説明

軌陸車の制動装置

【課題】比較的簡単な構成により前鉄輪と後鉄輪とで異なる制動力を発揮させることのできる軌陸車の制動装置を提供する。
【解決手段】前鉄輪制動用及び後鉄輪用の油圧回路48f,rをそれぞれ設け,両回路に設けたマスタシリンダ12f,rを,それぞれピストンロッド13f,rの突出端を同一方向としてブラケット14に固定する。ピストンロッド13fを揺動板31の第1連結点33に回動可能に連結し,ピストンロッド13rを揺動板の第2連結点34に回動可能に連結する。第1,第2連結点間における前記揺動板上の中間連結点35に,揺動板をマスタシリンダに対して近接離間方向に移動させる連結杆32の一端32aを回動可能に連結する。第1連結点と中間連結点間の距離Lfと,第2連結点と中間連結点間の距離Lrの比が,予め設定された前後の鉄輪50f,rの制動力の差を発生する比となる位置に前記中間連結点を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は軌陸車の制動装置に関し,より詳細には,公道等の路面を走行するための路面走行手段と,鉄道の軌道を走行するための軌道走行用の鉄輪とを備えた軌陸車において,軌道走行用の鉄輪を制動する制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トラックやバックホー等の車輌をベースとし,これらの車輌にタイヤや無限軌道等の路面走行手段の他に,軌道走行用の鉄輪を設けた軌陸車が鉄道の保線作業等に際して使用されている。
【0003】
このような軌陸車では,公道等の路面走行時にあっては鉄輪を上昇位置に収容してタイヤや無限軌道等によって走行し,軌道走行時には,上昇位置で格納されていた鉄輪を下降させて軌道上に鉄輪を載置接触させて軌道走行を行うことができるように構成されている。
【0004】
そして,鉄輪の下降時において,鉄輪と共にタイヤをレールに当接させ,このタイヤを駆動することにより鉄輪を単なる従動輪として軌道走行を可能とした軌陸車の他,鉄輪の下降によって,タイヤ等の路面走行手段を軌道の上方に離間させ,この状態で鉄輪を直接駆動することにより軌道走行を行うことができるように構成した軌陸車も提案されている。
【0005】
以上のようにタイヤが軌道より離間した状態で鉄輪を直接駆動することにより軌道走行を行う軌陸車では,軌道走行時の制動はベース車輌に設けた制動装置によって行うことができず,鉄輪の制動を行うための制動装置を別途設ける必要がある。
【0006】
このように,軌道走行用に設けられた鉄輪の制動を行うための制動装置の一例を図7に示す。
【0007】
図7に示すように,軌陸車に設けられた各鉄輪450f,450rには,鉄輪450f,450rと共に回転するブレーキディスク451f,451rが設けられており,このブレーキディスク451f,451rを,ブレーキキャリパ411f,411rに設けたブレーキパッドによって挟持することで,鉄輪450f,450rに対して制動トルクを発生させている。
【0008】
そして,ブレーキキャリパ411f,411rに対してブレーキフルードを導入するために,マスタシリンダ412等の油圧発生源をブレーキホースを介してブレーキキャリパ411f,411rに連通することにより油圧回路448を形成し,例えば運転席に設けられたブレーキペダルの操作に対応して油圧発生源(マスタシリンダ412)を作動させて,ブレーキキャリパに導入される作動圧を制御することで制動を行うことができるように構成されている。
【0009】
図8に,ブレーキペダルの操作に対応してブレーキ解除シリンダ460を作動させ,マスタシリンダ412のピストンロッド413を進退移動させる作動機構を備えた制動装置の構成例を示す。
【0010】
この制動装置は,運転席に設けられたブレーキペダルの操作が行われていない状態では,ブレーキ解除シリンダ460が収縮していて,ブレーキが解除されて走行を可能と成し,乗務員がブレーキペダルを踏み込むことでブレーキ解除シリンダ460が伸長し鉄輪450にブレーキがかかる。
【0011】
マスタシリンダ412とブレーキキャリパ411はブレーキホース448’によって連通されており,マスタシリンダ412に設けたピストンロッド413の進退移動により,ブレーキキャリパ411に対しブレーキフルードの給,排出を行うことができるように構成されている。
【0012】
そして,図8に示す制動装置は,エンジン停止時等において,例えば勾配の付いた軌道で乗務員不在のまま軌陸車が走り出してしまうことを防止できるよう,ピン462によって揺動可能に軸支されたリンク461を設け,このリンク461の上端側をマスタシリンダ412のピストンロッド413に連結すると共に,リンク461の下端を圧縮バネ466によってピストンロッド413をマスタシリンダ412に押し込む方向,従ってブレーキフルードをブレーキキャリパ411に供給する方向に常時付勢し,更に,前記リンク461の上端を,油圧式のブレーキ解除シリンダ460に連結し,エンジン停止時には,ブレーキ解除シリンダ460が伸長すると共に,圧縮バネ466の付勢力によってリンク461を図中時計回り方向に回動させ,マスタシリンダ412のピストンロッド413を押し込み,鉄輪450に対する制動力を発生させている(特許文献1の図6及び「0005」〜「0007」欄参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008−195358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
軌陸車において,タイヤ等の路面走行手段と路面との接触により走行を行う路面走行に比較して,軌道と鉄輪との接触により走行を行う軌道走行では,軌道と鉄輪との摩擦抵抗が小さなものとなる。
【0015】
また,軌陸車において前後の鉄輪にかかる荷重は一定ではなく,例えば前方にエンジン等が配置されたトラックをベース車輌とした軌陸車にあっては,前方側に設けられている前鉄輪に対する荷重が大きく,後鉄輪にかかる荷重は,これに比較して小さなものとなる。
