説明

車輌停止機構

【課題】第1に、非常時に車輌を緊急停止可能であると共に、第2に、その際、車輌を徐々に減速停止させることができ、第3に、しかもこれが、コスト面や動作安定性等にも優れて実現される、車輌停止機構を提案する。
【解決手段】この車輌停止機構7は、車輪Bを制動して、車輌Aを緊急停止させるために使用される。そして、操作可能な非常停止スイッチ8と、非常停止スイッチ8のスイッチオンに基づき通電オンされて駆動される電動シリンダ9と、電動シリンダ9のロッド13とブレーキ部12との間に介装された動力伝達機構11と、電動シリンダ9が駆動されもって動力伝達機構11を介して伝達されたブレーキ力に基づき、車輪Bに制動力を加えるブレーキ部12と、を有してなる。そして、電動シリンダ9は駆動に一定時間を要するので、車輪Bが徐々に制動され、車輌Aが徐々に減速停止するようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輌停止機構に関する。すなわち、非常時に車輪を制動して車輌を緊急停止させる、車輌停止機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
《技術的背景》
例えば、遊園地,祭り,パレード等では、走行する車輌上に、装飾,ディスプレイ,看板,遊技具等が搭載されると共に、運転者以外にも、踊り子,演技者,エンターテイメント,乗客,その他が搭乗していることが多い。
又、この種の車輌では、突然の観客の飛び出し、想定外の事故発生、運転者の不注意、運転者の視界の悪さ、その他何らかの要因により、非常時において、外部から車輌を緊急停止させる必要が生じることが多々ある。又、ブレーキが故障することもあり、その場合には、運転者が何らかの手段により車輌を緊急停止させる必要が生じる。
【0003】
《従来技術》
図5の(3)は、この種従来例の車輌停止機構の説明に供し、底面説明図である。同図にも示したように、上述に鑑みこの種従来例では、安全装置の一環として、非常停止機構1が搭載されていた。
すなわち非常停止機構1として、車輌Aの走行駆動用のモータ2のモータ軸やプロペラシャフト3に、電磁ブレーキ4が付設されており、運転席や車輌A外部に、その非常停止スイッチ5が配設されていた。
そして非常時には、非常停止スイッチ5がスイッチオンされると、瞬時に電磁ブレーキ4が切換作動して、モータ軸やモータ軸に接続されたプロペラシャフト3を固定,ロックし、もって、例えば後輪等の車輪Bを制動して、車輌Aを緊急停止,急停止させるようになっていた。なお図中6は、プロペラシャフト3と車輪軸との間に介装された、ディファレンシャルギア(最終減速機)である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この種従来例の車輌停止機構1については、次の問題が指摘されていた。すなわち、非常停止スイッチ5のスイッチオンにより、瞬時に電磁ブレーキ4が作動して、車輌Aが急停止するので、車輌Aの搭乗者に危険が及ぶ虞があり、安全性に問題が指摘されていた。
すなわち、車輪Bに制動力が急激に作用する結果、その衝撃ショックで、車輌Aに搭乗していた踊り子,演技者,エンターテインメント,乗客,その他搭乗者が、物に突き当ったり,ぶつかったり,どこかで体を打ったり,倒れたり,車輌A等から振り落されたりする危険があった。他方、電磁ブレーキ4については、極めてコスト高であると共に、質量も重いという指摘もあった。
【0005】
《本発明について》
本発明の車輌停止機構は、このような実情に鑑み、上記従来例の課題を解決すべくなされたものである。
そして本発明は、第1に、非常時に車輌を緊急停止可能であると共に、第2に、その際、車輌を徐々に減速停止させることができ、第3に、しかもこれが、コスト面や動作安定性等にも優れて実現される、車輌停止機構を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
《請求項について》
このような課題を解決する本発明の技術的手段は、次のとおりである。まず、請求項1については次のとおり。
