説明

車載用圧縮機

【課題】潤滑性を確実に向上することのできる車載用圧縮機を提供することを目的とする。
【解決手段】バランスウェイト40の円弧状のウェイト部40cにおいて、ボス部40aに対向する側(内周側)に、ウェイト部40cの外周側に向けて凹となる凹部42を形成した。さらに凹部42において、バランスウェイト40の回転方向後方側の端部に、ボス部40aとウェイト部40cとの間に流れ込んだ冷媒の流れを、ドライブ軸受38側に向けて変向させる変向面42aを形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載用空気調和機を構成する車載用圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
スクロール型の車載用圧縮機は、渦巻状のスクロール壁をそれぞれ有する固定スクロールと旋回スクロールとを備える。そして、固定スクロールに対して旋回スクロールを公転旋回運動させ、双方のスクロール壁の間に形成される圧縮室の容積を減少させることで、圧縮室内の流体の圧縮を行う。
【0003】
図5に示すように、このような車載用圧縮機1においては、吸入ポートP1からハウジング2内に吸入された冷媒は、旋回スクロール3Bと固定スクロール3Aとの間に形成された圧縮室へ導かれる。固定スクロール3Aに対する旋回スクロール3Bの公転により、圧縮室内の冷媒が圧縮され、ハウジング2に形成された吐出ポートから外部に吐出される。
【0004】
ここで、旋回スクロール3Bは、外部から回転駆動される主軸4に対し、主軸4の回転中心から所定寸法だけオフセットして設けられた偏心軸4aに、ドライブ軸受5を介して回転自在(すなわち公転自在)に支持されている。なお旋回スクロール3Bが、公転しつつも自転はしないよう、旋回スクロール3Bと主軸4との間には、図示しないオルダムリング等の自転防止機構が介在している。
また、主軸4には、主軸4に対して偏心した旋回スクロール3Bによるアンバランスを解消するため、バランスウェイト6が設けられている。バランスウェイト6は、主軸4の偏心軸4aに対し、旋回スクロール3Bが偏心した方向とは反対方向に延びる扇状のプレート部6aの外周縁部に沿って、ウェイト部6bが一体に形成されている。
【0005】
そして、主軸4と旋回スクロール3Bの間に介在するドライブ軸受5は、主軸4と旋回スクロール3Bとの相対回転により発熱する。そこで、ドライブ軸受5の給油不足を避けるため、潤滑剤を含んだ冷媒を、ドライブ軸受5へ供給する必要がある。
【0006】
しかしながら、従来の手法は、ドライブ軸受5の近傍の空間への冷媒供給は、強制的なものではない。吸入ポートP1から導入された冷媒の流れの一部が、旋回スクロール3Bの背面と主軸4との間に形成された空間に流れ込む。この流れを利用し、ドライブ軸受5の近傍への冷媒供給を自然に行うのである。
【0007】
しかし、ドライブ軸受5の周囲には、冷媒の流れがほとんどないため、ドライブ軸受5の確実な潤滑が行えるとは限らない。
【0008】
そこで、主軸4と旋回スクロール3Bとの間に設けられているバランスウェイト6を利用し、冷媒の流れを変向させドライブ軸受5への潤滑性を向上させるという提案が既になされている(例えば、特許文献1。)。これは、旋回スクロール3Bと一体的に回転するバランスウェイト6のウェイト部6bの端部に、冷媒の流れをスラスト方向に変向させるための変向斜面や変向通路を形成することによるものとなっている。
【0009】
【特許文献1】特許第3261392号公報(図6、図7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、バランスウェイト6のウェイト部6bの端部に形成した変向斜面や変向通路の面積が非常に小さく、ドライブ軸受5に向けて確実に冷媒を変向できるとも限らない。変向斜面に冷媒が衝突して、その流れが乱されるのみという可能性すらある。したがって、ドライブ軸受5の潤滑性が大幅に改善できたとは言い切れず、依然として改善の余地が残されている。
【0011】
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、潤滑性を確実に向上することのできる車載用圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的のもとになされた本発明は、スクロール型の車載用圧縮機であって、外殻を形成するハウジング内に回転自在に支持された主軸と、主軸の中心に対してオフセットした位置を中心として回転自在とされた旋回スクロールと、旋回スクロールと対向することで冷媒を圧縮する圧縮室を形成し、ハウジングに固定された固定スクロールと、主軸と一体に設けられ、旋回スクロールのアンバランスを軽減するバランスウェイトと、を備え、バランスウェイトは、主軸に保持されるとともに、主軸の中心に対してオフセットした位置で旋回スクロールを回転自在に保持する軸受部と、軸受部から離間した側に、軸受部を中心とした円弧状に延びるウェイト部と、を有し、ウェイト部には、軸受部に対向する内周側に、外周側に凹となる凹部が形成され、凹部において、バランスウェイトの回転方向後方側の端部に、凹部内に導かれた冷媒を軸受部側に変向させる変向面が形成されていることを特徴とする。
