説明

軟質プロピレン系樹脂組成物

【課題】柔軟性、引張り特性、耐磨耗性、耐折り曲げ白化性、難燃性、耐傷付き性などの特性をバランスよく満足する軟質プロピレン系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】少なくとも下記(A1)、(A2)及び(B)無機フィラーを含み、且つ(A1)と(A2)の合計100重量部中、(A1)5〜40重量部、(A2)60〜95重量部であり、(B)は(A1)と(A2)の合計100重量部に対し80〜200重量部含有する軟質プロピレン系樹脂組成物。(A1)極性基を有するプロピレン系重合体であって、主鎖におけるプロピレン連鎖部分が、アイソタクチックブロックと非晶性ブロックからなるステレオブロック構造を有している極性基含有プロピレン系重合体(A2)結晶性プロピレン系重合体

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟質プロピレン系樹脂組成物に関するものであり、更に詳しくは、燃焼時にハロゲン系ガスなどの有毒ガスの発生が無く、自動車用ワイヤーハーネス電線の被覆材料として使用される保護チューブ等に有用な、ハロゲンフリー軟質プロピレン系樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
難燃性が要求される電線及びケーブルの被覆材料、壁紙等の建築用材料等の用途に用いる難燃性熱可塑性樹脂組成物としては、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)組成物やハロゲン系の難燃剤を配合した樹脂組成物が主として用いられてきたが、近年、PVC組成物、及び、ハロゲン系難燃剤を配合した樹脂組成物に対する環境問題の議論が高まってきており、ハロゲン含有樹脂やハロゲン系の難燃剤を含まない電線被覆用難燃性樹脂組成物が注目されてきている。
【0003】
ハロゲン含有樹脂やハロゲン系の難燃剤を含まない樹脂組成物に難燃性を付与するための方法として、樹脂組成物を有機過酸化物の存在下に動的架橋する方法、特に、無機系難燃剤等を含む樹脂組成物を有機過酸化物の存在下に動的架橋する方法等が開発されてきている。例えば、特許文献1には、ポリプロピレン/水添スチレン・共役ジエンブロック共重合体組成物を有機過酸化物で架橋する方法が提案されている。しかしながら、難燃性を高めるために無機難燃剤の配合量を多くすると、樹脂組成物は満足し得る機械的特性が得られず、特に耐磨耗性及び柔軟性に劣るという問題を抱えている。
【0004】
特許文献2には、ポリプロピレン、カルボン酸無水物変性ポリエチレン、金属水和物、及びエチレン系コポリマーからなるオレフィン系樹脂難燃性組成物が提案されている。この樹脂組成物では、金属水和物を高充填して高度な難燃性を与えるとともに、カルボン酸無水物変性ポリエチレンを充填することで、樹脂組成物の柔軟性を向上させている。しかし、この樹脂組成物においてはエチレン系樹脂が相対的に多くなるため、耐磨耗性が満足するものではではない。
【0005】
また、特許文献3には、ポリプロピレン、プロピレン−エチレンブロックコポリマー、酸無水物変性ポリプロピレン及び水酸化マグネシウムからなるオレフィン系樹脂難燃性組成物が提案されている。この樹脂組成物では、水酸化マグネシウムを高充填して高度な難燃性を与えるとともに、酸無水物変性ポリプロピレンを充填することで、樹脂組成物の耐磨耗性と引張り特性を向上させている。しかし、この樹脂組成物においても、柔軟性や加工性は充分ではなく、実用性においてなお問題がある。
【特許文献1】特開昭58−98347号公報
【特許文献2】特開平7−252388号公報
【特許文献3】特開2002−167480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は柔軟性、引張り特性、耐磨耗性、耐折り曲げ白化性、難燃性、耐傷付き性、などの特性をバランスよく満足するプロピレン系樹脂組成物であって、特にワイヤーハーネス電線の被覆材料として使用される保護チューブに有用な、ハロゲンフリー軟質プロピレン系難燃性樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、柔軟性、引張り特性、耐磨耗性、耐折り曲げ白化性、難燃性、耐傷付き性などの各種特性のバランスに優れた軟質プロピレン系樹脂組成物に関して鋭意検討した結果、特定の構造を主鎖として有する極性基含有プロピレン系重合体を金属水和物と結晶性ポリプロピレンとの相溶化材として使用することにより、少ない配合量で樹脂組成物の柔軟性、引張り特性、耐磨耗性、耐折り曲げ白化性、耐傷付き性、難燃性のバランスが改良できることを見出し、この知見に基づき、優れた軟質プロピレン系樹脂組成物、特にハロゲンフリーの難燃性プロピレン系樹脂組成物の取得を可能にし、本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明の要旨は、少なくとも下記(A1)、(A2)及び(B)無機フィラーを含み、且つ(A1)と(A2)の合計100重量部中、(A1)5〜40重量部、(A2)60〜95重量部であり、(B)は(A1)と(A2)の合計100重量部に対し80〜200重量部含有することを特徴とする軟質プロピレン系樹脂組成物に存する。
(A1)極性基を有するプロピレン系重合体であって、主鎖におけるプロピレン連鎖部分が、アイソタクチックブロックと非晶性ブロックからなるステレオブロック構造を有している極性基含有プロピレン系重合体
(A2)結晶性プロピレン系重合体
【発明の効果】
【0009】
本発明の軟質プロピレン系樹脂組成物は、例えばハロゲン含有樹脂やハロゲン系難燃剤を含まない電線被覆用難燃性樹脂組成物に使用可能であるため環境負荷の低減に多大な効果をもたらす。さらに、本発明の軟質プロピレン系樹脂組成物は、特定の構造を主鎖に有し、かつ極性基を有する変性ポリプロピレンが配合されていることにより、柔軟性、引張り特性、耐磨耗性、耐折り曲げ白化性、難燃性、耐傷付き性などの特性がバランス良く向上されており、プロピレン系難燃性樹脂組成物として工業的に非常に有用なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の軟質プロピレン系樹脂組成物は、下記(A1)と(A2)及び(B)無機フィラーを所定量含むものである。
(A1)極性基を有するプロピレン系重合体であって、主鎖におけるプロピレン連鎖部分が、アイソタクチックブロックと非晶性ブロックからなるステレオブロック構造を有している極性基含有プロピレン系重合体
(A2)結晶性プロピレン系重合体。
【0011】
本発明の上記軟質プロピレン系樹脂組成物の配合成分について以下に説明する。
[1] 配合成分
(A1)極性基を有するプロピレン系重合体
本発明で使用される極性基を有するプロピレン系重合体は、主鎖におけるプロピレン連鎖部分が、アイソタクチックブロックと非晶性ブロックを交互に2以上有するステレオブロック構造を持つことを特徴とする極性基含有プロピレン系重合体である。ここで、プロピレン系重合体とは、プロピレンを主体とする重合体を意味し、コモノマーとして極性基を有するモノマー単位をその構造の一部に有しているものである。なお、プロピレンと極性基を有するモノマー以外に、エチレンや、炭素数4〜20のモノオレフィンをコモノマーとして含んでいてもよい。プロピレン系重合体のステレオブロック構造は、後述する13C−NMRスペクトルの測定方法により、特定ペンタッドのピーク面積から決められる。
【0012】
(A1)極性基を有するプロピレン系重合体としては、(A1)(i)−Iステレオブロック構造を有するプロピレン単独重合体および(A1)(i)−IIステレオブロック構造を有するプロピレンとエチレンや炭素数4〜20のα−オレフィンとの共重合体が挙げられる。
【0013】
(i)−I ステレオブロック構造を有するプロピレン系単独重合体
本発明における極性基含有プロピレン系重合体の主鎖として、ステレオブロック構造を有するプロピレン系単独重合体((i)−I成分)が考えられ、該重合体は、プロピレンをシングルサイト触媒である、メタロセン触媒を用いた重合方法により製造したものが好ましい。ステレオブロック構造を有するプロピレン単独重合体((i)−I成分)は、特開2004−300192号公報に記載されている重合触媒の調整法、重合の方法等を適宜採用して製造することが出来る。ステレオブロック構造を有するプロピレン単独重合体は、上述のように、主鎖におけるプロピレン連鎖部分が、アイソタクチックブロックと非晶性ブロックを交互に2以上有するステレオブロック構造を持つものであるが、好ましくは、13C−NMRスペクトルによって規定される次の要件(a)を満たすものである。より好ましくは要件(b)をも満たすものである。
【0014】
すなわち、
(a)13C−NMRスペクトルにて、頭−尾結合からなるプロピレン単位連鎖部のメチル基の炭素原子に由来するピークを観測し、mmmmで表されるペンタッドに帰属されるピークのピークトップのケミカルシフトを21.8ppmとしたとき、19.8ppmから22.2ppmに現れるピークの総面積Sに対する、21.8ppmをピークトップとするピークの面積S1の比率S1/Sが10%以上、90%以下であること。
(b)同様に、その21.8ppmをピークトップとするピークの面積S1、mmmrで表されるペンタッドに帰属される21.5〜21.6ppmをピークトップとするピークの面積をS2としたとき、4+2S1/S2>5であること。
【0015】
ケミカルシフトは、頭−尾(head to tail)結合からなるプロピレン単位連鎖部の10種類のペンタッド(mmmm,mmmr,rmmr,mmrr,mmrm,rmrr,rmrm,rrrr,rrrm,mrrm)のうち、メチル分岐の絶対配置がすべて同一である、すなわち、mmmmで表されるプロピレン単位5連鎖の第3単位目のメチル基にもとづくピークのピークトップのケミカルシフトを21.8ppmとして設定し、これを基準として他の単位5連鎖の第3番単位目のメチル基にもとづくピークのピークトップのケミカルシフトを決定する。この基準では、例えば、その他のプロピレン単位5連鎖の場合、ピークトップのケミカルシフトはおおむね次のようになる。すなわち、mmmr:21.5〜21.7ppm、rmmr:21.3〜21.5ppm、mmrr:21.0〜21.1ppm、mmrmおよびrmrr:20.8〜21.0ppm、rmrm:20.6〜20.8ppm、rrrr:20.3〜20.5ppm、rrrm:20.1〜20.3ppm、mrrm:19.9〜20.1ppmである。なお、これらのペンタッドに由来するピークのケミカルシフトは、NMRの測定条件によって多少の変動があること、および、ピークは必ずしも単一ピーク(single peak)ではなく、微細構造にもとづく複雑な分裂パターン(split pattern)を示すことが多い点に注意して帰属を行う必要がある。
【0016】
上述の要件(a)は、本発明の極性基含有プロピレン系重合体の、主鎖のアイソタクティシティが不完全であり、全ペンタッド中のmmmmペンタッドの割合が10%以上90%以下であることを表す。このうち、15%以上が好ましく、20%以上がより好ましい。また、上限としては、80%以下が好ましく、70%以下がより好ましく、60%以下が更に好ましく、50%以下が最も好ましい。下限値より高いほどべたつき度合いが小さくなる傾向があり、また上限値より低いほど結晶化度が低くなり樹脂分散体の調製が容易になる傾向がある。
