説明

転写用導電性フィルム、その製造法及び導電性物体

【課題】他の基板に効率よく転写することが可能で密着性の良い転写用導電性フィルムを提供する。
【解決手段】極細導電性繊維を含有する紫外線硬化型樹脂組成物からなる粘着層が剥離フィルム(A)と剥離フィルム(B)で挟持され、前記極細導電性繊維の一部が前記粘着層から剥離フィルム(A)側に突出している転写用導電性フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写用導電性フィルム及びその製造法、それを用いた導電性層が付与された物体に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電性層は、静電防止層、透明面発熱体、プラズマディスプレイパネル電極、液晶電極、有機EL電極、タッチパネル、電磁波遮蔽膜などとして用いることができる。
【0003】
現在、透明導電膜は主にスパッタリング法によって製造されている。スパッタリング法は、ある程度大きな面積のものでも、表面抵抗値の低い導電膜を形成できる点で優れている。しかし、装置が大掛かりで成膜速度が遅いという欠点がある。
【0004】
また、塗布法による透明導電膜の製造も試みられている。従来の塗布法では、導電性微粒子がバインダー溶液中に分散された導電性塗料を基板上に塗布して、乾燥し、硬化させ、導電膜を形成する。塗布法は、大面積の導電膜を容易に形成しやすく、装置が簡便で生産性が高く、スパッタリング法よりも低コストで導電膜を製造できるという長所がある。塗布法では、導電性微粒子同士が接触することにより電気経路を形成し導電性が発現される。しかしながら、従来の塗布法で作製された導電膜ではバインダーの存在のために導電性微粒子同士の接触が不十分で、得られる導電膜の電気抵抗値が高い(導電性に劣る)という欠点があり、その用途が限られてしまう。
【0005】
特許文献1には、透明導電性基板を転写によって製造する方法が開示されている。
【0006】
特許文献2には、対象物体表面上に透明導電層を形成するための転写用導電性フィルムが開示されている。転写用導電性フィルムの導電層は、導電性微粒子を圧縮することにより形成されたものである。
【0007】
特許文献3には、基材の表面に分散した極細導電繊維から形成された導電層を備えた導電性成形体の製造方法が記載されているが、転写フィルムの粘着層や導電性成形体の製造法に関して詳細な記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−103839号公報
【特許文献2】特開2002−347150号公報
【特許文献3】特許3903159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の塗布法で作製された極細導電性繊維を用いた転写用フィルムは充分に他の基板に転写できるものが無く、得られる導電膜の表面抵抗値が高い(導電性に劣る)という欠点があった。また、従来の塗布法で作製された極細導電性繊維を用いた導電フィルムは、基板との密着性を補完する為に導電層の上にオーバーコート層を設ける場合があるが、表面抵抗値が高くなるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は前記課題を解決すべく鋭意研究の結果、粘着層を形成する樹脂組成物に紫外線硬化型樹脂を用い、又、極細導電性繊維を該粘着層から突出させることで他の基板に効率よく転写でき、導電性の高い導電性基板を得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本発明は、
「(1)導電性繊維を含有する紫外線硬化型樹脂からなる粘着層が剥離フィルム(A)と剥離フィルム(B)で挟持され、前記導電性繊維の一部が前記粘着層から剥離フィルム(A)側に突出していることを特徴とする転写用導電性フィルム、
(2)前記極細導電性繊維が、カーボンナノチューブであることを特徴とする(1)に記載の転写用導電性フィルム、
(3)前記粘着層に、導電性物質を含有させた(1)又は(2)のいずれか一項に記載の転写用導電性フィルム、
(4)揮発性溶剤又はバインダー樹脂を溶解した揮発性溶剤に導電性繊維を分散させた塗液を剥離フィルム(A)に塗布し、塗液を乾燥した後、塗布面と、紫外線硬化型樹脂組成物からなる粘着層を設けた剥離フィルム(B)の粘着層面を介して貼合することを特徴とする(1)乃至(3)のいずれか一項に記載の転写用導電性フィルムの製造法、
