説明

車輪位置計測装置

【課題】車輪の位置変化量を精度よく求めることができる車輪位置計測装置を提供する。
【解決手段】車輪位置計測装置10は、ホイールトルク計16と固定部材18とを連結する連結部材20を備える。連結部材20は、ホイールトルク計16に支持されるポール26と、固定部材18に支持され、ポール26にスライド自在に係合されたスライダ28と、ポール26上のスライダ28の変位量やポール26の姿勢の変化量を計測するエンコーダ30〜38とを備え、エンコーダ30〜38の計測結果が車輪12の動きに換算される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車輪位置計測装置に係り、特に自動車などの車両を走行させながら車体に対する車輪の位置や姿勢を計測する車輪位置計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走行中の車輪に関する計測を行う装置として、ホイールトルク計が知られている。ホイールトルク計は、走行中に車輪が路面から受ける外力(たとえば六分力)を計測する装置であり、たとえば特許文献1に開示されている。特許文献1のホイールトルク計は、車輪に固定される本体部(回転部)と、その本体部に回動自在に支持されるスリップリング(非回転部)とを備え、スリップリングがリンク機構によって車軸部材に連結されている。この特許文献1によれば、車体と車輪との位置関係によらず、車輪のトルクを正確に測定することができる。
【0003】
ところで近年では、車輪に関する計測として、トルクだけでなく車体に対する走行中の車輪の位置や姿勢を計測したいという要望がある。すなわち、車輪が車体に対してどのような位置でどのような姿勢の時にどのようなトルクが加わっているか等、車輪の動きを総合的に計測したいという要望がある。しかしながら、上述した特許文献1では、車体に対する走行中の車輪の位置や姿勢を計測することができない。
【0004】
車体に対する車輪の位置や姿勢を計測する装置としては、ホイールアライメント装置が知られている。ホイールアライメント装置は車輪の姿勢を計測する装置であり、たとえば特許文献2に開示されている。特許文献2のホイールアライメント装置は、車輪側の部材が車体側の部材にリンク機構を介して連結されるとともに、リンク機構の各リンクの角度を計測する角度計測手段が設けられている。この装置によれば、各リンクの角度の計測結果をベクトル変換することによって、車体に対する車輪の姿勢を求めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3365034号
【特許文献2】特開2005−83967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2の装置は、車輪が車体に対して変動した際の追従性が悪く、測定精度が低いという問題があった。すなわち、特許文献2では、リンク機構の関節部分がフリーに動くため、車輪が車体に対して(たとえば上下方向に)大きく振動すると、関節部分に慣性力が働き、次の変動への追従性が遅れ、測定精度が低下するという問題があった。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、車輪の位置や姿勢を精度良く求めることができる車輪位置計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、車体に取り付けられる車体側部材と車輪に取り付けられる車輪側部材とを連結する連結部材を備え、該連結部材は、少なくともその一方の端部が、前記車体側部材または前記車輪側部材の一方に連結されるポールと、前記ポールにスライド自在に係合されるとともに、前記車体側部材または前記車輪側部材の他方に連結されるスライダと、前記ポール上での前記スライダの変位量と前記ポールの姿勢の変化量とを計測する計測手段と、を有し、前記計測手段の計測結果が前記車輪の位置変化量に換算されることを特徴とする車輪位置計測装置を提供する。
【0009】
本発明の車輪位置計測装置は、車体に対する車輪の位置変化量を、ポールとスライダの動きに置き換えて求める構成である。すなわち、本発明の車輪位置計測装置によれば、車輪が車体に対して動くと、それがスライダの変位量とポールの姿勢の変化量となって表れるので、それらを測定し、換算することによって、車体に対する車輪の位置変化量を求めることができる。
