車内音低減装置
【課題】ルーフパネルの共振に起因した車内音を効果的に低減することができる車内音低減装置を得る。
【解決手段】マップランプブラケット10は車両後方側へ向けて延長されており、後端部10Cをマスチック24でルーフパネルの下面に固着するのみならず、共振発生部位である支持部10Bの長手方向中間部においても、マスチック28で固着することにした。これにより、ルーフパネル前部の振動モードが一次から高次に変化し、発音レベルが低減される。
【解決手段】マップランプブラケット10は車両後方側へ向けて延長されており、後端部10Cをマスチック24でルーフパネルの下面に固着するのみならず、共振発生部位である支持部10Bの長手方向中間部においても、マスチック28で固着することにした。これにより、ルーフパネル前部の振動モードが一次から高次に変化し、発音レベルが低減される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルーフパネルの共振に起因した車内音を低減するための車内音低減装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンや路面からの起振力によりボディー骨格が振動すると、この振動がルーフ部まで伝播され、当該ルーフ部が共振することがある。この共振によりルーフパネルが発音し、この発音が車内音(異音)となって乗員の耳に入る。
【特許文献1】特開平7−149262号公報
【特許文献2】特開2002−5228号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ここで、ルーフパネルの振動レベルや振動モードはルーフパネルの共振周波数等の振動特性に左右されるが、従来のルーフパネルでは、ルーフ部の意匠から決まるルーフパネルの面形状や積雪強度対策等で適宜設置される補強部材によってルーフパネルの振動特性が決まってしまうため、ルーフパネルの振動特性の最適な設定(チューニング)を容易に行うことができなかった。
【0004】
なお、上記従来技術の問題点については、後述する本実施形態の説明の中で、本実施形態との対比において図面を参照しつつ再度言及することにする。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、ルーフパネルの共振に起因した車内音を効果的に低減することができる車内音低減装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の本発明に係る車内音低減装置は、車両幅方向に沿って配置されたルーフヘッダ部に前端部が支持されかつマップランプを支持するマップランプブラケットを有し、当該マップランプブラケットをルーフパネルのパネル面に沿って車両後方側でかつルーフパネルの共振発生部位へ向けて延長し、共振発生部位を含む近傍に固着した、ことを特徴としている。
【0007】
請求項2記載の本発明に係る車内音低減装置は、請求項1記載の発明において、前記マップランプブラケットの後端側の所定位置には、一般部よりも板厚が厚く設定されたウエイト部が一体に形成されている、ことを特徴としている。
【0008】
請求項3記載の本発明に係る車内音低減装置は、請求項1又は請求項2記載の発明において、前記マップランプブラケットにはウエイトが装着可能なウエイト装着部が形成されており、当該ウエイト装着部には一又は二以上のウエイトが装着されている、ことを特徴としている。
【0009】
請求項1記載の本発明によれば、車両幅方向に沿って配置されたルーフヘッダ部に前端部が支持されかつマップランプを支持するマップランプブラケットを利用して、ルーフパネルの共振に起因した車内音の低減を図ろうというものである。
【0010】
すなわち、エンジンや路面からの起振力によりボディー骨格が振動すると、この振動がルーフパネルに伝播されてルーフパネルが共振することがある。この共振によりルーフパネルが発音し、車内音となる。
【0011】
ところで、ルーフパネルの共振周波数は基本的にはルーフの意匠や載荷重を考慮した補強部材の配置等によって決まってしまうため、ルーフパネルの共振周波数等の振動特性をコントロールすることは非常に困難である。
【0012】
しかし、本発明では、マップランプブラケットをルーフパネルのパネル面に沿って車両後方側でかつルーフパネルの共振発生部位へ向けて延長し、共振発生部位を含む近傍に固着したので、共振によるルーフパネルの振動をキャンセルする作用が得られる。
【0013】
つまり、従来から存在するマップランプブラケットの前後長(車両前後方向の長さ)は比較的短く、ルーフパネルの共振発生部位には到底届かないものであったが、本発明では、マップランプブラケットをルーフパネルのパネル面に沿って車両後方側でかつルーフパネルの共振発生部位へ向けて延長させたので、マップランプブラケットの延長部分を共振発生部位を含む近傍に固着することができる。これにより、ルーフパネルの振動モードを一次から高次へと変化させることができるため、ルーフパネルの発音量を相殺することが可能となり、ルーフパネルの総発音量を大幅に低減することができる。
【0014】
請求項2記載の本発明によれば、マップランプブラケットの後端側の所定位置には一般部よりも板厚が厚く設定されたウエイト部が一体に形成されているため、ウエイト部の板厚を調節することにより、マップランプブラケットの質量及び剛性を変更することができる。つまり、マップランプブラケットを用い、ルーフパネルの共振周波数を質量及び剛性の両面からチューニングすることが可能となる。
【0015】
しかも、本発明によれば、部品点数が増加することもない。
【0016】
請求項3記載の本発明によれば、マップランプブラケットにはウエイト装着部が形成されており、このウエイト装着部にウエイトを装着することができる。
【0017】
ここで、ルーフパネルの共振周波数はルーフパネルの質量と剛性で決まるので、ウエイト装着部に装着するウエイトの枚数や形等を調節してマップランプブラケットの質量を適宜選択することで、ルーフパネルの共振周波数を質量面からチューニングすることが可能となる。
【0018】
しかも、本発明によれば、ウエイトの形状、材質、厚さと使用枚数でルーフパネルの共振振周波数のチューニングを行うことができるため、マップランプブラケット自体は複数の車種に共通して用いることができる。従って、部品の共通化を図ることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、請求項1記載の本発明に係る車内音低減装置は、車両幅方向に沿って配置されたルーフヘッダ部に前端部が支持されかつマップランプを支持するマップランプブラケットを有し、当該マップランプブラケットをルーフパネルのパネル面に沿って車両後方側でかつルーフパネルの共振発生部位へ向けて延長し、共振発生部位を含む近傍に固着したので、共振による振動をキャンセルする作用が得られ、その結果、ルーフパネルの共振に起因した車内音を効果的に低減することができるという優れた効果を有する。
【0020】
請求項2記載の本発明に係る車内音低減装置は、請求項1記載の発明において、マップランプブラケットの後端側の所定位置に一般部よりも板厚が厚く設定されたウエイト部を一体に形成したので、低コストな構成でルーフパネルの共振周波数のチューニングを容易に行うことができるという優れた効果を有する。
