説明

転がり軸受のアキシアル方向の振動測定方法及び振動測定装置

【課題】 転がり軸受1のアキシアル方向の振動特性を精度良く測定する。
【解決手段】 転がり軸受1のアキシアル方向の剛性に関し、この転がり軸受1よりも小さいばね定数を有する弾性部材20を介して、内輪3にアキシアル荷重を付与する。そして、この状態で、外輪2を回転させつつ上記内輪3のアキシアル方向の振動を測定する。この結果、この内輪3と共に変位する部材を軽量にでき、固有振動数を大きくできると共に、上記弾性部材20により上記内輪3の振動絶縁を図れ、上記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、モータ等の回転装置の回転主軸を支持する為の転がり軸受等、使用状態で静寂性を要求される回転装置の回転部分に組み込む転がり軸受の、アキシアル方向の振動を測定する為に利用する。
【背景技術】
【0002】
各種回転装置の回転部材を支持する為の転がり軸受の振動を測定する事が、従来から行なわれている。例えば図4〜5に示す様に、転がり軸受1を構成する外輪2にアキシアル荷重を付与しつつ(予圧を付与した状態で)、同じく内輪3を回転主軸4によりを回転させた状態で、上記外輪2の外周面に当接乃至近接対向させた振動ピックアップ5により、この外輪2のラジアル方向の振動を測定する事が行なわれている。一方、使用時に静寂性が要求される回転装置、例えばモータ等の主軸を支持する転がり軸受の場合には、この転がり軸受を支持する為のブラケット(軸受ハウジング部分)が、この転がり軸受のラジアル方向に関して平面状(薄板状)となる場合が多い。そして、この様な平面状のブラケットにより転がり軸受を支持する場合、この転がり軸受のアキシアル方向の支持剛性を確保しにくくなり、この転がり軸受がアキシアル方向に振動し易くなる可能性がある。この為、この様な状態で使用される転がり軸受の場合には、ラジアル方向だけでなく、アキシアル方向の振動を抑制する事が、上記モータ等の回転装置の静寂性を確保する面で重要となる。
【0003】
この様に転がり軸受のアキシアル方向の振動を抑制する為には、この転がり軸受のアキシアル方向の振動を測定すると共に、その振動の評価(例えば振動量が許容範囲か否か等の判定)を行なう必要がある。例えば特許文献1には、図6に示す様な、転がり軸受1のアキシアル方向の振動を測定する為の振動測定装置6が記載されている。この振動測定装置6は、無端ベルト14により回転駆動される中空回転主軸7の内側に被測定軸8を、Oリング等の緩衝部材9、9を介して支持している。この為、この被測定軸8は、上記中空回転主軸7の内側で、アキシアル方向の変位を許容されつつ、この中空回転主軸7と同期して回転する。上記転がり軸受1の振動を測定する場合には、この転がり軸受1の内輪3を上記被測定軸8の一端部に外嵌する。そして、この転がり軸受1の外輪2を図示しない治具等により静止させた(回転を阻止した)状態で、上記中空回転主軸7並びに被測定軸8を回転させつつ、この被測定軸8の軸方向変位量を検出器15により検出する事で、上記転がり軸受1の内輪3のアキシアル方向の振動量を測定する。
【0004】
又、特許文献2には、図7〜8に示す様な、転がり軸受1のアキシアル方向の振動を測定する為の振動測定装置6aが記載されている。この振動測定装置6aは、上記転がり軸受1を構成する内輪3に押圧子10により所定のアキシアル荷重を付与しつつ、回転主軸4aにより外輪2を回転させる。そして、この状態で、上記押圧子10に連設した検出センサ11により、上記内輪3の振動加速度を測定する。この様な特許文献2に記載された振動測定装置6aの場合には、この様に測定した振動加速度の大きさに応じて、上記転がり軸受1の良否判定を行なう(振動加速度が所定値以上であれば不良品とする)。又、特許文献3には、転がり軸受の内輪又は外輪を傾けた(回転中心軸に対して傾斜させた)状態で、この転がり軸受の振動を測定する技術が記載されている。又、特許文献4には、軌道輪に付与するアキシアル荷重の方向を切り換えられる玉軸受用検査装置が記載されている。
【0005】