【0017】
一方、要件(b)において、4+2S1/S2>5という関係式は、Waymouthらによりアイソタクチックブロックインデックス(BI)と名づけられた指数(特表平9−510745号公報参照)と密接な関連がある。BIは、重合体のステレオブロック性を表す指標である。より具体的には、BIは、4個以上のプロピレン単位を有するアイソタクチックブロックの平均連鎖長を表し、BI=4+2[mmmm]/[mmmr]で定義される。(J.W.Collete et al.,Macromol.,22,3858(1989);J.C.Randall,J.Polym.Sci.Polym.Phys.Ed.,14,2083(1976))。統計的に完全なアタクチックポリプロピレンの場合、BI=5となる。したがって、BI=4+2[mmmm]/[mmmr]>5は、重合体中に含まれるアイソタクチックブロックの平均連鎖長が、いわゆるアタクチックポリプロピレンといわれているポリプロピレンのそれよりも長いことを意味し、4+2S1/S2>5という要件により、本発明で使用する重合体が、アタクチックPPとは異なり、結晶化可能な連鎖長のアイソタクチックブロックを含有することが示されていることとなる。上記BIのうち、好ましくは6以上、より好ましくは7以上であり、通常500以下、好ましくは300以下である。
【0018】
(i)−II ステレオブロック構造を有するプロピレンとエチレンや炭素数4〜20のα−オレフィンとの共重合体
ステレオブロック構造を有するプロピレンとエチレンや炭素数4〜20のα−オレフィンとの共重合体((i)−II成分)は、プロピレンおよびエチレンや炭素数4〜20のα−オレフィンを共重合成分として含有し、プロピレンおよびエチレンや炭素数4〜20のα−オレフィンをシングルサイト触媒である、メタロセン触媒を用いた重合方法により製造したものが好ましい。((i)−II成分)としての共重合体は、特開2003−292700号公報に記載されている重合触媒の調整法、重合の方法等を適宜採用して製造することが出来、主鎖の構造も13C−NMRスペクトルの測定方法により特定することができる。
【0019】
ステレオブロック構造を有するプロピレンとエチレンや炭素数4〜20のα−オレフィンとの共重合体((i)−II成分)に対して13C−NMRスペクトルの測定を行うと、ステレオブロック構造を有するプロピレンの単独重合体((i)−I成分)と異なり、ピークが多すぎるためmmmmで表されるペンタッドに帰属されるピークトップのケミカルシフトの解析が不可能となる。
【0020】
そこで、まずプロピレン単独重合体((i)−I成分)を重合して、mmmmで表されるペンタッドに帰属されるピークトップのケミカルシフトを解析する。次いで、エチレンや炭素数4〜20のα−オレフィンを加えることを除いて、プロピレン単独重合体を重合したときと同様の重合条件でステレオブロック構造を有するプロピレンとエチレンや炭素数4〜20のα−オレフィンとの共重合体を重合する。得られた共重合体のmmmmで表されるペンタッドに帰属されるピークトップのケミカルシフトを、前記プロピレン単独重合体((i)−I成分)のmmmmで表されるペンタッドに帰属されるピークトップのケミカルシフトと同様なものとすることで、共重合体のmmmmを定義することとする。
【0021】
主鎖のアイソタクティシティが不完全であり、全ペンタッド中のmmmmペンタッドの割合(S1/S)が10%以上90%以下であることが好ましい。(S1/S)の下限としては、15%以上が好ましく、20%以上がより好ましい。また、上限としては、80%以下が好ましく、75%以下がより好ましい。下限値より高いほどべたつき度合いが小さくなる傾向であり、また上限値より低いほど結晶化度が低くなり樹脂分散体の調整が容易になる傾向がある。
【0022】
プロピレンとエチレンや炭素数4〜20のα−オレフィンとの共重合体におけるプロピレン含量は、40〜95重量%が好ましく、50〜90重量%が更に好ましい。α−オレフィンとしては、具体的にエチレン、ブチレン、ペンテン、へプテン、オクテン等が挙げられるが、これらの中、エチレンが好ましい。
【0023】
上記により、本発明の極性基含有プロピレン系重合体は、アイソタクチックブロックと、立体特異性(stereospecificity)が乱れたシークエンスからなるブロック、すなわち、非晶性ブロックの両者が、主鎖に存在することを意味する。S1とS2を上記の如く規定した範囲となるように制御する方法としては、重合触媒の構造によって制御する方法、重合温度によって制御する方法、モノマー濃度によって制御する方法等を挙げることができる。S1、S2の温度依存性や、モノマー濃度依存性は、使用する触媒によって異なるので一概に言うことはできない。したがって、使用する触媒の性質にもとづいて、これらの条件を制御することが肝要である。なお、重合触媒の構造によって制御する方法については後述する。
【0024】
本発明における13C−NMRスペクトルの測定方法は、下記の通りである。
試料350〜500mgを、10mmのNMR用サンプル管中で、約2.2mlのオルトジクロロベンゼンを用いて完全に溶解させる。次いで、ロック溶媒として約0.2mlの重水素化ベンゼンを加え、均一化させた後、130℃でプロトン完全デカップリング法により測定を行う。測定条件は、フリップアングル90°、パルス間隔5T1以上(T1は、メチル基のスピン−格子緩和時間のうち最長の値)とする。プロピレン重合体において、メチレン基およびメチン基のスピン格子緩和時間はメチル基のそれよりも短いので、この測定条件では、すべての炭素の磁化の回復は99%以上である。なお、定量精度を上げるため、13C核の共鳴周波数として125MHz以上のNMR装置を使用し、20時間以上の積算を行うのが好ましい。
【0025】
(ii)極性基
本発明における極性基含有プロピレン系重合体は、主鎖が上述のようなステレオブロック構造となっていると同時に、極性基を含有している。極性基としては、塗料成分と親和する官能基であれば任意の官能基が使用できるが、なかでも、カルボン酸基、エステル基、アミド基、イミド基、カルボン酸無水物基、水酸基が好適に使用され、特に好ましくは、カルボン酸無水物基、水酸基である。
【0026】
プロピレン系重合体への極性基の導入方法としては特に制限はなく、従来公知の方法が使用できる。すなわち、極性基を有するモノマー(極性モノマーとも言う)をプロピレンと共重合させる方法、極性基を有するモノマーをプロピレン、エチレンや炭素数4〜20のα−オレフィンと共重合させる方法、有機溶媒の溶液中でプロピレン系重合体と極性基を有するモノマーを、有機過酸化物を開始剤としてグラフト反応させる溶液法、押出機等の溶融混練装置を用いて、極性基を有するモノマーをプロピレン系重合体にグラフト反応させる溶融混練法等を挙げることができる。なお、極性基の導入については、ここに挙げた手法を組み合わせたり、同一または異なる手法を複数回実施したりしてもよい。
なお、本明細書中、極性基を有するモノマーのグラフト反応(共重合)により極性基が導入された極性基含有プロピレン系重合体を、変性プロピレン重合体と言うことがある。
【0027】
極性基含有プロピレン系重合体(A1)成分中における極性基を有するモノマーの含有量は、一般に、0.3重量%以上、8.0重量%以下、好ましくは0.5重量%以上、6.0重量%以下である。含有量(グラフト率とも言う)を0.3重量%以上とすることで無機フィラーの金属水和物である水酸化マグネシウムと結晶性プロピレンとの密着性が十分となり耐折り曲げ白化性が向上する傾向にある。また、8.0重量%以下とすることで、(A1)成分の分散性が向上し、本発明の軟質プロピレン系樹脂組成物中に(A1)成分が塊となって存在しにくくなるため、その塊が欠陥として作用して引張伸び性が低下することが抑制され、それぞれ好ましい。
【0028】
(iii)極性基の導入例
本発明の極性基としてカルボン酸基を有するプロピレン系重合体は、通常、プロピレン系重合体にカルボン酸基を有する極性モノマーをグラフト共重合させたものである。その場合、好適な極性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸およびその酸誘導体並びにモノオレフィンジカルボン酸、その無水物およびそのモノエステル類が挙げられる。
【0029】
極性モノマーを具体的に例示するならば、(メタ)アクリル酸およびそのエステル誘導体としては、(メタ)アクリル酸、炭素数1〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル系モノマー、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル等が挙げられ、また、炭素数6〜12のアリール基またはアリールアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル系モノマー、例えば、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。
【0030】
さらに、他の(メタ)アクリル酸誘導体としては、ヘテロ原子を含有する炭素数1〜20のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル系モノマー、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸−2−アミノエチル、(メタ)アクリル酸−2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸−3−メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸エチレンオキサイドの付加物等、フッ素原子を含有する炭素数1〜20のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル系モノマー、例えば、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチル、(メタ)アクリル酸−2−トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸−2−パーフルオロエチル等、(メタ)アクリルアミド系モノマー、例えば、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルジメチルアミド等が挙げられる。
【0031】
モノオレフィンジカルボン酸としては、例えば、マレイン酸、クロロマレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、3−メチル−2−ペンテン・二酸、2−メチル−2−ペンテン・二酸、2−ヘキセン・二酸等が挙げられる。また、モノオレフィンジカルボン酸モノアルキルエステルとしては、炭素数1〜12のアルキルアルコールとこれらのジカルボン酸とのモノエステルが挙げられ、アルキルアルコールとしては、具体的にはメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、ペンチルアルコール、オクチルアルコール、シクロヘキシルアルコール等が挙げられる。
