説明

転がり軸受

【課題】 潤滑油に混入した摩耗粉等の異物が軸受内部に侵入することを防止し、軸受内部にクリーンな油のみ潤滑油として供給し、軸受としての機能を保つことができる転がり軸受を提供する。
【解決手段】 この転がり軸受は、内輪1および外輪2と、これら内外輪1,2間に介在させた複数の転動体3とを備えたものである。基端が内輪1に固定され先端が外輪2に接して内外輪1,2間の軸受空間を密封する密封装置5を設けている。この密封装置5は、一部が潤滑油は通すが固形の異物の侵入を防止する材質の異物侵入防止材8からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、転がり軸受に関し、例えば、建設機械・一般産業機械等で油潤滑で使用される転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
建設機械等の走行スプロケット、車輌重量の重いダンプトラック等のホイールやトランスミッション部に使用される軸受は、一般にシールを有しておらず油潤滑下で使用され、囲まれた空間内を油が循環し軸受へと供給されることにより円滑に回転する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4348955号公報
【特許文献2】特開2010−19296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記走行スプロケット、ホイール、およびトランスミッション部のいずれかにおいて減速機の歯車の摩耗を伴う機構等がある場合、摩耗粉が混入した循環油が軸受内部へ侵入することにより、軸受の機能に支障をきたす場合がある(特許文献1,2)。これにより軸受が短寿命となるおそれがある。
【0005】
この発明の目的は、潤滑油に混入した摩耗粉等の異物が軸受内部に侵入することを防止し、軸受内部にクリーンな油のみ潤滑油として供給し、軸受としての機能を保つことができる転がり軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明における第1の発明の転がり軸受は、内輪および外輪と、これら内外輪間に介在させた複数の転動体とを備えた転がり軸受において、基端が前記内外輪のいずれか一方に固定され先端が前記内外輪の他方に接して前記内外輪間の軸受空間を密封する密封装置を設け、前記密封装置は、一部が潤滑油は通すが固形の異物の侵入を防止する材質の異物侵入防止材からなることを特徴とする。
【0007】
この構成によると、密封装置を設けたため、軸受内への異物の侵入を防止できる。密封装置を設けたが、その一部を構成する異物侵入防止材は、軸受内部に潤滑油を通すが固形の異物の侵入を防止する。よって、軸受内部に異物等が混入しないクリーンな油のみ潤滑油として供給し、軸受としての機能を保つことができる。したがって、異物侵入に起因する軌道面、転動面の剥離等を未然に防止し、軸受が不所望に短寿命となることを防止し得る。また、軸受の密封装置の一部に異物侵入防止材としての機能を持たせたため、例えば、異物侵入防止装置を軸受とは別に設ける場合等と比べて、装置全体の小形化を図り、構造を簡単化できる。したがって、建設機械・一般産業機械等への軸受の汎用性を高めることができる。
【0008】
前記異物侵入防止材の材質を不織布としても良い。
前記異物侵入防止材の材質を多孔質樹脂としても良い。
前記不織布または多孔質樹脂によると、適宜の材質のものを選定することで、油は通すが、油の通過可能な孔、隙間よりも大きなサイズの固形の異物は遮断する特性を得ることができ、その特性を活かした密封構造とすることにより、軸受内部へはクリーンな油のみが供給され潤滑に供される。
【0009】
前記密封装置は、内外輪のいずれか一方に固定される密封板を有し、前記異物侵入防止材は、前記密封板の径方向先端部に設けられ、外内輪のいずれか他方に接触させたものであっても良い。
この場合、密封板を内輪または外輪に固定し、この密封板の径方向先端部に設けた異物侵入防止材を、対向する軌道輪の一部に接触させる。密封装置をこのような密封構造とすることにより、軸受内部へはクリーンな油のみが供給され潤滑に供される。異物侵入防止材は密封板の径方向先端部に設けたため、密封装置の構成が簡単にできる。
