説明

車体の補強構造および補強方法

【課題】 ピラー部材またはクロス部材の一方に入力される荷重を引張り力に変換して他方に伝達・分散することにより、ピラー部材またはクロス部材の剛性を簡単な構成をもって高めることができる車体の補強構造を提供する。
【解決手段】 それぞれを中空の閉断面に形成したルーフサイドレール10とセンターピラー30とルーフクロスメンバ40とを十字状の結合部分K1とし、センターピラー30とルーフクロスメンバ40との間に荷重変換手段100を設けて、センターピラー30に側突荷重Fが入力した際に発生する曲げモーメントを引張り力に変換してルーフクロスメンバ40に伝達することにより、センターピラー30に入力される荷重Fが効率良くルーフクロスメンバ40に伝達・分散され、ひいてはセンターピラー30の剛性を大幅な増強を伴うことなく高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の側面衝突時にピラー部材が車室内に侵入する変形量を小さく抑制するようにした車体の補強構造および補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車体の補強構造としては、フロア部の車幅方向両側に車両前後方向に延在するロッカとセンターピラーとの結合部付近から、フロアパネル下面にロッカよりも低い位置に車両前後方向に設けたフロアメンバとに亘って、ガセットを結合配置して、前記センターピラーや前記ロッカに横方向の外力が作用した際に、前記ガセットが屈曲変形してフロアメンバに曲げ荷重として伝達されることにより、フロアメンバに作用するねじり荷重を低減して車体の剛性を向上できるようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−185960号公報(第4,5頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、かかる従来の車体の補強構造にあっては、横方向の外力をガセットの屈曲変形によって延長先のフロアメンバに伝達しようとしていたため、外力の作用方向が傾いたりしてガセットの屈曲変形が予想外の方向に伸展した場合には、所望の荷重伝達がなされない可能性があるとともに、ガセットを屈曲させることを前提としているため、ガセットが屈曲されるまでの範囲の車体変形は許容せざるを得なくなってしまう。
【0004】
そこで、本発明はピラー部材またはクロス部材の一方に入力される荷重を引張り力に変換して他方に伝達・分散することにより、ピラー部材またはクロス部材の剛性を簡単な構成をもって高めることができる車体の補強構造および補強方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の車体の補強構造は、車両の天井部および床部の車幅方向両側にそれぞれ車両前後方向に延在するフレーム部材と、上下方向に対向するフレーム部材を上下方向に連結する左右のピラー部材と、左右方向に対向するフレーム部材をピラー部材の連結部分で車幅方向に連結する上下のクロス部材と、を備えた車両骨格構造において、
ピラー部材とクロス部材との間に、これらピラー部材またはクロス部材の一方に発生する曲げモーメントを引張り力に変換して他方に伝達する荷重変換手段を設けたことを最も主要な特徴とする。
【0006】
また、本発明の車両の補強方法は、車両の天井部および床部の車幅方向両側にそれぞれ車両前後方向に延在するフレーム部材と、上下方向に対向するフレーム部材を上下方向に連結する左右のピラー部材と、左右方向に対向するフレーム部材をピラー部材の連結部分で車幅方向に連結する上下のクロス部材と、を備えた車両骨格構造において、
ピラー部材またはクロス部材の一方に発生する曲げモーメントを引張り力に変換して他方に伝達することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の車両のピラー補強構造および補強方法によれば、ピラー部材とクロス部材との間に荷重変換手段を設けることにより、ピラー部材またはクロス部材の一方に発生する曲げモーメントを引張り力に変換して他方に伝達するようになっているので、ピラー部材またはクロス部材に入力される荷重が効率良くクロス部材に伝達・分散され、ひいてはピラー部材またはクロス部材の剛性を大幅な増強を伴うことなく高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態を図面と共に詳述する。
