説明

車両駆動ユニットの制御装置

【課題】クルーズモード実行中に異常トルクが検出されたとき、自動的且つ安全に適切なクルーズトルク調整。
【解決手段】異常トルクを検出する第1トルク判定部17を有する第1のモジュール19と、第1のモジュール19とは独立且つ併行して異常トルクを検出する第2トルク判定部21を有する第2のモジュールとを含んだ制御手段5を備え、第1のモジュール19には、目標車速設定部25と実車速検出部27が備えられており、第2のモジュールには目標車速設定部26と実車速検出部28に加えて、目標車速V1と実車速V2との差分V0を計測し、差分V0に対応したトルク制限率Sと当該トルク制限率Sに基づいた第2算出トルクT22とを算出するトルク制限率算出部29が備えられており、制御装置5には差分V0が第1データ範囲を越えたとき、トルク制限率Sに基づいて最終的な出力トルクを設定するトルク設定部37が備えられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クルーズコントロール対応車両において、クルーズモード実行中にエンジンコントロールユニット(以下、「ECU」ともいう)が故障して異常トルクが検出された場合に、ドライバーによるブレーキ操作を行うことなく自動的に異常トルクを修正して正常なクルーズトルクを出力できるようにする車両駆動ユニットの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、アクセルペダルを踏み続けることなく予め設定しておいた目標車速を維持して定速走行することができるクルーズコントロールに対応した車両が開発されている。このような車両ではクルーズモード選択中にドライバーがクルーズトルクの異常を認識した場合には、ドライバーは一般にブレーキペダルを踏むことでクルーズコントロールを解除して通常モードに移行し、追突事故等の発生を未然に防止するようにしていた。
【0003】
また、下記の特許文献1に示すように、クルーズトルクの異常を検出すると自動的にクルーズモードを通常モードに切り替える機能を備えたクルーズコントロール対応車両も開発されている。そして、このような車両では、クルーズモードから通常モードに切り替えた直後にアクセルペダルやブレーキペダルが全く操作できなくなる事態が生じないよう異常トルク検出時に車間クルーズ制御手段に代わって動作する異常時制御手段を設けていることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−20498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、自動的にクルーズモードを通常モードに切り替える機能を有しないクルーズコントロール対応車両に対しては、引き続きドライバーが直接、ブレーキペダルを踏み込まなければクルーズコントロールを解除することはできない。この場合、ドライバーがブレーキペダルを踏むのが遅れることがある。特に、高速走行時にはブレーキペダルの踏み込みが遅れる傾向がある。
【0006】
一方、上記特許文献1のように異常時制御手段を有していても、異常時制御手段が故障等によって正常に動作しない場合には上記と同様のことが生じる。
また、上記特許文献1に開示されている異常時制御手段は、先行車両との間の車間距離に異常があった場合に車間クルーズ制御手段に代わって作動する制御手段であるため、車間距離が広い場合や定速クルーズ制御時には適用されない。
【0007】
この他、クルーズコントロール対応車両には、ドライバーのブレーキペダルの踏み込みの遅れを防止するためにブレーキスイッチの2重化が義務付けられているが、これらのブレーキスイッチの操作をドライバーに委ねた場合には、ドライバーのブレーキスイッチの操作遅れが依然として発生する恐れがあるし、ブレーキスイッチを2つ設けた分、部品点数が増加して構造が複雑になり製品コストの上昇を招く。
【0008】
