説明

転がり軸受

【課題】 フレッチングの進行速度を遅延させて転がり軸受の寿命の改善を図ると共に、経済性に優れた転がり軸受を提供すること。
【解決手段】 外側面1Bに転動溝11を有する内輪部材1と、内側面2Aに転動溝21を有する外輪部材2と、これら転動溝11と21とを転動する転動体3とを備え、内輪部材1と外輪部材2との間に潤滑剤6を封入してなる転がり軸受において、内輪部材1は外側面1Bから内側面1Aに通じる微細孔Hを有し、内側面1Aには、内輪部材1に隙間バメされるシャフト部材8に接触しないための非摩耗凹所12が形成されていることを特徴とする転がり軸受。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、玉軸受又はローラ軸受のような転がり軸受、特に隙間嵌め構造を有する転がり軸受の潤滑性能を保持する構造に関する。
【背景技術】
【0002】
旧くから現在に至るまで、多くの分野における多種多様な機器の回転箇所には軸受が用いられている。軸受の寿命及び摩擦抵抗などは、機器の寿命及び品質などに大きな影響を与えるので、軸受の寿命の向上、あるいは摩擦抵抗の低減などのために潤滑剤を用い、潤滑性能を長期間維持する工夫が種々行われてきた。その代表的な軸受として、多孔質の焼結金属に潤滑油をしみこませた焼結含油軸受が提案されており、実際にすべり軸受として広く採用されている(例えば、特許文献1参照)。また、軸受に油溜まりを設けると共に、細孔を穿孔し、油溜まりの潤滑油を穿孔した細孔を通してシャフト部材面に供給するすべり軸受(例えば、特許文献2参照)も開示されている。
【0003】
更に、保持器を焼結金属で形成し、含油させて潤滑性を向上させた転がり軸受(例えば、特許文献3参照)、あるいは転動体であるボールの全部又は潤滑性付与のための径の小さな非負荷ボールを焼結金属で形成し、含油させて潤滑性を向上させた転がり軸受(例えば、特許文献4、5参照)、少なくとも内輪部材又は外輪部材の一方を焼結金属で構成し、含油させて潤滑性を向上させた転がり軸受(例えば、特許文献6参照)、内輪部材に貫通孔を形成し、シャフト部材側から貫通孔を通して潤滑油を軸受内へ供給する転がり軸受(例えば、特許文献7参照)、又は外輪部材に貫通孔を形成し、外輪部材の外側に位置するハウジング側から貫通孔を通して潤滑油を軸受内へ供給する転がり軸受(例えば、特許文献8参照)などが既に提案されている。
【0004】
前掲の特許文献に限らず焼結金属を用いた軸受は潤滑油の含油を目的にしており、焼結金属でそれぞれ構成した保持器、あるいはボール、若しくは外輪部材又は内輪部材に潤滑油を予め滲み込ませておくことによって、転動体と転動面との潤滑性能を向上させると共に、維持している。また、焼結金属を用いていない転がり軸受にあっては、一般的に潤滑性能を向上させるために軸受内に潤滑剤を封入しているが、前掲の特許文献7、8に記述されているように、外輪部材又は内輪部材に設けた細孔を通してハウジングあるいはシャフト部材から軸受内に潤滑油を供給する構造のものもある。
【特許文献1】特開平5−10331号公報
【特許文献2】特開平6−147227号公報
【特許文献3】特開平7−259867公報
【特許文献4】特開平11−62975公報
【特許文献5】特開2005−133881公報
【特許文献6】特開平9−25938号公報
【特許文献7】特開2001−99166公報
【特許文献8】特開2005−98467公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
転がり軸受をシャフト部材に取り付ける場合には、一般的に転がり軸受の内輪部材にシャフト部材を圧入し、堅牢に固定する。また、転がり軸受の外輪部材を機器などの取付け部材に取り付ける場合には、一般的に転がり軸受の外輪部材又はハウジングをその取付け部材に圧入し、堅牢に固定する。このように圧入によって堅牢に固定する場合には、内輪部材とシャフト部材との間、又は外輪部材と機器などの取付け部材との間に相対的な微小運動が発生しないから、フレッチングとして知られている損傷は発生しない。したがって、転がり軸受を圧入によって堅牢に固定する場合には、転動体と転動面との潤滑性能の向上と維持を考慮するだけでよい。
【0006】
