説明

車体前部構造

【課題】衝突時に歩行者およびラジエータを保護し、重度の衝突時に、サイドメンバにクラッシュストロークを確保できる車体前部構造を提供すること。
【解決手段】車体1の前部には、車両Cの前後方向に沿って設けられるサイドメンバ11,11と、サイドメンバ11,11の前端部の内側にそれぞれ設けられたラジエータサポートサイド13,13と、ラジエータサポートサイド13,13の左右下端部を結合したラジエータサポートロア14と、車両Cの衝突を予知する衝突予知装置2と、を備えている。さらに、ラジエータサポートサイド13,13の外側にそれぞれ配置されたアーム3,3と、衝突予知装置2からの衝突予知信号に基づいて駆動してアーム3を前方向に可動させる駆動機構4と、アーム3,3に設けられたエネルギー吸収部材5と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に歩行者等の障害物が衝突することを衝突予知手段で検出して、車両や障害物が受ける衝撃を緩和するための車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歩行者等の障害物への衝突が検出または予想されたときに、バンパの下側後方からバンパより前方かつ下方に向けてアームを瞬時に作動させて、歩行者をボンネット上に倒させてボンネットの弾性によって衝撃を緩和する車体前部構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
その車体前部構造は、左右一対のサイドメンバ(フレーム)の前端の下面に、衝突予知センサおよび衝突検知センサからの衝突予知信号によって作動するピストン機構(駆動機構)を設置して、このピストン機構によりアームを突出可動させる構造になっている。
【0004】
この場合、サイドメンバの前端の下面内側には、アームを作動させるためのピストン機構やロック機構が設置されている。アームは、回転軸を中心としてバンパの下端部からバンパの前方下側まで回動して歩行者の下肢部に当接するように配置されている。
【特許文献1】特開2000−255350号公報(図1および図6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1に記載されたような車体前部構造では、サイドメンバの前端の内側にロック機構を配置しているので、そのロック機構がラジエータサポートサイドのフレームと干渉したり、ラジエータに当たる風を遮ったりするという問題点があった。
【0006】
また、従来の車体前部構造は、サイドメンバの下側や横側に、衝突時に歩行者をボンネットに跳ね上げる装置が取り付けられているので、サイドメンバの前端が衝突時に潰れないデッドスペースができ、クラッシュストロークが抑制されるという問題点があった。
【0007】
そこで、本発明は、前記問題点を解消すべく発明されたものであり、衝突時に歩行者およびラジエータを保護し、重度の衝突時に、サイドメンバにクラッシュストロークを確保できる車体前部構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の車体前部構造は、車両の前後方向に沿って設けられる左右一対のサイドメンバと、この左右一対のサイドメンバの前端部の内側にそれぞれ設けられた左右一対のラジエータサポートサイドと、この左右一対のラジエータサポートサイドの左右下端部を結合したラジエータサポートロアと、前記車両の衝突を予知する衝突予知手段と、を備えた車体前部構造であって、前記左右一対のラジエータサポートサイドの外側にそれぞれ配置されたアームと、前記衝突予知手段からの衝突予知信号に基づいて駆動して前記アームを前方向に可動させる駆動機構と、前記アームに設けられたエネルギー吸収部材と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、車体前部構造は、例えば、車両が走行中に衝突予知手段によって歩行者等の障害物と衝突することを予知すると、駆動機構が、衝突予知手段からの衝突予知信号に基づいて瞬時に駆動して、アームを車両の前方向に可動させる。
このため、アームに設けられたエネルギー吸収部材は、駆動機構によるアームの可動で車両が障害物に衝突する寸前に、車両の前方側に移動する。歩行者は、車両に衝突すると、下肢部がエネルギー吸収部材に衝突して、体が掬い上げられてボンネット上に倒れ、そのボンネットの弾性によって保護される。
