説明

転がり軸受およびその組立方法

【課題】軸受の部品の組み込み時の転動体の脱落などを防止するように、転動体と軌道輪または転動体と保持器とを仮接着することができ、しかも潤滑剤中に固形状の異物を生じることのない転がり軸受とし、または転がり軸受の回転動作中には潤滑剤の作用を阻害せず、しかも円滑に組立作業のできる転がり軸受の組立方法とすることである。
【解決手段】外輪2の軌道面2aに保持器4に収納して組み付ける各ころ3を、軌道面2aに押し付けた状態で、多官能イソシアネートと、単官能アルコールとを反応させて生成され、粘着性および非可逆的に感圧液状化性を有するウレタン化合物からなる軸受組立用の油性接着剤Aで保持器4に粘着することにより、軸受運転中に潤滑剤中に固形状の異物を生じることがなく、軸受組み立て時の各ころ3の脱落を防止できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、組み立て時に仮止めのための接着剤を用いた転がり軸受およびその組立方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種産業機械や車両等に組み込まれる転がり軸受は、軌道輪に転動体と保持器を組み込むときに、内輪と外輪のうちの一方の軌道輪の軌道面に対して、先ず、一方の軌道輪に複数の転動体を保持器に収納された状態に組み付け、次に他方の軌道輪を後から組み込む方法で製造されることがある。
【0003】
このような組み込み方法が採用される転がり軸受は、比較的大型の転がり軸受である場合が多いが、一方の軌道輪に先に組み付けた転動体が保持器から脱落しやすく、他方の軌道輪を後からスムーズに組み込み難いという問題を有している。
【0004】
このような問題に対処できるように、保持器に転動体の脱落防止用の爪を設けたものがある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された転がり軸受は、脱落防止用の爪を曲げ加工によって保持器に一体に形成している。
【0005】
また、転動体を組み付ける軌道輪に粘着性を有するワセリンや蝋を塗布し、転動体を軌道輪に粘着させて脱落を防止する対処法もある。
【0006】
【特許文献1】実開平5−12753号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載された保持器に設けた爪で転動体の脱落を防止する方法では、軸受組み立て後の軸受運転中に転動体が爪と接触し、転動体の表面が損傷する恐れがある。また、転動体との接触で爪が脱落する恐れもある。
【0008】
また、軌道輪にワセリンや蝋を塗布する方法では、これらが軸受の使用中にかなり高温になっても液状化せずに軸受内に異物として残る場合があり、その場合には転がり軸受の内部でグリース等の潤滑剤の潤滑性を阻害したり、オイルフィルタに目詰まりを起こすなどという問題点がある。
【0009】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決して軸受の部品の組み込み時の転動体の脱落などを防止するように、転動体と軌道輪または転動体と保持器とを仮接着することができ、しかも潤滑剤中に固形状の異物を生じることのない転がり軸受とし、すなわち転がり軸受の回転動作中には潤滑剤の作用を阻害せず、しかも円滑に組立作業のできる転がり軸受の組立方法とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、この発明は、転がり軸受における転動体が、内輪と外輪のうちの一方の軌道輪の軌道面に押し付けられた状態で保持器に保持されており、前記転動体が、ウレタン化合物を基油中に分散状態に保持して粘着性および非可逆的に感圧液状化性を有する軸受組立用油性接着剤によって前記保持器もしくは軌道輪または両者に粘着して保持されている転がり軸受としたのである。
【0011】
上記の手段を採用するに至るまでに、本願の発明者らは、転がり軸受用の潤滑グリースとして、基油中に多官能イソシアネートと、アルコールとを反応させてウレタン化合物を生成することにより、所要の粘着性を有するウレタン化合物になり、軸受使用時に想定される軸受内温度の70℃程度に昇温すると液状化し、または軌道輪と転動体間の潤滑剤に作用する30MPa程度の圧力を負荷すると液状化し、圧力を解放しても液相状態が維持されるという非可逆的な感圧液状化性を有することを発見した。この発明は、このような発見に基づいてなされたものである。
【0012】
上記の転がり軸受は、転動体が軸受組立用油性接着剤によって保持器もしくは内外の軌道輪またはこれらに粘着して保持されているので、内・外輪の片方づつ順番に軌道輪を組み込む際に、後から組み込む軌道輪に対して保持器や転動体が邪魔する位置に遊動せず、すなわち組み込む際に軌道輪が傾斜して転動体が動きやすくなっても、転動体は軸受組立用油性接着剤の粘着力で動くことなく保持され、転動体、保持器、軌道輪などに無用の衝撃を与えず、傷つけることなく、極めて円滑に組み込まれた転がり軸受になる。
