説明

転がり軸受、画像形成装置、自動車補機およびモータ

【課題】 通電グリースの漏れ防止を図ると共に軸受抵抗値の低位安定の長寿命化を図り、脆性剥離により軸受の短寿命を防止することができる転がり軸受、画像形成装置、自動車補機およびモータを提供する。
【解決手段】 内輪2と外輪3の間に、保持器5の各ポケット5aに保持された転動体4を介在させ、潤滑剤を封入した転がり軸受1において、保持器5の各ポケット5aの内面に、保持器内径側のポケット開口縁5aiから保持器外径側へ延びる内径側凹み部13、および保持器外径側のポケット開口縁5aoから保持器内径側へ延びる外径側凹み部14を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、転がり軸受、画像形成装置、自動車補機およびモータに関し、例えば、複写機・プリンタの感光ドラムの支持等に使用される軸受における、導電性グリースの漏れ防止および軸受抵抗値の低位安定の長寿命化を図り、オルタネータ等の自動車補機に使用される軸受における、グリース漏れ防止および脆性剥離防止を図った技術に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機・プリンタの感光ドラム部支持用に使用される軸受には、導電性が必要となるために軸受内部に導電性グリースを封入している。オルタネータ等の自動車補機に用いられる軸受では、耐グリース漏洩性、長寿命等の要求がされる。
上記複写機・プリンタ等に用いられる軸受において、本件出願人は、導電性を付与するために、導電物質および増稠剤を兼用したカーボンを含む導電性グリースを封入した軸受等を提案している(特許文献1)。
上記自動車補機、特にオルタネータに用いられる軸受では、通常の金属疲労による剥離とは異なる水素の脆化によるいわゆる脆性剥離が発生し、短寿命となる問題がある。これに対し、本件出願人は、アルミニウム粉を添加したグリースを用いて脆性剥離対策を講じた技術を提案している(特許文献2)。
【特許文献1】特開2002−053890号公報
【特許文献2】特開2007−217520号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
軸受抵抗値の低位安定の長寿命化には、導電性グリースのグリース封入量を多くする方法がある。しかし、グリース封入量を多くすると、軸受からグリース漏れが発生し、感光ドラム等を汚すことで画像不良の原因となる。一般的なグリースは半透明色等であるため、僅かにグリース漏れが発生しても汚れが目立たないが、前記カーボンを含む導電性グリースは黒色であるため、僅かにグリース漏れが発生しても汚れが目立つ等の問題がある。
逆に、グリース漏れを防止すべく、導電性グリースのグリース封入量を少なくすると、軸受抵抗値の低位安定の長寿命化を図れない。
【0004】
上記自動車補機に用いられる軸受において、この軸受の鋼球に付着したグリースが保持器内径側で掻き取られると、シール溝にグリースが付着し、グリース漏れが発生するおそれがある。このグリース漏れに起因して脆性剥離により軸受が短寿命となるおそれがある。オルタネータはメンテナンスフリーであり、軸受が短寿命で不具合を起こすと、オルタネータ本体の交換が必要である。
【0005】
この発明の目的は、グリース密封軸受の長寿命化、通電グリースの漏れ防止を図ると共に軸受抵抗値の低位安定の長寿命化を図り、脆性剥離により軸受の短寿命を防止することができる転がり軸受、画像形成装置、自動車補機およびモータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の転がり軸受は、内輪と外輪の間に、保持器の各ポケットに保持された転動体を介在させ、潤滑剤を封入した転がり軸受において、上記保持器の各ポケットの内面に、保持器内径側のポケット開口縁から保持器外径側へ延びる内径側凹み部、および保持器外径側のポケット開口縁から保持器内径側へ延びる外径側凹み部を設けたことを特徴とする。
【0007】
この構成によると、保持器の各ポケットの内面に、前記の内径側凹み部および外径側凹み部を設けたため、保持器内径側および外径側双方での潤滑剤の掻き取りが低減される。これにより、シール溝への潤滑剤付着が防止できて、多量の潤滑剤漏れを低減できる。しかも、内外輪軌道面と転動体との間に常に潤滑剤を介在させることが可能となる。
例えば、導電性を有する潤滑剤を封入した軸受において、各ポケットの内面に内径側凹み部および外径側凹み部を設けると、保持器外径側および内径側に付着する前記潤滑剤を減らし、常に転動体に導電性を有する潤滑剤を付着させ得る。換言すれば、ポケット内面に進入した潤滑剤は、玉配列ピッチ円PCDの付近で均されて保持される。内外輪軌道面と転動体との間に常に導電性を有する潤滑剤が介在することから、良好な通電状態を保持することが可能となり、軸受抵抗値の低位安定の長寿命化を図ることができる。さらに、従来技術の軸受に比べて、潤滑剤封入量が少量で済むことから、コスト的,環境的にも有利となる。
【0008】
例えば、脆性剥離対策を施した潤滑剤を封入した軸受において、各ポケットの内面に内径側凹み部および外径側凹み部を設けると、保持器外径側および内径側に付着する前記潤滑剤を減らし、常に転動体に脆性剥離対策を施した潤滑剤を付着させ得る。この潤滑剤が内外輪軌道面と転動体との間に常に介在することから、良好な耐水素脆性性を保持することが可能となり、脆性剥離による軸受の短寿命を防止することができる。さらに潤滑剤封入量が少量で済みコスト的,環境的にも有利となる。
【0009】
上記保持器が、環状体の一側面に一部が開放されて内部に玉を保持するポケットを、前記環状体の円周方向複数箇所に有する冠形状であっても良い。
上記潤滑剤が通電グリースである場合、この通電グリースの漏れ防止と、軸受抵抗値の低位安定の長寿命化とを図ることができる。