【0021】
請求項3記載の本発明に係る車内音低減装置は、請求項1又は請求項2記載の発明において、マップランプブラケットにはウエイトが装着可能なウエイト装着部が形成されており、当該ウエイト装着部に一又は二以上のウエイトを装着したので、生産効率を低下させることなく、ルーフパネルの共振周波数のチューニングを容易に行うことができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
〔第1実施形態〕
以下、図1〜図7を用いて、本発明に係る車内音低減装置の第1実施形態について説明する。なお、これらの図において適宜示される矢印FRは車両前方側を示しており、矢印UPは車両上方側を示しており、矢印INは車両幅方向内側を示している。
【0023】
図1には、本実施形態に係る車内音低減装置としてのマップランプブラケット10の組付状態の斜視図が示されている。また、図3(B)には、当該マップランプブラケット10が取り付けられた車両のルーフパネル12の振動モードが概略的に示されている。以下、主として図1に基づいて本実施形態に係るマップランプブラケット10の構成について説明し、必要に応じて図2等を適宜参照することにする。
【0024】
図1に示されるように、マップランプブラケット10は、平面視で略矩形平板状に形成されている。マップランプブラケット10は、ルーフヘッダ14に固着される前端部10Aと、この前端部10Aから車両後方側へ延出されかつ図示しないマップランプを支持する支持部10Bと、ルーフパネル12の下面に下側から固着される後端部10Cと、によって構成されている。
【0025】
より具体的に説明すると、ルーフパネル12(図3(B)参照)の前端部の下面側には、車両幅方向を長手方向とする長尺状のルーフヘッダ14が配設されている。ルーフヘッダ14はチャンネル状に形成されており、ルーフパネル12の前端部の下面に結合されることにより、閉断面構造を成すようになっている。なお、ルーフパネル12の前端部には、ウインドシールドガラス16(図3(B)参照)の上端部が固定されている。
【0026】
上記構成のルーフヘッダ14の長手方向の中間部に、マップランプブラケット10の前端部10Aの両サイドから車両前方側へ向けて延出された側面視でL字形状の左右一対の取付脚部18がスポット溶接(×印で示す)により固着されている。これにより、マップランプブラケット10は、組立ライン上においてルーフパネル12への組付前の状態では、ルーフヘッダ14側に片持ち支持状態で一体化されている。つまり、マップランプブラケット10は、組立ライン上ではルーフヘッダ14側の部品としてルーフヘッダ14と共にルーフパネル12に組み付けられるようになっている。
【0027】
マップランプブラケット10の支持部10Bは、ルーフパネル12のパネル面に沿って延在されている。この支持部10Bの中央部には、平面視で略台形形状とされた左右一対の開口20が打抜きにより形成されている。また、左右一対の開口20を形成する際に、平面視で略矩形枠状とされた凹部22が開口20の周囲に形成されている。
【0028】
さらに、マップランプブラケット10の後端部10Cは、広義には固着手段又は接着手段として把握されるマスチック24によってルーフパネル12の下面に接着されている。なお、図1の一点鎖線Pは、マップランプブラケット10の後端部10Cの固着ライン(位置)を示している。
【0029】
ここで、本実施形態に係るマップランプブラケット10は、図2に示される従来のマップランプブラケット26と比べて、長さLだけ車両後方側へ延長されている。そして、既述したように、当該マップランプブラケット10の後端部10Cをマスチック24でルーフパネル12の下面に固着すると共に、支持部10Bの長手方向中間部でもマスチック28でルーフパネル12の下面に固着している点に特徴がある。つまり、本実施形態に係るマップランプブラケット10は、支持部10Bの長手方向中間部と後端部10Cの前後二箇所でマスチック24、28によってルーフパネル12の下面に固着されている。なお、図1の一点鎖線Qは、マップランプブラケット10の追加した固着ライン(位置)を示している。
【0030】
より詳細に説明すると、図2に示される従来のマップランプブラケット26を用いた場合には、ルーフパネル12の振動モードは図3(A)に示される如くとなり、A部が共振発生部位となる。
【0031】
そこで、本実施形態では、ルーフパネル12の共振発生部位(A部)を距離Lだけ越えた位置までマップランプブラケット10の支持部10Bを車両後方側へ延長し、共振発生部位(A部)の近傍部位であるB部(図3(B)参照)でマップランプブラケット10の支持部10Bの長手方向中間部を追加したマスチック28で固着し、一次の振動モードを高次の振動モードにしている。
【0032】
+及び−の付いた矢印は、その部位で発音していることをイメージ的に示している。なお、符号の+、−は、車内音への寄与が正か負を示している。
【0033】
(本実施形態の作用並びに効果)
次に、本実施形態の作用並びに効果について説明する。
【0034】
エンジンや路面からの起振力によりボディー骨格が振動すると、その振動がルーフパネル12に伝播されてルーフパネル12が共振することがある。かかる共振によりルーフパネル12が発音し、車内音となる。
【0035】
ところで、ルーフパネル12の共振周波数は基本的にはルーフの意匠や積雪等の載荷重を考慮した補強部材(リインフォース)の配置等によって決まってしまうため、ルーフパネル12の共振周波数等の振動特性をコントロールすることは通常は非常に困難といえる。
【0036】
ここで、本発明に係る車内音低減装置では、マップランプブラケット10に着目し、これを利用して車内音を低減することを企図した。すなわち、マップランプブラケット10をルーフパネル12の共振発生部位(従来のマップランプブラケット26を用いた場合のA部:図3(A)参照)を越える所定位置(長さLだけ延長された位置)までルーフパネル12のパネル面に沿って車両後方側へ延長しかつ後端部10Cをルーフパネル12の下面にマスチック24で固着すると共に、マップランプブラケット10の支持部10Bの長手方向中間部を当該ルーフパネル12の共振発生部位(A部)の近傍(B部:図3(B)参照)に追加したマスチック28で固着したので、共振による振動をキャンセルする作用が得られる。
【0037】
つまり、マップランプブラケット10の支持部10Bの長手方向中間部をルーフパネル12の共振発生部位を含む近傍に追加したマスチック28で固着することにより、ルーフパネル12の振動モードを一次から高次へと変化させることができる。これにより、位相の異なる発音が共に打ち消し合うため、ルーフパネル発音量を大幅に低減でき、車内音が改善される。
【0038】
以下、図4〜図6の解析データを用いて、前記効果を実証する。
【0039】
図4(A)は従来のマップランプブラケット26を備えた車両の車室内空間を抽出し、この車室内空間の発音部位及び発音レベルの度合いを色塗りして表現したモデル30である。従って、このモデル30の前端部はダッシュパネルの位置に相当し、後端部はラッゲージルームに相当する。また、モデル30の上面はウインドシールドガラス、ルーフパネル、リヤガラス、ラッゲージドアに相当する。
