説明

転がり軸受および潤滑油供給装置付きターボチャージャ

【課題】ターボチャージャの転がり軸受の焼き付きを防ぐ。
【解決手段】円筒状の外輪24aと、外輪24aの内周側に配置される円筒状の内輪24bと、外輪24aおよび内輪24b間を転動する複数の転動体24cと、複数の転動体24cを保持するポケット65aを有し、外輪24aと内輪24b間に配置される円筒状の保持器65と、外輪24a、内輪24b、転動体24c、保持器65の互いに接触する箇所を潤滑する潤滑油とからなる転がり軸受24において、前記保持器65の軸方向両側面に軸方向両側面に軸方向に深さを有する凹溝65bを径方向に形成し、この転がり軸受24をターボチャージャの転がり軸受に適用するとともに、転がり軸受24の軸方向両側に油溜り60、61を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に搭載されるターボチャージャに最適な転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
アンギュラタイプの転がり軸受100として、図5に示すようなものがある。このものは、略円筒状の外輪101、外輪101の内周側に配置される略円筒状の内輪102、外輪101および内輪102間を転動する複数の転動体103、外輪101と内輪102間に配置される円筒状の保持器104とからなり、前記保持器104には複数のポケット104aが形成され、各ポケット104aには転動体103が保持されている。
【0003】
この転がり軸受100を、特許文献1に示すターボチャージャに適用した場合、転がり100の軸方向両側に図略の油溜まりを有し、この油溜まりの潤滑油によって、転がり軸受100が冷却されるようになっている。また、内輪102、転動体103、保持器104が回転し、油溜りの潤滑油を掻き揚げて、潤滑油に浸かっていない他の外輪101、内輪102、転動体103、保持器104に潤滑油を掛けることによって、転がり軸受100を冷却していた。図6は、保持器104を径方向から見た正面図であり、保持器104の軸方向両側面は、平らな面104bを有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−96119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
長い登坂路でターボチャージャをフル稼働させた後、エンジンを停止させると、エンジンによって駆動される潤滑油供給装置からの潤滑油が供給されなくなるが、ターボチャージャの回転軸は、しばらくは惰性で回転する。ターボチャージャのタービン側の熱が、ターボチャージャの回転軸あるいはターボチャージャのターボチャージャハウジングを介して転がり軸受100に伝わる。保持器104の軸方向両側面は、平らな面104bを有し、保持器104が回転するときに、油溜りの潤滑油を掻き揚げる能力が不足するので、転がり軸受100が焼き付く可能性があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、円筒状の外輪と、前記外輪の内周側に配置される円筒状の内輪と、前記外輪および内輪間を転動する複数の転動体と、前記複数の転動体を保持するポケットを有し、前記外輪と内輪間に配置される円筒状の保持器と、外輪、内輪、転動体、保持器の互いに接触する箇所を潤滑する潤滑油とからなる転がり軸受において、前記保持器の軸方向両側面に軸方向に深さを有する凹溝を径方向に形成したものである。
【0007】
この構成によれば、保持器の凹溝によって潤滑油を貯えることが出来、転がり軸受の焼付きを防止できる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、保持器の円周方向においてポケットと対応する位置に形成したものである。
【0009】
この構成によれば、凹溝に貯えられた潤滑油により、主にポケットを冷却するので、転動体と保持器との接触による焼付きを抑えることができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、エンジンの排気ガスによって回転駆動されるタービン側インペラと、エンジンの吸気側へ圧縮空気を送る及びコンプレッサ側インペラと、タービン側インペラとコンプレッサ側インペラを連結する回転軸と、回転軸を回転可能に支持する一対の転がり軸受と、一対の転がり軸受を収容した軸受ケースと、タービン側インペラ、コンプレッサ側インペラ、軸受ケースを収容したターボチャージャハウジングと、前記転がり軸受へ潤滑油を供給する潤滑油供給装置とを備え、タービン側インペラ側の転がり軸受の軸方向両側に油溜まりを設け、この油溜まりに通じる供給通路と、この油溜まりに通じる排出通路を前記ターボチャージャハウジングに設けた潤滑油供給装置付きターボチャージャにおいて、前記タービン側インペラ側の転がり軸受に、請求項1または2に記載の転がり軸受を適用したものである。