この場合において、複写機またはプリンタ等の事務機における画像形成装置の感光ドラムの支持用に使用される通電型の転がり軸受であっても良い。この構成によると、通電グリースの軸受封入量を多くしても、軸受からのグリース漏れを低減することができる。よって、感光ドラムに汚れが付着せず、画像不良を未然に防止することができるうえ、軸受抵抗値の低位安定の長寿命化を図ることができる。
【0010】
上記潤滑剤が脆性剥離対策グリースである脆性剥離対策型の転がり軸受であっても良い。この場合、脆性剥離対策グリースを、内外輪軌道面と転動体との間に常に介在させることができる。これにより、良好な耐水素脆性性を保持することが可能となり、脆性剥離による軸受の短寿命を防止することができる。
上記脆性剥離対策グリースがアルミニウム粉末添加グリースである場合、摩擦摩耗面または摩耗により露出した金属新生面においてアルミニウムが反応し、酸化鉄と共にアルミニウム被膜が軸受転走面に生成することが、軸受転走面の表面分析の結果わかった。この軸受転走面に生成した酸化鉄およびアルミニウム被膜が、グリース組成物の分解による水素の発生を抑制して、水素脆性による特異な剥離を防止できる。
これらの発明の転がり軸受が、自動車補機に使用されるものである場合、メンテナンスフリーを実現することができ、脆性剥離による軸受の短寿命を防止して、自動車補機本体の不所望の交換を防止できる。
転がり軸受がモータのロータの支持に使用されるものであっても良い。
【0011】
前記通電型の転がり軸受を、感光ドラムの支持に用いた画像形成装置である場合、グリースが感光ドラムに付着しないため、画像不良を防止できる。
前記脆性剥離対策型の転がり軸受、またはアルミニウム粉末添加グリースを封入した転がり軸受を用いた自動車補機である場合、メンテナンスフリーを実現でき、整備に要する作業負担の低減を図ることができる。自動車補機本体を交換する際の負担軽減を図ることができる。
前記ロータの支持に使用される転がり軸受を用いたモータであっても良い。
【発明の効果】
【0012】
この発明の転がり軸受は、内輪と外輪の間に、保持器の各ポケットに保持された転動体を介在させ、潤滑剤を封入した転がり軸受において、上記保持器の各ポケットの内面に、保持器内径側のポケット開口縁から保持器外径側へ延びる内径側凹み部、および保持器外径側のポケット開口縁から保持器内径側へ延びる外径側凹み部を設けたため、通電グリースの漏れ防止を図ると共に軸受抵抗値の低位安定の長寿命化を図り、脆性剥離により軸受の短寿命を防止することができる。また、グリース封入量が少なくても、潤滑に寄与するグリースが増し、長寿命となる。さらに、グリース封入量が多くても、グリース漏れの発生はなく、長寿命となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
この発明の一実施形態を図1ないし図5と共に説明する。
この実施形態に係る転がり軸受1は、密閉型のシール付き深溝玉軸受であり、内輪2と外輪3の軌道面2a,3aの間に、複数の転動体4を介在させ、これら転動体4を保持する保持器5を設け、両側面に軸受空間V1を密封する非接触形のシール部材6,6を設けたものである。前記軸受空間V1に、後述する通電グリースまたは脆性剥離対策グリースが封入される。前記転動体4は例えば鋼球から成る。
【0014】
前記各シール部材6は、環状の芯金7とこの芯金7に一体に固着されるゴム状部材8とで構成され、外輪3の内周面に形成されたシール取付溝9に外周部が嵌合状態に固定される。ゴム状部材8は合成ゴムからなり、芯金7は鋼板製とされる。内輪2はシール部材6の内径部に対応する位置に、円周溝からなるシール溝10が形成され、シール部材6の内径側端と内輪2のシール溝10との間にラビリンスシール隙間δが形成される。
【0015】
保持器5について説明する。
図2(A)、図3に示すように、この保持器5は、例えば、鉄系金属材料から成る板材いわゆる鉄板をプレスにより打ち抜きおよび成形加工して製作された2枚の環状部材11から成る。この保持器5の材料としては、特に鉄系金属材料だけに限定されるものでなく、銅系金属材料、アルミニウム系金属材料等を使用することができる。
なお、図2(B)、(C)に示すような2つ割れ樹脂保持器、セグメント保持器にも適用できる。
【0016】
前記鉄系金属材料としては、肌焼き鋼(SCM)、冷間圧延鋼(SPCC)、熱間圧延鋼(SPHC)、炭素鋼(S25C〜S55C)、ステンレス鋼(SUS304〜SUS316)、軟鋼(SS400)等を使用できる。
前記銅系金属材料としては、銅−亜鉛合金(HBsC1、HBsBE1、BSP1〜3)、銅−アルミニウム−鉄合金(AlBC1)等、前記アルミニウム系金属材料としてはアルミ−シリコン合金(ADC12)等を使用できる。
【0017】
図2(A)、図3に示すように、各環状部材11は、円周方向に等間隔で並びそれぞれがポケット5aの内壁面を構成する複数の半球状のポケット壁部11aと、隣合うポケット壁部11a同士を連結する平板状の結合板部11bとを交互に形成したものである。鉄板製である環状部材11の結合板部11bには、リベット孔11cが穿設されている。2枚の環状部材11は、それぞれの各結合板部11bを互いに重ね合わせ、前記リベット孔11cにリベット12を挿通し、そのリベット12の両端部を加締めることにより結合されている。その他の接合方法として、溶接や爪曲げでもよい。
【0018】
図4、図5に示すように、この保持器5のポケット5aの内面に、内径側凹み部13および外径側凹み部14を設けている。これらのうち内径側凹み部13は、保持器内径側のポケット開口縁から保持器外径側へ延びる。外径側凹み部14は、保持器外径側のポケット開口縁から保持器内径側へ延びる。ただし、これら内径側凹み部13および外径側凹み部14は、連通していない。換言すれば、これら凹み部13,14は内径側と外径側とに独立した凹みとして径方向に離隔して配設されている。
【0019】
図4、図5の例では、外径側凹み部14は、ポケット5a(ポケット壁部11a)の内面の外径側部分に2箇所設けられる。図5(A)に示すように、同2箇所の外径側凹み部14は、ポケット5aの開口縁5aoにおける保持器円周方向の中心OW5aの両側に位置する。