【0040】
このモデル30の斜線部分(なお、斜線部分は二種類あるが、右上がりの斜線部分がより大きく発音している部分であり、右下がりの斜線部分は発音レベルが右上がりの斜線部分の次に大きく発音している部分である。)が大きく発音している部位であり、ルーフパネルの前部側に比較的広範囲に分布していることが解る。また、このモデルの黒塗り部分はルーフパネルの発音を打ち消す方向に振動している部分である。
【0041】
これに対し、図4(B)に示されるように、本実施形態のマップランプブラケット10を備えた車両の車室内空間を抽出したモデル32では、黒塗り部分が増えて、ルーフパネルの前部側の斜線部分が大幅に減少していることが解る。
【0042】
図5(A)は従来のマップランプブラケット26を備えた車両の車内音に対するパネル寄与度の変化をベクトルで表現したものである。つまり、矢印の長さが発音量レベルを現しており、矢印の方向差が各発音パネルの位相差を現している。
【0043】
実線矢印イがトータルの車内音を示している。また、破線矢印ロがルーフパネル前部の発音量を示しており、破線矢印ロの実線矢印イへの分力が車内音に対する寄与度を示している。つまり、図5(A)に示される従来構造の場合には、このルーフパネル前部での共振による振動が、車内音に対して正の寄与を持ち、かつ発音量が大きいことから、車内音の総量に対して大きく寄与していることが解る。その他の二点鎖線矢印ハ〜トは、ルーフパネル以外の種々のボディーパネルが車内音に寄与していることを意味しており、そのベクトル和が車内音の総量ということになる。
【0044】
これに対し、図5(B)に示されるように、本実施形態のマップランプブラケット10を備えた車両の場合には、ルーフパネル前部の発音レベルが低下していることが解る。また、位相差も大きく変化していることが解る。他のボディーパネルハ〜トについては、従来構造と大差ない。そして、ルーフパネル前部での発音レベルを低下させかつ位相差を変更することができたが故に、発音レベルの総量イも減少していることが解る。言い換えれば、本実施形態の場合には、ルーフパネル前部の車内音に対する寄与度が著しく減少したということである。
【0045】
図6は、前席右側での車内音低減効果を従来構造と本実施形態とで比較したグラフである。このグラフに示されるように、本実施形態の方が従来構造のものよりも、車内音が低減されていることが解る。
【0046】
図7は、前席左側での車内音低減効果を従来構造と本実施形態とで比較したグラフである。このグラフに示されるように、前席左側においても、本実施形態の方が従来構造のものよりも、車内音が低減されていることが解る。
【0047】
すなわち、本発明を付与し、マップランプブラケットの質量・剛性を適宜選択することで、ルーフパネルの振動特性を変化させ、その変化のあった周波数域で上記車内音低減効果が得られる。
【0048】
〔第2実施形態〕
以下、図8を用いて、本発明に係る車内音低減装置の第2実施形態について説明する。なお、前述した第1実施形態と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。
【0049】
この図に示されるように、本実施形態に係るマップランプブラケット40では、前述した第1実施形態に係るマップランプブラケット10の構成を踏襲した上で、前端部40Aから車両後方側へ延出された支持部40Bに形成されている凹部42の後部の板厚を厚くした点に特徴がある。
【0050】
より具体的に説明すると、マップランプブラケット40は後端部40Cと支持部40Bの長手方向中間部でマスチック24、28によりルーフパネル12に固着されているが、両者の固着点であるP線とQ線との間に位置する凹部42の板厚を他の一般部42Aよりも厚くすることによりウエイト部としての厚肉部42Bを設定している。従って、厚肉部42Bは平面視でコ字状に形成されている。但し、「コ」の字のいずれか一辺のみ又はいずれか二辺のみに厚肉部を設定してもよい。
【0051】
上記構成によれば、マップランプブラケット40の後部側に厚肉部42Bを設定したので、この部分の質量が増加すると共に剛性が高くなる。ルーフパネル12の共振周波数は質量と剛性で決まるので、厚肉部42Bの厚さや形成範囲を適宜調節することにより、ルーフパネル12の共振周波数を質量及び剛性の両面からチューニングすることが可能となる。
【0052】
しかも、この構成によれば、部品点数が増加することもない。
【0053】
従って、本実施形態によれば、前述した第1実施形態に係るマップランプブラケット10が有する効果に加え、低コストな構成でルーフパネル12の共振周波数のチューニングを容易に行うことができるという効果が得られる。
【0054】
〔第3実施形態〕
以下、図9を用いて、本発明に係る車内音低減装置の第3実施形態について説明する。なお、前述した第1実施形態、第2実施形態と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。
【0055】
この図に示されるように、本実施形態に係るマップランプブラケット50では、前述した第2実施形態に係るマップランプブラケット40の厚肉部42Bを別体で構成した点に特徴がある。
【0056】
具体的には、マップランプブラケット50のウエイト装着部としての凹部22の後部には、平面視でコ字状に形成された平板状のウエイト52が上方側から嵌合され図示しない固着手段によって凹部22の底面に固着されている。なお、図9では、左側のウエイト52については装着状態で描き、右側のウエイト52については分離した状態で描いている。
【0057】
上記構成によれば、ルーフパネル12の共振周波数はルーフパネル12の質量と剛性で決まるので、凹部22にウエイト52を装着することにより、マップランプブラケット50の質量を変更することができる。つまり、前述した第2実施形態と同様に、ルーフパネル12の共振周波数を質量面からチューニングすることが可能となる。
【0058】
しかも、本実施形態によれば、前述した第2実施形態とは異なり、ウエイト52が別体化されているため、マップランプブラケット50自体は複数の車種に共通して用いることができる。従って、部品の共通化を図ることができる。その結果、生産効率を向上させることができる。
【0059】
なお、本実施形態では、板厚が凹部22の段差寸法(深さ)と一致する平面視でコ字状のウエイト52を二枚用いたが、いずれか一方の凹部22のみにウエイト52を配置するようにしてもよい。また、板厚を薄くして凹部22内に複数枚のウエイトを重ねて装着するようにすれば、使用する枚数の調節が可能となり、より正確なチューニングが可能となる。
【0060】
また、本実施形態では、平面視でコ字状のウエイト52を使用したが、第2実施形態で説明したように「コ」の字のいずれか一辺又は二辺の形状のウエイトを装着するようにしてもよい。さらに、マップランプブラケット50の材質よりも軽い材質や重い材質でウエイトを製作してチューニングを行うようにしてもよい。
【0061】
〔本実施形態の補足説明〕
