説明

軸受用密封装置

【課題】傾斜角度の発生に伴うシールリップ締め代の変化を緩和することで、シールの締め代増大を抑制し、密封性を低下させることなくシールのトルクを低減することを可能にする軸受用密封装置を提供する。
【解決手段】一方の軌道輪2に嵌合され、軸受内部を覆うように周方向に沿って連続して設けられた第1のシール本体20と、他方の軌道輪4に嵌合され、軸受内部を覆うように周方向に沿って連続して設けられた第1のスリンガ24と、第1のシール本体と第1のスリンガとの間に相対回転可能に介在され、軸受内部を覆うように周方向に沿って連続して設けられた中間シール構造とを備えており、中間シール構造は、第1のシール本体に成形されたシールリップ28a〜28cが摺接する第2のスリンガ22sと、第1のスリンガに摺接するシールリップ32a〜32cが成形された第2のシール本体22tとを一体化させて構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受内部を軸受外部から密封する軸受用密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動車や鉄道などの車両には、その車軸を回転自在に支持する軸受が用いられており(例えば、特許文献1参照)、当該軸受には、相対回転可能に対向配置された軌道輪間に区画された軸受内部(具体的には、軸受内部空間)を軸受外部から密封する種々の軸受用密封装置が設けられている。
【0003】
一例として図6(a)には、駆動輪用の軸受ユニットが示されており、当該軸受ユニットは、車体側構成品に固定されて常時非回転状態に維持される一方の軌道輪(例えば、静止輪(外輪)2)と、静止輪(外輪)2の内側に対向して配置され、かつ、車輪側構成品に接続されて車輪と共に回転する他方の軌道輪(例えば、回転輪(内輪)4)と、1本の回転軸Axを中心に相対回転する静止輪2と回転輪4との間に複列(例えば、2列)で転動自在に組み込まれた複数の転動体6,8とを備えている。なお、転動体6,8として、図面では「玉」を例示しているが、軸受ユニットの使用目的や使用環境に応じて「ころ」が適用される場合もある。
【0004】
静止輪(外輪)2は中空円筒状を成しており、回転輪(内輪)4の外周を覆うように配置されている。この場合、静止輪2と回転輪4との間には、軸受ユニットの軸受内部(即ち、静止輪2と回転輪4との間に区画された環状の軸受内部空間)を、その軸方向両側から密封するための軸受用密封装置(車輪側のリップシール10a、車体側のパックシール10b)が設けられている。なお、軸方向とは、回転軸Axに沿って平行を成す方向を指す。
【0005】
また、静止輪(外輪)2には、その外周側から外方に向って放射状に突出した固定フランジ2aが一体成形されている。この場合、固定フランジ2aの固定孔2bに固定用ボルト(図示しない)を挿入し、これを車体側構成品に締結することで、静止輪2を例えばナックル(図示しない)に固定することができる。
【0006】
一方、回転輪(内輪)4には、車輪側構成品を支持しつつ共に回転し、かつ、中空の円筒形状を成すハブ12が設けられており、ハブ12には、例えばディスクホイール(図示しない)が固定されるハブフランジ12aが突設されている。ハブフランジ12aは、静止輪(外輪)2を越えて外方(ハブ12の径方向外側)に向って放射状に延出しており、その延出縁付近には、周方向に沿って所定間隔で配置された複数のハブボルト14が設けられている。なお、径方向とは、回転軸Axに直交する方向を指す。
【0007】
ここで、複数のハブボルト14を例えばディスクホイールに形成された各ボルト孔(図示しない)に差し込んで、ハブナット(図示しない)で締付けることにより、当該ディスクホイールをハブフランジ12aに対して位置決めして固定することができる。なお、このとき、ハブ12の車輪側に突設されたパイロット部12dによって車輪側構成品の径方向の位置決めが成される。
【0008】
また、ハブ12には、その外周面4mにおいて、その車体側端部に嵌合面4nが構成されており、当該嵌合面4nに環状の回転輪構成体16(ハブ12と共に回転輪(内輪)4を構成する部材)を嵌合(圧入)させることができるようになっている。この場合、例えば、静止輪2と回転輪4との間に各転動体6,8を保持器18で保持した状態で、回転輪構成体16を嵌合面4nに形成された段部12bまで嵌合した後、ハブ12の車体側端部の加締め領域12cを塑性変形させて、当該加締め領域12cを回転輪構成体16の周端部16sに沿って加締める(密着させる)ことで、当該回転輪構成体16をハブ12に固定することができる。
