説明

車輌整備用のホイールドーリー

【課題】 整備現場からの要求に応えるべく、使い勝手に優れた新規な車輌整備用のホイールドーリーを提供しようとするものである。
【解決手段】 本発明の車輌整備用のホイールドーリーCは、移動自在の基台フレーム1と、この基台フレーム1に昇降自在に設けられるホイールラック2とを具え、ホイールラック2上に車輌Vから脱着する車輪Wを載せて、車輌Vへの保守・整備作業を行うための装置であって、前記ホイールラック2は、作業者M毎に異なる体形や異なる車輪Wの直径に応じ設定高さを調整できるように昇降自在に構成され、且つホイールラック2に車輪Wが支承される状態において、車輪W中心部へ作業者Mが正面から対面できるようにした作業スペースSが確保され、作業者Mが自然な立ち姿勢で作業ができるような車軸位置となるように車輌Vをリフトアップした状態のまま、車輪W脱着の作業が行えるように構成されていることを特徴として成るものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばトラック等の車輌を保守・整備するにあたり、車輪周りの点検の際に取り外した車輪を円滑に支承するようにし、作業者の作業負担を軽減するようにした車輌整備用のホイールドーリーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば大型トラック等の定期点検等にあたっては、車輌をリフトアップした状態で、全車輪を取り外し、駆動系、制動系、転動支持系を含む車軸周りの点検が行われる。この際、大型トラック等にあっては、タイヤ、ホイールを含んだ車輪は、かなりの重量があり、脱着作業を支援するためのホイールドーリと称される支承装置が用いられている。このものは、大別すると、床面移動台車タイプと、作業ピットの上方から支承部材を吊り下げる吊り下げタイプとが従来一般的に用いられているが、次のような点で現場の作業実態からすると不都合が指摘されている。
【0003】
即ち床面移動タイプのものは、床面直上部に車輪を支承するホイールラックを具え、整備対象車輌をその車輪が床面から浮き上がる程度に僅かにリフトアップさせた状態でホイールラックを車輪下方に潜り込ませ、所要のボルト、ナットが外された車輪をホイールラックに受け取り、作業スペース外に移動保管するものである。
このような手法であるから、車輪の脱着のつど、車輌はリフトダウンされる一方、他の点検時には、作業者が自然な作業姿勢を取ることができるように、車輌はリフトアップされる。結果的に作業内容によって、車輌のリフトアップ、リフトダウンが繰り返えされ、これに加えて、車輪のホイールラックへの載せ替えに際しては、作業者にとっては、行い辛いしゃがみ姿勢をとることを余儀なくされる。
因みに床面移動タイプのホイールドーリーの他の形態として所定の整備ピット側方にレールを配設し、そのレール上を移動するものもあるが、前述の床面移動タイプのホイールドーリーにおける不都合とともに、レールが設けられることにより、作業床面の平滑化が損なわれる等の別の不都合も生じている。
【0004】
一方、吊り下げタイプのものは、作業スペース上方に支承装置を支持するための天井レールを配設し、ここに移動自在の機枠フレームを吊持させ、この機枠フレームにホイールラックを昇降自在に支持させるものである。
この吊り下げタイプのホイールドーリーは、前述の床面移動台車タイプのホイールドーリーの作業上の不都合を概ね解消し得るものの、装置自体は整備支援装置乃至はツールの域を遥かに超えて工場設備というべき大規模なものであり、ごく限られた好条件の整備工場でしか導入することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−78870号公報
【特許文献2】特開平11−180268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、これらの種々の背景を考慮してなされたものであって、整備現場からの現実的な要求に応えるべく、妥当な導入コストの下に、使い勝手に優れた新規な車輌整備用のホイールドーリーを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の車輌整備用のホイールドーリーは、移動自在の基台フレームと、この基台フレームに昇降自在に設けられるホイールラックとを具え、ホイールラック上に車輌から脱着する車輪を載せて、車輌への保守・整備作業のための良好な環境を現出させるための装置であって、前記ホイールラックは、作業者毎に異なる体形や異なる車輪の直径に応じ設定高さを調整できるように昇降自在に構成され、且つホイールラックに車輪が支承される状態において、車輪中心部へ作業者が正面から対面できるようにした作業スペースが確保され、作業者が自然な立ち姿勢で作業ができるような車軸位置となるように車輌をリフトアップした状態のまま、車輪脱着の作業が行えるように構成されていることを特徴として成るものである。
