説明

車載用モノパルス式レーダ装置

【課題】受信波に含まれる不要信号を除去して対象物を正しく検知することが可能な車載用モノパルス式レーダ装置を提供する。
【解決手段】車載用モノパルス式レーダ装置100は、通常行う対象物の検知とは別に、所定の時間間隔で不要信号の計測を行っており、測定された不要信号計測値を記憶部103に記憶している。そして、通常の対象物の検知の際には、記憶部103から不要信号計測値を読み出して不要信号補正値を算出し、これを受信信号から差し引くことで不要信号の影響を低減するように構成されている。本実施形態では、不要信号に送信信号12の反射波も含めて計測されるのを防止するために、不要信号を計測するときには送信部110を停止させて受信部120側だけを動作させるようにしている。これにより、不要信号のみを計測して記憶部103に記憶させておくことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載して対象物を検出する車載用モノパルス式レーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、車載用レーダ装置では、走行中の道路状態や周辺の建造物の状態、及び天候等の環境条件によって、反射波に対するノイズレベルが大きく変化する。これにより、対象物が検知できずに見落としてしまう、あるいは誤って対象物と判定してしまう等のおそれがあった。このような問題を解決するために、特許文献1では、車両検知に用いる閾値を受信信号から定期的に推定して更新する仕組みが開示されている。
【0003】
また、特許文献2のビーム走査式レーダにおいては、ビーム方向を制御するためのモータ及びリフレクタを備えており、モータを動作させてリフレクタの方向を順次変更してスキャンしていくことで、所定の領域内の対象物を検出し、該対象物の測距、測速度を行うことが記載されている。特許文献2のレーダは、干渉波を検知するための干渉検知手段を備えており、干渉波の検知を行う方向をあらかじめ決めておき、受信用アンテナが所定の方向になった時にビームの放射を停止させ、その方向から受信される干渉波を検出することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平05−323014号公報
【特許文献2】特開2004−163340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の従来の技術では以下のような問題があった。特許文献1に記載されているレーダ装置では、それまでに記憶されているノイズレベルと、受信レベルとを比較することでノイズレベルを更新し、これに所定の値を加えたものを閾値として用いているが、ノイズレベルを計測する際もレーダ装置から送信波が出力されているため、受信波に送信波が混入してノイズレベルを正しく計測できないといった問題がある。
【0006】
また、特許文献2に記載のレーダ装置では、あらかじめ決められた所定方向の時のみ、指向性の強いアンテナを用いて干渉波の検出を行っているが、車載用レーダ装置では、ノイズ等の発生源である外部機器等の位置や、不要な反射波を発生させる原因となるトンネルや路肩の地形などといった外部環境は、車両の走行とともに常に変化する。そのため、車載用レーダ装置では、不要信号を計測するのに好適な方向というのは存在しない。また、特許文献2では指向性の強い受信用アンテナを用いているが、このような受信用アンテナでは、所定方向の限られた範囲から伝播する不要信号しか受信できず、ノイズレベルを正しく計測することはできない。その結果、不適切な閾値を用いることになり、対象物の検知を適切に行うことができなくなるといった問題がある。
【0007】
さらに、特許文献2のレーダ装置では、走査ビームの方向を機械的に動作させるリフレクタを用いて制御しているため、走査ビームの方向を短時間で変更することはできない。そのため、例えば100msといった短周期でノイズレベルを計測して更新することは極めて困難である。その結果、トンネル通過や路肩地形の変化、降雨降雪などの天候変化等といった周囲環境の急激な変化に対し、その影響を受けて発生する不要波の変化に迅速に対応することができず、対象物の見落としや誤検出が発生するといった問題がある。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、受信波に含まれる不要信号を除去して対象物を正しく検知することが可能な車載用モノパルス式レーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の車載用モノパルス式レーダ装置の第1の態様は、パルスを発生させ、これを所定の周波数帯にアップコンバートして送信信号を生成する送信処理部と、前記送信処理部から前記送信信号を入力して放射する送信用アンテナと、前記送信用アンテナから放射された電波が対象物で反射された反射波を受信する受信用アンテナと、前記受信用アンテナから受信信号を入力し、これをダウンコンバートして電圧信号に変換する受信処理部と、前記受信処理部から前記電圧信号を入力し、