説明

車体骨格部材及びその製造法

【課題】屈曲部を起点として早期の大きな折れ曲がり変形の発生、製造コストの上昇を抑制、軽量化を図る車体骨格部材を提供する。
【解決手段】残余部2−1〜2−3が、非焼入れ組織を有するとともに、筒状体0aの外部へ向けて突出するとともに軸方向へ延設される第1の突出部4を有する。第1の突出部4は、いずれもスポット溶接可能高さを有するフランジ4a,4bと、2つのフランジ4a,4bを重ね合わせて溶接するレーザー溶接部4cとを有する。屈曲部3−1、3−2は、焼入れ組織を有するとともに、筒状体0aの外部へ向けて突出するとともに軸方向へ延設される第2の突出部5を有する。第2の突出部5は、スポット溶接可能高さよりも低い高さを有する1つのフランジ5aと、パネル5bと、1のフランジ5aの側面にパネル5bの端面5dを突き合わせて溶接するレーザー溶接部5cとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体骨格部材及びその製造法に関し、具体的には、自動車車体を構成するサイドメンバー、クロスメンバー、シル、ルーフレールサイド等の車体骨格部材と、その製造法とに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車車体は、軽量化及び生産性の観点から、旧来のいわゆるフレーム構造(梯子状のフレームに、エンジン、ラジエター、サスペンション、トランスミッション、デファレンシャル、燃料タンク等の主要部品を搭載・装着するとともに、エンジンコンパートメント、キャビンおよびトランクルームからなるボディを被せる構造)に替えて、フレームとボディとを一体構造としたモノコックボディ(ユニット・コンストラクションボディ)が用いられる。
【0003】
モノコックボディは、アンダーボディ(プラットフォーム)と一体化されたボディの要所に配置された各種の車体骨格部材(例えば、サイドメンバー、クロスメンバー、シル、ルーフレールサイド等)を備える。
【0004】
これらの車体骨格部材は、充分な剛性や強度を確保するとともに製造コストを抑制するため、通常、(a)図4に示すような第1の略ハット部材40と第2の略ハット部材41とを、それぞれのフランジ部40a、41aによりスポット溶接することにより得られる、全長にわたって突出部42a,42aを有する閉断面の筒状体42(例えば特許文献1の図1参照)、(b)図5に示すような、板材を例えばロールフォーミングやプレス成形により所定の断面形状に丸めて成形体43とし、成形体43の二つの縁に形成したフランジ部43a、43a同士をスポット溶接することにより得られる、全長にわたって突出部44aを有する閉断面の筒状体44(例えば特許文献2参照)、(c)図6に示すような例えばハイドロフォーミング工法や、鋼管の曲げ加工により成形した突出部を有さない筒状体45(例えば特許文献3参照)等により構成される。
【0005】
衝突事故時に負荷される衝撃荷重は、主にこれらの車体骨格部材をなす筒状体42、44、45の軸方向(図4〜6における紙面に直交する方向)へ順次伝播・分散される。車体に加えられた衝撃エネルギーは、最終的に、これらの筒状体42、44、45が軸方向へ圧潰したり屈曲したりすることによって車体全体によって吸収され、これにより、キャビンに生存空間を確保しながら、乗員に加えられる衝撃エネルギーが軽減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭58−105881号公報
【特許文献2】特開2010−75945号公報
【特許文献3】特開2000−219163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1により開示された車体骨格部材の筒状体42は突出部42a、42aを備える閉断面を有するとともに、特許文献2により開示された車体骨格部材の筒状体44も突出部44aを備える閉断面を有する。また、車体骨格部材の筒状体42、44は、軸方向へ向けて真っ直ぐに形成されることは稀であり、他部品との干渉を避けるためや必要な空間を確保するために、軸方向へ比較的小さな曲率半径で屈曲したり、あるいは比較的大きな曲率半径で湾曲して形成される。
【0008】
このため、筒状体42、44の軸方向へ負荷される衝撃荷重により、最も変形しやすい部位は屈曲部であり、この部分の強度を高めることが重要であるとともに、衝撃荷重による変形の安定性を確保することが、部品の性能上重要である。
【0009】
筒状体42、44のように、部分的に強度を高めたとしても、屈曲部に大きな突出部を有する場合には、変形のばらつきが大きくなる場合が多い。すなわち、大きな突出部は比較的自由に変形できるため、最も応力が高くなる突出部先端の部分の、接合強度のばらつきの影響を受けやすいのである。
【0010】
特許文献3により開示された車体骨格部材の筒状体45は、突出部を有さないので、このような課題は存在しないとともに製品によっては20%以上の軽量化を図ることが可能になる。しかし、筒状体45は、突出部を有さないことから、突出部を介して例えばスポット溶接やボルト締結等によって他の部材と接合することができない。筒状体45を他の部材と接合するためには、アーク溶接を用いざるを得なくなるが、自動化の困難性、タクトタイムの増加、さらには溶接後の製品寸法精度や品質の低下といった問題がある。
【0011】
また、筒状体45は、その形状によっては例えばハイドロフォーミング工法により成形する必要があることから、筒状体42、44に比べて製造コストの上昇も否めない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、車体骨格部材を構成する筒状体の屈曲部は、フランジを有さないか或いは高さの低いフランジを有する高強度部とするとともに、屈曲部以外の部分(例えば直線部や湾曲部)はフランジを有するとともに前記屈曲部よりも強度が低い部分とすることによって、筒状体の軸方向へ負荷される衝撃荷重によっても屈曲部を起点として大きな折れ曲がり変形の早期の発生を抑制しながら屈曲部の変形の安定性を確保することができ、製造コストの上昇を抑制でき、さらには、筒状体の軽量化も図れることを知見し、さらに検討を重ねて、本発明を完成した。