【0008】
請求項2記載の車輌整備用のホイールドーリーは、前記請求項1記載の要件に加えて、前記ホイールラックについては、左右一対の前方に平行に張り出したフォーク状のラックアームを車輪の支承部材としていることを特徴として成るものである。
【0009】
請求項3記載の車輌整備用のホイールドーリーは、前記請求項1または2記載の要件に加えて、前記ホイールラックについては、車輪を支承する部材が傾き自在に構成されていることを特徴として成るものである。
【0010】
請求項4記載の車輌整備用のホイールドーリーは、前記請求項1、2または3記載の要件に加えて、前記ホイールラックについては、その上方にタイヤ側に張り出すタイヤガードが設けられていることを特徴として成るものである。
【0011】
請求項5記載の車輌整備用のホイールドーリーは、前記請求項1、2、3または4記載の要件に加えて、前記基台フレームまたはホイールラックには、整備される車輌から取り外したドライブシャフトを保管するシャフトケースが設けられていることを特徴として成るものである。
【0012】
請求項6記載の車輌整備用のホイールドーリーは、前記請求項1、2、3、4または5記載の要件に加えて、前記基台フレームまたはホイールラックのいずれか一方又は双方には、整備作業時に用いられる工具、取り外した部品等を保持させておくためのユーティリティラックが設けられることを特徴として成るものである。
【発明の効果】
【0013】
まず請求項1記載の発明によれば、ホイールラックの高さについては、作業者が自然な立ち姿勢を保って作業でき、また車輪の異なった直径に合わせられるよう昇降自在に構成されているから、作業者にとって作業負担が少なく、一方点検される車輌は、リフトアップ状態を保ったまま、頻繁な昇降作業を必要とすることがなく、作業が継続できる。また作業車輪の脱着にあたっても、作業スペースが確保されており車輪や車軸に対し、中心部に作業者が対面するような姿勢で作業ができる。
【0014】
また請求項2記載の発明によれば、ホイールラックは、フォーク状のラックアームで構成されており、シンプルな形態で支承部材が構成し得る。
【0015】
また請求項3記載の発明によれば、車輪の支承、支持を行うためのホイールラックが傾き自在に構成されており、車軸ハウジングの傾きが生じた場合であってもその傾きに合致させることができ、ホイールラックに車輪を確実に支承させることができる。また車軸のハウジングの傾きに合わせて車輪を傾けて支持できるから、車輪脱着に際し車輪とハウジングとの間に介在するベアリングに無理なコジリ等の負荷をかけない。
【0016】
また請求項4記載の発明によれば、ホイールラック上方には、タイヤガードが設けられており、このタイヤガードが作業時においてまずタイヤに接触することになるから、ホイールドーリーの一部が直接整備作業を受けている車輌に当接することなく、安全な作業が行い得る。またこのタイヤガードを利用して幅の狭いシングルタイヤ等を支承する際に、これをもたれかけさせることができ、安定した状態で扱うことができる。
【0017】
また請求項5記載の発明によれば、ホイールドーリーは、シャフト保管ケースを具えているものであり、特に大型トラック等のフルフローティング車軸を整備するにあたり、引き抜かれるドライブシャフトを整備作業中、安全に保管しておくことができる。
【0018】
また請求項6記載の発明によれば、基台フレームまたは、ホイールラックにユーティリティラックが設けられており、これによって整備作業に必要な例えばインパクトレンチ等をはじめとする各種整備工具や、整備にあたって車輌から取り外したボルト等の部品を至近距離に具えておくことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の車輌整備用のホイールドーリーの使用状態を示す説明図である。
【図2】同上装置の側面図である。
【図3】同上装置の主要部材を分解して示す側面図である。
【図4】(a)は同上装置の平面図、(b)は同上装置の側面図である。
【図5】同上装置の主要部材を分解して示す背面図であり、(a)は基台フレーム、(b)はホイールラック、(c)はラックアームを示す。
