説明

転動体の移動量の測定装置

【課題】外輪と複数の円筒ころと保持器とを有する転がり軸受用サブアッセンブリ10において、円筒ころの径方向内方への移動量を簡単で正確に測定することができる測定装置を提供する。
【解決手段】上下揺動自在である揺動部材1の一端部17aに、サブアッセンブリ10の頂部にある円筒ころに当接させる接触子2が設けられている。揺動部材1は、左右方向に延びるナイフエッジ26を下に向けて設けた揺動支持部18によって支持され、上下揺動自在となっている。揺動部材1の他端部17bに、揺動部材1の揺動量を計測するダイヤルゲージ8が設けられている。円筒ころが軌道面に接触した状態から接触子2を押し下げることによって揺動した揺動部材1の揺動量を、ダイヤルゲージ8が計測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、外輪と複数の転動体とこれら転動体を保持している保持器とを有する転がり軸受用サブアッセンブリにおける、前記転動体の移動量の測定を行う測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
外輪、内輪、複数の転動体及び転動体用の保持器を有した転がり軸受が組み込まれる装置において、その組立の際、保持器によって保持された複数の転動体を外輪の径方向内側に配置してサブアッセンブリを構成し、このサブアッセンブリを装置の本体に嵌め込んだ状態で、その内部に内輪を嵌め入れる場合がある。この際、転動体がサブアッセンブリの径方向内方(以下、単に径方向内方という)へ脱落することを防止する必要があり、例えば特許文献1に記載しているように、保持器の径方向内側部に爪部等の突起部を形成することにより、前記脱落を防止することができる。この保持器は、転動体を周方向で所定間隔に保持するために複数のポケット部が形成されており、このポケット部内において前記突起部により転動体の径方向内方への移動量が制限され脱落を防止している。
【0003】
図5に示しているように、外輪41、複数の転動体(ころ)42及び保持器43を有した転がり軸受用サブアッセンブリ40に対して、前記のように内輪44を後から嵌め入れて組み立てる場合、頂部にあるころ42は、保持器43のポケット部43a内において、自重により径方向内方へ移動して(落ちて)保持された状態となる。この状態で内輪44を嵌める際、内輪44の外周面の縁部をテーパ形状とすることにより組立を容易としていても、ころ42の移動量(落ち量)が大きすぎると、ころ42と内輪44とが干渉し、組立が困難になるという問題点がある。
【0004】
そこで、このようなサブアッセンブリ40において、ポケット部43a内のころ42の移動量を管理する必要がある。このころ42の移動量を測定する手段として、例えば特許文献2に記載の方法が考えられる。この方法は、転動体(又はこれと同形の測定補助具)の近傍位置に変位計(センサ)を設け、転動体を移動させ、変位計によってその変位を計測することにより、移動量を測定することができる。
【0005】
【特許文献1】実開平5−12753号公報
【特許文献2】特開2001−159502号公報(図4参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
引用文献2に記載の方法の場合、転動体をポケット部内で移動させるために、転動体をピンセットでつかんだり、マニピュレータを利用したりする必要がある。しかし、実際の前記サブアッセンブリ40(図5参照)において、この測定方法を適用するためには、ころ42の近傍位置(直下)に変位計を設ける必要がある。この場合、変位計が邪魔になるため、ピンセット及びマニピュレータをころ42に径方向内方から接近させ、かつ、これを用いてころ42を移動させる作業を行うことが困難であるという問題点がある。
【0007】