【0032】
極性基含有グラフト共重合単位としてモノオレフィンジカルボン酸モノアルキルエステルを有する変性プロピレン重合体は、例えば、モノオレフィンジカルボン酸モノアルキルエステルをプロピレン系重合体にグラフト共重合する方法:モノオレフィンジカルボン酸もしくはその無水物を、プロピレン系重合体にグラフト共重合させた後に、アルキルアルコールによりカルボン酸基の1つをエステル化する方法によって得ることができる。
【0033】
アミド基、イミド基、水酸基を含有する極性基含有プロピレン系重合体は、上述のカルボキシル基含有変性プロピレン重合体を、さらにアミンなどで変性することによって製造できる。また、アミノ基と水酸基の両者を有する極性モノマーを用いて、上述のカルボキシル基含有変性プロピレン重合体を再度変性することによって、水酸基含有プロピレン系重合体を製造することができる。なお、これらの官能基変換は、従来公知の方法、例えば、エステル基の還元などが使用できる。
【0034】
上記の極性モノマーとのグラフト共重合に用いられるラジカル重合開始剤としては、通常のラジカル開始剤から適宜選択して使用することができ、有機過酸化物、アゾニトリル等を挙げることができる。有機過酸化物としては、ジイソプロピルパーオキシド、ジ(t−ブチル)パーオキシド、t−ブチルヒドロパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、クミルヒドロパーオキシド、ジラウロイルパーオキシド、ジベンゾイルパーオキシド、メチルエチルケトンパーオキシド、シクロヘキサノンパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシカルボナート、ジシクロヘキシルパーオキシカルボナート等が挙げられる。アゾニトリルとしてはアゾビスブチロニトリル、アゾビスイソプロピルニトリル等が挙げられる。これらの中で、ベンゾイルパーオキシド、ジクミルパーオキシドが好ましい。
【0035】
上記グラフト共重合反応を有機溶媒を用いて行う場合、その有機溶媒の具体的な例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン等の脂肪族系炭化水素;トリクロロエチレン、パークロルエチレン、クロルベンゼン、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素などが挙げられ、これらの中でも、芳香族系炭化水素もしくはハロゲン化炭化水素が好ましく、特にトルエン、キシレン、クロルベンゼンが好ましい。
【0036】
(iv)物性
本発明の軟質プロピレン系樹脂組成物を用いた成形体の柔軟性を向上させるのには、この組成物中にエラストマーを多く入れることが望まれ、そのためには、エラストマーとしてのエチレン系共重合ゴムの量を増やすことが考えられる。しかしながら、組成物中のエチレン系共重合ゴムの量を増やすことは相対的に組成物中の(A2)結晶性プロピレン系重合体の量が減ることになるので、耐磨耗性や耐傷付き性の低下を生ずることがある。
【0037】
本発明の軟質プロピレン系樹脂組成物では、(A1)成分、すなわち、ステレオブロック構造を有する極性基含有プロピレン系重合体を用いることを特徴とするが、このような(A1)成分を用いることによって、組成物中の(A2)結晶性プロピレン系重合体に対する(A1)成分の配合量が少なくても柔軟性を向上させ得るので、耐磨耗性や耐傷付き性を低下させることなく柔軟性の向上を可能とするのである。
【0038】
[1] 結晶性
本発明の軟質プロピレン系樹脂組成物は、上記(A1)成分及び(A2)成分と、(B)無機フィラーを含有する。無機フィラー成分を配合することにより、例えば組成物の曲げ弾性率、剛性などの機械的性質を向上させたり難燃性を付与したりすることができる。なかでも難燃性を付与するためには無機金属水和物が好ましい。
一般に、少なくとも2種の極性に差のあるポリマーと無機金属水和物とを混練した際、極性の高い成分の方が、極性の低い成分よりも無機金属水和物に偏在しやすい。そこで、無機金属水和物をポリプロピレンに混練する際には、無機金属水和物とポリプロピレンとの相溶性を向上させるために、アイソタクチックポリプロピレンを官能基含有モノマーでグラフト変性した官能基含有アイソタクチックポリプロピレンが相溶化剤として使用されている。
【0039】
本発明のステレオブロック構造を有する(A1)成分は、官能基含有アイソタクチックポリプロピレン同様、ポリプロピレンと混練した際に、無機金属水和物に偏在しやすい。また、(A1)成分はステレオブロック構造であるため、通常のアイソタクチックポリプロピレンに比べて結晶性が低い。そのため、混練した際に、柔軟なステレオブロック構造のポリプロピレンが無機金属水和物を包んだ状態を生じ易く、それによって無機金属水和物のフィラーとしての機能を低下させることが可能となり、官能基含有アイソタクチックポリプロピレンを用いた場合に比して得られる成形体の柔軟性を向上し得るのである。
【0040】
一方、かりに、(A1)成分が完全に非晶性(アタクチックポリプロピレン)である場合には、混練時のハンドリングも難しく、また、アイソタクチック部分がないため、アイソタクチックポリプロピレンとの相溶性に乏しく、成形体表面にブリードしやすくなり、その結果成形体表面のべたつきにつながり、成形時のロール汚れなどの問題を生起きる。これに対して、本発明の(A1)成分は、主鎖がステレオブロック構造であるため、成形体表面にブリードしにくく、かりに、ブリードした場合でもアイソタクチック部分を有していることから、べたつきが少ないのである。
【0041】
このように、本発明では、(A1)成分として用いる極性基含有プロピレン系重合体の主鎖をステレオブロック構造となすことでその結晶性を低下させ、それによって成形体の柔軟性を高めているが、この柔軟性の向上は、極性基含有プロピレン系重合体のDSCによる融解熱量が50J/g未満であるとき、特に顕著に現れる。
【0042】
本発明におけるDSCの測定法は以下の通りである。
DuPont社製熱分析システムTA2000を使用し、以下の方法で測定を行った。試料(約5〜10mg)を、200℃で5分間融解後、10℃/minの速度で20℃まで降温し、5分間同温度で保持した後に、10℃/minで200℃まで昇温することにより融解曲線を得て、最後の昇温段階における主吸熱ピークのピークトップ温度を融点として求めた。融解熱量は、この主吸熱ピークとベースラインとで囲まれる領域の面積から求めた。ところで、融解熱量が小さい場合、ベースラインの変動と真の吸熱ピークとの判別が困難な場合がある。この場合には、上述の降温過程において、結晶化による発熱ピークが存在し、それが、吸熱ピークと対応するかどうかを確認する。対応する発熱ピークが存在すれば、結晶融解にもとづく真の吸熱ピークが存在すると判別し、そうでない場合には、ベースラインの変動と判別する。
【0043】
[2]分子量
本発明の極性基含有プロピレン系重合体については、分子量に関する制限は特にない。しかしながら、成形性などを考慮して、一般的には、重量平均分子量Mwとして、500以上、好ましくは1000以上であって、100万以下、好ましくは50万以下の範囲とすることが好ましい。ここで、極性基含有プロピレン系重合体の重量平均分子量Mwは、GPCにより、以下の条件で測定するものである。
【0044】
装置: Waters社製HLC/GPC 150C
カラム温度:135℃
溶媒: o−ジクロロベンゼン
流量: 1.0ml/min
カラム: 東ソー株式会社製GMHHR−H(S)HT 60cm×1
注入量: 500μl(濾過処理)
溶液濃度: 1.0mg/ml
試料調整: o−ジクロロベンゼンを用い、1.0mg/mlの溶液に調整し140℃で1〜3時間溶解させる。
分子量の算出:標準試料として市販の単分散のポリスチレンを使用し、該ポリスチレン標準試料およびポリプロピレンの粘度式から、保持時間と分子量に関する校正曲線を作成し、プロピレン重合体の分子量の算出を行う。なお、粘度式としては、[η]=KMαを使用し、ポリスチレンに対しては、K=1.38E−4、α=0.70、ポリプロピレンに対しては、K=1.03E−4、α=0.78を使用する。
【0045】
(A2)結晶性プロピレン系重合体
本発明の(A2)成分は、結晶性プロピレン系重合体である。ここで、プロピレン系重合体とは、プロピレンを主要な構成単位とする重合体であり、プロピレン単独重合体や、プロピレンとプロピレン以外のα−オレフィンとの共重合体、または、これらの混合物である。共重合体の場合、プロピレン以外のα−オレフィンは、炭素数2〜20のモノオレフィンであり、その含有量は20重量%以下、より好ましくは10重量%以下である。プロピレン系重合体の構造、たとえば、立体規則性、分子量、分子量分布等については特に制限はなく、目的に応じて必要な構造を有するものを使用することができる。
【0046】
結晶性プロピレン系重合体はDSC測定時の融点Tmが130℃以上であることが好ましい。より好ましくは140℃以上であり、更に好ましくは150℃以上で、最も好ましくは160℃以上である。130℃より高いほど、結晶性が高いため成形体の剛性・耐熱性が向上する。また結晶性プロピレン系重合体はDSC測定時の結晶融解熱量ΔHが60J/g以上であることが好ましく、より好ましくは70J/g以上であり、更に好ましくは80J/g以上であり、最も好ましくは90J/g以上である。ΔHが60J/gより大きいほど、結晶性が高いため成形体の剛性・耐熱性が向上する。
【0047】
本発明の軟質プロピレン系樹脂組成物を工業部品に応用する場合、結晶性プロピレン系重合体として、(i)プロピレン・エチレンブロック共重合体、(ii)プロピレン単独重合体、(iii)プロピレン・エチレンランダム共重合体が、好適に用いられる。以下、これらについて、さらに詳しく説明するが、結晶性プロピレン系重合体として、下記の特性を満たす限り市販品を使用することもできる。
【0048】
(i)プロピレン・エチレンブロック共重合体
プロピレン・エチレンブロック共重合体として好ましく用いられるのは、アイソタクチックペンタッド分率が0.9以上のプロピレン単独重合体部分と、ガラス転移温度が−30℃以下であり、135℃デカリン中で測定される固有粘度[η]が3〜15(dl/g)のエチレン・プロピレン共重合体部分を有するものである。プロピレン単独重合体部分は、全共重合体中80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、更に好ましくは95重量%以上を占めるのが好ましい。
【0049】
プロピレン単独重合体部分のアイソタクチックペンタッド分率は、通常0.9以上、好ましくは0.950以上、より好ましくは0.980以上が好ましい。アイソタクチックペンタッド分率が高いほど、一般に、得られる成形体の剛性や耐熱性が向上する。アイソタクチックペンタッド分率とは、13C−NMRを使用する方法で測定されるポリプロピレン分子鎖中のペンタッド単位でのアイソタクチック分率である。換言すれば、アイソタクチックペンタッド分率は、プロピレンモノマー単位が5個接続してメソ結合した連鎖の中心にあるプロピレンモノマー単位の分率である。具体的には13C−NMRスペクトルにおけるメチル炭素領域の全吸収ピーク中のmmmmペンタッドに由来するピークの強度分率として、アイソタクチックペンタッド分率を測定する。
