説明

車体前部構造

【課題】ポールのように車幅方向に広がりを備えていない障害物に対して車幅方向中央部分が激突したときにパワープラントの後退を阻止する。
【解決手段】フロントサイドフレーム22は、前端から後端に向けて順に、第1域A、第2域B、第3域Cに区分されて各領域A〜Cにおいて異なるエネルギ吸収構造が採用されている。第2域Bと第3域Cとの間の境界部分には上下に延びるロングボルト60が設けられ、ロングボルト60によって、横置きエンジン32の後方且つ隣接して車幅方向に延びる中空パイプ部材64の左右の端部及びペリメータフレーム28から上方に延びるアーム部材62の上端部が共締めされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体前部構造に関し、より詳しくは、ポール状の障害物に対して車幅方向中央部分が前面衝突したときの安全性を向上することのできるものに関する。
【背景技術】
【0002】
車体前部は、一般的に、車体前端において車幅方向に延びるバンパーレインフォースメントの左右の端部を夫々左右一対のフロントサイドフレームの前端に連結する、より詳しくはクラッシュカンを介して連結する構造が採用されている。すなわち、車体前部構造として、左右のフロントサイドフレームは前面衝突の際の主なる衝撃吸収部材として機能する構造が採用されている。
【0003】
前面衝突に関する衝撃安全性能試験は二つの態様で行われている。第一の態様がフルラップ前面衝突であり、第二の態様がオフセット前面衝突である。フルラップ前面衝突試験では、車両を所定速度でコンクリート製の障壁に衝突させることにより行われる。オフセット前面衝突試験では、車両の一方の側部(オーバーラップ率40%)をハニカム状の障壁に前面衝突させることにより行われる。
【0004】
特許文献1は、左右のフロントサイドフレームの前端にクラッシュカンを介してバンパーレインフォースメントを取り付けると共に、フロントサイドフレームの下方にサブフレームとして平面視略矩形の枠形状のいわゆるペリメータフレームを配設した車体前部構造を開示し、そして、低速でポールに前面衝突において低速でポールに衝突したときに、クラッシュカンで衝突エネルギを吸収することを提案している。
【0005】
特許文献2は、フルラップ前面衝突及びオフセット前面衝突において、衝突初期で、フロントサイドフレームの前端部の座屈により衝突エネルギを吸収すると共に衝突後期における乗員の減速度を緩和する発明を提案している。具体的には、特許文献2は、矩形閉断面構造の左右のフロントサイドフレームの後端部間に亘って車幅方向に延びるパイプを設け、このパイプの左右の各端をフロントサイドフレームの内側側面に連結する構造を提案している。この発明によれば、衝突によりパワープラントが後退すると、この後退するパワープラントにより、車幅方向に延びる連結パイプが後方に屈曲し、この連結パイプの屈曲によって左右のフロントサイドフレームの後端部を車幅方向内方側に屈曲させることで、衝突後期の乗員の減速度を緩和することができる。
【0006】
特許文献3は、左右のフロントサイドフレームと、その下方に配設した平面視略矩形の枠形状のサブフレーム(ペリメータフレーム)とを連結する、その連結構造によってフルラップ前面衝突及びオフセット前面衝突における衝突初期及び衝突中期の衝突耐力の向上と衝突後期の減速度を緩和する提案を行っている。
【0007】
【特許文献1】特開2006−175988号公報
【特許文献2】特開2002−120752号公報
【特許文献3】特開2004−26888号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述したように前面衝突の態様として典型的にはフルラップ衝突及びオフセット衝突を挙げることができるものの、実際の前面衝突事故では種々様々な態様があるのは勿論である。その一つに、道路脇に植設された電柱や道路標識の支柱などに激突した場合である。このポール状の障害物に対して車両の側部で前面衝突したときには、前述したオフセット前面衝突試験と同様に、一方のフロントサイドフレームによって衝撃を吸収することが可能である。しかし、車両の車幅方向中央部分がポール状の障害物に激突した場合、バンパーレインフォースメントは、一般的に設計上これを受け止める強度を備えていないため、その車幅方向中央部分で折れ曲がってしまい、この結果、左右のフロントサイドフレームが機能せずに大きな損壊が発生してしまう虞がある。