【0013】
本発明は、閉断面を有する筒状体を備える車体骨格部材であって、この筒状体が、筒状体の軸方向へ向けて屈曲する1又は2以上の屈曲部と、この屈曲部を除く残余部とを有し、(a)残余部が、非焼入れ組織を有するとともに、筒状体の外部へ向けて突出するとともに軸方向へ延設される第1の突出部を有し、この第1の突出部が、いずれもスポット溶接可能高さを有する2つのフランジと、この2つのフランジを重ね合わせて溶接することによって閉断面を形成するための溶接部とを有し、かつ(b)屈曲部が、焼入れ組織を有するとともに、筒状体の外部へ向けて突出するとともに軸方向へ延設される第2の突出部を有し、この第2の突出部が、スポット溶接可能高さよりも低い高さを有する1つのフランジと、パネルと、1つのフランジの端面又は側面にパネルの端面を突き合わせて溶接することによって閉断面を形成するための溶接部とを有することを特徴とする自動車の車体骨格部材である。
【0014】
本発明は、第1の部分及び第2の部分を軸方向へ向けて備えるとともに閉断面を有し、例えばロールフォーミングあるいはプレス成形により製造される筒状体の軸方向に部分的に、軸方向へ移動する焼入れ温度被加熱領域を形成しながら、焼入れ温度被加熱領域に間欠的に曲げモーメントを与えることにより筒状体に曲げ加工を行うことによって、上述した本発明に係る車体骨格部材を製造する方法であって、焼入れ温度被加熱領域が第1の部分に存在する時には、第1の部分に、曲げ加工を行わないか、あるいは、比(R/D)が2%以下の緩やかな曲げ加工を行うとともに、焼入れ温度被加熱領域が第2の部分に存在する時には、第2の部分に、比(R/D)が2%を超える厳しい曲げ加工を行うことを特徴とする車体骨格部材の製造法である。
【0015】
ただし、第1の部分は、筒状体の外部へ向けて突出するとともにその軸方向へ延設される第1の突出部を有し、この第1の突出部が、いずれもスポット溶接可能高さを有する2つのフランジと、2つのフランジを重ね合わせて溶接することによって閉断面を形成するための溶接部とを有する。また、第2の部分は、筒状体の外部へ向けて突出するとともにその軸方向へ延設される第2の突出部を有し、この第2の突出部が、スポット溶接可能高さよりも低い高さを有する1つのフランジと、パネルと、1のフランジの端面又は側面にパネルの端面を突き合わせて溶接することによって閉断面を形成するための溶接部とを有する。さらに、Rは図芯の曲げ半径であり、Dは、フランジを含む曲げ方向の図芯からの最大距離である。
【0016】
別の観点からは、本発明は、閉断面を有する筒状体を備える車体骨格部材であって、この筒状体が、筒状体の軸方向へ向けて屈曲する1又は2以上の屈曲部と、この屈曲部を除く残余部とを有し、残余部が、非焼入れ組織を有するとともに、筒状体の外部へ向けて突出するとともに軸方向へ延設される第1の突出部を有し、この第1の突出部は、いずれもスポット溶接可能高さを有する2つのフランジと、これら2つのフランジを重ね合わせて溶接することによって閉断面を形成するための溶接部とを有し、かつ、屈曲部が、焼入れ組織を有するとともに、筒状体の外部へ向けて突出する突出部を有さないことを特徴とする自動車の車体骨格部材である。
【0017】
本発明は、下記第1の部分及び下記第2の部分を軸方向へ向けて備えるとともに閉断面を有する筒状体の軸方向に部分的に、軸方向へ移動する焼入れ温度被加熱領域を形成しながら、焼入れ温度被加熱領域に間欠的に曲げモーメントを与えることにより筒状体に曲げ加工を行うことによって、上述した本発明に係る車体骨格部材を製造する方法であって、焼入れ温度被加熱領域が第1の部分に存在する時には、第1の部分に、曲げ加工を行わないか、あるいは、比(R/D)が2%以下の緩やかな曲げ加工を行うとともに、焼入れ温度被加熱領域が第2の部分に存在する時には、第2の部分に、比(R/D)が2%を超える厳しい曲げ加工を行うことを特徴とする車体骨格部材の製造法である。
【0018】
ただし、第1の部分は、筒状体の外部へ向けて突出するとともにその軸方向へ延設される第1の突出部を有し、この第1の突出部が、いずれもスポット溶接可能高さを有する2つのフランジと、これら2つのフランジを重ね合わせて溶接することによって閉断面を形成するための溶接部とを有し、第2の部分は、筒状体の外部へ向けて突出する突出部を有さず、さらに、Rは図芯の曲げ半径であり、Dは、フランジを含む曲げ方向の図芯からの最大距離である。
【0019】
これらの本発明では、残余部が、筒状体の軸方向へ向けて直線的に形成される直線部、及び/又は、屈曲部よりも大きな曲げ半径を有する湾曲部であることが望ましい。
これらの本発明では、屈曲部が780MPa以上の引張強度を有することが望ましく、1200MPa以上の引張強度を有することがさらに望ましく、1400MPa以上の引張強度を有することがよりいっそう望ましい。
【0020】
これらの本発明では、残余部が980MPa未満の引張強度を有することが望ましく、780MPa未満の引張強度を有することがさらに望ましい。