【0009】
図1〜図8は本発明にかかる車体の補強構造および補強方法の第1実施形態を示し、図1は本発明の車体の補強構造を適用した車両全体の骨格構造を示す斜視図、図2は図1中A部に示すフレーム部材とピラー部材とクロス部材の結合部分の拡大斜視図、図3は図2に示す結合部分の分解斜視図、図4は補強部材の取付状態を示す断面図、図5は補強部材の斜視図、図6は側方荷重の入力状態を示す車体骨格の斜視図、図7は側方荷重の入力状態を示すフレーム部材とピラー部材とクロス部材の結合部分の断面図、図8は荷重変換手段の作動状態を示す断面図である。
【0010】
本実施形態の車両1は、図1に示すように車両1の天井部Rおよび床部Fの車幅方向両側にそれぞれ車両前後方向に延在するフレーム部材としてのルーフサイドレール10およびサイドシル20と、上下方向に対向するフレーム部材、つまりルーフサイドレール10とサイドシル20とを上下方向に連結する左右のピラー部材としてのセンターピラー30と、左右方向に対向するフレーム部材、つまり左右ルーフサイドレール10どうし、および左右サイドシル20どうしを前記センターピラー30の連結部分で車幅方向に連結する上下のクロス部材としてのルーフクロスメンバ40およびフロアクロスメンバ50と、を備えている。
【0011】
また、前記ルーフサイドレール10とサイドシル20との間には、前記センターピラー30の前後方向に所定間隔をおいてフロントピラー30Fおよびリアピラー30Rを連結してある。
【0012】
更に、左右ルーフサイドレール10どうしの間には、前記ルーフクロスメンバ30の前後方向に所定間隔をおいてフロントルーフクロスメンバ40Fおよびリアルーフクロスメンバ40Rを連結してあるとともに、左右サイドシル20どうしの間には、前記フロアクロスメンバ50の前後方向に所定間隔をおいてフロントフロアクロスメンバ50Fおよびリアフロアクロスメンバ50Rを連結してある。
【0013】
前記ルーフサイドレール10、サイドシル20、センターピラー30、ルーフクロスメンバ40およびフロアクロスメンバ50は、いずれも中空の閉断面に形成してあり、ルーフサイドレール10とセンターピラー30とルーフクロスメンバ40との結合部分K1は、図2に示すようにセンターピラー30とルーフクロスメンバ40とがルーフサイドレール10をジョイントとして十字状に結合される。
【0014】
図3に示すように、センターピラー30の外壁31とルーフサイドレール10の外壁11は、それぞれが断面コ字状に形成されて一体に形成され、ルーフサイドレール10の外壁11の上側に形成した開口部11aの周縁部に、断面コ字状に形成されたルーフクロスメンバ40の外壁41の外側端部が接合される。
【0015】
そして、前記センターピラー30、ルーフサイドレール10およびルーフクロスメンバ40の各外壁31,11,41の車室内側に十字状平板で形成したクロージング材60を接合することにより、前記十字状の結合部分K1は閉断面に構成される。
【0016】
このとき、前記クロージング材60は、ルーフサイドレール10に対応する部分がその内壁12となり、センターピラー30に対応する部分がその内壁32となり、ルーフクロスメンバ40に対応する部分がその内壁42となる。
【0017】
ここで、本実施形態の車体の補強構造では、前記センターピラー30と前記ルーフクロスメンバ40との間に、センターピラー30に側突荷重F(図6参照)が入力した際に発生する曲げモーメントを引張り力に変換してルーフクロスメンバ40に伝達する荷重変換手段100を設けてある。
【0018】
そして、本実施形態の補強方法は、センターピラー30に発生する曲げモーメントを引張り力に変換してルーフクロスメンバ40に伝達するようになっている。
【0019】
前記荷重変換手段100は、図4に示すようにルーフサイドレール10に跨って、一端部(図4中右端部)をセンターピラー30に結合するとともに、他端部(図4中左端部)をルーフクロスメンバ40に結合し、中間部分101aがルーフサイドレール10に設けた支点部としての突起部70で支持される補強部材としての補強プレート101で形成してある。
【0020】
前記突起部70は、図3に示すようにルーフサイドレール10の車室内側を閉止する前記クロージング材60の交差部分61の中央部、つまりルーフサイドレール10の内壁12に、ルーフサイドレール10の内方に向かって所定高さをもって突設され、かつ、この突起部70は車両前後方向に延びて形成されている。
