説明

車軸支持構造

【課題】車軸の軸ブレが生じた場合に、この軸ブレが駆動源によって回転する駆動源出力軸に伝達することを防止できる車軸支持構造を提供する。
【解決手段】駆動源(電動モータ)により回転する駆動源出力軸35と回転方向以外の方向の自由度を持って連結する第1連結部61と、駆動源出力軸35と同軸に配置され、車輪と一体に回転する車軸(外輪回転部)51と回転方向以外の方向の自由度を持って連結する第2連結部62と、を有し、駆動源出力軸35から車軸51へと動力を伝達するフローティング軸60を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体に対して、車輪と一体に回転する車軸を支持する車軸支持構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、減速機により回転する減速機側の回転軸と、車輪と一体に回転すると共に、車体側部材にハブ軸受を介して回転可能に支持された車軸とを、セレーション構造を介して同軸上に連結した車軸支持構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-189187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の車軸支持構造では、ハブ軸受の摩耗等により車軸が軸ブレし、減速機側の回転軸から軸ずれした際、減速機側の回転軸も正規の軸中心から外れた位置で振れまわってしまうという問題が生じる。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、車軸の軸ブレが生じた場合に、この軸ブレが駆動源によって回転する駆動源出力軸に伝達することを防止できる車軸支持構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の車軸支持構造では、駆動源出力軸と、車軸と、フローティング軸と、を備えている。
前記駆動源出力軸は、駆動源より回転する回転軸である。
前記車軸は、駆動源出力軸と同軸に配置され、車輪と一体に回転する回転軸である。
前記フローティング軸は、前記駆動源出力軸と回転方向以外の方向の自由度を持って連結する第1連結部と、前記車軸と回転方向以外の方向の自由度を持って連結する第2連結部と、を有し、駆動源出力軸から車軸へと動力を伝達する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の車軸支持構造にあっては、駆動源出力軸とフローティング軸の第1連結部との間を回転方向以外の方向の自由度を持って連結し、車軸とフローティング軸の第2連結部との間を回転方向以外の方向の自由度を持って連結する。
すなわち、フローティング軸を介して駆動源出力軸と車軸とを連結することで、駆動源出力軸とフローティング軸との間、及び、車軸とフローティング軸との間の2箇所で関節可能となる。
そのため、車軸が比較的大きな軸ズレを生じたり、軸心が平行に移動したりしても、軸方向及び軸直方向のズレは、第1連結部と第2連結部とにより吸収され、このズレが駆動源出力軸へと伝達されることはない。この結果、車軸の軸ブレが生じた場合に、この軸ブレが駆動源によって回転する駆動源出力軸に伝達することを防止できる。さらに、駆動源出力軸の上流側に接続した減速装置や駆動源の振れ回りを防止し、音振性能の悪化や耐久性の劣化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1の車軸支持構造が適用されたインホイールモータユニットを示す縦断面図である。
【図2】図1に示すインホイールモータユニットの要部を示す拡大図である。
【図3】実施例1のフローティング軸を示す図であり、(a)は縦断面図を示し、(b)は第1連結部の外周面を示す側面図であり、(c)は第2連結部の外周面を示す側面図である。
【図4】実施例2の車軸支持構造が適用されたインホイールモータユニットを示す縦断面図である。
【図5】図4に示すインホイールモータユニットの要部を示す拡大図である。
【図6】第1フローティングカラーを示す縦断面図である。
【図7】ウェーブリングを示す図であり、(a)は平面図を示し、(b)は縦断面図を示す。
【図8】第1フローティングカラー組付手順を示す説明図であり、(a)は組付前状態を示し、(b)は組付当初状態を示し、(c)は組付終盤状態を示し、(d)は組付完了状態を示す。
【図9】実施例3の車軸支持構造が適用されたインホイールモータユニットを示す縦断面図である。
【図10】図9に示すインホイールモータユニットの要部を示す拡大図である。
【図11】実施例4の車軸支持構造が適用されたインホイールモータユニットを示す縦断面図である。
【図12】図11に示すインホイールモータユニットの要部を示す拡大図である。
【図13】実施例5の車軸支持構造が適用されたインホイールモータユニットを示す縦断面図である。
【図14】図13に示すインホイールモータユニットの要部を示す拡大図である。
【図15】実施例6の車軸支持構造が適用されたインホイールモータユニットの要部を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の車軸支持構造を実施するための形態を、図面に示す実施例1から実施例6に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
まず、実施例1の車軸支持構造における構成を、「車軸支持構造の適用例の構成」、「フローティング軸の構成」に分けて説明する。
【0011】
[車軸支持構造の適用例の説明]
図1は、実施例1の車軸支持構造が適用されたインホイールモータユニットを示す縦断面図である。図2は、図1に示すインホイールモータユニットの要部を示す拡大図である。
【0012】
図1に示すインホイールモータユニットMUは、車輪40を駆動・制動する電動モータ20を、この車輪40を支持するホイール41の内側に配置したものであり、モータケース10と、電動モータ20と、減速機30と、を有している。
【0013】
前記モータケース10は、ケース本体11と、カバー12と、を備え、ケース本体11の図1の左側面にカバー12を合体させて構成する。このモータケース10内には、駆動源となる電動モータ20と、この電動モータ20の回転を減速して出力する減速機30とが同軸に配置収納される。また、このモータケース10は、図示しないサスペンション機構を介して、サイドメンバ等の車体に対して揺動可能に保持されている。
【0014】
前記電動モータ20は、カバー12の内側に位置し、環状のステータ21と、このステータ21内に同心に配置したロータ22と、を有している。
【0015】
前記ステータ21は、コイル21aを巻線して具え、カバー12の内周に、外周面を焼き嵌めする等の方法で固定される。
【0016】
前記ロータ22は、ロータ回転軸22aと、フランジ部22bと、積層鋼板22cと、不図示の永久磁石と、を有している。