ところで、転がり軸受のアキシアル方向の振動は、例えば非特許文献1、2に記載されている様に、図9に示す様な、転がり軸受1をばねとした振動モデル(固有振動系)として考える事ができる。この場合に、この転がり軸受1のアキシアルばね定数をKとし、外輪2或いは内輪3の質量をMとすると、この転がり軸受のアキシアル方向の固有振動数Fは、次の(1)式で表せる。
F=1/(2π)・√(K/M) ‐‐‐(1)
ここで、上記転がり軸受1を構成する内輪3のアキシアル方向の変位を阻止すると共に、同じく外輪2のアキシアル方向の変位を許容する(フリーとした)状態で、この外輪2のアキシアル方向の振動を求める場合には、上記質量Mは、この外輪2の質量となる。そして、この場合に上記(1)式から求められる上記固有振動数Fは、外輪質量系アキシアル方向固有振動数となる。一方、上記外輪2のアキシアル方向に関する変位を阻止すると共に、内輪3のアキシアル方向の変位を許容する(フリーとした)状態で、この内輪3の振動を求める場合には、上記Mはこの内輪3の質量となる。そして、この場合に上記(1)式から求められる上記固有振動数Fは、内輪質量系アキシアル方向固有振動数となる。
【0006】
又、図10は、玉軸受の外輪質量系の振動スペクトル、即ち、この玉軸受を構成する内輪のアキシアル方向の変位を阻止した状態で、同じく外輪のアキシアル方向の振動を測定した場合の、この玉軸受の振動特性を表している。尚、この図3は、呼び番号6200の玉軸受(内径10mm、外径30mm、幅9mm)の測定結果を表しているが、中型、大型モータ等に組み込まれる並径玉軸受(内径が10〜30mm程度)に就いても、同様の結果を得られる。この様な線図から明らかな様に、所定の振動数(周波数)、即ち、1.5KHz程度で、明瞭な共振ピークが出現する事が分かる。この共振ピークの振動数(周波数)が、外輪質量系アキシアル方向固有振動数(共振周波数)となる。又、この固有振動数(共振周波数)よりも高い周波数領域では、振動スペクトルが急激に減衰する。この為、この固有振動数(1.5KHz)よりも高い周波数領域では、振動測定感度を得にくくなる(振動が小さくなる)事が分かる。
【0007】
一方、例えばモータ等の回転装置の音響性能を評価する上では、4〜5KHzの高周波領域での転がり軸受の振動(音響)を測定する事が重要になる。この様な高周波領域で振動を測定する(測定感度を得る)為には、言い換えれば、振動特性の評価を十分に行なえる程度に転がり軸受を振動させる為には、上記転がり軸受のアキシアル方向の固有振動数Fを高くする事が好ましい。この様に固有振動数Fを高くする為には、上記式(1)から明らかな様に、ばね定数Kを大きくしたり、質量Mを小さくする事が考えられる。このうちのばね定数Kを大きくする場合には、転がり軸受に付与するアキシアル方向の荷重Laを大きくする事が考えられる。但し、この様にアキシアル方向の荷重Laを大きくすると、実際の運転時にこの転がり軸受に加わる荷重と、振動測定時に付与する荷重Laとが大きくずれて、測定結果の信頼性が低下する他、この転がり軸受に損傷を生じる可能性がある。一方、上記質量Mを小さくする為には、外輪2に比べて質量の小さい内輪3の振動(内輪質量系の振動)を測定する事が考えられる。但し、前述した特許文献1〜2に記載された従来技術の場合には、この様に内輪3の振動を測定する場合でも、振動特性を精度良く測定できない可能性がある。
【0008】
即ち、実際にアキシアル方向の振動を測定する場合、上記式(1)中の質量Mは、転がり軸受1の軌道輪(内輪3の振動を測定する場合はこの内輪、外輪2の振動を測定する場合はこの外輪2)のみの質量だけでなく、この軌道輪(内輪3或いは外輪2)を含む、この軌道輪と共に変位(振動)する部材全体(被測定系全体)の質量となる。この為、前述した特許文献1に記載された技術、即ち、前記図6に示した振動測定装置6で振動測定を行なう場合、上記質量Mは、内輪3の質量だけでなく、この内輪3の質量に、この内輪3と共に変位する部材である被測定軸8の質量を加えた値となる。この為、上記質量Mが、上記内輪3単体のみの質量に比べて相当に大きくなり、その分、固有振動数Fが小さくなる。そして、この様に固有振動数Fが小さくなる分、高周波領域で測定感度を得られにくくなる(振動しなくなる)。例えば、上記4〜5KHzの高周波領域で振動を測定した場合に、その測定値が実際の振動量(内輪3単体の振動量)に比べて小さくなり、上記転がり軸受1の振動特性を精度良く測定できなくなる可能性がある。