【0009】
このとき、軸受ユニットには所定の予圧が付与された状態となり、この状態において、各転動体6,8は、互いに所定の接触角を成して静止輪2と回転輪4の各軌道溝(静止軌道溝2s、回転軌道溝4s)にそれぞれ接触して回転可能に組み込まれる。この場合、2つの接触点を結んだ作用線(図示しない)は、各軌道溝2s,4sに直交し、かつ、各転動体6,8の中心を通り、軸受ユニットの中心線上の1点(作用点)で交わる。これにより背面組合せ形(DB)軸受が構成される。
【0010】
このような軸受構成において、車両走行中に車輪に作用した力は、全てディスクホイールから軸受ユニットを通じてナックルに伝達されることになり、その際、軸受ユニットには、各種の荷重(ラジアル荷重、アキシアル荷重、モーメント荷重など)が作用する。しかし、軸受ユニットは、上述したような背面組合せ形(DB)軸受となっているため、各種の荷重に対して高い剛性が維持される。
【0011】
また、上記した軸受ユニットに設けられた軸受用密封装置において、リップシール10aは、静止輪(外輪)2の車輪側の固定面2n-1に固定され、回転輪4(ハブ12)の摺動面4n-1に対して摺動自在に位置決めされている。一方、パックシール10bは、静止輪(外輪)2の車体側の固定面2n-2と、他方の軌道輪4(回転輪構成体16)との間に摺動自在に位置決めされている。具体的には、回転輪構成体16には、静止輪(外輪)2の固定面2n-2に対向して嵌合面16mが形成されており、パックシール10bは、当該嵌合面16mと上記固定面2n-2との間に圧入されて嵌合された状態で位置決めされている。
【0012】
ここで、パックシール10bについて説明する。
図6(b)に示すように、パックシール10bは、一方の軌道輪(静止輪(外輪)2)の車体側の固定面2n-2に嵌合(圧入)され、軌道輪間(静止輪2と回転輪4との間)に区画された軸受内部(空間)を覆うように延出したシール本体20と、他方の軌道輪4(回転輪構成体16)の嵌合面16mに嵌合(圧入)され、軌道輪間(静止輪2と回転輪4との間)に区画された軸受内部(空間)を覆うように延出したスリンガ24とを備えて構成されている。
【0013】
ここで、シール本体20は、心金26の内周面(スリンガ24に対向する面)にシール材28を加硫して構成されており、シール材28には、複数(例えば、3つ)のシールリップ28a,28b,28cが一体成形されている。なお、心金26は、固定面2n-2に嵌合(圧入)される中空円筒状を成す中空円筒部26aと、中空円筒部26aから回転輪構成体16(嵌合面16m)に向けて折り返され、軸受内部(空間)を覆うように延出した中空円板状を成す環状折返部26bとを備えて構成されている。
【0014】
一方、スリンガ24は、シール本体20よりも軸受外部寄りに位置付けられ、軸受内部(空間)を覆うように径方向に延出した中空円板状を成すスリンガ壁部24aと、スリンガ壁部24aから軸受内部(空間)に向けて軸方向に延出し、他方の軌道輪4(回転輪構成体16)の嵌合面16mに嵌合(圧入)される中空円筒状を成すスリンガ基部24bとを備えている。なお、上記した3つのシールリップ28a,28b,28cにおいて、そのうちの1つのシールリップ28aはスリンガ壁部24aに摺接し、残りの2つのシールリップ28b,28cはスリンガ基部24bに摺接する。
【0015】
このようなパックシール10bによれば、軸受回転中(静止輪2と回転輪4とが相対回転する間)或いは、軸受非回転中において、上記した3つのシールリップ28a,28b,28cがスリンガ24に対して常に摺接状態となる。これにより、軸受内部(空間)を軸受外部から密封することができるため、軸受内部(空間)への異物(例えば、水、塵埃)の浸入防止、及び、軸受外部への潤滑剤の漏洩防止を図ることができる。なお、シール材28としては、例えばゴムやエラストマーなどの弾性材を適用することができると共に、当該シール材28を心金26の内周面に付加する方法としては、例えば焼き付けや加硫接着により付加すればよい。
【0016】
また、上記したパックシール10bは、回転輪構成体16の嵌合面16mと静止輪(外輪)2の固定面2n-2との間に嵌合(圧入)されるため、そのときの嵌合(圧入)力によっては、例えば、心金26(中空円筒部26a)と固定面2n-2との嵌合面同士が損傷してしまう虞がある。そうなると、損傷の程度によっては、軸受内部(空間)の密封状態が低下してしまう。
【0017】