しかしOA機器、例えばコンピュータの端末機器であるプリンタなどでは使用頻度が飛躍的に増えてきており、途中で転がり軸受を保守、交換する必要が生じる場合がある。この転がり軸受の保守、交換を容易に行えるようにするために、転がり軸受を圧入でシャフト部材などに取り付けるのではなく、隙間嵌めするケースが増えてきている。例えば、シャフト部材を内輪部材に隙間嵌めしたとすると、機器の稼働中、つまりシャフト部材の回転中に内輪部材とシャフト部材との当接面で、微小振動や微小揺動などが繰り返し行われ、それらの当接面での酸化と摩耗が進行し、フレッチングと称される損傷が生じる。隙間嵌めの場合にはフレッチングを避けることはできず、このフレッチングが転がり軸受の寿命を短くし、保守の回数を増やすことになる。
【0007】
本発明は、転がり軸受をシャフト又は機器の取付け部材に隙間嵌めで取り付けた場合に、フレッチングの進行速度を大幅に遅延することにより寿命を十分に改善することが可能で、かつ簡単な構造で製造し易い転がり軸受を提供することを主目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、外側面に転動溝を有する内輪部材と、内側面に転動溝を有する外輪部材と、これら転動溝を転動する転動体とを備え、前記内輪部材と前記外輪部材との間に潤滑剤を封入してなる転がり軸受において、前記内輪部材は前記外側面から内側面に通じる微細孔を有し、前記内輪部材の前記内側面には、前記内輪部材に隙間バメされるシャフト部材に接触しないための非摩耗凹所が形成されていることを特徴とする転がり軸受を提供する。
【0009】
第2の発明は、外側面に転動溝を有する内輪部材と、内側面に転動溝を有する外輪部材と、これら転動溝を転動する転動体とを備え、前記内輪部材と前記外輪部材との間に潤滑剤を封入してなる転がり軸受において、前記外輪部材は前記内側面から外側面に通じる微細孔を有し、前記外輪部材の前記外側面には、前記外輪部材に隙間バメされる取付け部材に接触しないための非摩耗凹所が形成されていることを特徴とする転がり軸受を提供するものである。
【0010】
第3の発明は、外側面に転動溝を有する内輪部材と、内側面に転動溝を有する外輪部材と、これら転動溝を転動する転動体と、前記内輪部材の内側面に隙間嵌めされているシャフト部材とを備え、前記内輪部材と前記外輪部材との間に潤滑剤を封入してなる転がり軸受において、前記内輪部材は前記外側面から前記内側面に通じる微細孔を有し、前記シャフト部材における前記内輪部材と対向する対向面には、前記内輪部材の前記内側面に接触しないための非摩耗凹所が形成されていることを特徴とする転がり軸受を提供する。
【0011】
第4の発明は、外側面に転動溝を有する内輪部材と、内側面に転動溝を有する外輪部材と、これら転動溝を転動する転動体と、前記外輪部材の外側面と隙間嵌めされる取付け部材とを備え、前記内輪部材と前記外輪部材との間に潤滑剤を封入してなる転がり軸受において、前記外輪部材は前記内側面から前記外側面に通じる微細孔を有し、前記取付け部材における前記外輪部材と対向する対向面には、前記外輪部材の前記外側面に接触しないための非摩耗凹所が形成されていることを特徴とする転がり軸受を提供する。
【0012】
第5の発明は、前記第1の発明ないし前記第4の発明のいずれかにおいて、前記転動溝を形成する面は研摩又は研削によって平滑化されており、前記内輪部材における前記転動溝以外の前記外側面、あるいは前記外輪部材における前記転動溝以外の前記内側面の少なくとも一部分は研摩も研削もされておらず、前記微細孔が前記研摩又は研削により塞がれていないことを特徴とする転がり軸受を提供する。
【0013】
第6の発明は、前記第1の発明ないし前記第5の発明のいずれかにおいて、前記内輪部材と前記シャフト部材との対向面、あるいは前記外輪部材と前記取付け部材との対向面における前記非摩耗凹所が形成された面域と前記非摩耗凹所が形成されていない面域の比率が、0.2〜1.0の範囲にあることを特徴とする転がり軸受を提供する。
【発明の効果】
【0014】