これをAD変換してデジタル値を出力するAD変換部と、前記AD変換部から前記デジタル値を入力して前記対象物を検知する演算処理部と、不要信号計測値を保存する記憶部と、前記記憶部から前記不要信号計測値を入力し、これから不要信号補正値を決定する不要信号決定部と、を備え、前記演算処理部は、前記送信処理部を動作させて前記送信信号を前記送信用アンテナから放射するとともに、前記不要信号決定部から前記不要信号補正値を入力して前記AD変換部から入力した前記デジタル値から前記不要信号補正値を差し引いて前記対象物の検知を行う対象物検知ステップを行うとともに、前記対象物検知ステップを第1の所定回数行う毎に、前記送信処理部を停止させて前記AD変換部から前記デジタル値を入力し、これを不要信号計測値として前記記憶部に保存する不要信号計測ステップを行うことを特徴とする。
【0010】
本発明の車載用モノパルス式レーダ装置では、受信信号から変換されたデジタル値を、対象物検知ステップの第1の所定回数毎に更新される不要信号補正値で補正して対象物の検知を行っていることから、不要信号の影響を低減して対象物の検知を高精度に行うことが可能となる。
【0011】
本発明の車載用モノパルス式レーダ装置の他の態様は、前記演算処理部は、前記対象物を検知すると、該対象物までの距離、角度、及び相対速度を算出することを特徴とする。対象物を検知したときに対象物までの距離、角度、及び相対速度を算出することで、高度な運転制御が可能となる。
【0012】
本発明の車載用モノパルス式レーダ装置の他の態様は、前記第1の所定回数は、2回以上50回以下であることを特徴とする。これにより、更新された不要信号計測値を用いて、2回以上の対象物の検知を行わせるようにするとともに、適宜の時間間隔で不要信号計測ステップを行って不要信号補正値を更新する。
【0013】
本発明の車載用モノパルス式レーダ装置の他の態様は、前記記憶部は、前記不要信号計測値を第2の所定回数分保存する容量を有し、前記第2の所定回数分を超えて前記不要信号計測値を入力するときは、古いものから順に破棄して前記演算処理部から入力した前記デジタル値を保存することを特徴とする。記憶部の容量をこのように構成することにより、不要信号決定部で算出する不要信号補正値の精度を高めることが可能となる。
【0014】
本発明の車載用モノパルス式レーダ装置の他の態様は、前記不要信号決定部は、前記記憶部から前記第2の所定回数分の前記不要信号計測値を読み出し、これを平均して前記不要信号補正値を算出することを特徴とする。複数個の不要信号計測値を平均化して不要信号補正値を算出することにより、不要信号補正値のばらつきを小さくして対象物の検知をより高精度に行うことが可能となる。
【0015】
本発明の車載用モノパルス式レーダ装置の他の態様は、前記記憶部は、不揮発性のメモリで構成されて電源オフ後も前記不要信号計測値を保存し、再び電源オンになると前記不要信号決定部が前記記憶部から前記不要信号計測値を読み出して前記不要信号補正値を算出することを特徴とする。これにより、電源オン後の不要信号の計測を行う前であっても、受信信号を補正して対象物の検知を行うことが可能となる。
【0016】
本発明の車載用モノパルス式レーダ装置の他の態様は、前記対象物検知ステップ及び前記不要信号計測ステップは、それぞれ20msの時間内に行われることを特徴とする。このような短い時間内で対象物検知及び不要信号の計測を行うことで、環境条件の変化にも速やかに対応して不要信号補正値を更新することが可能となり、対象物を高精度に検知することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の車載用モノパルス式レーダ装置によれば、受信波に含まれる不要信号を所定の時間間隔で計測し、対象物を検知するときは受信信号から事前に計測された不要信号を除去して対象物の判定を行っていることから、対象物を高精度に検知することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る車載用モノパルス式レーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本実施形態の車載用モノパルス式レーダ装置で行われる処理の全体の流れを示すフローチャートである。
【図3】不要信号の計測における処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】通常の対象物の検知における処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の好ましい実施の形態における車載用モノパルス式レーダ装置について、図面を参照して詳細に説明する。同一機能を有する各構成部については、図示及び説明簡略化のため、同一符号を付して示す。
【0020】
