車体前部構造
【課題】車両の左右の前角部を比較的大きな湾曲状に形成することが可能で、かつ衝撃荷重を効率よく吸収することができる車体前部構造を提供する。
【解決手段】車体前部構造10は、左右のフロントサイドフレーム11,12および左右のアッパメンバー15,16の前端部に内外側の衝撃吸収部62,63を設け、内外側の衝撃吸収部の前端部にバンパービーム27が設けられている。バンパービームは、後半部27eに高強度部98,99,105,106が設けられ、左右の端部27a,27bが車体側へ向けて曲げられ、左右の端部において、それぞれの前部が凹状に形成され、凹状に形成された部位の後半部27eが内外側の衝撃吸収部で支持されている。
【解決手段】車体前部構造10は、左右のフロントサイドフレーム11,12および左右のアッパメンバー15,16の前端部に内外側の衝撃吸収部62,63を設け、内外側の衝撃吸収部の前端部にバンパービーム27が設けられている。バンパービームは、後半部27eに高強度部98,99,105,106が設けられ、左右の端部27a,27bが車体側へ向けて曲げられ、左右の端部において、それぞれの前部が凹状に形成され、凹状に形成された部位の後半部27eが内外側の衝撃吸収部で支持されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントサイドフレームに衝撃吸収部を設け、この衝撃吸収部にバンパービームを設けた車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車体前部構造のなかには、フロントサイドフレームの車体外側にアッパメンバーを備え、それぞれの前端部に内外側の衝撃吸収部を離間させて備え、内外側の衝撃吸収部にバンパービームを取り付けたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2007−190964号公報
【0003】
この衝撃吸収構造を図11に基づいて説明する。
図11は従来の車体前部構造でオフセット衝突の衝突エネルギーを吸収する例を説明する図である。
車体前部構造200は、左フロントサイドフレーム201および左アッパメンバー202の前端部にそれぞれ内外側の衝撃吸収部203,204を設けることで、衝撃吸収部の横幅が広げられている。
【0004】
よって、バンパービーム205に衝撃荷重fが作用した場合に、内外側の衝撃吸収部203,204が横方向に倒れることを防いで、作用した衝撃荷重fを内外側の衝撃吸収部203,204を経て左フロントサイドフレーム201および左アッパメンバー202に伝えることが可能である。
【0005】
ところで、車両のなかには、意匠性などの観点から左右の前角部を比較的大きな湾曲状に形成したいものがある。
左右の前角部を比較的大きな湾曲状に形成するためには、バンパービーム205の端部205aにおいて、前部に凹部206(想像線で示す)を形成することが考えられる。
しかし、端部205aの前部に凹部206を形成すると、端部205aの剛性を確保することが難しい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
車体前部構造200は、相手車両210が左側にずれてオフセット衝突した場合に、バンパービーム205が想像線で示すように変形する。
バンパービーム205の変形で、左バンパービーム205に車体中心側に向けて矢印aの如く衝撃荷重が作用する。
この衝撃荷重が左フロントサイドフレーム201に作用して、左フロントサイドフレーム201を矢印bの如く曲げ変形させようとする。
【0007】
ここで、バンパービーム205の端部205aの前部が凹部206に形成され、端部205aの剛性が低下している。
よって、内外側の衝撃吸収部203,204を一体に連結させておくことが難しく、内外側の衝撃吸収部203,204は個別に変形してしまう。
このため、左フロントサイドフレーム201が矢印bの如く曲げ変形してしまい、衝撃荷重を効率よく吸収することができないことが考えられる。
【0008】
本発明は、車両の左右の前角部を比較的大きな湾曲状に形成することが可能で、かつ衝撃荷重を効率よく吸収することができる車体前部構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、車体前後方向にフロントサイドフレームを延ばし、前記フロントサイドフレームの上側後方にフロントピラーを設け、前記フロントピラーから前方に向けてアッパメンバーを延ばすとともに、前記アッパメンバーを前記フロントサイドフレームの外側に配置し、それぞれの前端部に内外側の衝撃吸収部を内側と外側とに設け、前記内外側の衝撃吸収部の前端部にバンパービームを設けた車体前部構造において、前記バンパービームは、後半部に高強度部が設けられ、左右の端部が車体側へ向けて曲げられ、該左右の端部において、それぞれの前部に、前記内側衝撃吸収部の内壁部に相当する部位から外側にわたり脆弱部が形成され、前記左右の端部の後部が前記内外側の衝撃吸収部で支持されたことを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明において、前記脆弱部は、前記左右の端部の前部を切り欠くことで形成されたことを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、前記左右の端部の前部を切り欠くことで形成された前記脆弱部の開口を蓋部材で塞いだことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明では、バンパービームの後半部に高強度部を設け、左右の端部の後部(すなわち、後半部)を内外側の衝撃吸収部で支持した。
ここで、例えば、相手車両が車体前部構造の左右側にずれてオフセット衝突した場合や、車体前部構造の全面に衝突した場合に、バンパービームの変形で、左バンパービームに車体中心側に向けて衝撃荷重が作用する。
この衝撃荷重がフロントサイドフレームに作用して、左フロントサイドフレームを曲げ変形させようとする。
【0013】
ここで、後半部の高強度部が内外側の衝撃吸収部で支持されている。よって、高強度部を有する後半部で、内外側の衝撃吸収部を強固に一体化させておくことができる。
これにより、車体中心側に向けて作用した衝撃荷重で、内外側の衝撃吸収部が車体中心側に曲げ変形することを阻止できる。
したがって、フロントサイドフレームが曲げ変形することを防いで、フロントサイドフレームを良好に変形させて(すなわち、潰すように良好に変形させて)、衝撃荷重を効率よく吸収することができる。
【0014】
特に、車体前部構造の全面に衝突した場合は、前記効果に加えて以下の効果を得ることができる。
すなわち、車体前部構造の全面に衝突した場合、まず、車体前方に向けて湾曲しているバンパービームの中央が車体後方に向けて変形して衝撃荷重の一部を吸収する。そして、バンパービームが左右の内側衝撃吸収部の間に押し込まれる。
【0015】
つぎに、バンパービームの左右の脆弱部、および左右に配置された内外側の衝撃吸収部が変形して(潰れて)残りの衝撃荷重を吸収する。
この状態で、バンパービームが車幅方向に対して略平行な直線状に変形し、バンパービームの左右の脆弱部の潰れ残りをなくすことができる。
これにより、衝撃荷重を吸収するための有効ストロークを大きく確保することができるので、車体前部が短い車両の衝撃吸収構造として有効である。
【0016】
請求項2に係る発明では、左右の端部の前部を切り欠くことで脆弱部を形成した。
よって、バンパービームの左右の端部を車体側に近づけることが可能になり、バンパービームの前側に設けたバンパーフェイスの左右の端部を車体側に近づけることができる。
なお、バンパーフェイスは、車体の外側部を形成する部材である。
このように、バンパーフェイスの左右の端部を車体側に近づけることで、車両の左右の前角部を比較的大きな湾曲状に形成することができる。
【0017】
請求項3に係る発明では、脆弱部の開口を蓋部材で塞ぐことで、脆弱部の強度を調整することができる。
さらに、脆弱部の開口を蓋部材で塞ぐことで、バンパービームの前面に備えるエネルギー吸収部材を全体にわたって一定の断面形状に形成することができる。
これにより、エネルギー吸収部材の全域にわたってエネルギーを均一に吸収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、「前」、「後」、「左」、「右」は運転者から見た方向にしたがい、前側をFr、後側をRr、左側をL、右側をRとして示す。
【0019】
図1は本発明に係る車体前部構造を示す斜視図である。
