説明

車両

【課題】簡単な構造で、左右の揺動にあわせてタイヤに舵角を与えることができる自動四輪車を提供する。
【解決手段】車体フレーム20と、車体フレーム20の前方に設けられたヘッドパイプ21に回転可能に取り付けたステアリング軸51と、ステアリング軸51にリンク機構53を介して連結されたステアリングステム54と、ステアリングステム54に左右タイロッド47、47を介して連結された左右一対の前輪48、48と、を備えた車両前部10Aと、エンジン92aと伝動機構92bからなるパワーユニット92と、パワーユニット92に連結された左右一対の後輪93、93と、を備えた車両後部10Bと、を備える自動四輪車10において、車体フレーム20を車両前部10Aに揺動可能に軸支する前部揺動機構70Aと、車体フレーム20を車両後部10Bに揺動可能に軸支する後部揺動機構70Bと、を備え、前部揺動機構70Aの前部揺動軸71と後部揺動機構70Bの後部揺動軸72は、異なる軸線上にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両、特に車体を傾斜させて旋回可能な自動四輪車に関する。
【背景技術】
【0002】
自動四輪車において、車体を傾斜させて旋回するものが知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1に記載の自動四輪車は、バーハンドルの回動にあわせてシートを傾斜して旋回させ、運転重心の移動を容易にしている。
【特許文献1】特公平01−27910号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1に記載の自動四輪車は、車両水平方向を軸線とする同軸上に配置された2つの揺動軸によりシートを左右に揺動しているため、揺動角に応じてタイヤに舵角を与えようとすると、別途舵角を与えるための構造を必要として構造が複雑になる
【0004】
本発明の目的は上記課題を解消することに係り、簡単な構造で、左右の揺動にあわせてタイヤに舵角を与えることができる車両を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、
車体フレームと、
前記車体フレームの前方に設けられたヘッドパイプに回転可能に取り付けたステアリング軸と、
前記ステアリング軸にリンク機構を介して連結されたステアリングステムと、前記ステアリングステムに左右タイロッドを介して連結された左右一対の前輪と、を備えた車両前部と、
エンジンと伝動機構からなるパワーユニットと、前記パワーユニットに連結された左右一対の後輪と、を備えた車両後部と、
を備える車両において、
前記車体フレームを前記車両前部に揺動可能に軸支する前部揺動機構と、
前記車体フレームを前記車両後部に揺動可能に軸支する後部揺動機構と、を備え、
前記前部揺動機構の前部揺動軸と前記後部揺動機構の後部揺動軸は、異なる軸線上にある、
ことを特徴とする。
【0006】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載の車両において、
前記後部揺動軸の水平線からの仰角が、前記前部揺動軸の水平線からの仰角より小さいことを特徴とする。
【0007】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2に記載の車両において、
前記後部揺動軸の軸支持部が、前記前部揺動軸の軸線より上方に配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の車両によれば、簡単な構造で車体フレームを左右に揺動することによりタイヤに舵角を与えることができる。
【0009】
請求項2記載の車両によれば、後部揺動軸の仰角が小さいため、車高を低くしながら大きな舵角を与えることができる。
【0010】
請求項3記載の車両によれば、地面から軸支持部の距離を短くできるため、車高を低く抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る車両の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、「前」、「後」、「左」、「右」、「上」、「下」は運転者から見た方向に従う。また、図面は符号の向きに見るものとする。
【0012】