そこで、密封対策として例えば図6(b)に示すように、心金26(中空円筒部26a)の車体側端部26c(環状折返部26bとは反対側の端部)に、シール材28でノーズカスケット30を形成する方法が知られている。ノーズカスケット30は、心金26の車体側端部26cを覆うようにシール材28を回し込んで形成されており、その一部を静止輪(外輪)2側に膨出させて構成されている。これにより、軸受内部(空間)に対する密封性の維持向上が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2010−105475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
ところで、上記した軸受ユニットをより大型の車両に適用する場合、回転軸Axを中心に相対回転する一方の軌道輪(例えば、静止輪(外輪)2)及び他方の軌道輪(例えば、回転輪(内輪)4)の径寸法を大型化させることになるが、その大型化の程度に従って、軸受外径(特に、静止輪(外輪)2の外径)が大きくなる。
【0020】
ここで、上記したような車両走行中に車輪に作用した力によって、軸受ユニットに対してモーメント荷重が作用した場合を想定すると、モーメント荷重の大きさの程度によっては、上記した軸受ユニットを構成する静止輪(外輪)2と回転輪(内輪)4とが、回転軸Axを中心として、相対的に傾斜する場合がある。
【0021】
この場合、静止輪(外輪)2と回転輪(内輪)4との間の相対的な傾斜角度は、車両の操縦性や走行安定性に影響するため、剛性の高い大きな軸受ユニットが使用される大型の車両でも、剛性の低い小さな軸受ユニットが使用される小型の車両でも、当該傾斜角度はほぼ同じである。
【0022】
しかし、同じ傾斜角度でも、大きな軸受ユニットに使用される大きな(大径)シールと小さな軸受ユニットに使用される小さな(小径)シールでは、傾斜に伴う締め代の変化が異なる。
【0023】
また、シール性能を確保するために、締め代変化が大きい大径シールには、大きな締め代を与えておく必要がるため、シールが摺接する半径が大きいことも相俟って、回転トルクが重くなってしまう。
【0024】
本発明は、このような問題を解決するためになされており、その目的は、傾斜角度の発生に伴うシールリップ締め代の変化を緩和することで、シールの締め代増大を抑制し、密封性を低下させることなくシールのトルクを低減することを可能にする軸受用密封装置を提供することにある。特に、大型車両用の軸受ユニットに使用される大きなシールに有効な技術である。
【課題を解決するための手段】
【0025】
このような目的を達成するために、本発明は、相対回転可能に対向配置される軌道輪間に設けられ、当該軌道輪間に区画された軸受内部を密封するための軸受用密封装置であって、一方の軌道輪に嵌合され、軸受内部を覆うように周方向に沿って連続して設けられた第1のシール本体と、他方の軌道輪に嵌合され、軸受内部を覆うように周方向に沿って連続して設けられた第1のスリンガと、第1のシール本体と第1のスリンガとの間に相対回転可能に介在され、軸受内部を覆うように周方向に沿って連続して設けられた中間シール構造とを備えており、中間シール構造は、第1のシール本体に成形されたシールリップが摺接する第2のスリンガと、第1のスリンガに摺接するシールリップが成形された第2のシール本体とを一体化させて構成されている。
本発明において、第1のシール本体と第2のスリンガとの間には、アキシアル方向とラジアル方向の少なくとも2方向に摺接する複数のシールリップが構成されており、第2のシール本体と第1のスリンガとの間には、アキシアル方向とラジアル方向の少なくとも2方向に摺接する複数のシールリップが構成されている。
本発明において、第1のスリンガは、第2のシール本体よりも軸受外部寄りに位置付けられ、軸受内部を覆うように延出した中空円板状を成す第1のスリンガ壁部と、第1のスリンガ壁部から軸受内部に向けて延出した中空円筒状を成す第1のスリンガ基部とを備えており、第2のスリンガは、第1のシール本体よりも軸受外部寄りに位置付けられ、軸受内部を覆うように延出した中空円板状を成す第2のスリンガ壁部と、第2のスリンガ壁部から軸受内部に向けて延出した中空円筒状を成す第2のスリンガ基部とを備えている。