この発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、前記のようなサブアッセンブリにおいて、転動体の径方向内方への移動量を簡単かつ正確に測定することができる転動体の移動量の測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の転動体の移動量の測定装置は、外輪と、この外輪の内周面にある軌道面を転動する複数の転動体と、これら転動体を径方向内方への移動量を制限して保持している保持器とを有する転がり軸受用サブアッセンブリにおける、前記転動体の移動量の測定を行う測定装置であって、軸線を水平として前記サブアッセンブリを支持する支持部材と、前記サブアッセンブリ側に延びる本体部と、この本体部に直交する方向に延びるナイフエッジを下に向けて設けた揺動支持部とを有した揺動部材と、前記ナイフエッジを支承する受け面を有し前記揺動部材を上下揺動自在に支持している受け部材と、前記本体部の端部に設けられ前記サブアッセンブリの頂部にある前記転動体に当接させる接触子と、前記転動体が前記軌道面に接触した状態から前記接触子を押し下げることによって揺動した前記揺動部材の揺動量を計測する計測器とを備えたものである。
【0009】
この測定装置によれば、サブアッセンブリの頂部にある転動体に接触子を接触させた状態で、当該転動体を押し上げると、転動体を外輪の軌道面に接触させることができる。この状態から、転動体を径方向内方へ移動させると、保持器は移動量を制限して転動体を保持した状態となる。この際、転動体が接触子を介して揺動部材を押し下げ、揺動部材は転動体の移動量(落ち量)に応じて揺動する。この揺動量を計測器で計測することにより、前記移動量を簡単に検出することができる。
また、揺動支持部のナイフエッジが受け部材の受け面によって支承された状態で、揺動部材は上下揺動自在となっていることから、揺動部材の揺動支持部と受け部材の受け面との間において、揺動部材の揺動抵抗を小さくできる。これにより、揺動部材はスムーズに揺動することができ、計測器により揺動部材の揺動量を正確に計測することができる。
【0010】
また、前記測定装置において、前記受け面は、前記ナイフエッジを支承する谷底頂部を有したV形状の面であるのが好ましい。これによれば、揺動部材が上下揺動する際に、ナイフエッジがずれ動くことを防止できる。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、転動体が移動することによって揺動する揺動部材の揺動量を、計測器で計測することにより、転動体の移動量を簡単に測定することができる。また、揺動部材をスムーズに揺動させることができため、計測精度が高まり、転動体の移動量を正確に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図2は本発明の測定対象である転がり軸受用のサブアッセンブリ10及びこのサブアッセンブリ10に挿入される内輪15を示す断面図である。図2において、転がり軸受は、外輪11と、内輪15と、これらの間に介在する複数の転動体(円筒ころ13)と、これら円筒ころ13を周方向で所定間隔に保持している保持器14とを有する円筒ころ軸受である。円筒ころ13は、外輪11の内周面11aにある外輪軌道面12を転動すると共に、内輪15の外周面15aにある内輪軌道面16を転動する。
【0013】
保持器14は、それぞれの円筒ころ13を、外輪軌道面12に接触している状態から、サブアッセンブリ10(保持器14)の径方向内方(以下、単に径方向内方という)の所定位置まで移動可能として保持し、その移動可能な移動量を制限して保持している。具体的に説明すると、保持器14は環状であり、円筒ころ13を周方向で等間隔に保持するためにポケット部14aが複数形成されている。各ポケット部14aは円筒ころ13に対して隙間を有している。各ポケット部14aの径方向内側部に、爪部等の突起部14bが形成されている。そして、各ポケット部14a内において、外輪軌道面12に接触していた円筒ころ13が保持器14の径方向内方に所定の距離だけ移動すると、この突起部14bに当接する(引っ掛かる)。これにより、保持器14が、円筒ころ13の径方向内方への移動量を制限している構成となる。
【0014】
円筒ころ13は、金属製又はセラミックス製とすることができる。金属製とした場合、円筒ころ13は磁性体の金属からなるのが好ましい。具体的には、円筒ころ13は、SUJ2(高炭素クロム軸受鋼)、SUS440C(マルテンサイト系ステンレス鋼)、又は、SKH4(高速度工具鋼)等の材料からなり、強磁性体(強磁性材料)である。
【0015】
そして、この発明の測定装置は、このような転がり軸受のうち、外輪11と、複数の円筒ころ13と、保持器14とを有したサブアッセンブリ(中間品)10における、円筒ころ13の移動量の測定を行うものである。なお、この移動量は、サブアッセンブリ10の軸線Cが水平である状態で、頂部にある円筒ころ13が、外輪11の外輪軌道面12に接触した状態から、落下し、保持器14に移動量が制限されて保持された位置までの距離(落ち量)である。