車体前部構造10は、車体前部の左右側に左右のフロントサイドフレーム(フロントサイドフレーム)11,12を備え、左フロントサイドフレーム11の上側後方に左フロントピラー(フロントピラー)13を設け、左フロントピラー13の下端部13aから前方に向けて左アッパメンバー(アッパメンバー)15を延ばすとともに、左アッパメンバー15を左フロントサイドフレーム11の外側に配置し、右フロントサイドフレーム12の上側後方に右フロントピラー(フロントピラー)14を設け、右フロントピラー14の下端部14aから前方に向けて右アッパメンバー(アッパメンバー)16を延ばすとともに、右アッパメンバー16を右フロントサイドフレーム12の外側に配置した自動車の構造である。
【0020】
左フロントサイドフレーム11と左アッパメンバー15との間に、左前輪(図示せず)を覆う左ホイールハウス18が設けられている。
右フロントサイドフレーム12と右アッパメンバー16との間に、右前輪(図示せず)を覆う右ホイールハウス19が設けられている。
【0021】
図2は本発明に係る車体前部構造の要部を示す斜視図である。
前部車体構造10は、左フロントサイドフレーム11の前端部11aと左アッパメンバー15の前端部15aとが車体幅方向に向けて配置されて各前端部11a,15aが互いに連結され、右フロントサイドフレーム12の前端部12aと右アッパメンバー16の前端部16aとが車体幅方向に向けて配置されて各前端部12a,16aが互いに連結され、前端部11a,15aおよび前端部12a,16aに衝撃吸収構造20が備えられている。
【0022】
衝撃吸収構造20は、前端部11a,15aに左取付プレート21を介して左衝撃吸収ユニット25が設けられ、前端部12a,16aに右取付プレート22を介して右衝撃吸収ユニット26が設けられ、左右の衝撃吸収ユニット25,26にわたってバンパービーム27が架け渡され、バンパービーム27にエネルギー吸収部材28が設けられている。
すなわち、バンパービーム27は、左端部27aが左衝撃吸収ユニット25に取り付けられ、右端部27bが右衝撃吸収ユニット26に取り付けられている。
【0023】
ここで、左右のフロントサイドフレーム11,12、左右のアッパメンバー15,16は左右対称の部材であり、右フロントサイドフレーム12、右アッパメンバー16の説明を省略する。
また、左右の衝撃吸収ユニット25,26は左右対称の部材であり、右衝撃吸収ユニット26の構成部材に左衝撃吸収ユニット25と同じ符号を付して説明を省略する。
【0024】
図3は図2の3部拡大図、図4(a)は図3の4a−4a線断面図、図4(b)は図4(a)の分解図である。
左フロントサイドフレーム11は、車体前後方向に延びるとともに開口部32が車体外側に向けて配置された断面略コ字形のサイドフレーム部材31と、サイドフレーム部材31の開口部32に嵌合した断面略コ字形のサイド外側壁(外壁部)33とを備える。
【0025】
サイドフレーム部材31は、水平に配置された上面部34と、上面部34の内側辺から下方に延びた内壁部35と、内壁部35の下辺から車体幅方向外側に向けて延びた下面部36とを備える。
サイド外側壁33は、上下の折曲片33a,33bがサイドフレーム部材31の開口部32に沿って設けられている。
【0026】
左アッパメンバー15は、車体前後方向に延びるとともに開口部42が車体内側に向けて配置された断面略コ字形のアッパメンバー部材41と、アッパメンバー部材41の中央開口部42aに嵌合した断面略コ字形のアッパ内側壁43とを備える。
アッパメンバー部材41は、車幅方向に水平に延びた上面部44と、上面部44の外側辺から下方に延びた外壁部45と、外壁部45の下辺から車体幅方向内側に向けて延びた下面部46とを備える。
【0027】
アッパ内側壁43は、上下の折曲片43a,43bがアッパメンバー部材41の中央開口部42aに沿って設けられている。
上面部44は、前端部に車体中心に向けて張り出す上張出部51が設けられている。上張出部51は先端部51aがサイドフレーム部材31の上面部34に溶接で接合されている。
【0028】
下面部46は、上面部44と同様に、前端部に車体中心に向けて張り出す下張出部52が設けられている。
下張出部52は先端部52aがサイドフレーム部材31の下面部36に溶接で接合されている。
【0029】
これにより、左フロントサイドフレーム11の前端部11aおよび左アッパメンバー15の前端部15aは、車体幅方向に向けて配置されて互いに連結されている。
左フロントサイドフレーム11の前端部11aには、取付片37が張り出されている。また、左アッパメンバー15の前端部15aには、取付片47が張り出されている。
【0030】
図5は本発明に係る車体前部構造の要部を示す平面図である。
左フロントサイドフレーム11は、上面部34は、左フロントサイドフレーム11の略中央部11bから前端部11aに向けて外側辺34aが徐々に車体外側(左アッパメンバー15側)に移動するように傾斜角θ1で傾斜状に形成されている。
【0031】
よって、上面部34は、略中央部11bから前端部11aに向けて横幅が徐々に広がるように形成されている。
図4に示す下面部36も、上面部34と同様に、略中央部から前端部に向けて外側辺が徐々に車体外側に移動するように傾斜角θ1で傾斜状に形成されている。
【0032】
サイド外側壁33は、略中央部11bから前端部11aに向けて外側辺34aに沿って徐々に車体外側(左アッパメンバー15側)に移動するように傾斜角θ1で傾斜状に設けられている。
以下、左フロントサイドフレーム11のうち、略中央部11bから前端部11aまでの部位をサイド前半部54として説明する。
【0033】
左アッパメンバー15は、略中央部15bから前端部15aまで車体前方に向けて車体中心側に徐々に移動するように傾斜角θ2で傾斜状に形成されている。
以下、左アッパメンバー15のうち、略中央部15bから前端部15aまでの部位をアッパ前半部55として説明する。
【0034】
左フロントサイドフレーム11のサイド外側壁33を、サイド前半部54において傾斜角θ1で傾斜状に設けるとともに、左アッパメンバー15のアッパ前半部55を、傾斜角θ2で傾斜状に設けた。
これにより、サイドフレーム前端部11aおよびアッパメンバー前端部15aが近接された状態に配置される。
【0035】
ここで、前述したように、左アッパメンバー15は、前端部15aのうち、上面部44に上張出部51が設けられるとともに、下面部46に下張出部52(図4参照)が設けられている。
【0036】
上張出部51は先端部51aがサイドフレーム部材31の上面部34に溶接で接合されている。また、下張出部52は先端部52aがサイドフレーム部材31の下面部36に溶接で接合されている。
これにより、左フロントサイドフレーム11の前端部11aおよび左アッパメンバー15の前端部15aが強固に連結されている。
【0037】
左フロントサイドフレーム11の前端部11aおよび左アッパメンバー15の前端部15aに、左取付プレート21を介して左衝撃吸収ユニット25が設けられている。
左衝撃吸収ユニット25にバンパービーム27の左端部27aが取り付けられている。
【0038】
左衝撃吸収ユニット25は、左取付プレート21を介して左フロントサイドフレーム11の前端部11aに一体に取り付けられた内側衝撃吸収部62と、左取付プレート21を介して左アッパメンバー15の前端部15aに一体に取り付けられた外側衝撃吸収部63とを備える。
【0039】
左取付プレート21は、前端部11aに取り付けられた内側取付部21aと、前端部15aに取り付けられた外側取付部21bとを有する。
内側取付部21aは、車幅方向に沿って平行に取り付けられたプレートである。
外側取付部21bは、内側取付部21aに対して角度θ3だけ後方に向けて傾斜させたプレートである。
これにより、斜め衝突に対して衝撃荷重を左フロントサイドフレーム11へ伝達する効率が向上する。
【0040】
内側衝撃吸収部62は、略矩形状の内筒体65を備え、後端部に内後フランジ66を備え、前端部に内前取付片67を備える。
内筒体65は、平面視で先細状に形成されている。
この内側衝撃吸収部62は、内後フランジ66が、左取付プレート21の内側取付部21aを介して左フロントサイドフレーム11の取付片37にボルト68…、ナット69…で取り付けられている。
よって、内側衝撃吸収部62は、左フロントサイドフレーム11の前方に設けられている。
【0041】
外側衝撃吸収部63は、略矩形状の外筒体75を備え、後端部に外後フランジ76を備え、前端部に外前取付片77を備える。
この外側衝撃吸収部63は、内側衝撃吸収部62に対して外側に所定間隔離間させて配置され、外後フランジ76が、左取付プレート21の外側取付部21bを介して左アッパメンバー15の取付片47にボルト68…、ナット69…で取り付けられている。
よって、外側衝撃吸収部63は、左アッパメンバー15の前方に設けられている。
【0042】
