説明

軸受試験装置および軸受試験方法

【課題】内輪が固定輪とされる転がり軸受の脆性剥離による軸受寿命の低下を的確で簡単に再現、評価できる軸受試験装置と軸受試験方法を提供することである。
【解決手段】内輪5a、外輪5bおよびボール5cが導電体で形成された試験軸受5の内輪5aが外嵌される固定軸4と、外輪5bが内嵌される筒部7aを一端に設けた回転軸7とを導電体で形成し、これらの導電体で形成された固定軸4と回転軸7との間に電圧を負荷して、固定軸4と回転軸7を介して試験軸受5に通電しながら、回転軸7に取り付けられたプーリ8aに張り渡された無端ベルト10により、試験軸受5に荷重を負荷してその外輪5bを回転させることにより、内輪5aが固定輪とされる試験軸受5の脆性剥離による軸受寿命の低下を的確で簡単に再現、評価できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受の耐久寿命を試験する軸受試験装置および軸受試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受の耐久寿命を試験する軸受試験装置としては、試験軸受の内輪を取り付ける回転軸と、試験軸受の外輪を固定するハウジングとを有し、回転軸を回転駆動する回転駆動手段と、試験軸受に荷重を負荷する荷重負荷手段とを設けたものが多く使用されている(例えば、特許文献1参照)。これらの軸受試験装置は、軸受の設計、開発、品質保証、トラブルの原因究明等に用いられている。
【0003】
一方、自動車用補機であるオルタネータ等を支持する転がり軸受では、上述したような軸受試験装置で十分な耐久寿命が保証されたものであっても、早期に固定輪側の軌道面に脆性剥離が発生するものがあることが知られている。この脆性剥離の発生は、軸受に封入するグリースの種類によっても左右されることが知られている。
【0004】
この脆性剥離の原因については種々の検討がなされているが、加減速を繰り返すサイクルで軸受試験後の軸受を水素分析した結果、固定輪で水素量が増加し、回転輪と転動体ではこのような水素量の増加が認められなかったことから、固定輪を形成する鋼の水素脆化によるものと推定されている(例えば、非特許文献1参照)。すなわち、転動体とのすべりによって軌道面に発生する新生面を触媒として、軸受に封入されたグリースが分解し、この分解で発生する水素が軌道面の鋼中に浸入して、水素脆化を引き起こすものと考えられている。
【0005】
【特許文献1】特開平3−128430号公報(第2図)
【非特許文献1】玉田、田中「外輪回転による脆性剥離の再現実験」(社)日本トライボロジー学会トライボロジー会議予稿集、1994年10月、p.749−752
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されたような従来の軸受試験装置では、評価される軸受の高性能化に伴い上述したような脆性剥離を短時間で再現できず、この水素脆化に起因すると考えられる脆性剥離による軸受寿命の低下を簡単に評価できない問題がある。このため、オルタネータ、テンションプーリ、アイドラプーリ、タイミングベルトプーリ、電磁クラッチ、コンプレッサ、ウォータポンプ等の自動車用補機に使用される軸受、クランクシャフト、カムシャフト等のエンジンに組み込まれる回転部材を支持する軸受、各種モータや工作機械の回転軸を支持する軸受等、このような脆性剥離が発生する恐れがある用途に使用される転がり軸受に対して、その設計、開発、品質保証等に有効に活用できる簡単な軸受試験装置が望まれている。
【0007】
本発明者の一人は、このような要望に対して、内外輪および転動体が導電体で形成された試験軸受の内輪を回転軸に取り付け、試験軸受の外輪をハウジングに固定して、試験軸受に荷重を負荷しながら内輪を回転させて、試験軸受の内輪と外輪との間に転動体を介して電流を流す軸受試験装置を先に提案している(特願2005−140025)。しかしながら、この軸受試験装置は内輪を回転させるので、プーリ等の回転部材を支持するもののように、外輪が回転する用途に使用され、固定輪となる内輪に上述した脆性剥離が生じる転がり軸受には、そのまま適用できない問題がある。
【0008】
