説明

軸受ユニットおよびピボット装置

【課題】大きな共振が起きるのを回避し、振動や音の発生を抑えること。
【解決手段】ベースハウジング7と、スイングアームと、ベースハウジング7に対してスイングアームを揺動自在に支持する転がり軸受ユニット1とを備え、転がり軸受ユニット1が、内輪12a,12bと外輪14a,14bとの間に複数個の転動体16を内蔵し、軸方向に所定の間隔をあけて配置される第1の転がり軸受10Aおよび第2の転がり軸受10Bと、内輪12a,12bに嵌合された状態で接着されるシャフト3と、外輪14a,14bを嵌合させた状態で接着される嵌合孔15を有するスリーブ5とを備え、シャフト3またはスリーブ5のいずれか一方がベースハウジング7に固定され、他方がスイングアームに取り付けられ、スイングアーム側に配置される第2の転がり軸受10Bの転動体16の数が第1の転がり軸受10Aの転動体16の数より多いピボット装置2を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピボット装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ピボット装置に用いられる軸受装置は、内側部材である円筒状の内筒と、この内筒の周囲に配置された外側部材である円筒状の外筒と、これら内筒と外筒とを相対的に回転自在に支持する一対の玉軸受とを備えている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の軸受装置によれば、上下の玉軸受の全ての転動体を同一角度若しくは略同一角度で配置することにより、軸受装置としてのラジアル剛性が任意回転位置で同一若しくは略同一となるようにすることとしている。
【特許文献1】特開2006−64079号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の軸受装置は、2つの同じ玉軸受を用いるため、回転時に発生する周波数が互いに等しい。そのため、特定の周波数において軸受装置の音や振動が大きくなるという不都合がある。また、転がり軸受の回転時の周波数がスイングアームの固有振動数と重なり、スイングアームが共振を起こす恐れがあるという不都合がある。この場合には、スイングアームを介した磁気ヘッドの振動が大きくなり、誤動作が生じてリードライトに支障をきたすという問題がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、大きな共振が起きるのを回避し、振動や音の発生を抑えることができるピボット装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、ベース部材に対してスイングアームを揺動自在に支持する軸受ユニットとであって、同軸上に配置された内輪と外輪との間の円環状空間に周方向に間隔をあけて複数個の転動体を内蔵し、軸方向に所定の間隔をあけて配置される2つの転がり軸受と、これら2つの転がり軸受の前記内輪に固定される第1の部材と、前記2つの転がり軸受の前記外輪を固定する嵌合孔を有する第2の部材とを備え、前記第1の部材または前記第2の部材のいずれか一方が前記ベース部材に固定され、他方が前記スイングアームに取り付けられ、前記スイングアーム側に配置される一方の転がり軸受の転動体の数が他方の転がり軸受の転動体の数より多い軸受ユニットを提供する。
【0007】
本発明によれば、軸受ユニットの第1の部材と第2の部材とが、両者の間に配置された2つの転がり軸受によって相対的に回動させられることにより、第1の部材または第2の部材のいずれか一方に取り付けられたスイングアームが、他方に固定されたベース部材に対して揺動させられる。
【0008】
この軸受ユニットの2つの転がり軸受は、転動体の数が異なるので、回転することによって発生する振動の周波数が互いに異なる。したがって、特定の周波数での共振の発生を回避することができ、振動や音の発生を抑えることができる。
【0009】
この場合に、転がり軸受の回転時の周波数は転動体の数と回転速度に比例して高くなるので、スイングアーム側に転動体の数が多い転がり軸受、すなわち、回転時の周波数が高い転がり軸受を配置することにより、スイングアームを高速動作させた場合における転がり軸受の回転時の周波数を、スイングアームの固有振動数に対して高域側に遠ざけることができる。したがって、スイングアームを共振させにくくすることができる。また、スイングアームから遠い側に配置された転がり軸受は、より低い周波数の振動を発生させるが、その振動はスイングアーム側の転がり軸受によって妨げられるので、スイングアームに伝達されにくい。
【0010】
上記発明においては、前記2つの転がり軸受の前記内輪に嵌合される第1の部材または第2の部材が、軸方向の前記ベース部材側の一端に全周にわたって半径方向外方に突出し前記他方の転がり軸受の前記内輪の端面を突き当てる鍔部を備えることとしてもよい。
【0011】
このような構成によれば、第1の部材の鍔部に内輪の端面が突き当てられた他方の転がり軸受に対して軸方向の反対側に配置された一方の転がり軸受の内輪を軸方向に押圧するだけで、2つの転がり軸受に予圧をかけることができる。この場合に、第1の部材の鍔部付近は外径が大きく剛性が高いので、第1の部材自身の変形による振動が少ない。したがって、鍔部側に転動体の数が少なく剛性が低い転がり軸受を配置することにより、転がり軸受ユニット全体の剛性のバランスを保つことができる。
【0012】
上記発明においては、前記2つの転がり軸受の前記転動体の数が互いに素であることとしてもよい。
【0013】
