説明

軸受部の潤滑構造

【課題】内燃機関のクランクケースの壁部においてオイル面より上方に露出して固定される軸受を、簡素なオイル供給手段によって潤滑できる軸受部の潤滑構造を提供する。
【解決手段】壁部15ARを有するクランクケース10と、壁部に固定された軸受71Rと、軸受によって回転自在に支持される回転軸70と、軸受の外輪部71Rb側面に配置されて軸受けの脱落を抑制する軸受規制部材100を備えた内燃機関1の軸受部の潤滑構造において、軸受の軸中心よりも下方の外周71Raの外側に、外周に沿って壁部に隆起して形成されたオイル受け部110を設け、オイル受け部と軸受規制部材に亘りオイル貯留部115を設けたことを特徴とする軸受部の潤滑構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の軸受部の潤滑構造に関し、特に、簡素なオイル供給手段による軸受部の潤滑構造に関する。
【背景技術】
【0002】
クランクケースの変速機収納側の内壁に取り付けられることでブリーザを構成するブリーザプレートを利用して、その一部に、変速機のカウンタシャフトを支持するベアリングの脱落を防止するリテーナ部(軸受規制部)を形成した自動二輪車用内燃機関が、下記特許文献1に示されている。
【0003】
特許文献1に示される従来技術の内燃機関では、クランクケースの下部がオイル貯留室となっており、変速機の一部はオイルに浸ることにより潤滑されたり、歯車等によりオイルが撹拌されること等でクランクケース内が潤滑されたりしている。しかしながら、上記のカウンタシャフトおよびベアリングは、オイル面から上方に露出しているため、特にオイルが供給され難いベアリングへの給油手段が必要となるが、特別にオイル供給手段を設けるとなると、構造が複雑になり、部品点数が増加するおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許3060628号公報(図1〜図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術に鑑み、内燃機関のクランクケースの壁部においてオイル面より上方に露出して固定される軸受を、簡素なオイル供給手段によって潤滑できる軸受部の潤滑構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、壁部を有するクランクケースと、前記壁部に固定された軸受と、同軸受によって回転自在に支持される回転軸と、前記軸受の外輪部側面に配置されて同軸受の脱落を抑制する軸受規制部材とを備えた内燃機関の軸受部の潤滑構造において、前記軸受の軸中心よりも下方の外周の外側に、外周に沿って前記壁部に隆起して形成されたオイル受け部を設け、同オイル受け部と前記軸受規制部材に亘りオイル貯留部を設けたことを特徴とする軸受部の潤滑構造である。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の軸受部の潤滑構造において、前記軸受規制部材は、前記オイル受け部に取り付けられた状態で、同オイル受け部より前記軸受の軸中心に向けて延出して、少なくとも前記軸受の外周寄り側面に沿うように形成されたことを特徴とする
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の軸受部の潤滑構造において、前記オイル受け部は、前記軸受の外周に沿って延在して上方に向けて凹部をなす円弧状に形成されたことを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の軸受部の潤滑構造において、前記軸受は前記壁部に固定される外輪部を有し、前記軸受規制部材は、前記オイル受け部より前記軸受の軸中心に向けて延出する部分が、前記外輪部を越えて前記軸受の軸中心側に延出するように形成されたことを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の軸受部の潤滑構造において、前記軸受規制部材は、前記回転軸と隣り合う他の回転軸の軸受の軸受規制部材を兼ねることを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の軸受部の潤滑構造において、前記軸受規制部材は、前記壁部に支持された他の軸の軸端部まで延在して、同軸端部に当接するように形成されたことを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載の発明は、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の軸受部の潤滑構造において、前記軸受規制部材を前記オイル受け部に取り付ける締結手段のボス部が、前記壁部において前記オイル受け部と一体に成型されたことを特徴とする。