本発明の実施の形態に係る車載用モノパルス式レーダ装置の構成を、図1を用いて説明する。図1は、本実施形態の車載用モノパルス式レーダ装置100の構成を示すブロック図である。本実施形態の車載用モノパルス式レーダ装置100は、各処理部の動作を制御するとともに対象物の検知を行う演算処理部101と、送信信号を送出するための処理を行う送信部110と、受信信号の処理を行う受信部120とを備えている。さらに、不要信号の処理を適切に行えるようにするために、車載用モノパルス式レーダ装置100は、不要信号決定部102と記憶部103を備える構成となっている。
【0021】
送信部110は、送信処理部111及び送信用アンテナ112で構成されている。送信処理部111は、演算処理部101から制御信号11として送信指示を入力すると、そのタイミングで対象物を検知するためのパルス信号を所定の周期で生成する。そして、このパルス信号を所定の周波数の搬送波でアップコンバートして送信信号12に変換し、この送信信号12を送信用アンテナ112に出力する。
【0022】
送信用アンテナ112は、送信処理部111から送信信号12を入力すると、これを空中に放射する。本実施形態では、車載用モノパルス式レーダ装置100が広い角度範囲で測角できるように構成されており、これに対応して送信用アンテナ112が、例えば車両の進行方向を中心として左右に約−60度〜+60度の範囲で送信信号を空中に放射するものとする。
【0023】
受信側の受信部120は、2組の受信用アンテナ121a/bと、2組の受信処理部122a/b、及び2組のAD変換部123a/bを備えている。本実施形態のレーダ装置100は、モノパルス方式を用いて測角するために、受信用アンテナ、受信処理部、及びAD変換部からなる受信系を2系統備える構成となっている。受信用アンテナ121a/bは、送信用アンテナ112と同様に、車両の進行方向を中心として約−60度〜+60度の範囲で受信できるように構成されているものとする。受信用アンテナ121a/bで受信されたそれぞれの受信信号21a/bは、各受信用アンテナが接続された受信処理部122a/bに伝送される。
【0024】
受信処理部122a/bは、演算処理部101からの制御信号24a/bに基づいて、処理開始の指示を受けると以下の処理を行う。すなわち、受信処理部122a/bは、まず受信用アンテナ121a/bからそれぞれの受信信号21a/bを入力し、それぞれをダウンコンバートして電圧信号22a/bに変換する。それぞれで変換された電圧信号22a/bは、それぞれの受信処理部122a/bに接続されたAD変換部123a/bに出力される。
【0025】
AD変換部123a/bも、受信処理部122a/bと同様に、演算処理部101からの制御信号25a/bに基づいて以下の処理を開始する。すなわち、AD変換部123a/bは、受信処理部122a/bから入力した電圧信号22a/bをAD変換してデジタル値23a/bを求め、これを演算処理部101に出力する。なお、演算処理部101から出力される制御信号25a/bは、受信処理部122a/bに出力される制御信号24a/bとほぼ同時に出力される。
【0026】
演算処理部101は、AD変換部123a/bからデジタル値23a/bを入力し、これから対象物の有無を判定する。その結果、対象物が検知されると、対象物の位置情報や相対速度を演算する。本実施形態の車載用モノパルス式レーダ装置100では、受信部120が2系統の受信用アンテナ121a/b、受信処理部122a/b、およびAD変換部123a/bで構成されていることから、それぞれの系統で処理された2つのデジタル値23a/bが演算処理部101に出力される。これにより、演算処理部101では、対象物の位置情報として、対象物までの距離に加えて、モノパルス方式に従って2つのデジタル値23a/bから対象物の位置角度(進行方向からのずれ角度)を検出することが可能となる。なお、対象物の位置角度を計測する必要がない場合には、受信部120を1系統の受信用アンテナ、受信処理部、およびAD変換部で構成することができる。
【0027】
上記説明のように、本実施形態の車載用モノパルス式レーダ装置100は、広角度に送信可能な送信用アンテナ112と、広角度の方向から放射される信号を受信可能な受信用アンテナ121a/bとを備えており、これにより広い角度範囲で対象物の検知が可能となっている。一方、広角度な受信用アンテナ121a/bを用いていることから、受信用アンテナ121a/bが対象物からの反射波以外の不要信号を広角度の方向から受信してしまう。このような不要信号の影響を低減するために、本実施形態の車載用モノパルス式レーダ装置100は、上記のような構成に加えて、不要信号決定部102と記憶部103を備えている。以下では、車載用モノパルス式レーダ装置100において、不要信号を処理するための構成について説明する。
【0028】
車載用モノパルス式レーダ装置100は、通常行う対象物の検知とは別に、対象物の検知の所定回数(第1の所定回数)毎に不要信号の計測を行っており、測定された不要信号計測値を記憶部103に記憶している。前記所定の回数(第1の所定回数)としては、効率的な対象物検知を行う観点及び適宜の時間間隔で不要信号補正値を更新する観点から、2回以上50回以下が好ましい。そして、通常の対象物の検知の際には、記憶部103から不要信号計測値を読み出して不要信号補正値を算出し、これを受信信号から差し引くことで不要信号の影響を低減するように構成されている。本実施形態では、不要信号に送信信号12の反射波も含めて計測されるのを防止するために、不要信号を計測するときには送信部110を停止させて受信部120側だけを動作させるようにしている。これにより、不要信号のみを計測して記憶部103に記憶させておくことができる。