これらの本発明では、屈曲部の比(R/D)は0〜2%であり、残余部の比(R/D)は2%以上であることが望ましい。ただし、Rは図芯の曲げ半径であり、Dは、フランジを含む曲げ方向の図芯からの最大距離である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、屈曲部を起点として早期の大きな折れ曲がり変形の発生を抑制できるとともに屈曲部の変形の安定性を確保することができ、他の部材との接合性も良好であって、製造コストの上昇を抑制することができ、さらに軽量化を図ることができる車体骨格部材を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1(a)は、本発明に係る車体骨格部材の素材の形状を示す説明図であり、図1(b)は、本発明に係る車体骨格部材の形状を示す説明図であり、図1(c)は、素材の第1の部分の横断面図であり、図1(d)は、素材の第2の部分の横断面図であり、図1(e)は、他の素材の第1の部分の横断面図であり、図1(f)は、他の素材の第2の部分の横断面図である。
【図2】図2は、車体骨格部材を製造するために用いる曲げ加工装置の構成の一部を簡略化および省略して概念的に示す斜視図である。
【図3】図3は、第1の産業用ロボット、第2の産業用ロボットおよび第3の産業用ロボットの構成例を示す説明図である。
【図4】従来の車体骨格部材の筒状体の断面図である。
【図5】従来の他の車体骨格部材の筒状体の断面図である。
【図6】従来のさらに他の車体骨格部材の筒状体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照しながら説明する。以下、素材、製造法、車体骨格部材の順に説明する。
【0024】
1 素材0
図1(a)は、本発明に係る車体骨格部材1の素材0の形状を示す説明図であり、図1(b)は、本発明に係る車体骨格部材1の形状を示す説明図であり、図1(c)は、素材0の第1の部分2−1、2−2、2−3の横断面図であり、図1(d)は、素材0の第2の部分3−1、3−2の横断面図であり、図1(e)は、他の素材0−1の第1の部分2−1、2−2、2−3の横断面図であり、図1(f)は、他の素材0−1の第2の部分3−1、3−2の横断面図である。
【0025】
素材0は、閉断面を有する鋼製の筒状体0aにより構成される。筒状体0aは、第1の部分2−1、2−2、2−3と、第2の部分3−1、3−2を軸方向へ向けて備える。
第1の部分2−1〜2−3は、いずれも、第1の突出部4を有する。第1の突出部4は、筒状体0aの外部へ向けて突出するとともに、筒状体0aの軸方向へ向けて延設される。
【0026】
第1の突出部4は、いずれも、スポット溶接可能高さ(例えば15mm以上)を有する2つのフランジ4a、4bと、溶接部4cとを有する。スポット溶接部4cは、2つのフランジ4a、4bを重ね合わせて溶接することによって筒状体0aの閉断面を形成する。
【0027】
溶接部4cは、レーザー溶接、シーム溶接さらにはアーク溶接等の連続溶接による溶接部である。図1(a)に示す例ではレーザー溶接部である。溶接部4cが連続溶接による溶接部であることによって、後述する曲げ加工の際における溶接部4cの破断が防止される。
【0028】
また、図示していないが、第1の突出部4には、後述する加熱コイル13aによる誘導加熱作用(適正な渦電流の発生)を阻害しない程度の大きさの貫通孔を設けてもよい。これにより、この貫通孔を介して車体骨格部材1を他の部材とボルト締結することが容易になる。
【0029】
第2の部分3−1、3−2は、いずれも、第2の突出部5を有する。第2の突出部5は、筒状体0aの外部へ向けて突出するとともに、筒状体0aの軸方向へ延設される。
第2の突出部5は、いずれも、スポット溶接可能高さよりも低い高さ(例えば肉厚の3〜5倍)を有する1つのフランジ5aと、パネル5bと、すみ肉溶接部5cとを有する。すみ肉溶接部5cは、1のフランジ5aの側面にパネル5bの端面を突き合わせて溶接することによって閉断面を形成する。すみ肉溶接部5cもまた、溶接部4cと同様にレーザー溶接等による連続溶接部である。これにより、後述する曲げ加工の際における溶接部5cの破断が防止される。
【0030】
なお、フランジ5aの側面ではなく、フランジ5aを図1(d)における破線で切除することによって得られる端面5dと、パネル5bの端面を突き合わせて溶接してもよく、この場合にはすみ肉溶接部ではなく突き合わせ溶接部5cとなる。これにより、第2の部分3−1、3−2が、筒状体0aの外部へ向けて突出する突出部を有さないこととなる。
【0031】
素材0は、これらの特徴を全て具備すれば、如何なる製法により製造されてもよく、例えばロールフォーミングあるいはプレス成形により製造される。
また、今回の説明では、溶接部4c、溶接部5cを別方式としたが、当然のことながら、全長に亘り溶接部4cと同様な貫通溶接としてもよいし、全長に亘り溶接部5cと同様なすみ肉溶接としても良い。
【0032】
ロールフォーミングによれば、所定の形状に切断された素材鋼板を、一列に配列された複数の成形用ロールに通すことにより順次曲げ加工を行い、最終ロールで上述した断面形状を有する素材0に成形する。また、プレス成形によれば、所定の形状に切断された素材鋼板を、何段階かのプレス成形を施すことによって、上述した断面形状を有する素材0に成形する。
【0033】
なお、以上の説明では、素材0が図5(a)〜図5(d)に示す横断面形状を有する場合を例にとったが、これとは異なり、第1の部分2−1、2−2、2−3が図1(e)に示す横断面形状を有するとともに第2の部分3−1、3−2が図1(f)に示す横断面形状を有する他の素材0−1を用いることも可能である。
素材0は、以上のように構成される。
【0034】
2 製造法
製造法も特定の方法に限定する必要はなく、後述する車体骨格部材を製造することができる方法であれば、如何なる方法を用いてもよいが、下記の方法により製造することが、車体骨格部材の寸法精度を確保できるとともに、低コストで製造することができるので、望ましい。
【0035】
すなわち、図1に示す素材0である筒状体0aの軸方向に部分的に、軸方向へ移動する焼入れ温度被加熱領域を形成しながら、焼入れ温度被加熱領域に間欠的に曲げモーメントを与えることにより筒状体0aの第2の部分3−1、3−2に曲げ加工を行うことによって、車体骨格部材1を製造する。