前記ロータ回転軸22aは、カバー12に貫通させて形成した開口12aの内側に嵌着された第1ロータ軸受23Aに一端が回転自在に支持され、他端が減速機30の後述するキャリア34の内側端に嵌着された第2ロータ軸受23Bに回転自在に支持される。そして、このロータ回転軸22aから径方向に突出したフランジ部22bの外周に積層鋼板22cが固設され、この積層鋼板22cの外周に図示しない永久磁石が埋設される。
なお、このロータ22は、積層鋼板22cの外周に埋設した永久磁石がステータ21の内周面と正対する軸線方向位置に配置され、この位置を保ってロータ回転軸22aが支持される。
【0017】
前記減速機30は、図2に示すように、ロータ回転軸22a上に形成したサンギヤ31と、ケース本体11内に突起爪等で多少の揺動のみ可能に固定したリングギヤ32と、サンギヤ31に噛合する大径ピニオン部分33a及びリングギヤ32に噛合する小径ピニオン部分33bの一体成形になる3個(ここでは1個のみ図示)の段付きピニオン33と、これら段付きピニオン33を回転自在に支持したキャリア34と、を有する遊星歯車組で構成する。
【0018】
前記キャリア34は、減速機30の出力メンバであり、第1キャリア軸受34Aと第2キャリア軸受34Bを介して、ケース本体11に回転自在に支持されている。また、このキャリア34は、3個の段付きピニオン33を円周方向等間隔に配置して回転自在に支持する。そして、このキャリア34の端部には、ケース本体11の開口11aから車輪40側に突出した円筒状の出力軸部35が形成されている。
【0019】
この出力軸部35は、走行駆動源である電動モータ20により回転する駆動源出力軸であり、車輪40側に開放した円筒形状を呈している。この出力軸部35の内周面には、セレーションからなる第1接続部36が形成されている。ここで「セレーション」とは、軸方向に沿って延びると共に、周方向に並んだ複数の凹凸である。以下、同様である。
また、出力軸部35の外周側には、ケース本体11の開口11aとの間を閉鎖する環状のオイルシール35aが設けられている。このオイルシール35aは、モータケース10内に収納され、電動モータ20の冷却や減速機30の潤滑に用いられるオイルが外部に流出することを防止する。
【0020】
さらに、ケース本体11には、ハブ軸受50を介してホイール41が回転自在に支持されている。このとき、出力軸部35とハブ軸受50及びホイール41は、同軸に配置される。
【0021】
前記ハブ軸受50は、図2に示すように、ホイール41に固定された外輪回転部(外方部材)51と、ケース本体11に固定された内輪固定部(内方部材)52と、外輪回転部51と内輪固定部52との間に配置された転動体53と、を有している。
【0022】
前記外輪回転部51は、ホイール41の電動モータ20に面した内側面に、複数のホイールボルト42を介して固定され、車輪40と一体に回転する車軸となる。この外輪回転部51は、電動モータ20側に突出した円筒形状を呈しており、内周面には、セレーションからなる第2接続部54と、転動体53と接触する転走面55と、が形成されている。なお、ここでは、第2接続部54が車輪40側に位置し、転走面55が電動モータ20側に位置している。また、第2接続部54の内径寸法は、出力軸部35の第1接続部36の内径寸法よりも大きい値に設定されている。
【0023】
前記内輪固定部52は、ケース本体11の開口11aを取り囲む円筒形状を呈し、外輪回転部51の内側に位置すると共に、この外輪回転部51に対向する外周面には、転動体53と接触する転走面56が形成されている。なお、この内輪固定部52の開放端部には、転動体53を保持する内輪固定片52aが嵌合している。
【0024】
そして、前記出力軸部35と、ハブ軸受50の外輪回転部51とは、フローティング軸60を介して連結されている。このとき、フローティング軸60は、ハブ軸受50の内側に配置される。
【0025】
[フローティング軸の構成]
図3は、実施例1のフローティング軸を示す図であり、(a)は縦断面図を示し、(b)は第1連結部の外周面を示す側面図であり、(c)は第2連結部の外周面を示す側面図である。
【0026】
前記フローティング軸60は、出力軸部35から外輪回転部51へと動力を伝達する中空の金属軸である。このフローティング軸60は、一方の端部に出力軸部35と回転方向以外の方向の自由度を持って連結する第1連結部61が形成され、他方の端部に外輪回転部51と回転方向以外の方向の自由度を持って連結する第2連結部62が形成されている。なお、「回転方向以外の自由度」とは、例えば軸方向が一致した状態で平行に位置ずれする径方向の自由度や、軸方向が異なる傾斜方向の自由度等である。
【0027】
前記第1連結部61は、出力軸部35の内側に嵌合可能な外径寸法を有し、外周面にセレーションからなる第1フローティング接続部63が形成されている。
【0028】
前記第1フローティング接続部63は、出力軸部35の内周面に形成された第1接続部36に噛合可能な軸方向に延びる凹凸であり、第1接続部36と接触する側面63aを中高にしたクラウニング加工が施されると共に先端に向けて細くなっている。そして、第1接続部36と第1フローティング接続部63とがセレーション結合することで、出力軸部35とフローティング軸60とが一体に回転可能となる。
【0029】
前記第2連結部62は、第1連結部61の径寸法より大きく、ハブ軸受50の外輪回転部51の内側に嵌合可能な外径寸法を有し、外周面にセレーションからなる第2フローティング接続部64が形成されている。
【0030】
前記第2フローティング接続部64は、外輪回転部51の内周面に形成された第2接続部54に噛合可能な軸方向に延びる凹凸であり、第2接続部54と接触する側面64aを中高にしたクラウニング加工が施されると共に先端に向けて細くなっている。そして、第2接続部54と第2フローティング接続部64とがセレーション結合することで、外輪回転部51とフローティング軸60とが一体に回転可能となる。
【0031】
次に、実施例1の車軸支持構造における「軸ブレ吸収作用」について説明する。
【0032】
[軸ブレ吸収作用]
実施例1のインホイールモータユニットMUにおいて、電動モータ20のロータ22が回転すると、この回転は、ロータ回転軸22aから減速機30のサンギヤ31を介してキャリア34へと伝達される。このキャリア34には出力軸部35が形成されており、キャリア34が回転することで出力軸部35が回転する。そして、この出力軸部35には、フローティング軸60を介して車輪40と一体に回転するハブ軸受50の外輪回転部51が連結されている。そのため、出力軸部35の回転に伴って外輪回転部51が回転し、出力軸部35から外輪回転部51へと動力が伝達されて車輪40が回転する。
【0033】
このとき、外輪回転部51は、ケース本体11に固定された内輪固定部52に転動体53を介して回転自在に支持されている。
【0034】
ここで、例えば過大な外力が車輪40を介してハブ軸受50に入力した場合には、転動体53に接触している転走面55,56に圧痕が発生する。そのため、転動体53に与えられている与圧が抜けてしまい、外輪回転部51が振れ回る、いわゆる軸ブレが生じることが想定される。またハブ軸受50の内部、つまり外輪回転部51と内輪固定部52の間に泥水等が浸入した場合には、転動体53に接触している転走面55,56に異常摩耗が発生する。このときにも、転動体53に与えられている与圧が抜けて外輪回転部51が振れ回り、軸ブレが生じる。