【0010】
前記密封装置は、内外輪のいずれか一方に固定される密封板と、この密封板の径方向先端部に設けられる弾性シール部材と、この弾性シール部材の先端部に設けられる前記異物侵入防止材とを有し、前記弾性シール部材は、先端部の周方向の複数箇所に切欠きを有し、この切欠きが前記異物侵入防止材で覆われていて、前記異物侵入防止材のうち前記切欠きを有する部分の先端、および前記弾性シール部材のうち前記切欠きの無い部分の先端を、外内輪のいずれか他方に接触させたものとしても良い。
この場合、密封装置のうち異物侵入防止材は、軸受内部に潤滑油を通すが固形の異物の侵入を防止する。前記密封装置のうち弾性シール部材は、前記切欠きの無い部分の先端を軌道輪に接触させたため、弾性シール部材のない密封装置よりも異物侵入防止効果をさらに高めることができる。
【0011】
前記密封装置は、内外輪のいずれか一方に固定され軸受内外に貫通する開口部を有する密封板と、この密封板の径方向先端部に設けられ外内輪のいずれか他方に接触するシールリップと、前記密封板に形成された前記開口部に張られた前記異物侵入防止材とを有するものであっても良い。この場合、前記異物侵入防止材として例えば網目状の部材等を用いて軸受内部に潤滑油を通すが固形の異物の侵入を防止することができる。密封装置の先端と軌道輪との間から侵入しようとする異物等は、シールリップによって遮断する。
【0012】
前記転がり軸受は、両鍔付きの内輪を有する円すいころ軸受であり、内輪の大径端鍔の外径面に前記密封板を嵌合固定したものであっても良い。この場合、密封装置を内輪に簡単に固定でき、工数低減を図ることが可能となる。
内輪内周面に外径側に凹む逃がし部を設け、この逃がし部に前記密封板を嵌合固定したものであっても良い。この場合、密封装置を転がり軸受単独で保持することができ、転がり軸受の組込み時の取り扱いを容易化できる。例えば、軸受を使用する客先において密封装置を組み込む必要がなくなるため、工数低減を図ることができる。
【0013】
前記外輪は、外輪軌道面を外輪幅方向に延長させた軌道面延長部を有し、この軌道面延長部に前記密封装置の先端を接触させたものであっても良い。
前記外輪は、外輪軌道面を外輪幅方向に延長させた軌道面延長部を有し、この軌道面延長部に前記シールリップを接触させたものであっても良い。
これらの場合、密封装置の先端またはシールリップを、軌道面延長部に対し径方向に接触させることで、軸受内部に異物等が混入しないクリーンな油のみ潤滑油として供給することができる。
【0014】
この発明における第2の発明の転がり軸受は、内輪および外輪と、これら内外輪間に介在させた複数の転動体とを備えた転がり軸受において、基端が前記内外輪のいずれか一方に固定され先端が前記内外輪の他方に接して前記内外輪間の軸受空間を密封する密封装置を設け、前記密封装置は、内外輪のいずれか一方に固定される密封板と、この密封板の径方向先端部に設けられ、外内輪のいずれか他方との間で潤滑油は通すが固形の異物の侵入を防止する微小隙間を形成するリップ状の弾性シール部材とを有することを特徴とする。
【0015】
この構成によると、密封装置におけるリップ状の弾性シール部材は、軌道輪との微小隙間から潤滑油は通すが、軸受内部への異物の侵入を防止する。弾性シール部材として、例えば、リップの緊迫力の弱いゴム等を用いる。前記リップの先端部分を軌道輪と接触させることで、前記リップの先端が波打ち前記軌道輪との間で僅かな隙間が複数箇所生じる程度の押付力のゴムまたは樹脂材を用いる。すなわち、この僅かな隙間は、油は通すが、前記隙間よりも大きな異物は遮断する。よって、軸受内部に異物等が混入しないクリーンな油のみ潤滑油として供給し、軸受としての機能を保つことができる。したがって、異物侵入に起因する軌道面、転動面の剥離等を未然に防止し、軸受が不所望に短寿命となることを防止し得る。
【0016】