本発明において、中間シール構造は、第1のシール本体と第2のスリンガとの間における複数のシールリップの摺接力と、第2のシール本体と第1のスリンガとの間における複数のシールリップの摺接力とが釣り合った位置で支持された状態に維持される。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、傾斜角度の発生に伴うシールリップ締め代の変化を緩和することで、シールの締め代増大を抑制し、密封性を低下させることなくシールのトルクを低減することを可能にする軸受用密封装置を実現することができる。特に、大型車両用の軸受ユニットに使用される大きなシールに有効な技術である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】(a)は、本発明の一実施形態に係る軸受用密封装置が適用された軸受ユニットの構成を一部拡大して示す断面図、(b)は、同図(a)に示された軸受用密封装置の構成を一部拡大して示す断面図。
【図2】(a)は、本発明の変形例に係る軸受用密封装置の構成を一部拡大して示す断面図、(b)は、本発明の変形例に係る軸受用密封装置の構成を一部拡大して示す断面図。
【図3】(a)は、本発明の変形例に係る軸受用密封装置の構成を一部拡大して示す断面図、(b)は、本発明の変形例に係る軸受用密封装置の構成を一部拡大して示す断面図。
【図4】(a)は、本発明の変形例に係る軸受用密封装置の構成を一部拡大して示す断面図、(b)は、本発明の変形例に係る軸受用密封装置の構成を一部拡大して示す断面図。
【図5】(a)は、本発明の変形例に係る軸受用密封装置の構成を一部拡大して示す断面図、(b)は、本発明の変形例に係る軸受用密封装置の構成を一部拡大して示す断面図。
【図6】(a)は、軸受用密封装置が適用された軸受ユニットの構成を示す断面図、(b)は、同図(a)に示された従来の軸受用密封装置の構成を一部拡大して示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の一実施形態に係る軸受用密封装置について、添付図面を参照して説明する。
図1(a),(b)に示すように、本実施形態の軸受用密封装置(具体的には、車体側のパックシール10b)は、一方の軌道輪(例えば、静止輪(外輪)2)に嵌合され、軸受内部を覆うように周方向に沿って連続して設けられた第1のシール本体20と、他方の軌道輪(例えば、回転輪(内輪)4)に嵌合され、軸受内部を覆うように周方向に沿って連続して設けられた第1のスリンガ24と、第1のシール本体20と第1のスリンガ24との間に相対回転可能に介在(介挿)され、軸受内部を覆うように周方向に沿って連続して設けられた中間シール構造とを備えている。
【0029】
ここで、第1のシール本体20は、第1の心金26の内周面(後述する第2のスリンガ22sに対向する面)に第1のシール材28を加硫して構成されており、第1のシール材28には、複数(例えば、3つ)の第1のシールリップ28a,28b,28cが一体成形されている。なお、第1の心金26は、静止輪(外輪)2の車体側の固定面2n-2に嵌合(圧入)される中空円筒状を成す第1の中空円筒部26aと、第1の中空円筒部26aから回転輪構成体16(嵌合面16m)に向けて折り返され、軸受内部(空間)を覆うように延出した中空円板状を成す第1の環状折返部26bとを備えている。
【0030】
一方、第1のスリンガ24は、後述する第2のシール本体22tよりも軸受外部寄りに位置付けられ、軸受内部(空間)を覆うように径方向に延出した中空円板状を成す第1のスリンガ壁部24aと、第1のスリンガ壁部24aから軸受内部(空間)に向けて軸方向に延出し、他方の軌道輪4(回転輪構成体16)の嵌合面16mに嵌合(圧入)される中空円筒状を成す第1のスリンガ基部24bとを備えている。
【0031】
そして、中間シール構造は、第1のシール本体20に一体成形された複数のシールリップ28a,28b,28cが摺接する第2のスリンガ22sと、第1のスリンガ24に摺接する複数のシールリップ32a,32b,32cが一体成形された第2のシール本体22tとを一体化させて構成されている。
【0032】
ここで、第2のシール本体22tは、第2の心金34の内周面(第1のスリンガ24に対向する面)に、第2のシール材32を加硫して構成されており、第2のシール材32には、複数(例えば、3つ)の第2のシールリップ32a,32b,32cが一体成形されている。なお、第2の心金34は、後述する第2のスリンガ22sの第2のスリンガ基部22bとして兼用される中空円筒状を成す第2の中空円筒部34aと、第2の中空円筒部34aから回転輪構成体16(嵌合面16m)に向けて折り返され、軸受内部(空間)を覆うように延出した中空円板状を成す第2の環状折返部34bとを備えている。
【0033】
一方、第2のスリンガ22sは、第1のシール本体20よりも軸受外部寄りに位置付けられ、軸受内部(空間)を覆うように径方向に延出した中空円板状を成す第2のスリンガ壁部22aと、第2のスリンガ壁部22aから軸受内部(空間)に向けて軸方向に延出した中空円筒状を成す第2のスリンガ基部22b(上記した第2の心金34の第2の中空円筒部34aと兼用)とを備えている。