【0009】
又、前述した特許文献2に記載された技術、即ち、前記図7〜8に示した振動測定装置6aの場合には、圧電変換素子により構成される検出センサ11が、押圧子10を押圧する為の加圧手段12を構成するアーム13に取り付けられている。この為、この検出器11の自由な運動が阻害される可能性がある。即ち、本来被測定物である内輪3と一体的に運動すべき上記検出器11が、上記アーム13の拘束を受けて、この内輪3本来の振動を精度良く測定できなくなる可能性がある。
【0010】
【特許文献1】実開昭56−25245号公報
【特許文献2】特開平5−126628号公報
【特許文献3】特開2004−361390号公報
【特許文献4】特開2000−292314号公報
【非特許文献1】五十嵐昭男、「入門講座・ころがり軸受7 ころがり軸受の振動と音響」、雑誌「潤滑」、社団法人日本潤滑学会(現トライボロジー学会)、1971年、第16巻、第4号、p.307
【非特許文献2】転がり軸受工学編集委員会編、「転がり軸受工学」、初版、株式会社養賢堂、昭和50年7月10日、p.140−142
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の転がり軸受のアキシアル方向の振動測定方法及び振動測定装置は、上述の様な事情に鑑みて、この転がり軸受のアキシアル方向の振動特性を精度良く測定すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の転がり軸受のアキシアル方向の振動測定方法及び振動測定装置が測定対象とする転がり軸受は、内輪の外周面に設けた内輪軌道と外輪の内周面に設けた外輪軌道との間に複数の転動体を設けて成る。
そして、請求項1に記載した転がり軸受のアキシアル方向の振動測定方法は、上記転がり軸受のアキシアル方向の剛性に関し、この転がり軸受よりも小さい(アキシアル)ばね定数を有する弾性部材(例えば、合成樹脂、ゴムの如きエラストマー等の高分子材料により造られたもの、或いは、板ばね、コイルばね等のばね要素等)を介して、上記内輪にアキシアル荷重を付与しつつ、上記外輪を回転させる。そして、この状態で、上記内輪のアキシアル方向の振動を測定する。
尚、この測定は、上記内輪の回転を阻止する(静止させる)と共に、上記外輪のアキシアル方向に関する変位を阻止した状態で行なう。又、上記弾性部材は、例えばモータ用途の転がり軸受のアキシアルばね定数は2N/μm〜20N/μm程度である為、この値に比べて小さい値、より好ましくは十分に小さい値(例えば1/2以下、より好ましくは1/10以下、更に好ましくは1/100以下)で例えば0.02〜2N/μm、より好ましくは、0.02〜1N/μm程度のばね定数を有するものとする。
【0013】
又、この様な請求項1に記載した振動測定方法を実施する場合に好ましくは、請求項2に記載した様に、上記内輪と共に変位(振動)する部材(例えば、内輪と弾性部材との間に挟持される押圧片)に一体に設けた振動検出手段により、この内輪のアキシアル方向の振動を測定する。
又、請求項3に記載した様に、上記内輪と共に変位する部材の重さを変える事により、この内輪を含む、この内輪と共に変位する部材全体の固有振動数(共振周波数)を所望の値に調節した状態で、上記内輪のアキシアル方向の振動を測定する。
【0014】
又、請求項4に記載した転がり軸受のアキシアル方向の振動測定装置は、上記内輪にアキシアル荷重を付与する為の荷重付与手段と、上記転がり軸受のアキシアル方向の剛性に関し、この転がり軸受よりも小さいばね定数を有する弾性部材と、上記内輪の振動を検出する為の振動検出手段と、上記外輪を回転させる為の回転駆動手段とを備える。そして、上記荷重付与手段により上記弾性部材を介して上記内輪にアキシアル荷重を付与しつつ、上記回転駆動手段により上記外輪を回転させる。この際、上記内輪は、回転を阻止した(静止させた)状態とする共に、上記外輪は、上記アキシアル方向に関する変位を阻止した状態とする。そして、この状態で、上記振動検出手段により上記内輪のアキシアル方向の振動を測定する。