【図6】本装置のホイールラックを示す、(a)は平面図、(b)は側面図であり、共に(1)はラックアームの使用状態を示し、また(2)は、ラックアームの格納状態を示す。
【図7】本装置の使用時に併用されることのあるサブキャリアを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明を実施するための形態は、以下述べる実施例をその一つとするものであると共に、この技術思想に基づく種々の改良した実施例も含むものである。
【実施例1】
【0021】
以下、本発明たる車輌整備用のホイールドーリーCを図示の実施例に基づいて具体的に説明する。
まずこのものの使用状態の概要を説明すると、ホイールドーリーCは、例えば図1に示すように車輌整備工場のリフトLによってリフトアップ状態に支承された車輌Vの車輪W周りの整備を行う場合に用いられるものであり、整備にあたって脱着される車輪Wを支承し、更には整備にあたって車軸まわりを整備する際に、取り外した車輪Wが作業の支承にならないように移動するものである。
【0022】
この車輪Wについての一般的な整備に関して概説する。まず車輪Wは、例えばその後輪については車輌VのデファレンシャルギヤやドライブシャフトD等の駆動部材を収めるハウジングHに対し、フルフローティング状態に支持されて、且つダブルタイヤであることが多い。このような後輪については、ダブルタイヤの状態のまま、ドライブシャフトDを中心から引き抜き、次いでダブルタイヤのままホイールドーリーCに支持させるものである。またドライブシャフトDは、整備性を考慮してホイールドーリーC内に収めた状態で作業が継続される。
なおこのような大型車の場合、車輪Wは、ハウジングHを含む車輪支承部材に対してフルフローティングされた状態であり、車輪Wは、直接にはベアリングを介してハウジングHの端部外周に回転自在に支持されて上下方向の荷重をハウジングHに支承させ、一方ドライブシャフトDは、車輌Vの荷重を受けることなく、純粋に回転負荷のみを受けて車輪Wを駆動するものである。
【0023】
以下、本願発明のホイールドーリーCについて説明する。
このものは、大別すると基台フレーム1と、この基台フレーム1に対し昇降自在に取り付けられるホイールラック2と、このホイールドーリーCを移動自在にするための基台フレーム1の下方に設けられる転動輪装置3と、ホイールラック2を昇降させる昇降装置5とを主要部材とする。
【0024】
まずこの基台フレーム1について説明する。このものは、側面視でL字型を成すフレームであり、床面近くに水平配置される左右一対のベースフレーム10に対し、その後端部にポストフレーム11を直立させるように形成する。このポストフレーム11には、操作の便を考慮して、ハンドルパイプ12がその後方側にポストフレーム11とほぼ平行するように配設されるものである。
なおホイールドーリーCの前後とは、車輪Wを支承する側を前方とし、基台フレーム1を介して作業者Mが位置する側を後方とする。
そして、これら左右一対のベースフレーム10、ポストフレーム11は、クロスメンバー13によって一体に枠状に組み立てられているものであって、クロスメンバー13は、上部クロスメンバー13A、下部クロスメンバー13B、最基部クロスメンバー13Cを主たる部材とする。
更に基台フレーム1の一方の側面には、やや下方寄りに管状の中空パイプをほぼ水平に設けるものであり、ドライブシャフトDを保管するシャフト保管ケース15とする。またベースフレーム10とポストフレーム11との間には、多孔板を張設するものであって、これをツールパネル16とする。従ってこのツールパネル16は、適宜のフックやバケット状の保管容器、載置棚等(これらを総称してユーティリティラック161とする)を掛止させ、ここに作業者Mが必要とする種々のツール等、例えばインパクトレンチ、ソケットレンチ、測定機器、グリースガン、油脂容器などを納めるようにしたものである。もちろんこのユーティリティラック161は、基台フレーム1に固定的に設けられていてもよい。
【0025】
次にこの基台フレーム1によって昇降自在に支承されるホイールラック2について説明する。このホイールラック2は、図2に示すように昇降枠20を具えるものであって、昇降枠20は、正面視乃至は背面視で、角枠状であり、具体的には左右一対の左右縦枠201と、その間に配設される中間縦枠202とにより縦方向の強度メンバを構成し、一方横方向に結ぶ上横枠203、下横枠204、更に中間横枠205を具えて構成されている。