ここで、バンパービーム27は、車両の意匠性などを考慮して、左端部27aが後方に向けて湾曲状に形成されている。このため、左端部27aは、左取付プレート21に近づくことになる。
そこで、前述したように、左取付プレート21の外側取付部21bを内側取付部21aに対して角度θ3だけ後方に向けて傾斜させることにした。
【0043】
よって、左端部27aと外側取付部21bとの間隔を略一定に確保することが可能になる。
これにより、外側衝撃吸収部63の内外側の側壁78,79を略同じ長さに確保することが可能になり、外側衝撃吸収部63の潰し代を良好に確保することができる。
【0044】
外側衝撃吸収部63の外筒体75は、内側壁78が前端部75aから後端部75bに向けて傾斜角θ4で傾斜状に形成されている。
ここで、傾斜角θ4は、左フロントサイドフレーム11の外側辺34aの傾斜角θ1と略同じ傾斜角に設定されている。すなわち、傾斜角θ4および傾斜角θ1の関係は、θ4≒θ1の関係が成立する。
【0045】
加えて、外筒体75の内側壁78は、左フロントサイドフレーム11のサイド外側壁33に対して車体中心側に配置されている。
これにより、外筒体75の後端部75bおよび左フロントサイドフレーム11の前端部11aで一部重ね合わされた重複部81が形成されている。
【0046】
具体的には、外筒体75の後端部75bのうち内側壁78寄りの部位が、左フロントサイドフレーム11の前端部11aのうちサイド外側壁33寄りの部位に左取付プレート21を介在させた状態で重ね合わされている。
内側壁78寄りの部位とサイド外側壁33寄りの部位との重複幅はWである。
【0047】
重複部81の幅Wは、例えば、相手車両が左側にずれてオフセット衝突した場合に、外筒体75の内側壁78に沿って後方に伝わった衝撃荷重がサイド外側壁33に効率よく伝達可能に決められている。
【0048】
内側衝撃吸収部62の内前取付片67および外側衝撃吸収部63の外前取付片77に、バンパービーム27の左端部27aが溶接されている。
バンパービーム27は、左端部27aが車体側へ向けて後方に曲げられ、左端部27aにおいて、前部を切り欠くことで凹状の脆弱部29が形成されている。
【0049】
バンパービーム27の前面27cにエネルギー吸収部材28が設けられている。
エネルギー吸収部材28は、バンパービーム27の凹状の前部29に沿って左端部28aが配置されている。
前述したように、バンパービーム27は、左端部27aが車体側へ向けて後方に曲げられ、前部が凹状の脆弱部29に形成されている。
【0050】
バンパービーム27の左端部27aを車体側へ向けて後方に曲げ、かつ、バンパービーム27の左端部27aに脆弱部29を形成することで、バンパービーム27の左端部27aを車体側に一層近づけることが可能になる。
よって、バンパービーム27の前側に設けたバンパーフェイス(図示せず)の左右の端部を車体側に近づけることができる。
なお、前記バンパーフェイスは、車体の外側部を形成する部材である。
【0051】
よって、エネルギー吸収部材28の左端部28aを脆弱部29に沿って配置することで、左端部28aを車体側へ向けて後方に大きく曲げることができる。
これにより、エネルギー吸収部材28の左端部28aの前方、詳しくは、前記バンパーフェイスの左端部の前方に比較的大きな空間70を確保することができる。
【0052】
ここで、バンパービーム27の脆弱部29およびエネルギー吸収部材28の左端部28a間に左蓋部材(蓋部材)38が設けられている。
左蓋部材38は、前面38aおよび上下の面38b,38cで略コ字状に形成され(図6(b)参照)、前面38aが車体中央側から車体外側に向けて車体後方に傾斜状に形成されている。
【0053】
すなわち、左蓋部材38は、車体中央側から車体外側に向けて幅寸法が漸次小さくなるように、平面視で略三角形状に形成されている。
この左蓋部材38で、図6(b)に示すように、脆弱部29の開口を塞ぐことで、脆弱部29の強度を調整することができる。
【0054】
さらに、図6(b)に示すように、脆弱部29の開口を左蓋部材38で塞ぐことで、バンパービーム27の前面に備えるエネルギー吸収部材28を全体にわたって一定の断面形状に形成することができる。
これにより、エネルギー吸収部材28の全域にわたってエネルギーを均一に吸収することができる。
なお、前記バンパーフェイスの左端部の前方に比較的大きな空間70を確保した理由については図7で詳しく説明する。
【0055】
図6(a)は図2の6a−6a線断面図、図6(b)は図2の6b−6b線断面図である。
(a)に示すように、バンパービーム27は、車幅方向の中央部27d(図2参照)が、鉛直に配置された前壁部91と、前壁部91の上半部に設けられた上コ字状部材92と、前壁部91の下半部に設けられた下コ字状部材93とを備えている。
前壁部91は、上端部近傍に後方に突出した上リブ91aが形成され、下端部近傍に後方に突出した下リブ91bが形成されている。
【0056】
上コ字状部材92は、前壁部91の上端部から後方に向けて折り曲げられた上部94と、上部94の後端部から下方に向けて折り曲げられた上後壁部95と、上後壁部95の下端部から前方に向けて折り曲げられた上中央部96と、上中央部96の前端部から下方に折り曲げられて前壁部91の中央部に接合された上接合片97とを備えている。
【0057】
上部94の後端部および上後壁部95の上端部で上稜線部98が形成され、上後壁部95の下端部および上中央部96の後端部で上中央稜線部99が形成されている。
以下、上稜線部98を「上高強度部(高強度部)」と称し、上中央稜線部99を「上中央高強度部(高強度部)」と称す。
【0058】
下コ字状部材93は、前壁部91の下端部から後方に向けて折り曲げられた下部101と、下部101の後端部から上方に向けて折り曲げられた下後壁部102と、下後壁部102の上端部から前方に向けて折り曲げられた下中央部103と、下中央部103の前端部から上方に折り曲げられて前壁部91の中央部に接合された下接合片104とを備えている。
【0059】
下部101の後端部および下後壁部102の下端部で下稜線部105が形成され、下後壁部102の上端部および下中央部103の後端部で下中央稜線部106が形成されている。
以下、下稜線部105を「下高強度部(高強度部)」と称し、下中央稜線部106を「下中央高強度部(高強度部)」と称す。
よって、バンパービーム27の後半部27eに上高強度部98、上中央高強度部99、下高強度部105および下中央高強度部106が設けられている。
【0060】
(b)に示すように、バンパービーム27の左端部27aは、前半部27f(図6(a)参照)が除去され、除去された部位に脆弱部29が設けられたものである。
よって、後半部27eのうち、左端部27aに対応する端部後半部27gにも上高強度部98、上中央高強度部99、下高強度部105および下中央高強度部106が設けられている。
【0061】
左端部27aの端部後半部27gのうち、図3に示すように、車幅方向の外側に外側衝撃吸収部63の外前取付片77が接合されている。
また、左端部27aの端部後半部27gのうち、図3に示すように、車幅方向の内側に内側衝撃吸収部62の内前取付片67が接合されている。
【0062】
よって、左端部27aの端部後半部27gが内外側の衝撃吸収部62,63で支持されている。
これにより、内外側の衝撃吸収部62,63を、高強度部98,99,105,106を有する端部後半部27gで強固に一体化させることができる。
【0063】
ここで、図2に示すバンパービーム27の右端部27bは左端部27aと左右対称の部位であり、右端部27bの説明を省略する。
また、図2に示すエネルギー吸収部材28の右端部28bは、左端部28aと左右対称の部位であり、右端部28bの説明を省略する。
なお、内外側の衝撃吸収部62,63を後半部27eで支持した理由については図9〜図10で詳しく説明する。
【0064】
つぎに、エネルギー吸収部材28の左端部28aの前方、詳しくは、前記バンパーフェイスの左端部の前方に比較的大きな空間70を確保した理由を図7に基づいて説明する。
図7は本発明に係る車体前部構造のエネルギー吸収部材の左端部の前方に比較的大きな空間を確保した状態を示す図である。
バンパービーム27の左端部27aが車体側へ向けて曲げられ、左端部27aの前面に脆弱部29が形成されている。
バンパービーム27の前面にエネルギー吸収部材28を設けることで、左端部28aが脆弱部29に沿って配置される。
【0065】
よって、エネルギー吸収部材28の左端部28aを車体側へ向けて後方に大きく曲げることができる。
これにより、エネルギー吸収部材28の左端部28aの前方、詳しくは、前記バンパーフェイスの左端部の前方に比較的大きな空間70を確保することができる。