【0013】
このような転がり軸受が使用中に回転するとき、軸受組立用油性接着剤は、隣接する転動体同士に挟まれて加圧されたり、せん断されたり、さらには軸受の温度上昇によって昇温して比較的低温でも液状化する。この液状化は、非可逆的であるため、軸受の使用停止などによって軸受組立用油性接着剤に対する加圧力が除去または低下し、または軸受温度が常温以下に降下しても軸受組立用油性接着剤は、液相を維持する。
【0014】
したがって、転がり軸受の回転動作中やその後の静止状態での潤滑油や潤滑グリース中に軸受組立用油性接着剤に由来の固形状の異物を生じることがないので、使用中に潤滑油や潤滑グリースによる潤滑性が阻害されない転がり軸受になる。
【0015】
この発明におけるウレタン化合物は、上記のように粘着性および非可逆的に感圧液状化性を有するものであり、基油中に多官能イソシアネートと、単官能アルコールを反応させて得ることができる。多官能イソシアネートの例としては、ジイソシアネートであり、単官能アルコールは炭素数1〜18の脂肪族モノアルコールを採用して好ましい結果が充分に得られている。
【0016】
このようなウレタン化合物としては、下記の化2に示されるジウレタン化合物であることが好ましい。
【0017】
【化2】

【0018】
(式中、R2は炭素数6〜20の2価の芳香族系炭化水素基であり、R1、R3は脂肪族系炭化水素基、脂環族系炭化水素基または芳香族系炭化水素基を表し、R1、R3は同一であっても異なっていてもよい。)
【0019】
また、化2に示されるジウレタン化合物としては、化2式中のR1およびR3が脂肪族系炭化水素基のジウレタン化合物を採用して好ましい軸受組立用油性接着剤が得られている。
【0020】
化2の式中のR1、R2、R3の具体例について説明すると、先ずR2としては2価の芳香族炭化水素基であれば、特に限定されることなく、例えば以下の化3に示すものなどが挙げられる。
【0021】
【化3】

【0022】
また、R1およびR3の具体例としては、先ず、脂肪族系炭化水素基として直鎖状または分岐状のアルキル基またはアルケニル基が挙げられ、次に脂環族系炭化水素基としてはシクロヘキシル基、またはメチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基などの炭素数7〜12程度のシクロヘキシル誘導体基などが挙げられる。さらに芳香族系炭化水素基としては、フェニル基、トリル基、フェニルアルキル基、ナフチル基などが挙げられる。
【0023】
また、化2の式中の複数の炭化水素基の個数は7個以下であることが好ましく、より好ましくは4個以下である。これらの炭化水素基の個数が多ければ、それだけウレタン化合物の液状化温度が高くなるからである。
【0024】
また、前記の各炭化水素基の炭素数は20以下、好ましくは15以下であることが望ましい。これらの炭化水素基の炭素数が多くなっても、前記ウレタン化合物の液状化温度が高くなるからである。
【0025】
上記のようなウレタン化合物を用いて転がり軸受を組み立てる方法を採用するにあたり、本願の発明では、内輪と外輪のうちの一方の軌道輪の軌道面に、保持器に保持された複数の転動体を先に組み付けた後、これらの転動体を前記した先に組み付けた一方の軌道輪に押し付けながら、他方の軌道輪を組み込む転がり軸受の組立方法において、他方の軌道輪を組み込む時に、先に組み付けた一方の軌道輪と転動体とを、または前記保持器とそれに保持されている複数の転動体とを、ウレタン化合物を基油中に分散状態に保持して粘着性および非可逆的に感圧液状化性を有する軸受組立用油性接着剤で粘着させて仮止めしておくことを特徴とする転がり軸受の組立方法としたのである。
【0026】
上記の仮止めにより、転動体は軸受組立用油性接着剤の粘着力で動くことなく、部品に無用の衝撃を与えず、傷つけられることなく極めて円滑に軌道輪を組み込んだ転がり軸受を製造することができる。しかも、この軸受組立用油性接着剤は、転がり軸受の使用によって非可逆的に液状化し、潤滑油や潤滑グリース中に固形状の異物を生じることがないので、潤滑油や潤滑グリース潤滑性が阻害されない転がり軸受になる。
【発明の効果】
【0027】
この発明の転がり軸受は、ウレタン化合物を基油中に分散状態に保持して粘着性および非可逆的に感圧液状化性を有する軸受組立用油性接着剤によって保持器もしくは軌道輪または両者を粘着して保持しているので、軸受の部品の組み込み時の脱落などを防止するように転動体と軌道輪または保持器等との仮接着を行なうことができ、しかも転がり軸受の回転動作中には潤滑作用が阻害されず、また潤滑剤中に固形状の異物を生じることのない転がり軸受となる利点がある。
【0028】