本願は上記の各問題点に鑑みてなされたものであって、その課題の一例は、クルーズコントロール対応車両において、クルーズモードにおけるトルクコントロールと、クルーズモード実行中にエンジンコントロールユニットの故障に起因する異常トルクが検出された場合に、ドライバーの操作に委ねることなく自動的且つ複次的に正常なクルーズトルクに戻すという監視モードとを、1つの制御手段(CPU)で実現することで、部品点数が少なく簡単な構造で安全性と経済性に優れた車両駆動ユニットの制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1記載の車両駆動ユニットの制御装置は、車両駆動ユニットの異常トルクを検出する第1トルク判定部を有する第1のモジュールと、当該第1のモジュールとは独立且つ併行して当該車両駆動ユニットの異常トルクを検出する第2トルク判定部を有する第2のモジュールとを含んだ制御手段を備えた車両駆動ユニットの制御装置において、前記第1のモジュールと前記第2のモジュールにはそれぞれ、ドライバーによる入力操作またはコントロール・エリア・ネットワークからの入力情報に基づいてクルーズコントロール実行時の目標車速を設定する目標車速設定部と、走行中の車両の実車速を検出する実車速検出部とが備えられており、前記第2のモジュールには、目標車速と実車速との差分を計測し、当該差分に対応したトルク制限率と当該トルク制限率に基づいた第2算出トルクとを算出するトルク制限率算出部が備えられており、前記制御装置には、計測した差分が第1データ範囲を越えたとき、算出したトルク制限率に基づいて最終的な出力トルクを設定するトルク設定部が備えられていることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の請求項2記載の車両駆動ユニットの制御装置は、前記請求項1記載の車両駆動ユニットの制御装置において、前記第1のモジュールでは、目標車速と実車速との差分が前記第1データ範囲内にあるとき、前記第1トルク判定部によって判定された第1判定トルクと、前記トルク制限率算出部によって算出された第2算出トルクとを比較して、これらの最小値を選択する第1トルク選択部を有することを特徴とするものである。
【0011】
本発明の請求項3記載の車両駆動ユニットの制御装置は、前記請求項1または2記載の車両駆動ユニットの制御装置において、前記第2のモジュールでは、目標車速と実車速の差分が前記第1データ範囲を越えて危険車速に至るまでの第2データ範囲内にあるとき、前記トルク制限率算出部によって算出されたトルク制限率に基づいて第2算出トルクを設定するように構成されていることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の請求項4記載の車両駆動ユニットの制御装置は、前記請求項1〜3のいずれかに記載の車両駆動ユニットの制御装置において、前記トルク設定部には、前記第1のモジュールと第2のモジュールに対応して個別に設けられている2つの個別トルク設定部と、当該2つの個別トルク設定部で設定された第1出力トルクと第2出力トルクとを比較してこれらの最小値を出力トルクとする比較トルク設定部との双方、またはこれらのいずれか一方が設けられていることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の請求項5記載の車両駆動ユニットの制御装置は、前記請求項1〜4のいずれかに記載の車両駆動ユニットの制御装置において、前記第1データ範囲は、前記目標車速の違いに応じて10〜30km/hの範囲で可変できるように構成されていることを特徴とするものである。
【0014】
本発明の請求項6記載の車両駆動ユニットの制御装置は、前記請求項1〜5のいずれかに記載の車両駆動ユニットの制御装置において、前記トルク制限率は、目標車速と実車速との差分が前記第1データ範囲にあるときが0%、前記第2データ範囲に移行後前記差分の大きさに比例して増加し、実車速が前記危険車速に到達したときが100%になるように設定されていることを特徴とするものである。
【0015】
本発明の請求項7記載の車両駆動ユニットの制御装置は、前記請求項1〜6のいずれかに記載の車両駆動ユニットの制御装置において、前記危険車速は、前記目標車速を20〜40km/hオーバーしたときの車速であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、車両駆動ユニットの異常トルクの検出を、1つの制御手段内で独立且つ併行して設けられる第1のモジュールと第2のモジュールとによって行っているから、第1のモジュールに異常が発生しても第2のモジュールが補完するため、クルーズトルクの良好な調整が安定して保たれ、安全性が向上する。また、部品点数が少なく簡単な構造で安全性と経済性に優れた車両駆動ユニットの制御装置を提供できる。
【0017】
また、目標車速と実車速との差分によって算出したトルク制限率に基づいてクルーズトルクを自動的に調整するようにしたから、ドライバーはクルーズトルクの異常を察知したとき、ブレーキペダルを慌てて踏み込んでクルーズコントロールを手動で解除しなくても自動的にクルーズトルクが適切なトルクに調整される。