この昇降枠20には、上下一対の左右に配した計4基のガイド輪21を設けるものであり、このものが基台フレーム1のポストフレーム11内を転動し、上下方向の作動案内をしている。また前記上横枠203の上面には、ユーティリティラック161の一形態となるセンタートレイ161Aが固定される。このものは、車輪W周りの整備中に取り外されたボルトナット等を置いたり、工具を仮置きしたりするために用いられる。
更に左右縦枠201は、その前方に張り出すようにラック支持ブラケット22を具える。このラック支持ブラケット22は、上方に回動支点23を具える。更に左右縦枠201の上方側に伸びるようにタイヤガードポスト24が設けられる。
そして、ラック支持ブラケット22における回動支点23に対して車輪Wを直接支持する左右一対でフォーク状となるラックアーム25が、ピンシャフト231によって回動自在に取り付けられる。
このラックアーム25は、車輪Wが直接載る円管状パイプ等で構成した支承アーム部251を有し、その基部において左右の支承アーム部251を連結する上下2本のアーム基部クロスメンバー252を具え、更に下方のアーム基部クロスメンバー252と支承アーム部251との間には、ブレースプレート253を具えるものである。
【0026】
このようなラックアーム25は、幾分か傾き自在に構成されるものであって、この傾き設定のための動作は、アーム傾斜アジャスタ26によってなされる。アーム傾斜アジャスタ26は、前記昇降枠20における中間縦枠202を利用して、そこにネジブロック構造を取り付けるものであって、ハンドル261の先端にこれを回動することにより前後方向に進退するプッシュブロック262を設けて構成されている。そして、プッシュブロック262は、前記ラックアーム25における下方のアーム基部クロスメンバー252の部位に当接してその押込加減により、ラックアーム25を傾倒させるようにしている。なおラックアーム25は、このアーム傾斜アジャスタ26がいわばストッパーとなって、下方への垂れ下がりが防止されているのであって、それ自体は回動支点23において自由に回動しうるように構成されている。つまり、上方へは自由に回動できるように構成されている。
またラックアーム25は、非使用時おいてホイールドーリーCをよりコンパクトに構成しうるように図6(a)(2)、(b)(2)に示すように上方に跳ね上げ状態となるように折畳み自在に構成されている。即ち、ラックアーム25には、その下方のアーム基部クロスメンバー252の中間部位にアーム折畳みリンク27が設けられるものであり、ラックアーム25を上方に配置した際に、アーム折畳みリンク27の自由端に形成した係止凹部271を昇降枠20の中間横枠205に係止させて、その格納状態を維持するように構成するものである。
【0027】
次にタイヤガードポスト24に設けられるタイヤガード28について説明する。このタイヤガード28を設ける目的はまず第一に作業時においてホイールドーリーCが過剰に前進して、点検中の車輌Vのサイドパネル等を損傷させることがないようにするためである。このものの存在により、タイヤの側面にホイールドーリーCが必ず最初に当接するようにするものである。即ちタイヤガード28は、側面視で縦長コ字状に張り出す当接部281を設けるものであり、その上下にスライド部282を有する。このスライド部282が、タイヤガードポスト24におけるガイドスリーブ241に嵌り込み、左右の接近幅を調整できるようにしているものであり、その外側に操作部283を有する。なおこのタイヤガード28の更に他の目的は、後述する車輪Wの取り外し時において、例えばシングルタイヤタイプの車輪Wの場合、ラックアーム25上で車輪Wが不安定となるおそれがあり、その際車輪Wをこのタイヤガード28にもたれ掛けさせるためである。
【0028】
次に前記ホイールドーリーCを移動自在とするための転動輪装置3について説明する。転動輪装置3は、前記基台フレーム1におけるベースフレーム10に取り付けられるものであり、固定輪とした前転動輪31と、いわゆる自在キャスターを適用した後転動輪32とを具える。なお後転動輪32を利用して、ホイールドーリーCが不用意な動きが生じないようにストッパペダル32Aを具えて後転動輪32にいわばブレーキをかけた状態で使用できるように構成している。
なお前転動輪31についても、自在キャスター状に構成したり、ストッパ(ブレーキ)機能を持たせた機構とすることももとより差し支えない。
【0029】
次に基台フレーム1に対して、ホイールラック2を昇降自在にシフトするための昇降装置5について説明する。この昇降装置5は、ジャッキ本体51の伸長によりチェーンの昇降シフトを行い、ホイールラック2を昇降させるものである。