各外径側凹み部14の内面形状は、保持器円周方向に沿う断面形状が、ポケット5aの内面となる凹球面の曲率半径Raよりも小さな曲率半径RAbの円弧状である。前記断面形状とは、外径側凹み部14を保持器中心軸に垂直な平面で断面した断面形状と同義である。詳しくは図5(B)に示すように、保持器5の半径方向の直線LAを中心とする各仮想円筒VAの表面に略沿う円筒面状の形状である。
この外径側凹み部14は、保持器半径方向につき、保持器外径側の開口縁から玉配列ピッチ円PCDの付近まで延びていて、保持器外径縁から玉配列ピッチ円PCDに近づくに従って徐々に小さく、つまり徐々に浅くかつ幅狭となる形状である。
【0020】
図5(A)に示すように、各ポケット5a内の2個の外径側凹み部14の位置は、例えば、ポケット5aの開口縁5aoにおける保持器円周方向の中心OW5aに対する周方向の配向角度を40°±15°とした対称な2箇所である。外径側凹み部14の深さは、ポケット5a内面の凹球面の中心O11から外径側凹み部14の最深位置までの距離RAcが、転動体4(図1)の半径の1.05倍以上となる深さであることが好ましい(丁度1.05倍であって良い)。
なお、この実施形態では外径側凹み部14を2箇所としたが、3箇所以上としても良い。
【0021】
内径側凹み部13も、ポケット5aの内面の内径側部分に2箇所設けられる。同2箇所の内径側凹み部13は、ポケット5aの開口縁5aiにおける保持器円周方向の中心OW5aの両側に位置する。各内径側凹み部13の内面形状は、保持器円周方向に沿う前記断面形状が、ポケット5aの内面となる凹球面の曲率半径Raよりも小さな曲率半径Rbの円弧状である。この内径側凹み部13は、保持器半径方向につき、保持器内径側のポケット開口縁5aiから玉配列ピッチ円PCDの付近まで延びていて、保持器内径縁から玉配列ピッチ円PCDに近づくに従って徐々に小さく、つまり徐々に浅くかつ幅狭となる形状である。
【0022】
2個の内径側凹み部13の位置は、例えば、ポケット5aの開口縁5aiにおける保持器円周方向の中心OW5aに対する周方向の配向角度を40°±15°とした対称な2箇所である。したがって、図5(A)における左側の内径側凹み部13の周方向位置と、左側の外径側凹み部14の周方向位置とが略同一となる。さらに同図右側の内径側凹み部13の周方向位置と、右側の外径側凹み部14の周方向位置とが略同一となる。換言すれば、内径側、外径側に位置する各内径側凹み部13、各外径側凹み部14が周方向において同位相となって、ポケット5a内において径方向に所定小距離離隔して配設される。
内径側凹み部13の深さは、ポケット5a内面の凹球面の中心O11から内径側凹み部13の最深位置までの距離Rcが、転動体4(図1)の半径の1.05倍以上となる深さであることが好ましい(丁度1.05倍であって良い)。
なお、この実施形態では内径側凹み部13を2箇所としたが、3箇所以上としても良い。
【0023】
この軸受1における運転中のグリースの状態を調べるために、以下の試験条件で試験を行った。運転停止後のグリースGrの軸受各部への付着状態は図6に示すようになった。比較のため、外径側凹み部および内径側凹み部の設けられていない従来の鉄板波形保持器5Jを組み込んだ軸受BR1についても、同一条件で比較試験を行った。運転停止後のグリースGrの軸受各部への付着状態は図7に示すようになった。
<試験条件>
外輪回転:3600rpm,アキシアル荷重:39.2N,温度:室温,運転時間:5秒
【0024】
この試験によると、従来の保持器5Jを組み込んだ軸受BR1の場合、内輪シール溝10にグリースGrが付着している。これに対し、本願特有の外径側凹み部14および内径側凹み部13を設けた保持器5を組み込んだ軸受1では、内輪シール溝10にグリースGrが付着せず、また、外輪3のシール取付溝付近にもグリースGrが付着していない。また、試験途中のグリース挙動から以下の点が明らかとなった。
・図8(a)に示すように、外径側凹み部14により保持器外径側の開口縁5aoでのグリースGrの掻き取りが低減されると共に、内径側凹み部13により保持器内径側の開口縁5aiでのグリースGrの掻き取りが低減される。
・図8(b)に示すように、外径側凹み部14からポケット5a内面に進入したグリースGrは、玉配列ピッチ円PCDの付近で均されて保持される。内径側凹み部13からポケット5a内面に進入したグリースGrも玉配列ピッチ円PCDの付近で均されて保持される。また、保持器内径側でも同様であり、結果的にグリースが転動体表面に多く付着することとなる。本来グリースが必要とされる転動体表面や近傍にグリースが存在していることから、これらのグリースが多少劣化した場合でも、効果的に転動体と軌道面間の油膜形成にグリースが寄与でき、軸受の長寿命化が達成できる。
【0025】
潤滑剤としてのグリースGrについて説明する。
複写機・プリンタの感光ドラム部支持用に使用される軸受1には、導電性が必要となるために軸受内部に通電グリースを封入している。この「通電グリース」は「導電性グリース」とも称される。
前記通電グリースに用いる基油は、特に限定することなく周知の潤滑油を1種または2種以上混合して使用することができ、例えば鉱油、合成炭化水素油、エステル油、エーテル油、グリコール系油またはアルキルシクロペンタン系油などが挙げられる。なお、近年の複写機等の事務用機器には、ポリカーボネート樹脂などの樹脂部品が多用されているから、これらの樹脂を損傷しない基油として、鉱油、合成炭化水素油、またはグリコール系油を使用することが好ましい。
【0026】
このような基油の好ましい粘度(40℃)は、10〜200mm2 /sである。上記範囲未満の低粘度の基油では蒸発量が多くなり、寿命が短くて使用に耐えない。また、上記所定範囲を超える高い粘度では、転がり軸受のトルクが大きくなって、使用に耐えないものになる。このような理由から、より好ましい基油の粘度範囲は、10〜100mm2 /sであり、さらに好ましくは20〜100mm2 /sである。