【0050】
アイソタクチックペンタッド分率が0.9以上のプロピレン単独重合体部分は、エチレンとプロピレンを共重合する際、立体規則性触媒を用いて重合することにより製造することができる。立体規則性触媒としては、(a)三塩化チタン系触媒、(b)マグネシウム化合物担持触媒、(c)シングルサイト触媒を例示することができる。(a)三塩化チタン系触媒の代表的な例として、四塩化チタンを有機アルミニウム化合物で還元し、さらに各種の電子供与体および電子受容体で処理して得られた三塩化チタン組成物と有機アルミニウム化合物ならびにカルボン酸エステルを組み合わせた触媒を挙げることができる。(b)マグネシウム化合物担持触媒の代表的な例としては、ハロゲン化マグネシウムに四塩化チタンと電子供与体を接触させた固体触媒成分と、有機アルミニウム化合物ならびにアルコキシシランを組み合わせた触媒を挙げることができる。(c)シングルサイト触媒は、シクロペンタジエニル配位子を有するメタロセン触媒と、シクロペンタジエニル配位子を持たないいわゆるポストメタロセン触媒の二つに大別でき、いずれも、遷移金属錯体と活性化剤との組み合わせからなる触媒である。
【0051】
プロピレン単独重合体部分のメルトフローレート(MFR)は、通常0.1g/10min以上、好ましくは0.5g/10min以上であり、通常300g/10min以下、好ましくは250g/10min以下である。MFRを0.1g/10min以上とすることで、軟質プロピレン系樹脂組成物の流動性が高まり、また300g/10min以下とすることで耐衝撃性の低下を防ぐことができるため、それぞれ好ましい。
なお、プロピレン単独重合体部分のMFRは、JIS K7210条件14に基づき、温度230℃、荷重21.18Nで測定する。プロピレン単独重合体部分のMFRは、プロピレン単独重合体部分の重合時に、重合温度や水素濃度を制御することによって調整することができる。
【0052】
プロピレン・エチレン共重合体部分は、エチレンとプロピレンが前記した触媒のもとで共重合され製造されるが、共重合の際、更にその他の共重合モノマーとして、ブテン、ペンテン、ヘキセン、オクテン等の任意のα−オレフィンも使用することができる。もっとも好ましい共重合体部分は、プロピレン単独重合体部分との相溶性や靭性の観点から、プロピレンとエチレンの共重合体部分である。
【0053】
このプロピレン・エチレン共重合体部分の135℃デカリン中で測定される固有粘度[η]は通常3dl/g以上、好ましくは4dl/g以上、より好ましくは5dl/g以上であり、通常15dl/g以下、好ましくは12dl/g以下、より好ましくは10dl/g以下である。固有粘度が3dl/g以上であることで、共重合体部分そのものの靭性が優れ、15dl/g以下とすることで共重合体部分の分散性が向上し、それぞれ耐衝撃性の向上要因となる。なお、このプロピレン・エチレン共重合体部分の固有粘度は、重合温度や、共重合体成分を重合する際に添加する水素の添加量を調整することによって制御される。
【0054】
また、プロピレン・エチレン共重合体部分は、ガラス転移温度が−30℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度が−30℃以下であると、低温での耐衝撃特性が向上するため、特に、低温耐衝撃性が要求される用途においては好ましい。なお、プロピレン・エチレン共重合体部分のガラス転移温度は、動的固体粘弾性測定装置により測定する。また、プロピレン・エチレン共重合体部分のガラス転移温度は、プロピレンに対するエチレン及び他の共重合モノマーとの共重合比によって制御することができる。一般的には、プロピレンに対するエチレン及びα−オレフィン(エチレンおよびプロピレンを除く)との共重合比は、重量比で、通常1/99以上、好ましくは10/90以上、さらに好ましくは20/80以上であって、通常99/1以下、好ましくは90/10以下、さらに好ましくは80/20以下である。
【0055】
このプロピレン・エチレンブロック共重合体は、従来公知の任意の方法によりプロピレン、エチレン、必要に応じ他のα−オレフィンを共重合することにより製造できる。重合方法としては、例えば、気相重合法、塊状重合法、溶液重合法、スラリー重合法などを挙げることができ、1つの反応器でバッチ式に重合したり、複数の反応器を組み合わせて連続式に重合したりしてもよい。
【0056】
(ii)プロピレン単独重合体
プロピレン単独重合体として好ましく用いられるのは、アイソタクチックペンタッド分率0.9以上、MFRが、通常0.1g/10min以上、好ましくは0.2g/10min以上、より好ましくは0.5g/10min以上であって、通常300g/10min以下、好ましくは250g/10min以下、より好ましくは200g/10min以下のプロピレン単独重合体である。MFRを0.1g/10min以上とすることで、軟質プロピレン系樹脂組成物の流動性が高まり、また300g/10min以下とすることで耐衝撃性の低下を防ぐことができるため、それぞれ好ましい。
本重合体を得るための触媒としては、(i)プロピレン・エチレンブロック共重合体の項に記載した触媒を使用することができ、MFRの制御方法や製造プロセスについても同様である。
【0057】
(iii)プロピレン・エチレンランダム共重合体
プロピレン・エチレンランダム共重合体として好ましく用いられるのは、エチレン含量が0.1〜10重量%、MFRが通常0.1g/10min以上、好ましくは0.2g/10min以上、より好ましくは0.5g/10min以上であって、300g/10min以下、好ましくは250g/10min以下、より好ましくは200g/10min以下のプロピレン・エチレンランダム共重合体である。MFRを0.1g/10min以上とすることで、軟質プロピレン系樹脂組成物の流動性が高まり、また300g/10min以下とすることで耐衝撃性の低下を防ぐことができるため、それぞれ好ましい。本共重合体を得るための触媒としては、(i)プロピレン・エチレンブロック共重合体の項に記載した触媒を使用することができる。MFRの制御方法についても同様である。
なお、プロピレンとエチレン以外に、他の少量のα−オレフィンを共重合しても良い。エチレン含量は、重合槽において、プロピレンとエチレンの比率を変えることによって制御できる。一般的には、エチレン含量は、0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、10重量%以下、好ましくは8重量%以下である。
【0058】
(A3)エチレン系共重合ゴム
本発明における軟質プロピレン系樹脂組成物に、更にエチレン系共重合ゴムを含有させることができ、それによって柔軟性をより向上させることができる。エチレン系共重合ゴムは、通常、エチレンとプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン等のα−オレフィンが共重合してなるエラストマーあるいはこれらと非共役ジエンとが共重合してなるエチレン系共重合体ゴムを指す。
【0059】
上記非共役ジエンとしては、5−エチリデン−2−ノルボルネン(ENB)、1,4−ヘキサジエン、5−メチレン−2−ノルボルネン(MNB)、1,6−オクタジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、3,7−ジメチル−1,6−オクタジエン、1,3−シクロペンタジエン、1,4−シクロヘキサジエン、テトラヒドロインデン、メチルテトラヒドロインデン、ジシクロペンタジエン、5−イソプロピリデン−2−ノルボルネン、5−ビニル−ノルボルネン、ジシクロオクタジエン、メチレンノルボルネン等を挙げることができる。
【0060】
エチレン系共重合体ゴム(A3)の具体例としては、例えば、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体ゴム、エチレン−1−ブテン共重合体ゴム、エチレン−1−ブテン−非共役ジエン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−1−ブテン共重合体ゴム等が挙げられる。
【0061】
(B)無機フィラー
本発明の軟質プロピレン系樹脂組成物は、無機フィラーを含有する。無機フィラーを配合することにより、例えば組成物の曲げ弾性率、剛性などの機械的性質を向上させたり難燃性を付与したりすることができる。
【0062】
具体的には、タルク、マイカ、モンモリロナイト等の板状フィラー;短繊維ガラス繊維、長繊維ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、ゾノライト等の繊維状フィラー;チタン酸カリウム、マグネシウムオキシサルフェート、窒化珪素、ホウ酸アルミニウム、塩基性硫酸マグネシウム、酸化亜鉛、ワラストナイト、炭酸カルシウム、炭化珪素等の針状(ウイスカー)フィラー;沈降性炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の粒状フィラー;ガラスバルーンのようなバルン状フィラー等である。亜鉛華、チタン白、硫酸マグネシウム等の無機充填剤や水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の無機金属水和物、顔料も使用できる。無機フィラーは、界面活性剤、カップリング剤等で表面処理を施されていてもよい。表面処理したフィラーは組成物の強度や耐熱剛性をさらに向上させる効果を有する。
【0063】
なかでも、難燃性を付与するためには無機金属水和物(金属水酸化物、金属水和物)が好ましい。無機金属水和物の具体例としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、水化珪酸アルミニウム、オルト珪酸アルミニウム、水化珪酸マグネシウム、ハイドロタルサイト等の水酸基あるいは結晶水を有する無機金属化合物が挙げられる。これらの金属水和物は1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよいが、最も好ましいものは水酸化マグネシウムである。これらの金属水和物においては0.3〜5.0μmの範囲の結晶粒子径を有しているもので、凝集が殆ど無いものが好ましい。このようなものとしては、例えば協和化学工業株式会社製水酸化マグネシウム系難燃剤キスマ5(登録商標)がある。中でもキスマ5A、5B、5E、5Jなど表面処理を施したグレ−ドが好ましい。
【0064】
[2]成分(A1):極性基を有するプロピレン系重合体の製造方法
成分(A1)の製造方法は、(i)ステレオブロック構造を有するプロピレン系重合体を製造し、その後極性基含有モノマー(極性モノマー)にてグラフト変性する方法と、(ii)プロピレンを、要すれば共重合モノマー成分と共に極性基含有モノマーと直接共重合する方法のふたつに大別できる。
(i)と(ii)を比較すると、(i)の方が、プロピレン系重合体のステレオブロック構造や極性基の付加量が制御しやすく好ましい。
【0065】
(i)ステレオブロック構造を有するプロピレン系重合体を製造し、その後極性モノマーにてグラフト変性する方法