このときの衝突が軽衝突の場合には、ラジエータの前方にエネルギー吸収部材が配置されて、歩行者等の障害物がボンネット上に体が掬い上げられるので、ラジエータが衝撃で変形することを防止できる。
また、車体前部構造は、サイドメンバの内側に、ラジエータサポートサイドやラジエータサポートロア等が設置されているので、それらの部材によって衝突時にサイドメンバの前端が押し潰されてクラッシュストロークを確保できる。
この場合、ラジエータの前側には、ラジエータグリル等から車両内に入って来た風を遮る部材が設置されていないため、その風がラジエータに良好に当たるようになり冷却効果が向上される。
【0010】
請求項2に記載の車体前部構造は、請求項1に記載の車体前部構造であって、前記左右一対のラジエータサポートサイドは、左右外側に膨らんだ状態に形成した折曲部を有し、前記駆動機構は、前記左右一対のラジエータサポートサイド内に設置されるラジエータと前記折曲部との間にそれぞれ設置され、前記アームは、左右一対に形成されて、左右上端部にそれぞれ前記駆動機構が設けて可動されると共に、左右下端部に前記エネルギー吸収部材が設けられて正面視して略コ字状に形成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、ラジエータサポートサイドに配置した駆動機構は、ラジエータの左右側面に対向して配置されるので、ラジエータグリル等からラジエータ側に流れる風を遮ることがないように設置できる。
また、駆動機構は、ラジエータサポートサイドに形成された折曲部の内側に配置される。このため、駆動機構とラジエータとは、ラジエータサポートサイドの内側に配置されるので、衝突時にラジエータサポートサイドによって保護されるように組み付けることができる。
アームとエネルギー吸収部材とは、正面視して略コ字状に形成されていることにより、平常時に、ラジエータサポートロアの下面近傍に配置され、ラジエータの近傍に配置することが可能となる。このため、ラジエータサポートロアは、エネルギー吸収部材によってカバーされているので、車両走行中に、路面の物体がラジエータサポートサイドに当接することを低減できる。
【0012】
請求項3に記載の車体前部構造は、請求項2に記載の車体前部構造であって、前記駆動機構は、前記アームを回動させるアクチュエータを備え、前記アームの下端部は、平常時に、前記ラジエータサポートロアの下側に配置され、前記衝突予知手段が前記車両の衝突を予知したときに、前記駆動機構によって回動して前記下端部が前記車両の前端部側に移動することを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、アームの下端部は、平常時に、ラジエータサポートロアの下側に配置され、衝突予知手段が車両の衝突を予知したときに、駆動機構によって回動して車両の前端部側に回動する。このため、アームは、平常時にラジエータの下側に配置されるラジエータサポートロアの下側に配置されるので、車両の前側等から視認できないため、車両の外観性を損なうことがない。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る車体前部構造によれば、衝突時に歩行者およびラジエータを保護したり、重度の衝突時にサイドメンバの前端部が潰されてクラッシュストロークにより衝突エネルギーを吸収したりできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1〜図4を参照して、本発明の実施形態に係る車体前部構造を説明する。図1は、本発明の実施形態に係る車体前部構造を示す概略断面図である。
なお、本発明の実施形態では、「前」は車両のフロント側、「後」は車両のリア側、「上」は鉛直上方側、「下」は鉛直下方側、「左右」は車幅方向側とする。
【0016】
≪車両の構成≫
まず、本発明の実施形態に係る車体前部構造を説明する前に、本発明が採用される車両Cについて説明する。
図1に示すように、車両Cは、例えば、ボンネットBを有する乗用車等であり、特に、車両Cの種類や形状等は限定されない。すなわち、車両Cは、乗用車や作業車等であってもよく、以下、ボンネットBを有する乗用車を例に挙げて説明する。