このような基油に配合する増ちょう剤は、特に限定することなく、金属石けんなどを採用することもできるが、できれば増ちょう剤としてカーボンブラックを採用することが導電性を充分に高めるために好ましい。
グリースに所要の導電性を付与するために添加される導電性カーボンは、粒子径300〜800Åのものが好ましく、フタル酸ジブチル(DBP)の吸油量50〜300ml/100gの導電性カーボンを採用することが好ましい。導電性グリースの導電性を向上させるためには、できるだけ多量の導電性カーボンを添加することが好ましい。また、粒子径が所定粒径の範囲より小粒径で、吸油性が所定の値より大きい導電性カーボンは、増ちょう性が高く、すなわち軸受内でせん断を受けた際に増ちょう性を高くしやすく、凝集したグリースが転走面に広がり難くなって所用の導電性が得られ難い。このような傾向から、より好ましい導電性カーボンは、粒子径400〜600Åであり、フタル酸ジブチル(DBP)の吸油量50〜200ml/100gの導電性カーボンであり、好ましい配合量は20〜40重量%程度である。
【0027】
前記通電グリースは、導電性を充分に高めるために、導電性カーボン以外にも金属粉、導電性ウィスカを配合したものを採用することができる。導電性ウィスカとしては、特にアスペクト比が10以上で体積低効率が1×102 Ω・cm以下のウィスカを採用することが好ましく、その添加量は、0.5〜10重量%である。0.5重量%未満では、充分な添加効果がなく、10重量%を超えると、軸受の音響特性(静粛性)が損なわれる可能性がある。より好ましい傾向から、0.5〜5重量%の範囲である。
【0028】
前記通電グリースに上記したような所定のアスペクト比のウィスカを混合して転がり軸受に封入すると、図9(a),(b)に示すように、ウィスカW1またはウィスカW2の互いに隣り合った部分が確実に接触して三次元方向に電気の導通路を形成する。このため、グリース内において任意の2面間の電気抵抗を低くして導電性を確実に維持し、経時変化が少なくなるものと考えられる。所定のアスペクト比のウィスカとしては、カーボンウィスカや金属酸化物ウィスカを採用することが好ましい。
このようなウィスカは、例えば、酸化スズ系の導電膜を形成した酸化チタンウィスカなどのように、表面処理やドーピングなどによって導電化したものを採用できる。前記ウィスカなどの微細な添加成分は、軸受の損傷を起こし難いものであるが、それでもできるだけ柔らかい材料であることが好ましく、その点からみても、カーボンウィスカは好ましい材料である。
【0029】
導電性カーボンの分散助剤として、リチウム石けんを2〜10重量%配合すると、カーボンをよく分散させて凝集を防ぎ、その導電性が充分に発揮される。リチウム石けんの添加量が2重量%未満では、カーボンの凝集抑制効果がなく、10重量%を超えて多量に配合すると、リチウム石けんが増ちょう剤として機能するようになり、グリースを硬化させ(すなわち、ちょう度を低下させ)て流動性を悪くするために好ましくない。導電性潤滑グリースには、酸化防止剤、極圧剤、摩耗抑制剤、防錆剤、清浄分散剤などの周知の潤滑油用添加剤を添加しても良い。
【実施例】
【0030】
[実施例1〜6、比較例1〜2]
以下に、実施例および比較例に用いた通電グリースの主要材料を列記する。なお、表中で使用する略号を[ ]内に示した。
(1)グリースの基油
・[PAO−1] ポリαオレフィン油(シンフルード801、動粘度47mm2/s(40℃))
・[PAO−2]ポリαオレフィン油(シンフルード41、動粘度17mm2/s(40℃))
(2)増ちょう剤
・[C−1]導電性カーボン(三菱化学社製:#3030B、粒子径550Å)DBP吸油量:130ml/100g 窒素吸着比表面積 32m2/g
・[C−2]導電性カーボン(ケッチェンブラックEC)粒子径300Å DBP吸油量:360ml/100g 窒素吸着比表面積 950m2/g
・[Li]ステアリン酸リチウム
(3)ウィスカ
・[G]気相法炭素繊維:昭和電工VGCF黒鉛化品(繊維径0.15μm、繊維長10〜20μm、アスペクト比10〜500、短繊維比抵抗1×10-3Ω・cm)
表1に示す配合割合で基油と増ちょう剤を配合し、同表中に示す混和ちょう度(JIS K2220)で体積抵抗率が5×105 Ω・cm以下となるように通電グリースの組成を調整した。
【0031】
得られた通電グリースを深溝玉軸受608(内径8mm、外径22mm、幅7mm)の内部空間に表1に示す量(%)だけ封入し、軸受の抵抗値の開始時から1000時間後の経時的変化を調べた。軸受抵抗値の経時変化の測定条件は、深溝玉軸受608を200rpmで回転駆動される支持軸に内輪を取り付け、4.9Nのラジアル荷重による負荷をかけながら1000時間連続回転させ、回転開始直後と1000時間回転後の前記軸受の絶縁抵抗値を測定し、その結果を表中に併記した。なお、軸受の絶縁抵抗の測定端子は、外輪および支持軸の一端に取り付けた。
【0032】
【表1】

【0033】
表1の結果からも明らかなように、比較例1は、混和ちょう度が所定範囲未満のグリースを用いたため、転がり軸受の絶縁抵抗値が、1000時間経過後に極めて大きくなった。また、比較例2は、軸受内のグリース封入量が所定量よりも少ないため、軸受の1000時間使用後に絶縁抵抗値が20kΩという大きな値であった。
これに対して、混和ちょう度250〜350の通電グリースを転がり軸受の内部空間に所定量だけ封入した転がり軸受に係る発明は、転がり軸受の回転状態で1000時間の経過時においても導電性の経時変化が小さかった。特に、分散助剤としてリチウム石けんを配合した実施例2および実施例4は、転がり軸受の1000時間使用後の導電性がよく、経時変化が充分に小さかった。
【0034】
自動車補機、特にオルタネータに用いられる軸受では、脆性剥離対策グリースとして、アルミニウム粉を添加したアルミニウム粉末添加グリースを用いている。