図1は本発明に係る自動四輪車の左側面図である。自動四輪車10は、車体フレーム20と、車体フレーム20の前方に設けられたヘッドパイプ21に回転可能に取り付けたステアリング軸51と、ステアリング軸51にリンク機構53を介して連結されたステアリングステム54と、ステアリングステム54に左右タイロッド47、47を介して連結された左右一対の前輪48、48を備えた車両前部10Aと、エンジン92aと伝動機構92bからなるパワーユニット92に連結された左右一対の後輪93、93を備えた車両後部10Bと、を備え、車体フレーム20の中央上部に略水平な低床式足載せ部(不図示)を取付け、車体フレーム20の後方上部に不図示のシートを取付けたスクータ型自動四輪車である。
【0013】
車体フレーム20は、ヘッドパイプ21から斜め後方下方に延びるダウンパイプ22と、下部で後方に屈曲し略水平に延びるロアセンターパイプ23から構成される前部フレーム部24と、前部フレーム部24の屈曲部24aに連結固定された上面視略U字形状の後部フレーム部26とからなる。
【0014】
後部フレーム26は、低床式足載せ部に位置するロアサイドパイプ部27、27と、ロアサイドパイプ部27、27から後方に立ち上がるアッパーサイドパイプ部28、28と、アッパーサイドパイプ部28、28から屈曲して僅かに斜め上方に延びるリアサイドパイプ部29、29からなり、ロアサイドパイプ部27、27の前方で前部フレーム部24と連結される。
【0015】
ここで、自動四輪車10は、車両前部10Aと車両後部10Bに対し、運転者が着座する不図示のシート部を支持する車体フレーム20を揺動可能に軸支する前部揺動機構70Aと後部揺動機構70Bを備える。なお、「揺動」とは、車両の一部又は全部が左右方向に傾斜することをいう。
【0016】
前部揺動機構70Aは、車両前部10Aに対し車体フレーム20の揺動を許容する前部揺動軸71を備え、後部揺動機構70Bは、車両後部10Bに対し車体フレーム20の揺動を許容する後部揺動軸72を備え、それぞれ前部揺動軸71、後部揺動軸72は、相対回転可能なインナーシャフト71a、72aとアウターシャフト71b、72bから構成される。
【0017】
車体フレーム20の前部フレーム部24の連結部分には、前部揺動軸71のアウターシャフト71bが支持部材36を介して取り付けられ、車体フレーム20の後部フレーム部26には、後部揺動軸72のアウターシャフト72bがロアサイドパイプ部27、27の後方でロアサイドパイプ部27、27を連結するクロス部材34を介して該クロス部材34周りに上下方向にスイング可能に取り付けられる。
【0018】
一方、前部揺動軸71のインナーシャフト71aは、車両前部10Aのフロントフレーム37に取付けられ、後部揺動軸72のインナーシャフト72aは、エンジン92aと、このエンジン92aの動力を後輪93、93に伝える伝動機構92bとを一体的に組込んだスイング式パワーユニット92に取り付けられる。これにより、車体フレーム20が、車両前部10Aのフロントフレーム37及び車両後部10Bのスイング式パワーユニット92に対し揺動可能となっている。
【0019】
後輪懸架装置60は、アッパーサイドパイプ部28、28の略中央部でアッパーサイドパイプ部28、28を連結する支持部材35に上端を支持され、下端を後部揺動軸72のアウターシャフト72bの上部に支持されたリアクッション69により、スイング式パワーユニット92を上下スイング可能に連結し、スイング式パワーユニット92に後輪93、93を回転可能に取付けたものである。これにより、路面から後輪93、93が受けた衝撃を緩衝することができる。
【0020】
前輪懸架装置40は、ダブルウィッシュボーン式の懸架装置であって、図2に示すように、フロントクッション41を挟んで前後に前アーム支持フレーム42と後アーム支持フレーム43がそれぞれ上下に設けられ、左右一対の略V字状のアッパーアーム44とロアアーム45のそれぞれが前アーム支持フレーム42と後アーム支持フレーム43に支持される。
【0021】
左右のロアアーム45にはフロントクッション41の下部が取り付けられ、フロントクッション41の上部が上部バンパ部材38に設けられたクッション支持部材33に取り付けられ、これにより路面から前輪48、48が受けた衝撃を緩衝することができる。
【0022】