【0035】
一方、外輪回転部51は、フローティング軸60の第2連結部62に連結されている。ここで、第2連結部62は、外輪回転部51と回転方向以外の方向の自由度、つまり径方向及び傾斜方向の自由度等を持って連結している。
【0036】
そのため、外輪回転部51の軸ブレが生じても、この第2連結部62における連結状態が変化することで軸ブレを吸収し、フローティング軸60の他方に連結された出力軸部35に軸ブレが伝達することを防止できる。
【0037】
さらに、この出力軸部35は、フローティング軸60の第1連結部61に連結されているが、この第1連結部61は、出力軸部35と回転方向以外の方向の自由度、つまり径方向及び傾斜方向の自由度等を持って連結している。
【0038】
そのため、外輪回転部51の軸ブレを、この第1連結部61における連結状態が変化することによっても吸収することができ、フローティング軸60に連結された出力軸部35に軸ブレが伝達することを防止できる。
【0039】
このように、出力軸部35とフローティング軸60との間、及び、外輪回転部51とフローティング軸60との間の2箇所で、それぞれ軸ブレによるずれを吸収することができるので、軸ブレに対する自由度を大きく確保することができる。そのため、外輪回転部51が比較的大きく軸ブレを生じても、軸方向及び軸直方向に作用する力は出力軸部35へと伝達されず、減速機30の音振性能の悪化や耐久性能の劣化を防止することができる。
【0040】
特に、実施例1の車軸支持構造では、出力軸部35の第1接続部36と第1連結部61の第1フローティング接続部63とが、セレーション結合しているが、このとき、第1フローティング接続部63が、第1接続部36と接触する側面63aを中高にしたクラウニング加工が施されると共に先端に向けて細くなっている。また、外輪回転部51の第2接続部54と第2連結部62の第2フローティング接続部64とが、セレーション結合しているが、このとき、第2フローティング接続部64が、第2接続部54と接触する側面64aを中高にしたクラウニング加工が施されると共に先端に向けて細くなっている。
【0041】
そのため、第1,第2フローティング接続部63,64における接触部分を、軸方向中央部に集中させ、軸方向に比較的大きく揺動可能となる。これにより、出力軸部35とフローティング軸60との間、及び、外輪回転部51とフローティング軸60との間での自由度をさらに大きく確保することができて、大きな軸ブレであっても吸収することができる。
【0042】
さらに、実施例1の車軸支持構造では、フローティング軸60が、第1連結部61の径寸法よりも、第2連結部62の径寸法の方を大きく設定している。そのため、このフローティング軸60を組み付ける際、あらかじめケース本体11にハブ軸受50を設けた後に、車輪40側から電動モータ20側に向けてフローティング軸60挿入することが可能となる。これにより、組み付けの最終段階で、隙間を持った部品を簡単に組み付けることができ、組み付け性能の向上を図ることができる。
【0043】
さらに、実施例1の車軸支持構造では、車軸である外輪回転部51は、ハブ軸受50を介して図示しない車体に揺動可能に設けたケース本体11に回転自在に支持されている。このとき、ハブ軸受50は、ケース本体11に固定される内輪固定部52と、車軸であると共に、この内輪固定部52に対して回転する。すなわち、ハブ軸受50では、外方部材である外輪回転部51が車輪40と共に回転する構造である。
【0044】
そのため、ハブ軸受50とフローティング軸60との接続部分の径、すなわち第2連結部62の外径寸法を大きくすることができる。これにより、第2連結部62の軸方向長さを短縮することができ、インホイールモータユニットMUの軸方向寸法の短縮を図ることができる。
【0045】
そして、実施例1の車軸支持構造では、フローティング軸60が、ハブ軸受50の内側に配置されている。これにより、フローティング軸60の軸方向位置とハブ軸受50の軸方向位置とが重複することになり、インホイールモータユニットMUの軸方向寸法の短縮を図ることができる。
【0046】
次に、効果を説明する。
実施例1の車軸支持構造にあっては、下記に挙げる効果を得ることができる。
【0047】
(1) 駆動源(電動モータ)20により回転する駆動源出力軸(出力軸部)35と、
前記駆動源出力軸部35と同軸に配置され、車輪40と一体に回転する車軸(外輪回転部)51と、
前記駆動源出力軸部35と回転方向以外の方向の自由度を持って連結する第1連結部61と、前記車軸51と回転方向以外の方向の自由度を持って連結する第2連結部62と、を有し、前記駆動源出力軸部35から前記車軸51へと動力を伝達するフローティング軸60と、
を備えた構成とした。
このため、車軸(外輪回転部)51の軸ブレが生じた場合に、この軸ブレが駆動源出力軸(出力軸部)35に伝達することを防止できる。
【0048】
(2) 前記フローティング軸60は、前記第1連結部61又は前記第2連結部62の少なくとも一方に、クラウニング加工を施したセレーション(第1フローティング接続部,第2フローティング接続部)63,64を設けた構成とした。
このため、第1連結部61における連結自由度や、第2連結部62における連結自由度をさらに高めることができ、大きな軸ブレに対応することができる。
【0049】
(3) 前記フローティング軸60は、前記第1連結部61の径寸法よりも、前記第2連結部62の径寸法の方を大きく設定する構成とした。
このため、組み付けの最終段階で、隙間を持った部品を簡単に組み付けることができ、組み付け性能の向上を図ることができる。
【0050】
(4) 前記車軸(外輪回転部)51は、車体に揺動可能に設けた車体側部材(ケース本体)11に車輪用軸受(ハブ軸受)50を介して回転自在に支持され、
前記車輪用軸受50は、前記車体側部材11に固定される内方部材(内輪固定部)52と、前記車軸51に接続され、前記内方部材52に対して回転する外方部材(外輪回転部)51と、を有する構成とした。
このため、第2連結部62の軸方向長さを短縮することができ、軸方向寸法の短縮を図ることができる。
【0051】
(5) 前記車軸(外輪回転部)51は、車輪用軸受(ハブ軸受)50を介して車体に揺動可能に設けた車体側部材(ケース本体)11に回転自在に支持され、前記フローティング軸60は、前記車輪用軸受50の内側に配置する構成とした。
このため、フローティング軸60の軸方向位置とハブ軸受50の軸方向位置とが重複し、軸方向寸法の短縮を図ることができる。
【実施例2】
【0052】
実施例2は、フローティング軸と駆動源出力軸及び車軸との間に、それぞれフローティングカラーを介在させた例である。
【0053】
まず、構成を説明する。なお、この実施例2の車軸支持構造を適用したインホイールモータユニットMU1の基本構成は実施例1と同等であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
図4は、実施例2の車軸支持構造が適用されたインホイールモータユニットを示す縦断面図である。図5は、図4に示すインホイールモータユニットの要部を示す拡大図である。図6は、第1フローティングカラーを示す縦断面図である。図7は、ウェーブリングを示す図であり、(a)は平面図を示し、(b)は縦断面図を示す。
