説明

車輪用軸受装置

【課題】内方部材と外側継手部材の肩部との間で発生する急激なスリップを緩和してスティックスリップ音の発生を防止すると共に、外部から泥水等が軸受内に浸入するのを防止した車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】外側継手部材14の肩部16と内輪3の大端面3bとの対向面間に板厚が0.5〜2.0mmのステンレス鋼板製のキャップ18が介装され、このキャップ18が円板状の当接部18aと、肩部16に外嵌される円筒状の嵌合部18bと、これから径方向外方に折曲される円板部18cと、この外径部から軸方向に延びる円筒部18dと、これから径方向外方に折曲される鍔部18eとを備え、この鍔部18eがナックル20に対して僅かな軸方向すきまを介して対向し、ラビリンスシールRS2が形成されると共に、当該キャップ18の当接部18aの表面にフッ素樹脂からなる低摩擦被膜層が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両の車輪を支持する車輪用軸受装置、詳しくは、車輪用軸受と等速自在継手とを備え、独立懸架式サスペンションに装着された駆動輪(FF車の前輪、FR車あるいはRR車の後輪、および4WD車の全輪)を懸架装置に対して回転自在に支持する車輪用軸受装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両のエンジン動力を車輪に伝達する動力伝達装置は、エンジンから車輪へ動力を伝達すると共に、悪路走行時における車両のバウンドや車両の旋回時に生じる車輪からの径方向や軸方向変位、およびモーメント変位を許容する必要があるため、例えば、エンジン側と駆動車輪側との間に介装されるドライブシャフトの一端が摺動型の等速自在継手を介してディファレンシャルに連結され、他端が固定型の等速自在継手を含む車輪用軸受装置を介して駆動輪に連結されている。
【0003】
この車輪用軸受装置として従来から種々の構造のものが提案されているが、例えば、図11に示すようなものが知られている。この車輪用軸受装置50は、外周に車体に取り付けられるための車体取付フランジ51bを一体に有し、内周に複列の外側転走面51a、51aが一体に形成された外方部材51と、一端部に車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ54を一体に有し、外周に複列の外側転走面51a、51aの一方に対向する内側転走面52aと、この内側転走面52aから軸方向に延びる円筒状の小径段部52bが形成されたハブ輪52、およびこのハブ輪52の小径段部52bに圧入され、外周に複列の外側転走面51a、51aの他方に対向する内側転走面53aが形成された内輪53からなる内方部材55と、この内方部材55と外方部材51の両転走面間に保持器56、56を介して転動自在に収容された複列のボール57、57と、外方部材51と内方部材55との間に形成される環状空間の開口部に装着されたシール58、59とを備えている。
【0004】
内輪53は、ハブ輪52の小径段部52bの端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部60によりハブ輪52に対して軸方向に固定されると共に、ハブ輪52に等速自在継手61が連結されている。この等速自在継手61の外側継手部材62は、カップ状のマウス部の底部をなす肩部63と、この肩部63から軸方向に延び、ハブ輪52にセレーション64aを介してトルク伝達可能に内嵌されたステム部64とを一体に有し、肩部63が加締部60と突き合わせ状態で、ハブ輪52と外側継手部材62が固定ナット65を介して軸方向に着脱自在に結合されている。
【0005】
こうした車両の車輪には、エンジン低速回転時、例えば車両発進時に、エンジンから摺動型の等速自在継手61を介して大きなトルクが負荷され、ドライブシャフトに捩じれが生じることが知られている。その結果、このドライブシャフトを支持する車輪用軸受装置50の内方部材55にも捩じれが生じることになる。このようにドライブシャフトに大きな捩じれが発生した場合、外側継手部材62と内方部材55との当接面で急激なスリップによるスティックスリップ音が発生する。
【0006】
この対策手段として、この車輪用軸受装置50では、加締部60に合成樹脂製のキャップ66が装着され、このキャップ66が、円板状の当接部66aと、この当接部66aの内径部から軸方向に延びる円筒状の嵌合部66bと、当接部66aの外径部から軸方向に延びる円筒状の鍔部66cとを備え、加締部60の端面が平坦面に形成されると共に、加締部60と外側継手部材62の肩部63とで挟持された状態で、当該キャップ66の嵌合部66bが加締部60の内径に圧入固定されている。
【0007】
これにより、ドライブシャフトに大きなトルクが負荷され、外側継手部材62に大きな捩じれが発生した場合でも、内方部材55と肩部63との間で発生する急激なスリップを緩和し、スティックスリップ音の発生を防止することができると共に、キャップ66を内方部材55にワンタッチで容易に装着することができ、搬送工程や組立工程において内方部材55からキャップ66が脱落するのを防止することができて作業性を向上させることができる(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−158925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