【0015】
又、この様な請求項4に記載した振動測定装置を実施する場合に好ましくは、請求項5に記載した様に、上記内輪と共に変位する部材(例えば、内輪と弾性部材との間に挟持される押圧片)に振動検出手段を一体に設ける。
又、請求項6に記載した様に、上記内輪と共に変位する部材の重さを所望の値に調節可能とする。この場合に好ましくは、上記内輪を含む、この内輪と共に変位する部材全体の固有振動数(共振周波数)を所望の値に調節した状態で、上記内輪のアキシアル方向の振動を測定する。
【発明の効果】
【0016】
上述の様に構成する本発明の転がり軸受のアキシアル方向の振動測定方法及び振動測定装置によれば、この転がり軸受のアキシアル方向の振動特性を精度良く測定できる。
即ち、外輪に比べて軽量である内輪の振動を測定する為、この外輪の振動を測定する場合に比べて、固有振動数(共振周波数)を大きくできる。又、この内輪に弾性部材を介してアキシアル荷重を付与するだけで、この内輪は回転させない。この為、この内輪と共に変位(振動)する部材も、(回転伝達を行なう必要がないので)例えば特許文献1に記載された振動測定装置の場合に比べて軽量に構成でき、この面からも固有振動数を大きくできる(内輪単体の固有振動数に近付けられる)。そして、この様に固有振動数を大きくできる(内輪単体での固有振動数に近付けられる)分、高周波領域での感度を確保でき(高周波領域でも振動特性の評価を正確に行なえる程度に内輪を振動させる事ができ)、例えば4〜5KHzの高周波領域での音響特性を精度良く測定できる。しかも、上記弾性部材は、転がり軸受のアキシアル方向に関する剛性に関し、小さいばね定数を有するものとしている為、この弾性部材により上記内輪の振動絶縁を図れる。即ち、この弾性部材により、上記内輪にアキシアル荷重を付与しつつ、この内輪の運動(変位、振動)を許容できる。この為、この内輪本来の振動を精度良く測定できる。
【0017】
又、前述の請求項2、5に記載した構成を採用すれば、上記内輪と共に変位する部材全体の質量を更に小さくできる。この為、上記固有振動数(共振周波数)を更に大きくでき(内輪単体の固有振動数に更に近付けられ)、その分高周波領域でも振動特性を精度良く測定できる。
又、前述の請求項3、6に記載した構成を採用すれば、内輪と共に変位(振動)する部材(例えば押圧片)の重さを調節する事により、例えば転がり軸受を組み込むモータ等の回転装置の固有振動数(共振周波数)に合わせた状態で、この転がり軸受の振動を測定できる。この為、この転がり軸受を回転装置に組み込まなくても、この回転装置に組み込んだ状態と同様の状態で、この転がり軸受の振動を精度良く測定する事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1〜2は、請求項1、2、4、5に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例の振動測定装置6bが測定対象とする転がり軸受1は、外輪2と、内輪3と、複数個の転動体16、16とから成る。そして、このうちの内輪3の外周面に設けた内輪軌道17と、上記外輪2の内周面に設けた外輪軌道18との間に、上記各転動体16、16を転動自在に設ける事で、これら外輪2と内輪3との相対回転を許容する。又、本例の振動測定装置6bは、この様な転がり軸受1のアキシアル方向(図1の左右方向)の振動を測定する為のもので、荷重付与手段19と、弾性部材20と、振動検出手段21と、回転駆動手段22とを備える。
【0019】