【0054】
図4に示すインホイールモータユニットMU1は、車輪40のホイール41に取り付けられ、モータケース10と、電動モータ(駆動源)20と、減速機30と、を有している。そして、キャリア34の出力軸部35と、ハブ軸受50の外輪回転部51とが、フローティング軸70を介して連結されている。
【0055】
このフローティング軸70は、図5に示すように、一方の端部に第1フローティングカラー73を介して出力軸部35と回転方向以外の方向の自由度を持って連結する第1連結部71が形成され、他方の端部に第2フローティングカラー74を介して外輪回転部51と回転方向以外の方向の自由度を持って連結する第2連結部72が形成されている。
【0056】
なお、「回転方向以外の自由度」とは、実施例1と同様、例えば軸方向が一致した状態で平行に位置ずれする径方向の自由度や、軸方向が異なる傾斜方向の自由度等である。
【0057】
前記第1連結部71は、第1フローティングカラー73の内側に嵌合可能な外径寸法を有し、外周面にセレーションからなる軸方向に延びる複数の溝部71aと、ウェーブリング(弾性部材)75が嵌合する周方向に延びる環状溝部71bと、が形成されている。
【0058】
前記第2連結部72は、第2フローティングカラー74の内側に嵌合可能な外径寸法を有し、外周面にセレーションからなる軸方向に延びる複数の溝部72aが形成されている。
【0059】
前記第1フローティングカラー73は、図6に示すように、出力軸部35の内側に嵌合可能な外径寸法を有すると共に、両端が開放した金属円筒からなる。この第1フローティングカラー73は、内周面にセレーションからなる内側接続部73aと、ウェーブリング75が嵌合する周方向に延びる第1環状溝部73bと、が形成されている。また、この第1フローティングカラー73は、外周面にセレーションからなる外側接続部73cと、ウェーブリング75が嵌合する周方向に延びる第2環状溝部73dと、が形成されている。
【0060】
前記内側接続部73aは、第1連結部71の溝部71aに噛合可能な軸方向に延びる凹凸であり、溝部71aと接触する図示しない側面を中高にしたクラウニング加工が施されると共に先端に向けて細くなっている。前記第1環状溝部73bは、第1連結部71の環状溝部71bに対向する位置に設けられた凹部である。
【0061】
そして、第1連結部71の溝部71aとこの内側接続部73aとがセレーション結合することで、第1連結部71と第1フローティングカラー73とが一体に回転可能となる。このとき、環状溝部71bと第1環状溝部73bの間に生じる空間には、図7に示すウェーブリング75が嵌合される。
【0062】
前記ウェーブリング(弾性部材)75は、図7に示すように、環状の一部が欠落して開放したほぼ環状の弾性体からなり、径方向に波形状を有している。なお、「径方向に波形状」とは、内径寸法が大きい部分と内径寸法が小さい部分とを交互に配置した構造である。
【0063】
前記外側接続部73cは、出力軸部35の第1接続部36に噛合可能な軸方向に延びる凹凸であり、第1接続部36と接触する図示しない側面を中高にしたクラウニング加工が施されると共に先端に向けて細くなっている。前記第2環状溝部73dは、この出力軸部35の内周面に形成された周方向に延びる環状溝部35bに対向する位置に設けられた凹部である。
【0064】
そして、出力軸部35の第1接続部36とこの外側接続部73cとがセレーション結合することで、出力軸部35と第1フローティングカラー73とが一体に回転可能となる。このとき、環状溝部35bと第2環状溝部73dの間に生じる空間には、図7に示すウェーブリング75が嵌合される。
【0065】
前記第2フローティングカラー74は、外輪回転部51の内側に嵌合可能な外径寸法を有すると共に、両端が開放した金属円筒からなる。この第2フローティングカラー74は、内周面にセレーションからなる内側接続部74aが形成され、外周面にセレーションからなる外側接続部74cが形成されている。
【0066】
前記内側接続部74aは、第2連結部72の溝部72aに噛合可能な軸方向に延びる凹凸であり、溝部72aと接触する図示しない側面を中高にしたクラウニング加工が施されると共に先端に向けて細くなっている。そして、第2連結部72の溝部72aとこの内側接続部74aとがセレーション結合することで、第2連結部72と第2フローティングカラー74とが一体に回転可能となる。
【0067】
前記外側接続部74cは、外輪回転部51の第2接続部54に噛合可能な軸方向に延びる凹凸であり、第2接続部54と接触する図示しない側面を中高にしたクラウニング加工が施されると共に先端に向けて細くなっている。そして、外輪回転部51の第2接続部54とこの外側接続部74cとがセレーション結合することで、外輪回転部51と第2フローティングカラー74とが一体に回転可能となる。
【0068】
さらに、この第2フローティングカラー74の車輪40に面した車輪側端面74eとホイール41との間には、第2フローティングカラー74を電動モータ20側に付勢する皿バネ(弾性部材)76が配置されている。
この皿バネ76により、第2フローティングカラー74は、外輪回転部51の第2接続部54と転走面55の間に形成された段部57に対して緊密に接触する。
【0069】
次に、第2実施例の車軸支持構造において、第1フローティングカラーの組み付け方法について説明する。
図8は、第1フローティングカラー組付手順を示す説明図であり、(a)は組付前状態を示し、(b)は組付当初状態を示し、(c)は組付終盤状態を示し、(d)は組付完了状態を示す。
【0070】
第1フローティングカラー73を出力軸部35に組み付けるには、まず、図8(a)に示すように、出力軸部35と第1フローティングカラー73を同軸上に対向させる。このとき、第1フローティングカラー73の第2環状溝部73dには、あらかじめウェーブリング75を嵌着しておく。
【0071】
次に、図8(b)に示すように、出力軸部35の第1接続部36と第1フローティングカラー73の外側接続部73cとがセレーション結合するように、第1フローティングカラー73を軸方向に移動させ、出力軸部35内に挿入する。
【0072】
そのまま第1フローティングカラー73の挿入を続けると、図8(c)に示すように、出力軸部35の第1接続部36と第2環状溝部73dとが対向したときには、この第1接続部36により、ウェーブリング75が第2環状溝部73d内に押し込まれる。これにより、第1フローティングカラー73の挿入を円滑に継続することができる。
【0073】
最後に、図8(d)に示すように、出力軸部35に形成した環状溝部35bと第2環状溝部73dとが対向したら、挿入を停止し、第1フローティングカラー73の組み付けを完了する。
【0074】
次に、作用を説明する。
この実施例2の車軸支持構造において、過大な外力が車輪40を介してハブ軸受50に入力することで、外輪回転部51が振れ回る、いわゆる軸ブレが生じた場合を考える。
【0075】