前記密封装置の一部に、潤滑油中の異物である磁性体の摩耗粉を吸着する磁気帯び部材を設けても良い。この場合、磁気帯び部材の磁力により、摩耗粉を含む潤滑油から前記摩耗粉を強制的に取り除く。これにより、軸受内部に異物等が混入しないクリーンな油のみ供給することができる。
【発明の効果】
【0017】
この発明における第1の発明の転がり軸受は、内輪および外輪と、これら内外輪間に介在させた複数の転動体とを備えた転がり軸受において、基端が前記内外輪のいずれか一方に固定され先端が前記内外輪の他方に接して前記内外輪間の軸受空間を密封する密封装置を設け、前記密封装置は、一部が潤滑油は通すが固形の異物の侵入を防止する材質の異物侵入防止材からなるため、潤滑油に混入した摩耗粉等の異物が軸受内部に侵入することを防止し、軸受内部にクリーンな油のみ潤滑油として供給し、軸受としての機能を保つことができる。
【0018】
この発明における第2の発明の転がり軸受は、内輪および外輪と、これら内外輪間に介在させた複数の転動体とを備えた転がり軸受において、基端が前記内外輪のいずれか一方に固定され先端が前記内外輪の他方に接して前記内外輪間の軸受空間を密封する密封装置を設け、前記密封装置は、内外輪のいずれか一方に固定される密封板と、この密封板の径方向先端部に設けられ、外内輪のいずれか他方との間で潤滑油は通すが固形の異物の侵入を防止する微小隙間を形成するリップ状の弾性シール部材とを有するため、潤滑油に混入した摩耗粉等の異物が軸受内部に侵入することを防止し、軸受内部にクリーンな油のみ潤滑油として供給し、軸受としての機能を保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(A)は、この発明の一実施形態に係る転がり軸受の断面図、(B)は、同転がり軸受の密封装置の拡大断面図である。
【図2】(A)は、この発明の他の実施形態に係る転がり軸受の断面図、(B)は、同転がり軸受の密封装置の拡大断面図である。
【図3】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【図4】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の密封装置の拡大断面図である。
【図5】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の密封装置の要部の拡大断面図である。
【図6】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【図7】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の密封装置の要部の拡大断面図である。
【図8】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【図9】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【図10】(A)は、同転がり軸受の密封装置の正面図、(B)は同密封装置の拡大正面図である。
【図11】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【図12】図11のA−A線端面図である。
【図13】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【図14】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【図15】(A)は図14のA−A線端面図、(B)は図15(A)の要部拡大図である。
【図16】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【図17】同転がり軸受の要部の拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