【0016】
図1はこの発明の測定装置の実施の一形態を示す斜視図である。この図1において、測定装置は、軸線Cを水平としてサブアッセンブリ10を支持する支持部材5と、サブアッセンブリ10に対して揺動する揺動部材1と、この揺動部材1を上下方向に揺動自在として支持している受け部材6と、揺動部材1に設けられた接触子(当接部)2と、揺動部材1の揺動量を計測する計測器8とを備えている。また、この実施の形態(第1の実施形態)では、測定装置は、揺動部材1を付勢する付勢手段をさらに備えている。
【0017】
支持部材5の上面は、一対の傾斜面5a,5aを有したV字形となっており、サブアッセンブリ10を下から2点支持することができる。つまり、サブアッセンブリ10を支持部材5に載せるだけで、サブアッセンブリ10を支持することができる。また、支持部材5は、図示しない調整機構によって、上面の高さ位置を調整することができ、かつ、受け部材6(揺動部材1)との距離を調整することができるように構成してもよい。この調整機構は、様々な大きさのサブアッセンブリに対応させるためである。
【0018】
揺動部材1は、支持部材5に支持されたサブアッセンブリ10側に直線的に延びている本体部17と、この本体部17に直交する方向(左右方向)に直線的に延びた板形状である揺動支持部(揺動軸部)18とを有している。この揺動支持部18にはその下部において左右方向に長いナイフエッジ(刃先部)26が下に向けられて設けられている。つまり、このナイフエッジ26は下に向かって細くなっている。なお、ナイフエッジ26は、揺動支持部18の全長にわたって形成する必要はなく、受け部材6によって支持される左右両側部分に少なくとも設けられていればよい。
【0019】
揺動支持部18は本体部17の中央部で交差しており、さらに、揺動支持部18はその下縁部において本体部17に取り付けられている。そして、揺動支持部18は、その両端部において受け部材6に支持されている。この構成により、揺動支持部18のナイフエッジ26の先端と受け部材6との接触線が、揺動部材1(本体部17)の揺動軸線C1となり、この水平な揺動軸線C1回りに、揺動部材1(本体部17)は上下方向に揺動自在に支持されることとなる。そして、本体部17の一端部17aに接触子2が、固定されている。
【0020】
図3はサブアッセンブリ10及び測定装置の一部を示している説明図である。図1と図3とにおいて、接触子2は、本体部17の一端部17aにおいて上方へ突出して設けられている。接触子2は、前記支持部材5上に載置したサブアッセンブリ10の頂部にある円筒ころ13の下面に、下から当接させることができる。図示している接触子2は上端部が球形である。なお、接触子2の形状は図示しないが円筒ころ13に先端が接触する針形状であってもよい。
【0021】
揺動部材1を上下揺動自在に支持している前記受け部材6は、揺動部材1を通過させる凹部6aが形成されている。また、受け部材6は、凹部6aが形成された鉛直壁状の本体部6bと、本体部6bの下にあるベース部6cとを有している。本体部6bは、その左右両側の上面にそれぞれ、前記ナイフエッジ26を支承する受け面27を有している。この受け面27は、ナイフエッジ26の先端を受ける鋭角の谷底頂部28を有したV形状の面である。つまり、本体部6bは対向して配置した一対のVブロック29を有している形状となる。
【0022】
計測器8は、揺動部材1(本体部17)が揺動することによる他端部17bの上下方向の変位を計測するものであり、図示している計測器8はダイヤルゲージである。ダイヤルゲージ8の測定子8aを本体部17の他端部17bに接触させ、揺動部材1の上下方向の揺動量を計測する。つまり、本体部17の他端部17bは計測対象部となる。ダイヤルゲージ8は、図外のスタンド部材によって保持されている。
【0023】
これによれば、サブアッセンブリ10の頂部にある円筒ころ13に接触子2を下から当接させた状態とし、円筒ころ13が外輪軌道面12に接触した状態から自重によって下がり接触子2を押し下げると、揺動部材1は図3において反時計回り方向に揺動する。この揺動部材1の揺動量を、前記ダイヤルゲージ8を用いて計測することにより、円筒ころ13が接触子2を押し下げた量、つまり、円筒ころ13の移動量(落ち量)を測定することができる。
【0024】