【0034】
なお、上記した第1及び第2のシール材28,32としては、例えばゴムやエラストマーなどの弾性材を適用することができると共に、当該シール材28,32を第1及び第2の心金26,34の内周面に付加する方法としては、例えば焼き付けや加硫接着により付加すればよい。
【0035】
この場合、第1のシール本体20に一体成形された複数(例えば、3つ)の第1のシールリップ28a,28b,28cは、第2のスリンガ22sに対して、アキシアル方向とラジアル方向の少なくとも2方向に摺接するように構成させることが好ましい。図面では一例として、3つの第1のシールリップ28a,28b,28cのうち、1つのシールリップ28aを第2のスリンガ壁部22aに対してアキシアル方向に摺接させ、残りの2つのシールリップ28b,28cを第2のスリンガ基部22bに対してラジアル方向に摺接させている。
【0036】
また、第2のシール本体22tに一体成形された複数(例えば、3つ)の第2のシールリップ32a,32b,32cは、第1のスリンガ24に対して、アキシアル方向とラジアル方向の少なくとも2方向に摺接するように構成させることが好ましい。図面では一例として、3つの第2のシールリップ32a,32b,32cのうち、1つのシールリップ32aを第1のスリンガ壁部24aに対してアキシアル方向に摺接させ、残りの2つのシールリップ32b,32cを第1のスリンガ基部24bに対してラジアル方向に摺接させている。
【0037】
このように、第1のシール本体20と第2のスリンガ22sとの間に、アキシアル方向とラジアル方向の少なくとも2方向に摺接する複数のシールリップ28a,28b,28cを構成すると共に、第2のシール本体22tと第1のスリンガ24との間に、アキシアル方向とラジアル方向の少なくとも2方向に摺接する複数のシールリップ32a,32b,32cを構成することで、中間シール構造は、第2のスリンガ22sに対する第1のシール本体20の各シールリップ28a,28b,28cの摺接力と、第1のスリンガ24に対する第2のシール本体22tの各シールリップ32a,32b,32cの摺接力とが釣り合った位置で支持された状態に維持される。
【0038】
なお、アキシアル方向とは、軸方向に沿った方向(即ち、回転軸Ax(図6(b)参照)に沿って平行を成す方向)を指し、これに対して、ラジアル方向とは、径方向に沿った方向(即ち、回転軸Ax(図6(b)参照)に直交する方向)を指す。
【0039】
以上、本実施形態によれば、軸受回転中(静止輪2と回転輪4とが相対回転する間)或いは、軸受非回転中において、第1のシールリップ28a,28b,28cが第2のスリンガ22sに対して常に摺接状態となると共に、第2のシールリップ32a,32b,32cが第1のスリンガ24に対して常に摺接状態となる。これにより、軸受内部(空間)への異物(例えば、水、塵埃)の浸入防止、及び、軸受外部への潤滑剤の漏洩防止を図ることを可能にする密封性に優れた軸受用密封装置(パックシール10b)を実現することができる。
【0040】
この場合、第1のシール本体20において、その第1の心金26(第1の中空円筒部26a)には、第1のシール材28によってノーズカスケット30を形成することが好ましい。これにより、第1の心金26(第1の中空円筒部26a)と静止輪(外輪)2の固定面2n-2との間の密封状態を向上させることができるため、軸受内部(空間)に対する密封性の維持向上を図ることができる。
【0041】
また、本実施形態によれば、第1のシール本体20と第2のスリンガ22sとの間で、複数の第1のシールリップ28a,28b,28cをアキシアル方向とラジアル方向の少なくとも2方向に摺接させると共に、第2のシール本体22tと第1のスリンガ24との間で、複数の第2のシールリップ32a,32b,32cをアキシアル方向とラジアル方向の少なくとも2方向に摺接させるようにしたことで、中間シール構造を、第1のシールリップ28a,28b,28cの摺接力と、第2のシールリップ32a,32b,32cの摺接力とが釣り合った位置で、これら双方の摺接力だけで支持された状態に維持させることができる。
【0042】
これによれば、軸受ユニットに対してモーメント荷重が作用した際、静止輪(外輪)2と回転輪(内輪)4とが回転軸Axを中心に相対的に傾斜し、これ伴って、外内輪2,4に対する軸受用密封装置(パックシール10b)の締め代が変化し、上記した双方の摺接力の釣り合い状態(バランス)が崩れた場合、その崩れたバランス量分だけ第1及び第2のシールリップ28a〜28c,32a〜32cが相対的に弾性変形することで、上記した摺接力相互において、新たな釣り合い状態(バランス)が構成される。