このとき、外輪回転部51は、第2フローティングカラー74の外側接続部74cに連結し、第2フローティングカラー74の内側接続部74aにフローティング軸70の第2連結部72が連結している。
【0076】
そのため、外輪回転部51の軸ブレが生じても、この外側接続部74cにおける連結状態と、内側接続部74aにおける連結状態がそれぞれ変化することで軸ブレを吸収し、フローティング軸70の他方に連結された出力軸部35に軸ブレが伝達することを防止できる。
【0077】
すなわち、第2フローティングカラー74を介在することで、この第2フローティングカラー74の内外周面のそれぞれで連結状態を変化させることができるため、フローティング軸70の移動自由度を大幅に増大することができ、大きな軸ブレに対応することができる。
【0078】
さらに、このフローティング軸70は、第1連結部71が第1フローティングカラー73を介して第1接続部36に連結している。つまり、フローティング軸70の第1連結部71は、第1フローティングカラー73の内側接続部73aに連結し、第1フローティングカラー73の外側接続部73cに出力軸部35の第1接続部36が連結している。
【0079】
そのため、第1フローティングカラー73の内側接続部73aにおける連結状態と、外側接続部74cにおける連結状態がそれぞれ変化することでも軸ブレを吸収することができ、出力軸部35に軸ブレが伝達することをさらに防止することができる。
【0080】
また、実施例2の車軸支持構造では、弾性部材であるウェーブリング75を、第1連結部71と第1フローティングカラー73との間と、第1フローティングカラー73と出力軸部35の間と、に介在している。そして、弾性部材である皿バネ76を、第2フローティングカラー74とホイール41との間に介在している。
【0081】
これにより、第1連結部71は第1フローティングカラー73を介して出力軸部35に向けて付勢される。一方、第2フローティングカラー74が外輪回転部51向けて付勢されることで、この第2フローティングカラー74にセレーション結合した第2連結部72が、外輪回転部51に向けて付勢されることとなる。
【0082】
そのため、外輪回転部51の軸ブレによって第1フローティングカラー73の内側接続部73aにおける連結状態と、外側接続部74cにおける連結状態がそれぞれ変化しても、ウェーブリング75による付勢力で第1フローティングカラー73のがたつきが抑えられる。また、外輪回転部51の軸ブレが生じ、第2フローティングカラー74の内側接続部74aにおける連結状態と、外側接続部74cにおける連結状態がそれぞれ変化しても、皿バネ76による付勢力で第2フローティングカラー74のがたつきが抑えられる。
【0083】
これにより、音振性能の向上を図り、フローティング軸70や、第1,第2フローティングカラー73,74が動くことにより発生するいわゆるコトコト音の発生を防止できる。
【0084】
次に、効果を説明する。
実施例2の車軸支持構造にあっては、下記に挙げる効果を得ることができる。
【0085】
(6) 前記駆動源出力軸(出力軸部)35と前記第1連結部71との間に第1フローティングカラー73を介在し、又は、前記車軸(外輪回転部)51と前記第2連結部72と間に第2フローティングカラー74を介在し、
前記セレーションは、前記第1フローティングカラー73の内周面(内側接続部)73a及び外周面(外側接続部)73c、及び、前記第2フローティングカラー74の内周面(内側接続部)74a及び外周面(外側接続部)74cに設けられる構成とした。
このため、第1連結部61における連結自由度や、第2連結部62における連結自由度をさらに高めることができ、フローティング軸70の移動自由度を大幅に増大して、大きな軸ブレに対応することができる。
【0086】
(7) 前記フローティング軸70は、前記第1連結部71を前記駆動源出力軸(出力軸部)35に向けて付勢する弾性部材(ウェーブリング)75、又は、前記第2連結部72を前記車軸(外輪回転部)51に向けて付勢する弾性部材(皿バネ)76、の少なくとも一方を有する構成とした
このため、軸ブレ発生時の音振性能の向上を図り、フローティング軸70や、第1,第2フローティングカラー73,74が動くことにより発生するいわゆるコトコト音の発生を防止できる。
【実施例3】
【0087】
実施例3は、フローティング軸の振れ回りを規制することができる車軸支持構造の例である。
【0088】
まず、構成を説明する。なお、この実施例3の車軸支持構造を適用したインホイールモータユニットMU2の基本構成は実施例1と同等であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
図9は、実施例3の車軸支持構造が適用されたインホイールモータユニットを示す縦断面図である。図10は、図9に示すインホイールモータユニットの要部を示す拡大図である。
【0089】
図9に示すインホイールモータユニットMU2は、車輪40のホイール41に取り付けられ、モータケース10と、電動モータ(駆動源)20と、減速機30と、を有している。そして、キャリア34の出力軸部35と、ハブ軸受50の外輪回転部51とが、フローティング軸80を介して連結されている。
【0090】
このフローティング軸80は、図10に示すように、一方の端部に第1フローティングカラー83を介して出力軸部35と回転方向以外の方向の自由度を持って連結する第1連結部81が形成され、他方の端部に外輪回転部51と回転方向以外の方向の自由度を持って連結する第2連結部82が形成されている。
【0091】
なお、「回転方向以外の自由度」とは、実施例1及び実施例2と同様、例えば軸方向が一致した状態で平行に位置ずれする径方向の自由度や、軸方向が異なる傾斜方向の自由度等である。
【0092】
前記第1連結部81、前記第1フローティングカラー83の構成は、実施例2と同様であるため、詳細な説明を省略する。また、前記第2連結部82の構成は、実施例1と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0093】
そして、この実施例3では、フローティング軸80の中間部に対向したハブ軸受50の内輪固定部52に、補助軸受84を設けている。
【0094】
前記補助軸受84は、フローティング軸80の外周面80aとの間に、径方向に所定の間隙Kをあけて対向し、このフローティング軸80の振れ回りを規制する軸支持部である。
【0095】
そして、この補助軸受84は、内輪固定部52に固定された外方部材84aと、この外方部材84aに転動体84bを介して摺動可能に保持された内方部材84cと、を有している。これにより、この補助軸受84は、フローティング軸80が接触したときに、車体側部材であるケース本体11に固定された内輪固定部52に対してフローティング軸80を回転自在に支持する。
【0096】
これにより、ハブ軸受50に異常が発生しておらず、フローティング軸80の軸方向と出力軸部35の軸方向とが一致した通常状態では、補助軸受84とフローティング軸80との間に所定の間隙Kがあいている。そのため、フローティング軸80が補助軸受84に接触することはない。
【0097】