前記付勢手段は、揺動部材1を一方向に付勢して接触子2を介して円筒ころ13を上方へ押すものである。前記一方向は、当接子2が円筒ころ13を上方へ押す方向である。具体的には、付勢手段は揺動部材1に一端部が取り付けられた弾性部材7である。図1と図3とに示した弾性部材7は、揺動部材1の下側に設けられた圧縮コイルばねであり、図3において揺動部材1を時計回り方向(一方向)に揺動させようとするものである。なお、この弾性部材7の他端部は、受け部材6のベース部6cに取り付けることができる。そして、弾性部材7を起立姿勢に保つガイド部材(図示せず)が設けられている。また、この弾性部材7は、弾性力を大小調整することができる調整手段を有しているのが好ましい。
【0025】
この弾性部材7の付勢力を含む揺動部材1を一方向(図3において時計回り方向)に揺動させようとする力Fは、円筒ころ13が自重によって揺動部材1を他方向(図3において反時計回り方向)に揺動させる力Wよりも、小さく設定されている(F<W)。なお、前記力Fについてさらに説明すると、力Fは、弾性部材7による弾性力によるものの他に、前記ダイヤルゲージ8が内蔵しているばねによる弾性力と、揺動部材1の本体部17の自重による軸線C1を中心とした揺動力との一方又は双方を含む場合がある。一方、前記力Wは、円筒ころ13の自重による力である。なお、揺動部材1の揺動の際の抵抗は、前記ナイフエッジ26の採用していることにより極めて小さく、無視することができる。
【0026】
前記力F<力Wの関係によれば、力Wが力Fに抗することができるため、頂部にあった円筒ころ13は、外輪11の外輪軌道面12に接触していた状態から、その自重によって径方向内方へ(下へ)移動することができ、保持器14に保持された位置で止まる。そして、この移動した円筒ころ13が、保持器14のポケット部14aの下部で保持された状態では、弾性部材7の弾性力により、揺動部材1には一方向(図4の時計回り方向)へ回動しようとする力が生じているため、この円筒ころ13に接触子2が当接したままの状態が維持されるので揺動部材1は静止した状態となる。これにより、ダイヤルゲージ8によって、揺動部材1の揺動量を計測することができ、これに基づいて、円筒ころ13の移動量を測定することができる。
【0027】
また、前記弾性部材7を、揺動部材1の下側に設けた圧縮コイルばねとして説明したが、弾性部材7は、複数のばねから構成してもよい。例えば、揺動部材1の下側のばねの他に、図3と図4との破線で示しているように、揺動部材1の上側においてもばねを設けてもよい。この場合、上側のばねを引張コイルばねとすればよく、弾性部材7による弾性力は、複数のばねの弾性力の和となる。
【0028】
この発明の測定装置の変形例(第2の実施形態)を説明する。前記第1の実施形態に対して、第2の実施形態の測定装置の相違している点は、円筒ころ13を磁性体としている点、前記弾性部材7を除いている点、及び、接触子2が磁気吸着可能な構成である点(磁石を有している点)である。その他については同じ構成である。
【0029】
接触子2の磁石(図示せず)は、構造上(コンパクト化のために)永久磁石とするのが好ましいが、電磁石とすることもできる。永久磁石としてはフェライト磁石を適用することができる。また、接触子2の一部に磁石を有したものとしてもよく、接触子2の全体を磁石から構成してもよい。一部に磁石を有するものとした場合、接触子2の先端に磁石を設けてもよく、または磁石を接触子2内に埋め込んで設けてもよい。
【0030】
そして、接触子2は、前記支持部材5上に載置したサブアッセンブリ10の頂部にある円筒ころ13の下面に、下から当接させることができる。このように、接触子2は磁石を有しており、円筒ころ13は磁性体であるため、円筒ころ13と接触子2とが磁気吸着している状態とすることができる。これにより、頂部の円筒ころ13が保持器14に保持された状態で、揺動部材1は静止した状態となる。そして、第1の実施形態と同様に、ダイヤルゲージ8によって、揺動部材1の揺動量を計測することができ、これに基づいて、円筒ころ13の移動量を測定することができる。
【0031】