【0021】
前記補強プレート101は、図5に示すように所定厚さtを有する長方形板状に形成され、センターピラー30の端部30aとルーフクロスメンバ40の端部40aに亘って配置される。
【0022】
また、前記補強プレート101は、図5に示すように両端部にセンターピラー30およびルーフクロスメンバ40にそれぞれ結合するためのフランジ部101b,101cを有し、それらフランジ部101b,101c間の中間部分101aを直線状に形成してある。
【0023】
そして、図4に示すように前記補強プレート101を、閉断面のセンターピラー30の内方から閉断面のルーフサイドレール10内を通過させて閉断面のルーフクロスメンバ40の内方に配置し、補強プレート101の一端部(図中右端部)のフランジ部101bをセンターピラー30の外壁31にスポット溶接で結合するとともに、他端部(図中左端部)のフランジ部101cをルーフクロスメンバ40の内壁42にスポット溶接で結合してある。
【0024】
このとき、直線状に形成された補強プレート101の中間部分101aは、前記突起部70に圧迫しない程度に接触させてあり、また、前記フランジ部101b,101cの形成角度θ1,θ2(図5参照)はほぼ等しくなるように設定される。
【0025】
また、本実施形態にあっては図7に示すように、前記補強プレート101が支持される突起部70から補強プレート101がセンターピラー30に結合される結合点までの距離Lを、センターピラー30が曲げ変形される時の曲率半径よりも小さくしてある。
【0026】
従って、前記ピラー補強構造では、図6に示すように側突などによりセンターピラー30に車両外方から内方に向かう荷重Fが作用した場合、センターピラー30は荷重Fによって上下方向ほぼ中央部が車室内方に変位する。
【0027】
そして、図7に示すように前記センターピラー30の上端部はジョイント部となるルーフサイドレール10を中心として車室内方に回動する曲げモーメントMが発生し、このとき、センターピラー30はその曲げモーメントMによって曲げ変形することにより、内壁32に圧縮力が作用するとともに、外壁31に引張り力が作用する。
【0028】
また、前記センターピラー30の曲げ変形に伴ってセンターピラー30に結合した補強プレート101のフランジ部101bは、センターピラー30の変形に伴って車室内方に移動することになるが、前記外壁31に作用する引張り力によって車体下方にも移動することになる。
【0029】
このような補強プレート101の挙動に伴い、ジョイント部となるルーフサイドレール10の内壁12から突出した突起部70に補強プレート101の中間部分101aが支持され、その後は図8に示すようにセンターピラー30の曲げ変形が進行するのに従って補強プレート101は前記突起部70を節として折曲する。
【0030】
即ち、補強プレート101の折曲により前記フランジ部101bは突起部70を中心とする円弧C上を車室内方に移動しようとするが、センターピラー30の外壁31の曲げ伸長に伴う移動により前記円弧Cよりも外側に外れる軌跡を描く。
【0031】
その結果、補強プレート101には張力f1が発生し、この張力f1は補強プレート101内を伝わるが、折曲の節となる前記突起部70において接触力f3を発生するため、最終的にルーフクロスメンバ40側に伝達される荷重f2は前記f1よりも小さくなる。
【0032】
このとき、補強プレート101の両端部のフランジ部101b,101cには、センターピラー30の外壁31およびルーフクロスメンバ40の内壁42との接合面に大きな剪断力が加わることになるが、スポット溶接は剥離方向よりも剪断方向に大きな強度を発揮するため、十分な強度を保って接合状態を維持することができる。
【0033】
また、クロージング材60に働く圧縮力によりルーフサイドレール10の内壁12にも折れ曲げる方向の歪が発生するが、接触力f3がそれを相殺する方向に作用しているため、前記歪の増大を抑えることができる。
【0034】
以上の構成により本実施形態の車体の補強構造および補強方法によれば、センターピラー30とルーフクロスメンバ40との間に荷重変換手段100を設けて、センターピラー30に側突荷重Fが入力した際に発生する曲げモーメントMを引張り力に変換してルーフクロスメンバ40に伝達するようになっているので、センターピラー30に入力される荷重が効率良くルーフクロスメンバ40に伝達・分散でき、ひいてはセンターピラー30の剛性を大幅な増強を伴うことなく高めることができる。
