算出可能な方法であればよい。演算後S620へと進む。
【0241】
S620では、上述の式(4)に示したように、前方注視距離LPP0,LPP3でのカーブ曲率の時間変化および車両速度Vに基づいて前後加速度指令値初期値を作成する。ここで、上述の式(5)で示したように、前方注視点でのカーブ曲率の時間変化は、前方注視点でのカーブ曲率変化dκPP/dx、および前方注視点の移動速度VPPにより表わすことができ、前後加速度指令値初期値GxREQiniPP0,GxREQiniPP3は、上述の式(4)〜(6),(33)〜(39)を用いて以下の式(40)により演算することができる。
【0242】
【数40】

【0243】
ここで、Cxy0,Cxy3は、予め設定される定数Cxy00,Cxy30に上述の図6に示した補正ゲインのうち、利用可能なもの(例えば最大横加速度推定値による補正ゲインCadjGy)を積算することで得られる値である。ここで、Cxy00,Cxy30は他の条件に応じて変更する値であってもよい。例えば、dκPPm/dxが正の場合とdκPPm/dxが負の場合とで異なる値としてもよい。演算後、S720へと進む。
【0244】
S720では、前後加速度指令値初期値GxREQiniPP0,GxREQiniPP3に前後加速度制御の介入閾値による処理や、フィルタ処理,セレクト処理,加算処理等を行い、最終的な前後加速度指令値GxREQfinを作成する。例えば、前後加速度指令値初期値GxREQiniPP0,GxREQiniPP3に対して、その符号や増減方向に応じた時定数をそれぞれ設定したフィルタ処理を行い、その値に応じたセレクト処理や加算処理を行う。
【0245】
更に、減速側の前後加速度制御介入閾値GxBRKs、および加速側の前後加速度制御介入閾値GxACCsとし、これらの値による前後加速度制御の介入閾値による処理を行う。ここで、前後加速度制御介入閾値GxBRKs,GxACCsは予め設定される値である。
【0246】
また、前後加速度指令値初期値GxREQiniPP0,GxREQiniPP3が同時に0以外の値となっている領域では、両者が同符号である場合には、その絶対値が大きい方の値とし、異符合である場合には、両者を加算した値とする。これにより、GxREQiniPP0が正でGxREQiniPP3が負、すなわち自車両極近傍の位置ではカーブ曲率変化が負で、自車両前方にカーブ曲率変化が正となるカーブが存在する場合での減速度を小さくすることができ、連続カーブを走行している際の減速フィーリングを向上させることができる。
【0247】
また、ここで加算をする際に、その符号に応じて重み付けをしてもよい。例えば、減速を優先したければ、正となっている値が小さくなるような係数を積算して加算し、逆に加速を優先するのであれば、負となっている値が小さくなるような係数を積算して加算してもよい。
【0248】
これにより、図34に示すようなカーブ曲率κPP0,κPP3、およびカーブ曲率変化dκPP0/dx,dκPP3/dxとなるカーブを走行し、点線で示すGxREQiniPP0、および一点鎖線で示すGxREQiniPP3が得られた場合には、実線で示したような前後加速度指令値GxREQfinが得られる。また、この時の前後加加速度は、負の前後加速度指令値が最初に演算された際の増減に加えて、カーブ進入前からカーブ曲率最大値となる前に再度前後加加速度の増減が発生している。ここで、GxREQiniPP0,GxREQiniPP3からGxREQfinを作成する方法は上記内容に限ったものではないが、図34のT30に示した負の前後加速度、すなわち減速している際のGxREQiniPP3からGxREQiniPP0へと遷移する区間において、減速度が過度に減少しないようにする。演算後S820へと進む。
【0249】
S820では、第1の実施形態と同様に、前後加速度制御許可フラグが1であれば、前後加速度指令値GxREQfinを実現する指令値を、前後加速度制御許可フラグが0であれば、前後加速度制御を行わないようにする指令値を前記前後加速度発生手段5へ送信する。
【0250】
ここで、前後加速度制御許可フラグが1の時に送信する信号としては、第1の実施形態と同様に、前後加速度指令値GxREQfinを送信することで前記前後加速度発生手段5により前後加速度指令値GxREQfinを実現することができる場合には、前後加速度指令値GxREQfinを制御指令値として送信する。
【0251】