バランスウェイトが主軸とともに回転すると、バランスウェイトが回転する空間に存在する冷媒が、軸受部とウェイト部との間に流れ込む。流れ込んだ冷媒は、変向面によって軸受部側に変向されるので、これによって軸受部の冷却および潤滑を図ることができる。
このとき、ウェイト部の内周側に凹部が形成され、その凹部の端部に変向面が形成されているため、軸受部とウェイト部の凹部との間に冷媒を導き入れた後、その冷媒を変向面で変向させることになり、多くの冷媒を、確実に変向させることができる。
【0013】
ここで、凹部により、ウェイト部と軸受部との間隔が、バランスウェイトの回転方向後方側から前方側に向けて漸次大きくなるのが好ましい。これにより、ウェイト部と軸受部との間に、より多くの冷媒を導入することができる。
さらに、同様の目的から、ウェイト部において、凹部の回転方向前方側の端部は、鋭角に形成するのが好ましい。
【0014】
また、変向面は、軸受部の中心とウェイト部の中心とを通る仮想線に対し、20°以内の角度で形成するのが好ましい。変向面で変向した冷媒を、軸受部に向けて確実に変向させるためである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、バランスウェイトが主軸とともに回転すると、バランスウェイトが回転する空間に存在する冷媒が、軸受部とウェイト部との間に流れ込む。流れ込んだ冷媒は、変向面によって軸受部側に変向されるので、これによって軸受部の冷却および潤滑を図ることができる。このとき、ウェイト部の内周側に凹部が形成され、その凹部の端部に変向面が形成されているため、軸受部とウェイト部の凹部との間に冷媒を導き入れた後、その冷媒を変向面で変向させることになり、多くの冷媒を、確実に変向させることができる。その結果、冷媒、およびそれに含まれる潤滑油により、軸受部の冷却および潤滑を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
〔第一の実施の形態〕
図1は、本実施の形態における車載用圧縮機10の構成を示すための図である。
この図1に示すように、車載用圧縮機10は、スクロール型で、ハウジング11内に、主軸31と、主軸31とともに回転する旋回スクロール32と、ハウジング11に固定された固定スクロール33と、を備える。
このような車載用圧縮機10においては、ハウジング11の一端側に形成された吸入ポートP1からハウジング11内に冷媒が導入され、旋回スクロール32と固定スクロール33との間に形成された圧縮室において冷媒が圧縮される。そして、圧縮された冷媒は、ハウジング11の他端側に形成された冷媒吐出ポートから吐出される。
【0017】
主軸31は、その両端部が、ハウジング11にシャフト軸受34、35を介して回転自在に支持されている。主軸31の一端31aは、ハウジング11を貫通して外部に突出しており、図示しない駆動源が一端31aに連結されている。ここで、エンジンを駆動源とする場合、主軸31の一端31aに、図示しないベルト等を掛け回してエンジンに連結して駆動力を伝達する。また、駆動源としては、車両のエンジンの他、モータ等を用いることも可能である。モータを駆動源とする場合、モータの回転軸と主軸31とをベルトやギヤ等で連結しても良いし、モータの回転軸を主軸31としても良い。その場合、モータは、ハウジング11の内部に一体に内蔵することも可能である。
【0018】
旋回スクロール32、固定スクロール33は、それぞれ円板状の端板32a、33aの一面側に、渦巻状のスクロール壁32b、33bが立設されている。これら旋回スクロール32と固定スクロール33は、スクロール壁32b、33bを互いに組み合わせて、双方のスクロール壁32b、33b間に圧縮室を形成している。
【0019】
また、旋回スクロール32と主軸31との間には、主軸31に対して偏心した旋回スクロール32によるアンバランスを解消するため、バランスウェイト40が設けられている。
図1、図2に示すように、バランスウェイト40は、円柱状のボス部(軸受部)40aと、ボス部40aの一端側から扇状に延びるプレート部40bと、プレート部40bの外周縁部に沿って、ボス部40aと同じ側に突出し、プレート部40bよりも大きな厚さを有したウェイト部40cとが一体に形成されている。