本方法のうち、なかでも好ましい製法としては、シングルサイト触媒によってプロピレン系重合体を製造し、それを極性基含有モノマーにて変性する方法を挙げることができる。
【0066】
<プロピレン系重合体の製造>
プロピレン系重合体は、シングルサイト触媒を用いた重合方法によって得られるものが好ましく、その理由としては、一般にシングルサイト触媒が、リガンドのデザインによりミクロタクティシティを制御できること、分子量分布や立体規則性分布がシャープであること、分子量の制御が容易であることなどが挙げられる。プロピレン系重合体の分子量分布や立体規則性分布がシャープでない場合には、溶解性に差ができ、部分的に不溶なものができる可能性がある。
【0067】
シングルサイト触媒としては、メタロセン触媒や、いわゆるポストメタロセン触媒がプロピレン重合体を製造する触媒として使用できる。ここで、メタロセン触媒とは、シクロペンタジエニル配位子を有する遷移金属化合物を含む触媒であり、ポストメタロセン触媒とは、シクロペンタジエニル配位子を含有せず、窒素、酸素、リンなどのヘテロ原子を有する配位子を含有する遷移金属化合物を含む触媒を指す。これらの触媒は、共触媒、すなわち、これらの遷移金属を活性化することのできる化合物と組み合わせて用いられるのが普通である。シングルサイト触媒のなかでは、メタロセン触媒がミクロタクティシティを精密に制御できる点で好適に用いられる。
【0068】
プロピレン系重合体製造用のシングルサイト触媒としては、メタロセン化合物([α]成分)と共触媒([β]成分)を必須成分とするメタロセン系触媒が好ましく用いられる。
【0069】
メタロセン化合物([α]成分)としては、遷移金属含有の架橋基を有するC1−対称性アンサ−メタロセン(ansa−metallocene)が好ましい。非架橋のメタロセンも本発明のプロピレン重合体の製造に適用可能であるが、一般に、架橋基を有するアンサ−メタロセンの方が熱安定性などに優れているため、特に工業的な見地から好ましい。
【0070】
本発明のプロピレン系重合体製造に用いられる遷移金属含有の架橋基を有するアンサ−メタロセンは、共役5員環配位子を有する架橋された4族遷移金属化合物のC1−対称性を有するメタロセンである。このような遷移金属化合物は公知であり、それをα−オレフィン重合用触媒成分として使用することも知られている。
【0071】
プロピレン系重合体の製造に好ましく用いられる[α]成分のメタロセンは、下記一般式(I)で表され、かつ、C1−対称性を有する化合物である。また、該一般式で表される複数のメタロセンを混合して用いてもよい。
【0072】
[化1]
Q(C64-a1a)(C54-b2a)MX11 (I)
一般式(I)において、Qは2つの共役5員環配位子を架橋する結合性基を、Mは周期律表4族遷移金属を、X1及びY1は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20の酸素含有炭化水素基、炭素数1〜20の窒素含有炭化水素基、炭素数1〜20のリン含有炭化水素基又は炭素数1〜20のケイ素含有炭化水素基を示す。R1及びR2はそれぞれ独立して、炭素数1〜20の炭化水素基、ハロゲン、炭素数1〜20のハロゲン含有炭化水素基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ケイ素含有炭化水素基、リン含有炭化水素基、窒素含有炭化水素基又はホウ素含有炭化水素基を示す。また、隣接する2個のR1及び/又はR2がそれぞれ結合して4〜10員環を形成していてもよい。a及びbは、それぞれ独立して、0≦a≦4、0≦b≦4を満足する整数である。本発明においては、上記一般式(I)で表されるメタロセンがC1−対称性を有していればよいので、C1−対称性が保持されるかぎり、R1とR2は同じであっても良いし、異なっていてもよい。
【0073】
本発明の前記特性を有する(A1)成分を得るためのプロピレン重合体の製造には、上記一般式(I)で表されるメタロセンの中でも、ジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4−ジメチル−4H−1−アズレニル)]ハフニウム、ジクロロ[ ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4−ジメチル−4H−5,6,7,8−テトラヒドロ−1−アズレニル)]ハフニウムなどが好適に用いられる。ジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2−エチル−4−メチル−4H−1−アズレニル)]ハフニウム、ジクロロ[ジメチルゲルミレン(シクロペンタジエニル)(2,4−ジメチル−4H−1−アズレニル)]ハフニウム、ジクロロ{1,1’−ジメチルシリレン[2−メチルベンゾ[e]インデニル][2−メチル−4−フェニル−4H−アズレニル]}ハフニウム、ジクロロ{1,1’−ジメチルシリレン[2−メチルベンゾ[e]インデニル][2−メチル−4−(p−t−ブチルフェニル)−4H−アズレニル]}ハフニウムも好適な触媒である。
【0074】
本発明において[α]成分メタロセン化合物の共触媒([β]成分)として用いられる助触媒としては、必須成分として(1)有機アルミニウムオキシ化合物、(2)[α]成分の遷移金属と反応して[α]成分をカチオンに交換することが可能なイオン性化合物、(3)ルイス酸、及び(4)ケイ酸塩を除くイオン交換性層状化合物又は無機ケイ酸塩、からなる群より選択される一種以上の物質を用いる。
【0075】
本発明で使用されるプロピレン系重合体の製造で、共触媒[β]成分の他に任意成分[γ]として有機アルミニウム化合物を用いてもよい。このような有機アルミニウム化合物は、一般式、AlR3m3-m(式中、R3は、炭素数1〜20の炭化水素基、Zは、水素、ハロゲン、アルコキシ基若しくはアリールオキシ基、mは0<m≦3の数)で示される化合物である。具体的にはトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム、又はジエチルアルミニウムモノクロライド、ジエチルアルミニウムエトキシド等のハロゲン若しくはアルコキシ含有アルキルアルミニウム、又は、ジエチルアルミニウムハイドライド、ジイソブチルアルミニウムハイドライド等の水素含有有機アルミニウム化合物である。またこの他、メチルアルミノキサン等のアルミノキサン等も使用できる。これらのうち、特に好ましいのはトリアルキルアルミニウムである。これら任意成分は2種以上組み合わせて用いてもよい。また、重合開始後等に、新たに任意成分[γ]を追加してもよい。
【0076】
プロピレン等の重合用の触媒は、[α]成分、[β]成分、及び任意の[γ]成分の接触によって得られるが、その接触方法については特に限定がない。この接触は、触媒調製時だけでなく、プロピレン等の予備重合時又は重合時に行ってもよい。触媒各成分の接触時、又は接触後にプロピレン系重合体、シリカ、アルミナ等の無機酸化物の固体を共存させるか、若しくは接触させてもよい。
【0077】
触媒各成分の使用量に特に制限はないが、[β]成分として、ケイ酸塩を除くイオン交換性層状化合物、又は無機ケイ酸塩を用いる場合は、[β]成分1gあたり[α]成分が0.0001〜10mmol、好ましくは0.001〜5mmolであり、[γ]成分が0〜10,000mmol、好ましくは0.01〜100mmolである。また、[α]成分中の遷移金属と[γ]成分中のアルミニウムの原子比が1:0〜1,000,000、好ましくは、1:0.1〜100,000となるように制御することが、重合活性などの点で好ましい。上記触媒成分については、特開2003−201322号公報に詳しく記載されている。
【0078】
触媒として、プロピレンや、エチレン、または他のα−オレフィンを予備的に重合し、必要に応じて洗浄したものを使用することもできる。これらの予備重合モノマーは、2種類以上のオレフィンの混合物であってもよい。また、水素を共存させてもよい。この予備重合は窒素等の不活性ガス中、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレン等の不活性炭化水素溶媒中で行ってもよい。プロピレンの重合反応は、プロパン、n−ブタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の不活性炭化水素や液化プロピレンの液体の存在下或いは不在下に行われる。これらのうち、上述の不活性炭化水素存在下で重合を行うのが好ましい。
【0079】
具体的には、触媒として[α]成分と[β]成分、又は[α]成分と[β]成分と[γ]成分との存在下に、プロピレン重合体を製造する。重合温度、重合圧力、及び重合時間に特に制限はないが、通常は、以下の範囲から生産性やプロセスの能力を考慮して、最適な設定を行うことができる。すなわち、重合温度は、通常20〜150℃、好ましくは40〜100℃、重合圧力は、0.1MPa〜100MPa、好ましくは、0.3MPa〜10MPa、更に好ましくは、0.5MPa〜4MPa、重合時間は、0.1時間〜10時間、好ましくは、0.3時間〜7時間、更に好ましくは0.5時間〜6時間の範囲から選ばれる。
【0080】
<極性モノマーによる変性方法>
本発明においては、上記重合方法により製造したプロピレン系重合体を極性モノマーによりグラフト変性(グラフト共重合)し、(A1)成分を製造する。極性モノマーとしては、前述の極性モノマー、例えば、極性基としてカルボン酸基を有するプロピレン系重合体の場合は、(メタ)アクリル酸およびその酸誘導体並びにモノオレフィンジカルボン酸、その無水物およびそのモノエステル類から適宜選ばれる。グラフト変性プロピレン系重合体中における極性モノマー、即ちカルボン酸基等を含有する重合性単量体の含有量(グラフト率)について特に制限はないが、成形性、易延伸性、塗装性がバランス良く良好となるように、通常0.3重量%以上、好ましくは0.5重量%以上であって、通常8.0重量%以下、好ましくは6.0重量%以下となるようにグラフト共重合する。
【0081】
極性モノマーをグラフト共重合させる方法としては、種々の公知の方法が挙げられる。例えば、プロピレン系重合体を有機溶媒に溶解し、極性モノマーおよびラジカル重合開始剤を添加して加熱攪拌することによりグラフト共重合反応を行う方法(いわゆる溶液変性)、実質的に溶媒を使用することなく、プロピレン系重合体、極性モノマーおよびラジカル重合開始剤を加熱溶融させて攪拌することによりグラフト共重合反応を行う方法、押出機を用いて、プロピレン系重合体、極性モノマーおよびラジカル重合開始剤を溶融混練することによりグラフト共重合反応を行う方法(いわゆる溶融変性)が挙げられる。
これらのうち、溶液変性法は、変性率の制御が比較的容易であるうえ、変性後に変性重合体を容易に洗浄できる点で好ましい。一方、溶融変性法は、低コストで一度に大量に変性を行いやすい点で好ましい。これらの方法は1種類でも2種類以上を組み合わせても良い。例えば溶融変性した後に、さらに溶液変性することもできる。
【0082】
(ii)プロピレンを、要すれば共重合モノマー成分と共に極性モノマーを直接共重合する方法