請求項1の車輌停止機構は、車輪を制動して車輌を停止させる。そして、次の非常停止スイッチ,電動シリンダ,動力伝達機構,ブレーキ部、等を有してなる。
すなわち、操作可能な非常停止スイッチと、該非常停止スイッチのスイッチオンに基づき通電オンされて駆動される電動シリンダと、該電動シリンダのロッドとブレーキ部との間に介装された動力伝達機構と、該電動シリンダが駆動されもって該動力伝達機構を介して伝達されたブレーキ力に基づき、該車輪に制動力を加える該ブレーキ部と、を有してなることを特徴とする。
【0007】
請求項2については、次のとおり。請求項2の車輌停止機構では、請求項1において、該電動シリンダには制御装置が付設されている。
そして該制御装置は、該電動シリンダへの通電に伴う電流値が検出されて入力されると共に、該ブレーキ部にて所定制動力が得られて見合った電流値が入力されると、該電動シリンダを通電オフして駆動停止させること、を特徴とする。
請求項3については、次のとおり。請求項3の車輌停止機構では、請求項2において、該電動シリンダは、その通電オンから通電オフまで、つまり駆動開始から駆動終了までに一定時間を要し、もって車輪が、該ブレーキ部による制動力が急激に作用せず徐々に制動され、車輌は、急停止することなく徐々に減速停止すること、を特徴とする。
請求項4については、次のとおり。請求項4の車輌停止機構では、請求項3において、該非常停止スイッチが運転席や車輌外部に配設されると共に、別途、操作可能なパーキング操作部が運転席等に配設されており、該パーキング操作部も、該動力伝達機構を介して該ブレーキ部にブレーキ力を伝達可能であり、もって車輪を制動して車輌を停止可能となっていること、を特徴とする。
【0008】
《作用等について》
本発明は、このような手段よりなるので、次のようになる。
(1)この車輌は、搭乗者や搭乗物を載せ低速で走行される。
(2)そして車輌には、非常停止スイッチ,電動シリンダ,制御装置,動力伝達機構,ブレーキ部等を備えた車輌停止機構が、取付けられている。
(3)車輌停止機構は、通常の車輌走行中は、当然のことながら車輪を制動することはなく、ブレーキ開放状態にある。
(4)非常停止スイッチがスイッチオンされると、電動シリンダが制御装置にて通電オンされて駆動を開始し、動力伝達機構を介しブレーキ部が動作を開始する。
(5)そして、電動シリンダの通電,駆動が維持され、ブレーキ部が車輪に制動力を加え始め、車輌が除々に減速して行く。これに伴い、電動シリンダの負荷そして電流値が除々に上昇すると共に、ロッドの時間当りのストロークが除々に減少して行く。
(6)ブレーキ部における制動が進行し、必要な距離で車輌を停止させるに足る制動力に達すると、対応して電動シリンダの負荷もある一定値に達し、電動シリンダへの電流値が、予め設定されていた所定値に達する。すると、制御装置が電動シリンダを通電オフし、電動シリンダは駆動を停止し、車輪の制動が続いて車輌は停止する。
(7)なおこの車輌は、このような車輌停止機構とは別に、パーキング操作部によっても、車輪を制動して車輌を停止可能となっている。
(8)さてそこで、この本発明の車輌停止機構によると、第1に、非常時には運転者に限らず非常停止スイッチをスイッチオンすることにより、車輌を緊急停止させることができる。
(9)第2に、そしてこの車輌の緊急停止は、徐々に行われる。すなわち、駆動開始から一定時間をかけて駆動停止に至る電動シリンダを、駆動源として採用したことにより、ブレーキ部も、車輪に対して急激ではなく除々に制動力を加え、車輪そして車輌も、時間をかけて除々に減速,停止するようになる。
(10)第3に、又この車輌停止機構は、簡単な構成よりなると共に、既設のパーキングブレーキ装置用の動力伝達機構やブレーキ部を利用して、容易に取付け可能である。更に、パーキングブレーキ装置の代替としても使用可能である。
又、電動シリンダの駆動は、ストローク管理,制御によらず荷重管理,電流値制御されるので、動力伝達機構のケーブルの伸びや,ピンがたや,ブレーキの遊びをも勘案することにより、ブレーキ部の制動タイミングや強さを適切に調整可能である。通電オフの電流値の設定変更によって、制動力の強さを調整可能である。
