説明

車体側部構造

【課題】サイドシルとセンターピラースチフナーの結合強度が高まり、溶接長を短くした車体側部構造を提供する。
【解決手段】車体側部構造11は、車室21の床の左右端に設け車両12前後方向へ延ばしたアルミニウム製のサイドシル15に軽金属製押出し材のセンターピラースチフナー31を結合機構34で結合し、結合機構34は、センターピラースチフナー31を結合しているすみ肉溶接部35と、サイドシル15とセンターピラースチフナー31を貫通させた複数のボルト36と、ボルト36をねじ込むそれぞれのナットを有するナットプレート38と、ナットプレート38をサイドシル15に固定しているリベットと、を備えている。センターピラースチフナー31は第1ビード44、第2ビード45を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の床の左右に設けられているサイドシルにセンタピラーをそれぞれ溶接によって結合している車体側部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車体側部構造には、車体の床をなすアンダボデーに左右の側壁をなすサイドボデーをそれぞれ取付け、サイドボデー間にルーフを設ける場合に、サイドボデーのセンタピラーの下部(サイドシル取付部)をアンダボデーのサイドシルに沿って車両前後に延ばして幅を広くすることで、スポット溶接の溶接強度を含め強度を高めているものがある(例えば、特許文献1(図4)参照)。
【0003】
しかし、従来技術(特許文献1)は、センタピラー(センターピラースチフナー)のサイドシル取付部の幅が広くなるという問題がある。
車体では、サイドシルに軽金属製の押出し材を採用し、センターピラースチフナーにアルミニウム合金製を採用した場合、結合強度を損なうことなく、スポット溶接のために重ね合わせるフランジを無くし、溶接部を少なくすることが課題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3972382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、サイドシルとセンターピラースチフナーの結合強度が高まり、溶接長を短くし、ナットプレートを位置決めする治具が必要なく、液体の排水性を向上させ、塑性加工の際のしわを防止し、溶接範囲を明確にし、リベットの頭との干渉を防止した車体側部構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、請求項1に係る発明は、車室の床の左右端に設け車両前後方向へ延ばしたサイドシルに車室の側壁をなすサイドボデーの中央に立設したセンタピラーを結合機構で結合している車体側部構造において、センタピラーは、軽金属を押し出した押出し材を用いたセンターピラースチフナーを有し、サイドシルは、アルミニウム製であり、結合機構は、サイドシルにセンターピラースチフナーを結合しているすみ肉溶接部と、サイドシルとセンターピラースチフナーを貫通させた複数のボルトと、ボルトをねじ込むそれぞれのナットを有するナットプレートと、ナットプレートをサイドシルに固定しているリベットと、を備えていることを特徴とする。
【0007】
請求項2に係る発明では、センターピラースチフナーは、ボルトとボルトの間にサイドシルから離れる方向へ膨出させたビードを有し、ビード内にリベットを配置していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る発明では、センタピラーは、軽金属を押し出した押出し材を用いたセンターピラースチフナーを有し、サイドシルは、アルミニウム製であり、結合機構は、サイドシルにセンターピラースチフナーを結合しているすみ肉溶接部と、サイドシルとセンターピラースチフナーを貫通させた複数のボルトと、ボルトをねじ込むそれぞれのナットを有するナットプレートと、ナットプレートをサイドシルに固定しているリベットと、を備えているので、ナットプレートによりボルト・ナットの締結部の強度が向上し、サイドシルとセンターピラースチフナーの結合強度が高まる。従って、すみ肉溶接部の溶接長を短くすることができる。
【0009】
また、サイドシル及びナットプレートにリベットを通すと、リベットはサイドシルに対し、ナットプレートの位置決めを行う。このようにリベットはナットプレートの位置決め部材を兼ねることができ、ナットプレートを位置決めする治具が必要ないという利点がある。
【0010】
請求項2に係る発明では、センターピラースチフナーは、ボルトとボルトの間にサイドシルから離れる方向へ膨出させたビードを有し、ビード内にリベットを配置しているので、ビードによって結合機構の強度をより高めることができる。