【0013】
請求項8に記載の発明は、請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の軸受部の潤滑構造において、前記回転軸の上方で前記軸受規制部材を前記壁部に取り付ける締結手段の他のボス部が、前記回転軸の軸受の軸中心の直上からずらして配置されたことを特徴とする。
【0014】
請求項9に記載の発明は、請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の軸受部の潤滑構造において、前記軸受規制部材は、前記回転軸より上方の部分と下方の部分の間の部分の、同回転軸を挟む一方の側が切欠かれて形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明の軸受部の潤滑構造によれば、軸受の脱落を抑制する軸受規制部材が軸受の外輪部の側面に備えられ、軸受の軸中心よりも下方の外周の外側に、外周に沿って壁部に隆起して形成されたオイル受け部が設けられて、オイル受け部と軸受規制部材に亘ってオイル貯留部が設けられているので、クランクケースの壁部を伝って流れ落ちる潤滑用のオイルを、オイル受け部と軸受規制部材とに亘るオイル貯留部に溜めることができ、それによって軸受の潤滑が可能となる。
したがって、特別なオイル供給手段を設けることなく、軸受の軸受規制部材を利用して、軸受を潤滑できる簡素なオイル供給手段を備えた軸受部の潤滑構造となる。
【0016】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明の効果に加え、軸受規制部材が、オイル受け部より軸受の軸中心に向けて延出し、軸受の外寄り側面に沿うように、オイル受け部に取り付けられているので、オイル貯留部の容量が増し、且つ、軸受へのオイル供給がより好ましく行われる。
【0017】
請求項3の発明によれば、請求項1または請求項2の発明の効果に加え、オイル受け部が、軸受の外周に沿って上方に向けて凹部をなす円弧状に形成されたので、オイル貯留部に溜めることができるオイル量が増大する。
【0018】
請求項4の発明によれば、請求項1ないし請求項3のいずれかの発明の効果に加え、軸受の外輪部より軸受の軸中心側に延出する軸受規制部材によって、オイルが積極的に軸受の摺動部へ供給される。
【0019】
請求項5の発明によれば、請求項1ないし請求項4のいずれかの発明の効果に加え、他の回転軸の軸受の軸受規制部材を個別に設けることなく兼用できて、部品点数の削減が可能となる。
【0020】
請求項6の発明によれば、請求項1ないし請求項5のいずれかの発明の効果に加え、他の軸の抜け止め手段を個別に設けることなく兼用できて、部品点数の削減が可能となる。
【0021】
請求項7の発明によれば、請求項1ないし請求項6のいずれかの発明の効果に加え、締結手段のボス部が一体化されることで、オイル受け部周りの剛性が向上する。
【0022】
請求項8の発明によれば、請求項1ないし請求項7のいずれかの発明の効果に加え、回転軸の上方の締結手段の他のボス部が軸受の軸中心の直上にある場合に生じるおそれのある、オイル受け部へのオイル流入に対する阻害が抑制され、安定した潤滑に資することができる。
【0023】
請求項9の発明によれば、請求項1ないし請求項8のいずれかの発明の効果に加え、軸受規制部材が回転軸の周りに環状に形成された場合は、オイルが環状部の周りを伝わって流下し、オイル受け部内に入り難くなるおそれがあるが、軸受規制部材の回転軸より上方の部分と下方の部分の間の部分の、回転軸を挟む一方の側が切欠かれて形成されたので、オイルが切欠き部からオイル受け部に流入し易くなり、安定した潤滑に資することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係るバランサ付き自動二輪車用の内燃機関の左側面断面図である。
【図2】図1中、II−II矢視によるバランサ付き内燃機関の断面展開図である。なお、図1は、本図中、I−I矢視断面図に相当する。
【図3】図2の、クランクケースに各軸が軸支される部分の、拡大図である。
【図4】図2中、IV−IV矢視によるバランサ付き内燃機関の右側面断面図である。なお、図2は、本図中、II−II矢視による断面展開図に相当する。
【図5】図2中に示されるクランク軸の左端側とバランサ駆動ギヤを取り出して示す軸方向断面図である。
【図6】図5中、VI−VI矢視図である。