【0018】
また、トルク制限率に基づくクルーズトルクの調整は、計測した差分が第1データ範囲を越えたときに実行されるようにしたから、第1データ範囲内では、第1のモジュールによって目標車速と実車速に基づいた通常のフィードバック制御等が実行される。従って、第1データ範囲内では第1のモジュールによる判断が優先され、第1データ範囲を越えたときに第2のモジュールによる判断が実行されるプログラムの2重化構造が採用されており、クルーズコントロールの安全性が高められている。
【0019】
更に、このようなプログラムの2重化構造の採用によってブレーキスイッチの2重化を行わなくてもクルーズコントロールの安全性が確保できるから、ブレーキスイッチの2重化の義務を将来廃止できる可能性を高めることができる。
【0020】
また、第1のモジュールにおいて、第1トルク判定部によって判定された第1判定トルクとトルク制限率に基づいて算出された第2算出トルクととの最小値を選択するようにした場合には、第1トルク判定部を構成するクルーズ制御ガバナ等が故障によって暴走してもトルク制限率に基づいて算出された第2算出トルクが採用されるため、クルーズトルクは適切なトルクに調整される。
【0021】
また、第2のモジュールにおいて、目標車速と実車速の差分が第2データ範囲に至ったときに、トルク制限率に基づいて設定されるより制限された第2算出トルクが採用されるようにした場合には、第1データ範囲より危険性が高まった第2データ範囲に突入した実車速を速やかに減速させて適切なクルーズトルクに調整することが可能になる。
【0022】
また、最終的なクルーズトルクを設定するトルク設定部を第1モジュールと第2モジュールに対して個別に設けられている2つの個別トルク設定部と、これらの個別トルク設定部で設定された第1出力トルクと第2出力トルクとの最小値を出力トルクとする比較トルク設定部との双方を備える構成とした場合には、個別トルク設定部と比較トルク設定部の一方が故障しても他方が補完するため安全性が向上する。
【0023】
また、個別トルク設定部のみを設けた場合には、比較トルク設定部を設けない分、プログラムを簡略化でき、動作速度の向上が図られる。
【0024】
一方、比較トルク設定部のみを設けた場合には、常に第1出力トルクと第2出力トルクの最小値が出力トルクとして採用されるからクルーズトルクを低めに設定することでクルーズ走行の安全性の向上が図られる。
【0025】
また、第1データ範囲を目標車速の違いに応じて10〜30km/hの範囲で可変できるように構成した場合には、目標車速を低めに設定したときは第1のモジュールが作動する第1データ範囲を広めにし、目標車速を高めに設定したときは第2のモジュールが作動する第2データ範囲に速やかに移行して危険を回避できるよう第1データ範囲を狭めに設定する等の選択使用が可能になる。
【0026】
また、トルク制限率を目標車速と実車速との差分が第1データ範囲にあるときが0%、第2データ範囲に移行後差分の大きさに比例して増加させ、実車速が危険車速に到達したときが100%になるように設定した場合には、目標車速と実車速との差分が拡大して危険な状態になるほどクルーズトルクに大きく制限がかかるため、クルーズトルクを速やかに適切なトルクに調整することが可能になる。
【0027】
また、危険車速を目標車速を20〜40km/hオーバーしたときの車速にした場合には、実車速が目標車速を20〜40km/hオーバーするまでは、第1のモジュールと第2のモジュールとによって適切なクルーズトルクに向けての調整が図られ、実車速が危険車速である目標車速の50km/hオーバーの車速に達した時点でクルーズトルクに100%の制限をかけて速やかに実車速を減速させるように作用する。従って、実車速の段階的な減速が可能な調整可能領域と、直ちに実車速の減速を実行しなければならない非常時との区分けが効果的且つ最適なタイミングで実行されるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態を示す図で、車両駆動ユニットの制御装置の全体構成の概略を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態を示す図で、制御手段の構成の概要を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態を示す図で、トルク制限率の算出に使用するトルク制限率と車速の関係を示すブラフである。