【0043】
このとき、中間シール構造は、新たな釣り合い状態(バランス)がとれる位置まで変位(移動)し、再び、第1のシール本体20と第2のスリンガ22sとの間における複数の第1のシールリップ28a,28b,28cの摺接力と、第2のシール本体22tと第1のスリンガ24との間における複数の第2のシールリップ32a,32b,32cの摺接力とが釣り合った位置で支持された状態に維持される。
【0044】
これによれば、外内輪2,4の相対的な傾斜に伴う軸受用密封装置(パックシール10b)の締め代の変化値(量)を、既存のシールに比して、大幅に低減(具体的には、略半分に低減)させることができるため、当該軸受用密封装置(パックシール10b)の設計を容易に行うことができる。
【0045】
また、本実施形態によれば、中間シール構造を、第1のシール本体20と第1のスリンガ24との間に相対回転可能に介在(介挿)させたことで、既存のシール構造と同程度の低トルク化を図ることができる。具体的に説明すると、外内輪2,4が相対回転し、回転輪(内輪)4と共に第1のスリンガ24が回転したとき、当該第1のスリンガ24と共に第2のスリンガ22sが回転する場合と、回転しない場合とが想定される。
【0046】
ここで、第1のスリンガ24と共に第2のスリンガ22sが回転する場合、第1のシール本体20と第2のスリンガ22sとの間における複数の第1のシールリップ28a,28b,28cが摺動し、第2のシール本体22tと第1のスリンガ24との間における複数の第2のシールリップ32a,32b,32cは摺動しない。この場合、第1のシールリップ28a,28b,28cの摩耗が進行する。
【0047】
これに対して、第1のスリンガ24と共に第2のスリンガ22sが回転しない場合、即ち、第1のスリンガ24のみ回転する場合、第2のシール本体22tと第1のスリンガ24との間における複数の第2のシールリップ32a,32b,32cが摺動し、第1のシール本体20と第2のスリンガ22sとの間における複数の第1のシールリップ28a,28b,28cは摺動しない。この場合、第2のシールリップ32a,32b,32cの摩耗が進行する。
【0048】
これは、中間シール構造を、上記した双方の摺接力が釣り合ったバランス位置で回転可能に支持する構成としたことで得られる効果であり、外内輪2,4が相対回転する際、第1のシールリップ28a,28b,28c又は第2のシールリップ32a,32b,32cのいずれか一方のみが摩耗する回転状態にすることができる。これにより、既存のシール構造に比してシールリップの数を増加しても、回転トルクを既存のシール構造と同程度に抑えることができる。
【0049】
更に、中間シール構造を、上記した双方の摺接力が釣り合ったバランス位置で回転可能に支持する構成としたことで、外内輪2,4が相対回転する際、第1のシールリップ28a,28b,28cが摺動する回転状態と、第2のシールリップ32a,32b,32cが摺動する回転状態とが同時に生じない仕様とすることができる。これにより、既存のシール構造に比してシールリップの摩耗の程度を大幅に少なくすることができる。
【0050】
この場合、第1のシールリップ28a,28b,28c及び/又は第2のシールリップ32a,32b,32cの摩耗が進行すると、その進行の程度に応じて、第1及び第2のシールリップ28a〜28c,32a〜32cが相対的に弾性変形することで、上記した摺接力相互において、新たな釣り合い状態(バランス)が構成される。
【0051】
このとき、中間シール構造は、新たな釣り合い状態(バランス)がとれる位置まで変位(移動)し、再び、第1のシール本体20と第2のスリンガ22sとの間における複数の第1のシールリップ28a,28b,28cの摺接力と、第2のシール本体22tと第1のスリンガ24との間における複数の第2のシールリップ32a,32b,32cの摺接力とが釣り合った位置で支持された状態に維持される。
【0052】
これによれば、外内輪2,4の相対的な傾斜に伴う軸受用密封装置(パックシール10b)の締め代の変化値(量)を、第1のシールリップ28a,28b,28c及び/又は第2のシールリップ32a,32b,32cの摩耗量の略半分にすることができるため、当該軸受用密封装置(パックシール10b)の設計を容易に行うことができる。
【0053】
なお、本発明は、上記した実施形態に限定されることはなく、以下の各変形例も本発明の技術範囲に含まれ、上記した実施形態と同様の効果を実現することができる。