【0010】
また、本発明によれば、車輪が大きく動く方向に(たとえば鉛直方向に)ポールを配置することによって、車輪が車体に対して大きく動いた場合であっても、スライダがポールに沿って迅速に動くので、追従性が良く、高精度の計測を行うことができる。
【0011】
請求項2の発明は請求項1の発明において、前記計測手段は、前記ポールと前記スライダを複数のリンクによって連結するリンク機構と、前記リンクの角度変化量を計測する第1の角度検出器と、を備え、前記角度変化量が前記スライダの前記ポールの長手方向における変位量に換算されることを特徴とする。本発明によれば、リンクの角度の変化量を計測するので、この計測結果をスライダの変位量に換算することによって、車輪の位置変化量を求めることができる。
【0012】
請求項3の発明は請求項1又は2の発明において、前記計測手段は、前記車体側部材と前記スライダとの間に設けられる第2、第3の角度検出器と、前記車輪側部材と前記ポールとの間に設けられる第4、第5の角度検出器を備え、前記第2、第3の角度検出器はそれぞれ、前記ポールの長手方向に直交し、且つ、互いに直交する二方向において前記車体側部材に対する角度変化量を計測し、前記第4の角度検出器は、前記ポールの長手方向において前記車輪側部材に対する角度変化量を計測し、前記第5の角度検出器は、前記ポールの長手方向に直交する方向において前記車輪側部材に対する角度変化量を計測することを特徴とする。本発明によれば、第2〜第5の角度検出器によってポールの姿勢を正確に求めることができる。特に本発明では、第2〜第5の角度検出器をスライダとポールに分けて配置したので、スライダとポールの一方の動きが鈍ることを防止することができる。
【0013】
請求項4の発明は請求項1〜3のいずれか1の発明において、前記車輪側部材は、前記車輪に加わる荷重及び/又はモーメントを計測するホイールトルク計であることを特徴とする。本発明によれば、車輪側部材がホイールトルク計であるので、車輪に加わるトルクやモーメントと車輪の位置変化量とを同時に正確に求めることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、車体に対する車輪の位置変化量を、ポールとスライダの動きに置き換えて求めるようにしたので、車輪の位置変化量を精度良く求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施の形態の車輪位置計測装置を示す正面図
【図2】図1の車輪位置計測装置の側面図
【図3】図1の車輪位置計測装置の主要部を示す平面図
【図4】図1の車輪位置計測装置の構成を模式的に示す図
【図5】図4の一部を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面に従って、本発明に係る車輪位置計測装置の好ましい実施形態について説明する。
図1は本実施の形態の車輪位置計測装置10の構成を模式的に示す正面図であり、図2はその側面図である。また、図3は、車輪位置計測装置10の平面図であり、主要部のみを示している。
【0017】
図1〜図3に示す車輪位置計測装置10は、車体14に対する車輪12の動き(位置及び姿勢の変化量)を計測する装置であり、主として、ホイールトルク計16、固定部材18、連結部材20、及び、演算装置(不図示)で構成される。
【0018】
ホイールトルク計16は、車輪12に取り付けられる「車輪側部材」の一例である。このホイールトルク計16は、車輪12に加わる外力を計測する装置であり、公知の様々な構成のものを用いることができる。一般的な構成を説明すると、ホイールトルク計16は、車輪12に固定されて車輪12とともに回転する回転部22と、この回転部22を回動自在に支持する非回転部24とで構成される。回転部22は、たとえば車輪12のホイールリムに取り付けられる円環状のリム取付枠や、ホイールハブに取り付けられる円環状のハブ取付枠、さらにはリム取付枠とハブ取付枠との間に架設されるアームや、このアームに取り付けられる歪ゲージなどのセンサ等で構成されており、ホイールにかかるトルク(たとえば6分力)を前記センサによって計測できるようになっている。一方、ホイールトルク計16の非回転部24は、たとえばスリップリングであり、前述のハブ取り付け枠に回動自在に支持されている。非回転部22にはケーブル(不図示)が接続されており、このケーブルを介して後述の演算装置に接続されている。また、非回転部24は、連結部材20を介して固定部材18に連結されており、この固定部材18を介して車体14に支持されている。
