説明

軌陸車の軌道走行用油圧回路

【課題】 従来の軌陸車は、エンジンまたは主油圧ポンプが故障すると、鉄輪走行が不可能となって軌陸車が軌道上に立ち往生する恐れがあった。
【解決手段】 軌道走行用油圧回路を、軌道走行用鉄輪5を駆動する油圧モータ20と、軌陸車の主動力装置(エンジン22)により駆動される主油圧ポンプ21と、前記軌陸車に搭載されたバッテリから電力供給を受ける電動モータ27により駆動される非常用油圧ポンプ26と、を備え、前記油圧モータ20が、通常時には前記主油圧ポンプ21から圧油の供給を受け、非常時には前記非常用油圧ポンプ26から圧油の供給を受けるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非常時に電動モータにより駆動される非常用油圧ポンプを用いて軌道走行できるようにした軌陸車の軌道走行用油圧回路に関する。
【背景技術】
【0002】
道路走行用車輪を用いて道路を走行すると共に、軌道走行用鉄輪を用いて軌道上を走行することもできるように構成された「軌陸車」と呼ばれる車両が知られている。当該軌陸車には、高所作業装置あるいはクレーン作業装置などの作業装置が架装される。
【0003】
上記軌陸車の軌道走行用鉄輪は、油圧モータによって駆動される場合が多く、当該油圧モータを含んだ軌陸車の軌道走行用油圧回路が知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載された軌道走行用油圧回路では、エンジンにより駆動される油圧ポンプから吐出される作動油が油圧モータに供給され、当該油圧モータにより鉄輪が駆動され、軌陸車が軌道上を走行するようになっている。
【0004】
ところが、特許文献1に記載された軌道走行用油圧回路では、軌陸車が軌道上にあるときに上記エンジン又は油圧ポンプが故障したような場合には鉄輪を駆動する上記油圧モータに作動油を供給できなくなって鉄輪走行が不可能となり、軌陸車が軌道上に立ち往生してしまう恐れがあった。
【0005】
一方、軌陸車に架装された作業装置の油圧アクチュエータを作動させる作業車用油圧回路に適用される非常用油圧回路が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。特許文献2では、作業装置を駆動する油圧アクチュエータと主油圧ポンプとを接続する主管路を開閉する主開閉制御弁と前記油圧アクチュエータとの間に前記主管路を閉止する閉止弁を設けている。さらに、前記主管路における前記閉止弁と前記油圧アクチュエータとの間から分岐し非常用油圧ポンプにつながる副管路を設けている。そして、故障発生時には、前記閉止弁を閉止するとともに、前記副管路を通じて前記非常用油圧ポンプから油圧アクチュエータに作動油を供給するようになっている。
【特許文献1】特開平11−278267号公報(第3−5頁、第4図)
【特許文献2】特開平9−2795号公報(第3−5頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献2の作業車用油圧回路では非常時に非常用油圧ポンプを用いて軌陸車の作業装置の油圧アクチュエータを作動させ当該作業装置を格納することができるものではあるが、軌陸車の鉄輪を駆動する油圧モータを駆動することができるものではなかった。そのため、やはりエンジンまたは主油圧ポンプが故障すると、鉄輪走行が不可能となって軌陸車が軌道上に立ち往生する恐れがあった。
【0007】
そこで本発明は、軌陸車に搭載されたバッテリから電力供給を受ける電動モータにより駆動される非常用油圧ポンプを備え、非常時には軌道走行用鉄輪を駆動する油圧モータに当該非常用油圧ポンプから圧油を供給することにより鉄輪走行が可能な軌道走行用油圧回路を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、道路走行時には道路走行用車輪を用いて走行し、軌道走行時には軌道走行用鉄輪を用いて走行するよう構成された軌陸車の軌道走行用油圧回路であって、 