なお、上述した各実施形態では、ルーフヘッダ14の長手方向中間部にマップランプブラケット10、40、50を取付けており、又それが一般的でもあるが、取付位置は必ずしもルーフヘッダ14の長手方向中間部である必要はなく、車両幅方向にずれた位置にマップランプブラケットが配設されている構成も本発明に含まれる。
【0062】
また、上述した各実施形態では、マップランプブラケット10、40、50をルーフパネル12の下面に下側から組み付けるとして説明したが、例えば、車両組立ラインにおいてルーフパネルが反転した工程が存在する車両組立方法が採用されている場合には、マップランプブラケットを反転状態にあるルーフパネルの上面に上方側から組み付けることになるので、本発明をより一層適用し易くなる。
【0063】
さらに、上述した第1実施形態等では、マップランプブラケット10をルーフパネル12の共振発生部位(図3のA部)を越える所定位置(距離Lだけ越えた位置)までルーフパネル12のパネル面に沿って車両後方側へ延長させたが、これに限らず、マップランプブラケットをルーフパネルのパネル面に沿って車両後方側でかつルーフパネルの共振発生部位へ向けて延長し、共振発生部位を含む近傍に固着されていればよい。すなわち、マップランプブラケットの質量及び剛性の少なくとも一方を適宜選択することでルーフパネルの共振をチューニングして、ルーフパネルの振動モードを一次の振動モードから高次の振動モードに変化させることができる構成であれば、その構成に応じた一定の効果は得られる。
【0064】
例えば、マップランプブラケットをルーフパネルのパネル面に沿って車両後方側でかつルーフパネルの共振発生部位へ向けて延長した場合において、当該マップランプブラケットの後端部が共振発生部位を含む近傍に位置する場合には、当該後端部を共振発生部位を含む近傍にマスチック等の固着手段で固着する構成を採ってもよい。この場合、マップランプブラケットの後端部がルーフパネルの共振発生部位まで到達していない程度の延長であったとしても、ルーフパネルの振動モードの高次化を達成できる程度には延長されているということであれば、その後端部を共振発生部位の近傍(共振発生部位よりも若干前側又は後側)に固着することにより、ある程度の効果は得られる訳である。
【0065】
さらに、上述した各実施形態では、マップランプブラケット10等を後端部10Cと支持部10Bの長手方向の略中間部の前後二箇所でマスチック24、28を使ってルーフパネル12に固着する構成を採ったが、これに限らず、マップランプブラケットの全面に亘ってマップランプブラケットをルーフパネルに接着剤等で固着するようにしてもよい。
【0066】
つまり、前掲の例で言えば、マップランプブラケットをルーフパネルのパネル面に沿って車両後方側でかつルーフパネルの共振発生部位へ向けて延長した場合において、当該マップランプブラケットの後端部が共振発生部位を含む近傍に位置する場合には、当該後端部のみをルーフパネルに固着する場合が含まれる他、当該後端部を含む全面をルーフパネルに固着する場合も含まれる。同様に、本実施形態のように後端部が共振発生部位を含む近傍位置を越えて存在する場合において、当該後端部をルーフパネルに固着すると共に前後端部間の所定部位を共振発生部位を含む近傍に固着する場合には、当該後端部と所定部位とをルーフパネルに固着する場合が含まれる他、当該後端部と所定部位を含む全面をルーフパネルに固着する場合も含まれる。
【0067】
というのも、車両後方側へ延長されたマップランプブラケットの全面をルーフパネルに固着することはもとより可能であるが、その場合には固着手段の使用量が増加するためコストアップを招き作業も煩雑になる等の不利があるので、一般にはマップランプブラケットをルーフパネルにべた付けすることはせずに、必要なところのみをルーフパネルに固着する。そして、マップランプブラケットの全面から不要なところ(ルーフパネルに固着しなくても特に問題のないところ)を省いていったかたちが本実施形態の構成と言えるからである。
【0068】
その一方で、上述した本実施形態では、マップランプブラケット10の後端部10Cをルーフパネル12に固着しているが、必ずしも後端部10Cをルーフパネル12に固着する必要はない。例えば、前掲の例と本実施形態との中間的な例として、マップランプブラケットをルーフパネルのパネル面に沿って車両後方側でかつルーフパネルの共振発生部位へ向けて延長した場合において、当該マップランプブラケットの後端部が共振発生部位を多少(例えば、図1の長さLの半分程度)越えて存在する場合に、当該後端部をルーフパネルに固着しなかったとしても、マップランプブラケットの一部が共振発生部位を含む近傍に固着されていれば、本発明の効果は充分に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】第1実施形態に係るマップランプブラケットの全体構成をルーフヘッダへの組付状態で示す斜視図である。
【図2】従来のマップランプブラケットの全体構成を示す図1に対応する斜視図である。
【図3】(A)は従来のマップランプブラケットを用いた場合のルーフパネルの振動モードを示す模式図であり、(B)は本実施形態のマップランプブラケットを用いた場合のルーフパネルの振動モードを示す模式図である。
【図4】(A)は従来のマップランプブラケットを用いた場合の発音レベルを解析したモデルを示す斜視図であり、(B)は本実施形態のマップランプブラケットを用いた場合の発音レベルを解析したモデルを示す斜視図である。
【図5】(A)は従来のマップランプブラケットを用いた場合の車内音に対するパネル寄与度変化を示す模式図であり、(B)は本実施形態のマップランプブラケットを用いた場合の車内音に対するパネル寄与度変化を示す模式図である。
【図6】前席右側での車内音測定結果を従来構造と本実施形態とで対比しながら示すグラフである。
【図7】前席左側での車内音測定結果を従来構造と本実施形態とで対比しながら示すグラフである。
【図8】第2実施形態に係るマップランプブラケットの全体構成を示す図1に対応する斜視図である。
【図9】第3実施形態に係るマップランプブラケットの全体構成を示す図1に対応する斜視図である。
【符号の説明】
【0070】
10 マップランプブラケット
10A 前端部
10C 後端部
12 ルーフパネル
14 ルーフヘッダ
22 凹部(ウエイト装着部)
24 マスチック
28 マスチック
40 マップランプブラケット
42 凹部
42A 一般部
42B 厚肉部
50 マップランプブラケット
52 ウエイト
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルーフパネルの共振に起因した車内音を低減するための車内音低減装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンや路面からの起振力によりボディー骨格が振動すると、この振動がルーフ部まで伝播され、当該ルーフ部が共振することがある。この共振によりルーフパネルが発音し、この発音が車内音(異音)となって乗員の耳に入る。
【特許文献1】特開平7−149262号公報