アルミニウム系添加剤をグリース組成物に配合することにより、摩擦摩耗面または摩耗により露出した金属新生面においてアルミニウム化合物が反応し、酸化鉄とともにアルミニウム被膜が軸受転走面に生成することが、軸受転走面の表面分析の結果わかった。この軸受転走面に生成した酸化鉄およびアルミニウム被膜が、グリース組成物の分解による水素の発生を抑制して、水素脆性による特異な剥離を防止できるため、転がり軸受の寿命が延長するものと考えられる。
【0035】
グリース組成物に添加するアルミニウム系添加剤は、アルミニウム粉末およびアルミニウム化合物から選ばれた少なくとも一つである。アルミニウム化合物としては、炭酸アルミニウム、硫化アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウムおよびその水和物、硫酸アルミニウム、フッ化アルミニウム、臭化アルミニウム、よう化アルミニウム、酸化アルミニウムおよびその水和物、水酸化アルミニウム、セレン化アルミニウム、テルル化アルミニウム、りん酸アルミニウム、りん化アルミニウム、アルミン酸リチウム、アルミン酸マグネシウム、セレン酸アルミニウム、チタン酸アルミニウム、ジルコン酸アルミニウム等の無機アルミニウム、安息香酸アルミニウム、クエン酸アルミニウム等の有機アルミニウムが挙げられる。これらアルミニウム系添加剤は、1種類または2種類を混合してグリースに添加しても良い。本発明において、極圧性効果の高いアルミニウム粉末が耐熱耐久性に優れ、熱分解しにくいため、特に好ましい。
【0036】
アルミニウム系添加剤の配合割合は、ベースグリース 100重量部 に対して 0.05重量部以上 10重量部 以下である。すなわち、(1)アルミニウム系添加剤がアルミニウム粉末のみである場合、ベースグリース 100重量部に対してアルミニウム粉末を 0.05重量部 以上 10重量部 以下、(2)アルミニウム系添加剤がアルミニウム化合物のみである場合、ベースグリース 100重量部に対してアルミニウム化合物を 0.05重量部 以上 10重量部以下、(3)アルミニウム系添加剤がアルミニウム粉末とアルミニウム化合物とである場合、ベースグリース 100重量部に対して、アルミニウム粉末とアルミニウム化合物とを合せて0.05重量部 以上 10重量部以下配合する。
アルミニウム系添加剤の配合割合がこの配合範囲未満であると水素脆性による転走面での剥離を効果的に防止できない。また上記範囲をこえても剥離防止効果がそれ以上に向上しない。
【0037】
前記グリース組成物のうち本発明に使用できる基油としては、スピンドル油、冷凍機油、タービン油、マシン油、ダイナモ油等の鉱油、高精製度鉱油、流動パラフィン、ポリブテン、フィッシャー・トロプシュ法により合成されたGTL油、ポリ-α-オレフィン油、アルキルナフタレン、脂環式化合物等の炭化水素系合成油、または、天然油脂、ポリオールエステル油、りん酸エステル油、ポリマーエステル油、芳香族エステル油、炭酸エステル油、ジエステル油、ポリグリコール油、シリコーン油、ポリフェニルエーテル油、アルキルジフェニルエーテル油、アルキルベンゼン油、フッ素化油等の非炭化水素系合成油等を使用できる。
これらの中で、耐熱性と潤滑性に優れたアルキルジフェニルエーテル油、または、ポリ-α-オレフィン油を用いることが好ましい。
【0038】
前記グリース組成物のうち本発明に使用できる増ちょう剤としては、ベントン、シリカゲル、フッ素化合物、リチウム石けん、リチウムコンプレックス石けん、力ルシウム石けん、カルシウムコンプレックス石けん、アルミニウム石けん、アルミニウムコンプレックス石けん等の石けん類、ジウレア化合物、ポリウレア化合物等のウレア系化合物が挙げられる。
これらの中で、耐熱性、コスト等を考慮するとウレア系化合物が望ましい。
ウレア系化合物は、イソシアネート化合物とアミン化合物とを反応させることにより得られる。反応性のある遊離基を残さないため、イソシアネート化合物のイソシアネート基とアミン化合物のアミノ基とは略当量となるように配合することが好ましい。
【0039】
ジウレア化合物は、例えば、ジイソシアネートとモノアミンとの反応で得られる。ジイソシアネートとしては、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネー卜等が挙げられ、モノアミンとしては、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、アニリン、p−トルイジン、シクロヘキシルアミン等が挙げられる。ポリウレア化合物は、例えば、ジイソシアネートとモノアミン、ジアミンとの反応で得られる。ジイソシアネート、モノアミンとしては、ジウレア化合物の生成に用いられるものと同様のものが挙げられ、ジアミンとしては、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサンジアミン、オクタンジアミン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン等が挙げられる。
【0040】
基油にウレア系化合物等の増ちょう剤を配合して、上記アルミニウム系添加剤等を配合するためのベースグリースが得られる。ウレア系化合物を増ちょう剤とするベースグリースは、基油中でイソシアネート化合物とアミン化合物とを反応させて作製する。
ベースグリース 100重量部中に占める増ちょう剤の配合割合は、1重量部以上40重量部以下、好ましくは 3重量部以上 25重量部以下配合される。増ちょう剤の含有量が 1重量部未満では、増ちょう効果が少なくなり、グリース化が困難となり、 40重量部をこえると得られたベースグリースが硬くなりすぎ、所期の効果が得られ難くなる。
【0041】