前記軌道走行用鉄輪を駆動する油圧モータと、前記軌陸車の主動力装置により駆動される主油圧ポンプと、前記軌陸車に搭載されたバッテリから電力供給を受ける電動モータにより駆動される非常用油圧ポンプと、を備え、前記油圧モータが、通常時には前記主油圧ポンプから圧油の供給を受け、非常時には前記非常用油圧ポンプから圧油の供給を受けることを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明は、内蔵するバネの付勢力により前記油圧モータの静止時に当該油圧モータを制動可能なネガティブブレーキと、前記軌陸車の主動力装置により常時駆動されるパイロット油圧ポンプと、前記ネガティブブレーキに接続可能な手動油圧ポンプと、を備え、前記ネガティブブレーキが、通常時には前記パイロット油圧ポンプからのパイロット圧の供給を受けることによりブレーキ開放され、非常時には前記手動油圧ポンプからのパイロット圧の供給を受けることによりブレーキ開放されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明では、非常時には前記軌道走行用鉄輪を駆動する油圧モータが、前記軌陸車に搭載されたバッテリから電力供給を受ける電動モータにより駆動される非常用油圧ポンプから圧油の供給を受けることにより軌道上を走行することができる。そのため、エンジンまたは主油圧ポンプが故障したような場合であっても、鉄輪走行が不可能となって軌陸車が軌道上に立ち往生することがなく、速やかに軌陸車を本線上から退避線上に退避させることができる。
【0011】
請求項2の発明では、請求項1の構成による効果に加えて、以下の特有の効果を有する。すなわち、軌道走行用鉄輪を駆動する油圧モータは内蔵するバネの付勢力により前記油圧モータの静止時に当該油圧モータを制動可能なネガティブブレーキを備えており、前記軌陸車の主動力装置により常時駆動されるパイロット油圧ポンプからのパイロット圧の供給を受けることによりブレーキ開放されるものである場合には、通常時には主動力装置(通常はエンジン)が止まることがないのでパイロット油圧ポンプは常時駆動されており軌陸車が軌道走行中に前記ネガティブブレーキが作動することはない。また、一般にネガティブブレーキは駐車制動装置として設計されており、スタティックブレーキ(静的ブレーキ)として設計されているため、ダイナミックブレーキ(動的ブレーキ)として使用されると故障する恐れがある。
【0012】
一方、非常時には前記軌道走行用鉄輪を駆動する油圧モータが、前記軌陸車に搭載されたバッテリから電力供給を受ける電動モータにより駆動される非常用油圧ポンプから圧油の供給を受けることにより軌道上を走行することができが、上記ネガティブブレーキも前記軌陸車に搭載されたバッテリから電力供給を受ける別の電動モータにより駆動される非常用パイロット油圧ポンプからパイロット圧の供給を受けることにより開放されるようになっている。そのため、上記非常用油圧ポンプと非常用パイロット油圧ポンプが同一のスイッチにより操作するようになっていると、軌陸車が惰性で軌道走行しているのに、パイロット圧の供給が遮断され前記ネガティブブレーキがダイナミックブレーキとして作動してしまう恐れがある。
【0013】
しかし、請求項2の軌道走行用油圧回路では前記ネガティブブレーキが、非常時には手動油圧ポンプからのパイロット圧の供給を受けることによりブレーキ開放されるようになっているので、バッテリからの電力供給の有無に関係なく前記ネガティブレーキのブレーキ開放を維持し続けることができる。すなわち、前記ネガティブブレーキがダイナミックブレーキとして作動して故障する恐れが無い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1に、本発明の実施の形態に係る軌陸車1を示す。軌陸車1は下部走行体2と上部作業体3とから構成されており、当該下部走行体2には道路走行に使用される道路走行用車輪4と、軌道8走行に使用される軌道走行用鉄輪5とが装備されている。前記軌道走行用鉄輪は下部走行体2の下部フレーム7の前後端部に取り付けられた張出格納装置6により張出格納可能となっている。図1は前記軌道走行用鉄輪5が軌道8上に張出された軌道走行状態を示している。