まず基台フレーム1に対してジャッキ本体51が、最基部クロスメンバー13Cの中央に立ち上げ状態に設けられるものであり、その側傍部にポンプ52が配設される。このポンプ52は、フットペダル521の操作により、適宜作動油がジャッキ本体51に送られ、その伸長を行うものである。なおフットペダル521の側方には、リリースペダル522が設けられている。
このジャッキ本体51は、シリンダロッドである可動ロッド53の上端にスプロケット54を設けるものであり、ここにリンクチェーン55を捲回させる。具体的には、リンクチェーン55は、一方の端部をフレーム固定部551として基台フレーム1における下部クロスメンバー13Bに取り付け、他端を可動長固定部552としてこのものをホイールラック2における下横枠204に固定している。このような構成の結果、可動ロッド53の昇降ストロークの倍のストロークでホイールラック2の昇降シフトがなされる。なおホイールラック2の昇降ストロークは、本発明の実機では、一例として320mmとした。これは、作業者Mごとの身長差や、車輪Wごとの直径の差を考慮し、適切なラックアーム25の設定高さを得られるようにしたものである。基本的には作業者Mは、自然な立姿勢を保ったまま作業を行うことができるものであって、前記ホイールラック2の下死点における床面高は、一例として支承アーム部251の中心で595mm、上死点の床面高は915mmとした。
【0030】
なお、本発明の車輌整備用のホイールドーリーCが用いられるにあたって、図7に示すように取り外した車輪Wのみを支承するためのサブキャリア6が補機として利用されるが、このサブキャリア6については、その作業状態を説明した後に述べる。
【0031】
本発明のホイールドーリーCは、以上述べた構成を有するものであり、次のように用いられる。
まず整備される車輌Vは、適宜リフトLによってリフトアップされる。このリフトアップは特に車輌Vの下回り等の点検が作業者Mにとって不自然な姿勢とならないようないわば立ち姿勢で整備作業ができるようにするためである。従って点検自体は、車輪W周りの種々の点検のほか、エンジン周り等の点検、整備が複数の作業者Mによって同時に行われる場合がある。車輪Wに関連する作業としては、まずリフトアップさせた車輌Vにおける車輪Wを支承するように本発明のホイールドーリーCを接近させる。次いで既に概略を述べたように車輪Wの端部に複数のボルトによって固定されているドライブシャフトDを取り外すため、適宜インパクトレンチ等によってそれらのネジが緩められる。この際、基台フレーム1には、ツールパネル16が設けられ、ここに適宜のユーティリティラック161を設置して作業に必要な工具を用意しておくことができるから、作業を効率的に行うことが可能となる。加えて、この作業にあたっても、基台フレーム1は、ポストフレーム11が左右一対設けられ、またラック支持ブラケット22は、ラックアーム25をそのほぼ上端近くに設けているから、作業スペースSとしては、作業者Mが車輪Wの正面から対面できるような位置に確保され、作業者Mに無理な作業姿勢を要求しない。
【0032】
なお、このようにしてドライブシャフトDの固定ボルト等を外したのち、ドライブシャフトDをハウジングHから引き抜く。この取り外されたドライブシャフトDは、基台フレーム1に設けられたシャフト保管ケース15内に収められる。またこのとき取り外されたボルトナット等の小物部品は、上横枠203上に設けられたトレー状のセンタートレイ161Aに置いておくことが好ましい。
このように扱うときには、特にドライブシャフトD自体が潤滑環境内にあり、異物の付着を極端に嫌うことから、保管が安全且つ合理的に行えるものである。特にこの実施例では、シャフト保管ケース15内は、ポストフレーム11の側面にほぼ水平方向に配設されておりハウジングHからドライブシャフトDの引き抜き方向が平行であることから、そのシャフト保管ケース15への収め作業も最小限の移動で済み、整備性が良い。
【0033】