また、この発明の転がり軸受の組立方法では、他方の軌道輪を組み込む時に、先に組み付けた一方の軌道輪と転動体とを、または前記保持器とそれに保持されている複数の転動体とを、所定の軸受組立用油性接着剤で粘着させ仮止めしておくので、仮接着を行なうことができると共に、転がり軸受の回転動作中には潤滑作用が阻害されず、また潤滑剤中に固形状の異物を生じることのない転がり軸受を組立できるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
この発明の実施形態を以下に、添付図面に基づいて説明する。
図1(a)、(b)は、この発明に係る転がり軸受としてのころ軸受を組み立てる状態を示す。このころ軸受は、外輪2の軌道面2aに、保持器4に収納した複数の転動体としてのころ3を先に組み付け、各ころ3を組み付けた外輪2に図中に一点鎖線で示す内輪1を後から組み込むものであり、各ころ3は、外輪2の軌道面2aに押し付けられた状態で、軸受組立用油性接着剤A(以下、油性接着剤Aという。)によって保持器4に粘着されている。
【0030】
この発明に用いる油性接着剤Aは、ウレタン化合物が基油中に分散状態に保持されており、粘着性および非可逆的に感圧液状化性を有する。このようなウレタン化合物は、多官能イソシアネートと、単官能アルコールを基油中で反応させて得られる。
【0031】
上記の多官能イソシアネートは、1分子に2以上のイソシアネート基を有する化合物であり、例えば、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、イソプロピリデンビス(フェニルイソシアネート)等の芳香族ジイソシアネートが挙げられ、またテトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の直鎖脂肪族ジイソシアネートが挙げられ、またイソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、ジシクロへキシルメタンジイソシアネート、ジシクロへキシルエーテルジイソシネート、イソプロピリデンビス(シクロへキシルイソシアネート)等の環状脂肪族ジイソシアネートも挙げられ、また、トリフェニルメタントリイソシアネート、ビス(ジイソシアネートトリル)フェニルメタン等3官能以上のイソシアネート化合物も挙げられる。
【0032】
さらに例示すると、多官能イソシアネートが、ジイソシアネートである場合、トルエンジイソシアネートとして、トルエン-2,4-ジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートとして、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが挙げられる。
【0033】
単官能アルコールは、1分子中に水酸基を1つ含むアルコールであればよく、例えばエチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、イソプロピルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、オクチルアルコール、トリデシルアルコール、デシルアルコール、ノニルアルコール、ステアリルアルコール、フェニルエチルアルコールなどの脂肪族モノオール類が挙げられ、またフェノール、クレゾール、アセチルサリチル酸、1−ナフトール、2−ナフトールなどの芳香族モノオール類などが挙げられる。
【0034】
上記の単官能アルコールが炭素数5〜19の脂肪族モノアルコールとジイソシアネートが組み合わされた後述の実施例により、代表的な好結果が得られている。
【0035】
前記した化2に示されるようなウレタン化合物を分散させる基油としては、グリース等の原料として周知な鉱油、合成油およびこれらの混合油などを使用することができる。
そのような鉱油として、パラフィン系やナフテン系のものを挙げることができ、合成油としては、エステル油、エーテル油、合成炭化水素油等を挙げることができる。これらを任意の割合で混合した混合油を用いても良い。
【0036】
基油の種類をより具体的に例示すると、エステル油としては、ジエステル油、ポリオールエステル油、芳香族エステル油等が挙げられ、エーテル油としては、ジアルキルジフェニルエーテル油、アルキルトリフェニルエーテル油、アルキルテトラフェニルエーテル油等を挙げられる。また、合成炭化水素油としては、ポリ−α−オレフィン油、α−オレフィン油とオレフィンとの共重合体、ポリブテン等の脂肪族系炭化水素油、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリフェニル、合成ナフテン等の芳香族系炭化水素油を挙げることができる。
これらの基油は、前記のウレタン化合物の粘着性を阻害しないように、室温(40℃)での動粘度が15mm/s以上であるものを採用することが望ましい。
【0037】