そこで、本発明の課題は、内輪が固定輪とされる転がり軸受の脆性剥離による軸受寿命の低下を的確で簡単に再現、評価できる軸受試験装置と軸受試験方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の軸受試験装置は、内外輪および転動体が導電体で形成された試験軸受の内輪が外嵌される固定軸と、前記試験軸受の外輪が内嵌される筒部を一端に設けた回転軸と、この回転軸を回転駆動する回転駆動手段と、前記試験軸受に荷重を負荷する荷重負荷手段とを備え、前記固定軸と回転軸とを導電体で形成し、これらの導電体で形成された固定軸と回転軸との間に電圧を負荷する電源を設け、この電源から前記固定軸と回転軸を介して前記試験軸受に通電しながら、試験軸受に荷重を負荷してその外輪を回転させる構成を採用した。
【0010】
すなわち、内外輪および転動体が導電体で形成された試験軸受の内輪が外嵌される固定軸と、外輪が内嵌される筒部を一端に設けた回転軸とを導電体で形成し、これらの導電体で形成された固定軸と回転軸との間に電圧を負荷して、固定軸と回転軸を介して試験軸受に通電しながら、試験軸受に荷重を負荷してその外輪を回転させることにより、内輪が固定輪とされる転がり軸受の脆性剥離による軸受寿命の低下を的確で簡単に再現、評価できるようにした。
【0011】
前記回転軸を前記試験軸受と離れた支持点で、内輪を回転軸に外嵌して外輪を固定した支持軸受により支持し、この支持軸受の内外輪および転動体を導電体で形成して、前記電源の電圧をこの支持軸受の外輪と前記固定軸との間に負荷することにより、スリップリング等の回転体用接点を用いずに、試験軸受に安定して通電することができる。
【0012】
前記回転駆動手段を、前記回転軸およびこれと平行に配設したモータの出力軸にプーリを取り付け、これらのプーリ間に無端ベルトを張り渡して、前記回転軸をベルト駆動するものとし、前記荷重負荷手段を、前記無端ベルトの張力で前記回転軸を介して前記試験軸受に荷重を負荷するものとすることにより、別途の荷重負荷手段を不要とし、軸受試験装置をシンプルな構成とすることができる。
【0013】
前記回転軸に取り付けるプーリを、前記支持軸受による支持点に関して、前記試験軸受と反対側に配設し、この支持軸受による支持点を、前記回転軸の傾きを許容する支持構造とすることにより、試験軸受の着脱を容易にすることができる。また、支持軸受による支持点を調節することにより、試験軸受に負荷される荷重を変化させることもできる。
【0014】
前記荷重負荷手段によって前記試験軸受に負荷される動等価荷重Pと、試験軸受の基本動定格荷重Cとの比P/Cは、0.05以上とするのが好ましい。また、前記回転駆動手段を、加減速を繰り返す回転サイクルを付与できるものとすることにより、軸受の試験条件を実機での使用状態に近いものとすることができる。
【0015】
また、本発明の軸受試験方法は、内外輪および転動体が導電体で形成された試験軸受の内輪を固定軸に外嵌し、前記試験軸受の外輪を回転軸の一端に設けた筒部に内嵌して、前記固定軸と回転軸とを導電体で形成し、これらの導電体で形成された固定軸と回転軸との間に電圧を負荷して、固定軸と回転軸を介して前記試験軸受に通電しながら、試験軸受に荷重を負荷してその外輪を回転させる方法を採用することにより、内輪が固定輪とされる転がり軸受の脆性剥離による軸受寿命の低下を的確で簡単に再現、評価できるようにした。
【発明の効果】
【0016】
本発明の軸受試験装置は、内外輪および転動体が導電体で形成された試験軸受の内輪が外嵌される固定軸と、外輪が内嵌される筒部を一端に設けた回転軸とを導電体で形成し、これらの導電体で形成された固定軸と回転軸との間に電圧を負荷して、固定軸と回転軸を介して試験軸受に通電しながら、試験軸受に荷重を負荷してその外輪を回転させるようにしたので、内輪が固定輪とされる転がり軸受の脆性剥離による軸受寿命の低下を的確で簡単に再現、評価することができ、脆性剥離が発生する恐れがある用途に使用される転がり軸受の設計、開発、品質保証等に有効に活用することができる。
【0017】
前記回転軸を試験軸受と離れた支持点で、内輪を回転軸に外嵌して外輪を固定した支持軸受により支持し、この支持軸受の内外輪および転動体を導電体で形成して、電源の電圧をこの支持軸受の外輪と固定軸との間に負荷することにより、スリップリング等の回転体用接点を用いずに、試験軸受に安定して通電することができる。
【0018】