【特許文献2】特開2002−5228号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ここで、ルーフパネルの振動レベルや振動モードはルーフパネルの共振周波数等の振動特性に左右されるが、従来のルーフパネルでは、ルーフ部の意匠から決まるルーフパネルの面形状や積雪強度対策等で適宜設置される補強部材によってルーフパネルの振動特性が決まってしまうため、ルーフパネルの振動特性の最適な設定(チューニング)を容易に行うことができなかった。
【0004】
なお、上記従来技術の問題点については、後述する本実施形態の説明の中で、本実施形態との対比において図面を参照しつつ再度言及することにする。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、ルーフパネルの共振に起因した車内音を効果的に低減することができる車内音低減装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の本発明に係る車内音低減装置は、車両幅方向に沿って配置されたルーフヘッダ部に前端部が支持されかつマップランプを支持するマップランプブラケットを有し、当該マップランプブラケットをルーフパネルのパネル面に沿って車両後方側でかつルーフパネルの共振発生部位へ向けて延長し、共振発生部位を含む近傍に固着した、ことを特徴としている。
【0007】
請求項2記載の本発明に係る車内音低減装置は、請求項1記載の発明において、前記マップランプブラケットの後端側の所定位置には、一般部よりも板厚が厚く設定されたウエイト部が一体に形成されている、ことを特徴としている。
【0008】
請求項3記載の本発明に係る車内音低減装置は、請求項1又は請求項2記載の発明において、前記マップランプブラケットにはウエイトが装着可能なウエイト装着部が形成されており、当該ウエイト装着部には一又は二以上のウエイトが装着されている、ことを特徴としている。
【0009】
請求項1記載の本発明によれば、車両幅方向に沿って配置されたルーフヘッダ部に前端部が支持されかつマップランプを支持するマップランプブラケットを利用して、ルーフパネルの共振に起因した車内音の低減を図ろうというものである。
【0010】
すなわち、エンジンや路面からの起振力によりボディー骨格が振動すると、この振動がルーフパネルに伝播されてルーフパネルが共振することがある。この共振によりルーフパネルが発音し、車内音となる。
【0011】
ところで、ルーフパネルの共振周波数は基本的にはルーフの意匠や載荷重を考慮した補強部材の配置等によって決まってしまうため、ルーフパネルの共振周波数等の振動特性をコントロールすることは非常に困難である。
【0012】
しかし、本発明では、マップランプブラケットをルーフパネルのパネル面に沿って車両後方側でかつルーフパネルの共振発生部位へ向けて延長し、共振発生部位を含む近傍に固着したので、共振によるルーフパネルの振動をキャンセルする作用が得られる。
【0013】
つまり、従来から存在するマップランプブラケットの前後長(車両前後方向の長さ)は比較的短く、ルーフパネルの共振発生部位には到底届かないものであったが、本発明では、マップランプブラケットをルーフパネルのパネル面に沿って車両後方側でかつルーフパネルの共振発生部位へ向けて延長させたので、マップランプブラケットの延長部分を共振発生部位を含む近傍に固着することができる。これにより、ルーフパネルの振動モードを一次から高次へと変化させることができるため、ルーフパネルの発音量を相殺することが可能となり、ルーフパネルの総発音量を大幅に低減することができる。
【0014】
請求項2記載の本発明によれば、マップランプブラケットの後端側の所定位置には一般部よりも板厚が厚く設定されたウエイト部が一体に形成されているため、ウエイト部の板厚を調節することにより、マップランプブラケットの質量及び剛性を変更することができる。つまり、マップランプブラケットを用い、ルーフパネルの共振周波数を質量及び剛性の両面からチューニングすることが可能となる。
【0015】
しかも、本発明によれば、部品点数が増加することもない。
【0016】
請求項3記載の本発明によれば、マップランプブラケットにはウエイト装着部が形成されており、このウエイト装着部にウエイトを装着することができる。
【0017】
ここで、ルーフパネルの共振周波数はルーフパネルの質量と剛性で決まるので、ウエイト装着部に装着するウエイトの枚数や形等を調節してマップランプブラケットの質量を適宜選択することで、ルーフパネルの共振周波数を質量面からチューニングすることが可能となる。
【0018】
しかも、本発明によれば、ウエイトの形状、材質、厚さと使用枚数でルーフパネルの共振振周波数のチューニングを行うことができるため、マップランプブラケット自体は複数の車種に共通して用いることができる。従って、部品の共通化を図ることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、請求項1記載の本発明に係る車内音低減装置は、車両幅方向に沿って配置されたルーフヘッダ部に前端部が支持されかつマップランプを支持するマップランプブラケットを有し、当該マップランプブラケットをルーフパネルのパネル面に沿って車両後方側でかつルーフパネルの共振発生部位へ向けて延長し、共振発生部位を含む近傍に固着したので、共振による振動をキャンセルする作用が得られ、その結果、ルーフパネルの共振に起因した車内音を効果的に低減することができるという優れた効果を有する。
【0020】
請求項2記載の本発明に係る車内音低減装置は、請求項1記載の発明において、マップランプブラケットの後端側の所定位置に一般部よりも板厚が厚く設定されたウエイト部を一体に形成したので、低コストな構成でルーフパネルの共振周波数のチューニングを容易に行うことができるという優れた効果を有する。
【0021】
請求項3記載の本発明に係る車内音低減装置は、請求項1又は請求項2記載の発明において、マップランプブラケットにはウエイトが装着可能なウエイト装着部が形成されており、当該ウエイト装着部に一又は二以上のウエイトを装着したので、生産効率を低下させることなく、ルーフパネルの共振周波数のチューニングを容易に行うことができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
〔第1実施形態〕
以下、図1〜図7を用いて、本発明に係る車内音低減装置の第1実施形態について説明する。なお、これらの図において適宜示される矢印FRは車両前方側を示しており、矢印UPは車両上方側を示しており、矢印INは車両幅方向内側を示している。
【0023】
図1には、本実施形態に係る車内音低減装置としてのマップランプブラケット10の組付状態の斜視図が示されている。また、図3(B)には、当該マップランプブラケット10が取り付けられた車両のルーフパネル12の振動モードが概略的に示されている。以下、主として図1に基づいて本実施形態に係るマップランプブラケット10の構成について説明し、必要に応じて図2等を適宜参照することにする。
【0024】
図1に示されるように、マップランプブラケット10は、平面視で略矩形平板状に形成されている。マップランプブラケット10は、ルーフヘッダ14に固着される前端部10Aと、この前端部10Aから車両後方側へ延出されかつ図示しないマップランプを支持する支持部10Bと、ルーフパネル12の下面に下側から固着される後端部10Cと、によって構成されている。