アルミニウム系添加剤とともに、必要に応じて公知のグリース用添加剤を含有させることができる。この添加剤として、例えば、有機亜鉛化合物、アミン系、フェノール系化合物等の酸化防止剤、ベンゾトリアゾールなどの金属不活性剤、ポリメタクリレート、ポリスチレン等の粘度指数向上剤、二硫化モリブデン、グラファイト等の固体潤滑剤、金属スルホネート、多価アルコールエステルなどの防錆剤、有機モリブデンなどの摩擦低減剤、エステル、アルコールなどの油性剤、りん系化合物などの摩耗防止剤等が挙げられる。これらを単独または 2 種類以上組み合せて添加できる。
【0042】
[実施例1〜実施例8]
表2に示した基油の半量に、4,4−ジフェニルメタンジイソシアナート(日本ポリウレタン工業社製商品名のミリオネートMT、以下、MDIと記す)を表2に示す割合で溶解し、残りの半量の基油にMDIの2倍当量となるモノアミンを溶解した。それぞれの配合割合および種類は表2のとおりである。
MDIを溶解した溶液を撹拌しながらモノアミンを溶解した溶液を加えた後、100℃〜120℃で 30 分間撹拌を続けて反応させて、ジウレア化合物を基油中に生成させた。
これにアルミニウム系添加剤および酸化防止剤を表2に示す配合割合で加えてさらに 100℃〜120℃で 10 分間撹拌した。その後冷却し、三本ロールで均質化し、グリース組成物を得た。
【0043】
表2において、基油として用いた合成炭化水素油は40℃における動粘度 30 mm2/sec の新日鉄化学社製商品名のシンフルード601を、アルキルジフェニルエーテル油は 40℃における動粘度 97 mm2/sec の松村石油社製商品名のモレスコハイルーブLB100を、それぞれ用いた。酸化防止剤は住友化学社製ヒンダードフェノールを用いた。
得られたグリース組成物の急加減速試験を行なった。試験方法および試験条件を以下に示す。また、結果を表2に示す。
【0044】
<急加減速試験>
電装補機の一例であるオルタネータを模擬し、回転軸を支持する内輪回転の深溝玉軸受6303に上記グリース組成物を封入し、急加減速試験を行った。急加減速試験条件は、回転軸先端に取り付けたプーリに対する負荷荷重を 1960 N 、回転速度は 0 rpm〜18000 rpm で運転条件を設定し、さらに、試験軸受内に 0.1 A の電流が流れる状態で試験を実施した。軸受内に異常剥離が発生し、振動検出器の振動が設定値以上になって発電機が停止する時間(剥離発生寿命時間、h)を計測した。試験は500 時間で打ち切った。
【0045】
[比較例1〜比較例3]
前記実施例1に準じる方法で、表2に示す配合割合で、増ちょう剤、基油を選択してベースグリースを調整し、さらに添加剤を配合してグリース組成物を得た。得られたグリース組成物を実施例1と同様の試験を行って評価した。その結果を表2に示す。
【表2】

表2に示すように、各実施例では、急加減速試験は全て 400時間以上(剥離発生寿命時間)の優れた結果を示した。これは、アルミニウム系添加剤を所定割合で添加したことにより転走面で生じる白色組織変化を伴った特異的な剥離を効果的に防止できたためであると考えられる。
【0046】
以上説明した軸受構成によると、保持器5の各ポケット5aの内面に、内径側凹み部13および外径側凹み部14を設けたため、保持器内径側および外径側双方でのグリースGrの掻き取りが低減される。これにより、内輪シール溝10へのグリース付着が防止できて、多量のグリース漏れを低減できる。しかも、内外輪軌道面2a,3aと転動体4との間に常にグリースGrを介在させることが可能となる。
例えば、前述の通電グリースを封入した軸受1において、各ポケット5aの内面に内径側凹み部13および外径側凹み部14を設けると、保持器外径側および内径側に付着する通電グリースを減らし、常に転動体4に通電グリースを付着させ得る。換言すれば、ポケット5a内面に進入した通電グリースは、玉配列ピッチ円PCDの付近で均されて保持される。内外輪軌道面2a,3aと転動体4との間に常に通電グリースが介在することから、良好な通電状態を保持することが可能となり、軸受抵抗値の低位安定化を図ることができる。さらに、従来技術の軸受に比べて、グリース封入量が少量で済むことから、コスト的にも有利となる。
【0047】
例えば、前述の脆性剥離対策グリースを封入した軸受1において、各ポケット5aの内面に内径側凹み部13および外径側凹み部14を設けると、保持器外径側および内径側に付着する前記グリースGrを減らし、常に転動体4に脆性剥離対策グリースを付着させ得る。このグリースGrが内外輪軌道面2a,3aと転動体4との間に均されて常に介在することから、良好な耐水素脆性性を保持することが可能となり、脆性剥離による軸受の短寿命を防止することができる。さらにグリース封入量が少量で済みコスト的にも有利となる。
また、保持器5の各ポケット5aの内面に、内径側凹み部13および外径側凹み部14を設けることにより、導電グリースや脆性剥離対策グリースはもちろん、どのようなグリースを用いても耐グリース漏洩性と長寿命を併せ持つ。この保持器5によると、軸受内に封入したグリースを漏らさず、かつ、転動にグリースが付着し封入したグリースを効果的に潤滑に使用できる。したがって、従来に比べグリース封入量を多くすることだけでなく、封入したグリースを最大限に有効利用することでも、長寿命化させることができる。逆に、従来の寿命でよければグリース封入量を少なくすることができるため、コスト,環境にもよいものとなる。
【0048】
次に、この発明の他の実施形態について説明する。
以下の説明においては、各形態で先行する形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略する場合がある。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、先行して説明している形態と同様とする。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0049】
図10の保持器5の他の形状例は、図5の2箇所の外径側凹み部14を1箇所に置き換え、かつ、同図2箇所の内径側凹み部13を1箇所に置き換えたものである。