フロントフレーム37の上部には、左右一対の上部バンパ部材38が取り付けられ、上部バンパ部材38は、フロントフレーム37の上部から略水平に前方に伸びる水平部38aと、前輪48、48より前方に配置され略垂直に延びるバンパ部38bと、水平部38aとバンパ部38bを連結する屈曲部38cからなり、一方、フロントフレーム37の下部には、略水平に前方に伸びて、先端が上部バンパ部材38の下端部に取り付けられる左右一対の下部バンパ部材39が取り付けられる。
【0023】
前輪操向装置50は、ヘッドパイプ21にステアリング軸51を回転可能に且つ軸方向移動不能に取付け、ステアリング軸51の下端の連結部材52にリンク機構53を介して、ステアリング軸51とは異なるステアリングステム(第2のステアリング軸)54を連結した構成を有する。
【0024】
リンク機構53は、上下に折曲げ自在なリンク機構であり、このリンク機構53をなす上部・下部リンク56,58間の連結部59Aに自在軸継手59が設けられている。詳しくは、リンク機構53は、(i)ステアリング軸51の連結部材52に第1連結ピン55にて、一端を上下スイング可能に連結した上部リンク56と、(ii)ステアリングステム54の上端に第2連結ピン57にて、一端を上下スイング可能に連結した下部リンク58と、(iii)上部・下部リンク56,58の他端同士、すなわち、上部・下部リンク56,58間を連結した自在軸継手59とからなる。自在軸継手59は、例えばボールジョイントである。59aはボールジョイントのボール、59bはボールジョイントの連結アームである。
【0025】
ステアリング軸51の上端に取付けたステアリングハンドル67(ステアリング)はバーハンドルである。ステアリングハンドル67を操向することにより、ステアリング軸51、リンク機構53及びステアリングステム54を介して前輪48,48を転舵させることができる。
【0026】
自動四輪車10のステアリングシステムは、例えばアッカーマンステアリング(アッカーマンリンク機構)である。具体的には前輪操向装置50は、ステアリングステム54の下端部にロッド連結部46を介して左右のタイロッド47、47を連結し、これらのタイロッド47、47の先端にナックルアーム49,49を連結したものである。
【0027】
本実施形態においては、ステアリング軸51の軸線M1と同軸上にステアリングステム54の軸線M2を配置するため、ステアリングハンドル67を操向することにより、ステアリングハンドル67の操向角と同じ舵角で、ステアリング軸51、リンク機構53及びステアリングステム54を介して前輪48,48を転舵させることができる。
【0028】
また、本実施形態においては、リンク機構53の自在軸継手59の回転中心O2を前部揺動軸71の回動軸線O1から上方にオフセットして構成される。従って、車体フレーム20を左右いずれか一方に揺動させた場合、図5に示すように、見かけ上、ステアリング軸51、リンク機構53は前部揺動軸71の回動軸線O1を中心に揺動するが、このとき自在軸継手59の回転中心O2が、前部揺動軸71の回動軸線O1から上方にオフセットしているため、自在軸継手59の回転中心O2が前部揺動軸71の回動軸線O1を中心として回転することにより、ステアリングステム54が軸線M2を中心として回転することになる。
【0029】
すなわち、図5(a)、(b)に示すように、車体フレーム20を運転者が回動軸線O1を中心に左側にβ°揺動した場合、軸線M1は左側に傾斜して軸線M1’となる。このとき、自在軸継手59の回転中心O2が左側に回転して軸線M2からtだけ移動するとともに、移動した自在軸継手59の回転中心O2’は、軸線M2周りにγ°回転する。
この自在軸継手59の回転中心O2が軸線M2を中心にしてγ°回転することにより、ステアリングステム54が回転してタイロッド47、47を引っ張り、車両を左側に回転させるように前輪48,48を転舵させることができる。
【0030】
なお、本実施形態においては、自在軸継手59の回転中心O2が、前部揺動軸71の回動軸線O1から上方にオフセットするように構成したが、下方にオフセットするように構成してもよい。この場合、運転者が車体フレーム20を揺動させた方向と、前輪48、48に与えられた舵角は反対方向となる。
【0031】