【発明の効果】
【0009】
《第1の効果》
第1に、非常時に車輌を緊急停止可能である。すなわち、本発明の車輌停止機構は、車輌の安全装置の一環として採用されており、非常時に非常停止スイッチをスイッチオンすることにより電動シリンダが通電,駆動され、ブレーキ部が車輪を制動して、車輌を緊急停止させる。
もって例えば、遊園地,祭り,パレード等で車輌が使用された際、観客の飛び出し、想定外の事故発生、運転者の不注意、運転者の視界の悪さ、その他何らかの要因により、走行中の車輌を緊急停止させる必要が生じた非常時において、迅速,適切に対応可能である。更に、パーキングレバー,パーキングケーブル,ジョイント等が故障した際にも、迅速,適切に対応可能である。
【0010】
《第2の効果》
第2に、そしてその際、車輌を徐々に減速停止させることができる。すなわち、本発明の車輌停止機構では、上述した第1の点の非常時における車輌の緊急停止が、減速停止により除々に実施される。制動の駆動源として、電動シリンダを採用したことにより、電磁ブレーキを用いる前述したこの種従来例のように、車輌が即急停止することは回避される。
そこで車輌が、例えば遊園地,祭り,パレード等で使用された際、走行する車輌に搭乗していた踊り子,演技者,エンターテインメント,乗客,その他の搭乗者について、安全性が確保される。従来例のように、搭乗者が急停止により、物に突き当たったり,ぶつかったり,どこかに体を打ったり,倒れたり,車輌から振り落とされたりする危険は、回避される。
【0011】
《第3の効果》
第3に、しかもこれは、コスト面や動作安定性等にも優れて実現される。すなわち、本発明の車輌停止機構は、非常停止スイッチ,電動シリンダ,その制御装置、等を備えた簡単な構成よりなり、既設の動力伝達機構やブレーキ部を利用して、ユニット的に取付け可能である。
もって、部品コストその他のコスト面に優れると共に、複雑な調整も高い組立精度も不要であり、良好な取付作業性も確保される。動作安定性にも優れている。又、これまでのパーキングブレーキ装置の代替としても使用可能であり、その場合は、パーキングレバー,パーキングケーブル等が不要となる等、更なる部品コストの削減が実現される。
更に、電動シリンダの駆動は、荷重管理,電流値制御されるので、動力伝達機構のケーブルの伸びや,ピンがたや,ブレーキ遊びをも勘案しつつ、制動力を適切に調整可能であり、この面からも動作安定性に優れている。
このように、この種従来例に存した課題がすべて解決される等、本発明の発揮する効果は、顕著にして大なるものがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
《図面について》
以下、本発明の車輌停止機構を、図面に示した発明を実施するための最良の形態に基づいて、詳細に説明する。図1〜図4は、本発明を実施するための最良の形態の説明に供する。
そして図1の(1)図は、システムブロック図、(2)図は、側面図である。図2の(1)図は、図1の要部の側面分解説明図、(2)図は、同要部の平面断面図である。
図3は、非常停止スイッチによる制動状態を示し、(1)図は、側面図、(2)図は、要部の平面断面図である。図4は、パーキング操作部による制動状態を示し、(1)図は、側面図、(2)図は、要部の平面断面図である。
なお、図5の(1)図は、この種車輌の平面説明図、(2)図は、側面説明図である。
【0013】
《車輌A等の概要について》
まず、本発明の車輌停止機構7が取付使用される車輌Aについて、図5の(1)図,(2)図を参照して、説明しておく。
この車輌Aは、代表的には遊園地,祭り,パレード等で使用され、装飾,ディスプレイ,看板,遊技具等の搭載物Cが、搭載されると共に、踊り子,演技者,エンターテイメント,乗客,その他の搭乗者Dが搭乗することが多い。そして、モータその他の駆動源を備えた自走式よりなり(例えば図5の(3)図を参照)、運転席を備え運転者が同乗するケースが多いが、駆動源を持たない等、これらによらないケースも可能である。