【0016】
そのため,前鉄輪と,後鉄輪とを同じ制動力で制動する場合には,軌道と鉄輪との摩擦抵抗が小さいこととも相俟って低荷重側の鉄輪がロックしてしまい,制動力を確実に軌道に対して伝えることができなくなることから,前鉄輪にかかる荷重と,後鉄輪にかかる荷重との配分等に応じて,前鉄輪と後鉄輪に加える制動力を最適化させて,制動性能を向上させることが望まれる。
【0017】
このように,前鉄輪450fと後鉄輪450rとで異なる制動力の発生を,図7に示すように単一のマスタシリンダ412を備えた単一の油圧回路448によって行おうとすれば,前鉄輪450fに設けるブレーキキャリパ411fの能力と,後鉄輪450rに設けるブレーキキャリパ411rの能力とに違いを持たせ,この能力差に基づいて制動力を変化させるという構成を採用することになる。
【0018】
しかし,前鉄輪側と後鉄輪側とで異なる性能のブレーキキャリパを使用する場合,前鉄輪側と後鉄輪側とでブレーキキャリパの取付構造等にそれぞれで異なる設計を採用したり,前鉄輪側と後鉄輪側とでブレーキキャリパの組み付けや調整作業に違いが生じて画一的に作業を行うことができない等,設計,組み立て,調整等における作業性が悪くなる。
【0019】
また,図7に示したように単一の油圧発生源を備えた単一の油圧回路448を使用して前後鉄輪共に制動する場合には,油圧回路448の一部にでも不具合が生じれば前鉄輪450f,後鉄輪450rのいずれ共に制動不能となるおそれがあることから,油圧回路の構成としては,前後いずれか一方の鉄輪が制動不能となった場合であっても,他方の鉄輪を制動することができるように,前鉄輪側と後鉄輪側とでそれぞれ独立した油圧回路とすることが好ましい。
【0020】
このように,前鉄輪側と後鉄輪側とでそれぞれ独立した油圧回路を採用した場合,油圧発生源であるマスタシリンダもそれぞれの回路毎に設けられるものとなる。
【0021】
しかし,乗務員によるブレーキの操作は,例えば運転席に設けられている単一のブレーキペダルの操作によって行えるようにする必要があり,前鉄輪の制動用と後鉄輪の制動用にそれぞれ別個のマスタシリンダが設けられていたとしても,単一のブレーキペダルの動作量に応じて2つのマスタシリンダを同様の動作量で動作させるのであれば,前鉄輪用の油圧回路で採用するブレーキキャリパやマスタシリンダと,後鉄輪用の油圧回路で採用するブレーキキャリパやマスタシリンダとの間に性能の違いを持たせる等,前・後鉄輪用の油圧回路間で異なる設計を採用しなければ前鉄輪と後鉄輪の制動力に差を持たせることができず,やはり設計や組み付け,調整作業等の作業性が悪い。
【0022】
そのため,前鉄輪の制動用と,後鉄輪の制動用とでそれぞれ独立した油圧回路とし,且つ,前鉄輪の制動に使用する油圧回路と後鉄輪の制動に使用する油圧回路とで使用する部品も含めて同様の設計を採用した場合であっても,前・後鉄輪の制動力に違いを持たせることができれば,制動性の向上と,設計,組立,調整等の各作業における利便性とを同時に得ることができる。
【0023】
また,前述した制動装置では,油圧回路のブレーキフルードに気泡が混入すると,液体であるブレーキフルードに比較して圧縮され易い気泡が押し潰されることによりマスタシリンダの力がブレーキキャリパまで伝わらず,ブレーキが利かなくなる。
【0024】
そのため,油圧回路内にブレーキフルードを導入する際,又は油圧回路内のブレーキフルードを交換する際には油圧回路内のブレーキフルードに空気が残らないようにすると共に,ブレーキフルード内に気泡が生じた場合にはこれを除去する,所謂「エア抜き」の作業が必要となる。
【0025】
このエア抜きの作業は,先ず,マスタシリンダに設けられたリザーバタンクの上蓋を開放すると共に,ブレーキキャリパ411に設けられたブリードバルブを開けてこのブリードバルブを介して油圧回路内のブレーキフルードを排出可能とし,次いで,この状態でマスタシリンダのリザーバタンクにブレーキフルードを注ぎ足しながら,マスタシリンダのピストンロッドの進退移動を繰り返してブレーキキャリパ側にブレーキフルードを送り出し,ブリードバルブよりブレーキフルードを排出することにより行われ,ブリードバルブより排出されるブレーキフルード中に気泡の混入が確認できなくなった時点でブリードバルブを閉じると共にマスタシリンダの上蓋を閉じると,油圧回路内のブレーキフルードを気泡の混入のない,エア抜きされた状態とすることができる。
【0026】
このように,油圧回路内のエア抜きに際しては,マスタシリンダのピストンロッドを,繰り返し進退移動させる必要がある。
【0027】
一方,ピストンロッドの進退移動によるブレーキフルードの送り出しによりリザーバタンク内が空になると,マスタシリンダは,リザーバタンク内の空気を油圧回路内に送り出してしまい,エア抜きの作業を初めから行い直すこととなるために,リザーバタンク内のブレーキフルードが不足しないよう適宜ブレーキフルードを注ぎ足さなければならず,リザーバタンクに対するブレーキフルードの注ぎ足しと,ピストンロッドを進退移動させる動作は連携して行われる必要がある。
【0028】
しかし,図8を参照して説明した制動装置の構成において,マスタシリンダ412のピストンロッド413を繰り返し進退移動させようとすれば,運転席に設けられているブレーキペダルを踏み込んだり離したりする,運転席での作業が必要である。
【0029】
一方,マスタシリンダ412は,通常,運転席から離れた位置(例えば車体の裏面側等)に設けられているために,一人の作業者がブレーキペダルの操作とリザーバタンク412aに対するブレーキフルードの注ぎ足しを同時に行うことはできないために,例えば運転席にいる作業者と,マスタシリンダ412近くにいる作業者とが声を掛け合う等して連携して作業する等,複数の作業者を必要とする。
【0030】
このようなエア抜きの作業を単独で行おうとすれば,例えばマスタシリンダ412のピストンロッド413をリンク461より外し,ブレーキペダルや解除シリンダ460を介さずにピストンロッド413を直接操作できるようにして行うことも考えられる。