したがって、車両前部(バンパーフェイス)82の左前角部82aを比較的大きな湾曲状に形成することができ、車両の意匠性を一層高めることができる。
【0066】
つぎに、車体前部構造10に備えた衝撃吸収構造20に相手車両がオフセット状態で低速衝突(軽衝突)する例を図8に基づいて説明する。
図8(a),(b)は本発明に係る衝撃吸収構造でオフセット低速衝突の衝突エネルギーを吸収する例を説明する図である。
(a)において、相手車両85が衝撃吸収構造20に対して左側にずれてエネルギー吸収部材28の左端部28aにオフセット衝突(オフセット軽衝突)する。
【0067】
軽衝突(低速衝突)により生じた衝撃荷重F1は、エネルギー吸収部材28の左端部28aおよびバンパービーム27の左端部27aを経て左衝撃吸収ユニット25に伝わる。
具体的には、内側衝撃吸収部62に矢印Aの如く衝撃荷重が伝わり、外側衝撃吸収部63に矢印Bの如く衝撃荷重が伝わる。
【0068】
(b)において、エネルギー吸収部材28の左端部28aおよびバンパービーム27の左端部27aを潰すことで衝撃荷重F1の一部を吸収する。
残りの衝撃荷重を左衝撃吸収ユニット25(内側衝撃吸収部62および外側衝撃吸収部63)を潰すことで吸収する。
【0069】
このように軽衝突の場合、左フロントサイドフレーム11や左アッパメンバー15に変形を生じさせることなく、衝撃荷重F1(すなわち、衝撃エネルギー)を吸収することができる。
よって、オフセット軽衝突後に、エネルギー吸収部材28、バンパービーム27および左衝撃吸収ユニット25をボルト68…を外して交換するという簡単な修理で対応することができる。
【0070】
ここで、車体前部構造10の全面に軽衝突した場合は、以下のように衝撃荷重を吸収することが可能である。
すなわち、車体前部構造10の全面に相手車両85が衝突した場合、まず、図2に示すエネルギー吸収部材28が変形して衝撃荷重の一部を吸収する。
つぎに、車体前方に向けて湾曲しているバンパービーム27の中央部27d(図2参照)が車体後方に向けて変形して残りの衝撃荷重の一部を吸収する。そして、バンパービーム27が左右の内側衝撃吸収部62,62の間に押し込まれる。
【0071】
つぎに、バンパービーム27の左右の脆弱部29,29および左右の衝撃吸収ユニット25,26(図2参照)が変形して(潰れて)残りの衝撃荷重を吸収する。
この状態で、バンパービーム27が車幅方向に対して略平行な直線状に変形し、バンパービーム27の左右の脆弱部29,29の潰れ残りをなくすことができる。
これにより、衝撃荷重を吸収するための有効ストロークを大きく確保することができ、車体前部が短い車両の衝撃吸収構造に有効に適用することができる。
【0072】
つぎに、車体前部構造10に備えた衝撃吸収構造20に相手車両がオフセット状態で高速衝突する例を図9〜図10に基づいて説明する。
図9(a),(b)は本発明に係る車体前部構造にオフセット高速衝突する例を説明する図である。
(a)において、相手車両85が衝撃吸収構造20に対して左側にずれてエネルギー吸収部材28の左端部28aにオフセット衝突(オフセット高速衝突)する。
【0073】
(b)において、相手車両85がオフセット衝突(高速衝突)することで、エネルギー吸収部材28の左端部28aおよびバンパービーム27の左端部27aが変形する。
バンパービーム27の左端部27aが変形することで、左端部27aに車体中心側に向けて矢印Cの如く衝撃荷重が作用する。
この衝撃荷重が内側衝撃吸収部62を介して左フロントサイドフレーム11に作用し、左フロントサイドフレーム11を矢印Dの如く曲げ変形させようとする。
【0074】
ここで、バンパービーム27の端部後半部27gに高強度部98,99,105,106(図6(b)参照)が設けられ、端部後半部27gが内外側の衝撃吸収部62,63で支持されている。
よって、高強度部98,99,105,106を有する端部後半部27gで、内外側の衝撃吸収部62,63が強固に一体化されている。
これにより、左フロントサイドフレーム11を矢印Dの如く曲げ変形させることを阻止できる。
【0075】
一方、高速衝突により生じた衝撃荷重F2は、エネルギー吸収部材28の左端部28aおよびバンパービーム27の左端部27aを経て内側衝撃吸収部62に矢印Eの如く伝わるとともに、外側衝撃吸収部63に矢印Fの如く伝わる。
さらに、内側衝撃吸収部62に伝わった衝撃荷重が左フロントサイドフレーム11に矢印Gの如く伝わり、外側衝撃吸収部63に伝わった衝撃荷重が左アッパメンバー15に矢印Hの如く伝わる。
【0076】
図10は本発明に係る車体前部構造でオフセット高速衝突の衝突エネルギーを吸収する例を説明する図である。
左フロントサイドフレーム11を矢印D(図9(b)参照)の如く曲げ変形を防ぐことで、左フロントサイドフレーム11を良好に変形(すなわち、潰すように良好に変形)することができる。
これにより、左フロントサイドフレーム11の略中央部11bを略く字状に変形させて衝撃荷重を良好に吸収することができる。
【0077】
このように、左フロントサイドフレーム11を略く字状に変形させることで、エンジンルーム86を有効に潰すクラッシャブルゾーンとすることが可能になる。
これにより、左フロントサイドフレーム11の変形量を十分に確保して、エンジンルーム86の後方の車室内が変形することを抑えることができる。
【0078】
ここで、車体前部構造10の全面に高速衝突した場合も、図9〜図10で説明した内容と同様の作用・効果が得られる。
【0079】
なお、前記実施の形態では、バンパービーム27の左端部27aから前半部27fを除去して脆弱部29を設けた例について説明したが、これに限らないで、左端部27aの前半部27fを潰して脆弱部29とすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の車体前部構造は、フロントサイドフレームに衝撃吸収部を設け、この衝撃吸収部にバンパービームを設けた自動車への適用に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明に係る車体前部構造を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る車体前部構造の要部を示す斜視図である。
【図3】図2の3部拡大図である。
【図4】(a)は図3の4a−4a線断面図、(b)は(a)の分解図である。
【図5】本発明に係る車体前部構造の要部を示す平面図である。
【図6】(a)は図2の6a−6a線断面図、(b)は図2の6b−6b線断面図である。
【図7】本発明に係る車体前部構造のエネルギー吸収部材の左端部の前方に比較的大きな空間を確保した状態を示す図である。
【図8】本発明に係る衝撃吸収構造でオフセット低速衝突の衝突エネルギーを吸収する例を説明する図である。
【図9】本発明に係る車体前部構造にオフセット高速衝突する例を説明する図である。
【図10】本発明に係る車体前部構造でオフセット高速衝突の衝突エネルギーを吸収する例を説明する図である。
【図11】従来の車体前部構造でオフセット衝突の衝突エネルギーを吸収する例を説明する図である。
【符号の説明】
【0082】
10…車体前部構造、11…左フロントサイドフレーム(フロントサイドフレーム)、11a,12a…左右のフロントサイドフレームの前端部、12…右フロントサイドフレーム(フロントサイドフレーム)、13…左フロントピラー(フロントピラー)、14…右フロントピラー(フロントピラー)、15…左アッパメンバー(アッパメンバー)、15a,16a…左右のアッパメンバーの前端部、16…右アッパメンバー(アッパメンバー)、27…バンパービーム、27a…左端部、27b…右端部、27e…後半部、27g…端部後半部、28…エネルギー吸収部材、29…脆弱部(前部)、62…内側衝撃吸収部、63…外側衝撃吸収部、98…上高強度部(高強度部)、99…上中央高強度部(高強度部)、105…下高強度部(高強度部)、106…下中央高強度部(高強度部)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントサイドフレームに衝撃吸収部を設け、この衝撃吸収部にバンパービームを設けた車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車体前部構造のなかには、フロントサイドフレームの車体外側にアッパメンバーを備え、それぞれの前端部に内外側の衝撃吸収部を離間させて備え、内外側の衝撃吸収部にバンパービームを取り付けたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2007−190964号公報
【0003】
この衝撃吸収構造を図11に基づいて説明する。
図11は従来の車体前部構造でオフセット衝突の衝突エネルギーを吸収する例を説明する図である。