【0009】
本発明の目的は、ポールのように車幅方向に広がりを備えていない障害物に対して車幅方向中央部分が激突したときにパワープラントの後退を阻止することのできる車体前部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の技術的課題は、本発明によれば、
車体前部に配設されてエンジンが配設されるエンジンルームと、
該エンジンルームを車体前後方向に延び且つ略矩形の閉断面構造の左右のフロントサイドフレームと、
該左右のフロントサイドフレームの下方に配設され、前輪サスペンション機構に含まれるアーム部材の取付部を構成するサブフレームとを含む車体前部構造において、
前記サブフレームから前記左右のフロントサイドフレームの下面に向けて上方に延びるアーム部材と、
前記エンジンの後方且つこれに隣接して位置し、前記左右フロントサイドフレーム間を車幅方向に延びるエンジン後退阻止部材と、
前記フロントサイドフレームを上下に貫通し、該フロントサイドフレームと前記アーム部材とを連結するロングボルトとを有し、
該ロングボルトによって前記アーム部材の上端部が締結される前記フロントサイドフレームの部位に、前記エンジン後端阻止部材の左右の端部が連結されていることを特徴とする車体前部構造を提供することにより達成される。
【0011】
本発明によれば、前面衝突においてポールのように車幅方向に大きな幅を有していない障害物に対して車幅方向中央部分が激突したときに、このポールがエンジンルーム内に侵入し、そしてエンジンと干渉してエンジンの後退が発生したときには、後退するエンジンはエンジン後退阻止部材によって受け止められる。そして、エンジン後退阻止部材に入力した衝突荷重は左右のフロントサイドフレームに分散され、また、ロングボルトによってサブフレームに分散される。また、エンジン後退阻止部材によって左右のフロントサイドフレームが車幅方向内方に引っ張られて車幅方向内方側に屈曲するのをサブフレームによって阻止される。これにより、エンジン後退阻止部材によるエンジン後退を阻止することができる。また、車幅方向に延びるエンジン後退阻止部材を追加することで、既存の車体前部構造の基本構造を大きく変更することなく、ポールのような障害物に対して車幅方向中央部分が衝突する前面衝突に関する安全性を向上させることができる。
【0012】
本発明の好ましい実施の形態にあっては、
前記エンジン後退阻止部材の左右の端部が前記ロングボルトによって前記フロントサイドフレーム及び前記アーム部材に共締めされている。この実施の形態によれば、フロントサイドフレームにロングボルトを挿通するための貫通孔を設けたとしても、この貫通孔は矩形閉断面構造のフロントサイドフレームを上下に貫通する孔であることから、フロントサイドフレームの強度をそれ程低下させることはない。
【0013】
本発明の好ましい実施の形態にあっては、
前記フロントサイドフレームが、その前端から後端に向けて区分される複数の領域で異なる衝突エネルギ吸収構造を有し、前記複数の領域のうち互いに隣接する領域の境界部分に前記ロングボルトが配設されている。この実施の形態によれば、フロントサイドフレームの衝突エネルギ吸収構造の異なる領域の境界部分にロングボルトを位置させることで、フルラップ前面衝突又はオフセット前面衝突におけるフロントサイドフレームの衝突エネルギ吸収機能を阻害することなく、車幅方向に延びるエンジン後退阻止部材によってエンジンの後退を阻止することができる。
【0014】
本発明の好ましい実施の形態にあっては、
前記エンジン後退阻止部材は、平面視したときに、その中央部分が前方に凸のアーチ形状を有する。この実施の形態によれば、エンジン後退阻止部材は、その前方に凸の中央部分によって後退するエンジンを受け止めることになるが、エンジン後退阻止部材に入力した衝突荷重は、このエンジン後退阻止部材の曲げではなく、圧縮方向の軸力としてエンジン後退阻止部材に作用し、後退するエンジンから入力される荷重を損失なしにフロントサイドフレームに伝達することができる。
【0015】
本発明の他の目的及び作用効果は、以下の好ましい実施例の詳細な説明から明らかになろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、添付の図面に基づいて本発明の好ましい実施例を説明する。
【0017】
第1実施例(図1〜図6)
図1は第1実施例の車体前部構造の平面図であり、図2は斜め後方から見た第1実施例の車体前部構造の斜視図であり、図3は側面視した第1実施例の車体前部構造である。