【0054】
例えば図2(a)に示すように、第1のシール本体20にシールリップ28bを成形し、これを第2のスリンガ22s(第2のスリンガ基部22b)に対してラジアル方向に摺接させると共に、第2のスリンガ22sに複数のシールリップ28a,28cを成形し、一方のシールリップ28aを第1のシール本体20(第1の中空円筒部26a)に対してラジアル方向に摺接させ、かつ、他方のシールリップ28cを第1のシール本体20(第1の環状折返部26b)に対してアキシアル方向に摺接させてもよい。
【0055】
これと共に、第2のシール本体22tにシールリップ32bを成形し、これを第1のスリンガ24(第1のスリンガ基部24b)に対してラジアル方向に摺接させると共に、第1のスリンガ24に複数のシールリップ32a,32cを成形し、一方のシールリップ32aを第2のシール本体22t(第2の中空円筒部34a)に対してラジアル方向に摺接させ、かつ、他方のシールリップ32cを第2のシール本体22t(第2の環状折返部34b)に対してアキシアル方向に摺接させてもよい。
【0056】
例えば図2(b)に示すように、第1のシール本体20に成形する複数の第1のシールリップ28a,28b,28cを、これら第1のシールリップ28a,28b,28cが反転しない形状に構成してもよい。かかる構成によれば、当該軸受用密封装置(パックシール10b)を車輪側の軸受用密封装置として転用することができる。なお、その他の構成は、図1(b)に示された軸受用密封装置と同様であるため、その説明は省略する。
【0057】
例えば図3(a)に示すように、第1のシール本体20にシールリップ28bを成形し、これを第2のスリンガ22s(第2のスリンガ基部22b)に対してラジアル方向に摺接させると共に、第2のスリンガ22sに複数のシールリップ28a,28cを成形し、一方のシールリップ28aを第1のシール本体20(第1の中空円筒部26a)に対してラジアル方向に摺接させ、かつ、他方のシールリップ28cを第1のシール本体20(第1の環状折返部26b)に対してアキシアル方向に摺接させてもよい。なお、その他の構成は、図1(b)に示された軸受用密封装置と同様であるため、その説明は省略する。
【0058】
例えば図3(b)に示すように、第2のシール本体22tにシールリップ32bを成形し、これを第1のスリンガ24(第1のスリンガ基部24b)に対してラジアル方向に摺接させると共に、第1のスリンガ24に複数のシールリップ32a,32cを成形し、一方のシールリップ32aを第2のシール本体22t(第2の中空円筒部34a)に対してラジアル方向に摺接させ、かつ、他方のシールリップ32cを第2のシール本体22t(第2の環状折返部34b)に対してアキシアル方向に摺接させてもよい。なお、その他の構成は、図1(b)に示された軸受用密封装置と同様であるため、その説明は省略する。
【0059】
例えば図4(a)に示すように、中間シール構造において、第2のシール本体22t(心金34)の第2の環状折返部34bと、第2のスリンガ22sの第2のスリンガ壁部22aとを互いに兼用させるように構成してもよい。これにより、第2の環状折返部34bと第2のスリンガ壁部22aとを互いに兼用させた分だけ、軸受用密封装置の径方向へのコンパクト化を図ることができるため、その結果、当該軸受用密封装置が適用される軸受ユニットの径方向の小型化を実現することができる。
【0060】
ここで、第2のシール本体22tと第1のスリンガ24との間に、グリースリップ32c(図1(b)参照)を構成することができない場合には、第1のシール本体20と第2のスリンガ22sとの間に構成されるグリースリップ28cを延長し、他方の軌道輪4(回転輪構成体16)の嵌合面16mに摺接させればよい。なお、その他の構成は、図1(b)に示された軸受用密封装置と同様であるため、その説明は省略する。
【0061】
例えば図4(b)に示すように、第1のシール本体20に成形する複数の第1のシールリップ28a,28b,28cを、これら第1のシールリップ28a,28b,28cが反転しない形状に構成してもよい。かかる構成によれば、当該軸受用密封装置(パックシール10b)を車輪側の軸受用密封装置として転用することができる。なお、その他の構成は、図1(b)に示された軸受用密封装置と同様であるため、その説明は省略する。
【0062】
例えば図5(a)に示すように、第1のシール本体20と第2のスリンガ22sとの間において、アキシアル方向とラジアル方向の2方向にバランスをとるために特化した2つの第1のシールリップ28a,28bのみを構成し、これにより、中間シール構造を、第2のシールリップ32a,32b,32cの摺接力との間で釣り合った位置で支持された状態に維持させるようにしてもよい。