【0029】
不要信号決定部102は、通常の対象物の検知の際に、演算処理部101から要求信号31を入力すると、記憶部103から不要信号計測値を読み出し、これから不要信号補正値を算出して演算処理部101に出力する。記憶部103は、不要信号の計測時にAD変換部123a/bから入力した2つのデジタル値23a/bを不要信号計測値として記憶しており、不要信号決定部102はこの2つの不要信号計測値を記憶部103から読み出す。そして、読み出した2つの不要信号計測値を平均化して不要信号補正値を決定し、これを演算処理部101に出力している。あるいは、記憶部103に所定回数(第2の所定回数)分の不要信号を計測した結果を記憶させておき、不要信号決定部102が第2の所定回数分の不要信号計測値を読み出し、これを用いて不要信号補正値を算出するようにすることも可能である。また、2系統のデジタル値23a/bを別々に補正するために、記憶部103に記憶された不要信号計測値を系統ごとに平均化して演算処理部101に出力するようにすることも可能である。
【0030】
演算処理部101は、受信部120を制御して不要信号の計測を行わせると、AD変換部123a/bからデジタル値23a/bを入力して記憶部103に記憶させる。記憶部103は、不要信号を計測する度に演算処理部101から2つのデジタル値23a/bを入力して記憶するが、これを所定回数(第2の所定回数)分まで記憶できるようにするのが好ましい。そして、この所定回数分のデジタル値23a/bが記憶されると、それ以降は最も古いものから順次破棄して最新の測定結果を記憶させていくのがよい。記憶部103には、不揮発性のメモリを用いるのがよい。これにより、起動直後においても過去の不要信号のデータが記憶部103に保存されていることから、不要信号決定部102は、記憶部103に保存されている過去のデータを用いて不要信号補正値の初期値を決定することができる。
【0031】
演算処理部101は、不要信号を計測するときは、送信処理部111に対し処理を停止させるための制御信号11を出力する一方、受信処理部122a/b及びAD変換部123a/bに対しては、処理を開始させるための制御信号24a/b及び25a/bを出力する。これにより、受信処理部122a/b及びAD変換部123a/bは、送信部110からの送信信号の反射波を含まない受信波を処理し、演算処理部101は、AD変換部123a/bから入力したデジタル値23a/bを不要信号計測値として記憶部103に記憶させることができる。
【0032】
一方、通常の対象物検知を行うときは、演算処理部101は、送信処理部111に対し処理を開始させるための制御信号11を出力するとともに、不要信号決定部102に対して不要信号補正値を要求する要求信号31を出力する。要求信号31に応答して不要信号決定部102が不要信号補正値32を算出して演算処理部101に出力すると、演算処理部101は、これをAD変換部123a/bから入力したデジタル値23a/bの補正に用いる。すなわち、送信処理部111が処理を開始して送信用アンテナ112から送信信号が放射されるようになると、演算処理部101がAD変換部123a/bから入力するデジタル値23a/bには、対象物で反射された反射波に加えて不要信号も含まれている。そこで、演算処理部101では、AD変換部123a/bから入力したデジタル値23a/bから、不要信号決定部102から入力した不要信号補正値32を差し引いて補正する。これにより、不要信号の影響を低減して対象物の位置、相対速度、及び角度を高精度に検知することが可能となる。
【0033】
本実施形態の車載用モノパルス式レーダ装置100では、送信処理部111の停止や開始を、演算処理部101からの制御信号11だけで行わせることができることから、送信用アンテナ112から送信信号12を放射させたり停止させたりする制御を高速に行うことができる。その結果、不要信号の計測を、例えば100msといった極めて短い時間間隔毎に行わせることが可能となる。この場合、車速を例えば時速100kmとしたとき、3m未満の走行距離ごとに不要信号を計測することになり、周辺の環境変化に伴う不要信号の変化を対象物の検知に速やかに反映させることが可能となる。
【0034】
次に、本実施形態の車載用モノパルス式レーダ装置100で行われる処理を、図2乃至4に示すフローチャートを用いてさらに詳細に説明する。以下では、計測を行う周期の一例として、不要信号の計測を100ms毎に1回行うものとし、その間に通常の対象物の検知を4回行うものとする。すなわち、受信部120は20ms周期で受信信号の処理を行い、送信部110も20ms周期で送信信号の処理を行うが、5回に1回の割合で送信信号の送信を停止することによって通常の対象物の検知を停止し、不要信号の計測を行う。