【0018】
先ず図3を参照して、参照符号10はダッシュパネルを示し、ダッシュパネル10によって車室12とエンジンルーム14とが区画されている。車室12には、インスツルメントパネル16、ブレーキペダル18やアクセルペダル等が設けられている。参照符号20はフロントウインドウである。
【0019】
エンジンルーム14の下方域には、車体前後方向にエンジンルーム14の全域に亘って延在する左右のフロントサイドフレーム22が配設されており、フロントサイドフレーム22は矩形の閉断面構造を有している。既知のように、左右のフロントサイドフレーム22の前端には、車幅方向に延びるバンパーレインフォースメント24がクラッシュカン26を介して連結されている。エンジンルーム14の下方域には、更に、フロントサイドフレーム22よりも下方に位置するサブフレーム28が配設されている。参照符号30は前輪である。
【0020】
エンジンルーム14には内燃多気筒エンジン32が搭載されている。エンジン32は、水冷式の直列四気筒エンジンであり、図1から最も良く分かるようにエンジン出力軸を車幅方向に向けてエンジンルーム14内に搭載されている。すなわち、エンジンルーム14に搭載されたエンジン32は横置きのレシプロエンジンであり、エンジン32の後端にはトランスアクスル34が連結されている。換言すると、エンジン32とトランスアクスル34は車幅方向に並んで配設され、エンジン出力は、トランスアクスル34に内蔵されたデファレンシャルギア36(図3)を介して左右の前輪30に分配される。この自動車は前輪駆動形式の車両であるが、4輪駆動形式の車両に対しても本発明を適用することができる。
【0021】
エンジン32は水冷式エンジンであり、このエンジン32の冷却水は、左右のフロントサイドフレーム22の前端部の間のシュラウドパネル(図示せず)に固設されたラジエータ38によって冷却される。
【0022】
横置きのエンジン32は前方吸気、後方排気の形式が採用されており(図3)、エンジン32のシリンダヘッド40には、その前面に吸気管42が連結され、後面に排気管44が連結されている。
【0023】
サブフレーム28は、左右のフロントサイドフレーム22の前端部及び後端部の間を車幅方向に延びる前方及び後方部分28a、28bと、各フロントサイドフレーム22に沿って延びる左右の側方部分28cと、を有する平面視略矩形の枠形状のペリメータフレームで構成されている。ペリメータフレーム28の後方部分28bはペリメータフレーム28の本体を構成し、この後方部分28bの左右両端部に、後に説明する前輪サスペンション機構のアーム部材が取り付けられている。
【0024】
図1を参照して、ペリメータフレーム28は、その左右の前端部28Fの各々が、これに対応したフロントサイドフレーム22の前端部にボルト固定され、また、後端部28Rが車室12のフロアパネルにボルト固定されている。このペリメータフレーム28には、前輪20のサスペンション機構46に含まれる第1、第2のロアアーム48、50の車幅方向内端ピボット点48a、50aが設けられており、相対的に後方に位置する第2ロアアーム50のピボット点50aはペリメータフレーム28の後方部分28bの左右の端部に配設されている(図2)。
【0025】
エンジンルーム14に配設されているトランスアクスル34付きエンジン32は、左右のフロントサイドフレーム22の上面に第1、第2のマウント部材52、54を介して搭載され、また、エンジン32の後端は、第3のマウント部材56を介してペリメータフレーム28の後方部分28cに連結されている(図1)。図1〜図3において、参照符号58はステアリングリンク機構を示す。
【0026】
フロントサイドフレーム22は、正面衝突の際のエネルギ吸収部材として用いられているのは周知の通りであるが、エネルギ吸収の方法として、その長手方向つまり車体前後方向において3つの領域に区分して異なるエネルギ吸収構造が採用されている。図1を参照して説明すると、フロントサイドフレーム22は、その前端から後端に向けて順に、第1域A、第2域B、第3域Cに区分されている。フロントサスペンション機構46が配設されるサスペンションタワー(図示せず)は、フロントサイドフレーム22の長手方向中央領域である第2域Bに設けられる。
【0027】