【0036】
図2は、車体骨格部材1を製造するために用いる曲げ加工装置10の構成の一部を簡略化および省略して概念的に示す斜視図である。なお、図1に示す、第1の産業用ロボット18〜第3の産業用ロボット28を含む合計6基の産業用ロボットは、いずれも、マニピュレーター等を概念化および簡略化して示している。また、図2では、素材0は素材17に置き換えて表記するとともに、素材17の横断面形状を円形として簡略化して示す。
【0037】
この曲げ加工装置10は、送り手段11と、第1の支持手段12と、加熱手段13と、冷却手段14と、第2の支持手段15と、変形防止手段16とを備えるので、これらの構成要素を順次説明する。
【0038】
[送り手段11]
送り手段11は、素材17を、その長手方向へ送るためのものである。本発明では、送り手段11は第1の産業用ロボット18により構成される。
【0039】
以降の説明では、第1の産業用ロボット18や第3の産業用ロボット28にも、第2の産業用ロボット27と同様のロボットを用いた場合を例にとる。
図3は、第1の産業用ロボット18、第2の産業用ロボット26および第3の産業用ロボット28の構成例を示す説明図である。
【0040】
曲げ加工装置10で用いる第1の産業用ロボット18、第2の産業用ロボット27および第3の産業用ロボット28は、いずれも、いわゆる垂直多関節ロボットであり、上腕19を水平面内で旋回させる第1軸と、上腕19を前後に旋回させる第2軸と、前腕20を上下に旋回させる第3軸と、前腕20を回転させる第4軸と、手首20aを上下に旋回させる第5軸と、手首20aを回転させる第6軸を有している。必要に応じて、これらに加えて上腕19を旋回させる第7軸を有していてもよい。各軸はACサーボモーターにより駆動される。
【0041】
曲げ加工装置10で用いる第1の産業用ロボット18、第2の産業用ロボット27および第3の産業用ロボット28それぞれの軸数は6または7である必要はなく、5軸であってもよい。要するに、加工に必要な動作を行うことができる軸数であればよい。
【0042】
第1の産業用ロボット18、第2の産業用ロボット27および第3の産業用ロボット28は、他の汎用の産業用ロボットと同様に、いずれも、各軸の動作を総合的に制御するコントローラー21と、動作を教示するための入力装置22とが設けられている。
【0043】
第1の産業用ロボット18の手首20aの先端には、第1の産業用ロボット18の側方近傍に配置されたパレットに収容された素材17を把持するとともに把持した素材17を第1の支持手段12および加熱手段13にそれぞれ設けられた貫通孔を貫通させるための効果器(エンドエフェクタ)24が設けられている。効果器24は、素材17の外面を掴むものでもよいし、素材17の後部開口に挿入するものでもよい。図1に示す効果器24は、素材17の内部に挿入される凸部を先端に有する型のものである。
【0044】
効果器24は、曲げ加工の素材の形状に応じて適宜変更する必要がある。このため、図1に示す曲げ加工装置10では、第1の産業用ロボット18の近傍に段替え用ツール置き台30を配置し、この置き台30に、交換用のオートチェンジャー付きの効果器24−1を載置しておき、加工素材が素材17以外の他の素材17−1(図示例は四角形の横断面を有する角管)に変更された場合には、第1の産業用ロボット18を旋回させて、効果器24を、他の素材17−1用の効果器24−1に交換すればよい。これにより、効果器24の交換を極めて迅速に行うことができる。
【0045】
また、図1に破線で示すように、第1の産業用ロボット18とともにもう1基の第1の産業用ロボット18−1を配置しておき、第1の産業用ロボット18による素材17の送り作業中に、第1の産業用ロボット18−1により他の素材17−1を、パレット23より拾い上げ、後述する第1の支持手段13に形成された貫通孔に通し、第1の産業用ロボット18−1により他の素材17−1の後端に適当な効果器24−2をセットした状態で待機させておくようにしてもよい。これにより、第1の産業用ロボット18による素材17の送り作業が終了した場合には、他の素材17−1のパスラインに合わせて、後述する加熱コイル支持ロボット32による加熱コイル13aの設置位置、および第2の支持手段15による可動ローラーダイス25の設置位置をいずれも変更するだけで、直ちに第1の産業用ロボット18−1による他の素材17−1の送り作業を開始することができ、生産タクトの短縮を図ることができる。
【0046】
なお、第1の産業用ロボット18−1は、上述した第1の産業用ロボット18と同様に、いずれも、いわゆる垂直多関節ロボットであり、第1軸、第2軸、第3軸、第4軸、第5軸および第6軸を有し、必要に応じてこれらに加えて第7軸を有していてもよい。各軸はACサーボモーターにより駆動される。
【0047】
曲げ加工装置10では、パレット23から曲げ加工装置10への素材17の移動や曲げ加工装置10へのセットを第1の産業用ロボット18で行うので、サイクルタイムの低減を図ることができ、生産性を高めることができる。
送り手段11は、以上のように構成される。
【0048】
[第1の支持手段12]
第1の支持手段12は、支持台31に搭載されて第1の位置Aに固定して配置され、素材17を送りながら支持するためのものであり、送り手段11により送られる素材17を送りながら支持可能である複数のロール12a〜12fを有するダイスにより構成される。
【0049】
図1に示す例では、ロール12a,12bとロール12d,12eとにより素材17が送られ、ロール12b,12cとロール12e,12fとにより他の素材17−1が送られるように構成される。このため、ロール12a,12bとロール12d,12eとにより素材17のパスラインが形成され、ロール12b,12cとロール12e,12fとにより他の素材17−1のパスラインが形成される。
【0050】