【0011】
また、サイドシルとセンターピラースチフナーを結合した状態で防錆処理したときに、サイドシルとセンターピラースチフナーの間に流入する防錆液などの液体をサイドシルから離れたビードによって、排水することができ、排水性を向上させることができる。
【0012】
さらに、センターピラースチフナーを絞り成形する際に、サイドシルにビードを除いて面接触しているセンターピラースチフナーの締結押圧部には、ビードによる吸収によって、しわが発生し難く、しわを防止することができる。
【0013】
その上、ビードによって、センターピラースチフナーの締結押圧部のしわを防止することで、ボルトの軸力のばらつきを小さくすることができる。
【0014】
ビードを形成することで、溶接できない部位(開先部のない部位)が形成され、結果的に溶接範囲を明確にすることができる。加えて、すみ肉溶接を行っているとき、遮光ガラスを通してもビードであれば見分けが容易になり、結果的に、溶接範囲は明確になるという利点がある。
【0015】
ビード内、詳しくはビードで形成されている空間にリベットを配置すると、サイドシルから出るビードの頭とサイドシルに密着させているセンターピラースチフナーの締結押圧部とが干渉しないという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例に係る車体側部構造の側面図である。
【図2】本発明の実施例に係る車体側部構造を採用した車両の側面図である。
【図3】図1の3−3線断面図である。
【図4】本発明の実施例に係る車体側部構造の分解図である。
【図5】実施例に係る車体側部構造の液体を排水する機構を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、実施例で詳細に説明する。
【実施例】
【0018】
実施例に係る車体側部構造11は、図1、図2に示すように、車両12の乗降口13の下部に採用され、車両12の床に設けられた左のサイドシル15に左のセンタピラー16を接合し、床の右に設けられたサイドシル(サイドシル15と同様)に右のセンタピラー(センタピラー16と同様)を接合している。以降で具体的に説明していく。
【0019】
車両12は、車室21と、車室21の側壁をなすサイドボデー22と、床をなすアンダボデー23と、アンダボデー23のサイドシル15と、ルーフ24と、ドア26で開閉されるサイドボデー22の乗降口13と、を備える。
サイドボデー22は、センタピラー16と、フロントピラー27と、アウタパネル28と、を有し、センタピラー16は、センターピラースチフナー31を有する。
【0020】
次に、車体側部構造11を主体に図1〜図4で説明する。
車体側部構造11は、前述した車室21の床の左右端に設け車両12前後方向(X軸方向)へ延ばしたサイドシル15に車室21の側壁をなすサイドボデー22の中央に立設したセンタピラー16を結合機構34で結合し、センタピラー16は、軽金属を押し出した押出し材を用いたセンターピラースチフナー31を有し、サイドシル15は、アルミニウム製である。
【0021】
結合機構34は、サイドシル15にセンターピラースチフナー31を結合しているすみ肉溶接部35と、サイドシル15とセンターピラースチフナー31を貫通させた複数のボルト36と、ボルト36をねじ込むそれぞれのナット37を有するナットプレート38と、ナットプレート38をサイドシル15に固定しているリベット41と、を備えている。
「アルミニウム製」とは、アルミニウム合金を含む。
【0022】
ナットプレート38は、板状のプレート本体43にナット37が溶接を用いて取付けられている。
センターピラースチフナー31は、ボルト36とボルト36の間にサイドシル15から離れる方向(矢印a1の方向)へ膨出させたビード(第1ビード44、第2ビード45)を有し、ビード(第1ビード44、第2ビード45)内にリベット41を配置している。
【0023】
ビード(第1ビード44、第2ビード45)は、断面形状(図3の視点)を略コ字形に形成している。詳しくは、対向する2つの辺47、48を傾斜させている。
【0024】
サイドシル15は、アルミニウム合金製の押出し材で、図4のように閉断面に形成され、車室21へ向いている内辺部51と、内辺部51に連なる上辺部52、下辺部53と、外辺部54と、を備え、外辺部543は、下辺部53に連ねて直交する外辺下部55が略垂直に形成され、外辺下部55から上辺部52まで外辺上傾斜部56が形成されている。
【0025】