また、この発明に用いる油性接着剤Aには、必要に応じて有機金属系、リン酸系、ハロゲン系等の極圧剤、二硫化モリブデン、グラファイト、PTFE等の固体潤滑剤、アミン系化合物、フェノール系化合物等の酸化防止剤、有機スルホン酸のアンモニウム塩、アルカリ金属やアルカリ土類金属のスルホン酸塩等の防錆剤、トリアゾール系化合物等の金属不活性化剤、脂肪酸、脂肪酸アルコール、脂肪酸エステル、リン酸エステル等の油性剤、ポリメタクリレート、ポリアクリレート等の粘度指数向上剤等を配合することもできる。
【0038】
油性接着剤Aは、高い粘着性を有するとともに、軸受運転中に軸受内部が温度上昇する70℃程度に昇温するか、軌道輪と転動体間の潤滑剤に作用する30MPa程度の圧力を負荷すると、液状化する。したがって、軸受運転中に副作用を生じさせることなく、軸受組み立て時における各ころ3の脱落を防止することができる。
【0039】
上述した実施形態では、転がり軸受をころ軸受とし、保持器に収納したころを外輪に組み付けるものとしたが、この発明に係る転がり軸受は、円錐ころ軸受や玉軸受等にも適用でき、保持器に収納したころを内輪に組み付けるものにも適用することができる。
【0040】
油性接着剤Aによって転動体と保持器が粘着して仮止めされている転がり軸受を製造するために、以下の実験例に示す油性接着剤を製造し、その物性を比較した。
実験例および比較実験例に用いた軸受組立用油性接着剤の原材料を、以下に列記する。なお、表1中の材料に同一符号を付している。
(1)合成炭化水素油(新日鐵化学社製:シンフルード、40℃動粘度47mm
(2)エステル油(チバスペシャリティケミカルズ社製:レオルーブ、40℃動粘度53mm
(3)アルキルジフェニルエーテル油(松村石油研究所製:モレスコハイルーブ、40℃動粘度97mm
(4)鉱油(新日本石油社製:スーパーオイル、40℃動粘度98mm
(5)〜(10)和光純薬社製:試薬
(11)4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業社製:ミリオネート)
【0041】
[実験例1〜8、比較実験例1〜3]
表1に示す配合割合で、基油中に脂肪族または芳香族の単官能アルコールとジイソシアネートを配合し、化学反応させて基油中にウレタン化合物を析出させ、実験例1〜6の油性接着剤Aを作製した。各基油の40℃での動粘度は、いずれも15mm/s以上とし、ウレタン化合物の配合割合は、いずれも20質量%とした。
【0042】
[比較実験例1〜3]
比較実験例1、3として、それぞれワセリンまたは鉱油を採用した。
比較例2としては、表1に示す配合割合で基油中にアミンとジイソシアネートを配合し、化学反応させて基油中にウレア化合物を析出させ、軸受組立用接着剤を作製した。
【0043】
【表1】

【0044】
上述した各実験例および比較実験例について、以下の試験方法にて粘着性試験(i)(ii)および感圧液状化試験を行ない、それらの結果を表1中に記号または数値(引き剥がし強度:gf)で併記した。
【0045】
[粘着性試験(i)]
図2に示すように、粘着性試験(i)は、高炭素クロム軸受鋼SUJ2製の鋼板11の下面に実験例または比較実験例の軸受組立用油性接着剤Aを塗布し、この鋼板11の下面に、同じくSUJ2製のころ12(直径4mm、長さ16.8mm)を粘着させて、ころ12が落下するまでの時間を調べた。
【0046】
表1中に示した評価は、所定のころが接着後に1分間の経過後も落下しないものを○印とし、同1分以内に落下するものを△とし、ころが全く接着することなく落下するものを×印とする3段階評価を行なった。
【0047】
表1の結果からも明らかなように、各実験例のものは、いずれも1分間以上ころ12を落下させないように粘着できることが確認され、これら実施例の軸受組立用油性接着剤Aは、転がり軸受の組み込み時に、一方の軌道輪に組み付けられる転動体の脱落を十分に防止できるものであることが確認できた。
これに対して、比較実験例3の鉱油は、転動体の脱落を防止できる程度の粘着性はみられなかった。
【0048】
[粘着性試験(ii)]
図3に示すように、粘着性試験(ii)では長方形板状(縦×横×厚さ=76mm×26mm×1mm)のプレパラート14の一面に実験例および比較実験例の軸受組立用油性接着剤Aを0.5g塗布し、この面に同形のプレパラート14を重ねて2枚を粘着力で一体化させ、次いで台座15に直立状態に固定した支柱16に一方のプレパラート14を固定すると共に、他方のプレパラート14に糸17の一端を固定し、その他端はロードセル18を介して1mm/秒という一定速度で垂直に強制的に引き上げ、ロードセル18に掛かる負荷(動摩擦測定値)による軸受組立用油性接着剤Aの引き剥がし強度(gf)を測定した。
【0049】