一方、ハブ軸受50に何らかの異常が発生し、外輪回転部51にがたつきが生じ、フローティング軸80の軸方向が出力軸部35の軸方向に対してずれたときには、フローティング軸80が振れ回ることになる。そのため、フローティング軸80の外周面80aが補助軸受84の内方部材84cに接触する。
【0098】
このとき、補助軸受84の外方部材84aは、ケース本体11に固定された内輪固定部52に設けられているため移動することはない。そのため、フローティング軸80は、補助軸受84の内方部材84cと共に回転し、補助軸受84の内径の範囲での振れ回ることとなる。この結果、フローティング軸80の第1連結部81における変位量が規制され、第1連結部81の損傷を防止することができる。
【0099】
さらに、フローティング軸80が補助軸受84に接触したときには、この補助軸受84によって車輪40から入力する荷重の一部を支持することができる。これにより、ハブ軸受50によって支持する車輪40からの荷重が低減し、ハブ軸受50におけるがたつきが進行することを抑制できる。
すなわち、補助軸受84がフローティング軸80を支持することで、ハブ軸受50における負荷能力が増大する。これにより、がたつきの進行を抑制する効果を期待できる。
【0100】
このような実施例3の車軸支持構造にあっては、下記に挙げる効果を得ることができる。
【0101】
(8) 車体に揺動可能に設けた車体側部材(内輪固定部)52に、前記フローティング軸80の外周面80aとの間に、径方向に所定の間隙Kをあけて対向し、前記フローティング軸80の振れ回りを規制する軸支持部(補助軸受)84を設けた構成とした。
このため、フローティング軸80が振れ回った際に、フローティング軸80の第1連結部81における変位量が規制され、第1連結部81の損傷を防止することができる。
【0102】
(9) 前記軸支持部は、前記フローティング軸80が接触した際に、前記車体側部材(内輪固定部)52に対して、前記フローティング軸80を回転自在に支持する補助軸受84により構成する構成とした。
このため、補助軸受84がフローティング軸80に接触することで、補助軸受84によって車輪40から入力する荷重の一部が支持され、ハブ軸受50によって支持する車輪40からの荷重が低減して、ハブ軸受50におけるがたつきが進行することを抑制できる。
【実施例4】
【0103】
実施例4は、フローティング軸の振れ回りをメタル軸受によって規制する車軸支持構造の例である。
【0104】
まず、構成を説明する。なお、この実施例4の車軸支持構造を適用したインホイールモータユニットMU3の基本構成は実施例1と同等であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
図11は、実施例4の車軸支持構造が適用されたインホイールモータユニットを示す縦断面図である。図12は、図11に示すインホイールモータユニットの要部を示す拡大図である。
【0105】
図11に示すインホイールモータユニットMU3は、車輪40のホイール41に取り付けられ、モータケース10と、電動モータ(駆動源)20と、減速機30と、を有している。そして、キャリア34の出力軸部35と、ハブ軸受50の外輪回転部51とが、フローティング軸90を介して連結されている。
【0106】
このフローティング軸90は、図12に示すように、一方の端部に第1フローティングカラー93を介して出力軸部35と回転方向以外の方向の自由度を持って連結する第1連結部91が形成され、他方の端部に外輪回転部51と回転方向以外の方向の自由度を持って連結する第2連結部92が形成されている。
【0107】
なお、「回転方向以外の自由度」とは、実施例1から実施例3と同様、例えば軸方向が一致した状態で平行に位置ずれする径方向の自由度や、軸方向が異なる傾斜方向の自由度等である。
【0108】
前記第1連結部91、前記第1フローティングカラー93の構成は、実施例2と同様であるため、詳細な説明を省略する。また、前記第2連結部92の構成は、実施例1と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0109】
そして、この実施例4では、フローティング軸90の中間部に対向したハブ軸受50の内輪固定部52に、メタル軸受94を一体に設けている。
【0110】
前記メタル軸受94は、フローティング軸90の外周面90aとの間に、径方向に所定の間隙Kをあけて対向し、このフローティング軸90の振れ回りを規制する軸支持部であると共に、フローティング軸90と接触したときには、内輪固定部52に対して、フローティング軸90を回転自在に支持する補助軸受である。
【0111】
そして、このメタル軸受94の軸方向前後位置には、フローティング軸90と内輪固定部52の間を閉鎖する環状の第1オイルシール95aと第2オイルシール95bとが設けられている。さらに、この第1,第2オイルシール95a,95bの間には、フローティング軸90とメタル軸受94とが接触したときの焼きつきの発生を防止するため、グリスが封入されている。
【0112】
なお、出力軸部35の外周側とケース本体11の開口11aとの間に環状のオイルシール35aが設けられ、フローティング軸90と内輪固定部52の間に環状の第1オイルシール95aが設けられたことで、このオイルシール35aと第1オイルシール95aとの間の空間Sが閉じきりになる。そのため、温度変化により、この空間S内の圧力が変動するため、空間Sと外部空間とを連通する息抜き構造として、フローティング軸90の内部にエアフィルタ96を設置している。
【0113】
さらに、この実施例4の車軸支持構造におけるフローティング軸90は、メタル軸受94と第2連結部92との間に、このフローティング軸90の曲げ方向負荷に対する最弱部97を設けた。
【0114】
ここで、「最弱部」とは、フローティング軸90に作用する曲げ方向の負荷に対して、最も変形しやすい箇所であり、ここでは、フローティング軸90の径寸法を最も小さくすることで形成されている。
【0115】
このような実施例3の車軸支持構造では、ハブ軸受50の内輪固定部52に、所定の間隙Kをあけてフローティング軸90に対向するメタル軸受94を一体に設けたことで、ハブ軸受50の異常によりフローティング軸90が振れ回った際に、このメタル軸受94とフローティング軸90が接触する。これにより、フローティング軸90の振れ回りを規制すると共に、ハブ軸受50に作用する荷重をメタル軸受94によって支持することで、ハブ軸受50の負荷を軽減することができる。
【0116】
また、フローティング軸90の振れ回りを規制する軸支持部をメタル軸受94で構成することで、実施例3に示した補助軸受84のような通常の玉軸受に対して、径方向寸法を取らずに負荷支持能力を高めることができる。その結果、ハブ軸受50の外径寸法を相対的に小さくし、径方向寸法の小型化を図ることができる。
【0117】
さらに、このメタル軸受94の軸方向両側に第1,第2オイルシール95a,95bを設けることで、オイルシール35aと第1オイルシール95aとの間の空間Sが閉じきりになる。このため、この空間Sが外部空間から隔離され、この空間S内への泥水等の浸入を防止でき、ユニット内部の清浄度を向上することができる。なお、空間Sの圧力変動は、エアフィルタ96を介して外部空間と空間Sを連通したことで解消する。