前記第1の発明によれば、多孔質材料からなる内輪部材に形成される微細な径の貫通孔(微細孔)により、内輪部材の外面側に存在する潤滑剤の油をその内面側に滲み出させ、内輪部材の内面とシャフト部材との当接面の潤滑性能を向上させるだけでなく、内輪部材の内面に非摩耗凹所を備えているので、内輪部材とシャフト部材との当接面の相対的な微小運動によるフレッチングで生じる金属粒子により微細孔が塞がれても、非摩耗凹所に通じる微細孔は塞がれずに潤滑油を滲み出すので、フレッチングの進行速度を大幅に遅延させることができ、したがって、転がり軸受の寿命を大幅に改善することができる。また、多孔質材料中に形成される微細孔を利用して潤滑油を滲み出させているので、別途に貫通孔を穿孔する工程が不要であり、また、転動孔を研摩などするときに一緒に研摩などを行う面域の広さを調整することにより、内輪部材の内面とシャフト部材との当接面に滲み出す油量を調整することができる。したがって、製造が容易、安価で、潤滑油が漏出することがなく、寿命が大幅に改善された転がり軸受を提供できる。前記第1の発明は、特に内輪部材とシャフト部材とが隙間嵌めされる場合に適する。
【0015】
前記第2の発明によれば、多孔質材料からなる外輪部材に形成される微細な径の貫通孔(微細孔)により、外輪部材の内面側に存在する潤滑剤の油をその外面側に滲み出させ、外輪部材の外面と取り付け部材との当接面の潤滑性能を向上させるだけでなく、外輪部材の外面に非摩耗凹所を備えているので、外輪部材と取付け部材との当接面の相対的な微小運動によるフレッチングで生じる金属粒子により前記当接面の微細孔が塞がれても、非摩耗凹所に通じる微細孔からは潤滑油が滲み出すので、フレッチングの進行速度を大幅に遅延させることができ、前記第1の発明と同様に、製造が容易、安価で、潤滑油が漏出することがなく、寿命の大幅に改善された転がり軸受を提供できる。前記第2の発明は、特に外輪部材と取付け部材とが隙間嵌めされる場合に適する。
【0016】
前記第3の発明によれば、多孔質材料からなる内輪部材に非摩耗凹所を形成せずに、シャフト部材における前記内輪部材との対向面に非摩耗凹所を設けており、内輪部材とシャフト部材との当接面の相対的な微小運動によるフレッチングで生じる金属粒子により微細孔が塞がれても、非摩耗凹所に通じる微細孔からは潤滑油が滲み出すので、前記第1の発明と同様な効果を奏することができる。
【0017】
前記第4の発明によれば、多孔質材料からなる外輪部材に非摩耗凹所を形成せずに、外輪部材に対抗する取り付け部材の対向面に非摩耗凹所を設けており、外輪部材と取付け部材との当接面の相対的な微小運動によるフレッチングで生じる金属粒子により前記当接面の微細孔が塞がれても、非摩耗凹所に通じる微細孔からは潤滑油が滲み出すので、前記第2の発明と同様な効果を奏することができる。
【0018】
前記第5の発明によれば、前記第1の発明ないし前記第4の発明が奏する効果の他に、多孔質材料からなる内輪部材又は外輪部材の転動溝を研摩などして転動体の転がり摩擦を小さくし、転動溝以外の内輪部材又は外輪部材の面の少なくとも一部分を研摩などしていないので、適量の潤滑油を当接面に滲み出させることができ、したがって、潤滑性能を長期間維持できるので、転がり軸受の品質を高めるだけでなく、より寿命を改善することができる。
【0019】
前記第6の発明によれば、前記内輪部材と前記シャフト部材との対向面、あるいは前記外輪部材と前記取付け部材との対向面における前記非摩耗凹所が形成された面域と前記非摩耗凹所が形成されていない面域の比率が0.2〜1.0の範囲にあるので、前記第1の発明ないし前記第5の発明の効果をさらに向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
[実施形態1]
本発明に係る実施形態1の転がり軸受について図1及び図2により説明する。図1は本発明の転がり軸受の概略を説明するための図である。図2はこの転がり軸受の内輪部材を説明するための図であり、図2(A)、(B)はそれぞれ内輪部材の断面(斜線は省略)を説明するための図面である。この転がり軸受は、内輪部材1、外輪部材2、転動体3(この実施形態1では鋼球のようなボールを用いるので、以下ではボールと言う。)、ボール3を保持するための保持器4、内輪部材1と外輪部材2との間の空隙を両端で閉じる一対のシールド部材5からなり、内輪部材1と外輪部材2との間の空隙には潤滑剤6が封入されている。
【0021】