【図4】本発明の他の実施の形態を示す図で、車両駆動ユニットの制御装置の全体構成の概要を示すブロック図である。
【図5】図1に示す制御装置の制御の流れを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る車両駆動ユニットの制御装置の構成と作動態様とを、図示の実施の形態を例にとって具体的に説明する。
図1に本実施の形態に係る車両駆動ユニットの制御装置1の全体構成の概要がブロック図で示されている。
【0030】
本実施の形態の車両駆動ユニットの制御装置1は、アクセルペダル13を踏み続けることなく予め設定しておいた目標車速V1を維持して定速走行を実行することができるクルーズコントロールに対応した車両に対して適用される。そして、本実施の形態の車両駆動ユニットの制御装置1は、車両に対して搭載されるクルーズコントロールを行っているクルーズ制御部として、あるいはクルーズ制御部の一部の構成として適用される。
【0031】
本実施の形態の車両駆動ユニットの制御装置1は、入力手段3と制御手段5と出力手段7とを備えている。
入力手段3として、ドライバーDが目標車速V1を設定する場合に入力操作する操作ボタン9と、コントロール・エリア・ネットワーク(以下、「CAN」ともいう)11からの入力情報と、走行車両の速度を計測する速度計12と、アクセルペダル13と、ブレーキペダル15とが一例として挙げられる。尚、CAN11とは、相互に接続された車載機器間のデータ転送に使用されるネットワークであり、エンジン運転における電気的な制御を総合的に司る上述したエンジンコントロールユニット(ECU)と接続されている。
【0032】
一方、出力手段7として、燃料の噴射量を設定するためのインジェクタの通電時間ETが割り当てられている。尚、通電時間ETによって最終的なクルーズトルクの出力トルクT1、T2、T0が決定される。
制御手段5には、車両駆動ユニットの異常トルクを検出する第1トルク判定部17を有する第1のレベルモジュール(以下「第1のモジュール」とする)19と、第1のモジュール19とは独立且つ併行して車両駆動ユニットの異常トルクを検出する第2トルク判定部21を有する第2のレベルモジュール(以下「第2のモジュール」とする)23との2つのモジュールが備えられている。
また、制御手段5には、第1のモジュール19の出力及び第2のモジュール23の出力に基づいて、最終的な出力トルクT0を設定するトルク設定部37が備えられている。
【0033】
第1のモジュール19には、ドライバーDによる入力操作またはCAN11からの入力情報に基づいてクルーズコントロール実行時の目標車速V1を設定する目標車速設定部25と、走行中の車両の実車速V2を検出する実車速検出部27とが備えられている。
また、第1のモジュール19には、目標車速V1と実車速V2との差分V0=V2−V1を計測して異常トルクの有無を確認し、第1判定トルクT11を出力する第1トルク判定部17が備えられている。
【0034】
一方、第2のモジュール23には、ドライバーDによる入力操作またはCAN11からの入力情報に基づいてクルーズコントロール実行時の目標車速V1を設定する目標車速設定部26と、走行中の車両の実車速V2を検出する実車速検出部28とが備えられている。目標車速設定部26と実車速検出部28とは、第1のモジュール19に備えられている目標車速設定部25と実車速検出部27とは独立している。
また、第2のモジュール23には、更に目標車速V1と実車速V2との差分V0=V2−V1を計測して異常トルクの有無を確認し、第2判定トルクT21を出力する第2トルク判定部21が備えられている。更に、第2のモジュール23には、差分V0に対応したトルク制限率Sを算出し第2算出トルクT22を出力するトルク制限率算出部29が備えられている。
【0035】
次に、図2、3に基づいて制御手段5の構成を更に具体的に説明する。尚、図2では制御手段5の構成の概要をブロック図として具体的に示しており、図3ではトルク制限率Sと車速の関係をグラフに図示している。
第1のモジュール19及び第2のモジュール23は、クルーズコントロールの動作を制御するプログラムである。第2のモジュール23は、目標車速V1と実車速V2の差分V0が第1データ範囲31を越えて危険車速35に至るまでの第2データ範囲33内にあるとき、第1のモジュール19によるクルーズコントロールの通常時の動作に異常があると判断して、第1のモジュール19に代わって実行される補完的な動作を制御する。