【0015】
本実施の形態に係る軌陸車1の上部作業体3は、クレーンの例が示されている。軌陸車1には前記下部走行体2に旋回自在に搭載された旋回台10と、当該旋回台に起伏自在にその基端部が枢支された伸縮ブーム11と、前記旋回台10に配置された走行と作業の両方の操作が行える運転室12とを備えている。旋回台10に配置された図示しないウインチから繰り出されるワイヤ13が伸縮ブーム11先端から吊り下げ可能となっており、前記運転室12での操作によりウインチを巻き上げ、巻き下げしてクレーン作業できるようになっている。
【0016】
図2は軌陸車1の軌道走行用油圧回路であって、軌陸車1の油圧回路全体から軌道走行に関係する部分を抜き出したものである。20は軌道走行用鉄輪を駆動する油圧モータである。21は軌陸車1のエンジン22(主動力装置)によりPTO23を介して駆動される主油圧ポンプである。主油圧ポンプ21から吐出された圧油は、ポンプ油路24、切換弁25を経て油圧モータ20に送られる。切換弁25により油圧モータ20の回転、停止操作と回転方向選択を行うことができる。
【0017】
30は内蔵するバネ31の付勢力により前記油圧モータ20の静止時に当該油圧モータ20を制動可能なネガティブブレーキである。ネガティブブレーキ30により油圧モータ20を制動することにより、軌陸車1の駐車ブレーキとして使用するようになっている。
【0018】
32は軌陸車のエンジン22(主動力装置)によりPTOを介することなく直接常時駆動されるパイロット油圧ポンプである。したがって、パイロット油圧ポンプ32はエンジン22が回転しているときは常に駆動されパイロット圧を発生している。パイロット油圧ポンプ32で発生したパイロット圧は、パイロット油路33、減圧弁34、ソレノイド切換弁35を介して前記ネガティブブレーキ30に送られるようになっている。ソレノイド切換弁35は、その非通電時にはパイロット圧を遮断し、通電磁にはパイロット圧を連通するようになっている。ネガティブブレーキ30は、パイロット圧が作用すると内蔵するバネを押し縮めてブレーキを開放する。また、パイロット油圧ポンプ32のパイロット圧は、前記切換弁25の切換え用のパイロット圧としても利用される。
【0019】
26は非常用油圧ポンプであって、軌陸車1に搭載されたバッテリから電力供給を受ける電動モータ27により駆動される。非常用油圧ポンプ26から吐出された圧油は、前記ポンプ油路24を介して油圧モータ20に供給できるようになっている。36は非常用パイロット油圧ポンプであって、軌陸車1に搭載されたバッテリから電力供給を受ける電動モータ37により駆動される。非常用パイロット油圧ポンプ36で発生したパイロット圧は、前記パイロット油路33に送られるようになっている。上述した軌陸車1の軌道走行用油圧回路の作用は以下の通りである。
(通常時)エンジン22が起動され、パイロット油圧ポンプ32が駆動される。次にPTO23が接続され、主油圧ポンプ21が駆動される。ソレノイド切換弁35に通電され、パイロット圧がネガティブブレーキ30に作用しパーキングブレーキが解除される。切換弁25を切換えることにより油圧モータ20が必要とする回転方向に回転し、軌陸車1を軌道8上で目的地に向け走行させる。走行中はエンジンが停止することはないのでパイロット油圧ポンプ32は常時パイロット圧を発生させており、誤ってソレノイド切換弁35が切換操作されない限り前記ネガティブブレーキ30にはパイロット圧が作用し続ける。したがって、軌陸車1の走行中にネガティブブレーキ30がダイナミックブレーキとして作用してネガティブブレーキ30が損傷するということは起きない。
【0020】
軌陸車1が目的地に到着すると、ソレノイド切換弁35への通電が断たれネガティブブレーキ30へパイロット圧が作用しなくなり、ネガティブブレーキ30は油圧モータ20を制動するのでパーキングブレーキが効いた状態となる。そして、軌道上での上部作業体3による作業が行われる。