外径側凹み部14は、ポケット5aの開口縁における保持器円周方向の中心OW5aから両側に広がって1箇所に設けられ、外径側凹み部14の幅W14は、ポケット5aの保持器円周方向の幅W5aの略全体にわたる幅としている。外径側凹み部14の幅W14は、ポケット5aの幅W5aの半分よりも大きいことが好ましく、2/3以上、あるいは3/4以上であることがより好ましい。外径側凹み部14は、保持器半径方向につき、保持器外径側の開口縁5aoから玉配列ピッチ円PCDまで延びていて、保持器外径縁から玉配列ピッチ円PCDに至るに従って、徐々に小さく、つまり徐々に浅くかつ幅が狭くなる形状とされている。
【0050】
内径側凹み部13は、ポケット5aの開口縁5aiにおける保持器円周方向の中心OW5aから両側に広がって1箇所に設けられる。内径側凹み部13の幅W13も、ポケット5aの保持器円周方向の幅W5aの略全体にわたる幅としている。内径側凹み部13の幅W13は、ポケット5aの幅W5aの半分よりも大きいことが好ましく、2/3以上、あるいは3/4以上であることがより好ましい。内径側凹み部13は、保持器半径方向につき、保持器内径側の開口縁5aiから玉配列ピッチ円PCDまで延びていて、保持器内径縁から玉配列ピッチ円PCDに至るに従って、徐々に小さく、つまり徐々に浅くかつ幅が狭くなる形状とされている。
図10の構成によると、ポケット5a内面において、1箇所の内径側凹み部13と、1箇所の外径側凹み部14との間にグリースが均されて常に保持される。内径側凹み部13、または外径側凹み部14を砥石等により後加工する場合、複数箇所に凹み部を設ける図5のものよりも加工工数の低減を図ることができ、保持器5の製造コストの低減を図ることができる。
【0051】
その他図11に示すように、ポケット5a内面に、1箇所の外径側凹み部14と、複数箇所(この例では2箇所)の内径側凹み部13とを設けた保持器5を軸受1に組み込んでも良い。図12に示すように、ポケット5a内面に、複数箇所(この例では2箇所)の外径側凹み部14と、1箇所の内径側凹み部13とを設けた保持器5を軸受1に組み込んでも良い。外径側凹み部14および内径側凹み部13の少なくともいずれか一方の凹み部の断面形状を、円弧状とする代わりに多角形状としても良い。
【0052】
図13ないし図15の保持器5Aは冠形状のものであり、環状体15の円周方向複数箇所に、転動体4を保持するポケット5Aaを有する。各ポケット5Aaの内面は、転動体4の外面に沿った凹球面状の曲面形状とされている。図13、図14に示すように、保持器5Aのポケット開放側を軸方向内方に向け、ポケット背面側がシール部材6にやや離隔して対向するように配置される。図15に示すように、環状体15の隣合うポケット5Aa,5Aa間の部分は連結部16となる。各ポケット5Aaの開放側には、円周方向に対面する一対の爪状の先端部(爪)17,17が軸方向に突出して設けられている。
【0053】
図15に示すように、各ポケット5Aaの内面に、前述の外径側凹み部14および内径側凹み部13が設けられている。冠形状の保持器5Aにおいても、これら凹み部14,13を設けることで、内輪シール溝10(図14)へのグリース付着が防止できて、多量のグリース漏れを低減できる。しかも、内外輪軌道面2a,3aと転動体4との間に常にグリースGrを介在させることが可能となる。ポケット5Aa内面に進入したグリースGrは、玉配列ピッチ円PCDの付近で均されて保持される。
図16のように、連結部16の内径面のポケット背面側を削除しても良い。この場合、連結部16の内径面からグリースGrが軸受外に漏れるのを防ぐことができる。その他、図17ないし図19に示すように外径側凹み部14と内径側凹み部13とを設けた冠形保持器5Aを適用しても良い。
【0054】
ここで、図20は画像形成装置18の概略構成を示す図であり、図21は、この発明の一実施形態にかかる軸受1を前記画像形成装置18の感光ドラム19の支持用に使用した例を示す断面図である。この画像形成装置18は感光ドラム19を有する。同感光ドラム19は、図示外の駆動モータにより図20矢印A1で示す方向に回転可能に構成される。図20に示すように、この感光ドラム19の周囲には、回転方向に順次、帯電器20、露光手段21、現像器22、転写帯電器23、およびクリーニング器24が設けられている。図21に示すように、感光ドラム19は両端にドラム軸19aを有し、これらドラム軸19aが一対のサイドフレーム25,25に軸受1,1を介して回転自在に支持されている。
この軸受1に前述の通電グリースを封入したものを適用すると、この通電グリースの漏れ防止と、軸受抵抗値の低位安定化とを図ることができる。通電グリースの軸受封入量を多くしても、軸受1からのグリース漏れを低減することができる。よって、感光ドラム19に汚れが付着せず、画像不良を未然に防止することができるうえ、軸受抵抗値の低位安定化を図ることができる。
【0055】
図22は、この発明の一実施形態にかかる軸受1を、自動車補機としてアイドラプーリに設けた断面図である。この実施形態では、軸Shの外周に同軸受1を嵌合し、この軸受1によりプーリPLを回転自在に支持している。このアイドラプーリ用軸受1によると、前述の保持器5(5A)を設けると共に上記脆性剥離対策グリースを封入したことにより、メンテナンスフリー化を図ることができ、脆性剥離による軸受1の短寿命を防止することができる。グリース漏れもないため、封入したグリースの持つ潤滑寿命特性が十分に発揮される。さらに、グリース漏れの対策として、グリース封入量を減らすことが行われることがあるが、本発明の保持器を用いれば、グリース封入量を増すことが可能となり、長寿命を達成することができる。