【0036】
ここで、第1データ範囲31は、目標車速V1の違いに応じて一例として10〜30km/hの範囲で可変できるように構成されている。具体的には目標車速V1が30km/h未満の低速時には第1データ範囲31を例えば30km/hと広めに設定して第1のモジュール19で対応できる領域を広くとることが可能である。
【0037】
また、目標車速V1が30km/h以上60km/h未満の中速時には第1データ範囲31を例えば20km/hとし、目標車速V1が60km/h以上の高速時には第1データ範囲31を例えば10km/hというように目標車速V1が高速になるほど第1データ範囲31を狭くして、より速やかに後述する第2のモジュール23に移行させてクルーズトルクに対してより大きな制限をかけるようにすることが可能である。
【0038】
本実施の形態では、危険車速35を目標車速V1を20〜40km/hオーバーしたときの車速に設定しており、図3に示す目標車速V1が90km/hであれば危険車速35は140km/hとなる。
【0039】
第1のモジュール19では、例えばクルーズ制御ガバナ(不図示)によって構成される第1トルク判定部17の他、第1トルク判定部17によって判定された第1判定トルクT11と、トルク制限率に基づいて算出された第2算出トルクT22とを比較してこれらの最小値を選択する第1トルク選択部45と、第1トルク選択部45によって選択されたトルクとアクセルペダル13を踏み込むことによって増速されたトルクとの最大値を選択する第2トルク選択部47と、オートマチック要求トルクと第2トルク選択部47によって選択されたトルクのうちの最大値を選択して最終的な第1出力トルクT1を得る第3トルク選択部49とが設けられている。ここで、オートマチック要求トルクは、車両のオートマチックユニット(不図示)からCAN11等を経由して受ける要求トルクであり、エンジン回転をシンクロさせるために必要となる。
【0040】
第2のモジュール23では、第1トルク判定部17と独立且つ併行して設けられている目標車速設定部26と実車速検出部28の他、第2トルク判定部21と、トルク制限率算出部29と、更にトルク制限率算出部29によって算出された第2算出トルクT22とアクセルペダル13を踏み込むことによって増速されたトルクとの最大値を選択する第1トルク選択部51と、オートマチック要求トルクと第1トルク選択部51によって選択されたトルクの最大値を選択して最終的な第2出力トルクT2を得る第2トルク選択部53とが設けられている。
【0041】
また、トルク制限率算出部29では、目標車速V1と実車速V2との差分V0が第1データ範囲31にあるときが0%、第2データ範囲33に移行後差分V0の大きさに比例して増加し、実車速V2が危険車速35に到達したときが100%になるトルク制限率Sに基づいて第2算出トルクT22が算出されている。
例えば、目標車速V1が90km、第1データ範囲31が10km/h、危険車速35が140kmの条件下では、実車速V2が120km/hのときのトルク制限率Sが50%になるから、第2算出トルクT22は実車速V2の半分の60km/hと算出される。
【0042】
次に、このようにして構成される車両駆動ユニットの制御装置1における作動態様を、図5を用いて制御の流れに従って説明する。図5は、制御装置1の制御方法を説明するためのフローチャートである。
ドライバーDによる入力操作信号またはCAN11からの入力情報は制御手段5に入力され、第1のモジュール19の目標車速設定部25と、第2のモジュール23の目標車速設定部26とに送られて(ステップ101,201)、クルーズコントロール実行時の目標車速V1がそれぞれ独立して設定される(ステップ103,203)。また、速度計12で計測した計測情報が第1のモジュール19の実車速検出部27と、第2のモジュール23の実車速検出部28とに送られて(ステップ101,201)、走行車両の現在の実車速V2が検出される(ステップ103,203)。
【0043】
設定した目標車速V1と検出した実車速V2は、第1のモジュール19の第1トルク判定部17と第2のモジュール23の第2トルク判定部21に並列的に送られ、それぞれ別個に異常トルクの有無が確認され、その確認結果に基づいて第1トルク判定部17から第1判定トルクT11(レベル1クルーズトルク)が出力され(ステップ106)、第2トルク判定部21から第2判定トルクT21が出力される。そして、第1判定トルクT11のトルク情報は、第1のモジュール19の第1トルク選択部45に送られる(ステップ107)。第2判定トルクT21のトルク情報は、第2のモジュール23のトルク制限率算出部29に送られる。