この発明の一実施形態を図1(A),(B)と共に説明する。図1(A)に示すように、この実施形態に係る転がり軸受は、内輪1および外輪2と、これら内外輪1,2の軌道面1a,2a間に介在させた複数の転動体3と、これら転動体3を円周方向に所定間隔を隔てて保持する保持器4と、内外輪1,2間の軸受空間を密封する密封装置5とを有する。前記転がり軸受として、円すいころ軸受が適用され、前記転動体3として円すいころが適用される。内輪1は両鍔付きの内輪1とし、外輪2は鍔無しの外輪2としている。内輪1は、内輪外周面が円すい面とされた軌道面1aを有する。内輪1の大径端は、ほぼ大径端鍔(「大鍔」とも言う)6の幅寸法だけ外輪2よりも幅方向に突出している。外輪2は、内輪1の軌道面1aに対向する内周面が円すい面とされた軌道面2aを有する。
【0021】
密封装置5について説明する。
図1(B)に示すように、内輪1の大径端鍔6の外径面6aに、この密封装置5の基端が固定され、同密封装置5の先端を外輪端面2bに接触させている。この密封装置5は、大径端鍔6の外径面6aに圧入嵌合される環状の密封板7と、潤滑油は通すが固形の異物の侵入を防止する材質の異物侵入防止材8とを備えている。密封板7は、例えば、異物侵入防止材8を挟み込む二枚の鋼板(または樹脂板)7a,7bを有し、これら鋼板7a,7bを一体に重ね合わせてなる。密封板7は、内径側から外径側に順次、嵌合部9、立板部10、および円筒部11を有する。これらのうち嵌合部9が、内輪1の大径端鍔6の外径面6aに圧入状態で嵌合される。密封板7の径方向先端部となる円筒部11における二枚の鋼板7a,7b間に、環状の異物侵入防止材8の基端を挟持し、この異物侵入防止材8の先端を外輪端面2bに軸受軸方向に接触させている。また、異物侵入防止材8は、円筒部11に着脱自在に設けられる。
【0022】
この例では、異物侵入防止材8の材質を不織布としている。不織布の特性つまり、油は通すが、油の通過可能なすきまの寸法よりも大きなサイズの固形の異物は遮断する特性を活かした密封構造とすることにより、異物侵入防止材8を通して軸受内部へはクリーンな油のみが供給され潤滑に供される。
なお、密封板7の嵌合部9は、内輪1の大径端鍔6の外径面6aに圧入状態で強固に嵌合されるため、大径端鍔6の外径面6aと嵌合部9との間から異物や油が侵入することを確実に遮断する。
【0023】
以上説明した転がり軸受によると、密封装置5の異物侵入防止材8は、軸受内部に潤滑油は通すが固形の異物の侵入を防止する。よって、軸受内部に異物等が混入しないクリーンな油のみ潤滑油として供給し、軸受としての機能を保つことができる。したがって、異物侵入に起因する軌道面1a,2a、ころ転動面の剥離等を未然に防止し、軸受が不所望に短寿命となることを防止し得る。また、軸受の密封装置5の一部に異物侵入防止材8としての機能を持たせたため、例えば、異物侵入防止装置を軸受とは別に設ける場合等と比べて、装置全体の小形化を図り、構造を簡単化できる。したがって、建設機械・一般産業機械等への軸受の汎用性を高めることができる。
この転がり軸受は、両鍔付きの内輪1を有する円すいころ軸受であり、内輪1の大径端鍔6の外径面6aに密封板7の嵌合部9を嵌合固定したため、密封装置5を内輪1に簡単に固定でき、工数低減を図ることが可能となる。密封板7の径方向先端部となる円筒部11における二枚の鋼板7a,7b間に、異物侵入防止材8の基端を挟持し、異物侵入防止材8が円筒部11に着脱自在に設けられるため、例えば、軸受のメンテナンス時、異物侵入防止材8だけを容易に交換することが可能となる。勿論、密封装置5全体を交換することも可能である。
【0024】
この発明の他の実施形態について説明する。以下の説明においては、各形態で先行する形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、先行して説明している形態と同様とする。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0025】