以上のように、前方注視点の移動速度をカーブまでの距離に応じて変化させることで、ドライバがカーブ曲率の時間変化を詳細に認識できないと考えられるカーブ遠方において過度の減速を行うことなく、ドライバがカーブ曲率の時間変化を詳細に認識し始めるカーブ近傍において減速度を増加させることができ、ドライバの期待した減速を実現してドライバフィーリングを向上させることができる。また、最大横加速度推定値やドライバのアクセル操作、道路勾配、旋回方向といった他の情報を利用して比例ゲインを補正することで、ドライバフィーリングをより一層向上させることができる。また、本第5の実施形態を上述の第2〜4の実施形態の構成において実現することも可能である。
【0252】
なお、本発明は上記した第1〜5の実施形態に限定されるものではなく、様々な変形形態が含まれる。例えば、上記した第1〜5の実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各第1〜5の実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0253】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0254】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0255】
1 車両運動制御装置
2 カーブ形状取得手段
3 自車位置取得手段
4 車両運動制御演算手段
5 前後加速度発生手段
6 車両運動情報取得手段
7 ドライバ入力情報取得手段
8 横運動連係前後加速度取得手段
9 路面情報取得手段
10 情報提示器
11 車両通信手段
12 車載電子制御器
13 設定情報取得手段
21 補正ゲイン演算部(最大横加速度推定値)
22 補正ゲイン演算部(道路勾配)
23 補正ゲイン演算部(旋回方向)
24 補正ゲイン演算部(ペダル操作量)
25 比例ゲイン演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両前方のカーブ形状を取得するカーブ形状取得手段と、
自車両の位置を取得する自車位置取得手段と、
前記カーブ形状及び前記自車両の位置に基づいて、車両に発生させる前後加速度指令値を演算する車両運動制御演算手段と、を有し、
前記車両運動制御演算手段は、自車両進行方向を正とする前後加速度指令値において、自車両がカーブ前からカーブに進入し、カーブ曲率が一定、もしくは最大になる地点まで走行する際に、負の前後加速度指令値を演算すると共に、該前後加速度指令値は、前記車両運動制御演算手段によって予め演算された自車両前方のカーブ走行時に発生するであろう最大横加速度推定値、自車両前方の道路勾配、ドライバのペダル操作、及び旋回方向のうちの少なくとも一つに基づいて変化することを特徴とする車両運動制御装置。
【請求項2】
前記車両運動制御演算手段は、複数の異なる負の前後加速度指令値を演算することを特徴とする請求項1に記載の車両運動制御装置。
【請求項3】
前記車両運動制御演算手段は、前後加速度の時間変化である前後加加速度が、減速開始直後以外にカーブ進入前からカーブ曲率が一定、もしくは最大になる期間において増減される負の前後加速度指令値を演算することを特徴とする請求項1に記載の車両運動制御装置。
【請求項4】
前記複数の異なる前後加速度指令値は、前記カーブ前に自車両に最初の減速度を発生させ、その後略一定となる第1の前後加速度指令値と、前記カーブ進入開始前に自車両に発生する減速度が増加するよう変化する第2の前後加速度指令値と、を有し、
前記第1の前後加速度指令値の絶対値最大値は、前記第2の前後加速度指令値の絶対値最大値以下となることを特徴とする請求項2に記載の車両運動制御装置。
【請求項5】
前記負の前後加速度指令値は、カーブ進入前からカーブ曲率が一定、もしくは最大になる期間において、前後加速度の時間変化である前後加加速度の増減前よりも、前後加加速度の増減後の前記負の前後加速度指令値の絶対値が増加することを特徴とする請求項3に記載の車両運動制御装置。
【請求項6】
前記カーブ前での前後加速度指令値は、自車両の位置のカーブ曲率の時間変化によって異なり、
前記自車両の位置のカーブ曲率の時間変化が負の場合には、自車両の位置のカーブ曲率の時間変化が0以上の場合と比較して、前記カーブ前の前後加速度指令値の絶対値を小さくすることを特徴とする請求項1に記載の車両運動制御装置。
【請求項7】
前記車両運動制御演算手段は、自車両の位置を原点として、前記自車両の位置から予め定めた距離、もしくは車両速度と予め定めた時間の積により得られる距離の位置におけるカーブ曲率の時間変化に基づいて、前後加速度の時間変化である前後加加速度の増減を発生させる前後加速度指令値の減少を生成することを特徴とする請求項1に記載の車両運動制御装置。
【請求項8】