サイドシル15の幅は、車幅方向(Y軸方向)にWsとして設定されているため小さいという利点がある。例えば、従来見られたサイドシル(図に示していない)から図4のように車両12の外方(矢印a2の方向)へ二点鎖線で示すように下端フランジwfを延ばすことでスポット溶接のための溶接代を設けていたサイドシルの幅に比べ、幅が小さいものである。
【0026】
外辺下部55は、ボルト36を通す第1孔61、第2孔62、第3孔63が所望のピッチだけ離して開けられ、第1孔61と第2孔62の間に第1リベット孔65が開けられ、第2孔62と第3孔63の間に第2リベット孔66が開けられている。
【0027】
センターピラースチフナー31は、断面コ字形に形成されている本体68に連ねて下接合部71を形成し、下接合部71は、サイドシル15の外辺上傾斜部56に接合している断面コ字形の下端接合部72と、下端接合部72に連なる板状の最下端接合部73と、からなる。
下接合部71の幅は、車両前後方向(X軸方向)にWとして設定され、本体68の幅とほぼ同様である。
センターピラースチフナー31の材質は、アルミニウム合金である。
【0028】
下端接合部72には、サイドシル15の外辺上傾斜部56に溶接を用いて結合している第1縁開先75が形成されている。
最下端接合部73は、サイドシル15の外辺下部55に接触する締結押圧部76が形成され、締結押圧部76の縁が第2縁開先77をなし、締結押圧部76にボルト36を通す第4孔81、第5孔82、第6孔83が所望のピッチだけ離して開けられ、第4孔81と第5孔82の間の締結押圧部76に第1ビード44が形成され、第5孔82と第6孔83の間の締結押圧部76に第2ビード45が形成されている。
【0029】
次に、本発明の実施例に係る車体側部構造11の組立要領を図4で簡単に説明し、加えて、実施例に係る車体側部構造11の製造が容易となる機構など効果を説明する。なお、車両12の左側を説明するが、車両12の右側も同様である。
【0030】
まず、ナットプレート38を造る。平板のプレート本体43にリベット41用の孔85、ボルト36を通すナット孔86をそれぞれ開ける。その次に、ナット孔86に同心にナット37(一例としてフローテイングナット)を溶接を用いて固定する。
【0031】
一方で、センターピラースチフナー31を塑性加工する。下接合部71を成形するときに、同時に第1ビード44及び第2ビード45を塑性加工する。そして、第4孔81、第5孔82、第6孔83を開ける。
【0032】
ここで、第1ビード44及び第2ビード45を成形し、加えて第1ビード44及び第2ビード45を断面略コ字形、詳しくは、対向する2つの辺47、48を傾斜させていることで、絞り成形のときに発生するしわを防止することができる。
また、第1ビード44及び第2ビード45を成形し、加えて第1ビード44及び第2ビード45を断面略コ字形、詳しくは、ほぼ対向する2つの辺47、48を傾斜させていることで、センターピラースチフナー31に設けた板状の最下端接合部73のたわみを抑制することができ、結果的に、ボルト36の軸力のばらつきを小さくすることができる。
【0033】
その次に、サイドシル15にナットプレート38をリベット41で固定する。具体的には、サイドシル15の閉断面の内部にナットプレート38を矢印a3のように入れ、外側から第1リベット孔65、第2リベット孔66にリベット41を矢印a4のように通し、さらにナットプレート38のリベット41用の孔85に通す。これでサイドシル15に対し、ナットプレート38が自動的に位置決めされる。続けて、リベット41を止める。
【0034】
このように、サイドシル15の外側からリベット41を嵌めるだけでナットプレート38を結合でき、製造が容易である。
また、リベット41は、サイドシル15に対するナットプレート38の位置決めを兼ねることができ、ナットプレート38の搬入・取付けに用いる結合治具が必要ないという利点がある。
【0035】
その次に、サイドシル15にセンターピラースチフナー31を締結する。具体的には、サイドシル15の外辺下部55にセンターピラースチフナー31の最下端接合部73を重ねて、センターピラースチフナー31の第4孔81、第5孔82、第6孔83にボルト36を通して、サイドシル15内のナット37(フローテイングナット)に所望の締結力(軸力)でねじ込む。センターピラースチフナー31の第4孔81、第5孔82、第6孔83にボルト36を通しサイドシル15を貫通させると、サイドシル15に対し、センターピラースチフナー31の位置が自動的に定まる。
【0036】
このように、センターピラースチフナー31の第4孔81、第5孔82、第6孔83及び、サイドシル15の第1孔61、第2孔62、第3孔63、ナット37(フローテイングナット)は、センターピラースチフナー31とサイドシル15を結合する際の位置決め用の孔を兼ねることができる。