前記回転駆動手段を、回転軸およびこれと平行に配設したモータの出力軸にプーリを取り付け、これらのプーリ間に無端ベルトを張り渡して、前記回転軸をベルト駆動するものとし、荷重負荷手段を、無端ベルトの張力で回転軸を介して試験軸受に荷重を負荷するものとすることにより、別途の荷重負荷手段を不要とし、軸受試験装置をシンプルな構成とすることができる。
【0019】
前記回転軸に取り付けるプーリを、支持軸受による支持点に関して、試験軸受と反対側に配設し、この支持軸受による支持点を、回転軸の傾きを許容する支持構造とすることにより、試験軸受の着脱を容易にすることができる。また、支持軸受による支持点を調節することにより、試験軸受に負荷される荷重を変化させることもできる。
【0020】
また、本発明の軸受試験方法は、内外輪および転動体が導電体で形成された試験軸受の内輪を固定軸に外嵌し、試験軸受の外輪を回転軸の一端に設けた筒部に内嵌して、固定軸と回転軸とを導電体で形成し、これらの導電体で形成された固定軸と回転軸との間に電圧を負荷して、固定軸と回転軸を介して試験軸受に通電しながら、試験軸受に荷重を負荷してその外輪を回転させる方法を採用したので、内輪が固定輪とされる転がり軸受の脆性剥離による軸受寿命の低下を的確で簡単に再現、評価することができ、脆性剥離が発生する恐れがある用途に使用される転がり軸受の設計、開発、品質保証等に有効に活用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。この軸受試験装置は、図1に示すように、基台1に2つのフレーム2a、2bが絶縁体3を介して立設され、フレーム2aに取り付けられた固定軸4に、試験軸受5の内輪5aが固定輪として外嵌され、フレーム2bに取り付けられた支持軸受6に支持された回転軸7の一端に設けられた筒部7aに、試験軸受5の外輪5bが回転輪として内嵌されている。また、回転軸7には、支持軸受6による支持点に関して、試験軸受5と反対側でプーリ8aが取り付けられている。この実施形態では、試験軸受5は玉軸受とされ、その内輪5a、外輪5bおよび転動体としてのボール5cは、いずれも導電体で形成され、軸受内部にはグリースが封入されている。
【0022】
前記回転軸7に取り付けられたプーリ8aには、回転軸7と平行に配設したモータ9の出力軸9aに取り付けられたプーリ8bとの間に無端ベルト10が張り渡され、このベルト機構によって回転軸7が回転駆動される。また、支持軸受6は回転軸7の傾きを許容する調心輪付きのころ軸受とされ、無端ベルト10の張力によって、傾きを許容されている回転軸7から、試験軸受5にラジアル荷重が負荷されるようになっている。支持軸受6は、内輪6aが回転軸7に外嵌され、外輪6bが調心輪6cを介してフレーム2bに固定されており、内輪6a、外輪6b、調心輪6cおよび転動体としてのころ6dは、いずれも導電体で形成されている。なお、支持軸受6を調心機構のない転がり軸受とし、これを球面座等でフレーム2bに固定して、回転軸7の傾きを許容するようにしてもよい。
【0023】
前記各フレーム2a、2b、固定軸4および回転軸7は、いずれも導電体で形成され、フレーム2a、2bにそれぞれ電源(図示省略)のプラスとマイナスに接続される接点端子11a、11bが取り付けられており、これらの接点端子11a、11bを電源に接続することにより、フレーム2aに取り付けられた固定軸4から、試験軸受5の内輪5a、ボール5c、外輪5bを通って、回転軸7および支持軸受6を介してフレーム2bへ電流が流れる。したがって、試験軸受5に封入されたグリースから電気分解によって強制的に水素を発生させ、前述した水素脆化に起因すると考えられる脆性剥離を再現することができる。
【実施例】
【0024】
実施例として、上述した軸受試験装置を用いて、前記接点端子11a、11b間に通電し、前記ベルト機構により、図2に示すような加減速を繰り返す回転サイクルで回転軸7を回転駆動して、無端ベルト10の張力で試験軸受にラジアル荷重を負荷し、その外輪を回転させる軸受寿命試験を行った。比較例として、接点端子11a、11b間に通電しない同様の軸受寿命試験も行った。試験軸受のサンプル数は、実施例、比較例とも2個ずつとし、軸受寿命はモータ9の駆動トルクの変化で判定した。試験条件は以下の通りである。
・試験軸受:呼び番号6203の深溝玉軸受(外径40mm、内径17mm、幅12mm)
・グリース:ウレア系グリース(基油:合成炭化水素油)