【0031】
しかし,ピストンロッド413の周囲には,前述したリンク461やその他の部品が存在するために,これを直接手で把持して作業することは困難である。
【0032】
この問題を解消するために,更にリンク461より外したピストンロッド413に,例えば治具等を連結して作業を行うことも考えられるが,エア抜き作業を行う度に,リンク461に対するピストンロッド413の着脱や,治具の着脱を行うことは煩雑であり,作業性が悪い。
【0033】
特に,前鉄輪の制動と,後鉄輪の制動とを,それぞれ別個に設けた油圧回路によって行おうとした場合,エア抜きの作業も各回路毎に行う必要があることから,前述したリンクとピストンロッドとの着脱作業や,ピストンロッドに対する治具の着脱作業を,各油圧回路に設けられたマスタシリンダ毎に行う必要があり,煩雑さや作業性の悪さは更に顕著なものとなる。
【0034】
そこで,本発明は,上記従来技術における欠点を解消するためになされたものであり,前鉄輪の制動と,後鉄輪の制動とを,それぞれ独立した油圧回路によって行うものでありながら,両油圧回路の構成を同一の構成とした場合であっても,前鉄輪と後鉄輪とで異なる制動力を発揮させることのできる軌陸車の制動装置を提供することを目的とする。
【0035】
また,本発明は,上記目的に加え,ブレーキフルード中のエア抜きを単独の作業者でも比較的容易に行うことのできる軌陸車の制動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0036】
以下に,課題を解決するための手段を,発明を実施するための形態で使用する符号と共に記載する。この符号は,特許請求の範囲の記載と発明を実施するための形態の記載との対応を明らかにするためのものであり,言うまでもなく,本願発明の特許請求の範囲の技術的範囲の解釈に制限的に用いられるものではない。
【0037】
上記目的を達成するために,本発明の軌陸車の制動装置10は,タイヤ等の路面走行手段60と共に軌道走行用の鉄輪50f,50rを備えることにより前記路面走行手段60による路面走行と前記鉄輪50f,50rによる軌道走行を可能とした軌陸車1の前記鉄輪を制動する制動装置10において,
前記鉄輪のうちの前鉄輪50fを制動するブレーキキャリパ11fと該ブレーキキャリパ11fに対してブレーキフルードを供給する前鉄輪用のマスタシリンダ12f間を配管接続して形成した前鉄輪制動用の油圧回路48fと,後鉄輪50rを制動するブレーキキャリパ11rと該ブレーキキャリパ11rに対してブレーキフルードを供給する後鉄輪用のマスタシリンダ12r間を配管接続して形成した後鉄輪用の油圧回路48rをそれぞれ別個に設け,
前記2つのマスタシリンダ12f,12rを,それぞれのピストンロッド13f,13rの突出端が同一方向を向くようブラケット14に固定し,
前記前鉄輪用マスタシリンダ12fのピストンロッド13fの前記突出端を揺動板31の一端31a側に設けた第1連結点33に回動可能に連結し,
前記後鉄輪用マスタシリンダ12rのピストンロッド13rの前記突出端を前記揺動板31の他端31b側に設けた第2連結点34に回動可能に連結すると共に,
前記第1連結点33と前記第2連結点34間における前記揺動板31上に設けた中間連結点35に,前記2つのマスタシリンダ12f,12rのピストンロッド13f,13rと平行に進退移動して前記揺動板31を移動させる連結杆32の一端32aを回動可能に連結し,
前記第1連結点33と前記中間連結点35間の距離Lfと,前記第2連結点34と前記中間連結点35間の距離Lrの比が,予め設定された前鉄輪50fと後鉄輪50rの制動力の差を発生する比となる位置に前記中間連結点35を設けたことを特徴とする(請求項1)。
【0038】
前記構成の制動装置10において,前記連結杆32の長手方向の中心線に対し前記第1連結点33と前記第2連結点34とを結ぶ線Xが成す角θが所定の角度の範囲となるよう前記揺動板31の揺動範囲を規制する規制手段36を設けることができる(請求項2)。
【0039】
また,一端15a側を把持部とするハンドルバー15を,例えば該ハンドルバー15の他端15b等において前記ブラケット14に軸支して,前記揺動板31に対して面平行に揺動可能とし,
前記ブラケット14に対する軸支位置に対して所定距離離れた前記ハンドルバー15上の位置,例えばハンドルバー15の長手方向における中間位置と,前記第1連結点33と前記第2連結点34間における前記揺動板31上の位置を相互に回動可能に軸支した構成としても良い(請求項3)。
【0040】
なお,前記連結杆32を前記2つのマスタシリンダ12f,12r側に付勢する付勢手段234を設けた制動装置として構成することもできる(請求項4)。
【発明の効果】
【0041】
以上説明した本発明の構成により,本発明の軌陸車の制動装置10によれば,前鉄輪制動用と後鉄輪制動用とで別個の油圧回路48f,48rを構成したことにより,一方の油圧回路に不具合が生じた場合であっても,他方の油圧回路によって前鉄輪50f又は後鉄輪50rの少なくとも一方に対する制動を行うことができた。その結果,信頼性の高い制動装置を提供することができた。
【0042】
しかも,このようにして油圧回路48r,48fを前鉄輪制動用と,後鉄輪制動用の二系統で独立させたものとしながら,揺動板31の第1連結点33と中間連結点35間の距離Lfと,第2連結点34と中間連結点35間の距離Lrを,前鉄輪50fと後鉄輪50rとに発生させる制動力の違いに対応して所定の比率となるよう前記中間連結点35の位置を設定するという比較的簡単な構成によって,前鉄輪制動用の油圧回路と,後鉄輪制動用の油圧回路とを,使用する機器(ブレーキキャリパやマスタシリンダ等)を含めて全く同一の設計とした場合であっても,前鉄輪50fに対する制動力と,後鉄輪50rに対する制動力とに違いを持たせることができ,制動性能を向上させることができた。
【0043】