車体前部構造200は、左フロントサイドフレーム201および左アッパメンバー202の前端部にそれぞれ内外側の衝撃吸収部203,204を設けることで、衝撃吸収部の横幅が広げられている。
【0004】
よって、バンパービーム205に衝撃荷重fが作用した場合に、内外側の衝撃吸収部203,204が横方向に倒れることを防いで、作用した衝撃荷重fを内外側の衝撃吸収部203,204を経て左フロントサイドフレーム201および左アッパメンバー202に伝えることが可能である。
【0005】
ところで、車両のなかには、意匠性などの観点から左右の前角部を比較的大きな湾曲状に形成したいものがある。
左右の前角部を比較的大きな湾曲状に形成するためには、バンパービーム205の端部205aにおいて、前部に凹部206(想像線で示す)を形成することが考えられる。
しかし、端部205aの前部に凹部206を形成すると、端部205aの剛性を確保することが難しい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
車体前部構造200は、相手車両210が左側にずれてオフセット衝突した場合に、バンパービーム205が想像線で示すように変形する。
バンパービーム205の変形で、左バンパービーム205に車体中心側に向けて矢印aの如く衝撃荷重が作用する。
この衝撃荷重が左フロントサイドフレーム201に作用して、左フロントサイドフレーム201を矢印bの如く曲げ変形させようとする。
【0007】
ここで、バンパービーム205の端部205aの前部が凹部206に形成され、端部205aの剛性が低下している。
よって、内外側の衝撃吸収部203,204を一体に連結させておくことが難しく、内外側の衝撃吸収部203,204は個別に変形してしまう。
このため、左フロントサイドフレーム201が矢印bの如く曲げ変形してしまい、衝撃荷重を効率よく吸収することができないことが考えられる。
【0008】
本発明は、車両の左右の前角部を比較的大きな湾曲状に形成することが可能で、かつ衝撃荷重を効率よく吸収することができる車体前部構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、車体前後方向にフロントサイドフレームを延ばし、前記フロントサイドフレームの上側後方にフロントピラーを設け、前記フロントピラーから前方に向けてアッパメンバーを延ばすとともに、前記アッパメンバーを前記フロントサイドフレームの外側に配置し、それぞれの前端部に内外側の衝撃吸収部を内側と外側とに設け、前記内外側の衝撃吸収部の前端部にバンパービームを設けた車体前部構造において、前記バンパービームは、後半部に高強度部が設けられ、左右の端部が車体側へ向けて曲げられ、該左右の端部において、それぞれの前部に、前記内側衝撃吸収部の内壁部に相当する部位から外側にわたり脆弱部が形成され、前記左右の端部の後部が前記内外側の衝撃吸収部で支持されたことを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明において、前記脆弱部は、前記左右の端部の前部を切り欠くことで形成されたことを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、前記左右の端部の前部を切り欠くことで形成された前記脆弱部の開口を蓋部材で塞いだことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明では、バンパービームの後半部に高強度部を設け、左右の端部の後部(すなわち、後半部)を内外側の衝撃吸収部で支持した。
ここで、例えば、相手車両が車体前部構造の左右側にずれてオフセット衝突した場合や、車体前部構造の全面に衝突した場合に、バンパービームの変形で、左バンパービームに車体中心側に向けて衝撃荷重が作用する。
この衝撃荷重がフロントサイドフレームに作用して、左フロントサイドフレームを曲げ変形させようとする。
【0013】
ここで、後半部の高強度部が内外側の衝撃吸収部で支持されている。よって、高強度部を有する後半部で、内外側の衝撃吸収部を強固に一体化させておくことができる。
これにより、車体中心側に向けて作用した衝撃荷重で、内外側の衝撃吸収部が車体中心側に曲げ変形することを阻止できる。
したがって、フロントサイドフレームが曲げ変形することを防いで、フロントサイドフレームを良好に変形させて(すなわち、潰すように良好に変形させて)、衝撃荷重を効率よく吸収することができる。
【0014】
特に、車体前部構造の全面に衝突した場合は、前記効果に加えて以下の効果を得ることができる。
すなわち、車体前部構造の全面に衝突した場合、まず、車体前方に向けて湾曲しているバンパービームの中央が車体後方に向けて変形して衝撃荷重の一部を吸収する。そして、バンパービームが左右の内側衝撃吸収部の間に押し込まれる。
【0015】
つぎに、バンパービームの左右の脆弱部、および左右に配置された内外側の衝撃吸収部が変形して(潰れて)残りの衝撃荷重を吸収する。
この状態で、バンパービームが車幅方向に対して略平行な直線状に変形し、バンパービームの左右の脆弱部の潰れ残りをなくすことができる。
これにより、衝撃荷重を吸収するための有効ストロークを大きく確保することができるので、車体前部が短い車両の衝撃吸収構造として有効である。
【0016】
請求項2に係る発明では、左右の端部の前部を切り欠くことで脆弱部を形成した。
よって、バンパービームの左右の端部を車体側に近づけることが可能になり、バンパービームの前側に設けたバンパーフェイスの左右の端部を車体側に近づけることができる。
なお、バンパーフェイスは、車体の外側部を形成する部材である。
このように、バンパーフェイスの左右の端部を車体側に近づけることで、車両の左右の前角部を比較的大きな湾曲状に形成することができる。
【0017】
請求項3に係る発明では、脆弱部の開口を蓋部材で塞ぐことで、脆弱部の強度を調整することができる。
さらに、脆弱部の開口を蓋部材で塞ぐことで、バンパービームの前面に備えるエネルギー吸収部材を全体にわたって一定の断面形状に形成することができる。
これにより、エネルギー吸収部材の全域にわたってエネルギーを均一に吸収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、「前」、「後」、「左」、「右」は運転者から見た方向にしたがい、前側をFr、後側をRr、左側をL、右側をRとして示す。
【0019】
図1は本発明に係る車体前部構造を示す斜視図である。
車体前部構造10は、車体前部の左右側に左右のフロントサイドフレーム(フロントサイドフレーム)11,12を備え、左フロントサイドフレーム11の上側後方に左フロントピラー(フロントピラー)13を設け、左フロントピラー13の下端部13aから前方に向けて左アッパメンバー(アッパメンバー)15を延ばすとともに、左アッパメンバー15を左フロントサイドフレーム11の外側に配置し、右フロントサイドフレーム12の上側後方に右フロントピラー(フロントピラー)14を設け、右フロントピラー14の下端部14aから前方に向けて右アッパメンバー(アッパメンバー)16を延ばすとともに、右アッパメンバー16を右フロントサイドフレーム12の外側に配置した自動車の構造である。
【0020】
左フロントサイドフレーム11と左アッパメンバー15との間に、左前輪(図示せず)を覆う左ホイールハウス18が設けられている。
右フロントサイドフレーム12と右アッパメンバー16との間に、右前輪(図示せず)を覆う右ホイールハウス19が設けられている。
【0021】
図2は本発明に係る車体前部構造の要部を示す斜視図である。
前部車体構造10は、左フロントサイドフレーム11の前端部11aと左アッパメンバー15の前端部15aとが車体幅方向に向けて配置されて各前端部11a,15aが互いに連結され、右フロントサイドフレーム12の前端部12aと右アッパメンバー16の前端部16aとが車体幅方向に向けて配置されて各前端部12a,16aが互いに連結され、前端部11a,15aおよび前端部12a,16aに衝撃吸収構造20が備えられている。
【0022】
衝撃吸収構造20は、前端部11a,15aに左取付プレート21を介して左衝撃吸収ユニット25が設けられ、前端部12a,16aに右取付プレート22を介して右衝撃吸収ユニット26が設けられ、左右の衝撃吸収ユニット25,26にわたってバンパービーム27が架け渡され、バンパービーム27にエネルギー吸収部材28が設けられている。
すなわち、バンパービーム27は、左端部27aが左衝撃吸収ユニット25に取り付けられ、右端部27bが右衝撃吸収ユニット26に取り付けられている。
【0023】
ここで、左右のフロントサイドフレーム11,12、左右のアッパメンバー15,16は左右対称の部材であり、右フロントサイドフレーム12、右アッパメンバー16の説明を省略する。