(5)(1)乃至(3)のいずれか一項に記載の転写用導電性フィルムを使用した導電性物体」、に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の転写用導電性フィルムは、他の物体に転写することにより、導電性の高い導電性物体が得られ、該導電性物体は、静電防止体、透明面発熱体、プラズマディスプレイパネル電極、液晶電極、有機EL電極、タッチパネル、電磁波遮蔽膜などとして用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明で使用する導電性繊維としては、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノワイヤ、カーボンナノファイバー、グラファイトフィブリルの炭素繊維、白金、金、銀、ニッケル、シリコンの金属ナノチューブやナノワイヤの金属繊維、酸化亜鉛の金属酸化物ナノチューブや金属酸化ナノワイヤの金属酸化物繊維が使用される。繊維の直径は0.3〜100nm、長さが0.1〜20μm、特に0.1〜10μmであるものが好ましく使用される。
これらの導電繊維のなかでも、カーボンナノチューブは直径が0.3〜80nmと極めて細く、アスペクト比も大きい。そのため、光透過を阻害することが極めて少ないため、透明な導電層を得ることができる。さらに、表面抵抗値も小さくすることができる。
【0014】
上記のカーボンナノチューブには、多層カーボンナノチューブと単層カーボンナノチューブがある。多層カーボンナノチューブは、中心軸の周りで閉じた直径が異なる多数の円筒状のカーボン壁からなるチューブを同心的に備えている。カーボン壁は六角網目構造に形成されている。ある多層カーボンナノチューブは、カーボン壁が渦巻き状になって多層となっている。好ましい多層カーボンナノチューブは、カーボン壁が2〜30層重なったものであり、より好ましくはカーボン壁が2〜15層重なったものである。上記の多層カーボンナノチューブは優れた光線透過率を持つ導電層を形成することができる。通常、多層カーボンナノチューブは、カーボンナノチューブの1本ずつがお互いに分離して分散している。また、2〜3層のカーボンナノチューブが、束を形成して上記のように分散している場合もある。
【0015】
単層カーボンナノチューブは、中心軸の周りに円筒状に閉じた単層のカーボン壁を備えている。このカーボン壁は六角網目構造に形成されている。この単層カーボンナノチューブは、1本ずつで分散することは困難である。2本以上のチューブが束を形成し、その束がお互いに絡み合っている。しかしながら、該束は凝集することなく、或はお互いが複雑に絡み合ってもいない。束は、お互いが単純に交差し、その交点で接触し、表面にて均一に分散している。好ましい単層カーボンナノチューブの束は、10〜50本集まったものである。しかし、本発明は、単層カーボンナノチューブが互いに分離して1本づつ分散しているのものを除外していない。
【0016】
本発明で使用する紫外線硬化型樹脂は特に限定されないが、好ましいものは分子内に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する紫外線硬化可能な多官能アクリレ−トからなるものである。分子内に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する紫外線硬化可能な多官能アクリレ−トの具体例としては、例えば(メタ)ネオペンチルグリコ−ルジアクリレ−ト、(メタ)1、6−ヘキサンジオ−ルジアクリレ−ト、(メタ)トリメチロ−ルプロパントリアクリレ−ト、(メタ)ジトリメチロ−ルプロパンテトラアクリレ−ト、(メタ)ペンタエリスリト−ルテトラアクリレ−ト、(メタ)ペンタエリスリト−ルトリアクリレ−ト、(メタ)ジペンタエリスリト−ルヘキサアクリレ−ト等のポリオ−ルポリアクリレ−ト、ビスフェノ−ルAジグリシジルエ−テルのジアクリレ−ト、ネオペンチルグリコ−ルジグリシジルエ−テルのジアクリレ−ト、(メタ)1、6−ヘキサンジオ−ルジグリシジルエ−テルのジアクリレ−トなどのエポキシ(メタ)アクリレ−ト、多価アルコ−ルと多価カルボン酸及び/又はその無水物とアクリル酸とをエステル化することによって得ることが出来るポリエステル(メタ)アクリレ−ト、多価アルコ−ル、多価イソシアネ−ト及び水酸基含有アクリレ−トを反応させることによって得られるウレタンアクリレ−ト、ポリシロキサンポリアクリレ−ト等を挙げることができる。前記の重合性アクリレ−トは単独で用いても2種以上混合して用いてもよく、その含有量は粘着剤中好ましくは50〜95重量%(樹脂に対する重量%)である。尚、上記の多官能アクリレ−トの他に粘着剤中の樹脂固形分に対して好ましくは10重量%以下の2−ヒドロキシ(メタ)アクリレ−ト、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレ−ト、グリシジル(メタ)アクリレ−ト等の単官能アクリレ−トを添加することもできる。