【0035】
また、本実施形態にあっては前記荷重変換手段100を、ルーフサイドレール10に跨って、一端部をセンターピラー30に結合するとともに、他端部をルーフクロスメンバ40に結合し、センターピラー30の曲げ変形時に中間部分101aがルーフサイドレール10に設けた突起部70で支持される補強プレート101で形成したので、センターピラー30に発生する曲げモーメントMを引張り力に変換するには、補強プレート101が突起部70に支持されることが必要であるが、補強プレート101は通常状態で突起部70に圧迫しない程度に接触しているため、センターピラー30が曲げ変形を開始するとほぼ同時に突起部70で補強プレート101を支持できるため、荷重Fの入力と同時に補強プレート101に引張り力を発生させてルーフクロスメンバ40に伝達できるため、側突当初からセンターピラー30の剛性を高めることができるとともに、前記突起部70を介してセンターピラー30からルーフサイドレール10に干渉力を作用させることができるので、より広い範囲に負荷を分散させることができる。
【0036】
更に、前記補強プレート101は、センターピラー30の端部30aとルーフクロスメンバ40の端部40aに亘って配置したので、センターピラー30やルーフクロスメンバ40の組み立て工程で比較的容易に設置できるとともに、補強プレート101をルーフサイドレール10に跨ってセンターピラー30とルーフクロスメンバ40とに連結したので、センターピラー30の負荷を直接にルーフクロスメンバ40に伝達し、その補強プレート101に発生した引張り力の伝達効率を高めることができる。
【0037】
更にまた、前記補強プレート101は、両端部にセンターピラー30およびルーフクロスメンバ40にそれぞれ結合するためのフランジ部101b,101cを有し、それらフランジ部101b,101c間の中間部分101aを直線状に形成したので、フランジ部101b,101cにより補強プレート101とセンターピラー30およびルーフクロスメンバ40との結合力を高め、スポット溶接やリベット結合若しくは切欠きによる嵌め合い接合する場合にも十分な接合強度を確保することができる。
【0038】
また、前記補強プレート101は、一端部のフランジ部101bをセンターピラー30の外壁31に結合するとともに、他端部のフランジ部101cをルーフクロスメンバ40の内壁42に結合したので、初期状態での補強プレート101の直線形状を確保し易くなるとともに、変形時の引張り力による負荷伝達効率を高めることができる。
【0039】
更に、前記補強プレート101が支持される突起部70から補強プレート101がセンターピラー30に結合される結合点までの距離Lを、センターピラー30が曲げ変形される時の曲率半径よりも小さくしたので、センターピラー30が変形した際により大きな引張り力が補強プレート101に作用するようになるので、負荷伝達効率の更なる向上を図ることができる。
【0040】
図9〜図13は本発明の第2実施形態を示し、前記第1実施形態と同一構成部分に同一符号を付して重複する説明を省略して述べるものとし、図9はフレーム部材とピラー部材とクロス部材の結合部分の拡大斜視図、図10は図9に示す結合部分の分解斜視図、図11は補強プレートの形成工程を(a),(b)に順を追って示す説明図、図12は側方荷重の入力による荷重変換手段の作動状態を示す断面図、図13は上方荷重の入力による荷重変換手段の作動状態を示す断面図である。
【0041】
本実施形態の車体の補強構造は基本的に第1実施形態とほぼ同様であり、図9に示すようにルーフサイドレール10とセンターピラー30とルーフクロスメンバ40との結合部分K1は、センターピラー30とルーフクロスメンバ40とがルーフサイドレール10をジョイント部として十字状に結合される。
【0042】
図10に示すように、ルーフサイドレール10、センターピラー30およびルーフサイドレール10の外壁11,31,41は断面コ字状に形成されて、それぞれが別体に形成され、ルーフサイドレール10の外壁11の下側に形成した開口部11bの周縁部にセンターピラー30の外壁31の上端部が接合されるとともに、ルーフサイドレール10の外壁11の上側に形成した開口部11aの周縁部にルーフクロスメンバ40の外壁41の外側端部が接合される。