然しながら、この従来の車輪用軸受装置50では、樹脂製のキャップ66が、等速自在継手61を締結する軸力によって変形すると共に、使用中に摩耗して加締部60とのガタが大きくなり、長期間に亘って所望の効果を維持するのが難しい。さらには、キャップ66を加締部60に嵌合固定する構造のため、嵌合部の精度向上を図って加締加工後に旋削加工等で追加工する必要があり、コストが高騰するという問題があった。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、内方部材と外側継手部材の肩部との間で発生する急激なスリップを緩和してスティックスリップ音の発生を防止すると共に、外部から泥水等が軸受内に浸入するのを防止した車輪用軸受装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
係る目的を達成すべく、本発明のうち請求項1に記載の発明は、ナックルに内嵌され、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる円筒状の小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に保持器を介して転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の両側開口部に装着されたシールとを備え、前記ハブ輪に等速自在継手が連結されると共に、この等速自在継手の外側継手部材が、カップ状のマウス部と、このマウス部の底部をなす肩部と、この肩部から軸方向に延び、前記ハブ輪にセレーションを介してトルク伝達可能に内嵌されるステム部とを一体に有し、前記肩部が前記内方部材と突き合わせ状態で、前記ハブ輪と外側継手部材が固定ナットを介して軸方向に着脱自在に結合された車輪用軸受装置において、前記外側継手部材の肩部と前記内方部材の端部との対向面間に鋼板製のキャップが介装され、このキャップが前記外側継手部材の肩部と前記内方部材の端部とで挟持される円板状の当接部と、前記肩部または内方部材の一方に嵌合される円筒状の嵌合部と、この嵌合部から径方向外方に折曲される円板部と、この円板部の外径部から軸方向に延び、前記外側継手部材の外周面に所定の径方向すきまを介して対向する円筒部と、この円筒部から径方向外方に折曲される鍔部とを備え、この鍔部が前記ナックルに対して僅かなすきまを介して対向し、ラビリンスシールが形成されると共に、当該キャップの少なくとも前記当接部の表面に低摩擦被膜層が形成されている。
【0012】
このように、ハブ輪にセレーションを介して外側継手部材がトルク伝達可能に、かつ軸方向に着脱自在に結合された車輪用軸受装置において、外側継手部材の肩部と内方部材の端部との対向面間に鋼板製のキャップが介装され、このキャップが外側継手部材の肩部と内方部材の端部とで挟持される円板状の当接部と、肩部または内方部材の一方に嵌合される円筒状の嵌合部と、外側継手部材の外周面に所定の径方向すきまを介して対向する円筒部と、この円筒部から径方向外方に折曲される鍔部とを備え、この鍔部がナックルに対して僅かなすきまを介して対向し、ラビリンスシールが形成されると共に、当該キャップの少なくとも当接部の表面に低摩擦被膜層が形成されているので、等速自在継手を締結する軸力による変形と摩耗を防止すると共に、ドライブシャフトに大きなトルクが負荷され、外側継手部材に大きな捩じれが発生した場合でも、内方部材の端部と外側継手部材の肩部との間で発生する急激なスリップを緩和し、スティックスリップ音の発生を防止すると共に、外部から泥水等が軸受内に浸入するのを防止することができる。
【0013】
好ましくは、請求項2に記載の発明のように、前記キャップの素材が防錆能を有するステンレス鋼板からプレス加工によって形成され、前記当接部に前記低摩擦被膜層が形成されていれば、塗装範囲を限定することができ、低コスト化を図ることができる。
【0014】
また、請求項3に記載の発明のように、前記低摩擦被膜層が二硫化モリブデンからなっていても良いし、また、請求項4に記載の発明のように、前記低摩擦被膜層がフッ素樹脂からなっていても良い。
【0015】
また、請求項5に記載の発明のように、前記低摩擦被膜層の膜厚が2〜30μmの範囲に設定されていれば、低摩擦被膜層が早期に摩滅することなく、また、コーティング材の使用量を必要最小限に抑えることでコストアップを招くこともなく、軸力によりキャップに大きな面圧が加わっても、低摩擦被膜層自体が潰れることがないので、軸力の低下を防止できる。
【0016】
また、請求項6に記載の発明のように、前記キャップの板厚が0.5〜2.0mmであれば、キャップの強度を確保し、軸力によりキャップに加わる大きな面圧でもってそのキャップが変形したりするのを防止して軸力の低下を長期間に亘って防止し、耐スティックスリップ性を確保することができる。一方、キャップの板厚を2.0mm以下とすることで、軸受装置の軸方向スペースを大きくすることなく、コンパクトな設計を確保することができる。
【0017】
また、請求項7に記載の発明のように、前記当接部の内径部から軸方向に延び、前記内輪または小径段部の内径に内嵌される円筒状の嵌合部を備えていても良い。
【0018】