【0011】
この構成によれば、凹溝によって潤滑油を貯えることが出来る。また、凹溝によって、潤滑油の掻き揚げ能力が高まり、潤滑油に浸かっていない他の外輪、内輪、転動体、保持器に潤滑油を掛けることが出来、タービンからの熱を吸収して転がり軸受の焼付きを防止できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、保持器の軸方向両側に形成した凹溝に貯えた潤滑油により保持器を冷却できるので、転がり軸受の焼付きを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態におけるターボチャージャの断面図
【図2】本発明の実施形態における図1の拡大断面図
【図3】本発明の実施形態における保持器の正面図
【図4】本発明の実施形態における保持器の側面図
【図5】従来の転がり軸受の断面図
【図6】従来の保持器の正面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態を、図1乃至図3にもとづいて説明する。図1は、ターボチャージャ、の断面図、図2は、図1の拡大断面図、図3は、保持器の正面図、図4は、保持器の側面図である。
【0015】
図1において、一点鎖線で囲った部分が潤滑油供給装置10である。潤滑油供給装置10は、図略のエンジンのクランクシャフトによって回転駆動される潤滑油供給ポンプ11、潤滑油を貯めるオイルパン12、オイルパン12から汲み上げられた潤滑油をろ過するストレーナ13、エンジンの各所14へ潤滑油を供給する前に潤滑油をろ過するオイルエレメント15を有する。潤滑油供給装置10は、エンジンの各所14へ潤滑油を送給して、各所14(例えば、シリンダとピストン間)を潤滑する役目を持つ。
【0016】
ターボチャージャ20は、エンジンに外付けされるもので、このターボチャージャ20は、エンジンから排出される排気ガスによって、タービン側インペラ21を回し、コンプレッサ側インペラ22も一体回転することにより、エンジンへ圧縮空気を供給する装置である。
【0017】
ターボチャージャ20は、回転軸23を有し、回転軸23の一端にはタービン側インペラ21が一体形成され、回転軸23の他端にはコンプレッサ側インペラ22が取り付けられている。回転軸23は、一対の転がり軸受(アンギュラ玉軸受)24、25によって回転可能に支持され、転がり軸受24は、略筒状の軸受ケース26の一端に圧入固定され、転がり軸受25は、軸受ケース26の他端に遊嵌されている。
【0018】
前記回転軸23には、第1の段部23a、中径部23b、第2の段部23c、小径部23d、ネジ部23eの順に形成されている。前記中径部23bには、転がり軸受24、転がり軸受25の順に嵌合され、前記小径部23dには、スラスト受部材28、コンプレッサ側インペラ22の順に嵌合され、前記ネジ部23eにナット29が螺着されている。転がり軸受24、転がり軸受25が、第1の段部23aとスラスト受部材28とで軸方向に挟み込まれ、スラスト受部材28、コンプレッサ側インペラ22が、第2の段部23cとナット29とで軸方向に挟み込まれている。
【0019】
前記軸受ケース26の外周面には、第1の小径部26a、第1の大径部26b、幅広環状溝26c、第2の大径部26d、第2の小径部26eの順に形成されている。第1の大径部26bと第2の大径部26dには、幅狭環状溝26f、26gがそれぞれ形成されている。
【0020】
前記軸受ケース26の内周面には、第1の大径部26h、第1の段部26j、小径部26k、第2の段部26m、第2の大径部26nの順に形成されている。第1の大径部26hに第1のスペーサ30が遊嵌され、さらに第1の大径部26hに転がり軸受24の外輪が圧入固定されている。第2の大径部26nに第2のスペーサ31が遊嵌され、さらに第2の大径部26nに転がり軸受25の外輪が遊嵌されている。
【0021】