フロントサイドフレーム22に前方から衝突荷重が加わると、前端部に位置する第1域Aが座屈するように設計される。長手方向中間部分に位置する第2域Bはサスペンションタワーと共に三次元的に屈曲するように設計される。後端部に位置する第3域Cも屈曲するように設計されるが、第3域Cは第2域Bとは異なる形態で屈曲するように設計される。
【0028】
上記の第2域Bと第3域Cとの境界部分に、好ましくは、上下方向に延びるロングボルト60がフロントサイドフレーム22を上下に貫通して配設され、このロングボルト60によってフロントサイドフレーム22とその下方に位置するペリメータフレーム28に関連したアーム部材62が互いに連結されている。そして、このロングボルト60を使って車幅方向に延びる中空パイプ部材64の各端が共締めされている(後に説明する図5を参照のこと)。
【0029】
図2、図3を参照して、ペリメータフレーム28は、各フロントサイドフレーム22の下面に向けて上方に延びるアーム部材62を有し、このアーム部材22の上端がクッション材66を介してフロントサイドフレーム22の下面にロングボルト60及びナット68を使って締結される。図4はフロントサイドフレーム22とアーム部材22との連結部分の縦断面図であり、図5は、当該部分の部分斜視図である。
【0030】
図4、図5を参照して、車幅方向に延びる中空パイプ部材64の左右の各端は、上下に潰されて平板状の形状に成形され、この平板状の端部64aにロングボルト60を受け入れるボルト挿通孔70が形成されている。中空パイプ部材64の両端部を平板状にすることで、中空パイプ部材64の端部をフロントサイドフレーム22に締結する際にフロントサイドフレーム22に対する座面を拡大して安定的に中空パイプ部材64をフロントサイドフレーム22に固定することができる。
【0031】
左右のフロントサイドフレーム22、22の間を車幅方向に延びる中空パイプ部材64の両端部64aは、この第1実施例では、フロントサイドフレーム22の上面に着座した状態で設置される。そして、中空パイプ部材64は、エンジン32、トランスアクスル34、排気管44及びエンジン32の後方に配設される補機類(図示せず)と干渉しないようにしてエンジン32の後方且つエンジン32の後面に隣接して配設されている。
【0032】
具体的には、中空パイプ部材64は、図2から最も良く分かるように、横置きエンジン32の後方を通り、また、エンジン32に一体化されたトランスアクスル34のデファレンシャルギア36のデフケース部分の上方を通り、また、後方排気形式の排気管44の下方及び前方を通って車幅方向に延びている。なお、図示の例では、中空パイプ部材64は上方及び/又は前方に向けて凸となるように、その車幅方向中央部分が突出したアーチ状の形状を有しているが、変形例として図示した図6に例示するように真っ直ぐに延びる形状であってもよい。
【0033】
中空パイプ部材64が直線状の場合は、これを熱処理などにより強靱に製作したとしても、後退するエンジン32が中空パイプ部材64に衝突して、その中央部分から後方に曲げ変形が発生するため、衝突荷重をフロントサイドフレーム22に伝達するのに損失が生じる。ここに、中空パイプ部材64を平面視で前方に凸となるアーチ状に作った場合には、アーチ形状の中央部分の前方に向けての凸部分で、後退するエンジン32を受け止め、中空パイプ部材64に入力した衝突荷重は、アーチ形状の性質により、中空パイプ部材64の曲げではなく、圧縮方向の軸力として中空パイプ部材64自身に作用するため、中空パイプ部材64の曲げ変形を生じることなく、受け止めた衝突荷重を損失なしにフロントサイドフレーム22に伝達することができる。また、中空パイプ部材64を前方に向けて凸形状とすることで、この中空パイプ部材64との干渉を回避して、その後方に位置する排気管44を配置し易くなり、排気管44のレイアウトの自由度を向上させることができる。
【0034】
このフロントサイドフレーム22に連結された中空パイプ部材64は、車両が前面衝突したときにエンジン32を含むパワープラントが後退するのを阻止するための部材であり、高速で衝突したときでも、中空パイプ部材64が変形することなく、後退するエンジン32を受け止めることができる剛性を備えているのがよい。したがって、中空パイプ部材64は、所定の剛性を備えている限り、これに代えて中実のロッド部材であってもよいし、パネルで閉断面構造に成形した部材であってもよい。
【0035】