外輪部材2の外側面2Bは取付け部材7の取付け面7Aに隙間嵌めされている。取付け部材7は、例えば不図示の機器の固定部材である。内輪部材1には円柱状又は円筒状のシャフト部材8が隙間嵌めで取り付けられている。したがって、この転がり軸受けの交換、保守を容易に行うことができる。実施形態1では、シャフト部材8は転がり軸受を構成する一部品である必要はない。なお、取付け部材7が転がり軸受のハウジングである場合には、外輪部材2は取付け部材7に圧入され、取付け部材7はネジ止めなど簡便な固定手段によって不図示の機器などに固定される。
【0022】
内輪部材1は、焼結金属又はメタルインジェクションモールド(MIM)材料などのような多孔質材料からなる。メタルインジェクションモールド材料とは、金属粉末と樹脂バインダとを混練し、射出成形した後に樹脂バインダを熱処理によって除去し、金属単体で焼結したものである。焼結金属はメタルインジェクションモールド材料に比べて広く知られているので、説明を省くものとする。焼結金属及びメタルインジェクションモールド材料などのような多孔質材料は、無数の金属粒子と金属粒子との間に形成される微小空間を有し、その微小空間によって微細孔が形成されている。したがって、多孔質材料からなる内輪部材1には狭い幅の内側面1Aから外側面1Bに通ずる複数の微細な貫通孔(以下では微細孔という。)Hが形成されている。微細孔Hは、電子ビーム又はレーザ光によって穿孔された真っ直ぐに延びる貫通孔と違って曲がりくねっており、平均で2μm程度から20μm程度の径の微細孔である。
【0023】
内輪部材1の外側面1Bには、ボール3の転がる転動溝11が一般的には研摩、又は研削によって形成されている。転動溝11は深溝タイプの一般的な形状のものであるが、多孔質材料からなる関係上、転動溝11を研摩などによって仕上げることによって、転動溝11及び外輪部材2の転動溝21をボール3が転動するときの転がり摩擦抵抗を低減することができる。転動溝11が加圧成形時に作られる場合もその溝壁の研摩などを行って平滑化する。研摩などの加工工程によって転動溝11を形成する溝壁は平滑面になっているが、研摩などの加工時に生じる金属粒子によって転動溝11の面域の微細孔Hは目詰まりし、塞がれてしまう。しかし、転動溝11を形成する溝壁を除く内輪部材1の外側面1Bの一部分は研摩などされないので、内輪部材1の外側面1Bに通じる微細孔Hは塞がれない。したがって、潤滑剤6の油は転動溝11を除く外側面1Bから内側面1Aに通じる微細孔Hを通して、内輪部材1の内側面1Aとシャフト部材8との当接面に滲み出る。つまり、微細孔Hは潤滑剤6の油を内輪部材1の内側面1Aまで導く。
【0024】
一般に、焼結金属の場合は、金属粒子の径と製造時の加圧力の大きさなどの主な条件によって微細孔Hの径が決まり、また、インジェクションモールドの場合には、金属粒子と樹脂粒子との混合割合や金属粒子の径と成型時の加圧力の大きさなど主な条件によって微細孔Hの径が決まる。したがって、それら製造条件を選定することによって、適当な孔径をもつ微細孔Hの多孔質材料を製造することができるが、もし微細孔Hを通して滲み出す潤滑油の量が多い場合には、転動溝11を形成する溝壁を除く内輪部材1の外側面1Bの一部分を研摩など行うことによって、微細孔Hを通して滲み出す油の量を調整することができる。
【0025】
このように、潤滑剤6の油が微細孔Hを通して内輪部材1の内側面1Aとシャフト部材8との当接面に滲み出るので、フレッチングの進行速度は遅くなり、寿命は改善されるが、シャフト部材8の回転中には微小振動や微小揺動が潤滑油の有無に関係なく発生する。内輪部材1の内側面1Aとシャフト部材8との当接面に潤滑油が存在することによってフレッチングの進行速度は遅くなるが、長期間ではやはりフレッチングが生じ、そのフレッチングによって生じた金属粒子が微細孔Hを目詰まりさせ、微細孔Hから潤滑油が滲み出さなくなる。そして、内輪部材1の内側面1Aとシャフト部材8との当接面に潤滑油が存在しなくなると、フレッチングの進行速度が速くなり、寿命の改善に悪影響を及ぼす。
【0026】
このことを解決するために、図2(A)に示すように、この実施形態1では内輪部材1の内側面1Aに、シャフト部材8に接触しない非摩耗凹所12を形成し、内輪部材1の外側面1Bから非摩耗凹所12に通じる微細孔Hがフレッチングによって生じる金属粒子で目詰まりを起こすことが無いようにしている。つまり、非摩耗凹所12を除く内輪部材1の内側面1Aに通じる微細孔Hが摩耗による目詰まりで塞がれて、潤滑油を滲み出さなくなっても、内輪部材1の非摩耗凹所12はシャフト部材8に接触しないから摩耗せず、目詰まりをおこさないので、非摩耗凹所12に通じる微細孔Hからは潤滑油が滲み出し続ける。したがって、内輪部材1の内側面1Aとシャフト部材8との当接面の潤滑性能はほとんど変化せずに保持され、寿命は更に改善される。図2(A)では内輪部材1の幅Wの方向に非摩耗凹所12が延びているが、円環状の凹所、あるいは円環状の凹所を断続させた縞状の凹所、幅W方向に対して斜めに形成された凹所など、凹所の形状は任意である。なお、非摩耗凹所12は内輪部材1の加圧成形時に同時に造られる。
【0027】
内輪部材1の内側面1Aとシャフト部材8とは隙間嵌めで結合されているので、シャフト部材8が回転するときに、前述したように内輪部材1の内側面1Aとシャフト部材8と当接面では微小振動や微小揺動が存在すること、また、非摩耗凹所12に通じる微細孔Hから滲み出す潤滑油の量も微少であることから、非摩耗凹所12に潤滑油が溜まることはなく、内輪部材1の内側面1Aとシャフト部材8との当接面に薄い油膜を形成し、潤滑性能を保つ。このことからも非摩耗凹所12は従来の油溜りとは違って、シャフト部材8に接触しない非接触部分を形成するためのものであり、実質的に潤滑油が非摩耗凹所12に溜まることは無い。
【0028】
非摩耗凹所12の面域を除く内側面1Aの面域と非摩耗凹所12の面域とがほぼ等しくなるのが好ましいが、0.2〜1.0程度の範囲にあればよい。非摩耗凹所12を除く内側面1Aの面域に対する非摩耗凹所12の面域の比率が0.2程度よりも小さくなると、非摩耗凹所12を除く内輪部材1の内側面1Aに通じる微細孔Hが目詰まりを起こした段階から、滲み出る潤滑油が少なくなり過ぎて、潤滑性能が低下するので好ましくない。また、非摩耗凹所12を除く内側面1Aの面域に対する非摩耗凹所12の面域の比率が1.0を越えると、非摩耗凹所12を除く内側面1Aにかかる単位面積当たりの荷重が大きくなるために、フレッチングの低減効果が小さくなり、所期の寿命が得られなくなる。
【0029】
なお、外輪部材2、ボール3、保持器4、及びシールド部材5は一般的なものであるので説明を省略する。以上述べたように、実施形態1の転がり軸受は、多孔質材料からなる内輪部材1を用い、内輪部材1の転動溝を除く外側面1Bの少なくとも一部分は研摩などせず、内側面1Aに非摩耗凹所を形成しているので、特に内輪部材1にシャフト部材8を隙間嵌めによって固定する場合に適した構造であり、シャフト部材8の回転中に内輪部材1とシャフト部材8との当接面で相対的な微小運動が生じても、従来に比べてフレッチングの進行速度が大幅に小さくなるので、寿命を改善できる。なお、内輪部材1に予め含油させておいても勿論よい。
【0030】
[実施形態2]
図1及び図3によって実施形態2の転がり軸受について説明する。図3は外輪部材を説明するための図である。図3において、図1及び図2で用いた記号と同じ記号は同一の名称の部材を示すものとする。この実施形態2の転がり軸受も図1に示したものと構造の概略は同じであり、外輪部材2の外側面2Bが取付け部材7の取付け面7Aに隙間嵌めされた転がり軸受である。実施形態2は、取付け部材7が回転し、シャフト部材8は固定の形態で使用される転がり軸受に適している。
【0031】
この転がり軸受の内輪部材1は鋼材などからなる一般的な金属材料からなり、多孔質材料からなる必要はない。実施形態2では内輪部材1はシャフト部材8に圧入で堅固に固定されており、シャフト部材8はこの転がり軸受を構成する部材である。また、この実施形態2においても転動体3としてボールを用いているので、転動体をボール3と言う。ボール3、保持器4、シールド部材5も一般的なものでよいので説明を省略する。外輪部材2は、実施形態1の内輪部材1を形成するのに用いられた焼結金属又はメタルインジェクションモールド材料などのような多孔質材料からなる。
【0032】
実施形態1の内輪部材1と同様に、外輪部材2にはその内側面2Aから外側面2Bに通じる微細孔Hが形成されている。外輪部材2の内側面2Aのほぼ中央には研摩などによって平滑化された転動溝21が形成されている。この研摩などの工程によって、ボール3が転動溝21の溝壁を転がるときの転がり摩擦は低減されるが、その工程で生じる金属粒子によって転動溝21を形成する溝壁に通じる微細孔Hは目詰まりし、微細孔Hが塞がるために、転動溝21を形成する溝壁に通じる微細孔Hに潤滑剤6の油は滲み込まない。