複数のロール12a〜12fの設置数や形状、さらにはダイス内での配置等は、搬送される素材17、17−1の形状や寸法等を勘案して適宜設定すればよい。
このようなダイスは、当業者にとっては周知慣用であるので、第1の支持手段12に関するこれ以上の説明は省略する。
第1の支持手段12は、以上のように構成される。
【0051】
[加熱手段13]
加熱手段は、素材17の送り方向について第1の位置Aよりも下流の第2の位置Bに、加熱コイル支持ロボット32により支持されて配置されて、送られる素材17の一部または全部を加熱するためのものである。
【0052】
本発明では、加熱手段13として、素材17の周囲に離れて配置される加熱コイル13aを有する高周波加熱装置を用いる。このような加熱コイル13aは、当業者にとっては周知慣用である。
【0053】
加熱コイル支持ロボット32は、上述した第1の産業用ロボット18と同様に、いずれも、いわゆる垂直多関節ロボットであり、第1軸、第2軸、第3軸、第4軸、第5軸および第6軸を有し、必要に応じてこれらに加えて第7軸を有していてもよい。各軸はACサーボモーターにより駆動される。
【0054】
他の素材17−1を加熱する場合には、加熱コイル支持ロボット32の近傍に、段替え用加熱コイル置き台33を配置し、この置き台33に、交換用のオートチェンジャー付きの加熱コイル13bを載置しておき、素材が素材17以外の他の素材17−1に変更された場合には、加熱支持ロボット32を旋回させて、加熱コイル13aを加熱コイル13bに交換すればよい。これにより、加熱コイル13bの交換を極めて迅速に行うことができる。
【0055】
素材17の横断面形状は、図1に示すように、筒状体0aの軸方向に形成される第1の部分2−1、2−2、2−3、又は第2の部分3−1、3−2において変化するが、後述するように、車体骨格部材1の屈曲部に曲げ加工されるのは、第2の部分3−1、3−2であって第1の部分2−1、2−2、2−3は、車体骨格部材1の直線部又は湾曲部となるので、第2の部分3−1、3−2を充分に加熱できればよい。このため、加熱コイル13aの形状は、図1(d)に示す第2の部分3−1、3−2の横断面形状に適合させて適宜設定すればよい。
【0056】
加熱手段13に関するこれ以上の説明は省略する。加熱手段13は、以上のように構成される。
【0057】
[冷却手段14]
冷却手段は、素材17の送り方向について第2の位置Bよりも下流の第3の位置Cに固定して配置されて、送られる素材17における加熱手段13により加熱された部分を冷却することによって、送り手段11及び加熱手段13とともに、素材17の軸方向に部分的に、軸方向へ移動する焼入れ温度被加熱領域を形成するためのものである。
【0058】
本発明では、冷却手段14として、素材17の外面に離れて配置される冷却水噴射ノズル14a、14bを有する水冷装置を用いる。このような冷却水噴射ノズル14a、14bは、当業者にとっては周知慣用であるので、冷却手段14に関するこれ以上の説明は省略する。
冷却手段14は、以上のように構成される。
【0059】
[第2の支持手段15]
第2の支持手段15は、素材17の送り方向について第3の位置Cよりも下流の第4の位置Dに配置されて、送られる素材17の少なくとも一箇所を支持しながら二次元または三次元の方向へ移動することによって素材17における位置B〜C間の、加熱されて変形抵抗が大幅に低下した焼入れ温度被加熱領域に間欠的に曲げモーメントを与えて、素材17を所望の形状に曲げ加工するためのものである。
【0060】
第2の支持手段15は、特許文献1により開示された曲げ加工装置と同様に、素材17を送りながら支持可能であるロール対25a、25bを少なくとも一組有する可動ローラーダイス25を用いた。
【0061】
可動ローラーダイス25は、第2の産業用ロボット27により支持される。第2の産業用ロボット27は、上述したように、隣接する教示点の間の多数に細分化された軌跡およびこれらの多数に細分化された軌跡の通過時刻をも連続的に記憶することができるCP型のプレイバックロボットを用いた。
【0062】
また、第2の産業用ロボット27は、上述した第1の産業用ロボット18と同様に、いずれも、いわゆる垂直多関節ロボットであり、第1軸、第2軸、第3軸、第4軸、第5軸および第6軸を有し、必要に応じてこれらに加えて第7軸を有していてもよい。各軸はACサーボモーターにより駆動される。
【0063】
第2の産業用ロボット27の手首20aの先端には、可動ローラーダイス25を保持するための効果器(エンドエフェクタ)として、グリッパー27aが設けられている。なお、効果器としては、グリッパー27a以外の型式のものを用いてもよいことはいうまでもない。
【0064】
本発明では、焼入れ温度被加熱領域が素材17の第1の部分2−1〜2−3に存在する時には、第2の支持手段15の二次元または三次元の方向への移動を中止するか、あるいはこの移動量を小さく設定することによって、第1の部分2−1〜2−3に、曲げ加工を行わないか、あるいは、比(R/D)が2%以下となる緩やかな曲げ加工を行う。ここで、Rは図芯の曲げ半径であり、Dは、フランジを含む曲げ方向の図芯からの最大距離である。
【0065】
また、焼入れ温度被加熱領域が素材17の第2の部分3−1、3−2に存在する時には、第2の支持手段15の二次元または三次元の方向への移動量を大きく設定することによって、第2の部分3−1、3−2に、比(R/D)が2%を超える厳しい曲げ加工を行う。このようにして、車体骨格部材1を製造する。
【0066】
なお、素材17に曲げ加工を行わない時には、第2の支持手段15の二次元または三次元の方向への移動を中止することに加えて、加熱手段13及び冷却手段14を停止してもよいことは、いうまでもない。
第2の支持手段15は、以上のように構成される。
【0067】
[変形防止手段16]