この測定の結果は、表1に示すように、比較実験例3は引き剥がし強度が小さすぎて使用に耐えないものであった。また、実験例6、7は、増ちょう剤の材料として単官能アルコールが炭素数5〜19の範囲外であり、実験例8はフェノールを使用したものであり、引き剥がし強度が比較的小さく、大型の転がり軸受の組立には不向きであるが、転がり軸受の部品の大きさが小さくて軽量なものであれば使用に耐えるものと考えられた。
また、実験例1〜5の軸受組立用油性接着剤Aは、比較的大型の転がり軸受の組み込み時に、一方の軌道輪に組み付けられる転動体の脱落を十分に防止できる仮接着が可能なものであることが確認された。
【0050】
[感圧液状化試験]
感圧液状化試験は、図4に示すように、水平方向に向けたSUJ2製の2本のロール13を下向き回転で対接させて、回転する2本対のロール13間に30MPaの面圧を付与し、これらの面圧を付与した対のロール13間に、上方から実施例の軸受組立用油性接着剤Aを供給し、対のロール13間から下方に排出された実施例の性状を観察し、完全に液状化しているものを○印、少しでも固形状物または半固形状物が残るものを×印とする2段階に評価し、これらの結果を表1中に併記した。
【0051】
この結果、各実験例は、いずれもロール13間から排出されたものが完全に液状化していることが確認され、また液状化した後に静置しておいても液状を保っていた。これにより、実験例の軸受組立用油性接着剤Aは、軸受回転動作中に良好な潤滑性能を確保することができ、非可逆的に感圧液状化性を有することが確認できた。
これに対して、比較実験例1の接着剤とした半固体状のワセリンは、加圧しても液状化せず、これでは潤滑油または液状化した潤滑グリースと一体化せずに潤滑性を阻害することがあるものと推定された。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】aは、実施形態の転がり軸受を組立状態を示す一部省略縦断面図、bはaのIb−Ib線に沿った断面図
【図2】粘着性試験(i)の方法を示す概略正面図
【図3】粘着性試験(ii)の方法を示す概略正面図
【図4】感圧液状化試験の方法を示す概略正面図
【符号の説明】
【0053】
A 粘着性潤滑剤
1 内輪
2 外輪
2a 軌道面
3、12 ころ
4 保持器
11 鋼板
13 ロール
14 プレパラート
15 台座
16 支柱
17 糸
18 ロードセル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受における転動体が、内輪と外輪のうちの一方の軌道輪の軌道面に押し付けられた状態で保持器に保持されており、前記転動体が、ウレタン化合物を基油中に分散状態に保持して粘着性および非可逆的に感圧液状化性を有する軸受組立用油性接着剤によって前記保持器もしくは軌道輪または両者に粘着して保持されている転がり軸受。
【請求項2】
ウレタン化合物が、多官能イソシアネートと、単官能アルコールとを反応させたウレタン化合物である請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
多官能イソシアネートが、ジイソシアネートであり、単官能アルコールが炭素数5〜19の脂肪族モノアルコールである請求項2に記載の転がり軸受。
【請求項4】
ウレタン化合物が、化1に示されるジウレタン化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の転がり軸受。
【化1】

(式中、R2は炭素数6〜20の2価の芳香族系炭化水素基であり、R1、R3は脂肪族系炭化水素基、脂環族系炭化水素基または芳香族系炭化水素基を表し、R1、R3は同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項5】
化1に示されるジウレタン化合物が、化1式中のR1およびR3が脂肪族系炭化水素基のジウレタン化合物である請求項4に記載の転がり軸受。
【請求項6】
内輪と外輪のうちの一方の軌道輪の軌道面に、保持器に保持された複数の転動体を先に組み付けた後、これらの転動体を前記した先に組み付けた一方の軌道輪に押し付けながら、他方の軌道輪を組み込む転がり軸受の組立方法において、
他方の軌道輪を組み込む時に、先に組み付けた一方の軌道輪と転動体とを、または前記保持器とそれに保持されている複数の転動体とを、ウレタン化合物を基油中に分散状態に保持して粘着性および非可逆的に感圧液状化性を有する軸受組立用油性接着剤で粘着させて仮止めしておくことを特徴とする転がり軸受の組立方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−240886(P2008−240886A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−81909(P2007−81909)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】