【0035】
図2は、車載用モノパルス式レーダ装置100で行われる処理の全体の流れを示すフローチャートである。車載用モノパルス式レーダ装置100は、電源をONにすると(ステップS0)、計測回数Nを0に設定して初期化を行う(ステップS1)。計測回数Nは、不要信号の計測と対象物の検知のいずれを実施するかを判定するのに用いられる。計測回数Nを0に初期化した後、ステップS2で不要信号の計測を実行する。ここでは、電源をONにした直後は、まず無条件で不要信号の計測を行うようにしており、記憶部103に記憶されている不要信号計測値を最新のものに更新するようにしている。これにより、次回以降行われる通常の対象物の検知において、最新の不要信号計測値から算出された不要信号補正値を用いて受信信号の補正を行うことができる。
【0036】
ステップS2の不要信号の計測が終了すると、次の周期に達するまで待機する。次の20msの周期に達すると、まずステップS3で計測回数Nが4に達しているか判定する。ステップS2の不要信号の計測を行った次の周期では計測回数Nが0となっていることから、ステップS3での判定は「NO」となって次のステップS4に進む。ステップS4では、通常の対象物の検知が行われる。ステップS4の通常の対象物の検知が終了すると、次のステップS5では計測回数Nに1を加算してこれを更新している。計測回数Nは、不要信号の計測を行った後に通常の対象物の検知を行った回数となっている。その後、再び次の周期に達するまで待機する。
【0037】
以下、計測回数NがステップS5で1ずつ加算されてNの値が4(第1の所定回数)に達すると、次の周期においてステップS3の判定が初めて「YES」となり、ステップS1に進んで計測回数Nを再び0に初期化し、次のステップS2で再び不要信号の計測を行う。このようにして、本実施形態の車載用モノパルス式レーダ装置100では、所定の周期(例えば20ms)で通常の対象物の検知を行うと同時に、別の周期(例えば100ms)で不要信号の計測を行うように構成している。これにより、記憶部103に記憶されている不要信号計測値が、周囲環境等の変化に対応した最新のものに適宜更新されることから、通常の対象物の検知で受信された信号を、最新の不要信号補正値で補正することができる。その結果、対象物の見落としや誤検出を防止することが可能となる。
【0038】
次に、図2のステップS2における不要信号の計測について、図3を用いて詳細に説明する。図3は、不要信号の計測における処理の流れを示すフローチャートである。不要信号の計測が開始されると、まずステップS11において、演算処理部101から送信処理部S111に対し処理を停止させるための制御信号11を出力する。これにより、送信処理部111がその処理を停止する(ステップS12)。次にステップS13において、演算処理部101から受信処理部122a/b及びAD変換部123a/bに対して、処理を開始させるための制御信号24a/b及び25a/bを出力する。これにより、ステップS14において、受信処理部122a/bが受信用アンテナ121a/bから受信信号21a/bを入力し、これをダウンコンバートして電圧信号22a/bを出力する。次のステップS15では、AD変換部123a/bが受信処理部122a/bから電圧信号22a/bを入力し、これをAD変換してデジタル値23a/bを出力する。さらに、ステップS16では、演算処理部101がAD変換部123a/bからデジタル値23a/bを入力すると、これを不要信号計測値として記憶部103に記憶させる。
【0039】
さらに、図2のステップS4における通常の対象物の検知について、図4を用いて詳細に説明する。図4は、通常の対象物の検知における処理の流れを示すフローチャートである。通常の対象物の検知が開始されると、まずステップS21において、演算処理部101から送信処理部111に対し処理を開始させるための制御信号11を出力する。これにより、送信処理部111は対象物を検知するためのパルス信号を生成し、これをアップコンバートして送信用信号12として送信用アンテナ112に出力する(ステップS22)。そして、ステップS23で送信用アンテナ112から送信用信号12の電波が空中に放射される。
【0040】
次のステップS24では、演算処理部101が受信処理部122a/b及びAD変換部123a/bに対して、処理を開始させるための制御信号24a/b及び25a/bを出力する。これにより、ステップS25において、受信用アンテナ121a/bで受信された受信信号が受信処理部122a/bに出力される。ステップS26では、受信処理部122a/bが、受信用アンテナ121a/bから入力した受信信号21a/bをダウンコンバートし、電圧信号22a/bを出力する。次のステップS27では、AD変換部123a/bが受信処理部122a/bから電圧信号22a/bを入力し、これをAD変換してデジタル値23a/bを出力する。ステップS28では、演算処理部101がAD変換部123a/bからデジタル値23a/bを入力する。またステップS29では、演算処理部101が不要信号決定部102に対して不要信号補正値の要求信号31を出力する。