【図7】図2中のバランサ軸とバランサ従動ギヤを取り出して示す軸方向断面図である。
【図8】図7中、VIII−VIII矢視図である。
【図9】図2中、IX−IX矢視により、上側クランクケースと、バランサ駆動ギヤおよびバランサ従動ギヤのみを取り出して示す左側面図である。なお、本図中、II−II矢視は、図2の展開割り線である。
【図10】図2中、X−X矢視により、上側クランクケースのみを取り出して示す右側面図であり、オイル受け部の位置を示す。なお、本図中、II−II矢視は、図2の展開割り線である。また、軸受規制部材の取り付け状態が太線二点鎖線で示される。
【図11】図10中に取り付け状態が太線二点鎖線で示される軸受規制部材の正面図である。
【図12】図10中、XII−XII矢視断面図に相当する、メイン軸とメイン軸右軸受周囲のオイル受け部と軸受規制部材の取り付け状態を、模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1から図12に基づき、本発明に係る一実施形態の内燃機関の軸受部の潤滑構造につき説明する。
なお、本明細書の説明および特許請求の範囲における前後左右上下等の向きは、本実施形態に係るバランサ付き内燃機関を自動二輪車等の小型車両に搭載した状態での車両の向きに従うものとする。
また、図中矢印FRは車両前方を、LHは車両左方を、RHは車両右方を、UPは車両上方を、それぞれ示す。
【0026】
図1から図12は、本発明の一実施形態に係るものであり、図1に、本実施形態のバランサ付き内燃機関(以下単に「内燃機関」という)1を、図示しない車両に搭載された状態の姿勢で示す。
本実施形態に係る内燃機関1は、そのクランク軸2を、搭載される車両である図示しない自動二輪車の車幅方向、すなわち左右方向に配向させて自動二輪車に搭載された、水冷直列2気筒の4ストロークサイクル内燃機関である。
【0027】
図1に示されるように、クランク軸2を車幅方向に配置して軸支するクランクケース10は、クランク軸2を中心に分割面10aで上下に分割される上下割りに構成され、上側クランクケース10Aの上には2つのシリンダボア11aを直列に配列して(図2参照)一体に成形されたシリンダブロック11と、シリンダブロック11に締結されるシリンダヘッド12が順に重ねられて幾らか前方に傾いて立設され、シリンダヘッド12の上にはシリンダヘッドカバー13が被せられ、締結されている。
一方、下側クランクケース10Bの下にはオイルパン14が取り付けられる。
【0028】
図2を参照して、上側クランクケース10Aと下側クランクケース10Bの各ジャーナル壁15A、15B(Aは上側、Bは下側を示す。以下同じ。ただし、図2には、図1に展開割り線II−IIが示すように、上側のジャーナル壁15Aのみが図示される。)が、クランク軸2のジャーナル部20を、主軸受(ジャーナル軸受)16を介して上下から挟むようにして支持して、クランク軸2を回転自在に軸支する。
直列2気筒の内燃機関1であるので、クランク軸2は3つのジャーナル部20を有し、上側クランクケース10Aと下側クランクケース10Bの上下それぞれ3つのジャーナル壁15A、15Bによりクランク軸2は回転自在に支持される。
【0029】
また、各3つのジャーナル壁15A、15Bのうち、左端側ジャーナル壁15AL、15BLと、右端側ジャーナル壁15AR、15BR(Aは上側、Bは下側を示す。以下同じ。なお、図2には、上記のように上側のみが図示される。)とは、クランク軸2より後方に延在して、クランクケース10の左右一対の壁部を構成し、クランク軸2のほか、クランク軸2より後方のクランクケース10内に配設される変速機5のメイン軸50、カウンタ軸52、およびバランサ機構7のバランサ軸70を、クランク軸2と平行に回転自在に軸支している。
【0030】
上側クランクケース10Aと下側クランクケース10Bは、互いの分割面10aを合せてボルトにより一体に締結される。
上側クランクケース10Aと下側クランクケース10Bの各3つのジャーナル壁15A、15Bのそれぞれにおいて、クランク軸2を挟持する3つのクランク軸支持孔2H(図3、図9参照)を形成する半円弧部を挟む前後に、それぞれスタッドボルト(本発明の「締結ボルト」)17(図1参照)が下方から真っ直ぐ上方へ、下側クランクケース10Bを貫通して上側クランクケース10Aの長尺の雌ねじ孔18(図9参照)に螺入して緊締している。
なお、上側クランクケース10Aと下側クランクケース10Bは、上記のスタッドボルト17だけでなく、所要箇所に複数のボルト19により締結される(図4参照)。
【0031】