本発明の車輌停止機構7は、このような車輌AのフレームE下に取付けられる。そして、図2以下に示したように、車輪Bを制動して車輌Aを停止可能であり、非常停止スイッチ8,電動シリンダ9,制御装置10,動力伝達機構11,ブレーキ部12、等を備えている。
車輌A等の概要は、このようになっている。
【0014】
《非常停止スイッチ8と電動シリンダ9について》
次に、図1を参照して、本発明の車輌停止機構7の非常停止スイッチ8と電動シリンダ9について、説明する。
まず、非常停止スイッチ8は、運転席や車輌A外部等に複数個配設されており、運転者,搭乗者D,車輌A付近の路面上の人,その他によって操作可能である。そして非常停止スイッチ8は、制御装置10にケーブル等で接続されており、始動スイッチとして機能し、そのスイッチオンに基づき、電動シリンダ9が通電オンされて駆動する。図示例では、ロッド13が短縮動作するようになっている。
【0015】
電動シリンダ9は、そのロッド13が電気的に伸縮される。すなわち、通電オンにて駆動開始され、通電オフにて駆動停止され、もってそのロッド13が、図示例では前後方向Xに短縮(後退)動作したり伸長(前進)動作する。
この電動シリンダ9は、電動モータの回転変位を軸方向変位に変換する方式よりなり、例えば、電動モータによりウォームギアを回転させ、ウォームギアと噛み合うウォームホイールを介してラックを移動させ、もってこれと一体をなすロッド13が、図示例では前後方向Xに伸縮動する。
そして、電動シリンダ9の通電オンから〜通電オフまで、つまり駆動開始から〜駆動終了まで、ロッド13の伸縮動作開始から〜終了までに、一定時間を要することを、特徴とする。つまり、瞬間的駆動,動作ではなく、時間的経過を伴った駆動,動作である点に、特徴が存する。
又、電動シリンダ9は、図示例では、その基端部が左右方向Yに向けられた支点軸14にて、車輌AのフレームE下に枢着取付けされ、もって時計方向,反時計方向に回動可能そして揺動可能となっている。これと共に、そのロッド13の先端部が、左右方向Yの軸15にて、後述するレバー16の下端部に枢着取付けされており、時計方向,反時計方向に回動可能そして揺動可能となっている。
非常停止スイッチ8と電動シリンダ9は、このようになっている。
【0016】
《制御装置10について》
次に、図1を参照して、本発明の車輌停止機構7の制御装置10について、説明する。電動シリンダ9に付設される制御装置10は、電動シリンダ9のモータへの通電オン,オフ用の制御回路を備えた、コントローラーよりなる。
制御装置10は、まず、いずれかの非常停止スイッチ8が、手動操作されてスイッチオンすると、通電オンし、もって電動シリンダ9が駆動開始する。そして事後、制御装置10の電流検知回路には、電動シリンダ9への通電オンに伴い検出される電流値が、順次入力される。
そして、電動シリンダ9の駆動に伴いブレーキ部12にて所定制動力が得られ、対応して電動シリンダ9の負荷が上昇して、これに見合った電流値が検出,入力されると、電動シリンダ9を通電オフして駆動停止させる。
すなわち、電動シリンダ9が駆動開始されて、そのロッド13の伸縮(短縮又は伸長)動作が進行すると、図示例では短縮動作が進行すると、ブレーキ部12が車輪Bに対し徐々に制動力を加えて行く。するとこれに伴い、電動シリンダ9に除々に荷重が加わり負荷が上昇して行くので、電動シリンダ9駆動用の電流値も比例して大となって行く。つまりこの場合、荷重と電流値とは正比例する。
そこで制御装置10は、ブレーキ部12にて所定制動力が得られる電流値、つまり車輪Bを制動して必要な距離で車輌Aを停止させるに足る制動力そしてこれによる負荷に対応した電流値を、予め設定しておき、この電流値に達すると、電動シリンダ9を通電オフして駆動停止させるようになっている。
【0017】
なお第1に、この電動シリンダ9は、セルフロック方式よりなり、通電オフされた場合において、ブレーキ部12の制動力が維持されるようになっている。
すなわち、この電動シリンダ9は、公知のセルフロック機能を有しており、上述により通電オフされて駆動停止した際、以降のロッド13側からの動きはロックされ、もって車輪Bを制動して車輌Aを停止した後も、その制動力が緩むことなく維持されるようになっている。