このように,前鉄輪制動用の油圧回路48fと,後鉄輪制動用の油圧回路48rの構成を共通とすることができたことから,これらの油圧回路の設計が容易であると共に,組み立てや組み立て後の調整作業等についても前鉄輪側と後鉄輪側とで共通の作業を行うことにより完了させることができ,制動性能の向上と作業性の向上を同時に得ることができた。
【0044】
揺動板31に前述した規制手段36を設けた構成にあっては,前鉄輪50f又は後鉄輪50r側の油圧回路48f,48rのいずれかに不具合が生じた場合であっても,他方の油圧回路を使用して他方の鉄輪の制動を確実に行うことができた。
【0045】
更に,前述したハンドルバー15を設けた構成にあっては,連結杆32の一端又は他端を外して揺動板31と作動機構20の動作発生部230間の連結を解除すると共に,ハンドルバー15の把持部を握ってこれを揺動させることにより,ブリードバルブが開放されたブレーキキャリパが設けられている油圧回路,すなわちブレーキフルードの交換やエア抜きを行う側の油圧回路に設けられたマスタシリンダのピストンロッドを容易に進退移動させることができた。
【0046】
なお,前記連結杆32を前記2つのマスタシリンダ12f,12r側に付勢する付勢手段234を設けた構成にあっては,勾配を有する軌道等において,軌陸車が乗務員不在のまま走行を始めてしまうといった事故の発生を防止できた。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の制動装置の全体構造を示す説明図。
【図2】マスタシリンダ及び動作発生部部分の正面図。
【図3】マスタシリンダ及び動作発生部部分の側面図。
【図4】マスタシリンダ及び動作発生部部分の平面図。
【図5】エア抜き時におけるハンドルバーと揺動板の動作説明図(後鉄輪側油圧回路のエア抜き時)。
【図6】エア抜き時におけるハンドルバーと揺動板の動作説明図(前鉄輪側油圧回路のエア抜き時)。
【図7】単一の油圧回路による制動装置の構成図(従来)。
【図8】マスタシリンダを油圧発生源とした制動装置の説明図(従来;特許文献1の図6に対応)。
【発明を実施するための形態】
【0048】
次に,添付図面を参照しながら本発明の軌陸車の制動装置10について説明する。
【0049】
図1に本実施形態の制御装置10の全体構成を示す。
【0050】
この制動装置10を備える軌陸車には,タイヤ等の路面走行手段60(図1において前輪は省略)と,軌道走行用の鉄輪(前鉄輪50f及び後鉄輪50r)を備えている点では前述した既知の軌陸車の構成と同様である。
【0051】
そして,この軌道走行用の鉄輪50f,50rには,それぞれ鉄輪50f,50rと共に回転するブレーキディスク51f,51rが設けられていると共に,このブレーキディスク51f,51rを挟持するブレーキパッドを備えたブレーキキャリパ11f,11rが,各鉄輪毎に設けられている点は,図7を参照して説明した従来の制動装置と同様である。
【0052】
しかし,本発明の制動装置10にあっては,前鉄輪50fの制動用に設けたブレーキキャリパ11fにブレーキフルードを供給する前鉄輪用の油圧回路48fと,後鉄輪50rの制動用に設けたブレーキキャリパ11rにブレーキフルードを供給する後鉄輪用の油圧回路48rとをそれぞれ独立した油圧回路として形成し,前鉄輪制動用のブレーキキャリパ11fの作動圧を発生する油圧発生源として前鉄輪用のマスタシリンダ12fを設けると共に,後鉄輪50rのブレーキキャリパ11rの作動圧を発生する油圧源として後鉄輪用のマスタシリンダ12rをそれぞれ別個に設け,各マスタシリンダ12f,12rからの油圧によって,それぞれ前鉄輪50fと後鉄輪50rとに制動トルクを発生させることができるように構成している。
【0053】
そして,例えば軌陸車1の運転席に設けられたブレーキペダルの操作に対応して,前記マスタシリンダ12f,12rのピストンロッド13f,13rを進退移動させるために,後述する揺動板31を介してピストンロッド13f,13rに連結された連結杆32を進退移動させる作動機構20を備えている。
【0054】
前述の作動機構は,運転席に設けられたブレーキペダルの操作に対応して,後述する連結杆32を進退移動させ得るものであれば如何なる構成であっても良く,例えば図8を参照して説明した従来の制動装置のように,ブレーキペダルの動作を,ブレーキ解除用の油圧シリンダ,及び圧縮バネによって付勢されたリンクを介して連結杆32に伝達するものとして構成しても良く,各種の構成を採用可能であるが,本実施形態の制動装置10にあっては,図1中,符号20として示す作動装置を設けている。
【0055】
この作動装置20は,乗務員によって制動装置10に行わせる動作を入力する「動作入力部210」と,前記動作入力部210に入力された動作に従って,マスタシリンダ12f,12rのピストンロッド13f,13rを進退移動させるためにピストンロッド13f,13rに伝達される動作を発生する「動作発生部230」,及び,前記動作発生部230を動作させるための「パワーユニット220」を備えている。
【0056】
このうち,前述の動作発生部230は,動作発生部230を構成する各部材を載置するベース231と,このベース231上に取り付けられた油圧シリンダ232を備えると共に,この油圧シリンダ232によって揺動動作されるクランクアーム233を備えている。
【0057】
このクランクアーム233は,その水平方向の一端側が前記ベース231に軸支されて図中垂直方向に揺動可能に構成されていると共に,この一端側を上方に向かって突出させた,全体として略横向きL字状に形成されている。
【0058】
このクランクアーム233の他端側には,他端側の端部に対し僅かに中央寄りの位置において前述の油圧シリンダ232のロッドが連結され,この油圧シリンダ232に対する作動油の導入,排出によって,前記クランクアーム233を揺動させることができるように構成されており,このクランクアーム233の一端側における上端に,マスタシリンダ12f,12rのピストンロッド13f,13rに後述する揺動板31を介して連結される連結杆32の他端32bが揺動可能に連結される。
【0059】