【0037】
また、センターピラースチフナー31は、第1ビード44及び第2ビード45を形成することで、リベット41の頭88との干渉を防止することができる。
【0038】
さらに、サイドシル15にセンターピラースチフナー31をボルト36で締結することで、センターピラースチフナー31の幅W(X軸方向)を小さくしたことによるスポット溶接の溶接点数の不足を補うことができるため、従来構造に比べ、溶接量を少なくすることができ、センターピラースチフナー31の小型化、軽量化に貢献するという利点がある。
【0039】
その次に、サイドシル15にセンターピラースチフナー31を、すみ肉溶接を施すことで結合する。第1縁開先75にすみ肉溶接部35の溶接ビード91を形成し、第2縁開先77にすみ肉溶接部35の溶接ビード92を形成する。
【0040】
第1ビード44及び第2ビード45を成形することで、溶接作業者は、第2縁開先77の無いことが認識でき、溶接前や溶接過程において、すみ肉溶接の位置や範囲を明確にすることができる。
【0041】
ナットプレート38によりボルト36・ナット37の締結部の強度が向上するので、溶接量(長さ、厚さ)を少なくすることができ、その結果、溶接による入熱を抑えて溶接変形を抑制することができる。
【0042】
次に、本発明の実施例に係る車体側部構造11の液体を排水する機構を図5で説明する。図5(b)は図5(a)のb−b線断面図である。
最後に、サイドシル15及びセンターピラースチフナー31に防錆処理を施す。サイドシル15とセンターピラースチフナー31とからなる組合せ部材の全体を防錆液Eに浸け、防錆層を形成後、組合せ部材を引き上げる。その際、図5(b)のように、サイドシル15の外辺上傾斜部56とセンターピラースチフナー31との間に防錆液Eが残ると、防錆液Eは第1ビード44及び第2ビード45から矢印a5のように流出する。
【0043】
このように、車体側部構造11では、第1ビード44及び第2ビード45を形成することで、防錆液Eの排水性を向上させることができる。つまり、防錆処理作業が容易になる。
【0044】
車体側部構造11では、車両12の側面に他車によって、例えば側面衝突で荷重が入力されると、第1ビード44及び第2ビード45の断面略コ字形によって荷重を分散するので、センターピラースチフナー31の下接合部71の強度を高めることができる。
【0045】
尚、本発明の車体側部構造11は、実施の形態ではセンタピラー16に採用されているが、フロントピラー27にも採用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の車体側部構造11は、センタピラー16に好適である。
【符号の説明】
【0047】
11…車体側部構造、15…サイドシル、16…センタピラー、21…車室、22…サイドボデー、31…センターピラースチフナー、34…結合機構、35…すみ肉溶接部、36…ボルト、37…ナット、38…ナットプレート、41…リベット、44…第1ビード、45…第2ビード。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室の床の左右端に設け車両前後方向へ延ばしたサイドシルに車室の側壁をなすサイドボデーの中央に立設したセンタピラーを結合機構で結合している車体側部構造において、 前記センタピラーは、軽金属を押し出した押出し材を用いたセンターピラースチフナーを有し、
前記サイドシルは、アルミニウム製であり、
前記結合機構は、サイドシルに前記センターピラースチフナーを結合しているすみ肉溶接部と、前記サイドシルと前記センターピラースチフナーを貫通させた複数のボルトと、該ボルトをねじ込むそれぞれのナットを有するナットプレートと、該ナットプレートを前記サイドシルに固定しているリベットと、を備えていることを特徴とする車体側部構造。
【請求項2】
前記センターピラースチフナーは、前記ボルトと前記ボルトの間に前記サイドシルから離れる方向へ膨出させたビードを有し、該ビード内に前記リベットを配置していることを特徴とする請求項1記載の車体側部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−228699(P2010−228699A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81130(P2009−81130)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】