【0019】
固定部材18は、車体14に取り付けられる「車体側部材」であり、その詳細な図は省略するが、車体14に固定するための固定機構を備える。固定機構の構成は特に限定されるものではなく、車体14に固定できる構成であればよい。また、固定機構による車体14への取付位置は特に限定されるものではなく、車体14の車軸などの回転部分を除けば、どの部分に取り付けてもよい。以下に、ボンネットやドアなどの開閉部に取り付ける固定部材18の例で説明する。固定部材18は、アーム状の本体(不図示)と、本体に取り付けられて車体14の開閉部に内側から引っ掛かるフック部(不図示)と、本体に取り付けられて車体14の外面に先端が当接される複数の脚部(不図示)とを備え、複数の脚部の少なくとも一つの脚部は長さ調節自在に構成される。このような構成の固定部材18は、前述のフック部を車体14の開閉部に引っ掛けた状態で、脚部を車体の外面に当接させ、さらに長さ調節自在の脚部を長くすることによって、本体を車体14に固定することができる。この場合、長さ調節機構のない脚部の先端に、真空吸引機構を有するパッドを取り付けることが好ましく、この吸着パッドによって、脚部の先端を車体の外面に当接させた状態で仮止めすることができ、固定作業を容易に行うことができる。
【0020】
固定部材18と前述のホイールトルク計16は連結部材20によって連結される。連結部材20は主として、ポール26、スライダ28、五つのロータリーエンコーダ30、32、34、36、38及びリンク機構40で構成される。ロータリーエンコーダ(以下、たんにエンコーダという)30〜38はそれぞれ、ケーシング30A〜38Aと、その内側に回動自在に支持されたシャフト30B〜38Bを備えており、シャフト30B〜38Bの角度変化量を計測できるように構成される。本実施の形態において、エンコーダ30〜38は同一規格のものを用いることができ、光学式、磁気式、アブソリュート形、インクメンタル形などを適宜選択することができる。なお、本実施の形態において、エンコーダ34は特許請求の範囲における「第1の角度検出器」に相当し、エンコーダ30、32、36、38はそれぞれ「第2の角度検出器」、「第3の角度検出器」、「第4の角度検出器」、「第5の角度計測器」に相当する。
【0021】
ポール26は、直線状に形成された棒状のガイドであり、たとえば金属製の円柱によって構成される。ポール26は、基準状態(車両が走行していない状態)において、その軸方向が鉛直方向になるように配置される。なお、ポール26の配置方向は、鉛直方向に限定されるものではないが、車輪12が車体14に対して大きく振動する方向(通常、鉛直方向)に配置することが好ましく、たとえば車輪12を支持するサスペンションの方向に配置してもよい。
【0022】
また、ポール26は、その下端部がエンコーダ36、38を介してホイールトルク計16の非回転部24に取り付けられている。これを具体的に説明すると、ホイールトルク計16の非回転部24には、車輪12の回転中心軸上に突起部25が形成されており、この突起部25にエンコーダ38のシャフト38Bが連結されている。エンコーダ38は基準状態においてシャフト38Bの回転軸がX軸方向に配置されており、そのケーシング38AはL状部材42を介してエンコーダ36のシャフト36Bに連結されている。エンコーダ36は、ポール26と同軸上に(すなわち基準状態でのシャフト36Bの回転軸がZ軸方向になるように)配置されており、このエンコーダ36のケーシング36Aにポール26の下端が連結されている。これにより、ポール26はX軸、Z軸を中心に回転することができ、その角度の変化量がそれぞれエンコーダ38、36で計測される。
【0023】
ポール26にはスライダ28が係合されている。スライダ28は、ポール26を挿通可能な筒状に形成されており、ポール26に沿ってスライドすることができる。また、スライダ28は、エンコーダ30、32を介して前述の固定部材18に支持されている。これを具体的に説明すると、エンコーダ30は基準状態においてシャフト30Bの回転軸がX軸方向に配置されており、そのケーシング30Aが固定部材18に連結されている。図3に示すようにエンコーダ30のシャフト30BはL状部材44を介してエンコーダ32のケーシング32Aに連結されている。エンコーダ32は基準状態においてシャフト32Bの回転軸がY軸方向に配置されており、そのシャフト32Bがスライダ28に連結されている。これにより、スライダ28はX軸、Y軸を中心に回転することができ、その角度の変化量がエンコーダ30、32で計測される。