そして,このクランクアーム233の他端には,下端を前記ベース231に固定された伸張バネ234の上端が取り付けられており,このクランクアーム233を,図1中,反時計回り方向に揺動させる付勢力を発生し,これにより揺動板31を介してピストンロッド13f,13rがマスタシリンダ12f,12r内に押し込まれる方向,従って,鉄輪を常時制動する方向に前述の連結杆32を付勢した制動装置としている。
【0060】
この動作発生部230に設けられた油圧シリンダ232に対しては,パワーユニット220によって作動油の給・排出が行われる。
【0061】
このパワーユニット220には,オイルタンク221が設けられ,このオイルタンク221内の作動油を汲み上げるモータ付きのポンプ222を備えた給油回路223の一端がオイルタンク221内において開口している。
【0062】
給油回路223は,ポンプ222の二次側に逆止弁224を備えており,この逆止弁224の二次側において電磁弁225を備えた回収回路226と合流して,動作発生部230に設けた油圧シリンダ232の作動圧室と連通する給・排油回路227に連通している。
【0063】
従って,電磁弁225によって回収回路226を閉じた状態で,ポンプ222をモータによって駆動すると,オイルタンク221内の作動油が動作発生部230の油圧シリンダ232に供給されて油圧シリンダ232が伸張スプリング234の付勢力に抗してクランクアーム233を図中時計回り方向に揺動させると共に,ポンプ222による作動油の供給を停止して,回収回路226に設けた電磁弁225によって回収回路226を開くと,油圧シリンダ232の作動圧室内の作動油が回収回路226を介してオイルタンク221内に回収されて,クランクアーム233が図1中,反時計回り方向に揺動するようになっている。
【0064】
なお,図中228は圧力スイッチであり,油圧シリンダ232に供給される作動油の圧力を一定に保つためにポンプ222の起動と停止を制御する。
【0065】
前述のパワーユニット220による油圧シリンダ232に対する作動油の給・排出は,乗務員が動作入力部210を操作することにより行われる。本実施形態にあっては,この動作入力部210にブレーキペダル211と,留置ブレーキスイッチ212を設け,乗務員がこれらを操作することにより,操作内容に応じてパワーユニット220が前記油圧シリンダ232に対する作動油の給・排出を行うようにしている。
【0066】
このうちのブレーキペダル211は,軌陸車1の運転席のフロア等に設けられており,乗務員が足でこのブレーキペダル211を踏み込み,又は離す操作を行うことにより,ブレーキペダル211を離した時には前述したパワーユニット220の電磁弁225が回収回路226を閉じ,給油回路223のポンプ222が駆動して油圧シリンダ232に作動油が供給されると共に,ブレーキペダル211を踏み込むと,ポンプ222の停止により作動油の供給が停止すると共に,電磁弁225が回収回路226を開き,油圧シリンダ232内の作動油をオイルタンク221内に回収するように構成されている。
【0067】
また,留置ブレーキスイッチ212は,本実施形態の制動装置10のブレーキを解除するために設けられたものであり,この留置ブレーキスイッチ212のOFFにより,前述した電磁弁225が回収回路226を閉じ,給油回路223のポンプ222が駆動されて油圧シリンダ232に作動油が供給されると共に,留置ブレーキスイッチ212のONにより,ポンプ222が停止して作動油の供給が停止すると共に,電磁弁225が回収回路226を開き,油圧シリンダ232内の作動油をオイルタンク221内に回収するように構成されている。
【0068】
前述の動作発生部230のクランクアーム233の上端には,前輪制動用,後輪制動用の2つのマスタシリンダ12f,12rのピストンロッド13f,13rが揺動板31及び連結杆32を介して連結されており,クランクアーム233の揺動に伴って,各マスタシリンダ12f,12rのピストンロッド13f,13rがいずれともに進退移動するように構成されている。
【0069】
この,前輪制動用・後輪制動用の2つのマスタシリンダ12f,12rは,図1に示すようにそのピストンロッド13f,13rの突出端をいずれも同一の方向(紙面右側)を向けた,同じ向きとなるように,ブラケット14に取り付けられている。
【0070】
図1に示す例では,2つのマスタシリンダ12f,12rを紙面垂直方向に並べて配置した例を示しているが,各マスタシリンダ12f,12rは,水平方向に並べて配置しても良く(図2,図4参照),その配置は,図示の例に限定されない。
【0071】
このように配置された2つのマスタシリンダ12f,12rのピストンロッド13f,13rは,前述の突出端において揺動板31を介して連結されている。
【0072】
図1に示す例では,この揺動板31を帯板状のものとして構成しているが,この揺動板31の形状は,図1に示す例に限定されず,各種の形状とすることができる。
【0073】
この揺動板31と各マスタシリンダ12f,12rのピストンロッド13f,13rとの連結は,揺動板31の一端31a側に設けた第1連結点33に対して,前輪制動用のマスタシリンダ12fのピストンロッド13fの端部をピン留め等によって回動可能に連結すると共に,揺動板31の他端31b側に設けた第2連結点34に対して,後輪制動用のマスタシリンダ12rのピストンロッド13rの端部をピン留め等によって回動可能に連結することにより行っている。
【0074】
前記第1連結点33と前記第2連結点34との間における前記揺動板31上には,前述の動作発生部230のクランクアーム233上面に他端32bが連結された連結杆32の一端32aが揺動可能に連結される中間連結点35が設けられている。
【0075】
なお,図1に示す例では,中間連結点35は,第1連結点33及び第2連結点34と同一線上に並べて配置しているが,この中間連結点35の配置は,図4〜6に示すように,必ずしも第1連結点33及び第2連結点34と同一線上に並べて配置する必要はない。
【0076】