図23は、この発明の一実施形態にかかる軸受1を自動車補機としてオルタネータに設けた断面図である。この実施形態では、オルタネータONTにおいて、オルタネータ用軸受NN1,NN2にシャフトSh1が挿入され、突き出た端部にプーリPLが取り付けられている。プーリPL1には、図示していない伝動ベルトが掛けられる係合溝PL1が設けられる。このオルタネータ用軸受NN1,NN2によると、前述の保持器5(5A)を設けると共に上記脆性剥離グリースを封入したことにより、メンテナンスフリーを実現することができ、脆性剥離による軸受の短寿命を防止して、オルタネータ本体の不所望の交換を防止できる。
【0056】
図24に示すように、この発明の一実施形態にかかる軸受がモータM1のロータ26の支持に使用されるものであっても良い。このモータM1は、モータハウジング27と、このモータハウジング27に同心状に配置した回転軸28と、この回転軸28に設けたロータ26と、このロータ26と径方向に対向してモータハウジング27の内周面に設けたステータ29とを有する。回転軸28は、一対の軸受1,1を介して回転自在に支持されている。この場合であっても、各軸受1の保持器内径側および外径側双方でのグリースの掻き取りが低減される。これにより、内輪シール溝へのグリース付着が防止できて、多量のグリース漏れを低減できる。内外輪軌道面と転動体との間に常にグリースを介在させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】この発明の一実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【図2】(A)は同転がり軸受の保持器の斜視図、(B)はこの実施形態の保持器が適用可能な樹脂製保持器の分解斜視図、(C)は同樹脂製保持器の断面図である。
【図3】同保持器の1枚の環状部材の斜視図である。
【図4】同保持器のポケット内面の内径側凹み部及び外径側凹み部を示す斜視図である。
【図5】(A)同保持器の要部の部分拡大斜視図、(B)は同斜視図に仮想円筒を加えた状態を示す斜視図である。
【図6】内外径凹み部を設けた保持器を組み込んだ軸受のグリース付着状態を示す図である。
【図7】従来の保持器を組み込んだ軸受のグリース付着状態を示す図である。
【図8】(a)は内外径凹み部とグリース挙動との関係を説明する概略図、(b)はグリースが玉配列ピッチ円付近で均された状態を概略示す図である。
【図9】通電グリースにおける任意の2面間のウィスカの分散状態を示す図である。
【図10】この発明の実施形態に係る保持器の他の形状例を示す斜視図である。
【図11】この発明の実施形態に係る保持器のさらに他の形状例を示す斜視図である。
【図12】この発明の実施形態に係る保持器のさらに他の形状例を示す斜視図である。
【図13】この発明の他の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【図14】同転がり軸受の要部を拡大し、一部を破断して示す断面図である。
【図15】同転がり軸受の保持器の斜視図である。
【図16】同保持器の背面側を削除した例を示す斜視図である。
【図17】同保持器の他の形状例を示す斜視図である。
【図18】同保持器のさらに他の形状例を示す斜視図である。
【図19】同保持器のさらに他の形状例を示す斜視図である。
【図20】この発明の実施形態に係る画像形成装置を概略示す図である。
【図21】同画像形成装置の感光ドラム等の要部断面図である。
【図22】この発明の実施形態にかかる軸受をアイドラプーリに設けた断面図である。
【図23】この発明の実施形態にかかる軸受をオルタネータに設けた断面図である。
【図24】この発明の実施形態にかかる軸受をモータに設けた断面図である。
【符号の説明】
【0058】
1…軸受
2…内輪
3…外輪
4…転動体
5,5A…保持器
5a,5Aa…ポケット
13…内径側凹み部
14…外径側凹み部
18…画像形成装置
19…感光ドラム
M1…モータ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と外輪の間に、保持器の各ポケットに保持された転動体を介在させ、潤滑剤を封入した転がり軸受において、
上記保持器の各ポケットの内面に、保持器内径側のポケット開口縁から保持器外径側へ延びる内径側凹み部、および保持器外径側のポケット開口縁から保持器内径側へ延びる外径側凹み部を設けたことを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
請求項1において、上記保持器が、環状体の一側面に一部が開放されて内部に玉を保持するポケットを、前記環状体の円周方向複数箇所に有する冠形状である転がり軸受。
【請求項3】
請求項1または2において、上記潤滑剤が通電グリースである通電型の転がり軸受。
【請求項4】
請求項3において、複写機またはプリンタ等の事務機における画像形成装置の感光ドラムの支持用に使用される通電型の転がり軸受。
【請求項5】
請求項1または2において、上記潤滑剤が脆性剥離対策グリースである脆性剥離対策型の転がり軸受。
【請求項6】
請求項5において、上記脆性剥離対策グリースがアルミニウム粉末添加グリースである転がり軸受。
【請求項7】
請求項5または請求項6において、自動車補機に使用される転がり軸受。
【請求項8】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、モータのロータの支持に使用される転がり軸受。
【請求項9】
請求項4に記載の転がり軸受を感光ドラムの支持に用いた画像形成装置。
【請求項10】
請求項5または請求項6に記載の転がり軸受を用いた自動車補機。
【請求項11】
請求項8に記載の転がり軸受を用いたモータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate


【公開番号】特開2010−106952(P2010−106952A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−279282(P2008−279282)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】