【0017】
また紫外線硬化型粘着剤の成分として密着性を向上する目的で重合性オリゴマ−を添加することができる。このようなオリゴマ−としては、末端メタクリレ−トポリメチルメタクリレ−ト、末端スチリルポリメタクリレ−ト、末端メタクリレ−トポリスチレン、末端メタクリレ−トポリエチレングリコ−ル、末端メタクリレ−トアクリロニトリル−スチレン共重合体、末端メタクリレ−トスチレン−メチルメタクリレ−ト共重合体などのマクロモノマ−を挙げることができる。重合性オリゴマ−を添加する場合、その添加量は粘着剤中好ましくは5〜50重量%(樹脂固形分に対する重量%)である。
【0018】
密着性を向上させる目的のためにさらにポリマ−を添加することができる。このようなポリマ−としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ブチラ−ル樹脂等を挙げることができる。特にアクリル樹脂、ポリエステル樹脂は好適である。このようなポリマ−を添加する場合、その添加量は、粘着剤中あるいは導電性粘着剤中好ましくは5〜50重量%(樹脂固形分に対する重量%)である。
【0019】
本発明で使用する樹脂組成物は、架橋剤を含有させることも好ましい態様である。好ましい架橋剤としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ポリイソシアネート等のイソシアネート系架橋剤、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル等のグリシジル系架橋剤、多官能アジリジン系架橋剤、金属キレート系架橋剤、過酸化物系架橋剤があげられ、単独あるいは組み合わせて使用される。また、アミン類、イミダゾール類、カルボン酸類も架橋を促進するため好ましく使用される。
【0020】
本発明において使用できる紫外線重合開始剤としては、例えばベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどのベンゾイン類;アセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−フェニルプロパン−1−オン、ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルホリノプロパン−1−オンなどのアセトフェノン類;2−エチルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン、2−クロロアントラキノン、2−アミルアントラキノンなどのアントラキノン類;2,4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントンなどのチオキサントン類;アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタールなどのケタール類;ベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、4,4’−ビスメチルアミノベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイドなどのホスフィンオキサイド類等が挙げられる。また、具体的には、市場より、チバ・スペシャリティケミカルズ社製イルガキュア184(1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)、イルガキュア907(2−メチル−1−(4−(メチルチオ)フェニル)−2−(4−モルフォリニル)−1−プロパノン)、BASF社製ルシリンTPO(2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド)等を容易に入手出来る。本発明においてはアセトフェノン類が好ましく用いられる。また、これらは、単独又は2種以上を混合して使用しても良い。