このような状態で、車輪WをハウジングHから引き抜くものであり、このときポストフレーム11に支持されているホイールラック2は、そのラックアーム25の高さが昇降装置5の操作を受けて、支承アーム部251が車輪Wの下方を支持するような位置に設定される。即ちホイールラック2の高さ設定は、前記昇降装置5を作動させることにより、可動ロッド53に取り付けられたスプロケット54に捲回するリンクチェーン55が作動してホイールラック2の昇降を行うことによってなされる。またこのとき、適切に車輪Wを支承することにより、車輪WとハウジングHとの間のベアリングに負荷を与えない状態で車輪Wの取り外しができる。即ちラックアーム25が、車輪Wを受け取るための角度は、一例として図3、6に示すように上方に8度、下方に6度傾斜するように構成されている。これは左右の車輪Wを均等に取り外さない場合に、例えばリーフスプリングを用いたサスペンションの負荷が変わることによりハウジングH自体が傾斜する状態を呈し、この傾きに併せて車輪Wを受け取り得るようにするためである。具体的には、前述したアーム傾斜アジャスタ26におけるハンドル261を適宜操作し、そのプッシュブロック262によってアーム基部クロスメンバー252の押込状態を加減して支承アーム部251の角度を調整する。例えば作業箇所と反対側の車輪Wが既に外されていた場合、作業箇所側における車輪Wの荷重でハウジングHは、作業側が下がる状態となるから、それに合わせて車輪W等を受け取る支承アーム部は、先上がり状態とする。
【0034】
このようにして、ホイールラック2上に車輪Wを支持した状態で適宜の引き抜き工具を用いて、ハウジングHから車輪Wを引き抜く。このときの状態は、車輪Wについてはフルフローティング構造に因み、通常ダブルタイヤを採用することが多い大型トラックにあっては、ブレーキドラムに対し、ダブルタイヤの両輪が固定された状態で取り外しがなされるものである。一方、ハウジングH側には、前記ブレーキドラム内おいて制動作用を行うブレーキシューの関連部材が残るような状態となる。このような状態で車輪Wを車輌Vから取り外し、ホイールドーリーCに載せた後には、車輪Wを車軸関連の部材や、緩衝装置等の点検作業に支障のない位置に移動させ、以後の作業のため良好な環境を現出させる。なおホイールドーリーCの移動を行うにあたっては、基台フレーム1のベースフレーム10に取り付けられた転動輪装置3が作用して適宜の位置に自在に搬送させることが可能である。
【0035】
なお車輪Wの取り付けにあたっては、取り外し状態とほぼ逆の操作によってハウジングHに対して車輪Wを取り付ける。またこれらの作業にあたって、タイヤガード28が前方に突出した状態に配置されており、車輪Wの下にラックアーム25の支承アーム部251を挿入した場合であっても、まずタイヤガード28がタイヤ側面に当接する状態となる。この結果車体に対して直接ホイールドーリーCが当接して車体側面を損傷させることがない。またこのタイヤガード28を利用して、安定の悪いシングルタイヤの車輪Wを整備対象とした場合、この車輪Wをタイヤガード28にもたれ掛けさせるように用いる。
【0036】
なおこのようなホイールドーリーCは、例えば整備工場の規模に応じて何基か、例えば一台の車輌V当たり4〜6基ほど用意しておけば、その作業性を充分向上させることができる。しかしながら、大型トラック等の場合、後輪2軸、前輪2軸、後輪3軸など積載量によって車軸数が増える場合もあり、このような場合に対応できるように図7に示すようにサブキャリア6を用意しておくことが好ましい。このサブキャリア6は、例えば側面視X型の折畳みフレーム61の上方に支承杆62を設け、一方支承杆62の下端には、転動輪63を設けるとともにそのX字状態に開脚した折畳みフレーム61を固定するための組立チェーン64を配しておくものである。
これによって、ホイールドーリーCが車輪Wの数だけ揃わない場合であっても、一旦車輪Wを受け取ったホイールドーリーCから、車輪Wの移載を受けられるよう簡易のサブキャリア6を利用することにより、車輪Wの支承、格納を行うことができる。
【0037】
またホイールドーリーCは、不要時には更にコンパクトな状態で格納しうる。この格納のための構成は、図6に示すようにホイールラック2におけるラックアーム25を上方に退去させるような状態とすることにより行う。即ち、ラックアーム25は、その回動支点23を中心に支承アーム部251を上方に折り畳むように扛上させ、更にアーム折畳みリンク27の先端に形成している係止凹部271を昇降枠20の中間横枠205に係止させるようにする。これによってラックアーム25の折畳み状態を維持する。
【0038】
[他の実施の形態]
本発明は以上述べた実施の形態を一つの基本的な技術思想とするものであるが、更に次のような改変が考えられる。
まず昇降装置5については、ジャッキタイプのものを用いたが、機械式のいわゆるパンタグラフ式のものであってもよいし、電動モータによる昇降シフトシリンダ、あるいはエア作動のエアシリンダーでも適宜用いることができる。
【0039】