なお第2に、そして事後、非常停止スイッチ8を解除すると電動モータの逆転駆動によりセルフロックが解除され、ロッド13が反対方向に動作して、元のスタート位置に復帰するようになっている。図示例では、制動用に前後方向Xに短縮動作するので、前後方向Xに伸長動作する。
制御装置10は、このようになっている。
【0018】
《動力伝達機構11について》
次に、図1,図2を参照して、この車輌停止機構7の動力伝達機構11について、説明する。
動力伝達機構11は、電動シリンダ9のロッド13と、ブレーキ部12との間に介装されており、電動シリンダ9の駆動に基づくブレーキ力を、ブレーキ部12に伝達する。
図示例の動力伝達機構11は、後述するパーキングブレーキ装置17用としても、大部分が兼用されており、パーキングレバー18等の操作に基づくブレーキ力も、ブレーキ部12に伝達可能となっている。
このような動力伝達機構11について、更に詳述する。動力伝達機構11は、主として車輌停止機構7用のレバー16と、パーキングブレーキ装置17用に従来より使用されているパーキングケーブル19およびジョイント20と、従来より使用されているがこの例では両者に共用に使用されているイコライザ21およびケーブル22と、を備えてなる。
【0019】
まずレバー16は、上下方向Zに長い平板状をなし、左右方向Yに間隙を存しつつ、2枚1組で用いられている。そして、上端部が左右方向Yに向けられた共通の支点軸Fで、フレームE下に枢着取付されており、又、両レバー16の下端部は、前述したように共通の軸15にて、電動シリンダ9のロッド13先端部に枢着取付けされている。もって2枚揃って垂直面で回動可能、つまり揺動可能となっている。
両レバー16の上部分には、それぞれ、前後方向Xに沿って前後長穴23が対をなして形成されており、この両レバー16の前後長穴23間に、1本の長軸24が、左右方向Yに貫挿されて掛け渡されている。もって長軸24は、両前後長穴23にて上下方向Zが規制されると共に、両前後長穴23の一端25と他端26間を、前後方向Xに沿って移動可能となっている。
この長軸24は、ブレーキ力を均等振り分けするイコライザ21を介し、2本のケーブル22の一端に一体連結されており、両ケーブル22の他端は、それぞれ、両車輪B例えば左右の後輪に組み込まれたブレーキ部12に、接続されている。
イコライザ21は、両レバー16間の間隙に挟み込まれるように位置している。又、両レバー16の前後長穴23間には、次に述べるジョイント20の前後長穴27が、上下方向Zの高さレベルを揃えて位置しており、この前後長穴27を、前記長軸24が貫挿している。
動力伝達機構11は、このようになっている。
【0020】
《パーキングブレーキ装置17およびその動力伝達機構11について》
次に、図1,図2を参照して、パーキングブレーキ装置17について説明する。このパーキングブレーキ装置17は、従来より使用されているものであり、車輌Aの運転席等にパーキングレバー18等、手動操作や足踏み操作されるパーキング操作部が配設されている。28は、パーキングレバー18の支点軸である。
そして、その動力伝達機構11のパーキングケーブル19の基端が、パーキングレバー18に止着され、パーキングケーブル19の先端が、ジョイント20の基端部に止着されている。
パーキングブレーキ装置17用の動力伝達機構11であるジョイント20は、先端部が、左右2枚に2股状をなすと共に、両レバー16間に挟み込まれるように位置している(図示例では、同様に両レバー16間に挟み込まれるイコライザ21の外側に位置している)。そして、この2股状の先端部に、それぞれ、前後方向Xに沿って前後長穴27が対をなして形成されている。
前述したように、このジョイント20の両前後長穴27は、両レバー16の前後長穴23と、上下方向Zの高さレベルが揃えられている。もって、前記した長軸24が、このジョイント20の両前後長穴27を貫通して、両レバー16の前後長穴23間に貫挿して掛け渡されている。長軸24は、ジョイント20の両前後長穴27の一端29と他端30間を、前後方向Xに移動可能となっている。