【0118】
そして、メタル軸受94とフローティング軸90とが接触し、メタル軸受94によってハブ軸受50の外輪回転部51が振れ回る軸ブレを規制しても、なお増大するような大きな軸ブレが生じたときには、フローティング軸90に作用する曲げ方向の負荷で、最弱部97が変形する。これにより、出力軸部35の第1接続部36へと伝達される軸ブレを緩和することができる。そして、減速機30等の出力軸部35よりも上流側、つまり駆動源である電動モータ20側への過大な入力によるダメージを防止することができる。
【0119】
このような実施例4の車軸支持構造にあっては、下記に挙げる効果を得ることができる。
【0120】
(10) 前記補助軸受は、メタル軸受94で構成する構成とした。
このため、通常の玉軸受よりも、径方向寸法を取らずに負荷支持能力を高めることができ、ハブ軸受50の外径寸法を相対的に小さくして径方向寸法の小型化を図ることができる。
【0121】
(11) 前記軸支持部(メタル軸受)94と、前記フローティング軸90の前記第2連結部92との間に、前記フローティング軸の曲げ方向負荷に対する最弱部を設けた構成とした。
このため、メタル軸受94により軸ブレを規制しても、なお増大するような大きな軸ブレが生じたときであっても、最弱部97が変形することで出力軸部35の第1接続部36へと伝達される軸ブレを緩和することができる。そして、減速機30等の出力軸部35よりも上流側への過大な入力によるダメージを防止することができる。
【実施例5】
【0122】
実施例5は、フローティング軸の第1連結部を区画壁を用いてモータケース内に取り込んだ車軸支持構造の例である。
【0123】
まず、構成を説明する。なお、この実施例5の車軸支持構造を適用したインホイールモータユニットMU4の基本構成は実施例1と同等であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
図13は、実施例4の車軸支持構造が適用されたインホイールモータユニットを示す縦断面図である。図14は、図13に示すインホイールモータユニットの要部を示す拡大図である。
【0124】
図13に示すインホイールモータユニットMU4は、車輪40のホイール41に取り付けられ、モータケース10と、電動モータ(駆動源)20と、減速機30と、を有している。そして、キャリア34の出力軸部35と、ハブ軸受50の外輪回転部51とが、フローティング軸100を介して連結されている。
【0125】
このフローティング軸100は、図14に示すように、一方の端部に第1フローティングカラー103を介して出力軸部35と回転方向以外の方向の自由度を持って連結する第1連結部101が形成され、他方の端部に外輪回転部51と回転方向以外の方向の自由度を持って連結する第2連結部102が形成されている。そして、フローティング軸100の中間部に対向したハブ軸受50の内輪固定部52には、補助軸受104を設けている。
【0126】
なお、「回転方向以外の自由度」とは、実施例1から実施例4と同様、例えば軸方向が一致した状態で平行に位置ずれする径方向の自由度や、軸方向が異なる傾斜方向の自由度等である。
【0127】
前記第1連結部101、前記第1フローティングカラー103の構成は、実施例2と同様であるため、詳細な説明を省略する。また、前記第2連結部102の構成は、実施例1と同様であるため、詳細な説明を省略する。また、フローティング軸100の構成及び補助軸受104の構成は、実施例3と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0128】
そして、この実施例5では、フローティング軸100の中間部外周に、ケース本体11の開口11aから径方向内側に延在された隔壁11bとの間を閉鎖する環状のオイルシール105が設けられている。
【0129】
このオイルシール105は、モータケース10内に収納され、電動モータ20の冷却や減速機30の潤滑に用いられるオイルが外部に流出することを防止する。また、このオイルシール105と隔壁11bは、フローティング軸100の中間部から径方向に延在し、第1連結部101が配置された領域S1と、第2連結部102が配置された領域S2とを区画する区画壁となっている。
【0130】
このような実施例5の車軸支持構造では、フローティング軸100の中間部外周に、隔壁11bとの間を閉鎖する環状のオイルシール105が設けられたことで、出力軸部35の第1接続部36と連結する第1連結部101が、モータケース10の内部に配置される。
【0131】
そのため、モータケース10内に収容されたオイルによって、第1連結部101及び第1フローティングカラー103における潤滑を行うことができる。この結果、第1連結部101や第1フローティングカラー103が泥水等に接触して錆等が生じて軸ブレ吸収機能が低下することを防止できる。また、オイル潤滑を行うことで、第1フローティングカラー103に嵌合したウェーブリング106や、第1連結部101と第1フローティングカラー103との接触部分、第1フローティングカラー103と第1接続部36との接続部分等の摩耗低減を図ることができる。これにより、第1連結部101や第1フローティングカラー103の保守管理を容易にすることができる。
【0132】
このような実施例5の車軸支持構造にあっては、下記に挙げる効果を得ることができる。
【0133】
(12) 前記フローティング軸100は、中間部から径方向に延在し、前記第1連結部101が配置された領域S1と、前記第2連結部102が配置された領域S2とを区画する区画壁(隔壁11b,オイルシール105)を有する構成とした。
このため、駆動源出力軸である出力軸部35側に収納されたオイルによって第1連結部101の潤滑を行うことができ、第1連結部101の摩耗低減を図って、保守管理を容易にすることができる。
【0134】
以上、本発明の車軸支持構造を実施例1から実施例5に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0135】
実施例3においてフローティング軸80の振れ回りを規制する軸支持部として、補助軸受84を設け、実施例4において軸支持部としてメタル軸受94を設けたように、上記実施例3,4では、軸支持部がいずれも車体側部材に対してフローティング軸を回転自在に支持する軸受構造を有するものであった。
【0136】
しかしながら、これに限らず、例えば図15に示すように、軸支持部として、車体側部材であるケース本体11に固定したハブ軸受50の内輪固定部52から、フローティング軸110に向かって突出した環状の規制壁111としてもよい。この規制壁111は、フローティング軸110の外周面110aとの間に、径方向に所定の間隙Kをあけて対向する内周面111aを有している。
【0137】
この規制壁111によって、ハブ軸受50に生じた異常によって外輪回転部51ががたつき、フローティング軸110が振れ回っても、フローティング軸110の外周面110aが規制壁111に接触する。そして、この規制壁111により、フローティング軸110は規制壁111の内径の範囲での振れ回ることとなり、フローティング軸110の第1連結部112における変位量が規制され、第1連結部112の損傷を防止することができる。