【0024】
上述したポール26の下部とスライダ28との間にはリンク機構40が設けられている。リンク機構40は、リンク50、52、54と、このリンク50、52、54を回動自在に連結する複数のジョイント46によって構成されている。リンク50、52、54のうち、リンク54は、その下端がポール26の下部にジョイント49を介して回動自在に連結されている。リンク52は、その中央部が係合部48を介してポール26に係合され、ポール26に対してスライド自在に且つ回動自在に動くようになっている。リンク50は、その上端がエンコーダ34のシャフト34Bに連結されており、リンク50が動いた際にシャフト34Bが回動するようになっている。エンコーダ34は基準状態においてシャフト34Bの回転軸がY軸方向に配置されており、そのケーシング34Aはスライダ28に固定されている。これにより、リンク50の角度が変化した際に、その角度変化量がエンコーダ34によって計測される。なお、本実施の形態では、リンク56がリンク52と平行に設けられ、ジョイント46を介してリンク50、リンク54に連結されている。ただし、リンク56がない構成としてもよい。
【0025】
ところで、上述した五つのエンコーダ30〜38はそれぞれ、ケーブル(不図示)を介して演算装置(不図示)に接続されている。演算装置は、車体14の内部に設置されており、この演算装置にエンコーダ30〜38の計測信号が送信される。演算装置はこれらの信号に基づいて、車輪12の動き(位置、姿勢の変化量)を演算する。
【0026】
以下、演算方法の一例として、DH法を利用した方法を図4に基づいて説明する。図4は、上述した車輪位置計測装置10の構成を模式的に示している。同図において、点Оは基準点であり、固定部材18が車体14に固定される点を示している。点Cは測定点であり、ホイールトルク計16の回転部22の中心を示している。点Aは、ポール26の軸線上においてエンコーダ30、32の回転軸が交わる点である。点Bはポール26の軸線上においてエンコーダ36、38の回転軸が交わる点である。本実施の形態では、点Aにおいて後述のZ軸、Z軸、Z軸、Z軸が交わっており、点Bにおいて後述のZ軸、Z軸、Z軸が交わっている。このように座標系を設定することによって、後述のパラメータaが全て零になり、演算が容易になる。
【0027】
図4に示すように車輪位置計測装置10は5つの関節Joint1〜Joint5(以下、J〜Jという)を備えている。第1の関節Jは回転関節であり、エンコーダ30によって構成されている。同様に第2の関節J、第4の関節J、第5の関節Jも回転関節であり、それぞれエンコーダ32、36、38によって構成される。一方、第3の関節Jは直動関節であり、ポール26、スライダ28、リンク機構40及びエンコーダ34によって構成されている。ここで、関節Jの関節軸iとして、回転関節の場合は回転軸を関節軸iとして定義し、直動関節の場合は直動方向に平行な直線を関節軸iとして定義する。
【0028】
また、基準点Оに接続されるリンク(Link)をLに設定するとともに、各関節J〜Jに接続されるリンクをL〜Lとし、さらに、測定点Cに接続されるリンクをLに設定する。さらに、リンクL〜Lごとに座標系Σ〜Σを設定するとともに、各座標系では、xyz座標を以下のように設定する。すなわち、(1)Zi−1軸は、関節軸i−1に一致させる。(2)Xi−1軸はZi−1軸の共通垂線とする。(3)Zi−1軸とXi−1軸との交点を座標系i−1の原点とし、Zi−1とXi−1の外積でYi−1軸の方向を決定する。なお、Zi−1とZが平行な場合は、Xi−1が定まらないので、その場合は変換行列が単純になるよう適宜決める。また、関節Jが基準角度のときにはXn−1とXが平行になるようにする。ただし、XとZn+1を同じ方向に取らないようにする。
【0029】
ところで、DH法では、4つの座標変換Trans(a,0,0)、RotX(α)、Trans(0,0,d)、RotZ(θ)を順次行うことによって、同次変換行列を求めることができる。すなわち、同次変換行列は以下の式で表される。
【0030】
【数1】