【0044】
トルク制限率算出部29では、目標車速設定部26で設定した目標車速V1と実車速検出部28で検出した実車速V2と図3に示すトルク制限率曲線とからトルク制限率Sを求め(ステップ205)、第2トルク判定部21から送られてきた第2判定トルクT21に対して、ここで求めたトルク制限率Sを乗じてクルーズトルクが制限された第2算出トルクT22(レベル2クルーズトルク)を得る(ステップ206)。そして、算出された第2算出トルクT22のトルク情報は、第1のモジュール19の第1トルク選択部45に送られる。
また、第2算出トルクT22のトルク情報と、アクセルペダル13を踏み込むことによって増速された増速分を含んだトルク情報が第2のモジュール23の第1トルク選択部51に送られる。
【0045】
第1トルク選択部45では、第1判定トルクT11と第2算出トルクT22の最小値が選択され(ステップ107,108,121)、選択されたトルク情報と、アクセルペダル13を踏み込むことによって増速された増速分を含んだトルク情報が第1のモジュール19の第2トルク選択部47に送られる。
第2トルク選択部47では、第1トルク選択部45で選択されたトルクと増速分を含んだトルクのうちの最大値が選択され(ステップ109)、選択されたトルク情報は第1のモジュール19の第3トルク選択部49に送られる。
【0046】
第3トルク選択部49では、オートマチック要求トルクと第2トルク選択部47によって選択されたトルクの最大値が選択され、選択されたトルク情報がトルク設定部37の個別トルク設定部39に送られて最終的な第1出力トルクT1(レベル1総合トルク、ステップ110)を出力する通電時間ET1を得る。
【0047】
一方、第1トルク選択部51では、トルク制限率算出部29で算出された第2算出トルクT22と増速分を含んだトルクのうちの最大値が選択され(ステップ209)、選択されたトルク情報は第2のモジュール23の第2トルク選択部53に送られる。
そして、第2トルク選択部53では、オートマチック要求トルクと第1トルク選択部51によって選択されたトルクの最大値が選択され、選択されたトルク情報がトルク設定部37の個別トルク設定部41に送られて最終的な第2出力トルクT2(レベル2総合トルク、ステップ210)を出力する通電時間ET2を得る。
【0048】
また、本実施の形態の場合には、トルク設定部37には、第1のモジュール19と第2のモジュール23に対応して個別に設けられている上述した2つの個別トルク設定部39、41に加えて、2つの個別トルク設定部39、41で設定された第1出力トルクT1と第2出力トルクT2とを比較する比較トルク設定部43が設けられている。
そして、比較トルク設定部43では、第1出力トルクT1と第2出力トルクT2との最小値を選択し(ステップ111,112,123)、最小値を出力トルクT0として出力する通電時間ET0を得るようにしている(ステップ113)。ここで、出力トルクT0は実際の噴射量制御に使用され、第1出力トルクT1と第2出力トルクT2とは別途異常診断等に使用される。
【0049】
この他、ドライバーDがブレーキペダル15(図1)を踏み込んだ場合には(ステップ102,202)、クルーズコントロールが解除されるため制御手段5の一連の動作は終了されクルーズモードは通常モードに移行する(ステップ120,220)。
そして、このような本実施の形態に係る車両駆動ユニットの制御装置1によれば、クルーズモード実行中にECUの故障に起因する異常トルクが検出された場合でも、ドライバーDの操作に委ねることなく自動的且つ速やかに適切なクルーズトルクに調整することができる。
【0050】
また、独立且つ併行して設けられている第1のモジュール19と第2のモジュール23の相互作用によって第1のモジュール19が故障しても第2のモジュール23が第1のモジュール19を補完するプログラムの2重構造が形成されているから、クルーズコントロールの安全性が高められている。
そして、実車速V2が目標車速V1を大きく上回った危険な領域(図3の第1データ範囲31を越えた領域)にある場合には、第1のモジュール19によって設定されるクルーズトルクよりも制限されたクルーズトルクが第2のモジュール23によって設定されるため、より速やかに適切なクルーズトルクへの移行が実行されるようになる。