(非常時)エンジン22あるいは主油圧ポンプ21、パイロット油圧ポンプ32が故障した場合などの非常時には、図2に示すネガティブブレーキ30につながるパイロット油路41に介装されたカプラ40が外され、図3に示した手動油圧ポンプ42の吐出ホース43の先端カプラ44が接続される。そして、手動油圧ポンプ42のレバー45を上下に揺動操作して圧油をネガティブブレーキ30に作用させ、駐車ブレーキを解除する。手動油圧ポンプ42はレバー45を静止させておいても内蔵されたチェック弁の作用によりネガティブブレーキには圧油が作用したままで維持される。
【0021】
次に、電動モータ27、37を回転させ、非常用油圧ポンプ26、非常用パイロット油圧ポンプ36を駆動する。そして、切換弁25を切換えることにより油圧モータ20を必要とする回転方向に回転させ、軌陸車1を軌道8上で目的地に向け走行させることができる。すなわち、エンジンまたは主油圧ポンプが故障した場合であっても、鉄輪走行が不可能となって軌陸車1が軌道8上に立ち往生することがなく、速やかに軌陸車1を本線上から退避線上に退避させることができる。
【0022】
また、前記ネガティブブレーキ30が、非常時には前記手動油圧ポンプ45からのパイロット圧の供給を受けることによりブレーキ開放されるようになっているので、非常用パイロット油圧ポンプ36が停止してパイロット油路33へのパイロット圧の供給が途絶えた場合であっても、前記ネガティブレーキ30のブレーキ開放を維持し続けることができる。すなわち、前記ネガティブブレーキ30がダイナミックブレーキとして作動して故障する恐れが無い。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】軌道走行用鉄輪5が軌道8上に張出された軌道走行状態の軌陸車1である。
【図2】本願の発明に係る軌陸車1の軌道走行用油圧回路である。
【図3】手動油圧ポンプ42の吐出ホース43の先端カプラ44をネガティブブレーキ30側のカプラ40に接続した図である。
【符号の説明】
【0024】
1:軌陸車
4:道路走行用車輪
5:軌道走行用鉄輪
8:軌道
20:油圧モータ
21:主油圧ポンプ
22:エンジン
26:非常用油圧ポンプ
27:電動モータ
30:ネガティブブレーキ
31:バネ
32:パイロット油圧ポンプ
42:手動油圧ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路走行時には道路走行用車輪を用いて走行し、軌道走行時には軌道走行用鉄輪を用いて走行するよう構成された軌陸車の軌道走行用油圧回路であって、
前記軌道走行用鉄輪を駆動する油圧モータと、
前記軌陸車の主動力装置により駆動される主油圧ポンプと、
前記軌陸車に搭載されたバッテリから電力供給を受ける電動モータにより駆動される非常用油圧ポンプと、を備え、
前記油圧モータが、通常時には前記主油圧ポンプから圧油の供給を受け、非常時には前記非常用油圧ポンプから圧油の供給を受けることを特徴とする軌陸車の軌道走行用油圧回路。
【請求項2】
内蔵するバネの付勢力により前記油圧モータの静止時に当該油圧モータを制動可能なネガティブブレーキと、
前記軌陸車の主動力装置により常時駆動されるパイロット油圧ポンプと、
前記ネガティブブレーキに接続可能な手動油圧ポンプと、を備え、
前記ネガティブブレーキが、通常時には前記パイロット油圧ポンプからのパイロット圧の供給を受けることによりブレーキ開放され、非常時には前記手動油圧ポンプからのパイロット圧の供給を受けることによりブレーキ開放されることを特徴とする請求項1の軌陸車の軌道走行用油圧回路。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−302787(P2008−302787A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−151093(P2007−151093)
【出願日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(000148759)株式会社タダノ (419)
【Fターム(参考)】