高速で走行中に前面衝突したときに、バンパーレインフォースメント24の車幅方向中央部分にポールなどが激突してバンパーレインフォースメント24が車幅方向中央部分で屈曲し、そしてエンジンルーム14内に侵入してエンジン32、トランスアクスル34を含むパワープラントを後退させたときには、エンジン32などのパワープラントの後方且つこれに隣接した中空パイプ部材64によって、後退するパワープラントが受け止められる。そして、この中空パイプ部材64に入力した衝突荷重はフロントサイドフレーム22に分散される。
【0036】
また、中空パイプ部材64はロングボルト60によってサブフレーム(ペリメータフレーム)28にも共締めされているため、中空パイプ部材64に入力した衝突荷重はペリメータフレーム28にも分散されることになると共に、左右のフロントサイドフレーム22を内側に屈曲させようとする力に対してペリメータフレーム28がこれに抗するため、中空パイプ部材64、左右のフロントサイドフレーム22、ペリメータフレーム28が互いに協働して、エンジン32などのパワープラントが後退するのを阻止することができる。
【0037】
勿論のことであるが、フルラップ前面衝突、オフセット前面衝突に対する衝突エネルギを吸収する基本構造に大きな変更を必要とせずに、パワープラント後退抑制部材である中空パイプ部材64を追加するだけで車幅方向中央部分がポールなどの障害物に激突した場合にもフロントサイドフレーム22の衝撃吸収構造を使って、パワープラントの後退を阻止しつつ衝突エネルギを吸収することができる。
【0038】
また、閉断面構造のフロントサイドフレーム22を貫通するロングボルト60によって中空パイプ部材64をフロントサイドフレーム22に固定する構造を採用することにより、中空パイプ部材64から入力される衝突荷重をフロントサイドフレーム22の互いに対抗する面に分散することができる。この作用を的確にするために、図5から分かるように、第2のナット72をフロントサイドフレーム22の対抗面(下面)に予め固定しておき、ロングボルト60の中間部分をこの第2ナット72を介してフロントサイドフレーム22の下面に締結するのが好ましい。
【0039】
また、フルラップ前面衝突、オフセット前面衝突のようなフロントサイドフレーム22の変形によって衝突荷重を吸収するのに、上述したようにフロントサイドフレーム22のように、フロントサイドフレーム22を長手方向に複数の領域(実施例では第1域〜第3域A〜C)に区分し、そして、隣接する領域の境界にロングボルト60つまり中空パイプ部材64の端部の連結部位を設定することにより、フルラップ前面衝突、オフセット前面衝突の際の基本的なエネルギ吸収機能つまりフロントサイドフレーム22の変形動作を阻害することなく、上述したようなポール衝突の際のパワープラントの後退を阻止することができる。
【0040】
第2実施例(図7〜図10)
図7〜図10は第2実施例の車体前部構造を示し、この第2実施例の説明において、前述した第1実施例と同じ要素には同じ参照符号を付すことにより、その説明を省略して、以下に第2実施例の特徴部分について説明する。
【0041】
前述した第1実施例では、パワープラント後退阻止部材である中空パイプ部材64の左右の各端部64aを矩形閉断面構造のフロントサイドフレーム22の上面に配設したが、第2実施例では、図10から最も良く分かるように、中空パイプ部材64の左右の各端部64aをフロントサイドフレーム22の下面、つまりフロントサイドフレーム22と、ペリメータフレーム28から上方に延びるアーム部材28の上端部との間に配設されている。この第2実施例においても、前述した第1実施例と実質的に同じ作用効果を奏することは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】第1実施例の車体前部構造を平面視した図である。
【図2】第1実施例の車体前部構造を斜め後方から見た図である。
【図3】第1実施例の車体前部構造を側面視した図である。
【図4】パワープラント後退阻止部材である中空パイプ部材の端部がロングボルトを使ってフロントサイドフレームの上面に締結されるのを説明するための部分拡大図である。
【図5】図4の部位の縦断面図である。
【図6】第1実施例に含まれる中空パイプ部材の変形例を示す、図2に対応した図である。
【図7】第2実施例の車体前部構造を平面視した図である。
【図8】第2実施例の車体前部構造を斜め後方から見た図である。
【図9】第2実施例の車体前部構造を側面視した図である。