パーキングブレーキ装置17およびその動力伝達機構11は、このようになっている。
【0021】
《ブレーキ部12について》
次に、図1を参照して、この車輌停止機構7のブレーキ部12について説明する。ブレーキ部12は、電動シリンダ9が駆動され、もって動力伝達機構11を介して伝達されたブレーキ力に基づき、車輪Bに制動力を加えることが可能となっている。そして車輪Bが、ブレーキ部12による制動力が急激に作用せず徐々に制動され、車輌Aは、急停止することなく徐々に減速されて停止するようになっている。
これと共に図示例では、パーキングブレーキ装置17のパーキング操作部も、動力伝達機構11を介してブレーキ部12にブレーキ力を伝達可能であり、もって車輪Bを制動して車輌Aを停止可能となっている。
【0022】
このようなブレーキ部12について、更に詳述する。まず、ブレーキ部12の構造自体は公知であり、例えば車輪Bに内蔵されたドラム式よりなり、ブレーキシューが押し広げられることにより、車輪Bに対し制動力を加えるようになっている。これと共にブレーキ部12は、車輌停止機構7の電動シリンダ9が駆動されてブレーキ力が伝達された場合は、次のようになる。
すなわち、まず電動シリンダ9は、その駆動開始から〜駆動終了まで、つまりロッド13の伸縮動作開始から〜終了まで、ロッド13のストローク全体について一定時間を要し、徐々に動作する。そこで、このようなブレーキ力が動力伝達機構11を介して伝達されたブレーキ部12のブレーキシューも、これに伴い車輪Bに向け徐々に押し広げられて行き、車輪Bに対し徐々に制動力を加えて制動する。従って、車輪Bそして車輌Aも、時間をかけて徐々に停止するようになる。
他方、ブレーキ部12は、パーキングブレーキ装置17のパーキングレバー18等を操作することによっても、動力伝達機構11を介して、車輪Bに対し制動力を加えて制動し、もって車輌Aを停止させることも可能となっている。この場合の制動や停止は、一般のものと同様である。
ブレーキ部12は、このようになっている。
【0023】
《作用等》
本発明の車輌停止機構7は、以上説明したように構成されている。そこで、以下のようになる。
(1)この車輌Aは、例えば遊園地,祭り,パレード等において使用され、搭乗者Dや搭乗物Cを載せて、時速2〜5k程度の低速で走行される。
【0024】
(2)そして、この車輌Aには、車輌停止機構7が取付けられている。車輌停止機構7は、非常停止スイッチ8,電動シリンダ9,制御装置10,動力伝達機構11,ブレーキ部12、等を備えている。
【0025】
(3)車輌停止機構7は、通常の車輌A走行中では、当然のことながら車輪Bを制動することはなく、ブレーキ開放状態にある。
すなわち、図1の(2)図や図2の(2)図に示したように、電動シリンダ9のロッド13は、伸長(前進)状態にあり、動力伝達機構11のレバー16は、フレームEに対し垂下位置にあり、長軸24は、レバー16の前後長穴23の一端25や他端26に接触しない中間位置にある(この長軸24は、パーキングブレーキ装置17用のジョイント20の前後長穴27の一端29や他端30に対しても、接触しない中間位置にある)。
従って、イコライザ21やケーブル22に引張力は作用せず、ブレーキ力は伝達されない。もって、ブレーキ部12が車輪Bに対し制動力を加えることもない。
【0026】
(4)さて、車輌停止機構7について、いずれかの非常停止スイッチ8がスイッチオンされると、次のようになる。
すなわち図3に示したように、制御装置10を介し電動シリンダ9が、通電オンされて駆動を開始し、ロッド13が、図示例では短縮動作を開始する。これにより、動力伝達機構11のレバー16が、図面上ではフレームEに対する垂下位置から矢示時計方向に向け、引かれて回転変位する。
そこで、レバー16の前後長穴23の一端25が、長軸24に接触してこれを矢示方向に引くので、長軸24と一体をなすイコライザ21そしてケーブル22に引張力が作用し、ブレーキ力が伝達される(なおその際、長軸24は、パーキングブレーキ装置17用のジョイント20の前後長穴27の一端29や他端30に対しては、接触せず力を及ぼさない前述した中間位置のままとなっている)。