また、請求項8に記載の発明のように、前記ハブ輪の小径段部の端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部によって前記内輪が軸方向に固定され、前記加締部の端面が平坦面に形成されると共に、前記キャップの当接部が、当該加締部の端面と前記外側継手部材の肩部とで挟持されていても良い。
【0019】
また、請求項9に記載の発明のように、前記キャップが、前記加締部の端面と前記外側継手部材の肩部にそれぞれ当接する円板状の当接部と、この当接部の外径部から軸方向に延び、前記内輪の外径に外嵌される重合されて形成された円筒状の嵌合部と、この嵌合部から径方向外方に折曲される円板部と、この円板部の外径部から軸方向に延び、前記外側継手部材の外周面に所定の径方向すきまを介して対向する円筒部と、この円筒部から径方向外方に折曲される鍔部とを備えていても良い。この重合された嵌合部によってキャップの剛性・強度が高くなると共に、外部から泥水等が軸受や加締部内に浸入するのを防止することができる。
【0020】
また、請求項10に記載の発明のように、前記鍔部に合成ゴムからなるシールリップが加硫接着により一体に接合され、径方向外方に傾斜して延び、前記ナックルに所定の軸方向シメシロを介して摺接していれば、外部から泥水等が軸受内に浸入するのを確実に防止することができる。
【0021】
また、請求項11に記載の発明のように、前記キャップの素材が冷間圧延鋼板からプレス加工によって形成され、当該キャップの全表面に前記低摩擦被膜層が形成されていれば、廉価で、プレス加工性が良好となり、低摩擦樹脂被膜層によってキャップ自体が長期間に亘って発錆するのを防止することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る車輪用軸受装置は、ナックルに内嵌され、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる円筒状の小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に保持器を介して転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の両側開口部に装着されたシールとを備え、前記ハブ輪に等速自在継手が連結されると共に、この等速自在継手の外側継手部材が、カップ状のマウス部と、このマウス部の底部をなす肩部と、この肩部から軸方向に延び、前記ハブ輪にセレーションを介してトルク伝達可能に内嵌されるステム部とを一体に有し、前記肩部が前記内方部材と突き合わせ状態で、前記ハブ輪と外側継手部材が固定ナットを介して軸方向に着脱自在に結合された車輪用軸受装置において、前記外側継手部材の肩部と前記内方部材の端部との対向面間に鋼板製のキャップが介装され、このキャップが前記外側継手部材の肩部と前記内方部材の端部とで挟持される円板状の当接部と、前記肩部または内方部材の一方に嵌合される円筒状の嵌合部と、前記外側継手部材の外周面に所定の径方向すきまを介して対向する円筒部と、この円筒部から径方向外方に折曲される鍔部とを備え、この鍔部が前記ナックルに対して僅かなすきまを介して対向し、ラビリンスシールが形成されると共に、当該キャップの少なくとも前記当接部の表面に低摩擦被膜層が形成されているので、等速自在継手を締結する軸力による変形と摩耗を防止すると共に、ドライブシャフトに大きなトルクが負荷され、外側継手部材に大きな捩じれが発生した場合でも、内方部材の端部と外側継手部材の肩部との間で発生する急激なスリップを緩和し、スティックスリップ音の発生を防止すると共に、外部から泥水等が軸受内に浸入するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る車輪用軸受装置の第1の実施形態を示す縦断面図である。
【図2】図1のキャップ装着部を示す要部拡大図である。
【図3】図2のキャップの変形例を示す要部拡大図である。
【図4】図2のキャップの他の変形例を示す要部拡大図である。
【図5】図4のキャップの変形例を示す要部拡大図である。
【図6】図2のキャップの他の変形例を示す要部拡大図である。
【図7】図6のキャップの変形例を示す要部拡大図である。
【図8】本発明に係る車輪用軸受装置の第2の実施形態を示す縦断面図である。
【図9】図8のキャップ装着部を示す要部拡大図である。
【図10】図9のキャップの変形例を示す要部拡大図である。
【図11】従来の車輪用軸受装置を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
外周にナックルに取り付けられるための車体取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に前記複列の外側転走面の一方に対向する内側転走面と、この内側転走面から軸方向に延びる円筒状の小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入され、外周に前記複列の外側転走面の他方に対向する内側転走面が形成された内輪からなる内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に保持器を介して転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の両側開口部に装着されたシールとを備え、前記ハブ輪に等速自在継手が連結されると共に、この等速自在継手の外側継手部材が、カップ状のマウス部と、このマウス部の底部をなす肩部と、この肩部から軸方向に延び、前記ハブ輪にセレーションを介してトルク伝達可能に内嵌されるステム部とを一体に有し、前記肩部が前記内方部材と突き合わせ状態で、前記ハブ輪と外側継手部材が固定ナットを介して軸方向に着脱自在に結合された車輪用軸受装置において、前記外側継手部材の肩部と前記内輪の大端面との対向面間に板厚が0.5〜2.0mmのステンレス鋼板製のキャップが介装され、このキャップが前記外側継手部材の肩部と前記内輪の大端面とで挟持される円板状の当接部と、前記肩部に外嵌される円筒状の嵌合部と、この嵌合部から径方向外方に折曲される円板部と、この円板部の外径部から軸方向に延び、前記外側継手部材の外周面に所定の径方向すきまを介して対向する円筒部と、この円筒部から径方向外方に折曲される鍔部とを備え、この鍔部が前記ナックルに対して僅かな軸方向すきまを介して対向し、ラビリンスシールが形成されると共に、当該キャップの当接部の表面にフッ素樹脂からなる低摩擦被膜層が形成されている。
【実施例1】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る車輪用軸受装置の第1の実施形態を示す縦断面図、図2は、図1のキャップ装着部を示す要部拡大図、図3は、図2のキャップの変形例を示す要部拡大図、図4は、図2のキャップの他の変形例を示す要部拡大図、図5は、図4のキャップの変形例を示す要部拡大図、図6は、図2のキャップの他の変形例を示す要部拡大図、図7は、図6のキャップの変形例を示す要部拡大図である。なお、以下の説明では、車両に組み付けた状態で車両の外側寄りとなる側をアウター側(図1の左側)、中央寄り側をインナー側(図1の右側)という。
【0026】
この車輪用軸受装置は駆動輪用の第3世代と呼称され、内方部材1と外方部材10、および両部材1、10間に転動自在に収容された複列の転動体(ボール)8、8とを備え、等速自在継手13が着脱自在に結合されている。内方部材1は、ハブ輪2と、このハブ輪2に圧入された内輪3とからなる。
【0027】
ハブ輪2は、アウター側の端部に車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ4を一体に有し、外周に一方(アウター側)の内側転走面2aと、この内側転走面2aから軸方向に延びる円筒状の小径段部2bが形成され、内周にトルク伝達用のセレーション(またはスプライン)2cが形成されている。車輪取付フランジ4の円周等配位置には車輪を取り付けるハブボルト5が植設されている。
【0028】
ハブ輪2はS53C等の炭素0.40〜0.80重量%を含む中高炭素鋼で形成され、内側転走面2aをはじめ、後述するアウター側のシール11が摺接するシールランド部となる車輪取付フランジ4のインナー側の基部7から小径段部2bに亙って高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理が施されている。そして、外周に他方(インナー側)の内側転走面3aが形成された内輪3がハブ輪2の小径段部2bに所定のシメシロを介して圧入され、軸方向に固定されている。一方、内輪3および転動体8はSUJ2等の高炭素クロム鋼で形成され、ズブ焼入れにより芯部まで58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。
【0029】
外方部材10は、外周にナックル20に固定ボルト6を介して取り付けるための車体取付フランジ10bを一体に有し、内周に前記内方部材1の内側転走面2a、3aに対向する複列の外側転走面10a、10aが一体に形成されている。この外方部材10はS53C等の炭素0.40〜0.80重量%を含む中高炭素鋼で形成され、少なくとも複列の外側転走面10a、10aが高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理が施されている。そして、それぞれの転走面10a、2aと10a、3a間に複列の転動体8、8が保持器9、9を介して転動自在に収容されている。また、外方部材10と内方部材1との間に形成される環状空間の開口部にはシール11、12が装着され、軸受内部に封入された潤滑グリースの漏洩を防止すると共に、外部から軸受内部に雨水やダスト等が侵入するのを防止している。
【0030】
なお、本実施形態では、転動体8にボールを使用した複列アンギュラ玉軸受で構成された車輪用軸受装置を例示したが、これに限らず、例えば、転動体8に円すいころを用いた複列の円すいころ軸受で構成されていても良い。また、ここでは、ハブ輪2の外周に一方の内側転走面2aが直接形成された第3世代構造を例示したが、図示はしないが、ハブ輪の小径段部に一対の内輪が圧入された、所謂第1または第2世代構造であっても良い。
【0031】
等速自在継手13は、外側継手部材14と、図示はしないが継手内輪とケージおよびトルク伝達ボールを備えている。外側継手部材14はS53C等の炭素0.40〜0.80重量%を含む中高炭素鋼で形成され、カップ状のマウス部15と、このマウス部15の底部をなす肩部16と、この肩部16から軸方向に延びるステム部17を一体に有している。ステム部17は、外周にハブ輪2のセレーション2cに係合するセレーション(またはスプライン)17aと、このセレーション17aの端部に雄ねじ17bが形成されている。
【0032】