【0033】
このため、外輪部材2における転動溝21の溝壁を除く内側面2Aの少なくとも一部分は研摩などをしていない。内側面2Aの研摩されていない面域に通じる微細孔Hには潤滑剤6の油が滲み込み、ある時間を経て外輪部材2の外側面2Bに滲み出る。この滲み出る潤滑油によって、外輪部材2の外側面2Bと取付け部材7との当接面の潤滑性能が良好な状態で維持され、転がり軸受の寿命が改善される。
【0034】
外輪部材2の外側面2Bと取付け部材7との当接面の潤滑性能が良好な状態で維持されていても、シャフト部材8は内輪部材1に圧入されていて、外輪部材2と取付け部材7とが隙間嵌めであるために、取付け部材7が回転するとき、外輪部材2の外側面2Bと取付け部材7との当接面では相対的な微小運動が当然に発生する。潤滑性能が維持されていることによって、前述したフレッチングの進行速度は遅くなるものの、やはりフレッチングは避けられない。長い間にはフレッチングによって生じる金属粒子が外輪部材2の外側面2Bに通じる微細孔Hを目詰まりさせ、塞いでしまう。微細孔Hが塞がれてしまうと、潤滑油は外側面2Bに滲み出すことができず、潤滑性能が低下し、フレッチングの進行速度が速くなるので、軸受の寿命の改善が抑制される。
【0035】
したがって、実施形態2では、取付け部材7に隙間嵌めされる外輪部材2の外側面2Bに非摩耗凹所22を設け、外輪部材2の内側面2Aから非摩耗凹所22に通じる微細孔Hは目詰まりを起こさないようにしている。つまり、外輪部材2の外側面2Bにおいては、非摩耗凹所22だけが取付け部材7に当接しないから摩耗せず、非摩耗凹所22以外の外側面2Bに通じる微細孔Hが摩耗によって生じる金属粒子で目詰まりを起こした後も、非摩耗凹所22に通じる微細孔Hは目詰まりを起こすことなく、潤滑油を外側面2Bに滲み出し続け、潤滑性能を保持する。非摩耗凹所22は外輪部材2の加圧成形時に一緒に造られる。
【0036】
ここで、前述したように外輪部材2の外側面2Bと取付け部材7との当接面では微小振動や微小揺動などの相対的な微小運動が存在すること、また、非摩耗凹所22に通じる微細孔Hから滲み出す潤滑油の量も微少であることから、非摩耗凹所22に潤滑油が溜まることはなく、外輪部材2の外側面2Bと取付け部材7の取付け面7Aとの当接面に薄い油膜を形成し、潤滑性能を保つ。このことからも非摩耗凹所22は従来の油溜りとは違って、取付け部材7に接触しない非接触部分を形成するためのものであり、実質的に潤滑油が非摩耗凹所12に溜まることは無く、潤滑油が漏れ出すことも無い。
【0037】
このような観点から、非摩耗凹所12の面域を除く外側面2Bの面域と非摩耗凹所22の面域とがほぼ等しくなるのが好ましいが、それらの比率が0.2〜1.0程度の範囲にあればよい。非摩耗凹所22を除く外側面2Bの面域に対する非摩耗凹所22の面域の比率が0.2程度よりも小さくなると、非摩耗凹所22を除く外輪部材2の外側面2Bに通じる微細孔Hが目詰まりを起こした段階から、滲み出る潤滑油が少なくなりすぎて、潤滑性能が低下するので好ましくない。また非摩耗凹所22を除く外側面2Bの面域に対する非摩耗凹所22の面域の比率が1.0を越えると、非摩耗凹所22を除く外側面2Bにかかる単位面積当たりの荷重が大きくなるために、フレッチングの低減効果が小さくなり、所期の寿命が得られなくなる。
【0038】
[実施形態3]
図4により実施形態3について説明する。図4は内輪部材1とシャフト部材8との当接面近傍を拡大して示しており、断面に斜線を付していない。この実施形態では、内輪部材1の内側面1Aにシャフト部材8が隙間嵌めされる。実施形態1では、シャフト部材8が隙間嵌めされる内輪部材1の内側面1Aに非摩耗凹所12を設けたが、この実施形態3では内輪部材1の内側面1Aに対向するシャフト部材8の面(以下、対向面と言う。)81に非摩耗凹所82を形成している。内輪部材1は前述のような多孔質材料からなり、内輪部材1の内側面1Aに前述の非摩耗凹所を形成せずに、シャフト部材8の対向面81に非摩耗凹所82を形成した構造が実施形態1と異なり、他は前述の実施形態1と同様であるので、この異なる点について説明する。
【0039】