【0043】
そして、前記センターピラー30、ルーフサイドレール10およびルーフクロスメンバ40の各外壁31,11,41の車室内側に十字状平板で形成したクロージング材62を接合することにより、前記十字状の結合部分K1は閉断面に構成される。
【0044】
また、本実施形態にあっても前記クロージング材62は、ルーフサイドレール10に対応する部分がその内壁12となり、センターピラー30に対応する部分がその内壁32となり、ルーフクロスメンバ40に対応する部分がその内壁42となる。
【0045】
ここで、本実施形態の車体の補強構造では、センターピラー30とルーフクロスメンバ40との間に、これらセンターピラー30またはルーフクロスメンバ40の一方に発生する曲げモーメントを引張り力に変換して他方に伝達する荷重変換手段100Aを設けてある。
【0046】
前記荷重変換手段100Aは、図10に示すように補強部材としての第1補強プレート102および第2補強プレート103で構成され、これら第1・第2補強プレート102,103はルーフサイドレール10に跨って、一端部(図10中右端部)をセンターピラー30に結合するとともに、他端部(図10中左端部)をルーフクロスメンバ40に結合し、それぞれの中間部分102a,103aがルーフサイドレール10に設けた支点部としての突起部71,72で支持されるようになっている。
【0047】
前記突起部71,72は、図10に示すように第1実施形態と同様にルーフサイドレール10の車室内側を閉止するクロージング材62の交差部分63の中央部分に車幅方向に並んで突設される。
【0048】
前記第1・第2補強プレート102,103は、図11(a)に示すように一枚の矩形状鋼板104の対向する短辺104a間に、長辺104bと平行に中央部を残して2本の切れ込み105を形成し、そして、図11(b)に示すように前記切れ込み105から両側部分と中央部分を交互に傾斜させ、両側部分を一対の第1補強プレート102とし、中央部分を第2補強プレート103としてある。
【0049】
また、前記第1・第2補強プレート102,103にあっても、それぞれの両端部にフランジ部102b,102cおよび103b,103cを設けてあるとともに、中間部分102a,103aを直線状に形成してある。
【0050】
勿論、前記第1・第2補強プレート102,103は、一枚の鋼板104で形成することなく、それぞれを別体に加工したものを接合して形成することもできる。
【0051】
そして、第1補強プレート102の一端部のフランジ部102bをセンターピラー30の外壁31にスポット溶接で結合するとともに、他端部のフランジ部102cをルーフクロスメンバ40の内壁42にスポット溶接で結合する一方、第2補強プレート103の一端部のフランジ部103bをセンターピラー30の内壁32にスポット溶接で結合するとともに、他端部のフランジ部103cをルーフクロスメンバ40の外壁41にスポット溶接で結合してある。
【0052】
また、第1補強プレート102の中間部分102aを前記突起部71に圧迫しない程度に接触させるとともに、第2補強プレート103の中間部分103aを前記突起部72に圧迫しない程度に接触させてある。
【0053】
従って、本実施形態によれば第1実施形態と同様に、図12に示すようにセンターピラー30に車両外方から内方に向かう荷重F1が作用した場合、センターピラー30は上下方向ほぼ中央部が車室内方に変位し、ルーフサイドレール10を中心とする曲げモーメントMが発生して、曲げ変形の伸長側となるセンターピラー30の外壁31に結合した第1補強プレート102のフランジ部102bは、センターピラー30の変形に伴って車室内方かつ下方に移動する。
【0054】
その結果、ルーフサイドレール10の内壁12から突設した突起部71に第1補強プレート102の中間部分102aが支持され、第1補強プレート102は前記突起部71を節として折曲することにより、第1補強プレート102に張力が発生し、突起部71における接触力とルーフクロスメンバ40との結合部(フランジ部102c)との結合部での剪断力として伝達・分散される。
【0055】
尚、このとき第2補強プレート103のフランジ部103b,103cが結合されるセンターピラー30の内壁32およびルーフクロスメンバ40の外壁41は圧縮側であるため、第2補強プレート103には大きな張力は発生しない。