ハブ輪2と外側継手部材14との結合は、外側継手部材14のステム部17が、後述するキャップ18を介して肩部16が内輪3の大端面3bに衝合するまでハブ輪2に嵌挿され、この大端面3bと肩部16とが突き合わせ状態で、雄ねじ17bに固定ナット19が所定の締付トルクで締結され、ハブ輪2と外側継手部材14が軸方向に着脱自在に結合されている。
【0033】
ここで、外側継手部材14の肩部16にキャップ18が嵌合され、このキャップ18を介して内輪3の大端面3bと外側継手部材14の肩部16とが突き合わされている。このキャップ18は、防錆能を有するオーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系等)からプレス加工によって形成されている。なお、キャップ18の材質は、例示したものに限らず、フェライト系のステンレス鋼板(JIS規格のSUS430系等)でも良い。
【0034】
キャップ18は、図2に拡大して示すように、円板状の当接部18aと、この当接部18aの外径部から軸方向に延び、肩部16に外嵌される円筒状の嵌合部18bと、この嵌合部18bから径方向外方に折曲される円板部18cと、この円板部18cの外径部から軸方向に延び、外側継手部材14の外周面に所定の径方向すきまを介して対向する円筒部18dと、この円筒部18dから径方向外方に折曲される鍔部18eとを備えている。この円筒部18dと鍔部18eは、ナックル20に対して僅かなすきまを介して対向し、ラビリンスシールRS1、RS2が形成されている。
【0035】
キャップ18の板厚は0.5〜2.0mm、好ましくは、0.8〜1.0mmに設定されている。そして、当接部18aの両側面、または、当接部18aの摺動側である大端面3b側に低摩擦被膜層が形成されている。この低摩擦被膜層は、二硫化モリブデン(M)またはフッ素樹脂からなる。このように、内輪3の大端面3bと外側継手部材14の肩部16との対向面間に摺動特性の優れたキャップ18を介在させたことにより、当接面で発生する急激なスリップを緩和してスティックスリップ音の発生を防止すると共に、雨水や泥水等が外側継手部材14の外周面に沿って流動してきても、この円板部18cがダストシールドの機能をなし、外部から泥水等が軸受内に浸入するのを防止した車輪用軸受装置を提供することができる。また、キャップ18の素材として防錆能を有するステンレス鋼板を使用することにより、低摩擦被膜層の形成範囲を限定することができ、低コスト化を図ることができる。
【0036】
また、摺動特性の優れたキャップ18の板厚を0.5mm以上とすることで、キャップ18の強度を確保し、軸力によりキャップ18に加わる大きな面圧でもってそのキャップ18が変形したりするのを防止して軸力の低下を長期間に亘って防止し、耐スティックスリップ性を確保することができる。一方、キャップ18の板厚を2.0mm以下とすることで、軸受装置の軸方向スペースを大きくすることなく、コンパクトな設計を確保することができる。
【0037】
なお、低摩擦被膜層の膜厚は2〜30μmの範囲に設定されている。この膜厚を2μm以上とすれば、低摩擦被膜層が早期に摩滅することがない。また、低摩擦被膜層の膜厚を30μm以下とすれば、コーティング材の使用量を必要最小限に抑えることでコストアップを招くこともなく、軸力によりキャップ18に大きな面圧が加わっても、低摩擦被膜層自体が潰れることがないので、軸力の低下を防止できて固定ナット19の緩みを防止できる。
【0038】
なお、低摩擦被膜層としては、具体的に、塗膜に対してフッ素樹脂が40〜50重量%配合されている樹脂被膜層を例示できる。このフッ素樹脂は、低摩擦で非粘着性を被覆層に付与することができると共に、摺動部材の使用温度雰囲気に耐える耐熱性を備えるものであれば使用することができる。すなわち、ポリテトラフルオロエチレン(融点327℃、連続使用温度260℃、以下PTFEと呼ぶ)を挙げることができる。このPTFEは、−CFCF−の繰り返し単位より構成され、略340〜380℃の溶融粘度が略1010〜1011Pa・sと高く、融点を超えても流動し難く、フッ素樹脂の中では最も耐熱性に優れている。また、低温下でも優れた性質を示し、摩擦摩耗特性にも優れており、本発明に係る低摩擦樹脂被膜に好適である。なお、PTFEは粉末であり、特に限定するものではないが、塗膜の表面平滑性のために粒径30μm以下の粉末が好ましい。
【0039】
低摩擦樹脂塗料において、マトリックス材は、キャップ18の使用時に熱劣化することのない耐熱性と、フッ素樹脂粉末を粘着させ、低摩擦樹脂塗料をキャップ18に強固に密着させることのできる耐熱性樹脂であれば使用することができる。
【0040】
具体的には、ポリアミドイミド樹脂(PAI)を例示することができる。PAIは、分子内にイミド結合とアミド結合とを有する樹脂で、芳香族系ポリアミドイミド樹脂のイミド結合は、ポリアミド酸等の前駆体であっても、また、閉環したイミド環であっても良く、さらには、それらが混在している状態であっても良い。
【0041】
このような芳香族系PAIは、芳香族第一級ジアミン、例えば、ジフェニルメタンジアミンと芳香族三塩基酸無水物、例えば、トリメリット酸無水物のモノまたはジアルシルハライド誘導体から製造されるPAI、芳香族三塩基酸無水物と芳香族ジイソシアネート化合物、例えば、ジフェルメタンジイソシアネートとから製造されるPAI等があり、さらに、アミド結合に比べてイミド結合の比率を大きくしたPAIとして、芳香族、脂肪族または脂環族ジイソシアネート化合物と芳香族四塩基酸二無水物および芳香族三塩基酸無水物とから製造されるPAI等があり、いずれのPAIであっても使用することができる。