車両Cには、車両Cが障害物に衝突することを予知する衝突予知装置2が搭載されている。
【0017】
≪車体の構成≫
図1に示すように、車体1は、車両Cの全体を形成するためのものであって、例えば、サイドメンバ11等の種々の金属製車体フレームと、ボンネットB等の金属製車体パネルと、樹脂製または金属製からなるバンパ12等を備えている。車体前部には、例えば、車両Cの前後方向に沿って設けられる左右一対のサイドメンバ11,11と、この左右一対のサイドメンバ11,11の前端部の内側にそれぞれ設けられた左右一対のラジエータサポートサイド13,13と、この左右一対のラジエータサポートサイド13,13の左右下端部を結合されたラジエータサポートロア14と、ラジエータサポートサイド13,13の上端部に連結されたアッパメンバ17と、サイドメンバ11,11の前端面に設置された衝撃を吸収する緩衝部15と、この緩衝部15の前端に設置されて左右のサイドメンバ11,11に架設されたバンパビーム16と、このバンパビーム16に前側に設置されたバンパ12と、空気を車体1内に取り込んでラジエータ8に空気を当てるための導風板18と、を備えている。
【0018】
<サイドメンバの構成>
図1に示すように、左右一対のサイドメンバ11,11は、車体1の骨格の一部を形成する部材であり、例えば、断面ロ字状のスチール製角パイプ材等から形成されている。サイドメンバ11,11の前端部の内面には、金属製厚板部材で形成されたラジエータサポートサイド13がそれぞれ溶接手段等によって固定されている。
【0019】
<バンパの構成>
図1に示すバンパ12は、衝突時の衝撃を緩和する衝撃緩和材であり、車体1の最前端部および最後端部に左右方向に向けて延設されている。バンパ12は、弾性を有する合成樹脂、あるいは弾性を有し比較的薄肉の金属等によって形成されている。バンパ12のバンパ上部12cの内部には、バンパビーム16が設置され、バンパ12はこのバンパビーム16に取り付けられている。バンパ12のバンパ下部12aの内部には、衝突予知したときに車体1の前端に移動するエネルギー吸収部材5が設けられている。そのバンパ下部12aの上部には、ラジエータ8に当てる空気の取り入れ口となるラジエータアンダグリル12bが形成されている。バンパ12の中央部および左右端部の前端面等には、衝突を予知する衝突予知装置2としての障害物検出センサ21が設置されている。
なお、バンパ12とバンパビーム16との間には、発砲材等からなるエネルギーアブソーバ(図示せず)を介在させてさらに緩衝性を高めてもよい。
【0020】
前記バンパ下部12aは、歩行者の下肢部が当接する高さに設置され、歩行者が衝突した際に、衝突時の衝撃で変形して衝撃を吸収するように形成されている。このバンパ下部12aは、アーム3の下端部前面やエネルギー吸収部材5の前面部に空間を介して覆うようにバンパ12の下端部に形成されて、カバー部材としての機能も備えている。
図2は、本発明の実施形態に係る車体前部構造を示す概略分解斜視図である。
【0021】
<ラジエータサポートサイドの構成>
図2に示すように、左右一対のラジエータサポートサイド13,13は、ラジエータサポートサイド13,13間の下端部に設けられたラジエータサポートロア14と、ラジエータサポートサイド13,13間の上端部に設けられたアッパメンバ17とによってラジエータ8(図1参照)およびアクチュエータ41の外側を支持する略矩形の枠体10を形成している。ラジエータサポートサイド13,13は、その枠体10の左右の側面部を形成するための部材であり、例えば、金属製厚板部材によって形成されている。ラジエータサポートサイド13,13は、略中央部に形成された段差部13a,13aと、この段差部13a,13aに上側に連設されてラジエータ8(図1参照)の側面上半分を保持するラジエータ支持部13bと、駆動機構4を支持する折曲部13c,13cと、を一体形成している。このラジエータサポートサイド13,13の後端面には、アーム3,3が後方に回動するのを抑制するストッパ7,7がそれぞれ設置されている。
【0022】
段差部13a,13aは、ラジエータサポートサイド13,13間の間隔を広げるために形成された部分であり、ラジエータ支持部13b,13bの下端部を正面視してL字状に折曲形成されている。
ラジエータ支持部13b,13bは、ラジエータ8(図1参照)の左右側面に直接対向配置される部分であり、このラジエータ支持部13b,13b間は、ラジエータ8を介在させて支持できる間隔に配置されている。