そして、ブレーキ力が伝達されたブレーキ部12は、ブレーキシューが押し広げられ始め、車輪Bに接近して行く。
【0027】
(5)そして、電動シリンダ9の通電,駆動が維持されて、図示例ではロッド13の短縮動作が進行する。
これにより、動力伝達機構11のレバー16や長軸24等を介し、ケーブル22に更なる引張力が作用し、更なるブレーキ力が伝達されていく。もってブレーキ部12では、ブレーキシューが車輪Bに接触して制動力を加え始め、車輌Aが除々に減速して行く。
これに伴い、電動シリンダ9の負荷そして電流値が除々に上昇すると共に、ロッド13の短縮方向の時間当りのストロークが除々に減少して行き、遂には、ブレーキ部12のブレーキシューと車輪Bのストロークはゼロで制動力のみが作用する状態へと向かう。
【0028】
(6)このようにして、ブレーキ部12における制動が進行して、必要な距離で車輌Aを制動,停止させるに足る制動力に達すると、対応して電動シリンダ9の負荷もある一定値に達し、電動シリンダ9への電流値が、予め設定されていた所定値に達する。
このようにして所定電流値が検出されると、制御装置10は電動シリンダ9への通電をオフする。もって電動シリンダ9は駆動を停止し、ロッド13の短縮動作もストップして、セルフロックされる。そして、ブレーキ部12にて所定の制動力が加えられた車輪Bの制動が続いて、車輌Aは停止する。
車輌停止機構7による制動は、このように実施される。
【0029】
(7)ところで図示例では、図4に示したように、このように電気的に動作する車輌停止機構7とは別に、更に、機械的に動作するパーキングブレーキ装置17によっても、車輪Bを制動して、車輌Aを停止させることが可能となっている。
すなわち、パーキングレバー18を引く等、パーキング操作部を操作すると、パーキングケーブル19そしてジョイント20が、図面上では矢示方向に引かれる。すると、ジョイント20の前後長穴27の一端29が、長軸24に接触してこれを矢示方向に引くので、イコライザ21そしてケーブル22に引張力が作用し、ブレーキ力が伝達される(なおその際、長軸24は、車輌停止機構7用のレバー16の前後長穴23の一端25や他端26に対しては、接触せず力を及ぼさない前述した中間位置のままとなっている)。
このようにして、車輪Bに制動力が加えられ、車輌Aが停止されて、事後も車輌Aの駐車が継続される。パーキングブレーキ装置17による制動は、このように行われる。
【0030】
(8)さてそこで、本発明の車輌停止機構7によると、次のようになる。第1に、非常時には、運転席や車輌A外部等に配設されたいずれかの非常停止スイッチ8を、スイッチオンする。すると、電動シリンダ9が通電,駆動され、動力伝達機構11を介して、ブレーキ部12が車輪Bを制動して、車輌Aを緊急停止させることができる。
【0031】
(9)第2に、そしてこのような非常時の車輌Aの緊急停止は、制動の駆動源として電動シリンダ9を採用したことにより、つまり駆動開始から一定時間をかけて駆動停止に至る電動シリンダ9を採用したことにより、除々に実施される。
すなわち電動シリンダ9は、ロッド13の動作開始から動作終了まで、図示例では伸長状態から短縮状態に至るまでのストロークについて、一定時間を要する。そこでブレーキ部12も、車輪Bに対して急激ではなく除々に制動力を加えて制動するので、車輪Bそして車輌Aも、時間をかけて除々に減速,停止するようになる。
【0032】
(10)第3に、そしてこれら第1,第2の点を実現する、この車輌停止機構7は、非常停止スイッチ8,電動シリンダ9,制御装置10等を備えた簡単な構成よりなる。そして、既設のパーキングブレーキ装置17用の動力伝達機構11やブレーキ部12を利用して、容易に取付け可能である。
又、これまでのパーキングレバー18等を使用したパーキングブレーキ装置17の代替としても、使用可能である。