シャフト部材8の対向面81に形成する非摩耗凹所82は、実施形態1で内輪部材1の内側面1Aに非摩耗凹所12を形成したものと同様な形状、配置で形成すればよい。この構造によれば、シャフト部材8の非摩耗凹所82を除く対向面81に当接する内輪部材1の内側面1Aに通じる微細孔Hがフレッチングによって生じる金属粒子で塞がれてしまって潤滑油を滲み出さなくなっても、シャフト部材8の非摩耗凹所82は内輪部材1の内側面1Aに当接せず、この当接しない内輪部材1の内側面1Aの面域は摩耗しないから、シャフト部材8の非摩耗凹所82に向き合った内側面1Aの面域に通じている微細孔Hは潤滑油を滲み出し続ける。この滲み出た潤滑油は、シャフト部材8の回転に生じる相対的な微小運動によってシャフト部材8の対向面81に広がり、実施形態1の場合と同様に潤滑性能が保持されるので、寿命を大幅に改善することができる。
【0040】
[実施形態4]
図5により実施形態4について説明する。図5は外輪部材2と取付け部材7との当接面近傍を示しており、断面に斜線を付していない。この実施形態では取付け部材7の取付け面7Aに外輪部材2が隙間嵌めされており、実施形態2と同様にシャフト部材8が固定で、取付け部材7が回転する形態で使用される転がり軸受に適している。実施形態2では、外輪部材2の外側面2Bに非摩耗凹所22を設けたが、この実施形態4では外輪部材2の外側面2Bに対向する取付け部材7の面(以下、対向面と言う。)71に非摩耗凹所72を形成している。外輪部2は前述のような多孔質材料からなる。外輪部材2の外側面2Bに非摩耗凹所22を形成せずに、取付け部材7の対向面71に非摩耗凹所72を形成した構造が実施形態2と異なり、他は前述の実施形態2とほぼ同様であるので、この異なる点について説明する。
【0041】
取付け部材7の対向面71に形成する非摩耗凹所72は、実施形態2で外輪部材2の外側面2Bに形成された非摩耗凹所22と同様な形状、配置でよい。この構造によれば、取付け部材の非摩耗凹所72を除く対向面71に当接する外輪部材2の外側面2Bに通じる微細孔Hがフレッチングによって塞がれて潤滑油を滲み出さなくなっても、取付け部材7の非摩耗凹所72は外輪部材2の外側面2Bに当接せず、この当接しない外輪部材2の外側面2Bの面域は摩耗しないから、非摩耗凹所72に向き合った外輪部材2の外側面2Bの面域に通じている微細孔Hは潤滑油を滲み出し続ける。その滲み出た潤滑油は、取付け部材7の回転やそのときに生じる相対的な微小運動によって外輪部材2の外側面2Bに広がり、実施形態2の場合と同様な潤滑性能が保持されるので、寿命を大幅に改善することができる。
【0042】
なお、以上述べた実施形態では転動体をボールで説明したが、転動体は一般的なローラ、ニードロ又はテーパーローラなどであっても勿論よい。この場合には、ローラの転動溝は一般的に研削仕上げされることが多いが、研摩仕上げなどであっても良い。このとき、転動溝を除く内輪部材の内側面、又は転動溝を除く外輪部材の外側面についてはほとんど研削又は研摩の工程を施さず、焼結したままの状態がよい。非摩耗凹所はV字状、又は円弧状など任意の形状でよい。多孔質材料として焼結金属、メタルインジェクションモールド材料を挙げたが、セラミック材料などの多孔質材料であっても良い。転動溝は転動体を保持する保持器を省略できるような凹所であっても勿論よい。
【0043】
実施形態1及び実施形態3において、取付け部材7が転がり軸受のハウジングであって、外輪部材とハウジング部材との間は圧入で固定され、ハウジングが不図示の機器にネジ止めなど簡単な取り付け手段によって固定される場合は、外輪部材2は多孔質材料からなる必要は無い。しかし、取付け部材7が不図示の機器の固定部材であって、軸受の着脱を容易なものにするために外輪部材2をその固定部材に隙間嵌めする場合には、外輪部材2は前記実施形態2又は実施形態4で説明したような多孔質材料からなる外輪部材からなってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】発明の実施形態1に係る転がり軸受を説明するための図面である。
【図2】この転がり軸受の内輪部材を説明するための図面である。
【図3】実施形態2に係る転がり軸受の外輪部材を説明するための図面である。
【図4】実施形態3に係る転がり軸受を説明するための図面である。