また、左右の衝撃吸収ユニット25,26は左右対称の部材であり、右衝撃吸収ユニット26の構成部材に左衝撃吸収ユニット25と同じ符号を付して説明を省略する。
【0024】
図3は図2の3部拡大図、図4(a)は図3の4a−4a線断面図、図4(b)は図4(a)の分解図である。
左フロントサイドフレーム11は、車体前後方向に延びるとともに開口部32が車体外側に向けて配置された断面略コ字形のサイドフレーム部材31と、サイドフレーム部材31の開口部32に嵌合した断面略コ字形のサイド外側壁(外壁部)33とを備える。
【0025】
サイドフレーム部材31は、水平に配置された上面部34と、上面部34の内側辺から下方に延びた内壁部35と、内壁部35の下辺から車体幅方向外側に向けて延びた下面部36とを備える。
サイド外側壁33は、上下の折曲片33a,33bがサイドフレーム部材31の開口部32に沿って設けられている。
【0026】
左アッパメンバー15は、車体前後方向に延びるとともに開口部42が車体内側に向けて配置された断面略コ字形のアッパメンバー部材41と、アッパメンバー部材41の中央開口部42aに嵌合した断面略コ字形のアッパ内側壁43とを備える。
アッパメンバー部材41は、車幅方向に水平に延びた上面部44と、上面部44の外側辺から下方に延びた外壁部45と、外壁部45の下辺から車体幅方向内側に向けて延びた下面部46とを備える。
【0027】
アッパ内側壁43は、上下の折曲片43a,43bがアッパメンバー部材41の中央開口部42aに沿って設けられている。
上面部44は、前端部に車体中心に向けて張り出す上張出部51が設けられている。上張出部51は先端部51aがサイドフレーム部材31の上面部34に溶接で接合されている。
【0028】
下面部46は、上面部44と同様に、前端部に車体中心に向けて張り出す下張出部52が設けられている。
下張出部52は先端部52aがサイドフレーム部材31の下面部36に溶接で接合されている。
【0029】
これにより、左フロントサイドフレーム11の前端部11aおよび左アッパメンバー15の前端部15aは、車体幅方向に向けて配置されて互いに連結されている。
左フロントサイドフレーム11の前端部11aには、取付片37が張り出されている。また、左アッパメンバー15の前端部15aには、取付片47が張り出されている。
【0030】
図5は本発明に係る車体前部構造の要部を示す平面図である。
左フロントサイドフレーム11は、上面部34は、左フロントサイドフレーム11の略中央部11bから前端部11aに向けて外側辺34aが徐々に車体外側(左アッパメンバー15側)に移動するように傾斜角θ1で傾斜状に形成されている。
【0031】
よって、上面部34は、略中央部11bから前端部11aに向けて横幅が徐々に広がるように形成されている。
図4に示す下面部36も、上面部34と同様に、略中央部から前端部に向けて外側辺が徐々に車体外側に移動するように傾斜角θ1で傾斜状に形成されている。
【0032】
サイド外側壁33は、略中央部11bから前端部11aに向けて外側辺34aに沿って徐々に車体外側(左アッパメンバー15側)に移動するように傾斜角θ1で傾斜状に設けられている。
以下、左フロントサイドフレーム11のうち、略中央部11bから前端部11aまでの部位をサイド前半部54として説明する。
【0033】
左アッパメンバー15は、略中央部15bから前端部15aまで車体前方に向けて車体中心側に徐々に移動するように傾斜角θ2で傾斜状に形成されている。
以下、左アッパメンバー15のうち、略中央部15bから前端部15aまでの部位をアッパ前半部55として説明する。
【0034】
左フロントサイドフレーム11のサイド外側壁33を、サイド前半部54において傾斜角θ1で傾斜状に設けるとともに、左アッパメンバー15のアッパ前半部55を、傾斜角θ2で傾斜状に設けた。
これにより、サイドフレーム前端部11aおよびアッパメンバー前端部15aが近接された状態に配置される。
【0035】
ここで、前述したように、左アッパメンバー15は、前端部15aのうち、上面部44に上張出部51が設けられるとともに、下面部46に下張出部52(図4参照)が設けられている。
【0036】
上張出部51は先端部51aがサイドフレーム部材31の上面部34に溶接で接合されている。また、下張出部52は先端部52aがサイドフレーム部材31の下面部36に溶接で接合されている。
これにより、左フロントサイドフレーム11の前端部11aおよび左アッパメンバー15の前端部15aが強固に連結されている。
【0037】
左フロントサイドフレーム11の前端部11aおよび左アッパメンバー15の前端部15aに、左取付プレート21を介して左衝撃吸収ユニット25が設けられている。
左衝撃吸収ユニット25にバンパービーム27の左端部27aが取り付けられている。
【0038】
左衝撃吸収ユニット25は、左取付プレート21を介して左フロントサイドフレーム11の前端部11aに一体に取り付けられた内側衝撃吸収部62と、左取付プレート21を介して左アッパメンバー15の前端部15aに一体に取り付けられた外側衝撃吸収部63とを備える。
【0039】
左取付プレート21は、前端部11aに取り付けられた内側取付部21aと、前端部15aに取り付けられた外側取付部21bとを有する。
内側取付部21aは、車幅方向に沿って平行に取り付けられたプレートである。
外側取付部21bは、内側取付部21aに対して角度θ3だけ後方に向けて傾斜させたプレートである。
これにより、斜め衝突に対して衝撃荷重を左フロントサイドフレーム11へ伝達する効率が向上する。
【0040】
内側衝撃吸収部62は、略矩形状の内筒体65を備え、後端部に内後フランジ66を備え、前端部に内前取付片67を備える。
内筒体65は、平面視で先細状に形成されている。
この内側衝撃吸収部62は、内後フランジ66が、左取付プレート21の内側取付部21aを介して左フロントサイドフレーム11の取付片37にボルト68…、ナット69…で取り付けられている。
よって、内側衝撃吸収部62は、左フロントサイドフレーム11の前方に設けられている。
【0041】
外側衝撃吸収部63は、略矩形状の外筒体75を備え、後端部に外後フランジ76を備え、前端部に外前取付片77を備える。
この外側衝撃吸収部63は、内側衝撃吸収部62に対して外側に所定間隔離間させて配置され、外後フランジ76が、左取付プレート21の外側取付部21bを介して左アッパメンバー15の取付片47にボルト68…、ナット69…で取り付けられている。
よって、外側衝撃吸収部63は、左アッパメンバー15の前方に設けられている。
【0042】
ここで、バンパービーム27は、車両の意匠性などを考慮して、左端部27aが後方に向けて湾曲状に形成されている。このため、左端部27aは、左取付プレート21に近づくことになる。
そこで、前述したように、左取付プレート21の外側取付部21bを内側取付部21aに対して角度θ3だけ後方に向けて傾斜させることにした。
【0043】
よって、左端部27aと外側取付部21bとの間隔を略一定に確保することが可能になる。
これにより、外側衝撃吸収部63の内外側の側壁78,79を略同じ長さに確保することが可能になり、外側衝撃吸収部63の潰し代を良好に確保することができる。
【0044】
外側衝撃吸収部63の外筒体75は、内側壁78が前端部75aから後端部75bに向けて傾斜角θ4で傾斜状に形成されている。
ここで、傾斜角θ4は、左フロントサイドフレーム11の外側辺34aの傾斜角θ1と略同じ傾斜角に設定されている。すなわち、傾斜角θ4および傾斜角θ1の関係は、θ4≒θ1の関係が成立する。
【0045】
加えて、外筒体75の内側壁78は、左フロントサイドフレーム11のサイド外側壁33に対して車体中心側に配置されている。
これにより、外筒体75の後端部75bおよび左フロントサイドフレーム11の前端部11aで一部重ね合わされた重複部81が形成されている。
【0046】
具体的には、外筒体75の後端部75bのうち内側壁78寄りの部位が、左フロントサイドフレーム11の前端部11aのうちサイド外側壁33寄りの部位に左取付プレート21を介在させた状態で重ね合わされている。
内側壁78寄りの部位とサイド外側壁33寄りの部位との重複幅はWである。
【0047】
重複部81の幅Wは、例えば、相手車両が左側にずれてオフセット衝突した場合に、外筒体75の内側壁78に沿って後方に伝わった衝撃荷重がサイド外側壁33に効率よく伝達可能に決められている。
【0048】
内側衝撃吸収部62の内前取付片67および外側衝撃吸収部63の外前取付片77に、バンパービーム27の左端部27aが溶接されている。
バンパービーム27は、左端部27aが車体側へ向けて後方に曲げられ、左端部27aにおいて、前部を切り欠くことで凹状の脆弱部29が形成されている。