【0021】
本発明で使用する樹脂組成物において、上記紫外線重合開始剤成分の使用量は、樹脂組成物の固形分を100重量%とした場合、0〜10重量%であり、好ましくは1〜7重量%である。
【0022】
また、本発明で使用する樹脂組成物は硬化促進剤を含有させることもできる。使用できる硬化促進剤としては、例えばトリエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、2−メチルアミノエチルベンゾエート、ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミノエステル、EPAなどのアミン類、2−メルカプトベンゾチアゾールなどの水素供与体が挙げられる。これらの硬化促進剤の使用量は、樹脂組成物の固形分を100重量%とした場合、0〜5重量%である。
【0023】
本発明では粘着層に導電性物質を含有させても良い。導電性物質としては、導電性金属酸化物の微粒子やイオン化合物などが挙げられる。
【0024】
導電性金属酸化物としては例えばATO(アンチモンドープ酸化錫)、ITO(インジウムドープ酸化錫)、アンチモン酸亜鉛等が挙げられる。これらは溶剤に分散された状態又は塗料として入手できる。また無水アンチモン酸亜鉛の製造法については、例えば特開平6−219743号公報に記載されており、メタノ−ル(セルナックスCX−Z400M、日産化学(株)製)あるいはメタノ−ル/イソプロパノ−ル(セルナックス CX−Z300IM、日産化学(株)製)のオルガノゾルとして入手出来る。この無水アンチモン酸亜鉛のゾルは一次粒子が0.5μm以下であるが、透明な被膜を得るためには、0.6μm以下のフィルタ−を通してさらに粗大粒子を除去することが好ましい。
【0025】
イオン化合物としては、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、過塩素酸リチウム、塩化アンモニウム、塩素酸カリウム、塩化アルミニウム、塩化銅、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸アンモニウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、ホウ弗化リチウム、チオシアン酸ナトリウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウムなどの無機塩類、酢酸ナトリウム、アルギン酸ソーダ、ポリアクリル酸ソーダ、リグニンスルホン酸ソーダ、トルエンスルホン酸ソーダなどの有機塩類やイオン液体が使用される。これらは単独若しくは混合して使用してもよい。但し、粘着剤とした場合は、人体に影響のないものが選ばれる。
【0026】
本発明で用いる前記イオン液体は、常温溶融塩とも言われ、アニオン成分とカチオン成分から構成されている。イオン液体を構成するカチオンとして、例えばイミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオンおよびホスホニウムカチオン等が挙げられる。イミダゾリウムカチオンとしては、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム等が挙げられる。
【0027】
イオン液体を構成するアニオンとして、例えばAlCl、Al2Cl等のクロロアルミネートアニオン、BF、PF、F(HF)、等のフッ素系無機アニオン、CFCOO、CFSO(TfO)、(CFSO(TFSI)、(CFSO(TFSM)等のフッ素系有機アニオン、NO;CHCOO等が挙げられる。
【0028】
イオン液体は、上記のカチオン種の1種又は2種以上および上記のアニオン種の1種又は2種以上の組み合わせによるものであってよいが、好ましくは、上記カチオン種とフッ素系有機アニオンとの組み合わせであり、さらに好ましくは、イミダゾリウムカチオン、又はピリジニウムカチオンとフッ素系無機アニオンとの組み合わせであり、特に好ましくはピリジニウムカチオン、又はイミダゾリウムカチオンと(CFSO)2Nの組み合わせである。
【0029】