【0138】
さらに、フローティング軸110の振れ回りが増大しても、規制壁111を支点に、最弱部113に荷重が作用するので、最弱部113を変形させて、第1連結部112へと軸ブレが伝達されることを防止する。
【0139】
そして、規制壁111は、回転しないケース本体11に固定されているため、回転するフローティング軸110と接触した時に異音が発生すると共に、フリクションが増大する。このように異音やフリクションを積極的に発生、増大させることで、ドライバーに異常を警告する作用も期待できる。
【0140】
また、実施例2では、フローティング軸70と出力軸部35との間に第1フローティングカラー73を介在し、フローティング軸70と外輪回転部51の間に第2フローティングカラー74を介在している。しかしながら、例えば実施例3のように、比較的大きな自由度、すなわち傾斜角度の余裕を必要とする第1連結部のみに第1フローティングカラーを設けてもよい。
【0141】
また、この実施例2では、第1フローティングカラー73とフローティング軸70との間、第1フローティングカラー73と出力軸部35との間に、それぞれ弾性部材であるウェーブリング75が配置され、第2フローティングカラー74とホイール41との間に、弾性部材である皿バネ76が配置されている。
しかしながら、弾性部材の配置位置はこれらに限らず、弾性部材が必ずしも配置される必要はない。また、弾性部材の材質もウェーブリングや皿バネに限らない。
【0142】
そして、上記各実施例では、車軸支持構造をインホイールモータユニットに適用した例を示したが、これに限らない。駆動源により回転する駆動源出力軸と、この駆動源出力軸と同軸に配置され、車輪と一体に回転する車軸と、を有する車両であれば、エンジン自動車やハイブリッド自動車、1つの駆動用モータによって走行する電気自動車等の車両一般に適用することができる。
【0143】
また、車体側部材はケース本体11に限らず、車体から搖動可能に伸びたトレーリングアーム等であってもよい。また、車輪側部材は外輪回転部51に限らず、車輪に接続した車軸や、この車軸に嵌合したホイールハブ等であってもよい。
【符号の説明】
【0144】
MU インホイールモータユニット
10 モータケース
11 ケース本体(車体側部材)
20 電動モータ(駆動源)
22a ロータ回転軸
30 減速機
34 キャリア
35 出力軸部(駆動源出力軸)
36 第1接続部
40 車輪
41 ホイール
50 ハブ軸受(車輪用軸受)
51 外輪回転部(外方部材、車軸)
52 内輪固定部(内方部材)
54 第2接続部
60 フローティング軸
61 第1連結部
62 第2連結部
63 第1フローティング接続部
64 第2フローティング接続部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源により回転する駆動源出力軸と、
前記駆動源出力軸と同軸に配置され、車輪と一体に回転する車軸と、
前記駆動源出力軸と回転方向以外の方向の自由度を持って連結する第1連結部と、前記車軸と回転方向以外の方向の自由度を持って連結する第2連結部と、を有し、前記駆動源出力軸から前記車軸へと動力を伝達するフローティング軸と、
を備えたことを特徴とする車軸支持構造。
【請求項2】
請求項1に記載された車軸支持構造において、
前記フローティング軸は、前記第1連結部又は前記第2連結部の少なくとも一方に、クラウニング加工を施したセレーションを設けたことを特徴とする車軸支持構造。
【請求項3】
請求項2に記載された車軸支持構造において、
前記駆動源出力軸と前記第1連結部との間に第1フローティングカラーを介在し、又は、前記車軸と前記第2連結部と間に第2フローティングカラーを介在し、
前記セレーションは、前記第1フローティングカラーの内周面及び外周面、及び、前記第2フローティングカラーの内周面及び外周面に設けられることを特徴とする車軸支持構造。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載された車軸支持構造において、
前記フローティング軸は、前記第1連結部の径寸法よりも、前記第2連結部の径寸法の方を大きく設定することを特徴とする車軸支持構造。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載された車軸支持構造において、
前記車軸は、車輪用軸受を介して車体に揺動可能に設けた車体側部材に回転自在に支持され、
前記車輪用軸受は、前記車体側部材に固定される内方部材と、前記車軸に接続され、前記内方部材に対して回転する外方部材と、を有することを特徴とする車軸支持構造。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載された車軸支持構造において、
前記フローティング軸は、前記第1連結部を前記駆動源出力軸に向けて付勢する弾性部材、又は、前記第2連結部を前記車軸に向けて付勢する弾性部材、の少なくとも一方を有することを特徴とする車軸支持構造。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載された車軸支持構造において、
車体に揺動可能に設けた車体側部材に、前記フローティング軸の外周面との間に、径方向に所定の間隙をあけて対向し、前記フローティング軸の振れ回りを規制する軸支持部を設けたことを特徴とする車軸支持構造。
【請求項8】
請求項7に記載された車軸支持構造において、
前記軸支持部は、前記フローティング軸が接触した際に、前記車体側部材に対して、前記フローティング軸を回転自在に支持する補助軸受により構成することを特徴とする車軸支持構造。
【請求項9】
請求項8に記載された車軸支持構造において、
前記補助軸受は、メタル軸受で構成することを特徴とする車軸支持構造。
【請求項10】
請求項7から請求項9のいずれか一項に記載された車軸支持構造において、
前記軸支持部と、前記フローティング軸の前記第2連結部との間に、前記フローティング軸の曲げ方向負荷に対する最弱部を設けたことを特徴とする車軸支持構造。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載された車軸支持構造において、
前記フローティング軸は、中間部から径方向に延在し、前記第1連結部が配置された領域と、前記第2連結部が配置された領域とを区画する区画壁を有することを特徴とする車軸支持構造。
【請求項12】
請求項1から請求項11のいずれか一項に記載された車軸支持構造において、
前記車軸は、車輪用軸受を介して車体に揺動可能に設けた車体側部材に回転自在に支持され、
前記フローティング軸は、前記車輪用軸受の内側に配置することを特徴とする車軸支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−82368(P2013−82368A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224544(P2011−224544)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】