またラックアーム25自体は、フォーク状のタイヤ支承部材でなくともよいものであり、何らかの形状で車輪Wを支承できればよい。加えてラックアーム25は、幾分か傾倒(チルト状態)し得るものであり、このシフト動作は、先の実施例では、アーム傾斜アジャスタ26による押し込みによって行ったが、油圧、電動モータ等による傾倒調整であってももとより差し支えない。あるいは手動によるカム機構等によっても行い得るものである。
【0040】
またツールパネル16は、基台フレーム1に対して設けたものであるが、このものは必ずしも基台フレーム1に設けるものではなく、例えばホイールラック2側に設けても良いし、あるいは基台フレーム1、ホイールラック2の双方に設けてもよい。
【符号の説明】
【0041】
C ホイールドーリー
D ドライブシャフト
H ハウジング
L リフト
S 作業スペース
V 車輌
W 車輪
M 作業者
1 基台フレーム
10 ベースフレーム
11 ポストフレーム
12 ハンドルパイプ
13 クロスメンバー
13A 上部クロスメンバー
13B 下部クロスメンバー
13C 最基部クロスメンバー
15 シャフト保管ケース
16 ツールパネル
161 ユーティリティラック
161A センタートレイ

2 ホイールラック
20 昇降枠
201 左右縦枠
202 中間縦枠
203 上横枠
204 下横枠
205 中間横枠
21 ガイド輪
22 ラック支持ブラケット
23 回動支点
231 ピンシャフト
24 タイヤガードポスト
241 ガイドスリーブ
25 ラックアーム
251 支承アーム部
252 アーム基部クロスメンバー
253 ブレースプレート
26 アーム傾斜アジャスタ
261 ハンドル
262 プッシュブロック
27 アーム折畳みリンク
271 係止凹部
28 タイヤガード
281 当接部
282 スライド部
283 操作部

3 転動輪装置
31 前転動輪
32 後転動輪
32A ストッパペダル

5 昇降装置
51 ジャッキ本体
52 ポンプ
521 フットペダル
522 リリースペダル
53 可動ロッド
54 スプロケット
55 リンクチェーン
551 フレーム固定部
552 可動長固定部

6 サブキャリア
61 折畳みフレーム
62 支承杆
63 転動輪
64 組立チェーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動自在の基台フレームと、この基台フレームに昇降自在に設けられるホイールラックとを具え、ホイールラック上に車輌から脱着する車輪を載せて、車輌への保守・整備作業のための良好な環境を現出させるための装置であって、
前記ホイールラックは、作業者毎に異なる体形や異なる車輪の直径に応じ設定高さを調整できるように昇降自在に構成され、且つホイールラックに車輪が支承される状態において、車輪中心部へ作業者が正面から対面できるようにした作業スペースが確保され、作業者が自然な立ち姿勢で作業ができるような車軸位置となるように車輌をリフトアップした状態のまま、車輪脱着の作業が行えるように構成されていることを特徴とする車輌整備用のホイールドーリー。
【請求項2】
前記ホイールラックは、左右一対の前方に平行に張り出したフォーク状のラックアームを車輪の支承部材としていることを特徴とする前記請求項1記載の車輌整備用のホイールドーリー。
【請求項3】
前記ホイールラックは、車輪を支承する部材が傾き自在に構成されていることを特徴とする前記請求項1または2記載の車輌整備用のホイールドーリー。
【請求項4】
前記ホイールラックは、その上方にタイヤ側に張り出すタイヤガードが設けられていることを特徴とする前記請求項1、2または3記載の車輌整備用のホイールドーリー。
【請求項5】
前記基台フレームまたはホイールラックには、整備される車輌から取り外したドライブシャフトを保管するシャフトケースが設けられていることを特徴とする前記請求項1、2、3または4記載の車輌整備用のホイールドーリー。
【請求項6】
前記基台フレームまたはホイールラックのいずれか一方又は双方には、整備作業時に用いられる工具、取り外した部品等を保持させておくためのユーティリティラックが設けられることを特徴とする前記請求項1、2、3、4または5記載の車輌整備用のホイールドーリー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−1248(P2013−1248A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134421(P2011−134421)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(511094336)株式会社テクネット (3)
【Fターム(参考)】