変形防止手段16は、素材17の送り方向について第4の位置Dよりも下流の第5の位置Eに配置されて、送られる素材17の変形を防止するためのものである。
【0068】
本発明では、変形防止手段16として、第3の産業用ロボット28により構成した。
また、第3の産業用ロボット28は、上述した第1の産業用ロボット18や第2の産業用ロボット27と同様に、いずれも、いわゆる垂直多関節ロボットであり、第1軸、第2軸、第3軸、第4軸、第5軸および第6軸を有し、必要に応じてこれらに加えて第7軸を有していてもよい。各軸はACサーボモーターにより駆動される。
【0069】
第3の産業用ロボット28の手首20aの先端には、素材17の先端部17aを保持するための効果器(エンドエフェクタ)として、素材17の外面を掴むグリッパー29が設けられている。
【0070】
なお、効果器としては、グリッパー29以外の型式のもの(例えば、素材17の後部開口に挿入するもの)を用いてもよいことはいうまでもない。例えば、第3の産業用ロボット28の近傍に、段替え用ツール置き台34を配置し、この置き台34に、交換用の、素材17の内部に挿入する型式のグリッパー29−1を載置しておき、素材が素材17以外の他の素材17−1に変更された場合には、第3の産業用ロボット28を旋回させて、グリッパー29をグリッパー29−1に交換すればよい。これにより、グリッパー29−1の交換を極めて迅速に行うことができる。
【0071】
第3の産業用ロボット28の下流には、素材17に曲げ加工を行って得られた曲げ加工品35である車体骨格部材1を保持するための把持部36を、手首20aの先端に有するハンドリングロボット37が配置される。ハンドリングロボット37は、上述したように、隣接する教示点の間の多数に細分化された軌跡およびこれらの多数に細分化された軌跡の通過時刻をも連続的に記憶することができるCP型のプレイバックロボットを用いた。
【0072】
また、ハンドリングロボット37は、上述した第1の産業用ロボット18と同様に、いずれも、いわゆる垂直多関節ロボットであり、第1軸、第2軸、第3軸、第4軸、第5軸および第6軸を有し、必要に応じてこれらに加えて第7軸を有していてもよい。各軸はACサーボモーターにより駆動される。
【0073】
ハンドリングロボット37は、曲げ加工を終了した曲げ加工品35を保持して、製品置き台38に移載する。
なお、曲げ加工装置10では、曲げ加工を、温間または熱間で行うことが望ましい。温間とは、常温に比べて金属材の変形抵抗が低下する加熱温度域であり、例えば、ある鉄鋼材料ではおよそ500℃から800℃の温度域である。熱間とは常温に比べて金属材の変形抵抗が低下し、かつ、金属材が焼入れされるのに必要な加熱温度域であり、例えば、ある鉄鋼材料では800℃以上の温度域である。特に、熱間で行う場合には焼入れの所定の温度になった後に所定の冷却速度で冷却することにより焼入れ処理を行うことができ、また温間で行う場合には曲げ加工部を冷却することにより熱歪み等の加工上の歪みの発生を防止することができる。
【0074】
曲げ加工装置10は、以上のように構成される。
このように構成された曲げ加工装置10により素材17に二次元または三次元の曲げ加工を行うと、第1の産業用ロボット18を用いるので、以下に列記する効果を得ることができる。
【0075】
(a)素材である素材17の種類に適合させて行う段取替えを簡単に行うことができるので、サイクルタイムの増加を防止でき、高い生産性を得ることができる。また、金属製の素材17のパスラインを変更する場合にも段取替えを簡単に行うことができ、生産の自由度が高いとともに生産性を向上することができる。さらに、ワーク置き場を、ロボットの動作範囲内の複数の箇所に設定することができる。
【0076】
(b)送り装置11を構成する第1の産業用ロボット18をハンドリングロボットとしても用いれば、この第1の産業用ロボット18により素材17を所定の位置にセットした後に直ちに素材17をその軸方向へ送ることができるので、生産タクトタイムを向上することができる。
【0077】
(c)送り装置11である第1の産業用ロボット18と他の装置(例えば、第2の産業用ロボット27、加熱コイル支持ロボット32、第3の産業用ロボット28等)との同期を確保することが容易であるので、送り速度を可変にしながら同期をとることによって曲げ部分の送り速度を低下すること等により、曲げ加工部品35の寸法精度の向上を図ることや、下流側にロボットを配置する場合にはこれらのロボットとの間で起動の際のスタートタイミングを一致させることができる。
【0078】
(d)送り装置11に第1の産業用ロボット18を用いるので、例えば支持ガイドに近接して配置することにより、設置スペースを抑制することができ、曲げ加工装置10の設置場所の制限を小さくすることができる。
【0079】
(e)第1の産業用ロボット18を用いた送り装置11は、例えば、(1)ワークセット時に素材17を軸回りに回転させ、素材である溶接素材17に存在する溶接ビード位置を曲げ加工において不具合を生じない位置に変更する動作、(2)素材17のセット時の芯ずれ調整動作、(3)送り経路の調整動作、(4)ワークに微小な繰り返し振動を与えることにより支持機構の摩擦係数を低下すること、さらには(5)芯ずれを修正してスティックスリップ現象の発生を未然に防止することといった、送り動作以外の動作も行うことができ、生産の自由度が高い。なお、上述した溶接ビード位置を変更する動作を行わせる際には、第1の産業用ロボット18に、周知慣用の溶接ビード位置検出装置を並設しておき、この検出装置の検出値により素材17の回転角度を演算するようにすればよい。
【0080】
(f)送り装置11としての第1の産業用ロボット18は、生産実績の高い汎用タイプを流用して用いることができるので、メンテナンス性が良好であるため、補修や清掃に要する時間や工数の増加を抑制することができる。
【0081】