【0031】
この式において、aはリンク長さであり、Xi−1軸の正方向に沿って測ったZi−1軸からZ軸への距離である。αはリンクねじれ角であり、Xi−1軸周りに右ねじ方向に測ったZi−1軸からZ軸への角度である。dはリンク間の距離であり、Z軸の正方向に沿って測ったXi−1軸からXi軸への距離である。θはリンク間の角度であり、Z軸周りに右ねじ方向に測ったXi−1軸からX軸への角度である。
【0032】
また、Trans(a,0,0)は、Xi−1軸に沿ってaの並進を意味する。RotX(α)はXi−1軸周りにαiの回転を意味する。Trans(0,0,d)は、回転後のZi−1軸に沿ってdの並進を意味する。RotZ(θi)は並進後のZi−1軸の周りにθの回転(座標Σi−1がΣに一致)を意味する。
次に図4の各座標変換について、変換行列を求める。まず、Σ→Σの座標変換について求める。点Оと点Aを同じ位置にとり、関節Jにおける変数(実際にはエンコーダ30の測定値の変動分)をθJ1とすると、各パラメータはa=0、α=0、d=0、θ=θJ1になるので、変換行列は数式1を用いることによって以下のようにして表される。
【0033】
【数2】

次にΣ→Σの座標変換について求める。ΣとΣを点Aの同じ位置にとり、関節Jにおける変数(実際にはエンコーダ32の測定値の変動分)をθJ2とすると、各パラメータはa=0、α=π/2、d=0、θ=(π/2)+θJ2になるので、変換行列は以下のようにして表される。
【0034】
【数3】

【0035】
次にΣ→Σの座標変換について求める。Σを点Aの位置にとり、Σを点Bの位置にとるとともに、点Aと点Bとの距離(直動による変動分を含む)をdとすると、各パラメータはa=0、α=-π/2、d=d、θ=-π/2になるので、変換行列は以下のようにして表される。
【0036】
【数4】

Σ→Σの座標変換では、ΣとΣを点Bの位置にとり、関節Jにおける変数(実際にはエンコーダ36の測定値の変動分)をθJ4とすると、a=0、α=0、d=0、θ=θJ4になるので、変換行列は以下のようにして表される。
【0037】
【数5】

Σ→Σの座標変換では、ΣとΣを点Bの位置にとり、関節Jにおける変数(実際には、エンコーダ38の測定値の変動分)をθJ5とすると、各パラメータはa=0、α=-π/2、d=0、θ=(-π/2)+θJ5になるので、変換行列は以下のようにして表される。
【0038】
【数6】

【0039】
Σ→Σの座標変換では、ΣとΣを点Cの位置にとり、変数をDとすると、各パラメータはa=0、α=π/2、d=dJ6、θ=0になるので、変換行列は以下のようにして表される。
【0040】
【数7】

【0041】
次に上記のΣ→Σの座標変換において、dを求める。図5は、点A、点B間のリンク機構40を模式的に示している。点Aからエンコーダ34の回転軸までの距離をL、リンク機構40のジョイント49から点Bまでの距離をLに設定する。また、全てのリンク52、54、56が移動軸と平行に伸びきったと仮定した時のアーム全長をLaに設定し、さらにその状態からのリンク52の角度変動をθとする。これらのパラメータを用いてdを求めると、以下の式で表される。
【0042】
【数8】