【0042】
次に、図3に、前述したキャップ18の変形例を示す。このキャップ21は、前述したキャップ18と基本的には形状は同様であるが、材質とシールリップ22の有無が異なる。すなわち、キャップ21は冷間圧延鋼板(JIS規格のSPCC系等)からプレス加工にて形成され、円板状の当接部18aと、この当接部18aの外径部から軸方向に延び、肩部16に外嵌される嵌合部18bと、この嵌合部18bから径方向外方に折曲される円板部18cと、この円板部18cの外径部から軸方向に延び、外側継手部材14の外周面に所定の径方向すきまを介して対向する円筒部18dと、この円筒部18dから径方向外方に折曲される鍔部18eとを備えている。
【0043】
この円筒部18dは、ナックル20に対して僅かな径方向すきまを介して対向し、ラビリンスシールRS1が形成されると共に、鍔部18eにシールリップ22が加硫接着により一体に接合されている。シールリップ22は、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)等の合成ゴムからなり、径方向外方に傾斜して延び、ナックル20に所定の軸方向シメシロを介して摺接している。なお、シールリップ22の材質としては、例示したNBR以外にも、例えば、耐熱性に優れたHNBR(水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)等をはじめ、耐熱性、耐薬品性に優れたACM(ポリアクリルゴム)、FKM(フッ素ゴム)、あるいはシリコンゴム等を例示することができる。
【0044】
ここで、本実施形態では、キャップ21の全表面に低摩擦被膜層が塗装によって形成されている。これにより、キャップ21の素材として、廉価であり、また、プレス加工性の良好な冷間圧延鋼板を使用しても、キャップ21自体が長期間に亘って発錆するのを防止すると共に、前述した実施形態と同様、スティックスリップ音の発生を防止することができる。
【0045】
図4に、前述したキャップ18の他の変形例を示す。このキャップ23は、前述したキャップ18と基本的には一部形状が異なる。すなわち、キャップ23は、防錆能を有するオーステナイト系ステンレス鋼板からプレス加工によって形成され、円板状の当接部18aと、この当接部18aの外径部から軸方向に延びる円筒部23bと、この円筒部23bから径方向外方に折曲される円板部18cと、この円板部18cの外径部から軸方向に延び、外側継手部材14の外周面に所定の径方向すきまを介して対向する円筒部18dと、この円筒部18dから径方向外方に折曲される鍔部18e、および当接部18aの内径部から軸方向に延び、内輪3の内径3cに圧入される円筒状の嵌合部23aを備えている。そして、キャップ23の当接部18aの両側面、または、当接部18aの摺動側である肩部16側の表面に低摩擦被膜層が形成されている。
【0046】
図5に、前述したキャップ23の変形例を示す。このキャップ24は、前述したキャップ23と基本的には形状は同様であるが、シールリップ22の有無が異なる。すなわち、キャップ24は、円板状の当接部18aと、この当接部18aの外径部から軸方向に延びる円筒部23bと、この円筒部23bから径方向外方に折曲される円板部18cと、この円板部18cの外径部から軸方向に延び、外側継手部材14の外周面に所定の径方向すきまを介して対向する円筒部18dと、この円筒部18dから径方向外方に折曲される鍔部18eと、および当接部18aの内径部から軸方向に延び、内輪3の内径3cに圧入される円筒状の嵌合部23aを備えている。そして、鍔部18eにシールリップ22が加硫接着により一体に接合されている。
【0047】
図6に、前述したキャップ18の他の変形例を示す。このキャップ25は、前述したキャップ18と基本的には一部形状が異なる。すなわち、キャップ25は、防錆能を有するオーステナイト系ステンレス鋼板からプレス加工によって形成され、円板状の当接部18aと、この当接部18aの外径部から軸方向に延びる円筒部23bと、この円筒部23bから径方向外方に折曲される円板部18cと、この円板部18cの外径部から軸方向に延び、外側継手部材14の外周面に所定の径方向すきまを介して対向する円筒部18dと、この円筒部18dから径方向外方に折曲される鍔部18e、および当接部18aの内径部から軸方向に延び、ハブ輪2の小径段部2bの内径に圧入される円筒状の嵌合部25aを備えている。そして、キャップ25の当接部18aの両側面、または、当接部18aの摺動側である肩部16側の表面に低摩擦被膜層が形成されている。
【0048】
図7に、前述したキャップ25の変形例を示す。このキャップ26は、前述したキャップ25と基本的には形状は同様であるが、シールリップ22の有無が異なる。すなわち、キャップ26は、円板状の当接部18aと、この当接部18aの外径部から軸方向に延びる円筒部23bと、この円筒部23bから径方向外方に折曲される円板部18cと、この円板部18cの外径部から軸方向に延び、外側継手部材14の外周面に所定の径方向すきまを介して対向する円筒部18dと、この円筒部18dから径方向外方に折曲される鍔部18e、および当接部18aの内径部から軸方向に延び、ハブ輪2の小径段部2bの内径に圧入される円筒状の嵌合部25aを備え、鍔部18eにシールリップ22が加硫接着により一体に接合されている。
【実施例2】
【0049】