図2(A),(B)の転がり軸受は、外輪軌道面2aを外輪幅方向に延長させた軌道面延長部2aaを有する。この軌道面延長部2aaは、外輪軌道面2aに段差なく滑らかに続き、且つこの外輪軌道面2aと同一角度の円すい面を成す。また内輪1の大径端側の端面1bと、軌道面延長部2aaのある外輪端面2bの軸方向位置が略一致するように形成されている。前記外輪2の軌道面延長部2aaに異物侵入防止材8の先端を接触させている。密封装置5Aの密封板7は、嵌合部9と立板部10とで断面L字形状に形成されている。この密封板7の径方向先端部となる立板部10における二枚の鋼板7a,7b間に、異物侵入防止材8の基端を挟持し、この異物侵入防止材8の先端を外輪2の軌道面延長部2aaに径方向に接触させている。その他図1(A)の転がり軸受と同様の構成となっている。
この構成の場合も、密封装置5Aの異物侵入防止材8は、軸受内部に潤滑油は通すが固形の異物の侵入を防止する。よって、軸受内部に異物等が混入しないクリーンな油のみ潤滑油として供給し、軸受としての機能を保つことができる。その他図1(A)の転がり軸受と同様の作用効果を奏する。
【0026】
図3の転がり軸受は、密封装置5Bの密封板7の一部を、内輪1の大径端側の端面1bと内輪間座等の相手側部材12との間に挟み込んで固定したものである。この密封装置5Bの密封板7は、立板部10と円筒部11とを有する。異物侵入防止材8を挟み込む二枚の鋼板7a,7bのうち内側一枚の鋼板7bは、円筒部11と、立板部10の径方向上半部とにわたり設けられる断面L字形状である。立板部10のうち外側一枚の鋼板7aの径方向下半部7aaのみが、内輪1の大径端側の端面1bと相手側部材12との間に挟み込まれて固定される。
この構成によると、密封板7の一部を、内輪1の大径端側の端面1bと相手側部材12との間に挟み込んで固定したため、例えば、軸受の予圧等により相手側部材と内輪端面1bとの間に幅押え力が作用する。したがって、立板部10の径方向下半部7aaが内輪端面1bに押し当てられ、密封装置5Bが堅固に固定される。それ故、密封装置5Bが振動等で軸受から不所望に外れることを防止できる。また、密封装置5Bの異物侵入防止材8により、軸受内部に異物等が混入しないクリーンな油のみ潤滑油として供給することができる。密封板7の一部を挟み込む相手側部材12は、内輪間座に限定されるものではなく、軸、フランジなど他の部材を用いても良い。
【0027】
図4の転がり軸受は、外輪軌道面2aを外輪幅方向に延長させた軌道面延長部2aaを有する。密封装置5Cの密封板7は、立板部10からなる。この立板部10の二枚の鋼板7a,7bの径方向下半部7aa,7baが、内輪1の大径端側の端面1bと内輪間座等の相手側部材12との間に挟み込まれて固定される。立板部10の二枚の鋼板7a,7b間に、異物侵入防止材8の基端を挟持し、この異物侵入防止材8の先端を外輪2の軌道面延長部2aaに径方向に接触させている。その他図3の転がり軸受と同様の構成となっている。
この場合、密封装置5Cの構造を図1乃至図3のものより簡単化でき、製造コストの低減を図れる。その他図3の転がり軸受と同様の作用効果を奏する。
【0028】
図5の転がり軸受は、内輪内周面に外径側に凹む逃がし部13を設け、この逃がし部13に密封板7を嵌合固定したものである。逃がし部13は、内輪内周面のうち、内輪1の大径端側の端面1bに繋がる角部から軸方向に所定距離の内周部分に形成されている。密封装置5Dの密封板7は、嵌合部9と立板部10と円筒部11とを有する。立板部10のうち外側一枚の鋼板7aの径方向下半部7aaが、内輪1の大径端側の端面1bと内輪間座等の相手側部材12との間に挟み込まれ、この径方向下半部7aaの内周側端に、嵌合部9が一体に繋がっている。この嵌合部9を逃がし部13に嵌合固定している。その他図3の転がり軸受と同様の構成となっている。
嵌合部9を逃がし部13に嵌合固定したため、密封装置5Dを転がり軸受単独で保持することができ、図3の構造よりも転がり軸受の組込み時の取り扱いを容易化できる。例えば、軸受を使用する客先において密封装置5Dを組込む必要がなくなるため、工数低減を図ることができる。
【0029】