(g)支持ガイドの取付け向きに併せて、ワークの送り軌道を微修正することができるので、寸法精度を向上することができる。
【0082】
3 車体骨格部材1
図1(b)〜図1(d)に示すように、車体骨格部材1は筒状体0aを備える。筒状体0aは閉断面を有する。
【0083】
筒状体0aは、屈曲部3−1、3−2と、残余部2−1〜2−3を有する。屈曲部3−1、3−2は、筒状体0aの軸方向へ向けて屈曲する。また、残余部2−1〜2−3は、筒状体0aのうちで屈曲部3−1、3−2を除いた部分に形成される。
【0084】
残余部2−1〜2−3は、上述したように曲げ加工装置10により焼入れられないので、非焼入れ組織を有する。残余部2−1〜2−3は980MPa未満の引張強度を有することが望ましく、780MPa未満の引張強度を有することがさらに望ましい。
【0085】
また、残余部2−1〜2−3は、筒状体0aの第1の部分2−1、2−2、2−3に相当するので、第1の突出部4を有する。上述したように、第1の突出部4は、筒状体0a
の外部へ向けて突出するとともに筒状体0aの軸方向へ向けて延設される。
【0086】
また、残余部2−1〜2−3は、筒状体0aの軸方向へ向けて直線的に形成される直線部、及び/又は、屈曲部3−1、3−2よりも大きな曲げ半径を有する湾曲部である。
第1の突出部4は、いずれもスポット溶接可能高さを有する2つのフランジ4a、4bと、溶接部4cとを有する。溶接部4cは、2つのフランジ4a、4bを重ね合わせて溶接することによって閉断面を形成する。溶接部4cは、レーザー溶接、シーム溶接さらにはアーク溶接等の連続溶接による溶接部である。図1(a)に示す例ではレーザー溶接部である。
【0087】
一方、屈曲部3−1、3−2は、曲げ加工装置10により焼入れられながら曲げ加工されるので、焼入れ組織を有する。屈曲部3−1、3−2が780MPa以上の引張強度を有することが望ましく、1200MPa以上の引張強度を有することがさらに望ましく、1400MPa以上の引張強度を有することがよりいっそう望ましい。
【0088】
また、屈曲部3−1、3−2は第2の突出部5を有する。第2の突出部5は、筒状体0aの外部へ向けて突出するとともに筒状体0aの軸方向へ向けて延設される。
第2の突出部5は、スポット溶接可能高さよりも低い高さを有する1つのフランジ5aと、パネル5bと、すみ肉溶接部5cとを有する。すみ肉溶接部5cは、1つのフランジ5aの側面にパネル5bの端面を突き合わせて溶接することによって閉断面を形成する。すみ肉溶接部5cもまた、溶接部4cと同様にレーザー溶接等による連続溶接部である。
【0089】
屈曲部3−1、3−2の比(R/D)は0〜2%であり、残余部2−1〜2−3の比(R/D)は2%を超えることが望ましい。ただし、Rは図芯の曲げ半径であり、Dは、フランジを含む曲げ方向の図芯からの最大距離である。
【0090】
車体骨格部材1は、第1の突出部4を有する残余部2−1〜2−3と、第2の突出部5を有する屈曲部3−1、3−2とを軸方向に備えており、屈曲部3−1、3−2が、スポット溶接可能高さよりも低い高さを有する1つのフランジ5aと、パネル5bと、すみ肉溶接部5cとを有するため、軸方向への屈曲部3−1、3−2において発生する応力が筒状体0cの周方向で大きく変動することを防止でき、これにより、この屈曲部3−1、3−2を起点として筒状体0aが衝撃荷重入力後の早期の時点で大きく折れ曲がってしまうことが抑制されるとともに、筒状体0aの軽量化を図ることができる。
【0091】
また、車体骨格部材1の筒状体0aは、残余部2−1〜2−3が第1の突出部4を有するので、この第1の突出部4を利用することによって、他の部材と例えばスポット溶接やボルト締結等によって接合することができる。
【0092】
さらに、車体骨格部材1の筒状体0aは、例えばハイドロフォーミング工法でなくとも、慣用されるプレス成形法により簡単に製造可能であるので、上述した特許文献1、2により開示された車体骨格部材と同等の低コストで製造することができる。
【符号の説明】
【0093】
0 素材
0a 筒状体
1 車体骨格部材
2−1、2−2、2−3 第1の部分
3−1、3−2 第2の部分
4 第1の突出部
4a、4b フランジ
4c 溶接部(連続溶接部)
5 第2の突出部
5a フランジ
5b パネル
5c すみ肉溶接部(連続溶接部)
5d 端面
10 本発明に係る曲げ加工装置
11 送り手段
12 第1の支持手段
12a〜12f ロール
13 加熱手段
13a,13b 加熱コイル
14 冷却手段
14a、14b 冷却水噴射ノズル
15 第2の支持手段
16 変形防止手段
17 素材
17−1 他の素材
17a 先端部
18、18−1 第1の産業用ロボット
19 上腕
20 前腕
20a 手首
21 コントローラー
22 入力装置
23 パレット
24、24−1 効果器(エンドエフェクタ)
25 可動ローラーダイス
25a、25b ロール対
27 第2の産業用ロボット
27a グリッパー
28 第3の産業用ロボット
29、29−1 グリッパー
30 段替え用ツール置き台
31 支持台
32 加熱コイル支持ロボット
33 段替え用加熱コイル置き台
34 段替え用ツール置き台
35 曲げ加工品
36 把持部
37 ハンドリングロボット
38 製品置き台
40 第1の略ハット部材
40a フランジ部
41 第2の略ハット部材
41a フランジ部
42a 突出部
43 成形体
43a フランジ部
44 筒状体
44a 突出部
45 筒状体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉断面を有する筒状体を備える車体骨格部材であって、
前記筒状体は、該筒状体の軸方向へ向けて屈曲する1又は2以上の屈曲部と、前記屈曲部を除く残余部とを有し、