第1のスペーサ30と第2のスペーサ31間には、コイルバネ32が介挿され、コイルバネ32によって、転がり軸受24、25に定圧予圧がかけられるようになっている。第1のスペーサ30の外周面には、断面三角形状の幅狭環状溝30aが形成されている。また第1のスペーサ30には、ノズル穴30bが形成され、ノズル穴30bの一端は幅狭環状溝30aに開口し、ノズル穴30bの他端は転がり軸受24の内輪に向けられている。第1のスペーサ30の内周には、回転軸23を遊嵌する挿通穴30cが形成されている。
【0022】
前記軸受ケース26には、パス穴26pが形成され、パス穴26pの一端は幅狭環状溝26fに開口し、パス穴26pの他端は幅狭環状溝30aに向けて開口している。
【0023】
ターボチャージャ20は、図1に示すように、ターボチャージャハウジング50を有し、ターボチャージャハウジング50は、タービン側インペラ21を収容する図略のタービンハウジング、センタハウジング52、コンプレッサ側インペラ22を収容する図略のコンプレッサハウジングから構成されている。
【0024】
前記センタハウジング52には、保持穴52a、第1の段付き穴52b、第2の段付き穴52cの順に形成されている。保持穴52aには前記軸受ケース26が遊嵌され、第1の段付き穴52bにはスラストプレート53が嵌合され、第2の段付き穴52cにはシールプレート54が嵌合されている。スラストプレート53の内周面とシールプレート54の内周面に前記スラスト受部材28が摺動可能に嵌合され、スラストプレート53の内周面とシールプレート54の内周面とスラスト受部材28の外周面に形成されたテーパ面でスラスト力を受け止めることが出来るようになっている。
【0025】
前記センタハウジング52には、導入ポート52d、横穴52e、縦穴52f、52gが形成され、潤滑油供給ポンプ11からの潤滑油は、導入ポート52d、横穴52e、縦穴52f、軸受ケース26の幅狭環状溝26f、パス穴26p、第1のスペーサ30の幅狭環状溝30a、ノズル穴30bを介して転がり軸受24に導かれるようになっている。また潤滑油供給ポンプ11からの潤滑油は、導入ポート52d、横穴52e、縦穴52g、軸受ケース26の幅狭環状溝26gに導かれるようになっている。幅狭環状溝26fに導かれた潤滑油は、軸受ケース26の第1の小径部26aを経て軸受ケース26のタービン側インペラ21側の端面に導かれる。幅狭環状溝26gに導かれた潤滑油は、軸受ケース26の第2の小径部26eを経て軸受ケース26のコンプレッサ側インペラ22側の端面に導かれる。幅狭環状溝26f、26gに導かれた潤滑油の一部は、軸受ケース26の幅広環状溝26cに導かれる。
【0026】
前記センタハウジング52には、第1の排出通路52h、第2の排出通路52j、第3の排出通路52k、排出ポート52mが形成され、軸受ケース26のタービン側インペラ21側の端面に導かれた潤滑油は、第1の排出通路52hを経て排出ポート52mへ排出されるようになっている。軸受ケース26のコンプレッサ側インペラ22側の端面に導かれた潤滑油は、第3の排出通路52kを経て排出ポート52mへ排出されるようになっている。軸受ケース26の幅広環状溝26cに導かれた潤滑油は、第2の排出通路52jを経て排出ポート52mへ排出されるようになっている。
【0027】
また前記センタハウジング52には、第1の排出通路52hと保持穴52aを連通する連通穴52nが形成され、この連通穴52nは回転軸23と同軸に設けられている。
【0028】
転がり軸受24の軸方向両側に、油溜り60、61が形成されている。油溜り60は、センタハウジング52の保持穴52a、軸受ケース26の第1の大径部26h、回転軸23の外周面とで区画された空間であり、油溜り61は、第1のスペーサ30の内周面、回転軸23の外周面とで区画された空間である。
【0029】
転がり軸受24は、略円筒状の外輪24a、外輪24aの内周側に配置される略円筒状の内輪24b、外輪24aと内輪24b間を転動する複数の転動体24c、複数の転動体24cを保持するポケット65aを有し、外輪24aと内輪間24bに配置される円筒状の保持器65とからなっている。保持器65の軸方向両側面には、図3ないし図4に示すように、径方向に貫通する凹溝65bが形成されている。しかも、凹溝65bは、円周方向の一つ置きのポケット65aに対応する位置に形成されている。凹溝65bの幅は、ポケット65aの直径よりも大きい。
【0030】