上側クランクケース10Aに一体に形成されたシリンダブロック11の2つのシリンダのシリンダボア11aに、ピストン3が往復摺動可能に嵌合され、ピストン3はコンロッド30を介してクランク軸2のクランクピン部22に連結される。
【0032】
図1に示されるように、シリンダヘッド12には、シリンダボア11a毎に、ピストン3に対向して形成される燃焼室31と、燃焼室31に開口して1対の吸気弁32により開閉される吸気ポート33が後方へ延出し、1対の排気弁34により開閉される排気ポート35が前方に延出し、さらに燃焼室31に臨む点火プラグ36が装着される。
なお、吸気ポート33の上流側開口33aにはスロットルボディ37が連結されて、その上流に図示しない吸気管を介してエアクリーナが連結される。
排気ポート35の下流側開口35aには、図示しない排気管を介してマフラが連結される。
【0033】
各吸気弁32および各排気弁34は、シリンダヘッド12に回転可能に軸支される吸気カム軸38および排気カム軸39により、クランク軸2の回転に同期して開閉駆動される。
そのために、各カム軸38、39には、右端部にカムスプロケット38a、39aが嵌着され、クランク軸2の右端部近傍に嵌着される駆動スプロケット23と、カムスプロケット38a、39aとの間にカムチェーン40が掛け渡され(図2、図4参照)、クランク軸2の半分の回転速度で回転駆動される。
【0034】
図4に示されるように、シリンダブロック11とシリンダヘッド12の右端部には、カムチェーン40を配設するためのカムチェーン室11b、12bが形成されており(図2参照)、カムチェーン室11b、12bにおいてカムチェーンガイド41、42がカムチェーン40に沿って前後に設けられ、後側のカムチェーンガイド42は、油圧式のカムチェーンテンショナ43によって付勢されてカムチェーン40を押さえつけ適当なテンションを与えている。
カムチェーンテンショナ43は、シリンダブロック11の右端部の後面から後方へ突出したテンショナホルダ11cに取り付けられる。
【0035】
他方、図2に示されるように、クランクケース10の左側の壁部をなす左端側ジャーナル壁15AL、15BLから左方へ突出したクランク軸2の左端部には、交流発電機45のアウタロータ45aが嵌着される。
交流発電機45に左方から、発電機カバー46Lが被せられ、左端側ジャーナル壁15AL、15BLに取り付けられる。交流発電機45の発電コイルを備えたインナステータ45bが、発電機カバー46Lの内側に支持されてアウタロータ45a内に配置される。
【0036】
以下、図2におけるクランクケース10に各軸が軸支される部分の拡大図である図3を参照して、クランクケース10内のクランク軸2より後方には、変速機5が配設されている。
変速機5は、常時噛合い式のギヤ変速機であり、クランク軸2の後方で斜め上方位置に(図1参照)変速機5のメイン軸50が、上側クランクケース10Aにおいて、一対の壁部をなす左端側ジャーナル壁15ALと右端側ジャーナル壁15ARに、左軸受51L、右軸受51Rを介して回転自在に軸支される。
本実施形態において、左軸受51Lはニードルベアリング、右軸受51Rはボールベアリングである。
【0037】
また、クランク軸2の後方で上側クランクケース10Aと下側クランクケース10Bの分割面10aに挟まれて、カウンタ軸52が、一対の壁部をなす左端側ジャーナル壁15AL、15BLと右端側ジャーナル壁15AR、15BRに、左軸受53L、右軸受53Rを介して回転自在に軸支される。
本実施形態において、左軸受53Lはボールベアリング、右軸受53Rはニードルベアリングである。
【0038】
クランク軸2と平行なメイン軸50とカウンタ軸52に、それぞれ装着される変速ギヤ群50g、52gが、互いに対となるギヤ同士を噛合しており、軸にスプライン嵌合してシフタとなるギヤ5aの、変速操作機構による移動によってギヤ切換えがなされて、変速が行われる。
【0039】
すなわち、図3を参照して、上側クランクケース10Aにおいて、一対の壁部をなす左端側ジャーナル壁15ALと右端側ジャーナル壁15ARに回動自在に支持されたシフトスピンドル54が、運転者によって回動操作されると、一対の壁部15AL、15ARに回動自在に支持されたシフトドラム55が回動操作され、一対の壁部15AL、15ARに支持されたシフトフォーク支持軸56に左右摺動自在に支持されて一端側がシフトドラム55に係合するシフトフォーク57が左右動操作される。
シフトフォーク57はその他端側が、変速ギヤ群50g、52gにおいてシフタとなるギヤ5aと係合しており、シフトフォーク57によってシフタとなるギヤ5aの移動が行われて、以上のシフトスピンドル54、シフトドラム55、シフトフォーク57等によって構成される変速操作機構による変速がなされる。