図6の転がり軸受は、異物侵入防止材8の材質を多孔質樹脂とし、この異物侵入防止材8の先端を外輪端面2bに接触させたものである。この例の密封装置5Eの密封板7は、一枚の鋼板または樹脂板からなり、内径側から外径側に順次、嵌合部9、立板部10、および傾斜部14を有する。傾斜部14は、軸受内側に向かうに従って外径側に延びる傾斜角度を有し、外輪端面2b付近まで続く。この傾斜部14の先端に異物侵入防止材8の基端を固定し、異物侵入防止材8の先端を外輪端面2bに接触させている。その他図1(A)の転がり軸受と同様の構成となっている。
この場合、多孔質樹脂の特性つまり油は通すが、油の各粒子よりも大きなサイズの固形の異物は遮断する特性を活かした密封構造とすることにより、軸受内部へはクリーンな油のみが供給され潤滑に供される。密封板7は一枚の鋼板または樹脂板からなるため、前記各実施形態のものより部品点数の低減を図り、製造コストの低減を図れる。
【0030】
図7の転がり軸受は、外輪軌道面2aを外輪幅方向に延長させた軌道面延長部2aaを有する。外輪2の軌道面延長部2aaに、前記多孔質樹脂からなる異物侵入防止材8の先端を径方向に接触させている。その他図6の転がり軸受と同様の構成となっている。この場合の密封板7も一枚の鋼板または樹脂板からなるため、部品点数の低減を図り、製造コストの低減を図れる。
【0031】
図8は、密封装置5Fの一部に磁気帯び部材15を設けたものである。この密封装置5Fの密封板7は、円筒部11および立板部10の表面に絶縁材16が設けられる。前記立板部10に設けた絶縁材16の表面に、潤滑油中の異物である磁性体の摩耗粉を吸着する磁気帯び部材15を設けている。この磁気帯び部材15は、磁気を帯びた環状板、例えば、円板状の永久磁石から成り、この永久磁石をシール端面に取り付け、シール近傍に来た異物固形物(摩耗粉等)を集積する。その他図1(A)の転がり軸受と同様の構成となっている。
この場合、磁気帯び部材15の磁力により、摩耗粉を含む潤滑油から前記摩耗粉を強制的に取り除く。これにより、軸受内部に異物等が混入しないクリーンな油のみ供給することができる。
【0032】
図9、図10(A),(B)では、密封板7の径方向先端部にシールリップ17を取付け、このシールリップ17の先端を外輪2の一部(この例では外輪端面2b)に接触させている。さらに密封板7の立板部10に、軸受内外に貫通する開口部18を円周方向に所定間隔をあけて複数形成し、各開口部18に、例えば、油は通すが、油の通過可能な孔の寸法よりも大きなサイズの固形の異物を遮断する網目状の部材からなる異物侵入防止材8を張っている。前記網目状の部材は、例えば、複数の線材を所定間隔おきに設け、これら線材を交差させて油の通過可能な孔の寸法よりも大きなサイズの固形の異物を遮断する。その他図6の転がり軸受と同様の構成となっている。
この場合、異物侵入防止材8として例えば網目状の部材等を用いて軸受内部に潤滑油を通すが固形の異物の侵入を防止することができる。密封装置5Gの先端と軌道輪との間から侵入しようとする異物等は、シールリップ17によって遮断できる。また、密封板7に複数の開口部18を形成したため、密封装置5Gの軽量化を図ることができる。
【0033】
図11は、さらに他の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。図12は、図11のA−A線端面図である。この例では、密封板7の径方向先端部に、ゴムまたは樹脂からなる弾性シール部材19を設け、この弾性シール部材19は、先端部の周方向複数箇所に切欠き19aを有するいわゆる櫛歯形状であって、これら切欠き19aが異物侵入防止材8で覆われたものである。例えば、図1(A)では環状の異物侵入防止材を用いているが、図11および図12の異物侵入防止材8は、矩形板状に形成され、弾性シール部材19の切欠き19aを設けた各箇所をそれぞれ覆うように複数設けられている。前記各異物侵入防止材8の先端8a、および弾性シール部材19のうち前記切欠き19aの無い部分の先端19bを、外輪端面2bに接触させている。前記密封板7は一枚の鋼板または樹脂板からなる。
【0034】
この場合、異物侵入防止材8は、軸受内部に潤滑油を通すが固形の異物の侵入を防止する。弾性シール部材19は、切欠き19aの無い部分の先端19bを外輪端面2bに接触させたため、弾性シール部材のない密封装置よりも異物侵入防止効果をさらに高めることができる。