このような構成によれば、各転がり軸受の回転により発生する振動が合成されても、振幅を増大させずに済む。したがって、2つの転がり軸受が共振を起こすのを回避し易くすることができる。例えば、一方の転がり軸受の転動体の数と他方の転がり軸受の転動体の数との間に公約数がある場合のように、特定の周波数において2つの転がり軸受が共振するのを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、大きな共振が起きるのを回避し、振動や音の発生を抑えることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係る転がりピボット装置について、図面を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態に係るピボット装置2は、例えば、図1に示すように、ハードディスクドライブ装置100に用いられるものである。このピボット装置2は、略矩形箱状のベースハウジング7と、ベースハウジング7に対して揺動可能なスイングアーム9と、このスイングアーム9をベースハウジング7に対して揺動自在に支持する転がり軸受ユニット1とを備えている。符号11は磁気記録媒体を示し、符号13はスイングアーム9を揺動させるボイスコイルモータ等の駆動部を示している。
【0016】
スイングアーム9の先端には、磁気記録媒体11に磁気情報を書き込んだり記録されている磁気情報を読み取ったりする磁気ヘッド18が取り付けられている。スイングアーム9は、図示しない軸受嵌合孔に揺動の支点となる転がり軸受ユニット1が取り付けられており、駆動部13により転がり軸受ユニット1を支点として中心軸線C回りに揺動させられるようになっている。これにより、磁気記録媒体11上に磁気ヘッド18の位置決めを行うことができるようになっている。
【0017】
転がり軸受ユニット1は、図3に示すように、軸方向に所定の間隔をあけて配置される第1の転がり軸受(他方の転がり軸受)10Aおよび第2の転がり軸受(一方の転がり軸受)10B(以下、第1の転がり軸受10Aと第2の転がり軸受10Bとを合わせて「転がり軸受10A,10B」という。)と、これら転がり軸受10A,10Bに嵌合されるシャフト(第1の部材)3と、転がり軸受10A,10Bを嵌合させる嵌合孔15を有する円筒状のスリーブ(第2の部材)5とを備えている。
【0018】
転がり軸受10A,10Bは、中心軸線C回りにシャフト3とスリーブ5とを相対的に回転させるためのものである。この転がり軸受10A,10Bは、同軸上に配置された内輪12a,12bおよび外輪14a,14bと、これら内輪12a,12bと外輪14a,14bとの間の円環状空間に周方向に間隔をあけて内蔵される複数個の転動体16とを備えている。具体的には、図3に示すように、第1の転がり軸受10Aには11個の転動体16が内蔵され、また、図4に示すように、第2の転がり軸受10Bには13個の転動体16が内蔵されている。
【0019】
転がり軸受10A,10Bの内輪12a,12bの外周面には、深溝型若しくはアンギュラ型の内輪軌道が設けられ、また、外輪14a,14bの内周面には、深溝型若しくはアンギュラ型の外輪軌道が設けられている。
【0020】
シャフト3は、略円筒状部材であって、中心軸線Cに沿ってベースハウジング7に固定されるようになっている。このシャフト3の一端には、軸方向に突出する雄ねじ形成用の突起17と、全周にわたって半径方向外方に突出する鍔状のフランジ部19とが設けられており、この突起17がベースハウジング7に取り付けられるようになっている。なお、シャフト3の他端には、軸方向に延びるネジ孔21が設けられている。
【0021】
シャフト3には、フランジ部19側から順に第1の転がり軸受10Aおよび第2の転がり軸受10Bが嵌め込まれており、第1の転がり軸受10Aの内輪12aの端面がフランジ部19に突き当てられている。また、シャフト3の外周面と転がり軸受10A,10Bの内輪12a,12bとは接着剤により接着されている。
【0022】
シャフト3のフランジ部19付近は外径寸法が大きく剛性が高いので、シャフト3自身の変形による振動が少ない。したがって、第2の転がり軸受10Bに比べて転動体16の数が少なく剛性が低い第1の転がり軸受10Aがフランジ部19側に配置されることにより、転がり軸受ユニット1全体の剛性のバランスが保たれるようになっている。
【0023】
スリーブ5の嵌合孔15の内面には、軸方向の略中央に内側に向かって突出する凸部23が設けられている。嵌合孔15には、凸部23を挟んで軸方向の一方に第1の転がり軸受10A、他方に第2の転がり軸受10Bがそれぞれ嵌め込まれており、外輪14a,14bの互いに対向する端面が凸部23に突き当てられている。このスリーブ5は、第2の転がり軸受10B側の外周面がスイングアーム9の軸受嵌合孔に嵌合されるようになっている。
【0024】
また、嵌合孔15の内周面と転がり軸受10A,10Bの外輪14a,14bとは、内輪12a,12bが相互に近接する方向に押圧された状態で、それぞれ接着剤により接着されている。これにより、転がり軸受10A,10Bには予圧がかけられた状態となり、内輪12a,12bおよび外輪14a,14bと転動体16とが隙間なく接触させられている。
【0025】
以下、このように構成される本実施形態のピボット装置2の作用について説明する。
駆動部13の作動により、転がり軸受ユニット1を支点として、スイングアーム9が揺動させられる。具体的には、スイングアーム9の支点となる転がり軸受ユニット1において、転がり軸受10A,10Bの内外輪間に挟まれた転動体16が転動させられることにより、スイングアーム9の軸受嵌合孔に嵌合されているスリーブ5が、ベースハウジング7に固定されているシャフト3に対して相対的に回動させられる。