【0056】
一方、図13に示すようにロールオーバーなどによりルーフクロスメンバ40に車両上方から荷重F2が作用した場合、そのルーフクロスメンバ40の車幅方向ほぼ中央部が車室内方に曲げ変形されると、伸長側となるルーフクロスメンバ40の外壁41に結合した第2補強プレート103のフランジ部103cは車体下方および車幅方向中央方向に移動する。
【0057】
その結果、ルーフサイドレール10の内壁12に形成した突起部72に第2補強プレート103の中間部分103aが支持され、第2補強プレート103は前記突起部72を節として折曲することにより、第2補強プレート103に張力が発生し、突起部72における接触力とセンターピラー30との結合部(フランジ部103b)との結合部での剪断力として伝達・分散される。
【0058】
尚、このとき第1補強プレート102のフランジ部102b,102cが結合されるセンターピラー30の外壁31およびルーフクロスメンバ40の内壁42は圧縮側であるため、第1補強プレート102には大きな張力は発生しない。
【0059】
このように本実施形態では、ジョイント部となるルーフサイドレール10を跨いでセンターピラー30からルーフクロスメンバ40を連結するように第1・第2補強プレート102,103を設置し、それらの両端部に設けたフランジ部102b,102cおよび103b,103cを、センターピラー30の外壁31と内壁32およびルーフクロスメンバ40の内壁42,外壁41に互い違いに結合したことにより、センターピラー30に荷重F1を受けた場合およびルーフクロスメンバ40に荷重F2を受けた場合でも、それらセンターピラー30またはルーフクロスメンバ40の一方に入力した荷重を、第1補強プレート102または第2補強プレート103の張力に変換して他方に伝達・分散でき、センターピラー30およびルーフクロスメンバ40の剛性を大幅な増強を伴うことなく高めることができる。
【0060】
図14〜図18は本発明の第3実施形態を示し、前記第1実施形態と同一構成部分に同一符号を付して重複する説明を省略して述べるものとし、図14は側方荷重の入力状態を示す車体骨格の斜視図、図15は図14中B部に示すフレーム部材とピラー部材とクロス部材の結合部分の拡大斜視図、図16は荷重変換手段の取付状態を示すフレーム部材とピラー部材とクロス部材の結合部分を透視した拡大斜視図、図17は側方荷重の入力状態を示すフレーム部材とピラー部材とクロス部材の結合部分の断面図、図18は荷重変換手段の作動状態を示す断面図である。
【0061】
本実施形態の車両1Aは、図1に示すように基本的に第1実施形態と同様の構成となり、ルーフサイドレール10、サイドシル20、センターピラー30、ルーフクロスメンバ40およびフロアクロスメンバ50と、を備えており、更に、センターピラー30の前後にはフロントピラー30F、リアピラー30Rを備え、かつ、ルーフクロスメンバ40の前後にフロントルーフクロスメンバ40F、リアルーフクロスメンバ40Rと、フロアクロスメンバ50の前後にフロントフロアクロスメンバ50Fおよびリアフロアクロスメンバ50Rを備えている。
【0062】
ここで、本実施形態ではサイドシル20、センターピラー30、フロアクロスメンバ50との結合部分に本発明を適用した場合を示す。
【0063】
図15に示すように、サイドシル20は断面五角形状の閉断面に形成されるとともに、センターピラー30、フロアクロスメンバ50はそれぞれ外壁31,51および内壁32,52を備えた断面矩形状の閉断面に形成され、それぞれは押出し材の組み合わせと溶接、鋳造による一体成形などにより十字状に結合される結合部分K2を構成する。
【0064】
そして、本実施形態にあっても第1実施形態と同様にセンターピラー30とフロアクロスメンバ50との間に、センターピラー30に側突荷重F(図17参照)が入力した際に発生する曲げモーメントを引張り力に変換してフロアクロスメンバ50に伝達する荷重変換手段100Bを設けてあり、この荷重変換手段100Bは、図16に示すようにサイドシル20に跨って、一端部110aをセンターピラー30の下端部に結合するとともに、他端部110bをフロアクロスメンバ50の外方端部に結合し、中間部分110cがサイドシル20に設けた支点部としてのバー73で支持される補強部材としての補強ワイヤー110で形成してある。
【0065】
前記補強ワイヤー110の一端部110aは、図16に示すようにクランプ111を介してセンターピラー30の外壁31に結合するとともに、補強ワイヤー110の他端部110bはクランプ112を介してフロアクロスメンバ50の内壁52に結合してあり、その補強ワイヤー110は中間部分110cを前記バー73の外側に周回させて緊張させてある。
【0066】
前記バー73はサイドシル20の内部に車両前後方向に配置され、図16に示すようにそのバー73の両端部が、サイドシル20内側のセンターピラー30を挟んだ前後部分に取り付けた支持板74,74aに固定される。
【0067】
従って、本実施形態の車体の補強構造によれば、センターピラー30とフロアクロスメンバ50との間に荷重変換手段100Bを設けて、図17に示すようにセンターピラー30に荷重Fが入力した際に発生する曲げモーメントMを引張り力に変換してフロアクロスメンバ50に伝達するようになっているので、第1実施形態と同様にセンターピラー30に入力される荷重が効率良くフロアクロスメンバ50に伝達・分散でき、ひいてはセンターピラー30の剛性を大幅な増強を伴うことなく高めることができる。
【0068】
ところで、本実施形態では前記荷重変換手段100Bを補強ワイヤー110で形成し、その補強ワイヤー110をサイドシル20に跨って、一端部110aをセンターピラー30の下端部に結合するとともに、他端部110bをフロアクロスメンバ50の外方端部に結合し、中間部分110cがサイドシル20に設けたバー73で支持するようにしたので、補強ワイヤー110は通常状態でバー73を節として屈曲しており、荷重Fによりセンターピラー30曲げ変形を生じると、伸長側となる外壁31に補強ワイヤー110の一端部110aを結合するクランプ111は、センターピラー30の変形に伴って車室内方かつ下方に移動する。
【0069】
その結果、補強ワイヤー110には張力が発生し、バー73を車室内方上方に押す接触力とフロアクロスメンバ50に補強ワイヤー110の他端部110bを結合したクランプ112を引張る力として伝達・分散することができる。
【0070】
このように本実施形態では、センターピラー30とフロアクロスメンバ50とを連結する手段として補強ワイヤー110を用い、それをサイドシル20内側に設置したバー73により予め屈曲させておくことにより、その補強ワイヤー110の一端部110aのクランプ111の移動に対する張力発生の敏感度を高めることができ、センターピラー30が荷重Fにより曲げ変形した際には直ちに抗力を発生することができる。
【0071】
ところで、本発明は前記第1〜第3実施形態に例をとって説明したが、これら実施形態に限ることなく本発明の要旨を逸脱しない範囲で他の実施形態を各種採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の第1実施形態における車体の補強構造を適用した車両全体の骨格構造を示す斜視図。
【図2】図1中A部に示すフレーム部材とピラー部材とクロス部材の結合部分の拡大斜視図。
【図3】図2に示す結合部分の分解斜視図。
【図4】本発明の第1実施形態における補強部材の取付状態を示す断面図。
【図5】本発明の第1実施形態における補強部材の斜視図。
【図6】本発明の第1実施形態における側方荷重の入力状態を示す車体骨格の斜視図。
【図7】本発明の第1実施形態における側方荷重の入力状態を示すフレーム部材とピラー部材とクロス部材の結合部分の断面図。
【図8】本発明の第1実施形態における荷重変換手段の作動状態を示す断面図。
【図9】本発明の第2実施形態におけるフレーム部材とピラー部材とクロス部材の結合部分の拡大斜視図。
【図10】図9に示す結合部分の分解斜視図。
【図11】本発明の第2実施形態における補強プレートの形成工程を(a),(b)に順を追って示す説明図。
【図12】本発明の第2実施形態における側方荷重の入力による荷重変換手段の作動状態を示す断面図。
【図13】本発明の第2実施形態における上方荷重の入力による荷重変換手段の作動状態を示す断面図。
【図14】本発明の第3実施形態における側方荷重の入力状態を示す車体骨格の斜視図。
【図15】図14中B部に示すフレーム部材とピラー部材とクロス部材の結合部分の拡大斜視図。
【図16】本発明の第3実施形態における荷重変換手段の取付状態を示すフレーム部材とピラー部材とクロス部材の結合部分を透視した拡大斜視図である。