本発明で使用する紫外線硬化型樹脂組成物を製造するには、例えば上記の多官能アクリレート100重量部に対し、紫外線重合開始剤、硬化促進剤、導電性物質などのその他の添加剤0〜10重量部を溶剤中に分散させて得ることができる。溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ジアセトンアルコール、エチルセロソルブ、メチルセロソルブ等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエチレン、トリクロロエチレン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、モノクロルベンゼン、ジクロルベンゼン等の芳香族類、又はn−へキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、テトラフルオロプロピルアルコール、ペンタフルオロプロピルアルコール等のフッ素系溶剤等を用いることができ、各組成物の溶解性がよく、塗工、乾燥等の問題がなく、安全性についても十分配慮して溶剤を選択する必要がある。
【0030】
本発明に使用される剥離フィルム(A)(B)は、その表面に粘着層を保持でき、その粘着層を使用する時、容易に剥離できる薄膜物質であればよく、材質としては合成樹脂や紙、或いは合成樹脂と紙を複合した薄膜物質が使用でき、その表面に、剥離力をコントロールした剥離性を付与するためシリコーンポリマーが使用されるが、剥離フィルムの上から粘着層の欠点のチェックができることから剥離紙より透明な合成樹脂の剥離フィルムが使用上好ましい。使用できる合成樹脂としては透明なポリエステル系(以下、PETと記す)、ポリカーボネート系、トリアセテート系、ノルボルネン系、アクリル系、セルロース系、ポリオレフィン系又はウレタン系等の高分子樹脂フィルムが適しており、中でもPETが好適で一般的に使用される頻度が高い。厚さとしては10〜200μm、より好ましくは20〜100μmが使用できる。
【0031】
フィルムに剥離性を持たせるためのシリコーンポリマーとしては特に限定されず、縮合型、付加型等のいずれでもよく、密着性を上げるためにフィルムにあらかじめプライマー処理してからシリコーン処理をしても良く、市場から入手できる剥離フィルムの例としてはダイアホイルPETシリーズ(MR,MRA,MRF,等)、リンテックPETシリーズ(3811、38GS,38V1、38A,38R等)等が挙げられる。なお、剥離フィルム(A)(B)は、同一種であっても異種であってもよい。
【0032】
本発明の転写用導電性フィルムは剥離フィルム(A)上に導電性繊維を分散した分散液を塗布、乾燥し、これに紫外線硬化型樹脂組成物からなる粘着剤層を設けた剥離フィルム(B)を貼合し得ることができる。
導電性繊維を分散する分散媒としては、特に限定されることなく、既知の各種液体を使用することができる。例えば、水、ヘキサン等の飽和炭化水素類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、エチレンクロライド、クロルベンゼン等のハロゲン化炭化水素又はプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等を挙げることができる。これらのなかでも、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが好ましい。これら液体は、単独でも2種以上の混合したものでも使用することができる。また、液体の種類により、分散剤やバインダー樹脂を使用することもできる。
【0033】
用いる分散媒の量は、特に制限されず、前記導電性繊維の分散液が塗布に適した粘度を有するようにすればよい。例えば、前記導電性繊維100重量部に対して、液体100〜100,000重量部程度である。前記導電性繊維と分散媒の種類に応じて適宜選択するとよい。
【0034】
前記極細導電性繊維の分散媒中への分散は、公知の分散手法により行うとよい。例えば、サンドグラインダーミル法により分散する。分散に際しては、微粒子の凝集をほぐすために、ジルコニアビーズ等のメディアを用いることも好ましい。
【0035】
調製した導電性繊維の分散液を剥離フィルム(A)上に、塗布、乾燥し、前記導電性繊維含有層を形成する。前記極細導電性繊維分散液の塗布は、特に限定されることなく公知の方法により行うことができる。乾燥温度は分散に用いた分散媒の種類によるが、10〜150℃程度が好ましい。10℃未満では空気中の水分の結露が起こりやすく、150℃を越えると剥離フィルムが変形する。
【0036】