この中間連結点35に対する前記連結杆32の連結は,図示の例では連結杆32の一端32aに設けられたボールジョイントを介して行われ,これにより揺動板31と連結杆32とが相互に揺動可能に連結されている。
【0077】
また,この連結杆32の他端32bにも同様のボールジョイントを設け,このボールジョイントを介して連結杆32の他端32bが前記クランクアーム233の上端に対して揺動可能に連結されており,クランクアーム233が揺動すると,連結杆32を介して揺動板31が動かされ,これにより,2つのマスタシリンダ12f,12rに設けられたピストンロッド13f,13rが進退移動するようになっている。
【0078】
前鉄輪50fと,後鉄輪50rに対し,それぞれ所定の制動力を加えることができるよう,前述の揺動板31の第1連結点33と中間連結点35間の距離Lf,及び第2連結点34と中間連結点35間の距離Lrは,所定の比率となるように中間連結点35の位置が決められている。
【0079】
ここで,例えば後鉄輪50rに比較して,前鉄輪50fに大きな制動力を発生させようとした場合,第1連結点33と中間連結点35間の距離Lfと,第2連結点34と中間連結点35間の距離Lrの比(Lf/Lr)が,1未満となるように構成する。この比は,その数値が小さくなるに従い前鉄輪50fに対する制動力が,後鉄輪50rに比較してより大きなものとなる。
【0080】
これとは逆に,第1連結点33と中間連結点35間の距離Lfと,第2連結点34と中間連結点35間の距離Lrの比(Lf/Lr)が,1を越えると,後鉄輪50rに対する制動力が,前鉄輪50fに対する制動力に比較して大きなものとなり,前述の比の数値が大きくなるに従い,後鉄輪50rに対する制動力が,前鉄輪50fに比較してより大きなものとなる。
【0081】
即ち,連結杆32が紙面左側に移動して,揺動板31を介してピストンロッド13f,13rをマスタシリンダ12f,12r内に押し込むと,第1連結点33及び第2連結点34には,それぞれ図1中に矢印Ff,Frで示すように,ピストンロッド13f,13rが揺動板31を押し戻そうとする力が加わる。
【0082】
ここで,ピストンロッド13f,13rが揺動板31を押し戻そうとする力は,マスタシリンダ12f,12r内のブレーキフルードの圧力が大きくなる程増大し,このブレーキフルードの圧力は,マスタシリンダ12f,12rに対するピストンロッド13f,13rの押し込み量が増えるに従い上昇する。
【0083】
一方,揺動板31は,連結杆32に対して中間連結点35で揺動可能に軸支されているので,中間連結点35を支点とした梃子となる。その結果,例えば第1連結点33と中間連結点35間の距離Lfが,第2連結点34と中間連結点35間の距離Lrに対して短く形成されている場合(Lf<Lr)には,両長さの比に対応してピストンロッド13f,13rからの力がFf>Frとなった時に釣り合う。
【0084】
そのため,第1連結点33と中間連結点35間の距離Lfが,第2連結点34と中間連結点35間の距離Lrに対して短く形成されている場合(Lf<Lr)には,前鉄輪制御用のマスタシリンダ12fに対するピストンロッド13fの押し込み量が大きく,これに対して後鉄輪駆動用のマスタシリンダ12rに対するピストンロッド13rの押し込み量が小さな位置で釣り合い,後鉄輪50rに与えられる制動力に対し,前鉄輪50fに与えられる制動力を大きなものとすることができる。
【0085】
なお,この揺動板31は,例えば中間連結点35の位置を可変とする等して,前述のLfとLrの比を変更可能とすることで,前鉄輪50fと後鉄輪50rとに加えられる制動力についても可変とするよう構成しても良い。
【0086】
図4に示す実施形態では,マスタシリンダ12f,12rのピストンロッド13f,13rの突出端に取り付けられた前述の揺動板31の揺動は,連結杆32の中心線に対し,前記第1連結点33と第2連結点34とを結ぶ線Xとが成す角θが所定の角度の範囲内となるよう,規制手段36によってその揺動範囲が規制されている。
【0087】
この規制手段36として,揺動板31の一部を延長して連結杆32の第2連結点34側に連結杆に対して略平行に突出する突出部を形成すると共に,この突出部の先端を上方に折り曲げて曲折部36aを形成し,連結杆32の長手方向の中心線に対し,第1連結点33と第2連結点34とを結ぶ直線Xが成す角度θが所定の角度以下になると,この曲折部36aが連結杆32と干渉して揺動板31の揺動を規制するように構成している。
【0088】
図示の例では,この規制手段36を連結杆32の第2連結点34側に略平行に設けているが,この規制手段36は,図4に示す例とは逆に,前記連結杆32の第1連結点33側に設けるものとしても良く,又は,第1,第2連結点33,34側の双方において,連結杆32を挟んでその両側に設けるものとしても良く,前記角度θが所定の角度となったとき,曲折部36aが連結杆32と接触して揺動板31の揺動を規制するものであれば,如何なる構成としても良い。
【0089】
ここで,例えばブレーキ時の摩擦熱によりブレーキフルードが加熱され,ブレーキフルード中に気泡が発生してブレーキが利かなくなる,所謂「ベーパーロック現象」が前後いずれか一方の鉄輪に対して発生した場合を想定すると,液体であるブレーキフルードに比較して押し潰され易い気泡が混入した油圧回路側のマスタシリンダは,正常な状態の油圧回路側のマスタシリンダに比較してピストンロッドを容易に押し込むことができるようになる。
【0090】
一例として,このようなベーパーロック現象が前鉄輪側の油圧回路48fに生じた場合,連結杆32によって揺動板31をマスタシリンダ12f,12r側に移動させると,気泡の生じた前鉄輪側の油圧回路48fに設けたマスタシリンダ12fのピストンロッド13fの押し込み量が増加する結果,揺動板31が図4中,反時計回り方向に揺動して傾き,連結杆32をマスタシリンダ12f,12rに近付くように前進移動させても,異常が生じていない油圧回路に設けた後鉄輪用のマスタシリンダ12rに対してピストンロッド13rを必要量押し込むことができずに,後鉄輪50rに加わる制動力が減少する。