前記残余部は、非焼入れ組織を有するとともに、前記筒状体の外部へ向けて突出するとともに前記軸方向へ延設される第1の突出部を有し、当該第1の突出部は、いずれもスポット溶接可能高さを有する2つのフランジと、該2つのフランジを重ね合わせて溶接することによって前記閉断面を形成するための溶接部とを有し、かつ
前記屈曲部は、焼入れ組織を有するとともに、前記筒状体の外部へ向けて突出するとともに前記軸方向へ延設される第2の突出部を有し、当該第2の突出部は、前記スポット溶接可能高さよりも低い高さを有する1つのフランジと、パネルと、前記1のフランジの端面又は側面に前記パネルの端面を突き合わせて溶接することによって前記閉断面を形成するための溶接部とを有すること
を特徴とする自動車の車体骨格部材。
【請求項2】
閉断面を有する筒状体を備える車体骨格部材であって、
前記筒状体は、該筒状体の軸方向へ向けて屈曲する1又は2以上の屈曲部と、前記屈曲部を除く残余部とを有し、
前記残余部は、非焼入れ組織を有するとともに、前記筒状体の外部へ向けて突出するとともに前記軸方向へ延設される第1の突出部を有し、当該第1の突出部は、いずれもスポット溶接可能高さを有する2つのフランジと、該2つのフランジを重ね合わせて溶接することによって前記閉断面を形成するための溶接部とを有し、かつ
前記屈曲部は、焼入れ組織を有するとともに、前記筒状体の外部へ向けて突出する突出部を有さないこと
を特徴とする自動車の車体骨格部材。
【請求項3】
前記残余部は、前記筒状体の軸方向へ向けて直線的に形成される直線部、及び/又は、前記屈曲部よりも大きな曲げ半径を有する湾曲部である請求項1又は請求項2に記載された車体骨格部材。
【請求項4】
前記屈曲部は780MPa以上の引張強度を有する請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された車体骨格部材。
【請求項5】
前記残余部は、780MPa未満の引張強度を有する請求項4に記載された車体骨格部材。
【請求項6】
前記屈曲部の比(R/D)は0〜2%であり、前記残余部の比(R/D)は2%を超える請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載された車体骨格部材。
ただし、Rは図芯の曲げ半径であり、Dは、フランジを含む曲げ方向の図芯からの最大距離である。
【請求項7】
下記第1の部分及び下記第2の部分を軸方向へ向けて備えるとともに閉断面を有する筒状体の軸方向に部分的に、当該軸方向へ移動する焼入れ温度被加熱領域を形成しながら、該焼入れ温度被加熱領域に間欠的に曲げモーメントを与えることにより前記筒状体に曲げ加工を行うことによって、請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載された車体骨格部材を製造する方法であって、
前記焼入れ温度被加熱領域が前記第1の部分に存在する時には、当該第1の部分に、曲げ加工を行わないか、あるいは、比(R/D)が2%以下となる曲げ加工を行うとともに、
前記焼入れ温度被加熱領域が前記第2の部分に存在する時には、当該第2の部分に、比(R/D)が2%を越える曲げ加工を行うこと
を特徴とする車体骨格部材の製造法。
ただし、
第1の部分:前記筒状体の外部へ向けて突出するとともにその軸方向へ延設される第1の突出部を有し、当該第1の突出部が、いずれもスポット溶接可能高さを有する2つのフランジと、該2つのフランジを重ね合わせて溶接することによって前記閉断面を形成するための溶接部とを有する。
第2の部分:前記筒状体の外部へ向けて突出するとともにその軸方向へ延設される第2の突出部を有し、当該第2の突出部が、前記スポット溶接可能高さよりも低い高さを有する1つのフランジと、パネルと、前記1のフランジの端面又は側面に前記パネルの端面を突き合わせて溶接することによって前記閉断面を形成するための溶接部とを有する。
であり、Rは図芯の曲げ半径であり、Dは、フランジを含む曲げ方向の図芯からの最大距離である。
【請求項8】
下記第1の部分及び下記第2の部分を軸方向へ向けて備えるとともに閉断面を有する筒状体の軸方向に部分的に、当該軸方向へ移動する焼入れ温度被加熱領域を形成しながら、該焼入れ温度被加熱領域に間欠的に曲げモーメントを与えることにより前記筒状体に曲げ加工を行うことによって、請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載された車体骨格部材を製造する方法であって、
前記焼入れ温度被加熱領域が前記第1の部分に存在する時には、当該第1の部分に、曲げ加工を行わないか、あるいは、比(R/D)が2%以下となる曲げ加工を行うとともに、
前記焼入れ温度被加熱領域が前記第2の部分に存在する時には、当該第2の部分に、比(R/D)が2%を越える曲げ加工を行うこと
を特徴とする車体骨格部材の製造法。
ただし、
第1の部分:前記筒状体の外部へ向けて突出するとともにその軸方向へ延設される第1の突出部を有し、当該第1の突出部が、いずれもスポット溶接可能高さを有する2つのフランジと、該2つのフランジを重ね合わせて溶接することによって前記閉断面を形成するための溶接部とを有する。
第2の部分:前記筒状体の外部へ向けて突出する突出部を有さない。
であり、Rは図芯の曲げ半径であり、Dは、フランジを含む曲げ方向の図芯からの最大距離である。
【請求項9】
前記筒状体は、ロールフォーミングあるいはプレス成形により製造される請求項7又は請求項8に記載された車体骨格部材の製造法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−25335(P2012−25335A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−168225(P2010−168225)
【出願日】平成22年7月27日(2010.7.27)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】