剥離フィルム(B)上に、前記紫外線硬化型樹脂組成物からなる粘着層を形成する。前記紫外線硬化型樹脂組成物からなる粘着剤の塗工は、フローコート法、スプレー法、バーコート法、グラビアコート法、ロールコート法、ブレードコート法、エアーナイフコート法、リップコート法又はダイコーター法等の公知の塗工方法で、仕上がりの膜厚が通常5から50μm、好ましくは15〜30μmとなるように塗付され、80〜140℃、好ましくは100〜130℃で乾燥することによって粘着剤が固定される。通常、この後エージング処理が行われる。エージング処理の条件は使用する樹脂と架橋剤の種類によって条件が異なるが、本粘着剤については25〜50℃の恒温槽中、1日〜1週間程度保管するのが好ましい。
【0037】
次いで、剥離フィルム(A)の極細導電性繊維塗布面を剥離フィルム(B)の粘着層面に貼合する。この際、前記極細導電性繊維の一部は前記粘着層から突出した状態で保持される。繊維の一部分は、粘着層に固定され、繊維の他の部分は粘着層の表面から突出している。導電層がこのように形成されていると、極細導電繊維の接触頻度が高い。加えて、極細導電繊維は、極細導電繊維が粘着層から突出した部分において、極細導電繊維以外に電気の導通を妨げる物質がないために、優れた導電性を持つ。そのため、極細導電繊維の目付け量を加減することによって、100〜1011Ω/□の広範囲の表面抵抗値を有する導電層が得られる。
【0038】
本発明の転写用導電性フィルムは、他の物体に転写し、該物体に透明導電層を付与することが出来る。対象となる物体は、特に限定されることなく、可撓性のシートないしはフィルムの他、例えば、均一厚みの塗布層を形成しにくい板状の可撓性に乏しい物体ないしは支持体、圧縮層を直接的には形成しにくいガラスやセラミックス、金属のような物体等が含まれる。例えば、タッチパネル等の各種ディスプレイは本発明における対象物体の具体例として挙げられる。
【0039】
本発明の透明導電層が付与された物体を得るには、まず、上述の転写用導電性フィルムの剥離フィルム(B)を剥がし、導電性フィルムを対象物体面に、接着剤層を介して貼り付け、貼り付け後、接着剤層を好ましくは紫外線照射により硬化させる。その後、導電性フィルムの剥離フィルム(A)を剥離する。この際、極細導電性繊維は硬化された粘着剤層から一部が突出して保持され、互いに電気的に接触して導電層を形成する。
【実施例】
【0040】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
実施例1
<カーボンナノチューブ分散液の調製>
まず、市販の直径2nm以下、長さ5〜20μmの単層カーボンナノチューブ(SWNT)を、酸反射、水洗浄、遠心分離および精密ろ過を含む工程によって精製した。次いで、精製したSWNTを、イソプロピルアルコールと水の重量比が1:3からなる溶液に混合し、コーティング液として適切な粘度になるよう十分な量のポリアクリル酸を添加して、カーボンナノチューブ分散液を得た。この時のSWNTの濃度は分散液の1重量部%であった。
<紫外線硬化型樹脂組成物の調整>
表1に示す各原料を均一になるように混合して紫外線硬化型樹脂組成物を得た。
<転写用導電フィルムの作製>
PETフィルム(商品名:A4100;東洋紡績製)に上記カーボンナノチューブ分散液をバーコータ(#4)で塗布し100℃にて1分間乾燥し、カーボンナノチューブ層が形成された剥離フィルム(A)を得た。この時のカーボンナノチューブ層の表面抵抗値は14000Ω/□であった。PETフィルム(商品名:MRF−38;三菱樹脂製)に上記紫外線硬化型樹脂溶液をアプリケーターで350μmの厚みになるように塗布し100℃にて3分間乾燥し、50μmの紫外線硬化型樹脂組成物が形成された剥離フィルム(B)を得た。得られた剥離フィルム(A)と(B)をコーティング面が内側になるように貼り合わせることにより、転写用導電フィルムを得た。
<導電フィルムの作製(転写試験)>
上記にて得られた転写用導電フィルムの剥離フィルム(B)を剥がしてPET基板に貼り合わせ、紫外線を照射し硬化させた(照射量200mJ/cm、高圧水銀灯)。剥離フィルム(A)を剥がして転写物を得た。この時の表面抵抗値は15000Ω/□であった。
【0042】
表1
材料 重量部
アクリル系樹脂(商品名DPHA;日本化薬製) 14.3部
アクリル系樹脂(商品名SK−909A;綜研化学製) 100.0部