このうちの荷重付与手段19は、上記内輪3に所定のアキシアル荷重(図1の右方に押圧する荷重)を付与する為のもので、押圧装置23と、押圧片24とにより構成している。このうちの押圧装置23は、例えば油圧アクチュエータ、エアーアクチュエータ、或いは、圧縮コイルばね、板ばね等のばね部材等により構成するもので、所定の押圧力を発生するものである。尚、この押圧装置23は、この様な油圧式、エアー圧(空気圧)式、ばね圧式によるもの以外の型式のものでも、上記内輪3に所定のアキシアル荷重を付与できるものであれば採用可能である。又、上記押圧片24は、上記押圧装置23により上記弾性部材20を介して上記内輪3を押圧するものである。又、上記弾性部材20は、上記転がり軸受1のアキシアル方向の剛性に関し、この転がり軸受1よりも小さいばね定数を有するものとしている。この様な特性を有するものとしては、例えば合成樹脂、ゴムの如きエラストマー等の高分子材料により造られたもの、或いは、板ばね、コイルばね等のばね要素等が採用可能である。
【0020】
本例の場合は、上記弾性部材20を円筒状(リング状)のものとしている。そして、この様な円筒状の弾性部材20の軸方向両端縁を、上記押圧装置23の側面と上記押圧片24の片側面とに全周に亙り当接させた状態で、これら押圧装置23と押圧片24との間に挟持されている。尚、上記弾性部材20は、この様に押圧装置23と押圧片24との両側面に全周に亙り当接させるもの(円筒状のもの)の他、例えば円柱状のものを円周方向に複数個(例えば3本)配置する事により構成する事もできる。
【0021】
又、上記振動検出手段21は、上記内輪3の振動を検出するもので、例えば圧電式の加速度センサ(加速度ピックアップ)等の振動センサ25により構成している。本例の場合は、この振動センサ25を上記押圧片24と一体に設けており、後述する様に測定時には、これら押圧片24並びに振動センサ25が上記内輪3と共に振動(変位)する。この様に内輪3と共に変位する上記押圧片24並びに振動センサ25は、前述した様に軽量である事が、上記内輪3本来(内輪3単体)の振動を測定する面で、更には、固有振動数を大きくして、高周波領域での測定感度を向上させる面で、好ましい。この為、本実施例の場合には、上記押圧片24を、アルミニウム合金、チタン合金、セラミック等の、比重が小さく、且つ、剛性の高い材料により造っている。又、図示の例の場合は、上記押圧片24を、上記内輪3の側面に当接するフランジ部26と、この内輪3に内嵌する嵌合部27とにより構成している。但し、この押圧片24の更なる軽量化を図るべく、上記嵌合部27を省略して上記フランジ部26のみとした円板状のものとする事もできる。
【0022】
又、上記振動センサ25を、圧電式加速度センサ等の接触式のものに代えて、レーザドップラ式振動検出器等の非接触式のものを使用する事もできる。この様に構成すれば、上記振動センサ25分の質量も低減でき、上記内輪3と共に変位(振動)する部材の更なる軽量化を図れる。この様な軽量化は、上述した様に、上記内輪3本来(内輪3単体)の振動を測定すると共に、固有振動数を大きくして、高周波領域での測定感度を向上させる面で、好ましい。何れにしても、上記振動センサ25の出力信号は、図示しない測定回路に送られて、振動量の計測表示、振動レベルの合否判定、振動スペクトル分析等、目的に応じた信号処理が行なわれる。
【0023】
又、前記回転駆動手段22は、前記外輪2を回転させる為のもので、図示しないモータ等の駆動源により回転駆動される回転主軸28により構成している。この回転主軸28は、軸方向先端部(図1の左端部)に、上記外輪2をがたつきなく内嵌する為の凹部29を設けている。振動測定時には、この凹部29に上記外輪2を内嵌した状態で所定の回転速度で回転する。この様な測定時には、上記回転主軸28の振動が上記内輪3の振動として検出される事は好ましくない為、この回転主軸28は高剛性のものとする。
【0024】
上述の様に構成する本例の振動測定装置6bにより、転がり軸受1のアキシアル方向の振動を測定する場合には、この転がり軸受1の外輪2を上記回転主軸28の凹部29に内嵌すると共に、押圧片24を内輪3の端面に突き当てる。そして、上記弾性部材20を介して上記押圧装置23によりこの内輪3を図1の右方に押圧しつつ(アキシアル荷重を付与しつつ)、この内輪3の回転を阻止した状態(静止させた状態)で、上記回転主軸28を回転させる。そして、この回転主軸28の回転に基づき上記外輪2を、上記アキシアル方向に関する変位を阻止した状態で回転させる。そして、この状態で上記振動センサ25により上記内輪3のアキシアル方向の振動を測定する。