【図5】実施形態4に係る転がり軸受を説明するための図面である。
【符号の説明】
【0045】
1・・・内輪部材
1A・・・内輪部材1の内側面
1B・・・内輪部材1の外側面
2・・・外輪部材
2A・・・外輪部材2の内側面
2B・・・外輪部材2の外側面
3・・・転動体
4・・・保持器
5・・・シールド部材
6・・・潤滑剤
7・・・取付け部材
7A・・・取り付け部材7の取付け面
8・・・シャフト部材
11・・・内輪部材1の転動溝
12・・・内輪部材1の非摩耗凹所
21・・・外輪部材2の転動溝
22・・・外輪部材2の非摩耗凹所
71・・・取付け部材7の対向面
72・・・取付け部材7の非摩耗凹所
81・・・シャフト部材8の対向面
82・・・シャフト部材8の非摩耗凹所
H・・・微細孔


【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側面に転動溝を有する内輪部材と、内側面に転動溝を有する外輪部材と、これら転動溝を転動する転動体とを備え、前記内輪部材と前記外輪部材との間に潤滑剤を封入してなる転がり軸受において、
前記内輪部材は前記外側面から内側面に通じる微細孔を有し、
前記内輪部材の前記内側面には、前記内輪部材に隙間バメされるシャフト部材に接触しないための非摩耗凹所が形成されていることを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
外側面に転動溝を有する内輪部材と、内側面に転動溝を有する外輪部材と、これら転動溝を転動する転動体とを備え、前記内輪部材と前記外輪部材との間に潤滑剤を封入してなる転がり軸受において、
前記外輪部材は前記内側面から外側面に通じる微細孔を有し、前記外輪部材の前記外側面には、前記外輪部材に隙間バメされる取付け部材に接触しないための非摩耗凹所が形成されていることを特徴とする転がり軸受。
【請求項3】
外側面に転動溝を有する内輪部材と、内側面に転動溝を有する外輪部材と、これら転動溝を転動する転動体と、前記内輪部材の内側面に隙間嵌めされているシャフト部材とを備え、前記内輪部材と前記外輪部材との間に潤滑剤を封入してなる転がり軸受において、
前記内輪部材は前記外側面から前記内側面に通じる微細孔を有し、
前記シャフト部材における前記内輪部材と対向する対向面には、前記内輪部材の前記内側面に接触しないための非摩耗凹所が形成されていることを特徴とする転がり軸受。
【請求項4】
外側面に転動溝を有する内輪部材と、内側面に転動溝を有する外輪部材と、これら転動溝を転動する転動体と、前記外輪部材の外側面と隙間嵌めされる取付け部材とを備え、前記内輪部材と前記外輪部材との間に潤滑剤を封入してなる転がり軸受において、
前記外輪部材は前記内側面から前記外側面に通じる微細孔を有し、
前記取付け部材における前記外輪部材と対向する対向面には、前記外輪部材の前記外側面に接触しないための非摩耗凹所が形成されていることを特徴とする転がり軸受。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかにおいて、
前記転動溝を形成する面は研摩又は研削によって平滑化されており、
前記内輪部材における前記転動溝以外の前記外側面、あるいは前記外輪部材における前記転動溝以外の前記内側面の少なくとも一部分は研摩も研削もされておらず、前記微細孔が前記研摩又は研削により塞がれていないことを特徴とする転がり軸受。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかにおいて、
前記内輪部材と前記シャフト部材との対向面、あるいは前記外輪部材と前記取付け部材との対向面における前記非摩耗凹所が形成された面域と前記非摩耗凹所が形成されていない面域の比率が、0.2〜1.0の範囲にあることを特徴とする転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−133418(P2009−133418A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−310434(P2007−310434)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(000103976)オリジン電気株式会社 (223)
【Fターム(参考)】