【0023】
折曲部13c,13cは、ラジエータサポートサイド13,13を外側に膨らんだ状態に正面視してL字状に折曲形成されて、この折曲部13c,13cとラジエータ8との間に駆動機構4を設置可能に形成されている。折曲部13c,13cには、駆動機構4,4の駆動軸42,42が挿通されたカラー43,43が装着される貫通孔13dと、アクチュエータ41,41をラジエータサポートサイド13,13に取り付けるためのボルトB1,B1,B2,B2が挿通される設置孔13e,13eと、が穿設されている。
【0024】
<ラジエータサポートロアの構成>
図2に示すように、ラジエータサポートロア14は、その左右の折曲部13c,13cの下端部に溶接手段等によって固定される金属製板材であり、中央部を前側にして側面視して略U字状または略V字状に折曲形成されている。ラジエータサポートロア14には、このラジエータサポートロア14にラジエータ8を固定するための締結部材(図示せず)が挿入される固定孔14aが穿設されている。
【0025】
<アッパメンバの構成>
アッパメンバ17は、車体1のエンジンルームの上部前面部および上部左右端部を形成する骨格部材であり、例えば、平面視してエンジンルームを囲むように略U字形状に配置される金属製厚板部材によって形成されている。このアッパメンバ17は、前端部(中央部)が、ラジエータ8を支持する枠体10の上側部分を構成している。
【0026】
≪アームの構成≫
図2に示すように、アーム3,3は、左右一対のラジエータサポートサイド13,13の外側にそれぞれ配置されて、衝突予知装置2(図1参照)で衝突を予知したときに駆動する駆動機構4によって駆動軸42を中心として回動し、下端部に設けたエネルギー吸収部材5を車体1の前側に移動(可動)させるための部材である。アーム3,3は、左右両下端部にエネルギー吸収部材5を固定されて正面視して略コ字状の可動フレーム6を形成している。アーム3,3には、基端部(上端部)に、このアーム3,3を回動させる駆動機構4がそれぞれ設けられている。
このアーム3,3には、上端部に形成されて駆動軸42が連結される回転駆動軸受部3aと、中央部に形成されてナットN2,N2が隙間を介して内側に配置される切欠部3b,3bと、が形成されている。
【0027】
図3は、本発明の実施形態に係る車体前部構造を示す図であり、平常時における駆動機構の設置状態を示す要部拡大図である。図4は、本発明の実施形態に係る車体前部構造を示す図であり、平常時におけるエネルギー吸収部材およびアームの状態を示す要部拡大図である。
【0028】
アーム3,3は、平常時に駆動機構4がOFFの状態になっているので、図3および図4に示すように、下端部がラジエータサポートロア14の下側に配置されている。そして、アーム3,3は、衝突予知装置2が車両Cの衝突を予知したときに、衝突予知装置2の予知信号に基づいて駆動機構4が駆動することによって、図1に仮想線で示すように、駆動軸42(図2参照)を中心として前側に回動して下端部が車両Cの前端部側に移動するようになっている。アーム3,3は、枠体10のラジエータサポートサイド13,13の側面部に配置されて、全体の長さが比較的短くて、重量が軽く、さらに、左右のアクチュエータ41,41によって回動するため、瞬時に作動できるようになっている。
【0029】
≪エネルギー吸収部材の構成≫
図3に示すように、エネルギー吸収部材5は、衝突時の衝撃を吸収するための部材であり、車幅方向に向けて配置して、アーム3,3の下端部に架設されている。このエネルギー吸収部材5は、特に、車両Cが歩行者と衝突したときに、歩行者の下肢部を保護するように設置されて、弾性を有する部材によって形成されている。エネルギー吸収部材5は、後端側の両端部がアーム3,3に固定されると共に、前端側が衝撃力を受け止めるように側面視してL字状に折曲して形成されている。
【0030】
≪可動フレームの構成≫
図2に示すように、可動フレーム6は、左右のアーム3と、この左右のアーム3の下端部に固定されたエネルギー吸収部材5とを含めた略コ字状の部材をいう。なお、可動フレーム6は、左右のアーム3と、エネルギー吸収部材5との3つの部材からなるものを1つの部材で形成したものであっても構わない。
【0031】
≪駆動機構の構成≫