架橋剤(商品名L−45EY;日本化薬製) 0.6部
開始剤(商品名イルガキュア184;チバガイギー製) 0.7部
メチルエチルケトン 27.0部
【0043】
実施例2
実施例1同様に転写用導電フィルムの作製を行った。
<導電フィルムの作製(転写試験)>
上記にて得られた転写用導電フィルムの剥離フィルム(B)を剥がしてガラス基板に貼り合わせ、紫外線を照射し硬化させた(照射量200mJ/cm、高圧水銀灯)。剥離フィルム(A)を剥がして転写物を得た。この時の表面抵抗値は15000Ω/□であった。
【0044】
比較例1
実施例1同様にカーボンナノチューブ分散液の調製を行った。
<導電フィルムの作製>
PETフィルム(商品名:A4100;東洋紡績製)に上記カーボンナノチューブ分散液をバーコータ(#4)で塗布し100℃にて1分間乾燥し、カーボンナノチューブ層が形成された導電フィルムを得た。この時の表面抵抗値は14000Ω/□であった。
【0045】
比較例2
実施例1同様にカーボンナノチューブ分散液の調製を行った。
<オーバーコート剤の調整>
表2に示す各原料を均一になるように混合してオーバーコート剤を得た。
<導電フィルムの作製>
PETフィルム(商品名:A4100;東洋紡績製)に上記カーボンナノチューブ分散液をバーコータ(#4)で塗布し100℃にて1分間乾燥し、カーボンナノチューブ層を形成した。次にカーボンナノチューブ層上に上記オーバーコート剤をバーコータ(#4)で塗布し100℃にて1分間乾燥し、紫外線を照射し硬化させ(照射量200mJ/cm2、高圧水銀灯)、導電フィルムを得た。この時の表面抵抗値は190000Ω/□であった。
【0046】
表2
材料 重量部
アクリル系樹脂(商品名PET30;日本化薬製) 100.0部
開始剤(商品名イルガキュア184;チバガイギー製) 2.5部
開始剤(商品名イルガキュア907;チバガイギー製) 2.5部
メチルエチルケトン 20.0部
イソプロピルアルコール 40.0部
【0047】
<評価方法>
転写した基板に対する密着性はJIS K 5600−5−6によるクロスカット法にて確認した。導電膜の表面抵抗値はJIS K 7194に準拠し抵抗率計MCP−T600(三菱化学製)にて測定した。
【0048】
評価結果を表3に示した。
【0049】
表3
密着性 表面抵抗値(Ω/□)
実施例1 100/100 15000
実施例2 100/100 15000
比較例1 0/100 14000
比較例2 100/100 190000
【0050】
<結果の考察>
比較例において従来の塗布法では密着性と表面抵抗値の両立が難しいことが確認でき、実施例において転写した基板がPETフィルムであってもガラスであっても充分な密着性を有し、且つ導電膜の表面抵抗値も損なわないことが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性繊維を含有する紫外線硬化型樹脂からなる粘着層が剥離フィルム(A)と剥離フィルム(B)で挟持され、前記導電性繊維の一部が前記粘着層から剥離フィルム(A)側に突出していることを特徴とする転写用導電性フィルム。
【請求項2】
前記極細導電性繊維が、カーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1に記載の転写用導電性フィルム。
【請求項3】
前記粘着層に、導電性物質を含有させた請求項1又は2のいずれか一項に記載の転写用導電性フィルム。
【請求項4】
揮発性溶剤又はバインダー樹脂を溶解した揮発性溶剤に極細導電性繊維を分散させた塗液を剥離フィルム(A)に塗布し、塗液を乾燥した後、塗布面と、紫外線硬化型樹脂組成物からなる粘着層を設けた剥離フィルム(B)の粘着層面を介して貼合することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の転写用導電性フィルムの製造法。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の転写用導電性フィルムを使用した導電性物体。

【公開番号】特開2010−269569(P2010−269569A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125430(P2009−125430)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】