この例では、弾性シール部材19の切欠き19aを異物侵入防止材8で覆っているが、必ずしもこの構成に限定されるものではない。弾性シール部材19を例えば二枚の環状のゴム板または樹脂板からなるものとし、環状または矩形板状の異物侵入防止材8を二枚のゴム板間に挟み込んで固定しても良い。
【0035】
図13の転がり軸受は、外輪軌道面2aを外輪幅方向に延長させた軌道面延長部2aaを有する。各異物侵入防止材8の先端8a、および弾性シール部材19のうち切欠き19aの無い部分の先端を、前記軌道面延長部2aaに径方向に接触させている。その他図11,図12の転がり軸受と同様の構成となっている。この場合にも、異物侵入防止材8は、軸受内部に潤滑油を通すが固形の異物の侵入を防止する。弾性シール部材19は、切欠き19aの無い部分の先端を軌道面延長部2aaに接触させたため、弾性シール部材のない密封装置よりも異物侵入防止効果をさらに高めることができる。
【0036】
図14は、さらに他の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。図15(A)は図14のA−A線端面図、(B)は図15(A)の要部拡大図である。この例では、密封板7の径方向先端部に、リップ状の弾性シール部材20が設けられている。この弾性シール部材20は、例えば、リップ20aの緊迫力の弱いゴムまたは樹脂からなる環状部材であり、外輪端面2bとの間で潤滑油は通すが固形の異物の侵入を防止する微小隙間δを形成する。
この場合、前記リップ20aの先端部分を外輪端面2bと接触させることで、前記リップ20aの先端が図15(B)に示すように波打ち外輪端面2bとの間で僅かな軸方向の隙間δが複数箇所生じる。この僅かな隙間δは、油は通すが、前記隙間δよりも大きな異物は遮断する。よって、軸受内部に異物等が混入しないクリーンな油のみ潤滑油として供給し、軸受としての機能を保つことができる。したがって、異物侵入に起因する軌道面、1a,2a、ころ転動面の剥離等を未然に防止し、軸受が不所望に短寿命となることを防止し得る。
【0037】
図16,図17の転がり軸受は、外輪軌道面2aを外輪幅方向に延長させた軌道面延長部2aaを有する。外輪2の軌道面延長部2aaに、弾性シール部材20のリップ20aの先端部分を径方向に接触させている。この場合、図17に示すように、前記リップ20aの先端が波打ち軌道面延長部2aaとの間で僅かな径方向の隙間δが複数箇所生じる。この僅かな隙間δは、油は通すが、前記隙間δよりも大きな異物は遮断する。その他図14の転がり軸受と同様の構成となっている。
この場合、リップ20aの先端が波打ち軌道面延長部2aaとの間で僅かな径方向の隙間δが生じるため、軸受内部に異物等が混入しないクリーンな油のみ潤滑油として供給し、軸受としての機能を保つことができる。
【0038】
前記いずれかの実施形態の異物侵入防止材の不織布を多孔質樹脂に代替させても良いし、多孔質樹脂を不織布に代替しても良い。
図9の異物侵入防止材として網目状の部材を用いているが、この網目状の部材を不織布または多孔質樹脂からなる部材としても良い。
前記各実施形態では、密封板を内輪に固定し、異物侵入防止材または弾性シール部材を外輪に接触させているが、逆に、密封板を外輪に固定し、異物侵入防止材または弾性シール部材を内輪(例えば、内輪外周面または内輪端面等)に接触させた構成としても良い。
図8以外のいずれかの実施形態において、密封装置の一部に磁気帯び部材を設け、磁性体の摩耗粉を積極的に集積するようにしても良い。
前記各実施形態に適用する転がり軸受を、単列の円すいころ軸受としているが、複列としても良い。また、前記いずれかの密封装置を、深溝玉軸受、アンギュラ玉軸受、円筒ころ軸受、自動調心ころ軸受に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0039】
1…内輪
2…外輪
2a…外輪軌道面
2aa…軌道面延長部
3…転動体
5…密封装置
6…大径端鍔
7…密封板
8…異物侵入防止材
13…逃がし部
15…磁気帯び部材
17…シールリップ
18…開口部