【0025】
より具体的に説明すると、ルーフパネル12(図3(B)参照)の前端部の下面側には、車両幅方向を長手方向とする長尺状のルーフヘッダ14が配設されている。ルーフヘッダ14はチャンネル状に形成されており、ルーフパネル12の前端部の下面に結合されることにより、閉断面構造を成すようになっている。なお、ルーフパネル12の前端部には、ウインドシールドガラス16(図3(B)参照)の上端部が固定されている。
【0026】
上記構成のルーフヘッダ14の長手方向の中間部に、マップランプブラケット10の前端部10Aの両サイドから車両前方側へ向けて延出された側面視でL字形状の左右一対の取付脚部18がスポット溶接(×印で示す)により固着されている。これにより、マップランプブラケット10は、組立ライン上においてルーフパネル12への組付前の状態では、ルーフヘッダ14側に片持ち支持状態で一体化されている。つまり、マップランプブラケット10は、組立ライン上ではルーフヘッダ14側の部品としてルーフヘッダ14と共にルーフパネル12に組み付けられるようになっている。
【0027】
マップランプブラケット10の支持部10Bは、ルーフパネル12のパネル面に沿って延在されている。この支持部10Bの中央部には、平面視で略台形形状とされた左右一対の開口20が打抜きにより形成されている。また、左右一対の開口20を形成する際に、平面視で略矩形枠状とされた凹部22が開口20の周囲に形成されている。
【0028】
さらに、マップランプブラケット10の後端部10Cは、広義には固着手段又は接着手段として把握されるマスチック24によってルーフパネル12の下面に接着されている。なお、図1の一点鎖線Pは、マップランプブラケット10の後端部10Cの固着ライン(位置)を示している。
【0029】
ここで、本実施形態に係るマップランプブラケット10は、図2に示される従来のマップランプブラケット26と比べて、長さLだけ車両後方側へ延長されている。そして、既述したように、当該マップランプブラケット10の後端部10Cをマスチック24でルーフパネル12の下面に固着すると共に、支持部10Bの長手方向中間部でもマスチック28でルーフパネル12の下面に固着している点に特徴がある。つまり、本実施形態に係るマップランプブラケット10は、支持部10Bの長手方向中間部と後端部10Cの前後二箇所でマスチック24、28によってルーフパネル12の下面に固着されている。なお、図1の一点鎖線Qは、マップランプブラケット10の追加した固着ライン(位置)を示している。
【0030】
より詳細に説明すると、図2に示される従来のマップランプブラケット26を用いた場合には、ルーフパネル12の振動モードは図3(A)に示される如くとなり、A部が共振発生部位となる。
【0031】
そこで、本実施形態では、ルーフパネル12の共振発生部位(A部)を距離Lだけ越えた位置までマップランプブラケット10の支持部10Bを車両後方側へ延長し、共振発生部位(A部)の近傍部位であるB部(図3(B)参照)でマップランプブラケット10の支持部10Bの長手方向中間部を追加したマスチック28で固着し、一次の振動モードを高次の振動モードにしている。
【0032】
+及び−の付いた矢印は、その部位で発音していることをイメージ的に示している。なお、符号の+、−は、車内音への寄与が正か負を示している。
【0033】
(本実施形態の作用並びに効果)
次に、本実施形態の作用並びに効果について説明する。
【0034】
エンジンや路面からの起振力によりボディー骨格が振動すると、その振動がルーフパネル12に伝播されてルーフパネル12が共振することがある。かかる共振によりルーフパネル12が発音し、車内音となる。
【0035】
ところで、ルーフパネル12の共振周波数は基本的にはルーフの意匠や積雪等の載荷重を考慮した補強部材(リインフォース)の配置等によって決まってしまうため、ルーフパネル12の共振周波数等の振動特性をコントロールすることは通常は非常に困難といえる。
【0036】
ここで、本発明に係る車内音低減装置では、マップランプブラケット10に着目し、これを利用して車内音を低減することを企図した。すなわち、マップランプブラケット10をルーフパネル12の共振発生部位(従来のマップランプブラケット26を用いた場合のA部:図3(A)参照)を越える所定位置(長さLだけ延長された位置)までルーフパネル12のパネル面に沿って車両後方側へ延長しかつ後端部10Cをルーフパネル12の下面にマスチック24で固着すると共に、マップランプブラケット10の支持部10Bの長手方向中間部を当該ルーフパネル12の共振発生部位(A部)の近傍(B部:図3(B)参照)に追加したマスチック28で固着したので、共振による振動をキャンセルする作用が得られる。
【0037】
つまり、マップランプブラケット10の支持部10Bの長手方向中間部をルーフパネル12の共振発生部位を含む近傍に追加したマスチック28で固着することにより、ルーフパネル12の振動モードを一次から高次へと変化させることができる。これにより、位相の異なる発音が共に打ち消し合うため、ルーフパネル発音量を大幅に低減でき、車内音が改善される。
【0038】
以下、図4〜図6の解析データを用いて、前記効果を実証する。
【0039】
図4(A)は従来のマップランプブラケット26を備えた車両の車室内空間を抽出し、この車室内空間の発音部位及び発音レベルの度合いを色塗りして表現したモデル30である。従って、このモデル30の前端部はダッシュパネルの位置に相当し、後端部はラッゲージルームに相当する。また、モデル30の上面はウインドシールドガラス、ルーフパネル、リヤガラス、ラッゲージドアに相当する。
【0040】
このモデル30の斜線部分(なお、斜線部分は二種類あるが、右上がりの斜線部分がより大きく発音している部分であり、右下がりの斜線部分は発音レベルが右上がりの斜線部分の次に大きく発音している部分である。)が大きく発音している部位であり、ルーフパネルの前部側に比較的広範囲に分布していることが解る。また、このモデルの黒塗り部分はルーフパネルの発音を打ち消す方向に振動している部分である。
【0041】
これに対し、図4(B)に示されるように、本実施形態のマップランプブラケット10を備えた車両の車室内空間を抽出したモデル32では、黒塗り部分が増えて、ルーフパネルの前部側の斜線部分が大幅に減少していることが解る。
【0042】
図5(A)は従来のマップランプブラケット26を備えた車両の車内音に対するパネル寄与度の変化をベクトルで表現したものである。つまり、矢印の長さが発音量レベルを現しており、矢印の方向差が各発音パネルの位相差を現している。
【0043】
実線矢印イがトータルの車内音を示している。また、破線矢印ロがルーフパネル前部の発音量を示しており、破線矢印ロの実線矢印イへの分力が車内音に対する寄与度を示している。つまり、図5(A)に示される従来構造の場合には、このルーフパネル前部での共振による振動が、車内音に対して正の寄与を持ち、かつ発音量が大きいことから、車内音の総量に対して大きく寄与していることが解る。その他の二点鎖線矢印ハ〜トは、ルーフパネル以外の種々のボディーパネルが車内音に寄与していることを意味しており、そのベクトル和が車内音の総量ということになる。