更に、電動シリンダ9の駆動は、リミットスイッチ等によるロッド13のストローク管理,制御によらず、負荷にて荷重管理,電流値制御される。そこで、動力伝達機構11のケーブル22の伸びや,ピンがたや,ブレーキ部12の遊びをも勘案することにより、ブレーキ部12の制動タイミングや強さを、適切に調整可能である。通電オフとする電流値の設定値を変更することによって、制動力の強さを調整可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る車輌停止機構について、発明を実施するための最良の形態の説明に供し、(1)図は、システムブロック図、(2)図は、側面図である。
【図2】同発明を実施するための最良の形態の説明に供し、(1)図は、図1の要部の側面分解説明図、(2)図は、同要部の平面断面図である。
【図3】同発明を実施するための最良の形態の説明に供し、非常停止スイッチによる制動状態を示し、(1)図は、側面図、(2)図は、要部の平面断面図である。
【図4】同発明を実施するための最良の形態の説明に供し、パーキング操作部による制動状態を示し、(1)図は、側面図、(2)図は、要部の平面断面図である。
【図5】(1)図は、この種車輌の平面説明図、(2)図は、側面説明図である。(3)図は、この種従来例の車輌停止機構の説明に供し、底面説明図である。
【符号の説明】
【0034】
1 車輌停止機構(従来例)
2 モータ
3 プロペラシャフト
4 電磁ブレーキ
5 非常停止スイッチ(従来例)
6 ディファレンシャルギア
7 車輌停止機構(本発明)
8 非常停止スイッチ(本発明)
9 電動シリンダ
10 制御装置
11 動力伝達機構
12 ブレーキ部
13 ロッド
14 支点軸
15 軸
16 レバー
17 パーキングブレーキ装置
18 パーキングレバー(パーキング操作部)
19 パーキングケーブル
20 ジョイント
21 イコライザ
22 ケーブル
23 前後長穴
24 長軸
25 一端
26 他端
27 前後長穴
28 支点軸
29 一端
30 他端
A 車輌
B 車輪
C 搭載物
D 搭乗者
E フレーム
F 支点軸
X 前後方向
Y 左右方向
Z 上下方向


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を制動して、車輌を停止させる車輌停止機構であって、操作可能な非常停止スイッチと、該非常停止スイッチのスイッチオンに基づき通電オンされて駆動される電動シリンダと、該電動シリンダのロッドとブレーキ部との間に介装された動力伝達機構と、
該電動シリンダが駆動され、もって該動力伝達機構を介して伝達されたブレーキ力に基づき、該車輪に制動力を加える該ブレーキ部と、を有してなることを、特徴とする車輌停止機構。
【請求項2】
請求項1に記載した車輌停止機構おいて、該電動シリンダには制御装置が付設されており、
該制御装置は、該電動シリンダへの通電に伴う電流値が検出されて入力されると共に、該ブレーキ部にて所定制動力が得られて見合った電流値が入力されると、該電動シリンダを通電オフして駆動停止させること、を特徴とする車輌停止機構。
【請求項3】
請求項2に記載した車輌停止機構おいて、該電動シリンダは、その通電オンから通電オフまで、つまり駆動開始から駆動終了までに一定時間を要し、
もって車輪が、該ブレーキ部による制動力が急激に作用せず徐々に制動され、車輌は、急停止することなく徐々に減速停止すること、を特徴とする車輌停止機構。
【請求項4】
請求項3に記載した車輌停止機構おいて、該非常停止スイッチが運転席や車輌外部に配設されると共に、別途、操作可能なパーキング操作部が運転席等に配設されており、
該パーキング操作部も、該動力伝達機構を介して該ブレーキ部にブレーキ力を伝達可能であり、もって車輪を制動して車輌を停止可能となっていること、を特徴とする車輌停止機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−248942(P2009−248942A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−103123(P2008−103123)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(000187208)昭和飛行機工業株式会社 (72)
【Fターム(参考)】