【図10】パワープラント後退阻止部材である中空パイプ部材の端部が、フロントサイドフレームの下面と、ペリメータフレームから上方に延びるアーム部材の上端部との間に配設されて、ロングボルトによって共締めされるのを説明するための縦断面図である。
【符号の説明】
【0043】
14 エンジンルーム
22 フロントサイドフレーム
24 バンパーレインフォースメント
26 クラッシュカン
28 サブフレーム(ペリメータフレーム)
32 横置きエンジン
34 トランスアクスル
36 デファレンシャルギア
42 吸気管
44 排気管
46 前輪サスペンション機構
48 第1ロアアーム
50 第2ロアアーム
52 第1エンジンマウント部材
54 第2エンジンマウント部材
56 第3マウント部材
60 ロングボルト
62 ペリメータフレームから上方に延びるアーム部材
64 中空パイプ部材(パワープラント後退阻止部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前部に配設されてエンジンが配設されるエンジンルームと、
該エンジンルームを車体前後方向に延び且つ矩形の閉断面構造の左右のフロントサイドフレームと、
該左右のフロントサイドフレームの下方に配設され、前輪サスペンション機構に含まれるアーム部材の取付部を構成するサブフレームとを含む車体前部構造において、
前記サブフレームから前記左右のフロントサイドフレームの下面に向けて上方に延びるアーム部材と、
前記エンジンの後方且つこれに隣接して位置し、前記左右フロントサイドフレーム間を車幅方向に延びるエンジン後退阻止部材と、
前記フロントサイドフレームを上下に貫通し、該フロントサイドフレームと前記アーム部材とを連結するロングボルトとを有し、
該ロングボルトによって前記アーム部材の上端部が締結される前記フロントサイドフレームの部位に、前記エンジン後端阻止部材の左右の端部が連結されていることを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
前記エンジン後退阻止部材の左右の端部が前記ロングボルトによって前記フロントサイドフレーム及び前記アーム部材に共締めされている、請求項1に記載の車体前部構造。
【請求項3】
前記フロントサイドフレームが、その前端から後端に向けて区分される複数の領域で異なる衝突エネルギ吸収構造を有し、
前記複数の領域のうち互いに隣接する領域の境界部分に前記ロングボルトが配設されている、請求項2に記載の車体前部構造。
【請求項4】
前記エンジン後退阻止部材の左右の端部が、前記矩形閉断面構造のフロントサイドフレームの上面に接した状態で該フロントサイドフレームに前記ロングボルトによって固定されている、請求項2又は3に記載の車体前部構造。
【請求項5】
前記エンジン後退阻止部材の左右の端部が、前記矩形断面構造のフロントサイドフレームの下面と前記アーム部材の上端部との間に位置した状態で該フロントサイドフレームに前記ロングボルトによって固定されている、請求項2又は3に記載の車体前部構造。
【請求項6】
前記エンジン後退阻止部材が中空パイプ部材で構成され、該中空パイプ部材の左右の両端部が上下に押し潰されて平板状の端部で構成され、該平板状の端部にボルト挿通孔が形成されて、該ボルト挿通孔に前記ロングボルトが挿入されている、請求項4又は5に記載の車体前部構造。
【請求項7】
前記エンジンルームに配設されたエンジンがその出力軸を車幅方向に向けた横置きエンジンであり、該横置きエンジンの車幅方向外方にトランスアクスルが一体に組み付けられて、前記横置きエンジンと前記トランスアクスルとでパワープラントが構成されており、
更に、
前記横置きエンジンの後面に排気管が連結され、
前記エンジン後退阻止部材が、前記横置きエンジンの後方且つこれに隣接して車幅方向に延び、また、前記排気管の下方且つ前記トランスアクスルのデファレンシャルギアの上方を通過して車幅方向に延びている、請求項2〜6のいずれか一項に記載の車体前部構造。
【請求項8】
前記エンジン後退阻止部材は、平面視したときに、その中央部分が前方に凸のアーチ形状を有する、請求項7に記載の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−83260(P2010−83260A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252943(P2008−252943)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】