図2に示すように、駆動機構4は、衝突予知装置2からの衝突予知信号に基づいて駆動してアーム3を前方向に回動(可動)させて、エネルギー吸収部材5をさらに車体1の前側に移動させるための装置である。この駆動機構4は、左右一対のラジエータサポートサイド13の内側に設置されるラジエータ8(図1参照)と折曲部13cとの間にそれぞれ設置される。この駆動機構4は、例えば、アーム3,3を回動させるアクチュエータ(モータ)41,41と、アクチュエータ41のハウジング44と、アクチュエータ41,41によって回転する駆動軸42,42と、駆動軸42,42を軸支するカラー43,43と、駆動軸42,42の前端に設置されたカラーナット45,45と、を備えて構成されている。
【0032】
<アクチュエータの構成>
アクチュエータ41,41は、衝突予知装置2(図1参照)によって車両Cが障害物に衝突することを予知したときに、衝突予知装置2の制御装置23からの駆動信号によって駆動する装置であり、例えば、モータからなる。アクチュエータ41,41は、平常時にOFF状態となっており、アーム3,3を垂直な状態に維持している。そして、アクチュエータ41,41は、衝突予知時にONして、駆動軸42を回転させて、アーム3,3およびエネルギー吸収部材5を駆動軸42を中心として前側に回動させるようになっている。アクチュエータ41,41は、図1に示すように、制御装置23を介して障害物検出センサ21および電源(図示せず)に電気的に接続されている。
【0033】
図2に示すように、ハウジング44,44は、アクチュエータ41,41をそれぞれ覆う部材であり、アクチュエータ41,41をラジエータサポートサイド13,13の折曲部13c,13cの内面に取り付けるためのボルトB1,B2を挿通するための孔を穿設したフランジ部44a,44aを有する。
【0034】
駆動軸42,42は、アクチュエータ41,41によって回転するモータ軸であり、アーム3に回転駆動軸受部3a,3aに噛合するスプライン軸部42aと、カラーナット45が噛合する雄ねじ部42bと、を一体形成している。
【0035】
カラー43,43は、ラジエータサポートサイド13の貫通孔13d,13dに装着されて、駆動軸42を回動自在に軸支する軸受部材であり、円筒形状の金属によって形成されている。
カラーナット45,45は、駆動軸42,42の先端の雄ねじ部42b,42bに螺合して覆う袋ナットである。
【0036】
≪衝突予知装置(衝突予知手段)の構成≫
図1に示すように、衝突予知装置2は、歩行者等の障害物を検出して、車両Cがその障害部に衝突することを予測する検出装置である。さらに詳述すると、衝突予知装置2は、例えば、車両Cの前方にある障害物を障害物検出センサ21によって検出し、その障害物検出センサ21からの検出信号と車速センサ22からの速度信号とから制御装置23で障害物との衝突を演算して予知する装置である。
この衝突予知装置2は、例えば、車両Cから前方の障害物までの距離を検出する障害物検出センサ21と、車両Cの車速を検出する車速センサ22と、障害物検出センサ21で検出した障害物までの距離信号と車速センサ22で検出した車両Cの車速信号とから車両Cが衝突の可能性を算出して衝突を予想(予知)されたときにアクチュエータ41を作動させるための制御装置23と、を備えて構成されている。
なお、この衝突予知装置2は、車両Cの衝突を予知した後に、車両Cの衝突が回避された場合や、衝突後には、アクチュエータ41に衝突回避信号(OFF信号)を送って自動復帰用のばね部材(図示せず)のばね力で反転させて、平常時の状態に復帰されるようになっている。
【0037】
<障害物検出センサの構成>
障害物検出センサ21は、車両Cの前方にある障害物を検出して、車両Cから障害物までの距離等を測定するための測定器であり、例えば、レーダや超音波センサ等からなる。この障害物検出センサ21は、バンパ12に適宜な間隔で複数植設された各センサ部から発信した電波や超音波やビーム等が障害物に当たって反射して戻って来たときの時間を計測するためのセンサであり、例えば、発信器と受信器とを一体化したものからなる。各障害物検出センサ21のセンサケースは、バンパ12に穿設された設置孔に装着され、前端面がバンパ12の前端面に略面一になるように設置されている。各障害物検出センサ21は、例えば、このセンサを駆動するセンサ駆動回路と、このセンサで受信した受信信号に検波処理を行う受信波処理回路とを備え、制御装置23および電源(図示せず)にそれぞれ電気的に接続されている。