【0063】
かかる構成によれば、軸受用密封装置の径方向へのコンパクト化を図ることができるため、その結果、当該軸受用密封装置が適用される軸受ユニットの径方向の小型化を実現することができる。なお、その他の構成は、図1(b)に示された軸受用密封装置と同様であるため、その説明は省略する。
【0064】
例えば図5(b)に示すように、第1のシール本体20に代えて、一方の軌道輪2(静止輪(外輪))に嵌合可能な嵌合部36を中間シール構造に一体的に構成してもよい。これにより、第1のシール本体20を無くした分だけ、軸受用密封装置の部品点数の削減と共に、径方向へのコンパクト化を図ることができる。この結果、当該軸受用密封装置が適用される軸受ユニットの低コスト化と共に、径方向への小型化を実現することができる。なお、その他の構成は、図1(b)に示された軸受用密封装置と同様であるため、その説明は省略する。
【0065】
なお、上記した実施形態及び各変形例では、第3世代の軸受ユニット(図6(a)参照)に適用する軸受用密封装置を想定したが、これに限定されることはなく、本発明の軸受用密封装置は、あらゆる種類の軸受ユニットに適用することが可能である。
【0066】
また、上記した実施形態及び各変形例は、本発明の一例であり、これに限定されることはなく、例えば、上記した実施形態及び各変形例を使用目的や使用環境に応じて相互に組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0067】
2 一方の軌道輪(静止輪(外輪))
4 他方の軌道輪(回転輪(内輪))
20 第1のシール本体
24 第1のスリンガ
22t 第2のシール本体
22s 第2のスリンガ
28a,28b,28c 第1のシール本体のシールリップ
32a,32b,32c 第2のシール本体のシールリップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対回転可能に対向配置される軌道輪間に設けられ、当該軌道輪間に区画された軸受内部を密封するための軸受用密封装置であって、
一方の軌道輪に嵌合され、軸受内部を覆うように周方向に沿って連続して設けられた第1のシール本体と、
他方の軌道輪に嵌合され、軸受内部を覆うように周方向に沿って連続して設けられた第1のスリンガと、
第1のシール本体と第1のスリンガとの間に相対回転可能に介在され、軸受内部を覆うように周方向に沿って連続して設けられた中間シール構造とを備えており、
中間シール構造は、第1のシール本体に成形されたシールリップが摺接する第2のスリンガと、第1のスリンガに摺接するシールリップが成形された第2のシール本体とを一体化させて構成されていることを特徴とする軸受用密封装置。
【請求項2】
第1のシール本体と第2のスリンガとの間には、アキシアル方向とラジアル方向の少なくとも2方向に摺接する複数のシールリップが構成されており、
第2のシール本体と第1のスリンガとの間には、アキシアル方向とラジアル方向の少なくとも2方向に摺接する複数のシールリップが構成されていることを特徴とする請求項1に記載の軸受用密封装置。
【請求項3】
第1のスリンガは、第2のシール本体よりも軸受外部寄りに位置付けられ、軸受内部を覆うように延出した中空円板状を成す第1のスリンガ壁部と、第1のスリンガ壁部から軸受内部に向けて延出した中空円筒状を成す第1のスリンガ基部とを備えており、
第2のスリンガは、第1のシール本体よりも軸受外部寄りに位置付けられ、軸受内部を覆うように延出した中空円板状を成す第2のスリンガ壁部と、第2のスリンガ壁部から軸受内部に向けて延出した中空円筒状を成す第2のスリンガ基部とを備えていることを特徴とする請求項2に記載の軸受用密封装置。
【請求項4】
中間シール構造は、第1のシール本体と第2のスリンガとの間における複数のシールリップの摺接力と、第2のシール本体と第1のスリンガとの間における複数のシールリップの摺接力とが釣り合った位置で支持された状態に維持されることを特徴とする請求項2又は3に記載の軸受用密封装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−72443(P2013−72443A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209656(P2011−209656)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】