また、以上の各実施形態の測定装置によれば、揺動支持部18のナイフエッジ26が受け部材6の受け面27によって支承された状態で、揺動部材1は上下揺動自在となっていることから、揺動部材1の揺動支持部18と受け部材6の受け面27との間において、揺動部材1の揺動抵抗を極めて小さくできる。これにより、揺動部材1はスムーズに揺動することができ、ダイヤルゲージ8による揺動部材1の揺動量の計測を高い精度で行うことができる。また、受け面27は、ナイフエッジ26を受ける谷底頂部28を有したV形状の面であるため、揺動部材1が上下揺動する際に、ナイフエッジ26が前後にずれ動くことを防止できる。
【0032】
以上のように構成された測定装置による、円筒ころ13の移動量の測定方法について説明する。なお、第1の実施形態を具体例として説明する。
図1において、支持部材5により、サブアッセンブリ10をその軸線Cを水平として支持する。そして、このサブアッセンブリ10の頂部にある円筒ころ13の下面に接触子2を下から接触させた状態で、揺動部材1を強制的に時計回り方向(図3)に揺動させ円筒ころ13を押し上げると、この円筒ころ13を外輪11の外輪軌道面12に接触させることができる。この状態でダイヤルゲージ8のゼロ点を調整する。
【0033】
そして、この円筒ころ13の下面に、揺動部材1に設けた接触子2を下から当接させ、当該円筒ころ13を外輪軌道面12に接触させた状態(図3)から、円筒ころ13の自重によって、当該円筒ころ13を下に(径方向内方に)移動させて揺動部材1を押し下げるとともに、当該円筒ころ13を保持器14に保持させた保持状態とする(図4)。この保持状態では、前記弾性部材7の弾性力により揺動部材1には一方向(図4の時計回り方向)へ回動しようとする力が生じているため、円筒ころ13に接触子2が当接した状態が維持される。これにより揺動部材1は静止状態となる。
そして、前記外輪軌道面12に接触させた状態から前記保持状態となるまでの前記円筒ころ13の移動量に応じた前記揺動部材1の揺動量を、ダイヤルゲージ8の指針の値を読むことによって、計測する。
【0034】
すなわち、頂部の円筒ころ13を外輪軌道面12に接触させた状態から、この円筒ころ13を、その自重を利用して、径方向内方へ自由落下させると、前記保持器14は移動量を制限して円筒ころ13を保持する。この際、円筒ころ13が接触子2を介して揺動部材1を押し下げ、揺動部材1は転動体の移動量(落ち量)に応じて揺動する。そして、この揺動量を計測器8が計測することにより、円筒ころ13の移動量を測定することができる。前記のとおり、弾性部材7によって、接触子2が円筒ころ13を上に押す方向に揺動部材1を付勢しているため、円筒ころ13が保持器14に保持された状態で、この円筒ころ13に接触子2が当接した状態が維持されるので揺動部材1は静止できる。ダイヤルゲージ8による揺動部材1の揺動量の測定は、揺動部材1を最終的に静止した状態で行うため、正確に行うことができ、この揺動量に基づいて円筒ころ13の移動量を正確に測定することができる。
【0035】
また、前記のとおり揺動支持部18のナイフエッジ26及び受け部材6の受け面27により、揺動部材1の揺動抵抗(摩擦抵抗)は極めて小さい。したがって、円筒ころ13が例えば軽量であり、前記力Wが小さくても、揺動部材1の揺動抵抗は極めて小さいため、円筒ころ13は自重によって自由落下できる。
【0036】
また、特に円筒ころ13の重量が様々であっても、弾性部材7が、弾性力を大小調整することができる調整手段を有していれば、前記力F<力Wの関係を保たせる調整を行うことができる。または、このような調整手段を有していなくても、弾性部材7を弾性係数が異なるものと取り換えることにより、前記力F<力Wの関係を保たせる調整を行うことができる。
【0037】
なお、第2の実施形態による測定装置についても、図3と図4とを参考にして説明すると、円筒ころ13の下面に、揺動部材1に設けた接触子2を下から当接させ、当該円筒ころ13を外輪軌道面12に接触させた状態(図3)から、円筒ころ13の自重によって、当該円筒ころ13を径方向内方に移動させ揺動部材1を押し下げ、当該円筒ころ13を保持器14に保持させた保持状態とする(図4)。この保持状態では、接触子2の磁石21の磁力により、円筒ころ13に接触子2が当接した状態が維持される。これにより揺動部材1は静止状態となる。
そして、前記外輪軌道面12に接触させた状態から前記保持状態となるまでの円筒ころ13の移動量に応じた揺動部材1の揺動量を、ダイヤルゲージ8の指針の値を読むことによって、計測することができる。
【0038】