【0049】
バンパービーム27の前面27cにエネルギー吸収部材28が設けられている。
エネルギー吸収部材28は、バンパービーム27の凹状の前部29に沿って左端部28aが配置されている。
前述したように、バンパービーム27は、左端部27aが車体側へ向けて後方に曲げられ、前部が凹状の脆弱部29に形成されている。
【0050】
バンパービーム27の左端部27aを車体側へ向けて後方に曲げ、かつ、バンパービーム27の左端部27aに脆弱部29を形成することで、バンパービーム27の左端部27aを車体側に一層近づけることが可能になる。
よって、バンパービーム27の前側に設けたバンパーフェイス(図示せず)の左右の端部を車体側に近づけることができる。
なお、前記バンパーフェイスは、車体の外側部を形成する部材である。
【0051】
よって、エネルギー吸収部材28の左端部28aを脆弱部29に沿って配置することで、左端部28aを車体側へ向けて後方に大きく曲げることができる。
これにより、エネルギー吸収部材28の左端部28aの前方、詳しくは、前記バンパーフェイスの左端部の前方に比較的大きな空間70を確保することができる。
【0052】
ここで、バンパービーム27の脆弱部29およびエネルギー吸収部材28の左端部28a間に左蓋部材(蓋部材)38が設けられている。
左蓋部材38は、前面38aおよび上下の面38b,38cで略コ字状に形成され(図6(b)参照)、前面38aが車体中央側から車体外側に向けて車体後方に傾斜状に形成されている。
【0053】
すなわち、左蓋部材38は、車体中央側から車体外側に向けて幅寸法が漸次小さくなるように、平面視で略三角形状に形成されている。
この左蓋部材38で、図6(b)に示すように、脆弱部29の開口を塞ぐことで、脆弱部29の強度を調整することができる。
【0054】
さらに、図6(b)に示すように、脆弱部29の開口を左蓋部材38で塞ぐことで、バンパービーム27の前面に備えるエネルギー吸収部材28を全体にわたって一定の断面形状に形成することができる。
これにより、エネルギー吸収部材28の全域にわたってエネルギーを均一に吸収することができる。
なお、前記バンパーフェイスの左端部の前方に比較的大きな空間70を確保した理由については図7で詳しく説明する。
【0055】
図6(a)は図2の6a−6a線断面図、図6(b)は図2の6b−6b線断面図である。
(a)に示すように、バンパービーム27は、車幅方向の中央部27d(図2参照)が、鉛直に配置された前壁部91と、前壁部91の上半部に設けられた上コ字状部材92と、前壁部91の下半部に設けられた下コ字状部材93とを備えている。
前壁部91は、上端部近傍に後方に突出した上リブ91aが形成され、下端部近傍に後方に突出した下リブ91bが形成されている。
【0056】
上コ字状部材92は、前壁部91の上端部から後方に向けて折り曲げられた上部94と、上部94の後端部から下方に向けて折り曲げられた上後壁部95と、上後壁部95の下端部から前方に向けて折り曲げられた上中央部96と、上中央部96の前端部から下方に折り曲げられて前壁部91の中央部に接合された上接合片97とを備えている。
【0057】
上部94の後端部および上後壁部95の上端部で上稜線部98が形成され、上後壁部95の下端部および上中央部96の後端部で上中央稜線部99が形成されている。
以下、上稜線部98を「上高強度部(高強度部)」と称し、上中央稜線部99を「上中央高強度部(高強度部)」と称す。
【0058】
下コ字状部材93は、前壁部91の下端部から後方に向けて折り曲げられた下部101と、下部101の後端部から上方に向けて折り曲げられた下後壁部102と、下後壁部102の上端部から前方に向けて折り曲げられた下中央部103と、下中央部103の前端部から上方に折り曲げられて前壁部91の中央部に接合された下接合片104とを備えている。
【0059】
下部101の後端部および下後壁部102の下端部で下稜線部105が形成され、下後壁部102の上端部および下中央部103の後端部で下中央稜線部106が形成されている。
以下、下稜線部105を「下高強度部(高強度部)」と称し、下中央稜線部106を「下中央高強度部(高強度部)」と称す。
よって、バンパービーム27の後半部27eに上高強度部98、上中央高強度部99、下高強度部105および下中央高強度部106が設けられている。
【0060】
(b)に示すように、バンパービーム27の左端部27aは、前半部27f(図6(a)参照)が除去され、除去された部位に脆弱部29が設けられたものである。
よって、後半部27eのうち、左端部27aに対応する端部後半部27gにも上高強度部98、上中央高強度部99、下高強度部105および下中央高強度部106が設けられている。
【0061】
左端部27aの端部後半部27gのうち、図3に示すように、車幅方向の外側に外側衝撃吸収部63の外前取付片77が接合されている。
また、左端部27aの端部後半部27gのうち、図3に示すように、車幅方向の内側に内側衝撃吸収部62の内前取付片67が接合されている。
【0062】
よって、左端部27aの端部後半部27gが内外側の衝撃吸収部62,63で支持されている。
これにより、内外側の衝撃吸収部62,63を、高強度部98,99,105,106を有する端部後半部27gで強固に一体化させることができる。
【0063】
ここで、図2に示すバンパービーム27の右端部27bは左端部27aと左右対称の部位であり、右端部27bの説明を省略する。
また、図2に示すエネルギー吸収部材28の右端部28bは、左端部28aと左右対称の部位であり、右端部28bの説明を省略する。
なお、内外側の衝撃吸収部62,63を後半部27eで支持した理由については図9〜図10で詳しく説明する。
【0064】
つぎに、エネルギー吸収部材28の左端部28aの前方、詳しくは、前記バンパーフェイスの左端部の前方に比較的大きな空間70を確保した理由を図7に基づいて説明する。
図7は本発明に係る車体前部構造のエネルギー吸収部材の左端部の前方に比較的大きな空間を確保した状態を示す図である。
バンパービーム27の左端部27aが車体側へ向けて曲げられ、左端部27aの前面に脆弱部29が形成されている。
バンパービーム27の前面にエネルギー吸収部材28を設けることで、左端部28aが脆弱部29に沿って配置される。
【0065】
よって、エネルギー吸収部材28の左端部28aを車体側へ向けて後方に大きく曲げることができる。
これにより、エネルギー吸収部材28の左端部28aの前方、詳しくは、前記バンパーフェイスの左端部の前方に比較的大きな空間70を確保することができる。
したがって、車両前部(バンパーフェイス)82の左前角部82aを比較的大きな湾曲状に形成することができ、車両の意匠性を一層高めることができる。
【0066】
つぎに、車体前部構造10に備えた衝撃吸収構造20に相手車両がオフセット状態で低速衝突(軽衝突)する例を図8に基づいて説明する。
図8(a),(b)は本発明に係る衝撃吸収構造でオフセット低速衝突の衝突エネルギーを吸収する例を説明する図である。
(a)において、相手車両85が衝撃吸収構造20に対して左側にずれてエネルギー吸収部材28の左端部28aにオフセット衝突(オフセット軽衝突)する。
【0067】
軽衝突(低速衝突)により生じた衝撃荷重F1は、エネルギー吸収部材28の左端部28aおよびバンパービーム27の左端部27aを経て左衝撃吸収ユニット25に伝わる。
具体的には、内側衝撃吸収部62に矢印Aの如く衝撃荷重が伝わり、外側衝撃吸収部63に矢印Bの如く衝撃荷重が伝わる。
【0068】
(b)において、エネルギー吸収部材28の左端部28aおよびバンパービーム27の左端部27aを潰すことで衝撃荷重F1の一部を吸収する。
残りの衝撃荷重を左衝撃吸収ユニット25(内側衝撃吸収部62および外側衝撃吸収部63)を潰すことで吸収する。
【0069】
このように軽衝突の場合、左フロントサイドフレーム11や左アッパメンバー15に変形を生じさせることなく、衝撃荷重F1(すなわち、衝撃エネルギー)を吸収することができる。
よって、オフセット軽衝突後に、エネルギー吸収部材28、バンパービーム27および左衝撃吸収ユニット25をボルト68…を外して交換するという簡単な修理で対応することができる。
【0070】
ここで、車体前部構造10の全面に軽衝突した場合は、以下のように衝撃荷重を吸収することが可能である。
すなわち、車体前部構造10の全面に相手車両85が衝突した場合、まず、図2に示すエネルギー吸収部材28が変形して衝撃荷重の一部を吸収する。
つぎに、車体前方に向けて湾曲しているバンパービーム27の中央部27d(図2参照)が車体後方に向けて変形して残りの衝撃荷重の一部を吸収する。そして、バンパービーム27が左右の内側衝撃吸収部62,62の間に押し込まれる。