【0041】
ステップ30において、不要信号決定部102が演算処理部101から不要信号補正値の要求を受けると、記憶部103から不要信号計測値を読み込み、これを平均化して不要信号補正値32を算出し、この不要信号補正値32を演算処理部101に出力する。演算処理部101では、ステップS31において、不要信号決定部102から入力した不要信号補正値32をAD変換部123a/bから入力したデジタル値23a/bから差し引き、これから対象物の検知を行う。さらに、ステップS31で対象物が検知されると、ステップS32で対象物の位置(距離、角度)及び相対速度を算出する。
【0042】
なお、本実施の形態における記述は、本発明に係る車載用モノパルス式レーダ装置の一例を示すものであり、これに限定されるものではない。本実施の形態における車載用モノパルス式レーダ装置の細部構成及び詳細な動作などに関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0043】
100 車載用モノパルス式レーダ装置
101 演算処理部
102 不要信号決定部
103 記憶部
110 送信部
111 送信処理部
112 送信用アンテナ
120 受信部
121 受信用アンテナ
122 受信処理部
123 AD変換部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルスを発生させ、これを所定の周波数帯にアップコンバートして送信信号を生成する送信処理部と、
前記送信処理部から前記送信信号を入力して放射する送信用アンテナと、
前記送信用アンテナから放射された電波が対象物で反射された反射波を受信する受信用アンテナと、
前記受信用アンテナから受信信号を入力し、これをダウンコンバートして電圧信号に変換する受信処理部と、
前記受信処理部から前記電圧信号を入力し、これをAD変換してデジタル値を出力するAD変換部と、
前記AD変換部から前記デジタル値を入力して前記対象物を検知する演算処理部と、
不要信号計測値を保存する記憶部と、
前記記憶部から前記不要信号計測値を入力し、これから不要信号補正値を決定する不要信号決定部と、を備え、
前記演算処理部は、
前記送信処理部を動作させて前記送信信号を前記送信用アンテナから放射するとともに、前記不要信号決定部から前記不要信号補正値を入力して前記AD変換部から入力した前記デジタル値から前記不要信号補正値を差し引いて前記対象物の検知を行う対象物検知ステップを行うとともに、
前記対象物検知ステップを第1の所定回数行う毎に、前記送信処理部を停止させて前記AD変換部から前記デジタル値を入力し、これを不要信号計測値として前記記憶部に保存する不要信号計測ステップを行う
ことを特徴とする車載用モノパルス式レーダ装置。
【請求項2】
前記演算処理部は、前記対象物を検知すると、該対象物までの距離、角度、及び相対速度を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の車載用モノパルス式ドップラーレーダ装置。
【請求項3】
前記第1の所定回数は、2回以上50回以下である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の車載用モノパルス式ドップラーレーダ装置。
【請求項4】
前記記憶部は、前記不要信号計測値を第2の所定回数分保存する容量を有し、前記第2の所定回数分を超えて前記不要信号計測値を入力するときは、古いものから順に破棄して前記演算処理部から入力した前記デジタル値を保存する
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の車載用モノパルス式ドップラーレーダ装置。
【請求項5】
前記不要信号決定部は、前記記憶部から前記第2の所定回数分の前記不要信号計測値を読み出し、これを平均して前記不要信号補正値を算出する
ことを特徴とする請求項4に記載の車載用モノパルス式ドップラーレーダ装置。
【請求項6】
前記記憶部は、不揮発性のメモリで構成されて電源オフ後も前記不要信号計測値を保存し、再び電源オンになると前記不要信号決定部が前記記憶部から前記不要信号計測値を読み出して前記不要信号補正値を算出する
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の車載用モノパルス式レーダ装置。
【請求項7】
前記対象物検知ステップ及び前記不要信号計測ステップは、それぞれ20msの時間内に行われる
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の車載用モノパルス式ドップラーレーダ装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−216824(P2010−216824A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60667(P2009−60667)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】