図8は、本発明に係る車輪用軸受装置の第2の実施形態を示す縦断面図、図9は、図8のキャップ装着部を示す要部拡大図、図10は、図9のキャップの変形例を示す要部拡大図である。なお、この実施形態は、前述した第1の実施形態(図1)と基本的にはハブ輪の構成の一部とキャップの構成が異なるだけで、その他同一部品同一部位あるいは同様の部品や部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0050】
この車輪用軸受装置は駆動輪用の第3世代と呼称され、内方部材27と外方部材10、および両部材27、10間に転動自在に収容された複列の転動体8、8とを備え、等速自在継手13が着脱自在に結合されている。内方部材27は、ハブ輪28と、このハブ輪28に圧入された内輪29とからなる。
【0051】
ハブ輪28は、アウター側の端部に車輪取付フランジ4を一体に有し、外周に一方の内側転走面2aと、この内側転走面2aから軸方向に延びる円筒状の小径段部2bが形成され、内周にトルク伝達用のセレーション2cが形成されている。
【0052】
ハブ輪28はS53C等の炭素0.40〜0.80重量%を含む中高炭素鋼で形成され、内側転走面2aをはじめ、車輪取付フランジ4のインナー側の基部7から小径段部2bに亙って高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理が施されている。そして、外周に他方の内側転走面3aが形成された内輪29がハブ輪28の小径段部2bに所定のシメシロを介して圧入され、小径段部2bの端部を径方向外方に塑性変形(揺動加締)させて形成した加締部30によって、所定の軸受予圧が付与された状態で、ハブ輪28に対して内輪29が軸方向に固定されている。なお、軸力によって加締部30に加えられる面圧を小さくすることができ、加締部30の塑性変形と摩耗を防止することができるように、この加締部30の端面は揺動加締によって平坦面に形成されている。一方、内輪29はSUJ2等の高炭素クロム鋼で形成され、ズブ焼入れにより芯部まで58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。
【0053】
ここで、内輪29にキャップ31が外嵌されている。このキャップ31は、防錆能を有するオーステナイト系ステンレス鋼板からプレス加工によって形成され、図9に拡大して示すように、加締部30の端面と外側継手部材14の肩部16にそれぞれ当接する円板状の当接部18aと、この当接部18aの外径部から軸方向に延び、内輪29の小外径29aに外嵌される重合されて形成された円筒状の嵌合部31aと、この嵌合部31aから径方向外方に折曲される円板部18cと、この円板部18cの外径部から軸方向に延び、外側継手部材14の外周面に所定の径方向すきまを介して対向する円筒部31bと、この円筒部31bから径方向外方に折曲される鍔部18eを備えている。そして、キャップ31の当接部18aの両側面、または、当接部18aの摺動側である肩部16側の表面に低摩擦被膜層が形成されている。
【0054】
本実施形態では、重合された嵌合部31aによってキャップ31の剛性・強度が高くなると共に、円板部18cと鍔部18eがダストシールドの機能をなし、外部から泥水等が軸受や加締部30内に浸入するのを防止することができる。
【0055】
図10に、前述したキャップ31の変形例を示す。このキャップ32は、前述したキャップ31と基本的には形状は同様であるが、シールリップ22の有無が異なる。すなわち、キャップ32は、円板状の当接部18aと、この当接部18aの外径部から軸方向に延び、内輪29の小外径29aに外嵌される円筒状の嵌合部31aと、この嵌合部31aから径方向外方に折曲される円板部18cと、この円板部18cの外径部から軸方向に延び、外側継手部材14の外周面に所定の径方向すきまを介して対向する円筒部31bと、この円筒部31bから径方向外方に折曲される鍔部18eとを備え、この鍔部18eにシールリップ22が加硫接着により一体に接合されている。本実施形態では、鍔部18eに接合されたシールリップ22によって、外部から泥水等が軸受内に浸入するのを確実に防止することができる。
【0056】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係る車輪用軸受装置は、ハブ輪と内輪からなる内方部材と等速自在継手とを備え、内方部材と等速自在継手の外側継手部材とが突き合わせ状態で分離可能に締結された第1乃至第3世代構造の車輪用軸受装置に適用できる。
【符号の説明】
【0058】
1、27 内方部材
2、28 ハブ輪
2a、3a 内側転走面
2b 小径段部
2c、17a セレーション
3、29 内輪
3b 内輪の大端面
3c 内輪の内径
4 車輪取付フランジ
5 ハブボルト
6 固定ボルト
7 車輪取付フランジのインナー側の基部
8 転動体
9 保持器
10 外方部材
10a 外側転走面
10b 車体取付フランジ
11 アウター側のシール
12 インナー側のシール
13 等速自在継手
14 外側継手部材
15 マウス部
16 肩部
17 ステム部
17b 雄ねじ
18、21、23、24、25、26、31、32 キャップ
18a 当接部
18b、23a、25a、31a 嵌合部
18c 円板部
18d、23b、31b 円筒部
18e 鍔部
19 固定ナット
20 ナックル
22 シールリップ
29a 内輪の小外径
30 加締部
50 車輪用軸受装置
51 外方部材
51a 外側転走面
51b 車体取付フランジ