また、本実施形態においては、前部揺動軸71と後部揺動軸72は、図1に示すように、前部揺動軸71の回動軸線O1に対し後部揺動軸72の回動軸線O3が異なる軸線上にある。なお、前部揺動軸71の回動軸線O1に対し後部揺動軸72の回動軸線O3が異なる軸線上にあるとは、前部揺動軸71の回動軸線O1と後部揺動軸72の回動軸線O3が一直線上に配置されていないことを意味し、少なくとも傾き又は軸心の位置が異なる。
【0032】
図6は、前部揺動軸と後部揺動軸のオフセット量と舵角の関係を調べるため、前部揺動軸を固定して、後部揺動軸の傾きと前部揺動軸からの距離を変更して車体フレームを揺動させた場合の実験条件を示す。なお、ステアリングによる舵角の影響を排除するため、ステアリングハンドルは回動しないこととした(ステアリング操舵角0°)。図中、自動四輪車は上述した本実施形態の自動四輪車10を簡素化したものである。
【0033】
実施例1は、上述した本実施形態の自動四輪車10の前部揺動軸71の回動軸線O1と後部揺動軸72の回動軸線O3と同一の傾きと軸心をもつものである。このとき、回動軸線O1に対する回動軸線O3の軸支持部(上述した実施形態における後支持部72cの長手方向中心P)の距離LをL、回動軸線O1に対する回動軸線O3の角度αをα°とする。なお、Lは上述した本実施形態のように回動軸線O1に対し回動軸線O3の軸支持部が上方にあるときを“+”とし、反対に回動軸線O1に対し回動軸線O3の軸支持部が下方にあるときを“−”とする。同様に、αは上述した本実施形態のように回動軸線O1と水平面との仰角に対し回動軸線O3と水平面との仰角が小さいときを“+”とし、反対に回動軸線O1と水平面との仰角に対し回動軸線O3と水平面との仰角が大きいときを“−”とする。
【0034】
実施例2、3は実施例1のL=Lを不変として、αを変化させたものであり、実施例2は回動軸線O1の仰角と回動軸線O3の仰角が等しくなるように−α°変化させたもの、つまり回動軸線O1と回動軸線O3を平行としたものであり、実施例3は、実施例1の状態から実施例2の状態に−α°変化させたものをさらに−α°変化させたものである。
【0035】
実施例4、7は実施例1のα=α°を不変として、Lを変化させたものであり、実施例4はL=0、つまり回動軸線O1上に回動軸線O3の軸支持部を移動させたものであり、実施例7は、実施例1の状態から実施例4の状態に−Lだけ変化させたものをさらに−Lだけ変化させたものである。
【0036】
実施例4、5、6、実施例7、8、9の関係は実施例1、2、3の関係と等しく、実施例2、5、8、実施例3、6、9の関係は、実施例1、4、7の関係に等しい。すなわち、図6中、縦(実施例1、2、3、実施例4、5、6、実施例7、8、9)には、Lを不変としてαを上記のように変化させ、横(実施例1、4、7、実施例2、5、8、実施例3、6、9)には、αを不変としてLを上記のように変化させたものである。
【0037】
なお、実施例7〜9においては、回動軸線O3の軸支持部が水平線より下、すなわち地面より下に位置しているが、これは車輪を大きくしたり、前部揺動軸71を上方に持ってくることでこの関係を実現することができる。
【0038】
この実験結果を図7に示す。横軸は車体フレーム20の揺動角であり、プラス側が右側揺動、マイナス側が左側揺動であり、縦軸は車体フレーム20の揺動角に対する車両後部10Bから見た前輪48、48の舵角を示している。図7(a)は、実施例1〜3の結果、(b)は実施例4〜6、(c)は実施例7〜9の実験結果を示す。図中、実線は右前輪、点線は左前輪を示す。
【0039】
図7(a)〜(c)からわかるように全ての実施例1〜9において車体フレーム20の揺動により前輪48、48に揺動方向の舵角が与えられているのがわかる。また、内輪の舵角が外輪の舵角より大きい、つまり右揺動ならば右前輪の舵角が左前輪の舵角より大きく、左揺動ならば左前輪の舵角が右前輪の舵角より大きくなりアッカーマン曲線を描くことがわかる。これにより、揺動により安定したコーナリングを実現できる。
【0040】
次に図7(a)において、実施例1〜3を比べると、回動軸線O1と水平面との仰角に対し回動軸線O3と水平面との仰角を小さくすると(実施例3→実施例2→実施例1)、揺動角に対する操舵角が大きくなる傾向を示した。反対に回動軸線O1と水平面との仰角に対し回動軸線O3と水平面との仰角を大きくすると(実施例1→実施例2→実施例3)、揺動角に対する操舵角が小さくなる傾向を示した。これは、図7(b)の実施例4〜6、図7(c)の実施例7〜9においても同じ傾向を示した。一方、回動軸線O1に対する回動軸線O3の軸支持部の距離Lを変化させた図7(a)〜(c)をそれぞれ比べると、ほとんど同じ傾向を示した。