【0043】
この式においてθはエンコーダ34によって測定されるので、エンコーダ34の測定値からdを求めることができる。さらにこのDと数式4とによって、Σ→Σの座標変換の変換行列を求めることができる。なお、リンク機構40において、全てのリンク52、54、56が移動軸と平行に伸びきることは構造的にないので、最大に延びた状態での角度を求めておき、その状態からの変動量をエンコーダ34により測定してθを求めるとよい。
【0044】
次に、基準点の座標系と測定点の座標系を全体座標系に変換する。基準点の座標系Σは、リンクの都合で決めているので、測定者が定義する全体座標系Σへ回転変換を行う。この座標変換はロール、ピッチ、ヨー角法による回転変換行列を使用して行う。ロール、ピッチ、ヨー角法は、Z-Y-Xの順番で回転させる。これにより、Σ→Σの座標変換を求めることができ、たとえば以下のように表される。
【0045】
【数9】

【0046】
一方、測定点Cの座標系Σも、リンク機構の都合で決めているので、測定者が定義する座標系Σへの回転変換を行う。この座標変換はロール、ピッチ、ヨー角法による回転変換行列を使用し、Z-Y-Xの順番で回転させる。さらに、測定点Cを必要に応じてタイヤ接地面等に並進移動させる。これにより、Σ→Σの座標変換を求めることができ、たとえば以下のように表される。
【0047】
【数10】