【0071】
つぎに、バンパービーム27の左右の脆弱部29,29および左右の衝撃吸収ユニット25,26(図2参照)が変形して(潰れて)残りの衝撃荷重を吸収する。
この状態で、バンパービーム27が車幅方向に対して略平行な直線状に変形し、バンパービーム27の左右の脆弱部29,29の潰れ残りをなくすことができる。
これにより、衝撃荷重を吸収するための有効ストロークを大きく確保することができ、車体前部が短い車両の衝撃吸収構造に有効に適用することができる。
【0072】
つぎに、車体前部構造10に備えた衝撃吸収構造20に相手車両がオフセット状態で高速衝突する例を図9〜図10に基づいて説明する。
図9(a),(b)は本発明に係る車体前部構造にオフセット高速衝突する例を説明する図である。
(a)において、相手車両85が衝撃吸収構造20に対して左側にずれてエネルギー吸収部材28の左端部28aにオフセット衝突(オフセット高速衝突)する。
【0073】
(b)において、相手車両85がオフセット衝突(高速衝突)することで、エネルギー吸収部材28の左端部28aおよびバンパービーム27の左端部27aが変形する。
バンパービーム27の左端部27aが変形することで、左端部27aに車体中心側に向けて矢印Cの如く衝撃荷重が作用する。
この衝撃荷重が内側衝撃吸収部62を介して左フロントサイドフレーム11に作用し、左フロントサイドフレーム11を矢印Dの如く曲げ変形させようとする。
【0074】
ここで、バンパービーム27の端部後半部27gに高強度部98,99,105,106(図6(b)参照)が設けられ、端部後半部27gが内外側の衝撃吸収部62,63で支持されている。
よって、高強度部98,99,105,106を有する端部後半部27gで、内外側の衝撃吸収部62,63が強固に一体化されている。
これにより、左フロントサイドフレーム11を矢印Dの如く曲げ変形させることを阻止できる。
【0075】
一方、高速衝突により生じた衝撃荷重F2は、エネルギー吸収部材28の左端部28aおよびバンパービーム27の左端部27aを経て内側衝撃吸収部62に矢印Eの如く伝わるとともに、外側衝撃吸収部63に矢印Fの如く伝わる。
さらに、内側衝撃吸収部62に伝わった衝撃荷重が左フロントサイドフレーム11に矢印Gの如く伝わり、外側衝撃吸収部63に伝わった衝撃荷重が左アッパメンバー15に矢印Hの如く伝わる。
【0076】
図10は本発明に係る車体前部構造でオフセット高速衝突の衝突エネルギーを吸収する例を説明する図である。
左フロントサイドフレーム11を矢印D(図9(b)参照)の如く曲げ変形を防ぐことで、左フロントサイドフレーム11を良好に変形(すなわち、潰すように良好に変形)することができる。
これにより、左フロントサイドフレーム11の略中央部11bを略く字状に変形させて衝撃荷重を良好に吸収することができる。
【0077】
このように、左フロントサイドフレーム11を略く字状に変形させることで、エンジンルーム86を有効に潰すクラッシャブルゾーンとすることが可能になる。
これにより、左フロントサイドフレーム11の変形量を十分に確保して、エンジンルーム86の後方の車室内が変形することを抑えることができる。
【0078】
ここで、車体前部構造10の全面に高速衝突した場合も、図9〜図10で説明した内容と同様の作用・効果が得られる。
【0079】
なお、前記実施の形態では、バンパービーム27の左端部27aから前半部27fを除去して脆弱部29を設けた例について説明したが、これに限らないで、左端部27aの前半部27fを潰して脆弱部29とすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の車体前部構造は、フロントサイドフレームに衝撃吸収部を設け、この衝撃吸収部にバンパービームを設けた自動車への適用に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明に係る車体前部構造を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る車体前部構造の要部を示す斜視図である。
【図3】図2の3部拡大図である。
【図4】(a)は図3の4a−4a線断面図、(b)は(a)の分解図である。
【図5】本発明に係る車体前部構造の要部を示す平面図である。
【図6】(a)は図2の6a−6a線断面図、(b)は図2の6b−6b線断面図である。
【図7】本発明に係る車体前部構造のエネルギー吸収部材の左端部の前方に比較的大きな空間を確保した状態を示す図である。
【図8】本発明に係る衝撃吸収構造でオフセット低速衝突の衝突エネルギーを吸収する例を説明する図である。
【図9】本発明に係る車体前部構造にオフセット高速衝突する例を説明する図である。
【図10】本発明に係る車体前部構造でオフセット高速衝突の衝突エネルギーを吸収する例を説明する図である。
【図11】従来の車体前部構造でオフセット衝突の衝突エネルギーを吸収する例を説明する図である。
【符号の説明】
【0082】
10…車体前部構造、11…左フロントサイドフレーム(フロントサイドフレーム)、11a,12a…左右のフロントサイドフレームの前端部、12…右フロントサイドフレーム(フロントサイドフレーム)、13…左フロントピラー(フロントピラー)、14…右フロントピラー(フロントピラー)、15…左アッパメンバー(アッパメンバー)、15a,16a…左右のアッパメンバーの前端部、16…右アッパメンバー(アッパメンバー)、27…バンパービーム、27a…左端部、27b…右端部、27e…後半部、27g…端部後半部、28…エネルギー吸収部材、29…脆弱部(前部)、62…内側衝撃吸収部、63…外側衝撃吸収部、98…上高強度部(高強度部)、99…上中央高強度部(高強度部)、105…下高強度部(高強度部)、106…下中央高強度部(高強度部)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前後方向にフロントサイドフレームを延ばし、前記フロントサイドフレームの上側後方にフロントピラーを設け、前記フロントピラーから前方に向けてアッパメンバーを延ばすとともに、前記アッパメンバーを前記フロントサイドフレームの外側に配置し、それぞれの前端部に内外側の衝撃吸収部を内側と外側とに設け、前記内外側の衝撃吸収部の前端部にバンパービームを設けた車体前部構造において、
前記バンパービームは、
後半部に高強度部が設けられ、
左右の端部が車体側へ向けて曲げられ、
該左右の端部において、それぞれの前部に、前記内側衝撃吸収部の内壁部に相当する部位から外側にわたり脆弱部が形成され、
前記左右の端部の後部が前記内外側の衝撃吸収部で支持されたことを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
前記脆弱部は、前記左右の端部の前部を切り欠くことで形成されたことを特徴とする請求項1記載の車体前部構造。
【請求項3】
前記左右の端部の前部を切り欠くことで形成された前記脆弱部の開口を蓋部材で塞いだことを特徴とする請求項2記載の車体前部構造。
【請求項1】
車体前後方向にフロントサイドフレームを延ばし、前記フロントサイドフレームの上側後方にフロントピラーを設け、前記フロントピラーから前方に向けてアッパメンバーを延ばすとともに、前記アッパメンバーを前記フロントサイドフレームの外側に配置し、それぞれの前端部に内外側の衝撃吸収部を内側と外側とに設け、前記内外側の衝撃吸収部の前端部にバンパービームを設けた車体前部構造において、
前記バンパービームは、
後半部に高強度部が設けられ、
左右の端部が車体側へ向けて曲げられ、
該左右の端部において、それぞれの前部に、前記内側衝撃吸収部の内壁部に相当する部位から外側にわたり脆弱部が形成され、
前記左右の端部の後部が前記内外側の衝撃吸収部で支持されたことを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
前記脆弱部は、前記左右の端部の前部を切り欠くことで形成されたことを特徴とする請求項1記載の車体前部構造。
【請求項3】
前記左右の端部の前部を切り欠くことで形成された前記脆弱部の開口を蓋部材で塞いだことを特徴とする請求項2記載の車体前部構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−137359(P2009−137359A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−313772(P2007−313772)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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