【0051】
以上が本発明の基本的な実施の形態であるが、本発明の車両駆動ユニットの制御装置1は上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内の部分的な構成の変更や省略、あるいは当業者において周知、慣用の技術を追加することが可能である。
例えば、図4に示すような構成の他の実施の形態を採用することが可能である。この車両駆動ユニットの制御装置1Aは、前述した実施の形態の車両駆動ユニットの制御装置1に対して制御手段5内に第3のモジュール55を配置すると共に、制御手段5の外部に配置した外部IC57によって第3のモジュール55で行う動作検査等を実行するように構成されている。
【0052】
従って、車両駆動ユニットの制御装置1Aにおけるその他の構成については、前述した実施の形態の車両駆動ユニットの制御装置1と同様であるので、ここでの詳細な説明は省略し、前述した実施の形態と異なる構成に絞って説明する。
【0053】
即ち、第3のモジュール55は、前述した第2のモジュール23の動作に異常がないかを監視するためのプログラムであり、第3のモジュール55内には第2のモジュール23の動作が正常に実行されているかを検査するための書込み/読取りメモリのためのテストプログラム59と、読取りメモリのためのテストプログラム61と、プログラムの実行順等の処理を検査するための動作検査プログラム63が一例として設けられている。
【0054】
また、外部IC57は、第2のモジュール23の動作を確認するために予め用意された質問を第3のモジュール55に送って、第3のモジュール55内の動作検査プログラム63等を実行する。
【0055】
そして、外部IC57が第2のモジュール23の動作に異常があると判断したときには制御手段5をリセットし、クルーズコントロールを解除して出力手段7における出力を制限するように作動する。尚、このような構成の車両駆動ユニットの制御装置1Aを採用した場合にも前述した実施の形態と同様の作用、効果が発揮され、更に第1のモジュール19、第2のモジュール23、第3のモジュール55によるプログラムの3重構造によってクルーズコントロールの安全性は一層向上する。
【0056】
この他、図3に示す第1データ範囲31は、前述した範囲に限らず種々変更可能であり、前述した実施の形態のように目標車速V1の違いに応じて3段階に切り替える他、更に多段階に切り替えたり、連続的に切り替えるようにしたり、一定の範囲に限定することも可能である。
また、トルク制限率Sを設定するトルク制限率曲線は直線的に変化する比例曲線に限らず、車速によってトルク制限率曲線の勾配が変化する湾曲したトルク制限率曲線を採用することが可能である。更に、危険車速35は目標車速V1に対して一律的に何km/hオーバーしたときの車速として定める他、目標車速V1の違いや走路状況等によって適宜調整することが可能である。
【0057】
更に、トルク設定部37における2つの個別トルク設定部39、41と比較トルク設定部43は、両方設けられている他、いずれか一組のみが設けられている構成であっても構わない。
この他、比較トルク設定部43を設けない場合には、第1のモジュール19内に個別トルク設定部39を配置し、第2のモジュール23内に個別トルク設定部41を配置する構成とすることも可能である。そして、この場合には、トルク設定部37は第1のモジュール19と第2のモジュール23の内部に内包された構成となる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、クルーズコントロールに対応した車両の製造、使用分野等で利用でき、特にクルーズモード実行中にECUの故障に起因する異常トルクが検出された場合に、ドライバーの操作に委ねることなく自動的且つ安全にクルーズトルクを適切な大きさに調整したい場合に利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0059】