【0038】
<車速センサの構成>
車速センサ22は、車両Cの走行速度を検出するセンサであり、例えば、車輪に設置された車輪速度センサからなる
【0039】
<制御装置の構成>
制御装置23は、障害物検出センサ21と、車速センサ22とで検出した検出データから車両Cの衝突の予測を算出して、車両Cが障害物に衝突することを予知したときに(例えば、車両Cと障害物との衝突が避けられない状況になったとき)、アクチュエータ41に衝突予知信号を送ってこのアクチュエータ41を駆動させ、アーム3およびエネルギー吸収部材5を作動させる装置である。
【0040】
この制御装置23には、例えば、障害物検出センサ21の検出データ等から衝突の可能性を算出する演算回路と、障害物検出センサ21から電波を送信するための送信波処理回路と、障害物検出センサ21から出力された受信波を増幅する受信波増幅回路と、障害物からの反射波を処理する信号処理回路と、種々のデータを記録した記録回路と、車両Cに障害物が接近して衝突するかを判定する衝突判定回路と、障害物検出センサ21を駆動するための電源回路と、衝突の予測信号を発してから所定時間後に衝突回避信号(OFF信号)をアクチュエータ41を元の状態に自動復帰させる時間を計測するためのタイマ回路と、が備えられている。
【0041】
なお、制御装置23は、例えば、障害物検出センサ21の発信器から発信されて前方の障害物に当たって反射して戻って来た電波等の時間を計測して、その時間から障害物までの距離等を算出するようになっている。この制御装置23は、例えば、バンパ12に並設された各障害物検出センサ21で受信した電波等の時間および時間差の検出データから衝突方向、衝突の方位角度等を算出すると共に、算出した障害物までの距離のデータと、車速センサ22の検出データとから衝突速度を算出して、車両Cが障害物に衝突するかを予知するようになっている。
【0042】
≪車体前部構造の作用≫
次に、図1〜図4を参照して本発明の実施形態に係る車体前部構造の作用を、障害物を歩行者として説明する。
【0043】
<衝突予知装置で衝突を予知する前の平常時の状態>
図3および図4に示すように、駆動機構4のアクチュエータ41は、平常時に、OFF状態になっているため、アクチュエータ41に内設された自動復帰ばね部材(図示せず)のばね力によって付勢されて、アーム3を垂直な平常時の状態に保持している。このため、アーム3の下端部に設置されたエネルギー吸収部材5は、バンパ12の裏面から後方側に離間した通常の状態の位置にある。なお、エネルギー吸収部材5、アーム3および枠体10は、前方側がバンパ12によって覆われているので、車体1の前方から視認することができないため、車体前部の外観性を損ねることがない。
【0044】
また、枠体10は、可動フレーム6が略コ字状に形成されて、平常時に、ラジエータ8の下側にあるラジエータサポートロア14の下面近傍に配置され、さらに、バンパ下部12aに覆われている。このため、車両走行中に、路面の物体が枠体10およびラジエータ8に当接することを低減できる。
【0045】
ラジエータ8は、図4に示すように、側面視して枠体10内に収納された状態にあり、枠体10によって左右側面および上下面が保護されている。この枠体10内において、ラジエータ8の前側には、他の装置や部材が設置されていない。このため、ラジエータアンダグリル12bや導風板18の隙間から車体1内に入り込んだ風は、遮られることなくラジエータ8に当たるようになっている。
【0046】
<衝突予知装置の駆動>
図1に示すように、衝突予知装置2は、例えば、イグニッションスイッチ(図示せず)がONされて、車両Cが走行すると、車速センサ22の速度信号によって作動する。衝突予知装置2の制御装置23は、例えば、障害物検出センサ21の歩行者の検出信号と、車速センサ22からの車速信号とによって衝突の可能性を予知する監視を行う。この場合、制御装置23は、障害物検出センサ21および車速センサ22からの検出データから設定した衝突の予知基準値を基準として車両Cが歩行者に衝突するかを予測する。
【0047】
<衝突予知装置が衝突を予知した場合>