【0041】
以上より、回動軸線O1に対する回動軸線O3の角度αが舵角に与える影響が大きく、一方、回動軸線O1に対する回動軸線O3の距離Lはほとんど舵角に影響を与えないことがわかった。これにより、回動軸線O1に対する回動軸線O3の角度が車両の操舵特性に大きく影響し、回動軸線O1に対する回動軸線O3の距離は操舵特性への影響が小さいため設計の自由度が高いことがわかる。
【0042】
なお、通常、回動軸線O1と水平面との仰角に対し回動軸線O3と水平面との仰角が大きいとき、車体フレーム20の揺動に対し反対方向に舵角が与えられるが、前述したように、前輪操向装置50において、リンク機構53の自在軸継手59の回転中心を前部揺動軸71の回動軸線O1から上方にオフセットして構成されているので、前輪操向装置50においても操舵角が与えられるので、揺動方向と同方向に転舵している。
【0043】
次にステアリングの回動角と舵角との関係を調べるため、車体フレームを揺動せずにステアリングハンドルの回動による前輪の舵角を調べた。結果を図8に示す。横軸はステアリングハンドルの回動角であり、+側が右側回動、−側が左側回動であり、縦軸は後輪懸架装置から見たステアリングハンドルの回動角に対する前輪の舵角を示している。
【0044】
図8からステアリングの回動により前輪に回動方向の舵角が与えられているのがわかる。また、内輪の舵角が外輪の舵角より大きい、つまり右回動ならば右前輪の舵角が左前輪の舵角より大きく、左回動ならば左前輪の舵角が右前輪の舵角より大きい。すなわち、必ず内輪舵角が外輪舵角より大きくなり、アッカーマン曲線を描くことがわかる。これにより、揺動により安定したコーナリングを実現できる。
【0045】
なお、図7と図8を比較すると、車体フレームの揺動による舵角とステアリングハンドルの回動による舵角ではアッカーマン角度に差が生じることがわかった。
【0046】
以上より、本発明の自動四輪車10によれば、車体フレーム20を車両前部10Aに揺動可能に軸支する前部揺動機構70Aと、車体フレーム20を車両後部10Bに揺動可能に軸支する後部揺動機構70Bと、を備え、前部揺動機構70Aの前部揺動軸71と後部揺動機構70Bの後部揺動軸72は、異なる軸線上にあるので、簡単な構造で車体フレーム20を左右に揺動することにより舵角を与えることができる。
【0047】
また、本発明の自動四輪車10によれば、回動軸線O3と水平面との仰角(後部揺動軸72の水平線からの仰角)が、回動軸線O1と水平面との仰角(前部揺動軸71の水平線からの仰角)より小さいので、後部揺動軸72の仰角が小さいため、車高を低くしながら大きな舵角を与えることができる。
【0048】
また、本発明の自動四輪車10によれば、後部揺動軸72の軸支持部(後支持部72cの長手方向中心P)が、前部揺動軸71の軸線より上方に配置されるので、地面から軸支持部72cの距離を短くできるため、車高を低く抑えることができる。
【0049】
また、本発明の自動四輪車10によれば、車体フレーム20は車両前部10Aに対し前部揺動軸71に支持され、ステアリング軸51に自在軸継手59を備えるリンク機構53を介してステアリングステム54に連結されるので、簡単な構造で車体フレーム20の揺動とステアリングハンドル67による回動とを独立して操作することができる。これにより、乗員は、例えば低速走行時にはステアリングハンドル67の回動により車体フレーム20を揺動せずに旋回することができる。
【0050】
また、本発明の自動四輪車10によれば、上部リンク56と下部リンク58の間に自在軸継手59が設けられているので、組み付け作業を容易に行うことができる。
【0051】
また、本発明の自動四輪車10によれば、前部揺動軸71の回動軸線O1に対して自在軸継手の回転中心O2が上方にオフセットしているので、ステアリングハンドル67を回動させても、車体フレーム20が揺動せず、独立して操作可能であり、かつ、車体フレーム20を揺動させた時、ステアリングハンドル67の回動とは独立して前輪48、48に舵角を与えることができる。これにより、乗員は、例えば高速走行時には進行方向に体を傾斜させることで、前輪48、48に舵角を与え旋回することができる。