【0026】
これにより、ベースハウジング7に対してスイングアーム9が中心軸線C回りに揺動させられ、磁気ヘッド18が磁気記録媒体11上を往復移動させられる。スイングアーム9を高速動作させると、磁気記録媒体11の所定の位置に記録されたデータへ磁気ヘッド18が瞬時に移動させられる。そして、磁気ヘッド18により、磁気記録媒体11に記録されている磁気情報の読み取りや磁気情報の書き込みが行われる。
【0027】
この場合に、第1の転がり軸受10Aの転動体16の数と第2の転がり軸受10Bの転動体16の数がそれぞれ11個と13個というように互いに異なるので、転がり軸受10A,10Bが回転することによって発生する振動の周波数が互いに異なる。したがって、特定の周波数での共振の発生を回避することができ、振動や音の発生を抑えることができる。
【0028】
さらに、転がり軸受10A,10Bの転動体16の数が互いに素であるので、各転がり軸受10A,10Bの回転により発生する振動が合成されても、振幅を増大させずに済む。したがって、転がり軸受10A,10Bが共振を起こすのを回避し易くすることができる。例えば、転がり軸受10A,10B間で転動体16の数に公約数がある場合のように、特定の周波数において転がり軸受10A,10Bが共振するのを防ぐことができる。
【0029】
また、転がり軸受10A,10Bの回転時の周波数は、転動体16の数と回転速度に比例して高くなる。スイングアーム9側の第2の転がり軸受10Bは、転動体16の数が多いので、回転時の周波数が高く、スイングアーム9を高速動作させた場合に、第2の転がり軸受10Bの回転時の周波数をスイングアーム9の固有振動数に対して十分に高域側に遠ざけることができる。したがって、スイングアーム9を共振させにくくすることができる。
【0030】
また、スイングアーム9から離れた側に配置された第1の転がり軸受10Aの回転時の周波数は、第2の転がり軸受10Bより低くなるが、その振動はスイングアーム9側の第2の転がり軸受10Bによって妨げられ、スイングアーム9に伝達されにくくなる。
【0031】
なお、本実施形態においては、ハードディスクドライブ装置100に用いるピボット装置2を例示して説明したが、ベース部材に対してスイングアームを揺動させるものであればよく、ハードディスクドライブ装置に用いられるものに限定されるものではない。
また、第1の転がり軸受10Aの転動体16の数と第2の転がり軸受10Bの転動体16の数がそれぞれ11個と13個であるとして説明したが、第1の転がり軸受10Aの転動体16の数と第2の転がり軸受10Bの転動体16の数が相互に異なればよく、本実施形態で例示した数に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態に係るピボット装置周辺の概略を示す図である。
【図2】図1のピボット装置の転がり軸受ユニットの断面を示す図である。
【図3】図2の第1の転がり軸受を示す図である。
【図4】図2の第2の転がり軸受を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
1 転がり軸受ユニット
2 ピボット装置
3 シャフト(第1の部材)
5 スリーブ(第2の部材)
7 ベースハウジング(ベース部材)
9 スイングアーム
10A 第1の転がり軸受(他方の転がり軸受)
10B 第2の転がり軸受(一方の転がり軸受)
12a,12b 内輪
14a,14b 外輪
15 嵌合孔
16 転動体
19 フランジ部(鍔部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース部材に対してスイングアームを揺動自在に支持する軸受ユニットであって、同軸上に配置された内輪と外輪との間の円環状空間に周方向に間隔をあけて複数個の転動体を内蔵し、軸方向に所定の間隔をあけて配置される2つの転がり軸受と、これら2つの転がり軸受の前記内輪に固定される第1の部材と、前記2つの転がり軸受の前記外輪を固定する嵌合孔を有する第2の部材とを備え、
前記第1の部材または前記第2の部材のいずれか一方が前記ベース部材に固定され、他方が前記スイングアームに取り付けられ、前記スイングアーム側に配置される一方の転がり軸受の転動体の数が他方の転がり軸受の転動体の数より多い軸受ユニット。
【請求項2】
前記2つの転がり軸受の前記内輪に嵌合される第1の部材または第2の部材が、軸方向の前記ベース部材側の一端に全周にわたって半径方向外方に突出し前記他方の転がり軸受の前記内輪の端面を突き当てる鍔部を備える請求項1に記載の軸受ユニット。
【請求項3】
前記2つの転がり軸受の前記転動体の数が互いに素である請求項1または請求項2に記載の軸受ユニット。
【請求項4】
ベース部材と、スイングアームと、前記ベース部材に対して前記スイングアームを揺動自在に支持する請求項1から3の何れか一つに記載の軸受ユニットと、を備えたピボット装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−185917(P2009−185917A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−27248(P2008−27248)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(305018719)エスアイアイ・マイクロプレシジョン株式会社 (29)
【Fターム(参考)】