この方法は、プロピレン等の重合触媒として、IV族の遷移金属を有する触媒を用いる方法と、V〜VIII族の遷移金属を有する触媒を用いる方法に大別できる。両者に共通して応用可能な方法の一つは、極性モノマーの極性基をマスクして、触媒を被毒しないようにしてプロピレン等と共重合する方法である。例えば、極性モノマーとしての水酸基を有するビニルモノマーに、有機アルミニウム化合物を反応させることによって、水酸基をマスクすることができる。また、別の方法としては、極性モノマーの極性基と重合に関わる炭素−炭素二重結合のあいだに、メチレン基のようなスペーサーをいれ、両者の間隔を離すことによってプロピレンと共重合する方法が挙げられる。また、V〜VIII族の遷移金属を有する触媒を用いる場合には、これらの遷移金属は、比較的極性基に対する耐性が強いので、極性基をマスクすることなく、直接プロピレンとの共重合が可能な場合がある。
【0083】
[3] 軟質プロピレン系樹脂組成物の調製
本発明の軟質プロピレン系樹脂組成物の調製方法は、特に制限なく、従来公知の方法で、各配合成分を混合し、溶融混練することにより製造される。すなわち、本発明の軟質プロピレン系樹脂組成物は、組成物を構成する各配合成分を配合し、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロールミキサー、ブラベンダープラストグラフ、ニーダー等の通常の混練機を用いて混練・造粒することによって得られる。
この場合、各成分の分散を良好にすることができる混練・造粒方法を選択することが好ましく、通常は二軸押出機を用いて行われる。この混練・造粒の際には、各成分の配合物を同時に混練してもよく、また性能向上をはかるべく各成分を分割して混練することもでき、例えば、まず極性基含有プロピレン系重合体(A1)の一部または全部と無機金属水和物とを混練し、その後に残りの成分を混練・造粒するといった方法を採用することもできる。
【0084】
本発明の軟質プロピレン系樹脂組成物中における(A1)極性基含有プロピレン系重合体及び(A2)結晶性プロピレン系重合体の混合比率は、成分(A1)及び(A2)の合計量を100重量部とした時、極性基含有プロピレン系重合体(A1)の量は、通常5〜40重量部である。極性基含有プロピレン系重合体(A1)の割合が上記上限を超えると、耐磨耗性、耐傷付き性、難燃性が損なわれ、一方、極性基含有プロピレン系重合体(A1)の割合が上記下限より少なくなると、引張り特性、柔軟性が悪くなる。好ましくは(A1)の量は10重量部以上であり、また好ましくは30重量部以下である。結晶性プロピレン系重合体(A2)の量は、通常60〜95重量部である。結晶性プロピレン系重合体(A2)の割合が上記上限を超えると柔軟性が損なわれ、一方、結晶性プロピレン系重合体(A2)の割合が上記下限より少なくなると、耐磨耗性、耐傷付き性が悪くなる。好ましくは(A2)の量は70重量部以上であり、また好ましくは90重量部以下である。
【0085】
本発明の軟質プロピレン系樹脂組成物が更にエチレン系共重合ゴム(A3)を含有する場合は、成分(A1)、成分(A2)及び成分(A3)の合計量を100重量部とした時、通常0〜25重量部である。(A3)を少量添加すると、耐寒性が向上するため、好ましくは0.1重量部以上であり、より好ましくは1重量部以上であり、更に好ましくは5重量部以上である。また、耐摩耗性、耐傷付き性を保つためには、通常25重量部以下とし、好ましくは20重量部以下、より好ましくは15重量部以下とする。耐摩耗性、耐傷付き性を重視する場合は(A3)は添加しないことが望ましい。
(B)無機フィラーの割合は、成分(A1)及び成分(A2)の合計量100重量部に対し、80〜200重量部であることが好ましい。無機フィラーの割合が上記上限を超えると、流動性、引張り特性、柔軟性が悪くなり、一方、上記下限より少なくなると、難燃性が悪くなる。好ましい下限値は100重量部、より好ましくは120重量部であり、好ましい上限値は180重量部である。
【0086】
(i)他の配合剤
本発明の軟質プロピレン系樹脂組成物には、上述した成分の他に、必要に応じて、本発明の効果が著しく損なわれない範囲内で、その他の成分が配合されていてもよい。このような他の配合成分としては、着色するための顔料、フェノール系、イオウ系、リン系などの酸化防止剤、帯電防止剤、ヒンダードアミン等の光安定剤、紫外線吸収剤、有機アルミ・タルク等の各種核剤、分散剤、中和剤、発泡剤、銅害防止剤、滑剤等を挙げることができる。
【0087】
[4]成形
本発明の軟質プロピレン系樹脂組成物は、公知の各種成形方法に適用することができる。成形方法としては、例えば射出成形(ガス射出成形も含む)、射出圧縮成形(プレスインジェクション)、押出成形、中空成形、カレンダー成形、インフレーション成形、一軸延伸フィルム成形、二軸延伸フィルム成形等が挙げられ、これらの方法により成形することによって各種成形品を得ることができる。
【0088】
本発明の軟質プロピレン系樹脂組成物は、柔軟性、引張り特性、難燃性、耐磨耗性、耐傷付き性などの特性をバランスよく満足する。そのような特性を満たす用途としてワイヤーハーネス用の電線被覆材が挙げられる。ワイヤーハーネスとしては、イモビライザー用ハーネス、車両コントロール用ヒューズボックス、バッテリーケーブル、建設機械車両用メインハーネス、大型観光バス用後方ハーネス、エンジンルーム用ハーネス、EV車用コントロールハーネス、非常信号燈ハーネス、GPSアンテナ用ケーブル、乗用車用電動シートハーネス、農耕機械車両用メインハーネス、複写機用ハーネス等がある。
【実施例】
【0089】
次に実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限りこれら実施例によって制約を受けるものではない。
【0090】
各種物性の測定は、下記要領に従った。
(1)MFR:JIS―K7210に準拠し、230℃、2.16kg荷重で行った。
(2)曲げ弾性率(単位:MPa):ASTM D790に準拠して23℃で測定した。
(3)引張破断点応力(単位:MPa)、引張破断点伸び(単位:%):ASTM D638に基づいて測定した。
(4)テーバー磨耗試験:磨耗輪(CS−17)回転数(1000rpm)
磨耗量 100mg未満 ○
磨耗量 100mg以上 ×
【0091】
(5)難燃性:
厚さ3mmのシートに対し、UL94規格 垂直燃焼試験を行った。
自己消火するもの ○
クランプまで燃焼するもの ×
(6)耐折り曲げ白化性:
試験片を手で折り曲げ、目視にて白化程度を評価した。
白化が残らないもの ○
白化が若干観察されるもの △
白化がひどいもの ×
【0092】
<(A1)極性基含有プロピレン系重合体の製造例>
以下の諸例において、メタロセンの合成工程は全て精製窒素雰囲気下で行い、エ−テルおよびTHFはNa−ベンゾフェノンで乾燥したものを用いた。トルエン及びn−ヘキサンは関東化学から購入した脱水溶媒を用いた。重合工程は、全て精製窒素雰囲気下で行い、溶媒は、モレキュラーシーブ(MS−4A)で脱水した後に、精製窒素でバブリングして脱気して使用した。プロピレン系重合体の分子量ならびに融点の測定については、本明細書記載の方法で行った。
【0093】
[製造例1]
<ステレオブロック単独プロピレン重合体>
(1) ジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4−ジメチル−4H−1−アズレニル)]ハフニウムの合成
特開2003−201322号に記載の合成方法により配位子および金属錯体の合成を行った。得られた錯体の1H−NMRデータは以下の通りであった。
1H−NMR(CDCl3):δ0.85(s,3H),0.86(s,3H),1.47(d,J=7.1Hz,3H),2.25(s,3H),3.42−3.52(m,1H),5.42(dd,J=4.7,10.1Hz,1H),5.80−5.85(m,2H),5.90−5.95(m,1H),6.16−6.20(m,2H),6.65(d,J=11.4Hz),6.80−6.85(m,1H),6.98−7.02(m,1H)。
【0094】
(1)−2 錯体合成
(1)で得られた配位子(10.56g,37.6mmol)をテトラヒドロフラン(90ml)で溶解し、アイスバスにて5℃に冷却した。同温度に保ちながら、そこにn−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液(1.59mol/l,47.3ml,75.2mmol)をゆっくり滴下した。滴下終了後、アイスバスをはずして2時間攪拌し、減圧下に溶媒を留去した。留去後得られた残渣にテトラヒドロフラン(10ml)とトルエン(200ml)を加えた後、78℃に冷却した。そこにジルコニウムテトラクロリド(8.73g,37.5mmol)をゆっくり添加した。その後、冷却浴をはずして終夜攪拌した。攪拌終了後、反応液をG3フリットで濾過した。フリット上の固体をさらにトルエンで洗浄し、濾液を濃縮することにより、褐色の粉末が得られた。得られた褐色粉末に、トルエン(70ml)および、n−ヘキサン(100ml)を加えた。上澄み液を分取した後、それを濃縮した。濃縮後の残渣をn−ヘキサン(20ml,2回)、ジエチルエーテル(15ml,2回)で洗浄した。この洗浄操作を更に2回繰り返した後、乾固することにより目的錯体を得た(2.29g,収率13.8%)。
【0095】
(2) 粘土鉱物の化学処理
1000ml丸底フラスコに、脱塩水(72ml)、硫酸リチウム・1水和物(11g)および硫酸(17g)を採取し、攪拌下に溶解させた。この溶液に、市販の造粒モンモリロナイト(水澤化学社製ベンクレイSL)22gを分散させ、100℃まで昇温し、5時間攪拌を行った。その後、1時間かけて室温まで冷却し、得られたスラリーを濾過してウェットケーキを回収した。回収したケーキを1000ml丸底フラスコにて、脱塩水(500ml)にて再度スラリー化し、濾過を行った。この操作を3回繰り返した。最終的に得られたケーキを、窒素雰囲気下200℃で1時間減圧下に乾燥し、化学処理モンモリロナイト(15.6g)を得た。
【0096】
(3) 触媒調製
(2)で得られた化学処理モンモリロナイト(3g)に、トリイソブチルアルミニウムのトルエン溶液(0.5mmol/ml)12.0mlを加え、室温で30分間攪拌した。この懸濁液にトルエン(75ml)を加え、攪拌後、上澄みを除いた。この操作を2回繰り返した後、トルエンを加えて、粘土スラリー(スラリー濃度=99mg粘土/ml)を得た。
別のフラスコに、トリイソブチルアルミニウム(0.18mmol、日本アルキルアルミ社製)を採取し、ここで得られた粘土スラリー全量及び製造例1の(1)で得られた錯体(46.7mg,90μmol)のトルエン希釈液を加え、室温で10分間撹拌し、触媒スラリーを得た。
【0097】
(4) プロピレン重合
次いで、内容積24リットルの誘導攪拌式オートクレーブ内に、トルエン(13リットル)、トリイソブチルアルミニウム(1.5mmol)及び液体プロピレン(3.2リットル)を導入した。室温で、上記触媒スラリーを全量導入し、50℃まで昇温し重合時の全圧を0.6MPaで一定に保持しながら、同温度で2時間攪拌を継続した。攪拌終了後、未反応プロピレンをパージして重合を停止した。オートクレーブを開放してポリマーのトルエン溶液を全量回収し、溶媒を除去したところ、2.76kgのプロピレン重合体が得られた。