【0025】
上述の様に構成する本例の振動測定装置6bによれば、この転がり軸受1のアキシアル方向の振動特性を精度良く測定できる。
即ち、この転がり軸受1の振動として、上記外輪2に比べて軽量である上記内輪3の振動を測定する為、この外輪2の振動を測定する場合に比べて、固有振動数(共振周波数)を大きくできる。又、この内輪3に弾性部材20を介してアキシアル荷重を付与するだけで、この内輪3は回転させない。この為、例えば前述の特許文献1に記載した様な振動測定装置6(図6参照)に比べて、この内輪3と共に変位(振動)する部材も軽量に構成でき、この面からも固有振動数を大きくできる(内輪3単体の固有振動数に近付けられる)。そして、この様に固有振動数を大きくできる(内輪3単体での固有振動数に近付けられる)分、高周波領域での感度を確保でき(高周波領域でも振動特性の評価を正確に行なえる程度に内輪3を振動させる事ができ)、例えば4〜5KHzの高周波領域での音響特性を精度良く測定できる。しかも、上記弾性部材20は、転がり軸受のアキシアル方向に関する剛性に関し、小さいばね定数を有するものとしている為、この弾性部材20により上記内輪3(並びに押圧片24)の振動絶縁を図れる。即ち、この弾性部材20により、上記内輪3にアキシアル荷重を付与しつつ、この内輪3(並びに押圧片24)の運動(変位、振動)を許容できる。又、上記押圧片24も軽量である為、この押圧片24も上記内輪3と一体的に変位(振動)する。この為、この内輪3の振動を減衰又は歪曲する事なく、上記押圧片24に一体に設けた振動センサ25により検出でき、この内輪3本来の振動を精度良く測定できる。
【0026】
又、本例の場合には、上述の様に内輪3と共に変位する部材である押圧片24に振動センサ25を一体に設けている為、上記内輪3と共に変位する部材の質量を更に小さくできる。この為、上記固有振動数(共振周波数)を更に大きくでき(内輪3単体の固有振動数に更に近付けられ)、その分高周波領域でも振動特性を精度良く測定できる。
尚、図2は、本例の振動測定装置6bで呼び番号6200の玉軸受(内径10mm、外径30mm、幅9mm)の振動を測定した結果(振動スペクトル)を示している。この様な図2の線図と、前述の図10の線図を比較すれば明らかな様に、本例の振動測定装置6bによれば、固有振動数(共振周波数)を50%程度高くできる。又、例えばモータ等の回転装置の音響性能を評価する上で重要となる、5KHz程度までの振動(音響)に関して、共振周波数よりも高周波数領域とこの共振周波数以下の平坦特性部分とを比較した場合に、従来の測定装置の場合では、高周波領域が平坦部分に比べて20dB程度低下しているのに対して、本例の場合は10dB程度の低下に留められる。
【0027】
図3は、請求項1〜6に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合には、内輪3(図1参照)と共に変位する部材である、押圧片24aの重さを所望の値に調節可能としている。この為に、本実施例の場合は、この押圧片24aの嵌合部27の先端部(図3の右端部)に錘30を着脱可能としている。この錘30は、鉛合金等の比重の大きい材料により造られたもので、上記嵌合部27の先端部に、ねじ止め、接着、圧着等により結合固定する。そして、この様に押圧片24aの重さを可変とする事により、この内輪3を含む、この内輪3と共に変位(振動)する部材全体(押圧片24a並びに振動センサ25)の固有振動数を所望の値に調節した状態で、この内輪3のアキシアル方向の振動を測定する。
【0028】
この様な本例の場合には、上記内輪3と共に変位する部材である押圧片24aの重さを調節する事により、例えば転がり軸受1(図1参照)を組み込むモータ等の回転装置の固有振動数(共振周波数)に合わせた状態で、この転がり軸受1(内輪3)の振動を測定できる。この為、この転がり軸受1を回転装置に組み込まなくても、この回転装置に組み込んだ状態と同様の状態で、この転がり軸受1の振動を精度良く測定する事ができる。