衝突予知装置2が、車両Cが歩行者に衝突をすると予測した場合には、図1に示すように、制御装置23から衝突予知信号が、衝突する寸前にアクチュエータ41,41に出力される。すると、アクチュエータ41,41は、駆動軸42、アーム3、およびエネルギー吸収部材5を、駆動軸42を中心として回動させて、エネルギー吸収部材5をバンパ12のバンパ下部12aの裏面部の近傍まで移動させる。
【0048】
<歩行者と衝突した場合>
歩行者は、車両Cと衝突すると、下肢部が車両Cの前端に設置されたバンパ12のバンパ上部12cとバンパ下部12aとに衝突することにより、体が掬い上げられてボンネットB上に倒れ込む。このため、歩行者は、ボンネットBのクッション性によって保護される。このとき、歩行者は、膝より下方の下肢部がエネルギー吸収部材5を覆ったバンパ下部12aに衝突するので、このバンパ下部12aとエネルギー吸収部材5とによって衝撃が吸収されて下肢部が保護されると共に、体がスムーズにボンネットB上に倒れ込むようになる。
【0049】
<軽度の衝突の場合>
このように障害物が歩行者の場合や、衝突が軽度の衝突の場合には、ラジエータ8の前方にエネルギー吸収部材5が配置されているので、バンパ12をエネルギー吸収部材5で支持して緩衝しながら、歩行者等の障害物をボンネットB上に掬い上げられる。その結果、衝突時にラジエータ8が衝撃で変形することをバンパ12とエネルギー吸収部材5と枠体10とで防止できる。
【0050】
<重度の衝突の場合>
車両Cに衝突する障害物が他の車両等であって、重度の衝突(前面衝突)であった場合も、衝突予知装置2は、車両Cが障害物に衝突をすると予測して、制御装置23からアクチュエータ41,41に駆動信号が出力される。アクチュエータ41,41は、前記同様に、アーム3およびエネルギー吸収部材5を駆動軸42を中心として回動させて、エネルギー吸収部材5をラジエータ8より前方へ移動させる。
その結果、エネルギー吸収部材5は、ラジエータ8に直接負荷される衝撃を抑制して緩和することができる。
【0051】
また、この重度の衝突の場合、バンパ12は、障害物によって後側方向に押圧されて、バンパビーム16を介してサイドメンバ11の前端部を押圧する。サイドメンバ11は、重度の衝突時に障害物によってエンジンルームと共に押し潰されて変形するので、クラッシュストロークにより衝突エネルギーを適宜に吸収することができる。
【0052】
すなわち、車体前部は、サイドメンバ11の内側に、ラジエータサポートサイド13やラジエータサポートロア14等が設置されているので、それらの部材によって衝突時に、サイドメンバ11の前端に衝撃力が加わるように組み付けられている。このため、サイドメンバ11が枠体10によって規制されることなく、スムーズに押し潰される。
この場合、ラジエータ8は、枠体10内に設置されているので、障害物に押圧されたバンパビーム16等によって押し潰されたりすることを枠体10と可動フレーム6とによって抑制できる。その結果、ラジエータ8の修理費用を低減することが可能となる。
【0053】
<衝突が回避された場合および衝突後>
図1に示す衝突予知装置2の衝突を予知してアクチュエータ41が作動して可動フレーム6が前方側に回動した場合であっても、運転者のハンドル操作によって衝突が回避された場合には、所定時間後にアクチュエータ41が制御装置23によってOFFされる。アクチュエータ41は、OFFすると、ばね部材(図示せず)のばね力によって可動フレーム6を元の状態に自動復帰させて、図4に示す垂直な状態に戻る。
また、衝突予知装置2によって衝突が予知されてアクチュエータ41が作動し衝突した場合であっても、アクチュエータ41等が壊れない限り図4の元の状態に戻されるようになっている。
【0054】
[変形例]
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内で種々の改造および変更が可能であり、本発明はこれら改造および変更された発明にも及ぶことは勿論である。
【0055】
前記実施形態では、モータによるアクチュエータ41を説明したが、アクチュエータ41は、モータで駆動されるものに限定されるものではなく、例えば、ソレノイド等や油圧や空気圧を利用して、可動フレーム6を前方側へ回動させたり、前方側へ直線移動させたりするように構成しても構わない。
【0056】