【0044】
これに対し、図5(B)に示されるように、本実施形態のマップランプブラケット10を備えた車両の場合には、ルーフパネル前部の発音レベルが低下していることが解る。また、位相差も大きく変化していることが解る。他のボディーパネルハ〜トについては、従来構造と大差ない。そして、ルーフパネル前部での発音レベルを低下させかつ位相差を変更することができたが故に、発音レベルの総量イも減少していることが解る。言い換えれば、本実施形態の場合には、ルーフパネル前部の車内音に対する寄与度が著しく減少したということである。
【0045】
図6は、前席右側での車内音低減効果を従来構造と本実施形態とで比較したグラフである。このグラフに示されるように、本実施形態の方が従来構造のものよりも、車内音が低減されていることが解る。
【0046】
図7は、前席左側での車内音低減効果を従来構造と本実施形態とで比較したグラフである。このグラフに示されるように、前席左側においても、本実施形態の方が従来構造のものよりも、車内音が低減されていることが解る。
【0047】
すなわち、本発明を付与し、マップランプブラケットの質量・剛性を適宜選択することで、ルーフパネルの振動特性を変化させ、その変化のあった周波数域で上記車内音低減効果が得られる。
【0048】
〔第2実施形態〕
以下、図8を用いて、本発明に係る車内音低減装置の第2実施形態について説明する。なお、前述した第1実施形態と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。
【0049】
この図に示されるように、本実施形態に係るマップランプブラケット40では、前述した第1実施形態に係るマップランプブラケット10の構成を踏襲した上で、前端部40Aから車両後方側へ延出された支持部40Bに形成されている凹部42の後部の板厚を厚くした点に特徴がある。
【0050】
より具体的に説明すると、マップランプブラケット40は後端部40Cと支持部40Bの長手方向中間部でマスチック24、28によりルーフパネル12に固着されているが、両者の固着点であるP線とQ線との間に位置する凹部42の板厚を他の一般部42Aよりも厚くすることによりウエイト部としての厚肉部42Bを設定している。従って、厚肉部42Bは平面視でコ字状に形成されている。但し、「コ」の字のいずれか一辺のみ又はいずれか二辺のみに厚肉部を設定してもよい。
【0051】
上記構成によれば、マップランプブラケット40の後部側に厚肉部42Bを設定したので、この部分の質量が増加すると共に剛性が高くなる。ルーフパネル12の共振周波数は質量と剛性で決まるので、厚肉部42Bの厚さや形成範囲を適宜調節することにより、ルーフパネル12の共振周波数を質量及び剛性の両面からチューニングすることが可能となる。
【0052】
しかも、この構成によれば、部品点数が増加することもない。
【0053】
従って、本実施形態によれば、前述した第1実施形態に係るマップランプブラケット10が有する効果に加え、低コストな構成でルーフパネル12の共振周波数のチューニングを容易に行うことができるという効果が得られる。
【0054】
〔第3実施形態〕
以下、図9を用いて、本発明に係る車内音低減装置の第3実施形態について説明する。なお、前述した第1実施形態、第2実施形態と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。
【0055】
この図に示されるように、本実施形態に係るマップランプブラケット50では、前述した第2実施形態に係るマップランプブラケット40の厚肉部42Bを別体で構成した点に特徴がある。
【0056】
具体的には、マップランプブラケット50のウエイト装着部としての凹部22の後部には、平面視でコ字状に形成された平板状のウエイト52が上方側から嵌合され図示しない固着手段によって凹部22の底面に固着されている。なお、図9では、左側のウエイト52については装着状態で描き、右側のウエイト52については分離した状態で描いている。
【0057】
上記構成によれば、ルーフパネル12の共振周波数はルーフパネル12の質量と剛性で決まるので、凹部22にウエイト52を装着することにより、マップランプブラケット50の質量を変更することができる。つまり、前述した第2実施形態と同様に、ルーフパネル12の共振周波数を質量面からチューニングすることが可能となる。
【0058】
しかも、本実施形態によれば、前述した第2実施形態とは異なり、ウエイト52が別体化されているため、マップランプブラケット50自体は複数の車種に共通して用いることができる。従って、部品の共通化を図ることができる。その結果、生産効率を向上させることができる。
【0059】
なお、本実施形態では、板厚が凹部22の段差寸法(深さ)と一致する平面視でコ字状のウエイト52を二枚用いたが、いずれか一方の凹部22のみにウエイト52を配置するようにしてもよい。また、板厚を薄くして凹部22内に複数枚のウエイトを重ねて装着するようにすれば、使用する枚数の調節が可能となり、より正確なチューニングが可能となる。
【0060】
また、本実施形態では、平面視でコ字状のウエイト52を使用したが、第2実施形態で説明したように「コ」の字のいずれか一辺又は二辺の形状のウエイトを装着するようにしてもよい。さらに、マップランプブラケット50の材質よりも軽い材質や重い材質でウエイトを製作してチューニングを行うようにしてもよい。
【0061】
〔本実施形態の補足説明〕
なお、上述した各実施形態では、ルーフヘッダ14の長手方向中間部にマップランプブラケット10、40、50を取付けており、又それが一般的でもあるが、取付位置は必ずしもルーフヘッダ14の長手方向中間部である必要はなく、車両幅方向にずれた位置にマップランプブラケットが配設されている構成も本発明に含まれる。
【0062】
また、上述した各実施形態では、マップランプブラケット10、40、50をルーフパネル12の下面に下側から組み付けるとして説明したが、例えば、車両組立ラインにおいてルーフパネルが反転した工程が存在する車両組立方法が採用されている場合には、マップランプブラケットを反転状態にあるルーフパネルの上面に上方側から組み付けることになるので、本発明をより一層適用し易くなる。
【0063】
さらに、上述した第1実施形態等では、マップランプブラケット10をルーフパネル12の共振発生部位(図3のA部)を越える所定位置(距離Lだけ越えた位置)までルーフパネル12のパネル面に沿って車両後方側へ延長させたが、これに限らず、マップランプブラケットをルーフパネルのパネル面に沿って車両後方側でかつルーフパネルの共振発生部位へ向けて延長し、共振発生部位を含む近傍に固着されていればよい。すなわち、マップランプブラケットの質量及び剛性の少なくとも一方を適宜選択することでルーフパネルの共振をチューニングして、ルーフパネルの振動モードを一次の振動モードから高次の振動モードに変化させることができる構成であれば、その構成に応じた一定の効果は得られる。
【0064】