【0091】
しかし,前述した規制手段36を設け,揺動板31の回動により角度θが所定の角度まで減少すると,規制手段36の曲折部36aが連結杆32と接触し,揺動板32がこれ以上大きく傾くことを規制することにより,正常な後鉄輪50r側の油圧回路に設けられたマスタシリンダ12rに対するピストンロッド13rの押し込み量が確保され,鉄輪(後鉄輪)の制動が可能となる結果,制動装置の信頼性を向上させることができるものとなっている。
【0092】
なお,本実施形態にあっては前鉄輪50fを駆動輪として構成し,その結果,仮に前鉄輪制動用の油圧回路48fに問題が生じた場合であっても,前鉄輪50fの駆動を停止することにより前鉄輪50fに対しては,自動車でいうところのエンジンブレーキに相当する制動力が加わるようになっている。
【0093】
そのため,図4に示す例では,規制手段36を,連結杆32に対し,後鉄輪制動用のマスタシリンダ12rのピストンロッド13rとの連結点である第2連結点34側に設ける構成として,揺動板31が図4中反時計回りに過度に揺動することを規制して,後鉄輪側の制動を少なくとも確保できるように構成しているが,より信頼性を高めるためには,連結杆32の両側それぞれにこのような規制手段36を設けるものとすることが好ましい。
【0094】
なお,規制手段36は,揺動板31の揺動範囲を所定の角度に規制し得るものであれば図示の例に限定されず如何なる構成としても良く,例えば揺動板31の上面に突起を設け,揺動板31が所定の揺動角を越えて揺動した場合には,この突起が連結杆32と接触して揺動が規制されるように構成しても良く,又は,揺動板31に中間連結点35を中心とする弧状のスリットを形成し,このスリット内に連結杆32に設けた突起を挿入して,前記スリットの形成長以上に揺動板31が揺動できないように形成する等しても良い。
【0095】
更に前述の揺動板31には,図4,5,6に示すようにハンドルバー15を取り付けることができる。
【0096】
このハンドルバー15は,一端15a側を作業者が把持して操作する把持部としており,このハンドルバー15のいずれかの位置が,支軸16によってマスタシリンダ12f,12rが取り付けられたブラケット14に揺動可能に軸支されて,前述の揺動板31に対して面平行に揺動可能に構成されている。
【0097】
そして,前記ブラケット14に対する支軸16による軸支位置に対して所定距離離れた前記ハンドルバー15上の位置と,前記第1連結点33と前記第2連結点34間における前記揺動板31上の所定の位置をボス17によって相互に回動可能に軸支している。
【0098】
図4,5,6に示す実施形態にあっては,支軸16によって前述のハンドルバー15の他端15bをブラケット14に軸支すると共に,ボス17によってハンドルバー15の長手方向の中間位置に揺動板31を回転可能に軸支しているが,ハンドルバー15とブラケット14の軸支位置,及びハンドルバー15と揺動板31の軸支位置は,図示の例に限定されず,例えばハンドルバー15の長手方向における中間位置をブラケット14に軸支すると共に,ハンドルバー15の他端15bを前記揺動板31に軸支する等,ハンドルバー15の一端15a側に設けた把持部をブラケット14に対する軸支位置(支軸16)を中心に揺動させると,ハンドルバー15と揺動板31との軸支位置(ボス17)がマスタシリンダ12f,12rに対して近接及び離間する方向に揺動させることができるものであればその位置は図示の例に限定されない。
【0099】
好ましくは,ハンドルバー15とブラケット14の軸支位置(支軸16)から,ハンドルバー15の一端15aまでの距離に対し,ハンドルバー15とブラケット14の軸支位置(支軸16)からハンドルバー15と揺動板31との軸支位置(ボス17)迄の距離を短く形成し,ハンドルバー15の操作を比較的小さな力で行うことができるように構成することが好ましい。
【0100】
以上のように,ハンドルバー15を設けた構成にあっては,前輪制動用又は後輪制動用の油圧回路48f,48r内のブレーキフルードの交換やエア抜きに際して,マスタシリンダ12f又は12rのピストンロッド13f又は13rを容易に進退移動させることができる。
【0101】
このようなピストンロッド13f又は13rの進退移動に際し,先ず,前記連結杆32の一端32aと揺動板31との連結,又は前記連結杆32の他端32bとクランクアーム233上面との連結を解除する。
【0102】
そして,ブレーキフルードの交換作業を行う前鉄輪50f又は後鉄輪50rいずれか一方側のブレーキキャリパ11f又は11rに設けられているブリードバルブを開放すると共に,ブリードバルブが開放されたブレーキキャリパと共通の油圧回路に設けられているマスタシリンダ12f又は12rのリザーバタンク12aの上蓋を開放する。
【0103】
このようにして,前鉄輪50f又は後鉄輪50rいずれか一方側のブレーキキャリパ11f又は11rのブリードバルブを開放すると,ブリードバルブが開放されたブレーキキャリパを備えた油圧回路内のブレーキフルードは,この油圧回路に設けられたマスタシリンダ12f又は12rのピストンロッド13f又は13rの押し込みによりブリードバルブを介して回路外に排出される。
【0104】
そのため,ブリードバルブが開放されたブレーキキャリパを備えた油圧回路では,ブレーキフルードの圧力が上昇せず,その結果,マスタシリンダのピストンロッドを比較的小さな力で押し込むことができる。
【0105】
一方,ブリードバルブが閉じているブレーキキャリパが設けられている油圧回路では,マスタシリンダのピストンロッドを押し込むに従い,油圧回路内のブレーキフルードの圧力が上昇するために,ピストンロッドの押し込みには大きな抵抗が加わる。
【0106】
その結果,ハンドルバー15を揺動させても,ブリードバルブが閉じられているブレーキキャリパを備えた油圧回路側のマスタシリンダでは,ピストンロッドが殆ど進退移動せず,第1又は第2連結点のいずれか一方はその位置が殆ど変化せず,ハンドルバー15の揺動によって,ブリードバルブが開放されたブレーキキャリパを備えた油圧回路のマスタシリンダのピストンロッドのみを容易に進退移動させることができるものとなっている。