【0098】
(5)分析
得られたプロピレン重合体を分析したところ、以下の結果が得られた。
GPCによる重量平均分子量Mw:328,000(ポリスチレン換算)
13C−NMRによる頭−尾(head to tail)結合からなるプロピレン単位連鎖部のメチル基の炭素原子に由来するピークを観測し、mmmmで表されるペンタッドに帰属されるピークトップのケミカルシフトを21.8ppmとした際に、19.8ppmから22.1ppmに現れるピークの総面積Sに対する、21.8ppmをピークトップとするピークの面積S1の比率(S1/S)は42.1%であり、21.5〜21.6ppmをピークトップとするピーク(mmmr)の面積S2のSに対する比率(S2/S)は15.9%であった。従って4+2(S1/S2)=9.3となった。DSC測定を行ったところ、融点ピークは61.1℃、結晶融解熱量は0.5J/gであった。
【0099】
[製造例2]
<無水マレイン酸基含有ステレオブロック単独プロピレン重合体>
温度計、冷却管、及び攪拌機を備えたガラスフラスコ中に、[製造例1]で合成したプロピレン重合体200g及びトルエン1800gを仕込み、窒素雰囲気下、系内温度を110℃に昇温し溶解した。続いて、無水マレイン酸を30分おきに2.0gずつ5回(合計10g)、及びt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(日本油脂(株)製 商品名パーチブルI)を30分おきに1.4gずつ7回(合計9.8g)、同温度で滴下した後(無水マレイン酸は2時間かけて滴下、パーチブルIは3時間かけて滴下)、2時間熟成反応を行った。反応終了後、室温付近まで冷却し、反応液を4.0kgのアセトン中に投入し、析出した無水マレイン酸変性プロピレン重合体を濾別した。得られた変性プロピレン重合体を、再度2.0kgのアセトン中に投入して精製した後、濾別し真空乾燥した。得られた白色粉末状の変性ポリプロピレンの量は182gであった。
【0100】
得られた白色粉末状の変性プロピレン重合体20mg取り出し、重水素化オルトジクロロベンゼン(o−DCB)0.65mlに溶解し、5mmφ試料管に入れ100℃で1H−NMRを、ブルカーバイオスピン社製 AV400にて測定した。試料の1H−NMRスペクトルを見ると、0.2ppm〜2.2ppmにポリプロピレンのピーク(a)があり、無水マレイン酸が結合した部分が2.2〜3.2ppmにピーク(b)があった。
【0101】
変性重合体中の極性基含有モノマー単位のモル比は以下の計算式により求めた。Ixは化学シフト範囲xの積分値を意味する。また、ポリプロピレン(PP)については1ユニットあたり水素6個として計算するため、無水マレイン酸と反応した分の水素を割り戻して計算した。
計算式;
PP:{(Ia+Ib/3)/6}/[{(Ia+Ib/3)/6}+Ib/3]
無水マレイン酸:(Ib/3)/[{(Ia+Ib/3)/6}+Ib/3]
本式から求められる、変性重合体中の無水マレイン酸基を含有するプロピレンユニットのmol比は0.25mol%であった。無水マレイン酸のみの重量%をmol比から換算すると、0.59重量%であった。
【0102】
[製造例3〜6]
<無水マレイン酸基含有ステレオブロック単独プロピレン系重合体>
表1に示す反応条件を用いた以外は製造例2と同様にして反応を行い、無水マレイン酸変性ステレオブロックポリプロピレンを得た。
【0103】
【表1】

PP重合体:製造例1で得られたステレオブロック単独プロピレン系重合体
tBB:t−ブチルベンゼン
MAH:無水マレイン酸
PBI:t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート
【0104】
[製造例7]
<ステレオブロックプロピレン−エチレン共重合体>
(1)ジクロロ{(1,1’一ジメチルシリレン〔2−メチル−1−ベンゾ〔e〕インデニル〕〔2−メチル−4−(4−t−ブチルフェニル)−4H−アズレニル〕}ハフニウムの合成
(i)Li〔2−メチルベンゾ〔e〕インデニル〕塩(A)の合成
2−メチルベンゾ〔e〕インデン(1.87g、10.4mmol)をn−ヘキサン(38mL)に溶解させた溶液に、n−ブチルリチウム(6.6mL、10.5mmol、1.59mol/L)を0℃でシリンジにて添加した。はじめ透明だった溶液は、しだいに濁り、沈殿を形成した。白色懸濁液を室温で24時間撹拌し、カニューレにて濾過した。得られた白色固体を乾燥n−ヘキサン(10mL×2回)で洗浄し、減圧下に乾燥してふわふわした白色固体のリチウム塩(A)(1.84g、収率95%)を得た。
【0105】
(ii)Li〔2−メチル−4−(4−t−ブチルフェニル)アズレニル〕塩(B)の合成
4−t−ブチルフェニルブロミド(8.99g、42.2mmol)のヘキサン/ジイソプロピルエーテル(120mL/60mL)混合溶液を−40℃に冷却し、それにt−ブチルリチウム(59.4mL、84.4mmol、1.42mol/L)のペンタン溶液をゆっくり滴下した。その後、その内温を−5℃まで昇温し、その温度で1.5時間撹拌した。得られた4−t−ブチルフェニルリチウム塩の懸濁液に、2−メチルアズレン(5.6g、39.4mmol)を0℃で添加した。得られた濃青色懸濁液を0℃で3時間撹拌した後、0.5時間かけて室温まで昇温した。ベージュ色の懸濁液から固体成分をカニューレで濾別し、得られた固体を50mLのn−ヘキサンで2回洗浄した。減圧下に恒量まで乾燥し、11gのリチウム塩(B)を得た。
【0106】
(iii)ジメチル(2−メチルベンゾ〔e〕インデニル)クロロシランの合成
上記のリチウム塩(A)(1.504g、8.0mmol)をテトラヒドロフランとジエチルエーテル(1/1)との混合溶液(64mL)に溶解させた。一方、ジメチルジクロロシラン(4.16g、32.32mmol)をテトラヒドロフランとジエチルエーテル(1/1)との混合溶液(32mL)で希釈し、この溶液を、先に得られたリチウム塩(A)の溶液に、−5℃にて1時間かけて滴下した。滴下終了後、速やかに0℃に昇温して撹拌し、さらに室温で2時間撹拌した。淡黄色サスペンジョンから減圧下に溶媒を除去し、黄色ペーストを得た。このペーストからジエチルエーテル(16mL×3回)で抽出操作を行い、得られた溶液をカニューレにて濾過した。濾液を集め、減圧下に溶媒を除去した後、恒量になるまで減圧乾燥を行い、ジメチル(2−メチルベンゾ〔e〕インデニル)クロロシランの粘稠な黄色オイルを得た(2.16g、収率99%)。
【0107】
(iv)ジメチル(2−メチル−1−ベンゾ〔e〕インデニル)(2−メチル−4−(4−t−ブチルフェニル)−4H−1−アズレニル)シランの合成
上記(iii)で得られた2−メチルベンゾ〔e〕インデニルジメチルクロロシラン(1.39g、4.9mmol)をジエチルエーテル(30mL)に希釈した溶液を、上記(ii)で得られたリチウム塩(B)(1.43g、5.1mmol)のN−メチルイミダゾール(10μmol)を含むテトラヒドロフランとジエチルエーテル(1/1)との混合溶媒(30mL)に溶解させた溶液に、温度0℃にて15分間で添加した。同温度で1時間撹拌し、さらに室温で2時間撹拌した。その後、30mLの氷水を反応混合物に加え、迅速に撹拌して反応をクエンチした。水層を分離し、ジエチルエーテル(30mL×2回)で抽出を行った。油層を集め、硫酸マグネシウムで乾燥させた後、濾過し、溶媒並びに揮発分を除去した。更に揮発分を完全に除去し、黄色の固体生成物を得た(2.48g、収率95%)。
【0108】
(v)ジクロロ{(1,1’−ジメチルシリレン〔2−メチル−1−ベンゾ〔e〕インデニル〕〔2−メチル−4−(4−t−ブチルフェニル)−4H−アズレニル〕}ハフニウムの合成
上記(iv)で得られた化合物(2.0g、3.9mmol)をジエチルエーテル(10mL)に溶解させ、この溶液に、−78℃でn−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液(5.1mL、8.0mmol、1.58mol/L)を、シリンジを用いて5分間で添加した。
混合物を撹拌しながら、ゆっくりと室温まで昇温させた後、更に室温にて3時間撹拌を行った。そこにトルエン(70mL)添加し、−75℃まで冷却した後、四塩化ハフニウム(1.28g、4.0mmol)を添加した。懸濁液を徐々に室温まで昇温し、室温で15時間撹拌した。得られた懸濁液をセライト濾過し、減圧下に溶媒を除去し、黄色の粗錯体を得た(2.82g)。
【0109】
1H−NMRにて得られた粗錯体を分析したところ、主成分は2種類の異性体(アンチ/シン=57/43)であった。粗錯体にトルエン(5mL×3回)にて再結晶を施し、固体残渣を減圧乾燥し、アンチ−ジクロロ{1,1,−ジメチルシリレン〔2−メチル−1−ベンゾ〔e〕インデニル〕〔2−メチル−4−(4−t−ブチルフェニル)−4H−アズレニル〕}ハフニウムを淡黄色の粉末として得た(0.45g、収率15%)。また、母液を濃縮・精製することでシン体リッチなジクロロ{1,1,−ジメチルシリレン〔2−メチル−1−ベンゾ〔e〕インデニル〕〔2−メチル−4−(4−t−ブチルフェニル)−4H−アズレニル〕}ハフニウムが得られた。
【0110】
exo−アンチ立体異性体:1H−NMR(CDCl3):δ8.04(d,J=8.08Hz,1H),7.71(d,J=7.84Hz,1H),7.54−7.61(m,2H),7.43−7.49(m,1H),7.41(s,1H),7.21−7.31(m,2H),7.21−7.12(m,3H),6.92(d,J=11.6Hz,1H),6.17(dd,J=11.6,5.56Hz,1H),5.86−5.99(m,2H),5.53(s,1H),4.98−5.02(m,1H),2.59(s,3H),2.16(s,3H),1.22(s,9H),1.21(s,3H),1.14(s,3H)。
exo−シン立体異性体:1H−NMR(CDCl3):δ8.06(d,J=7.36Hz,1H),7.77(d,J=7.84Hz,1H),7.58−7.63(m,2H),7.48−7.54(m,2H),7.17−7.31(m,5H),6.98(d,J=7.84Hz,1H),6.03(dd,J=11.6,5.8Hz,1H),5.78(ddd,J=10.6,5.8,2.0Hz,1H),5.69(dd,J=10.8,5.0Hz,1H),5.64(s,1H),4.63−4.68(m,1H),2.59(s,3H),2.37(s,3H),1.26(s,9H),1.23(s,3H),1.13(s,3H)。
【0111】
(2)粘土鉱物の化学処理
300mL丸底フラスコに、脱塩水(94mL)、硫酸リチウム・1水和物(14.5g)及び硫酸(21.9g)を採取し、撹拌下に溶解させた。この溶液に、市販の造粒モンモリロナイト(水澤化学社製ベンクレイSL、30.5g)を分散させ、10分間かけて沸騰するまで昇温し、沸点(105℃)で120分間撹拌を行った。その後、脱塩水(200mL)を加えて冷却し、得られたスラリーを濾過してウェットケーキを回収した。
回収したケーキを1,000mLビーカーにて、脱塩水(500mL)を用いて再度スラリー化し、濾過を行った。この操作を2回繰り返した。最終的に得られたケーキを、空気下100℃で3時間乾燥し、化学処理モンモリロナイト(26.2g)を得た。