1:車両駆動ユニットの制御装置、3:入力手段、5:制御手段、7:出力手段、9:操作ボタン、11:コントロール・エリア・ネットワーク(CAN)、12:速度計、13:アクセルペダル、15:ブレーキペダル、17:第1トルク判定部、19:第1のモジュール、21:第2トルク判定部、23:第2のモジュール、25:目標車速設定部、26:目標車速設定部、27:実車速検出部、28:実車速検出部、29:トルク制限率算出部、31:第1データ範囲、33:第2データ範囲、35:危険車速、37:トルク設定部、39:個別トルク設定部、41:個別トルク設定部、43:比較トルク設定部、45:第1トルク選択部、47:第2トルク選択部、49:第3トルク選択部、51:第1トルク選択部、53:第2トルク選択部、55:第3のモジュール、57:外部IC、59:テストプログラム、61:テストプログラム、63:動作検査プログラム、D:ドライバー、V1:目標車速、V2:実車速、V0:差分、ET:通電時間、T0:出力トルク、T1:第1出力トルク、T2:第2出力トルク、T11:第1判定トルク、T21:第2判定トルク、T22:第2算出トルク、S:トルク制限率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両駆動ユニットの異常トルクを検出する第1トルク判定部を有する第1のモジュールと、当該第1のモジュールとは独立且つ併行して当該車両駆動ユニットの異常トルクを検出する第2トルク判定部を有する第2のモジュールとを含んだ制御手段を備えた車両駆動ユニットの制御装置において、
前記第1のモジュールと前記第2のモジュールにはそれぞれ、
ドライバーによる入力操作またはコントロール・エリア・ネットワークからの入力情報に基づいてクルーズコントロール実行時の目標車速を設定する目標車速設定部と、
走行中の車両の実車速を検出する実車速検出部と
が備えられており、
前記第2のモジュールには、目標車速と実車速との差分を計測し、当該差分に対応したトルク制限率と当該トルク制限率に基づいた第2算出トルクとを算出するトルク制限率算出部が備えられており、
前記制御装置には、計測した差分が第1データ範囲を越えたとき、算出したトルク制限率に基づいて最終的な出力トルクを設定するトルク設定部が備えられていることを特徴とする車両駆動ユニットの制御装置。
【請求項2】
前記第1のモジュールでは、目標車速と実車速との差分が前記第1データ範囲内にあるとき、前記第1トルク判定部によって判定された第1判定トルクと、前記トルク制限率算出部によって算出された第2算出トルクとを比較して、これらの最小値を選択する第1トルク選択部を有することを特徴とする請求項1記載の車両駆動ユニットの制御装置。
【請求項3】
前記第2のモジュールでは、目標車速と実車速の差分が前記第1データ範囲を越えて危険車速に至るまでの第2データ範囲内にあるとき、前記トルク制限率算出部によって算出されたトルク制限率に基づいて第2算出トルクを設定するように構成されていることを特徴とする請求項1または2記載の車両駆動ユニットの制御装置。
【請求項4】
前記トルク設定部には、前記第1のモジュールと第2のモジュールに対応して個別に設けられている2つの個別トルク設定部と、当該2つの個別トルク設定部で設定された第1出力トルクと第2出力トルクとを比較してこれらの最小値を出力トルクとする比較トルク設定部との双方、またはこれらのいずれか一方が設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の車両駆動ユニットの制御装置。
【請求項5】
前記第1データ範囲は、前記目標車速の違いに応じて10〜30km/hの範囲で可変できるように構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の車両駆動ユニットの制御装置。
【請求項6】
前記トルク制限率は、目標車速と実車速との差分が前記第1データ範囲にあるときが0%、前記第2データ範囲に移行後前記差分の大きさに比例して増加し、実車速が前記危険車速に到達したときが100%になるように設定されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の車両駆動ユニットの制御装置。
【請求項7】
前記危険車速は、前記目標車速を20〜40km/hオーバーしたときの車速であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の車両駆動ユニットの制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−126162(P2012−126162A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277102(P2010−277102)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】