【0107】
一例として前鉄輪50fに設けられたブレーキキャリパ11fのブリードバルブを閉じたままとし,後鉄輪50rに設けられたブレーキキャリパ11rのブリードバルブを開いた状態でハンドルバー15を揺動させると,揺動板31は,図5に示すように第1連結点33が殆ど移動せず,この第1連結点33を支点として第2連結点34が図中矢印で示すように揺動して,後鉄輪用のマスタシリンダ12rのピストンロッド13rが進退移動する。
【0108】
一方,これとは逆に後鉄輪50rに設けられたブレーキキャリパ11rのブリードバルブを閉じたままとし,前鉄輪50fに設けられたブレーキキャリパ11fのブリードバルブを開いた状態でハンドルバー15を揺動させると,揺動板31は,図6に示すように第2連結点34が殆ど移動せず,この第2連結点34を支点として第1連結点33が図中矢印で示すように揺動して,前鉄輪用のマスタシリンダ12fのピストンロッド13fが進退移動し,これにより,油圧回路内のブレーキフルードの交換やエア抜きの作業を容易に行うことができるものとなっている。
【符号の説明】
【0109】
10 制動装置
11f ブレーキキャリパ(前鉄輪用)
11r ブレーキキャリパ(後鉄輪用)
12 マスタシリンダ
12f マスタシリンダ(前鉄輪用)
12r マスタシリンダ(後鉄輪用)
12a リザーバタンク
13f ピストンロッド(前鉄輪用マスタシリンダの)
13r ピストンロッド(後鉄輪用マスタシリンダの)
14 ブラケット
15 ハンドルバー
15a 一端(ハンドルバーの)
15b 他端(ハンドルバーの)
16 支軸
17 ボス
20 作動機構
210 動作入力部
211 ブレーキペダル
212 留置ブレーキスイッチ
220 パワーユニット
221 オイルタンク
222 ポンプ
223 給油回路
224 逆止弁
225 電磁弁
226 回収回路
227 給・排油回路
228 圧力スイッチ
230 動作発生部
231 ベース
232 油圧シリンダ
233 クランクアーム
234 伸張バネ(付勢手段)
31 揺動板
31a 一端(揺動板の)
31b 他端(揺動板の)
32 連結杆
32a 一端(連結杆の)
32b 他端(連結杆の)
33 第1連結点
34 第2連結点
35 中間連結点
36 規制手段
36a 曲折部
48f 油圧回路(前鉄輪制動用)
48r 油圧回路(後鉄輪制動用)
50f 前鉄輪
50r 後鉄輪
51f ブレーキディスク(前鉄輪の)
51r ブレーキディスク(後鉄輪の)
60 路面走行手段(タイヤ)
411,411f,411r ブレーキキャリパ
412 マスタシリンダ
412a リザーバタンク
413 ピストンロッド
448 油圧回路
448’ ブレーキホース
450 鉄輪
450f 前鉄輪
450r 後鉄輪
451f,451r ブレーキディスク
460 ブレーキ解除シリンダ
461 リンク
462 ピン
466 圧縮バネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
路面走行手段と共に軌道走行用の鉄輪を備えることにより前記路面走行手段による路面走行と前記鉄輪による軌道走行を可能とした軌陸車の前記鉄輪を制動する制動装置において,
前記鉄輪のうちの前鉄輪を制動するブレーキキャリパと該ブレーキキャリパに対してブレーキフルードを供給する前鉄輪用のマスタシリンダ間を配管接続して形成した前鉄輪制動用の油圧回路と,後鉄輪を制動するブレーキキャリパと該ブレーキキャリパに対してブレーキフルードを供給する後鉄輪用のマスタシリンダ間を配管接続して形成した後鉄輪用の油圧回路をそれぞれ別個に設け,
前記2つのマスタシリンダを,それぞれのピストンロッドの突出端が同一方向を向くようブラケットに固定し,
前記前鉄輪用マスタシリンダのピストンロッドの前記突出端を揺動板の一端側に設けた第1連結点に回動可能に連結し,
前記後鉄輪用マスタシリンダのピストンロッドの前記突出端を前記揺動板の他端側に設けた第2連結点に回動可能に連結すると共に,
前記第1連結点と前記第2連結点間における前記揺動板上に設けた中間連結点に,前記2つのマスタシリンダのピストンロッドと平行に進退移動して前記揺動板を移動させる連結杆の一端を回動可能に連結し,
前記第1連結点と前記中間連結点間の距離と,前記第2連結点と前記中間連結点間の距離の比が,予め設定された前鉄輪と後鉄輪の制動力の差を発生する比となる位置に前記中間連結点を設けたことを特徴とする軌陸車の制動装置。
【請求項2】
前記連結杆の長手方向の中心線に対し前記第1連結点と前記第2連結点とを結ぶ線が成す角が所定の角度の範囲となるよう前記揺動板の揺動範囲を規制する規制手段を設けたことを特徴とする請求項1記載の軌陸車の制動装置。
【請求項3】
一端側を把持部とするハンドルバーを前記ブラケットに軸支して,前記揺動板に対して面平行に揺動可能とし,
前記ブラケットに対する軸支位置に対して所定距離離れた前記ハンドルバー上の位置と,前記第1連結点と前記第2連結点間における前記揺動板上の位置を相互に回動可能に軸支したことを特徴とする請求項1又は2記載の軌陸車の制動装置。
【請求項4】
前記連結杆を前記2つのマスタシリンダ側に付勢する付勢手段を設けたことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の軌陸車の制動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−967(P2011−967A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−145765(P2009−145765)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(000241795)北越工業株式会社 (86)
【Fターム(参考)】