また、この発明によれば、サブアッセンブリ10をその軸線Cを水平として支持した状態で、最頂部にある円筒ころ13の移動量(落ち量)を測定している。したがって、この移動量は、円筒ころ13が移動し得る最大の移動量を測定していることとなる。また、この状態は、サブアッセンブリ10が装置の本体に嵌め込まれた状態で、これに対して内輪15を嵌め入れて組み立てる場合と同じ状態である。したがって、この測定装置によりサブアッセンブリ10における円筒ころ13の移動量を測定し、この移動量を管理することで、前記のとおり組み立てる際に、従来(図5)のように円筒ころ42と内輪44とが干渉することを、防止することができる。つまり、図2に示しているように、内輪15の外周面の縁部に形成したテーパ部15bに円筒ころ13を載せながら、内輪15を嵌め入れて簡単に組み立てることができる。
【0039】
また、この発明の測定装置は、図示する形態に限らずこの発明の範囲内において他の形態のものであっても良い。例えば、計測器をダイヤルゲージ8のような接触式のものとする以外に、非接触式のものとして例えばレーザ変位計(図示せず)としてもよい。また、支持部材5を別の大きさのものに取り換え可能とし、サブアッセンブリ10の大きさに応じて支持部材5を交換するようにしてもよい。
【0040】
また、この発明の測定装置において、サブアッセンブリ10をその軸線Cを水平として支持した状態で、最頂部にある円筒ころ13の鉛直方向の移動量(落ち量)が大きいために、揺動部材1の揺動量が大きくなり、ダイヤルゲージ8の指針の値(揺動量)と円筒ころ13の実際の移動量(落ち量)との差が大きくなってしまう場合には、予め、ダイヤルゲージ8の指針の値と円筒ころ13の実際の移動量(落ち量)とを換算する換算表を作成し、ダイヤルゲージ8の指針の値から、この換算表を利用して円筒ころ13の実際の移動量(落ち量)を換算することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】この発明の測定装置の実施の一形態を示す斜視図である。
【図2】測定対象である転がり軸受用のサブアッセンブリ及びこのサブアッセンブリに挿入される内輪を示す断面図である。
【図3】サブアッセンブリ及び測定装置の一部を示している説明図であり、円筒ころが軌道面に接触している状態である。
【図4】サブアッセンブリ及び測定装置の一部を示している説明図であり、円筒ころが下へ移動して保持器に保持されている状態である。
【図5】この発明の課題を説明するための転がり軸受の分解断面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 揺動部材
2 接触子
5 支持部材
8 計測器(ダイヤルゲージ)
10 サブアッセンブリ
11 外輪
11a 内周面
12 外輪軌道面
13 円筒ころ(転動体)
14 保持器
17 本体部
18 揺動支持部
26 ナイフエッジ
27 受け面
28 谷底頂部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と、この外輪の内周面にある軌道面を転動する複数の転動体と、これら転動体を径方向内方への移動量を制限して保持している保持器と、を有する転がり軸受用サブアッセンブリにおける、前記転動体の移動量の測定を行う測定装置であって、
軸線を水平として前記サブアッセンブリを支持する支持部材と、
前記サブアッセンブリ側に延びる本体部と、この本体部に直交する方向に延びるナイフエッジを下に向けて設けた揺動支持部と、を有した揺動部材と、
前記ナイフエッジを支承する受け面を有し前記揺動部材を上下揺動自在に支持している受け部材と、
前記本体部の端部に設けられ前記サブアッセンブリの頂部にある前記転動体に当接させる接触子と、
前記転動体が前記軌道面に接触した状態から前記接触子を押し下げることによって揺動した前記揺動部材の揺動量を計測する計測器と、
を備えたことを特徴とする転動体の移動量の測定装置。
【請求項2】
前記受け面は、前記ナイフエッジを支承する谷底頂部を有したV形状の面である請求項1に記載の転動体の移動量の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−232926(P2008−232926A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−74992(P2007−74992)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】