【図17】本発明の第3実施形態における側方荷重の入力状態を示すフレーム部材とピラー部材とクロス部材の結合部分の断面図。
【図18】本発明の第3実施形態における荷重変換手段の作動状態を示す断面図。
【符号の説明】
【0073】
1,1A 車両
10 ルーフサイドレール(フレーム部材)
20 サイドシル(フレーム部材)
30 センターピラー(ピラー部材)
31 センターピラーの外壁
32 センターピラーの内壁
40 ルーフクロスメンバ(クロス部材)
41 ルーフクロスメンバの外壁
42 ルーフクロスメンバの内壁
50 フロアクロスメンバ(クロス部材)
51 フロアクロスメンバの外壁
52 フロアクロスメンバの内壁
70,71,72 突起部(支点部)
73 バー(支点部)
100,100A,100B 荷重変換手段
101 補強プレート(補強部材)
101a 補強プレートの中間部分
101b,101c フランジ部
102 第1補強プレート(補強部材)
102a 第1補強プレートの中間部分
102b,102c フランジ部
103 第2補強プレート(補強部材)
103a 第2補強プレートの中間部分
103b,103c フランジ部
110 補強ワイヤー(補強部材)
110c 補強ワイヤーの中間部分


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の天井部および床部の車幅方向両側にそれぞれ車両前後方向に延在するフレーム部材と、
上下方向に対向するフレーム部材を上下方向に連結する左右のピラー部材と、
左右方向に対向するフレーム部材をピラー部材の連結部分で車幅方向に連結する上下のクロス部材と、を備えた車両骨格構造において、
ピラー部材とクロス部材との間に、これらピラー部材またはクロス部材の一方に発生する曲げモーメントを引張り力に変換して他方に伝達する荷重変換手段を設けたことを特徴とする車体の補強構造。
【請求項2】
荷重変換手段は、フレーム部材に跨って、一端部をピラー部材に結合するとともに、他端部をクロス部材に結合し、中間部分がフレーム部材に設けた支点部で支持される補強部材であることを特徴とする請求項1に記載の車体の補強構造。
【請求項3】
補強部材は、ピラー部材の端部とクロス部材の端部に亘って配置される板状の補強プレートであることを特徴とする請求項2に記載の車体の補強構造。
【請求項4】
補強部材は、ピラー部材の端部とクロス部材の端部に亘って配索される補強ワイヤーであることを特徴とする請求項2に記載の車体の補強構造。
【請求項5】
補強プレートは、両端部にピラー部材およびクロス部材にそれぞれ結合するためのフランジ部を有し、それらフランジ部間の中間部分を直線状に形成したことを特徴とする請求項3に記載の車体の補強構造。
【請求項6】
フレーム部材、ピラー部材およびクロス部材はそれぞれ閉断面に形成され、前記補強部材はフレーム部材内を通して一端部をピラー部材の外壁に結合した場合は他端部をクロス部材の内壁に結合する一方、一端部をピラー部材の内壁に結合した場合は他端部をクロス部材の外壁に結合することを特徴とする請求項2〜5のいずれか1つに記載の車体の補強構造。
【請求項7】
補強部材が支持される支点部から補強部材がピラー部材に結合される結合点までの距離を、ピラー部材が曲げ変形される時の曲率半径よりも小さくしたことを特徴とする請求項2〜6のいずれか1つに記載の車体の補強構造。
【請求項8】
車両の天井部および床部の車幅方向両側にそれぞれ車両前後方向に延在するフレーム部材と、
上下方向に対向するフレーム部材を上下方向に連結する左右のピラー部材と、
左右方向に対向するフレーム部材をピラー部材の連結部分で車幅方向に連結する上下のクロス部材と、を備えた車両骨格構造において、
ピラー部材またはクロス部材の一方に発生する曲げモーメントを引張り力に変換して他方に伝達することを特徴とする車体の補強方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2006−312403(P2006−312403A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−136184(P2005−136184)
【出願日】平成17年5月9日(2005.5.9)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】