52 ハブ輪
52a、53a 内側転走面
52b 小径段部
53 内輪
54 車輪取付フランジ
55 内方部材
56 保持器
57 ボール
58、59 シール
60 加締部
61 等速自在継手
62 外側継手部材
63 肩部
64 ステム部
64a セレーション
65 固定ナット
66 キャップ
66a 当接部
66b 嵌合部
66c 鍔部
RS1、RS2 ラビリンスシール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナックルに内嵌され、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、
一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる円筒状の小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、
この内方部材と前記外方部材の両転走面間に保持器を介して転動自在に収容された複列の転動体と、
前記外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の両側開口部に装着されたシールとを備え、
前記ハブ輪に等速自在継手が連結されると共に、
この等速自在継手の外側継手部材が、カップ状のマウス部と、このマウス部の底部をなす肩部と、この肩部から軸方向に延び、前記ハブ輪にセレーションを介してトルク伝達可能に内嵌されるステム部とを一体に有し、
前記肩部が前記内方部材と突き合わせ状態で、前記ハブ輪と外側継手部材が固定ナットを介して軸方向に着脱自在に結合された車輪用軸受装置において、
前記外側継手部材の肩部と前記内方部材の端部との対向面間に鋼板製のキャップが介装され、このキャップが前記外側継手部材の肩部と前記内方部材の端部とで挟持される円板状の当接部と、前記肩部または内方部材の一方に嵌合される円筒状の嵌合部と、この嵌合部から径方向外方に折曲される円板部と、この円板部の外径部から軸方向に延び、前記外側継手部材の外周面に所定の径方向すきまを介して対向する円筒部と、この円筒部から径方向外方に折曲される鍔部とを備え、この鍔部が前記ナックルに対して僅かなすきまを介して対向し、ラビリンスシールが形成されると共に、当該キャップの少なくとも前記当接部の表面に低摩擦被膜層が形成されていることを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記キャップの素材が防錆能を有するステンレス鋼板からプレス加工によって形成され、前記当接部に前記低摩擦被膜層が形成されている請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記低摩擦被膜層が二硫化モリブデンからなっている請求項1または2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記低摩擦被膜層がフッ素樹脂からなっている請求項1または2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項5】
前記低摩擦被膜層の膜厚が2〜30μmの範囲に設定されている請求項1乃至4いずれかに記載の車輪用軸受装置。
【請求項6】
前記キャップの板厚が0.5〜2.0mmである請求項1乃至5いずれかに記載の車輪用軸受装置。
【請求項7】
前記当接部の内径部から軸方向に延び、前記内輪または小径段部の内径に内嵌される円筒状の嵌合部を備えている請求項1乃至6いずれかに記載の車輪用軸受装置。
【請求項8】
前記ハブ輪の小径段部の端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部によって前記内輪が軸方向に固定され、前記加締部の端面が平坦面に形成されると共に、前記キャップの当接部が、当該加締部の端面と前記外側継手部材の肩部とで挟持されている請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項9】
前記キャップが、前記加締部の端面と前記外側継手部材の肩部にそれぞれ当接する円板状の当接部と、この当接部の外径部から軸方向に延び、前記内輪の外径に外嵌される重合されて形成された円筒状の嵌合部と、この嵌合部から径方向外方に折曲される円板部と、この円板部の外径部から軸方向に延び、前記外側継手部材の外周面に所定の径方向すきまを介して対向する円筒部と、この円筒部から径方向外方に折曲される鍔部とを備えている請求項8に記載の車輪用軸受装置。
【請求項10】
前記鍔部に合成ゴムからなるシールリップが加硫接着により一体に接合され、径方向外方に傾斜して延び、前記ナックルに所定の軸方向シメシロを介して摺接している請求項1、6および請求項9いずれかに記載の車輪用軸受装置。
【請求項11】
前記キャップの素材が冷間圧延鋼板からプレス加工によって形成され、当該キャップの全表面に前記低摩擦被膜層が形成されている請求項1に記載の車輪用軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−224208(P2012−224208A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93564(P2011−93564)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】