バランスウェイト40のボス部40aには、ボス部40aの中心から偏心した位置に貫通穴41が形成されている。この貫通穴41には、主軸31の他端部31bにおいて、主軸31の中心軸から予め定められた寸法だけ偏心した位置に設けられた偏心軸37が挿入・嵌合されている。これにより、主軸31がその軸線周りに回転すると、バランスウェイト40は、主軸31の中心軸線周りに主軸31と一体に回転する。
【0020】
また、図1に示したように、前記の旋回スクロール32の端板32aには、ボス部40aよりも一定寸法大きな内径を有した断面円形の凹部32cが形成されている。この凹部32cに、ボス部40aが、ドライブ軸受38を介して嵌め込まれている。これにより、旋回スクロール32は、ボス部40aの中心軸線周りに回転自在に保持されている。
ボス部40aは、主軸31がその軸線周りに回転すると、主軸31の中心とボス部40aの中心との間の距離rを半径として、主軸31の中心軸線周りに回転する。
したがって、旋回スクロール32は、主軸31がその中心軸線周りに回転すると、主軸31の中心に対し偏心したボス部40aの中心軸周りに、半径rの回転(公転)を行う。なお、旋回スクロール32が、公転しつつも、自転はしないよう、旋回スクロール32と主軸31との間には、図示しないオルダムリング等の自転防止機構が介在している。
なお、上記の主軸31と偏心軸37、偏心軸37とボス部40aの偏心寸法は、旋回スクロール32の公転の半径r、バランスウェイト40による旋回スクロール32のアンバランス低減効果等の要求条件に基づき適宜設定されるものである。ここでは、それぞれの偏心寸法や偏心方向について何ら限定する意図はない。
【0021】
さて、本実施の形態において、バランスウェイト40は以下に示すような構成を有している。
すなわち、図2に示したように、バランスウェイト40のウェイト部40cは、全体としてプレート部40bの外周縁部に沿った円弧状ながら、その円弧方向中央部において、ボス部40aに対向する側(内周側)に、ウェイト部40cの外周側に向けて凹となる凹部42が形成されている。
車載用圧縮機10の作動している状態において、吸入ポートP1からハウジング11内に導入された冷媒は、ハウジング11と旋回スクロール32の背面(固定スクロール33と対向する側と反対側の面)と主軸31との間に形成された環状の空間Sに入り込む。バランスウェイト40は、この空間S内を主軸31とともに回転する。バランスウェイト40が予め定められた方向(図2の例では、左回り)に回転すると、ボス部40aとウェイト部40cとの間の空間には、相対的に、空間S内の雰囲気(冷媒)が、バランスウェイト40の回転方向と反対方向(図2の例では、右回り)に流れ込んでくる。この冷媒が凹部42に流れ込む。凹部42には、ボス部40aの中心から放射方向に延びる面内に位置して、ボス部40aとウェイト部40cとの間への雰囲気の流れにほぼ直交する変向面42aが形成されており、凹部42に流れ込んだ冷媒の流れをドライブ軸受38に向けて変向させる。
【0022】
このように、冷媒をドライブ軸受38に変向させて吹き付けることにより、冷媒に含まれる潤滑油でドライブ軸受38を潤滑できる。このとき、変向面42aは、従来に比較して面積を大きく確保でき、しかも凹部42内に流れ込んだ冷媒を変向面42aによって変向させるので、冷媒の流れを確実に変向させることができる。その結果、ドライブ軸受38の潤滑性を従来よりも向上させることが可能となる。
【0023】
〔第二の実施の形態〕
次に、本発明に係る第二の実施の形態について説明する。本実施形態は、上記第一の実施の形態に比較し、バランスウェイト40の構成が異なるのみであるので、以下の説明においては、バランスウェイト40のみについて説明を行い、上記第一の実施の形態と共通する車載用圧縮機10の他の部分の構成は省略する。
図3に示すように、本実施の形態に係るバランスウェイト40は、ウェイト部40cにおいて、ボス部40aに対向する側に、ウェイト部40cの外周側に向けて凹となる凹部52が形成されている。この凹部52により、ボス部40aとウェイト部40cとの間隔が、バランスウェイト40の回転方向後方側から前方側に向けて、漸次大きくなるよう形成されている。
【0024】
ここで、凹部52において、バランスウェイト40の回転方向後方側の端部には、上記第一の実施の形態における変向面42aと同様の変向面52aが形成されている。
また、凹部52の回転方向前端側を形成する、ウェイト部40cの前端部53は、鋭角に形成されている。
【0025】