前記車両運動制御演算手段は、前記自車両の前方のカーブ曲率又はカーブ曲率の時間変化割合と車両速度に基づいて、前後加速度の時間変化である前後加加速度の増減を発生させる前後加速度指令値の減少を生成することを特徴とする請求項1に記載の車両運動制御装置。
【請求項9】
前記車両運動制御演算手段は、
自車両の速度を算出する自車速度算出手段と、
自車両進行方向のコース上に複数の予め定めた前方注視点を設定し、前記自車両の位置から前記前方注視点までの前方注視距離を算出する前方注視距離算出手段と、
前記前方注視距離におけるカーブ曲率及びカーブ曲率の時間変化を算出するカーブ曲率算出手段と、
前記最大横加速度推定値、前記自車両前方の道路勾配、前記ドライバのペダル操作、及び前記旋回方向のうちの少なくとも一つに基づいて前記前後加速度指令値を変化させる比例ゲインを演算する比例ゲイン演算部と、
前記前方注視距離におけるカーブ曲率及びカーブ曲率の時間変化と、前記車両速度と、前記比例ゲインと、に基づいて前後加速度指令値を演算する前後加速度指令値演算手段と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の車両運動制御装置。
【請求項10】
自車両の速度と前後加速度の少なくとも一つの車両運動情報を取得する車両運動情報取得手段と、
ドライバから要求するドライバ要求前後加速度を取得するドライバ入力情報取得手段と、
車両の横加加速度に基づく横運動連係前後加速度を取得する横運動連係前後加速度取得手段と、
自車両が走行する路面の路面摩擦係数及び路面縦断勾配の路面情報を取得する路面情報取得手段と、を有し、
前記車両運動制御演算手段は、前記カーブ形状と、前記自車両の位置と、前記車両運動情報と、前記ドライバ要求前後加速度と、前記横運動連係前後加速度と、前記路面情報と、に基づいて、車両に発生させる前後加速度指令値を演算することを特徴とする請求項1に記載の車両運動制御装置。
【請求項11】
前記ドライバ入力情報取得手段は、前後加速度制御スイッチのON又はOFFを検知し、前後加速度制御スイッチON/OFF情報を出力し、
前記車両運動制御演算手段は、
自車両進行方向のコース上に複数の予め定めた前方注視点を設定し、前記自車両の位置から前記前方注視点までの前方注視距離を算出する前方注視距離算出手段と、
前記前後加速度制御スイッチON/OFF情報と、前記自車両の速度と、前記カーブ形状と、前記自車両の位置と、前記横運動連係前後加速度と、に基づいて前後加速度制御モードを演算する前後加速度制御モード演算手段と、
演算された前記前後加速度制御モードに基づいて、前記前方注視距離におけるカーブ曲率及びカーブ曲率の時間変化を算出するカーブ曲率算出手段と、
前記最大横加速度推定値、前記自車両前方の道路勾配、前記ドライバのペダル操作、及び前記旋回方向のうちの少なくとも一つに基づいて前記前後加速度指令値を変化させる比例ゲインを演算する比例ゲイン演算部と、
前記前方注視距離におけるカーブ曲率及びカーブ曲率の時間変化と、前記車両速度と、前記比例ゲインと、に基づいて前後加速度指令値を演算する前後加速度指令値演算手段と、
演算された前記前後加速度制御モードに基づいて、演算された前記前後加速度指令値を実現する制御指令値を出力する制御指令値出力手段と、を備えることを特徴とする請求項10に記載の車両運動制御装置。
【請求項12】
前記車両運動制御装置は、前記車両運動制御演算手段と前記車両運動制御装置外の車載電子制御器とで情報の通信をする車両通信手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の車両運動制御装置。
【請求項13】
前方注視点は、車両速度と予め設定される前方注視時間の積により得られる距離、もしくは、車両の前後加速度と前記前方注視時間の積に車両速度を加算して得られた第1の前方注視点速度と、前方注視点位置におけるカーブ曲率および前方注視距離に基づいて作成される第2の前方注視点速度と、のいずれか小さい方の値を前方注視点速度として該前方注視点速度の積分により得られる距離、に基づいて設定されることを特徴とする請求項9または11に記載の車両運動制御装置。
【請求項14】
前記道路勾配は、縦断勾配及び横勾配の少なくともいずれか一方から構成されることを特徴とする請求項1に記載の車両運動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【公開番号】特開2013−14202(P2013−14202A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147748(P2011−147748)
【出願日】平成23年7月1日(2011.7.1)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】