例えば、マップランプブラケットをルーフパネルのパネル面に沿って車両後方側でかつルーフパネルの共振発生部位へ向けて延長した場合において、当該マップランプブラケットの後端部が共振発生部位を含む近傍に位置する場合には、当該後端部を共振発生部位を含む近傍にマスチック等の固着手段で固着する構成を採ってもよい。この場合、マップランプブラケットの後端部がルーフパネルの共振発生部位まで到達していない程度の延長であったとしても、ルーフパネルの振動モードの高次化を達成できる程度には延長されているということであれば、その後端部を共振発生部位の近傍(共振発生部位よりも若干前側又は後側)に固着することにより、ある程度の効果は得られる訳である。
【0065】
さらに、上述した各実施形態では、マップランプブラケット10等を後端部10Cと支持部10Bの長手方向の略中間部の前後二箇所でマスチック24、28を使ってルーフパネル12に固着する構成を採ったが、これに限らず、マップランプブラケットの全面に亘ってマップランプブラケットをルーフパネルに接着剤等で固着するようにしてもよい。
【0066】
つまり、前掲の例で言えば、マップランプブラケットをルーフパネルのパネル面に沿って車両後方側でかつルーフパネルの共振発生部位へ向けて延長した場合において、当該マップランプブラケットの後端部が共振発生部位を含む近傍に位置する場合には、当該後端部のみをルーフパネルに固着する場合が含まれる他、当該後端部を含む全面をルーフパネルに固着する場合も含まれる。同様に、本実施形態のように後端部が共振発生部位を含む近傍位置を越えて存在する場合において、当該後端部をルーフパネルに固着すると共に前後端部間の所定部位を共振発生部位を含む近傍に固着する場合には、当該後端部と所定部位とをルーフパネルに固着する場合が含まれる他、当該後端部と所定部位を含む全面をルーフパネルに固着する場合も含まれる。
【0067】
というのも、車両後方側へ延長されたマップランプブラケットの全面をルーフパネルに固着することはもとより可能であるが、その場合には固着手段の使用量が増加するためコストアップを招き作業も煩雑になる等の不利があるので、一般にはマップランプブラケットをルーフパネルにべた付けすることはせずに、必要なところのみをルーフパネルに固着する。そして、マップランプブラケットの全面から不要なところ(ルーフパネルに固着しなくても特に問題のないところ)を省いていったかたちが本実施形態の構成と言えるからである。
【0068】
その一方で、上述した本実施形態では、マップランプブラケット10の後端部10Cをルーフパネル12に固着しているが、必ずしも後端部10Cをルーフパネル12に固着する必要はない。例えば、前掲の例と本実施形態との中間的な例として、マップランプブラケットをルーフパネルのパネル面に沿って車両後方側でかつルーフパネルの共振発生部位へ向けて延長した場合において、当該マップランプブラケットの後端部が共振発生部位を多少(例えば、図1の長さLの半分程度)越えて存在する場合に、当該後端部をルーフパネルに固着しなかったとしても、マップランプブラケットの一部が共振発生部位を含む近傍に固着されていれば、本発明の効果は充分に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】第1実施形態に係るマップランプブラケットの全体構成をルーフヘッダへの組付状態で示す斜視図である。
【図2】従来のマップランプブラケットの全体構成を示す図1に対応する斜視図である。
【図3】(A)は従来のマップランプブラケットを用いた場合のルーフパネルの振動モードを示す模式図であり、(B)は本実施形態のマップランプブラケットを用いた場合のルーフパネルの振動モードを示す模式図である。
【図4】(A)は従来のマップランプブラケットを用いた場合の発音レベルを解析したモデルを示す斜視図であり、(B)は本実施形態のマップランプブラケットを用いた場合の発音レベルを解析したモデルを示す斜視図である。
【図5】(A)は従来のマップランプブラケットを用いた場合の車内音に対するパネル寄与度変化を示す模式図であり、(B)は本実施形態のマップランプブラケットを用いた場合の車内音に対するパネル寄与度変化を示す模式図である。
【図6】前席右側での車内音測定結果を従来構造と本実施形態とで対比しながら示すグラフである。
【図7】前席左側での車内音測定結果を従来構造と本実施形態とで対比しながら示すグラフである。
【図8】第2実施形態に係るマップランプブラケットの全体構成を示す図1に対応する斜視図である。
【図9】第3実施形態に係るマップランプブラケットの全体構成を示す図1に対応する斜視図である。
【符号の説明】
【0070】
10 マップランプブラケット
10A 前端部
10C 後端部
12 ルーフパネル
14 ルーフヘッダ
22 凹部(ウエイト装着部)
24 マスチック
28 マスチック
40 マップランプブラケット
42 凹部
42A 一般部
42B 厚肉部
50 マップランプブラケット
52 ウエイト
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両幅方向に沿って配置されたルーフヘッダ部に前端部が支持されかつマップランプを支持するマップランプブラケットを有し、
当該マップランプブラケットをルーフパネルのパネル面に沿って車両後方側でかつルーフパネルの共振発生部位へ向けて延長し、共振発生部位を含む近傍に固着した、
ことを特徴とする車内音低減装置。
【請求項2】
前記マップランプブラケットの後端側の所定位置には、一般部よりも板厚が厚く設定されたウエイト部が一体に形成されている、
ことを特徴とする請求項1記載の車内音低減装置。
【請求項3】
前記マップランプブラケットにはウエイトが装着可能なウエイト装着部が形成されており、
当該ウエイト装着部には一又は二以上のウエイトが装着されている、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車内音低減装置。
【請求項1】
車両幅方向に沿って配置されたルーフヘッダ部に前端部が支持されかつマップランプを支持するマップランプブラケットを有し、
当該マップランプブラケットをルーフパネルのパネル面に沿って車両後方側でかつルーフパネルの共振発生部位へ向けて延長し、共振発生部位を含む近傍に固着した、
ことを特徴とする車内音低減装置。
【請求項2】
前記マップランプブラケットの後端側の所定位置には、一般部よりも板厚が厚く設定されたウエイト部が一体に形成されている、
ことを特徴とする請求項1記載の車内音低減装置。
【請求項3】
前記マップランプブラケットにはウエイトが装着可能なウエイト装着部が形成されており、
当該ウエイト装着部には一又は二以上のウエイトが装着されている、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車内音低減装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2006−168423(P2006−168423A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−360247(P2004−360247)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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