車載用圧縮機10の作動している状態において、空間Sに入りこんだ冷媒は、バランスウェイト40の回転により、ボス部40aとウェイト部40cとの間に入り込み、凹部52の変向面52aに当たり、流れがドライブ軸受38に向けて変向される。このとき、ボス部40aとウェイト部40cとの間隔が、バランスウェイト40の回転方向後方側から前方側に向けて漸次大きくなるよう形成され、さらに凹部52の回転方向前端側となるウェイト部40cの前端部53が鋭角に形成されているので、空間Sの冷媒を、ボス部40aとウェイト部40cとの間に、より多く取り入れることができる。
したがって、上記第一の実施の形態と同様、変向面52aで変更させた冷媒に含まれる潤滑油によりドライブ軸受38を確実に潤滑できる。上記第一の実施の形態と比較し、本実施の形態における構成では、より多くの冷媒を取り入れることができるので、ドライブ軸受38の潤滑性はより効果的なものとなる。
【0026】
なお、上記第一および第二の実施の形態において、変向面42a、52aは、バランスウェイト40のボス部40aから放射方向に延びる面内に位置するよう形成されていたが、これに限るものではない。例えば、図4に示すように、バランスウェイト40のボス部40aの中心から放射方向に延びる仮想線Lに対し、変向面52a’の内周側が、バランスウェイト40の回転方向後方側に一定角度θだけ傾斜して変向面52a’を形成しても良い。ただし、ドライブ軸受38に向けて冷媒を確実に変向させるため、角度θは、20°以内、より好ましくは15°以内とするのが良い。
【0027】
なお、上記各実施の形態では、車載用圧縮機10の全体構成を説明したが、その構成については上記に挙げたものに限定する意図は無く、他の構成を有した車載用圧縮機においても本発明を適用できるのは言うまでもない。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本実施の形態における車載用圧縮機の断面図である。
【図2】第一の実施の形態におけるバランスウェイトを示す図である。
【図3】第二の実施の形態におけるバランスウェイトを示す図である。
【図4】バランスウェイトに形成した変向面の変形例を示す図である。
【図5】従来の車載用圧縮機の断面図である。
【符号の説明】
【0029】
10…車載用圧縮機、11…ハウジング、31…主軸、32…旋回スクロール、33…固定スクロール、37…偏心軸、38…ドライブ軸受、40…バランスウェイト、40a…ボス部(軸受部)、40b…プレート部、40c…ウェイト部、42、52…凹部、42a、52a…変向面、53…前端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクロール型の車載用圧縮機であって、
外殻を形成するハウジング内に回転自在に支持された主軸と、
前記主軸の中心に対してオフセットした位置を中心として回転自在とされた旋回スクロールと、
前記旋回スクロールと対向することで冷媒を圧縮する圧縮室を形成し、前記ハウジングに固定された固定スクロールと、
前記主軸と一体に設けられ、前記旋回スクロールのアンバランスを軽減するバランスウェイトと、を備え、
前記バランスウェイトは、前記主軸に保持されるとともに、前記主軸の中心に対してオフセットした位置で前記旋回スクロールを回転自在に保持する軸受部と、前記軸受部から離間した側に、前記軸受部を中心とした円弧状に延びるウェイト部と、を有し、
前記ウェイト部には、前記軸受部に対向する内周側に、外周側に凹となる凹部が形成され、前記凹部において、前記バランスウェイトの回転方向後方側の端部に、前記凹部内に導かれた冷媒を前記軸受部側に変向させる変向面が形成されていることを特徴とする車載用圧縮機。
【請求項2】
前記凹部により、前記ウェイト部と前記軸受部との間隔が、前記バランスウェイトの回転方向後方側から前方側に向けて漸次大きくなることを特徴とする請求項1に記載の車載用圧縮機。
【請求項3】
前記ウェイト部において、前記凹部の回転方向前方側の端部が、鋭角に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の車載用圧縮機。
【請求項4】
前記変向面は、前記軸受部の中心と前記ウェイト部の中心とを通る仮想線に対し、20°以内の角度で形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の車載用圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−127223(P2010−127223A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−304300(P2008−304300)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】