【0048】
次に全体の同次変換行列(Σ→Σ)を求める。全体の同次変換行列(Σ→Σ)は、以下のようにして表される。
【0049】
【数11】

【0050】
この式において、各変換行列は数式2〜数式9によって求まるので、全体の同次変換行列(Σ→Σ)を求めることができる。この行列式を用いて演算処理を行うことによって、車輪12の中心位置(点C)や車輪12の接地点を知ることができる。また、この行列の回転成分と既存の回転行列の公式とを比較することによって、X軸周りの回転角度θx、Y軸周りの回転角度θy、Z軸周りの回転角度θzを求めることができ、結果として車輪12の姿勢を求めることができる。求めた車輪12の位置や姿勢は、必要に応じて出力され、たとえば表示画面(不図示)に表示される。
【0051】
さらに演算装置は、車輪12の位置や姿勢だけでなく、ホイールトルク計16のセンサから送信された信号に基づいて、車輪12に加わるトルクやモーメントを計測することができる。その際、上述の行列式を用いて演算処理を行うことによって計測位置を求めることができ、車輪12の挙動を正確に把握することができる。
【0052】
なお、ホイールトルク計16を車輪12に取り付ける際、機械的誤差によって車輪12の回転軸に対して芯ずれや面ぶれが生じることがある。この誤差は、車輪12の回転軸の角度に応じて真値を中心に変動成分として各軸に生じるが、各軸の変動成分は、位置及び角度の誤差が各軸に投影されるので、車輪12の回転角で近似して補正すればよい。
【0053】
次に上記の如く構成された車輪位置計測装置10の作用について説明する。上述したように車輪位置計測装置10は、車輪12と車体14との間に、略鉛直に配置されたポール26と、ポール26にスライド自在に係合されたスライダ28とを備えている。したがって、車輪12が車体14に対して動いた場合、その動きが「ポール26の姿勢の変化量」と「スライダ28の変位量」となって表れる。本実施の形態では、これらをエンコーダ30〜38によって計測し、その計測結果を演算装置によって車輪12の動きに換算しているので、車体14に対する車輪12の位置等を求めることができる。
【0054】
また、本実施の形態によれば、略鉛直状に配置されたポール26に対してスライダ28がスライド自在に係合されているので、車輪12が車体14に対して上下に大きく動いた場合にスライダ28がポール26に沿って上下にスライドし、車輪12の動きに迅速に追従することができる。したがって、本実施の形態の車輪位置計測装置10は、車輪12の位置等を高精度で測定することができる。
【0055】
さらに、本実施の形態の車輪位置計測装置10は、車輪12の動きを全て、エンコーダ30〜38で計測するようにしたので、データの管理や演算が容易であり、演算処理を容易に且つ迅速に行うことができる。
【0056】
また、本実施の形態の車輪位置計測装置10は、「車輪側部材」としてホイールトルク計18を用いたので、車輪12の動きとともに車輪12にかかるトルクを同時に計測することができる。したがって、走行中における車輪12の状態を総合的に把握することができ、たとえば計測結果をシミュレータの入力値に利用することによって、シミュレーションの精度を高めることができる。
【0057】
なお、上述した実施形態は、スライダ28のスライド量を求めるためにリンク50の角度変化量を計測したが、別のリンク52、54、56の角度変化量を計測してもよく、さらには、エンコーダ34ではなくリニアスケールなどでスライド量を測定してもよい。
また、上述した実施形態では、計測手段として(ロータリ)エンコーダ30〜38を用いたが、これに限定するものではなく、ポテンショメータ等の別の角度検出器を用いてもよい。
【0058】
さらに上述した実施の形態は、スライダ28側に2個のエンコーダ30、32を設け、ポール26側に2個のエンコーダ36、38を設けたが、エンコーダの個数や配置はこれに限定するものではなく、たとえば、スライダ28側のみまたはポール26側のみに三個のエンコーダを三軸方向に設けたり、スライダ28側とポール26側の両方にそれぞれ三個のエンコーダを三軸方向に設けたりしてもよい。
【0059】
なお、上述した実施形態では、「車輪側部材」としてホイールトルク計16を用いたが、これに限定するものではなく、たとえば車輪12に回動自在に装着される治具等を車輪側部材としてもよい。
また、上述した実施形態では、車輪側部材にポール26を連結し、車体側部材にスライダ28を連結したが、逆に、車体側部材にポール26を連結し、車輪側部材にスライダ28を連結してもよい。
【符号の説明】
【0060】
10 車輪位置計測装置
12 車輪
14 車体
16 ホイールトルク計
18 固定部材
20 連結部材
22 回転部
24 非回転部
26 ポール
28 スライダ
30、32、34、36、38 エンコーダ
40 リンク機構
42、44 L状部材、
46 ジョイント
48 係合部
50、52、54、56 リンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に取り付けられる車体側部材と車輪に取り付けられる車輪側部材とを連結する連結部材を備え、該連結部材は、
少なくともその一方の端部が、前記車体側部材または前記車輪側部材の一方に連結されるポールと、
前記ポールにスライド自在に係合されるとともに、前記車体側部材または前記車輪側部材の他方に連結されるスライダと、
前記ポール上での前記スライダの変位量と前記ポールの姿勢の変化量とを計測する計測手段と、を有し、
前記計測手段の計測結果が前記車輪の位置変化量に換算されることを特徴とする車輪位置計測装置。
【請求項2】
前記計測手段は、
前記ポールと前記スライダを複数のリンクによって連結するリンク機構と、
前記リンクの角度変化量を計測する第1の角度検出器と、
を備え、前記角度変化量が前記スライダの前記ポールの長手方向における変位量に換算されることを特徴とする請求項1に記載の車輪位置計測装置。
【請求項3】
前記計測手段は、前記車体側部材と前記スライダとの間に設けられる第2、第3の角度検出器と、前記車輪側部材と前記ポールとの間に設けられる第4、第5の角度検出器を備え、
前記第2、第3の角度検出器はそれぞれ、前記ポールの長手方向に直交し、且つ、互いに直交する二方向において前記車体側部材に対する角度変化量を計測し、
前記第4の角度検出器は、前記ポールの長手方向において前記車輪側部材に対する角度変化量を計測し、
前記第5の角度検出器は、前記ポールの長手方向に直交する方向において前記車輪側部材に対する角度変化量を計測することを特徴とする請求項1または2に記載の車輪位置計測装置。
【請求項4】
前記車輪側部材は、前記車輪に加わる荷重及び/又はモーメントを計測するホイールトルク計であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の車輪位置計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−13012(P2011−13012A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−155519(P2009−155519)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000127570)株式会社エー・アンド・デイ (136)
【Fターム(参考)】