前記油溜り60と油溜り61は、転がり軸受24の外輪24aと内輪24b間の空間を経て互いに連通している。前記センタハウジング52の保持穴52aと前記第1のスペーサ30の挿通穴30cは、回転軸23と同軸に形成され、保持穴52aの方が挿通穴30cよりも大径である。よって、油溜り60、61の潤滑油は、保持穴52aの一番低いところまで溜まる。
【0031】
次に、上述した実施形態の構成にもとづいて、本実施形態の動作について説明する。
エンジンの駆動中は、エンジンから排出された排気ガスでタービン側インペラ21が回転する。タービン側インペラ21の回転は、回転軸23を介してコンプレッサ側インペラ22に伝えられ、コンプレッサ側インペラ22からエンジンへ圧縮空気が供給される。
【0032】
エンジンの駆動によって、潤滑油供給ポンプ11も駆動され、オイルパン12から汲み上げられた潤滑油は、ストレーナ13、潤滑油供給ポンプ11、オイルエレメント15を経てエンジンの各所14へ送給される。また、ターボチャージャ20の転がり軸受24、25にも供給される。
【0033】
エンジンが停止すると、潤滑油供給ポンプ11が停止し、転がり軸受24、25に潤滑油が供給されなくなる。ターボチャージャ20の回転軸23は、惰性でしばらく回転する。このときに、内輪24b、保持器65、転動体24cが回転し、これらで油溜り60、61の潤滑油を掻き揚げ、油溜り60、61につかっていない外輪24a、内輪24b、保持器65、転動体24cに潤滑油をかける働きをする。保持器65の軸方向両側面に径方向に凹溝65bが形成されているので、これら凹溝65bによって油溜り60、61の潤滑油を掻き揚げる能力が高められる。
【0034】
本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
他の実施形態として、アンギュラ玉軸受タイプの転がり軸受24,25に変えて、ラジアル玉軸受タイプの転がり軸受にも適用しても良い。
【符号の説明】
【0035】
10:潤滑油供給装置、20:ターボチャージャ、21:タービン側インペラ、22:コンプレッサ側インペラ、23:回転軸、24:転がり軸受、24a:外輪、24b:内輪、24c転動体、60:油溜り、61:油溜り、65:保持器、65a:ポケット、65b:凹溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の外輪と、前記外輪の内周側に配置される円筒状の内輪と、前記外輪および内輪間を転動する複数の転動体と、前記複数の転動体を保持するポケットを有し、前記外輪と内輪間に配置される円筒状の保持器と、外輪、内輪、転動体、保持器の互いに接触する箇所を潤滑する潤滑油とからなる転がり軸受において、前記保持器の軸方向両側面に軸方向に深さを有する凹溝を径方向に形成したことを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
前記凹溝は、保持器の円周方向においてポケットと対応する位置に形成したことを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
エンジンの排気ガスによって回転駆動されるタービン側インペラと、エンジンの吸気側へ圧縮空気を送る及びコンプレッサ側インペラと、タービン側インペラとコンプレッサ側インペラを連結する回転軸と、回転軸を回転可能に支持する一対の転がり軸受と、一対の転がり軸受を収容した軸受ケースと、タービン側インペラ、コンプレッサ側インペラ、軸受ケースを収容したターボチャージャハウジングと、前記転がり軸受へ潤滑油を供給する潤滑油供給装置とを備え、タービン側インペラ側の転がり軸受の軸方向両側に油溜まりを設け、この油溜まりに通じる供給通路と、この油溜まりに通じる排出通路を前記ターボチャージャハウジングに設けた潤滑油供給装置付きターボチャージャにおいて、
前記タービン側インペラ側の転がり軸受に、請求項1または2に記載の転がり軸受を適用したことを特徴とする潤滑油供給装置付きターボチャージャ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−57723(P2012−57723A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201740(P2010−201740)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】