・負荷荷重:150kgf(試験軸受1個当たりのラジアル荷重:P/C=0.15)
・通電条件:端子間電圧1〜5V、電流0.5A(実施例のみ)
・試験時間:300時間で打ち切り
【0025】
上記軸受寿命試験の結果、比較例ではいずれの試験軸受も軸受寿命が試験時間の300時間を超えたのに対して、実施例ではいずれの試験軸受も軸受寿命が約40時間であった。また、これらの実施例の試験軸受を試験後に分解して目視観察した結果、いずれも固定輪である内輪の軌道面に脆性剥離が発生していることが確認された。以上の試験結果より、本発明に係る軸受試験装置および軸受試験方法は、水素脆化に起因すると考えられる脆性剥離を再現でき、この脆性剥離による軸受寿命の低下を的確に評価できることが分かった。
【0026】
上述した実施形態では、試験軸受を深溝玉軸受とし、試験軸受にラジアル荷重を負荷したが、本発明に係る軸受試験装置および軸受試験方法は、ころ軸受等の他の転がり軸受を試験軸受とすることもでき、これらの試験軸受にはスラスト荷重も負荷することができる。
【0027】
また、上述した実施形態では、回転軸をベルト機構で回転駆動させたが、回転軸は歯車機構等の他の駆動力伝達機構で回転駆動させることもでき、モータと直結で回転駆動させることもできる。ただし、これらの場合は、別途に荷重負荷手段を設ける必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】軸受試験装置の実施形態を示す切欠き縦断正面図
【図2】図1の軸受試験装置を用いた軸受寿命試験における回転軸の回転サイクルを示すグラフ
【符号の説明】
【0029】
1 基台
2a、2b フレーム
3 絶縁体
4 固定軸
5 試験軸受
5a 内輪
5b 外輪
5c ボール
6 支持軸受
6a 内輪
6b 外輪
6c 調心輪
6d ころ
7 回転軸
7a 筒部
8a、8b プーリ
9 モータ
9a 出力軸
10 無端ベルト
11a、11b 接点端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内外輪および転動体が導電体で形成された試験軸受の内輪が外嵌される固定軸と、前記試験軸受の外輪が内嵌される筒部を一端に設けた回転軸と、この回転軸を回転駆動する回転駆動手段と、前記試験軸受に荷重を負荷する荷重負荷手段とを備え、前記固定軸と回転軸とを導電体で形成し、これらの導電体で形成された固定軸と回転軸との間に電圧を負荷する電源を設け、この電源から前記固定軸と回転軸を介して前記試験軸受に通電しながら、試験軸受に荷重を負荷してその外輪を回転させるようにした軸受試験装置。
【請求項2】
前記回転軸を前記試験軸受と離れた支持点で、内輪を回転軸に外嵌して外輪を固定した支持軸受により支持し、この支持軸受の内外輪および転動体を導電体で形成して、前記電源の電圧をこの支持軸受の外輪と前記固定軸との間に負荷するようにした請求項1に記載の軸受試験装置。
【請求項3】
前記回転駆動手段が、前記回転軸およびこれと平行に配設したモータの出力軸にプーリを取り付け、これらのプーリ間に無端ベルトを張り渡して、前記回転軸をベルト駆動するものであり、前記荷重負荷手段が、前記無端ベルトの張力で前記回転軸を介して前記試験軸受に荷重を負荷するものである請求項2に記載の軸受試験装置。
【請求項4】
前記回転軸に取り付けるプーリを、前記支持軸受による支持点に関して、前記試験軸受と反対側に配設し、この支持軸受による支持点を、前記回転軸の傾きを許容する支持構造とした請求項3に記載の軸受試験装置。
【請求項5】
内外輪および転動体が導電体で形成された試験軸受の内輪を固定軸に外嵌し、前記試験軸受の外輪を回転軸の一端に設けた筒部に内嵌して、前記固定軸と回転軸とを導電体で形成し、これらの導電体で形成された固定軸と回転軸との間に電圧を負荷して、固定軸と回転軸を介して前記試験軸受に通電しながら、試験軸受に荷重を負荷してその外輪を回転させるようにした軸受試験方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−178268(P2007−178268A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−377393(P2005−377393)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】