その他の構成及び作用は、前述した第1例と同様である為、重複する図示並びに説明は省略する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す断面図。
【図2】図1に示した装置により玉軸受のアキシアル方向の振動を測定した結果を示す線図。
【図3】本発明の実施の形態の第2例を示す要部正面図。
【図4】従来の転がり軸受のラジアル方向の振動を測定する為の測定装置を示す正面図。
【図5】図4の左から見た図。
【図6】従来の転がり軸受のアキシアル方向の振動を測定する為の測定装置の第1例を示す断面図。
【図7】同第2例を示す正面図。
【図8】測定時における図7のA部に相当する拡大断面図。
【図9】転がり軸受のアキシアル方向の振動特性を説明する為の振動モデル図。
【図10】従来の測定装置で玉軸受のアキシアル方向の振動を測定した結果を示す線図。
【符号の説明】
【0030】
1 転がり軸受
2 外輪
3 内輪
4、4a 回転主軸
5 振動ピックアップ
6、6a、6b 振動測定装置
7 中空回転主軸
8 被測定軸
9 弾性部材
10 押圧子
11 検出センサ
12 加圧手段
13 アーム
14 無端ベルト
15 検出器
16 転動体
17 内輪軌道
18 外輪軌道
19 荷重付与手段
20 弾性部材
21 振動検出手段
22 回転駆動手段
23 押圧装置
24、24a 押圧片
25 振動センサ
26 フランジ部
27 嵌合部
28 回転主軸
29 凹部
30 錘

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪の外周面に設けた内輪軌道と外輪の内周面に設けた外輪軌道との間に複数の転動体を設けて成る転がり軸受の、アキシアル方向の振動測定方法であって、この転がり軸受のアキシアル方向の剛性に関し、この転がり軸受よりも小さいばね定数を有する弾性部材を介して、上記内輪にアキシアル荷重を付与しつつ、上記外輪を回転させた状態で、上記内輪のアキシアル方向の振動を測定する事を特徴とする、転がり軸受のアキシアル方向の振動測定方法。
【請求項2】
内輪と共に変位する部材に一体に設けた振動検出手段により、この内輪のアキシアル方向の振動を測定する、請求項1に記載した転がり軸受のアキシアル方向の振動測定方法。
【請求項3】
内輪と共に変位する部材の重さを変える事により、この内輪を含む、この内輪と共に変位する部材全体の固有振動数を所望の値に調節した状態で、この内輪のアキシアル方向の振動を測定する、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載した転がり軸受のアキシアル方向の振動測定方法。
【請求項4】
内輪の外周面に設けた内輪軌道と外輪の内周面に設けた外輪軌道との間に複数の転動体を設けて成る転がり軸受の、アキシアル方向の振動測定装置であって、上記内輪にアキシアル荷重を付与する為の荷重付与手段と、上記転がり軸受のアキシアル方向の剛性に関し、この転がり軸受よりも小さいばね定数を有する弾性部材と、上記内輪の振動を検出する為の振動検出手段と、上記外輪を回転させる為の回転駆動手段とを備え、上記荷重付与手段により上記弾性部材を介して上記内輪にアキシアル荷重を付与しつつ、上記回転駆動手段により上記外輪を回転させ、この状態で上記振動検出手段により上記内輪のアキシアル方向の振動を測定する事を特徴とする、転がり軸受のアキシアル方向の振動測定装置。
【請求項5】
内輪と共に変位する部材に振動検出手段を一体に設けた、請求項4に記載した転がり軸受のアキシアル方向の振動測定装置。
【請求項6】
内輪と共に変位する部材の重さを所望の値に調節可能とした、請求項4〜5のうちの何れか1項に記載した転がり軸受のアキシアル方向の振動測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2007−93544(P2007−93544A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−286760(P2005−286760)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】