また、前記実施形態では、枠体10およびラジエータ8の一例として図1に示すように、垂直に設置した場合を例に挙げて、その枠体10の外側に可動フレーム6を設置して可動させることを説明したが、枠体10およびラジエータ8は、これに限定されるものではない。
枠体10およびラジエータ8は、バンパ12が設置されている車体前部の形状に合わせて適宜に配置すればよく、例えば、下部より上部を後側にして斜めの設けてよい。すなわち、ラジエータ8が上下左右の外周部が枠体10に覆われて、この枠体10がサイドメンバ11,11の内側に配置され、可動フレーム6が枠体10に可動可能に設置されていればよい。
【0057】
なお、前記実施形態では、衝突予知装置2の一例として図1に示すように、障害物検出センサ21を使用した場合を例に挙げて、車両Cが障害物に衝突することを予測することを説明したが、これに限定されるものではない。
衝突予知装置2は、歩行者等の障害物を検出できるものであればよく、例えば、歩行者等の人体を超音波、電波、赤外線等で検出する人体検出センサや、歩行者等の障害物をカメラ等で画像処理して検出する撮像装置を利用したものであっても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施形態に係る車体前部構造を示す概略断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る車体前部構造を示す概略分解斜視図である。
【図3】本発明の実施形態に係る車体前部構造を示す図であり、平常時における駆動機構の設置状態を示す要部拡大図である。
【図4】本発明の実施形態に係る車体前部構造を示す図であり、平常時におけるエネルギー吸収部材およびアームの状態を示す要部拡大図である。
【符号の説明】
【0059】
1 車体
2 衝突予知装置(衝突予知手段)
3 アーム
4 駆動機構
5 エネルギー吸収部材
6 可動フレーム
8 ラジエータ
11 サイドメンバ
12 バンパ
12a バンパ下部
12c バンパ上部
13 ラジエータサポートサイド
13c 折曲部
14 ラジエータサポートロア
21 障害物検出センサ
22 車速センサ
41 アクチュエータ
C 車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前後方向に沿って設けられる左右一対のサイドメンバと、
この左右一対のサイドメンバの前端部の内側にそれぞれ設けられた左右一対のラジエータサポートサイドと、
この左右一対のラジエータサポートサイドの左右下端部を結合したラジエータサポートロアと、
前記車両の衝突を予知する衝突予知手段と、を備えた車体前部構造であって、
前記左右一対のラジエータサポートサイドの外側にそれぞれ配置されたアームと、
前記衝突予知手段からの衝突予知信号に基づいて駆動して前記アームを前方向に可動させる駆動機構と、
前記アームに設けられたエネルギー吸収部材と、を備えたことを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
前記左右一対のラジエータサポートサイドは、左右外側に膨らんだ状態に形成した折曲部を有し、
前記駆動機構は、前記左右一対のラジエータサポートサイド内に設置されるラジエータと前記折曲部との間にそれぞれ設置され、
前記アームは、左右一対に形成されて、左右上端部にそれぞれ前記駆動機構が設けて可動されると共に、左右下端部に前記エネルギー吸収部材が設けられて正面視して略コ字状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の車体前部構造。
【請求項3】
前記駆動機構は、前記アームを回動させるアクチュエータを備え、
前記アームの下端部は、平常時に、前記ラジエータサポートロアの下側に配置され、前記衝突予知手段が前記車両の衝突を予知したときに、前記駆動機構によって回動して前記下端部が前記車両の前端部側に移動することを特徴とする請求項2に記載の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−230319(P2008−230319A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−69816(P2007−69816)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】