【0052】
なお、上記本発明の実施の形態において、次の(1)〜(3)のようにすることは差し支えない。
(1)本実施形態の自動四輪車10の前輪操向装置50においては、ステアリング軸51と同軸上にステアリングステム54を配置しステアリングハンドル67の操向角と前輪48、48の操舵角を同一となるように設定したが、ステアリング軸51から前方又は後方へオフセットした位置にステアリングステム54を配置することにより、操向角に対する転舵角の割合を最適なものに設定することができる。
(2)本実施形態の自動四輪車10の前部揺動機構70Aにおいては、前部揺動軸71の回動軸線O1に対して自在軸継手の回転中心O2を同軸上に配置し、前部揺動機構70Aにおいては舵角を与えないように設定してもよい。
(3)説明を簡略化するため自動四輪車10の付属部品を省略したが、ヘッドランプ、ワイパ、フロントカバー、ハンドルカバー、運転者の脚部を覆うレッグシールド、収納ボックス、リヤカバー、サイドミラー、シート等備え付けることができることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に係る自動四輪車用の左側面図である。
【図2】図1の自動四輪車を上方から見た図である。
【図3】左方向に揺動している図1の自動四輪車を前方から見た図である。
【図4】前輪操向装置の左側面図である。
【図5】(a)は左方向に揺動している状態における前輪操向装置を前方から見た図であり、(b)は(a)の揺動に伴う回転中心O2の移動を軸線M2上から見た図である。
【図6】前部揺動軸と後部揺動軸の関係を示す説明図である。
【図7】図6の前部揺動軸と後部揺動軸の関係における揺動角とタイヤ舵角との関係を示す図である。
【図8】ステアリングハンドルの操舵角とタイヤ舵角との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
10 自動四輪車
10A 車両前部
10B 車両後部
20 車体フレーム
21 ヘッドパイプ
40 前輪操向装置
47 タイロッド
48 前輪
51 ステアリング軸
53 リンク機構
54 ステアリングステム
56 上部リンク
58 下部リンク
59 自在軸継手
60 後輪懸架装置
70A 前部揺動機構
70B 後部揺動機構
71 前部揺動軸
72 後部揺動軸
72c 後支持部(後部揺動軸の軸支持部)
93 後輪
O1 前部揺動軸の回動軸線
O2 自在軸継手の回転中心
O3 後部揺動軸の回動軸線
M1 ステアリング軸の軸線
M2 ステアリングステムの軸線
P 後支持部の長手方向中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体フレームと、
前記車体フレームの前方に設けられたヘッドパイプに回転可能に取り付けたステアリング軸と、
前記ステアリング軸にリンク機構を介して連結されたステアリングステムと、前記ステアリングステムに左右タイロッドを介して連結された左右一対の前輪と、を備えた車両前部と、
エンジンと伝動機構からなるパワーユニットと、前記パワーユニットに連結された左右一対の後輪と、を備えた車両後部と、
を備える車両において、
前記車体フレームを前記車両前部に揺動可能に軸支する前部揺動機構と、
前記車体フレームを前記車両後部に揺動可能に軸支する後部揺動機構と、を備え、
前記前部揺動機構の前部揺動軸と前記後部揺動機構の後部揺動軸は、異なる軸線上にある、
ことを特徴とする車両。
【請求項2】
前記後部揺動軸の水平線からの仰角が、前記前部揺動軸の水平線からの仰角より小さいことを特徴とする請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記後部揺動軸の軸支持部が、前記前部揺動軸の軸線より上方に配置されることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−76545(P2010−76545A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−246038(P2008−246038)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】