【0112】
(3)予備重合
上記(2)で得られた化学処理モンモリロナイト(1.02g)を200℃で2時間減圧乾燥した。これに、トリエチルアルミニウムのトルエン溶液(0.50mmol/mL、4.0mL)を加え、室温で30分間撹拌した。この懸濁液にトルエン(25mL)を加え、撹拌後、上澄みを除いた。この操作を2回繰り返して粘土スラリーを得た。
【0113】
別のフラスコに、東ソー・アクゾ社製トリイソブチルアルミニウム(0.06mmol)と、合成例(1)(v)で得た錯体(v)(exo−シン立体異性体/exo−アンチ立体異性体=57/43(モル比)、21.1mg、30.0μmol)を加えてあらかじめ反応させトルエン溶液とした。この錯体溶液全量を上記粘土スラリーに加え、室温で1時間撹拌し、触媒スラリーを得た。
【0114】
次いで、内容積2リッターの誘導撹拌式オートクレーブ内に、上記触媒スラリーを全量導入した。さらに、トリイソブチルアルミニウム(0.06mmol)を含有するトルエン(90mL)を導入し、オートクレーブ内に、30℃で液化プロピレン(30mL)を導入し、30℃で90分間予備重合を行った。得られた予備重合触媒スラリーを200mL丸底フラスコに回収し、上澄みを除いた後、トリイソブチルアルミニウム(0.018mmol)を含有したトルエン(70mL)で洗浄した。この予備重合触媒は、固体触媒成分1gあたりポリプロピレン4.0gを含有していた。
【0115】
(4)ステレオブロックプロピレン単独重合体
精製窒素で置換された、いかり型撹拌翼を内蔵する2リッターの誘導撹拌式オートクレーブに、トリイソブチルアルミニウムのトルエン溶液(0.1mmol/mL、5.0mL)を装入した。上記(3)で得た予備重合触媒スラリーを、固体触媒成分として90.4mg装入し、液化プロピレン(500g)を装入した。62℃まで昇温し、重合開始とした。100分後に、モノマーをパージして重合を終わらせた。重合前後のオートクレーブ重量変化よりプロピレン重合体の収量を求めたところ、329gであった。
得られた重合体を分析した。13C−NMRから、mmmmは71.3であった。
【0116】
(5)ステレオブロックプロピレン−エチレン共重合体
精製窒素で置換された、いかり型撹拌翼を内蔵する2リッターの誘導撹拌式オートクレーブに、トリイソブチルアルミニウムのトルエン溶液(0.1mmol/mL、5.0mL)を装入した。上記(3)で得た予備重合触媒スラリーを、固体触媒成分として90.4mg装入し、液化プロピレン(500g)を装入した。さらにエチレンをエチレン分圧として0.70MPa装入後、62℃まで昇温し、重合開始とした。100分後に、モノマーをパージして重合を終わらせた。重合前後のオートクレーブ重量変化よりプロピレン・エチレン共重合体の収量を求めたところ、218gであった。なお、重合中、気相部のエチレン濃度をガスクロマトグラフにより求めたところ、平均34.2mol%であった。
【0117】
得られた共重合体を分析したところ、以下の結果が得られた。13C−NMRにて求めた共重合体中のエチレン含量は、17.1mol%(12.1wt%)であった。また、GPCによる重量平均分子量Mwは294,000(ポリスチレン換算)であった。GPCの測定法は上述のとおりである。DSC測定を行ったところ、融点ピークは115.6℃、結晶融解熱量は28.9J/gであった。
プロピレン−αオレフィン共重合体のmmmmの定義については前述の通りである。本製造例で得られたプロピレン−エチレン共重合体のmmmmは、同様の触媒および重合条件で得られた(4)ステレオブロックプロピレン単独重合体のmmmmが71.3であったことから、71.3と同程度であると考えられる。
【0118】
[製造例8]
<無水マレイン酸基含有ステレオブロックプロピレン−エチレン共重合体>
予め、パーオキサイド(日本油脂(株)製 商品名 パーロイルTCP)5gをトルエン95gと混合し、滴下漏斗に仕込んでおく。温度計、冷却管、滴下漏斗、及び撹拌機を備えたガラスフラスコ中に、[製造例7]で合成した(5)ステレオブロックプロピレン−エチレン共重合体を200g及びトルエン910gを仕込み、窒素雰囲気下、系内温度を110℃に昇温し溶解した。続いて、10gの無水マレイン酸を一括で投入し10分間撹拌させた。次に、予め用意してあった滴下漏斗からパーオキサイドとトルエンからなる混合物の滴下を開始した。滴下には30分を要し、滴下終了後4時間熟成反応を行った。反応終了後、室温付近まで冷却し、反応液を2.4kgのアセトン中に投入し、析出した無水マレイン酸変性プロピレン−エチレン共重合体を濾別した。得られた変性プロピレン−エチレン共重合体を、再度0.5kgのアセトン中に投入して精製した後、濾別し真空乾燥した。得られた白色粉末状の変性プロピレン−エチレン共重合体の量は193gであった。無水マレイン酸含有量は0.81重量%であった。
【0119】
[製造例9]
<アイソタクチック構造の極性基含有ポリプロピレン>
アイソタクチックポリプロピレンはトルエンに高濃度で難溶なので溶融変性することとした。ポリプロピレン(密度0.9g/cm3、DSCによる融点ピーク:163.0℃、結晶融解熱量:85.5J/g、MFR=3.0)を100重量部、無水マレイン酸を1重量部、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3を0.15重量部用い、50mmφ押出機にて210℃で溶融混練してペレット化を行い、変性ポリプロピレンを得た。この変性ポリプロピレンの無水マレイン酸グラフト量は0.70重量%であった。
【0120】
表2に、各製造例のプロピレン系重合体の主骨格ポリマー、官能基の種類及び量をまとめて示す。
【0121】
【表2】

【0122】
<実施例1〜6及び比較例1〜5>
表3に示した配合組成(重量部)に従い、成分(A1)極性基含有プロピレン系重合体、成分(A2)結晶性プロピレン系重合体(日本ポリプロ(株)製 NOVATEC EC7)、成分(A3)エチレン系共重合ゴム(JSR(株)製 EP57P)成分(B)無機金属水和物(協和化学製 水酸化マグネシウム キスマ5A)を配合し、フェノール系酸化防止剤(チバスペシャルティケミカルズ社製IRGANOX 1010)0.1重量部、リン系酸化防止剤(チバスペシャルティケミカルズ社製Irgafos 168)0.1重量部と共に混合した後、2軸押出機(日本製鋼所製TEX30α)を用いて、スクリュー回転数300rpm、押出レート15kg/hで溶融混練し、プロピレン系樹脂組成物ペレットを得た。
【0123】
得られたペレットを用いて、金型温度40℃、シリンダ温度220℃の条件で射出成形し、軟質プロピレン系難燃性樹脂組成物の試験片とした。
得られた試験片を用いて、各種物性を評価した。評価結果を表3、表4に示す。
【0124】
【表3】

【0125】
【表4】

表中、略号は下記の意味を表す。
PP: 日本ポリケム(株)製 「結晶性ポリプロピレン:ノバテックPP EC7(商品名)」
EPDM:JSR(株)製 「エチレン−プロピレン−ジエン系共重合ゴム:EP57(商品名)」
水酸化マグネシウム:協和化学工業(株)製「キスマ5A(登録商標)」
【0126】
以上の実施例、比較例から明らかな通り、成分(A1)が、ステレオブロック構造を有さない場合には、難燃性を維持したまま、低曲げ弾性率と高引張伸び特性を両立させることはできないが、成分(A1)として本発明に規定したステレオブロック構造を有する極性基含有プロピレン系重合体を用いると、柔軟性、引張り特性、難燃性、耐磨耗性、耐折り曲げ白化性、耐傷付き性をバランス良く達成することができる。但し、(A1)の極性基量が少なすぎると、耐折り曲げ白化性が低下し、逆に(A1)の極性基量が多くなりすぎると、引張伸び性が低下する。また(B)水酸化マグネシウムが少ないと、柔軟性、引張り特性、難燃性、耐磨耗性、耐折り曲げ白化性、耐傷付き性は満足できたとしても、難燃性は発現しない。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下記(A1)、(A2)及び(B)無機フィラーを含み、且つ(A1)と(A2)の合計100重量部中、(A1)5〜40重量部、(A2)60〜95重量部であり、(B)は(A1)と(A2)の合計100重量部に対し80〜200重量部含有することを特徴とする軟質プロピレン系樹脂組成物。
(A1)極性基を有するプロピレン系重合体であって、主鎖におけるプロピレン連鎖部分が、アイソタクチックブロックと非晶性ブロックからなるステレオブロック構造を有している極性基含有プロピレン系重合体
(A2)結晶性プロピレン系重合体
【請求項2】
更に、エチレン系共重合ゴム(A3)を、(A1)、(A2)及び(A3)の合計100重量部中、0〜25重量部含むことを特徴とする請求項1に記載の軟質プロピレン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記極性基含有プロピレン系重合体(A1)のDSCによる結晶融解熱量が、50J/g未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載の軟質プロピレン系樹脂組成物。
【請求項4】
前記極性基含有プロピレン系重合体(A1)の有する極性基が、水酸基、酸無水物基、カルボン酸基、エステル基、アミド基、及びイミド基よりなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の軟質プロピレン系樹脂組成物。
【請求項5】
前記極性基含有プロピレン系重合体(A1)中に有する極性基の量が、主鎖のプロピレン系重合体に対して0.3〜8.0重量%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の軟質プロピレン系樹脂組成物。
【請求項6】
前記結晶性プロピレン系重合体(A2)が、プロピレン単独重合体、プロピレンとプロピレン以外のα−オレフィンとの共重合体、又はこれらの混合物であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の軟質プロピレン系樹脂組成物。
【請求項7】
前記エチレン系共重合ゴム(A3)が、エチレン−プロピレン−共役ジエン共重合ゴムであることを特徴とする請求項2〜6のいずれか一項に記載の軟質プロピレン系樹脂組成物。
【請求項8】
前記無機フィラーが、金属水和物であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の軟質プロピレン系樹脂組成物。
【請求項9】
前記金属水和物が、水酸化マグネシウムであることを特徴とする請求項8に記載の軟質プロピレン系樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の軟質プロピレン系樹脂組成物により形成された、ワイヤーハーネス電線用の保護チューブ、或いは該樹脂組成物で被覆されたケーブル。

【公開番号】特開2008−195933(P2008−195933A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−8748(P2008−8748)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】