19…弾性シール部材
19a…切欠き
20…弾性シール部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪および外輪と、これら内外輪間に介在させた複数の転動体とを備えた転がり軸受において、
基端が前記内外輪のいずれか一方に固定され先端が前記内外輪の他方に接して前記内外輪間の軸受空間を密封する密封装置を設け、
前記密封装置は、一部が潤滑油は通すが固形の異物の侵入を防止する材質の異物侵入防止材からなることを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
請求項1において、前記異物侵入防止材の材質を不織布とした転がり軸受。
【請求項3】
請求項1において、前記異物侵入防止材の材質を多孔質樹脂とした転がり軸受。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記密封装置は、内外輪のいずれか一方に固定される密封板を有し、前記異物侵入防止材は、前記密封板の径方向先端部に設けられ、外内輪のいずれか他方に接触させた転がり軸受。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記密封装置は、内外輪のいずれか一方に固定される密封板と、この密封板の径方向先端部に設けられる弾性シール部材と、この弾性シール部材の先端部に設けられる前記異物侵入防止材とを有し、
前記弾性シール部材は、先端部の周方向の複数箇所に切欠きを有し、この切欠きが前記異物侵入防止材で覆われていて、前記異物侵入防止材のうち前記切欠きを有する部分の先端、および前記弾性シール部材のうち前記切欠きの無い部分の先端を、外内輪のいずれか他方に接触させた転がり軸受。
【請求項6】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記密封装置は、
内外輪のいずれか一方に固定され軸受内外に貫通する開口部を有する密封板と、
この密封板の径方向先端部に設けられ外内輪のいずれか他方に接触するシールリップと、
前記密封板に形成された前記開口部に張られた前記異物侵入防止材とを有する転がり軸受。
【請求項7】
請求項4または請求項5において、前記転がり軸受は、両鍔付きの内輪を有する円すいころ軸受であり、内輪の大径端鍔の外径面に前記密封板を嵌合固定した転がり軸受。
【請求項8】
請求項4または請求項5において、内輪内周面に外径側に凹む逃がし部を設け、この逃がし部に前記密封板を嵌合固定した転がり軸受。
【請求項9】
請求項7または請求項8において、前記外輪は、外輪軌道面を外輪幅方向に延長させた軌道面延長部を有し、この軌道面延長部に前記密封装置の先端を接触させた転がり軸受。
【請求項10】
請求項6において、前記外輪は、外輪軌道面を外輪幅方向に延長させた軌道面延長部を有し、この軌道面延長部に前記シールリップを接触させた転がり軸受。
【請求項11】
内輪および外輪と、これら内外輪間に介在させた複数の転動体とを備えた転がり軸受において、
基端が前記内外輪のいずれか一方に固定され先端が前記内外輪の他方に接して前記内外輪間の軸受空間を密封する密封装置を設け、
前記密封装置は、
内外輪のいずれか一方に固定される密封板と、
この密封板の径方向先端部に設けられ、外内輪のいずれか他方との間で潤滑油は通すが固形の異物の侵入を防止する微小隙間を形成するリップ状の弾性シール部材と、
を有することを特徴とする転がり軸受。
【請求項12】
請求項1ないし請求項11のいずれか1項において、前記密封装置の一部に、潤滑油中の異物である磁性体の摩耗粉を吸着する磁気帯び部材を設けた転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−256895(P2011−256895A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129693(P2010−129693)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】