【0040】
図2に示されるように、メイン軸50の右端部には多板式の摩擦クラッチ60が設けられ、摩擦クラッチ60のクラッチアウタ60aに共に回転するように支持されるプライマリドリブンギヤ61と、クランク軸2の右端に固定されたプライマリドライブギヤ24とが噛合して、1次減速機構が構成されている。
摩擦クラッチ60の出力側であるクラッチインナ60bは、メイン軸50にスプライン嵌合しており、よってクランク軸2の回転が1次減速機構24、61および摩擦クラッチ60を介してメイン軸50に伝達される。
【0041】
プライマリドライブギヤ24と摩擦クラッチ60の右側は、右クランクケースカバー47Rで覆われ、右クランクケースカバー47Rは、クランクケース10の右側の壁部である右端側ジャーナル壁15AR、15BRに取り付けられている。
【0042】
摩擦クラッチ60において、クランク軸2の回転動力は、クランク軸2側のプライマリドライブギヤ24、摩擦クラッチ60側のプライマリドリブンギヤ61を介して摩擦クラッチ60に伝達されるが、摩擦クラッチ60は、変速機5のギヤ切換え中にはクランク軸2の回転動力を変速機5に伝達せずにニュートラル状態とし、変速機5のギヤ切換えが終了するとともにクランク軸2の回転動力を変速機5に伝達するように構成されている。
【0043】
そして、メイン軸50の回転は、変速ギヤ群50g、52gの噛合いを介してカウンタ軸52に伝達される。
カウンタ軸52は、出力軸でもあり、クランクケース10を左方に貫通して外部に突出させた左端部に出力スプロケット62が嵌着され、図示しない後輪の被動スプロケットとの間に伝動チェーン63が掛け渡され2次減速機構が構成され、2次減速機構を介して動力が後輪に伝達される。
【0044】
図2に示されるように、クランク軸2の左端に固定された交流発電機45のアウタロータ45aには、始動用被動ギヤ64が一方向クラッチ65を介して軸支されている。
内燃機関1を始動するスタータモータ66(図1参照)は、図9に上側クランクケース10Aにおけるスタータモータ取付け孔66Hを示すように、クランクケース10の中央上面位置に取り付けられている。
【0045】
スタータモータ66の回転は、図9の上側クランクケース10Aに示される減速ギヤスピンドル取付け孔67Hに装着される図示しない始動用減速ギヤを介して減速されて、始動用被動ギヤ64に伝達され、始動用被動ギヤ64の回転が一方向クラッチ65、アウタロータ45aを介してクランク軸2に伝達されて、内燃機関1が始動される。
なお、図9に示されるように、上側クランクケース10Aの左側外面には減速ギヤスピンドル取付け孔67Hの周囲およびそれから上下前後に向かって放射状に設けられた補強リブ68が設けられている。
【0046】
なお、本実施形態の内燃機関1は水冷内燃機関であり、メイン軸50に回転自在に支持されプライマリドリブンギヤ61とともに回転するポンプ駆動スプロケット25(図2参照)によって、図1中に示されるポンプ軸26が、図示しない駆動チェーン、被動スプロケットを介して回転駆動される。
図1の図示切断面において図示奥側に図示しないオイルポンプが、図示手前側に図示しないウォータポンプが、設けられている。
【0047】
オイルポンプは、オイルパン14から潤滑用のオイルを、吸入導管27経由吸引して、オイルフィルタ28を介して機内の各所に給油する。
ウォータポンプは、図示しない各冷却水管路、ラジエータ、サーモスタット等の所定の機器を介して、シリンダブロック11、シリンダヘッド12内の水冷ジャケット29に冷却水を循環させて、内燃機関1の冷却を行う。
【0048】
また、図1から図3に示されるように、本実施形態の内燃機関1においては、上側クランクケース10Aに、クランク軸2の斜め上方に隣り合って平行に回転自在に支持されるバランサ軸70を備えたバランサ機構7が設けられている。
バランサ軸70は、クランク軸2の後方の一対の壁部をなす左端側ジャーナル壁15ALと右端側ジャーナル壁15ARに、左軸受71L、右軸受71Rを介して回転自在に軸支される。
本実施形態において、左軸受71Lと右軸受71Rは、ともにボールベアリングである。
また、側面視で、バランサ軸70は、クランク軸2とメイン軸50との間で、それらを結ぶ線より上方に配設されている。
【0049】
バランサ軸70には、一対の壁部をなす左端側ジャーナル壁15ALと右端側ジャーナル壁15ARとの間で、一方の壁部である左端側ジャーナル壁15ALの内面に対峙するようにバランサ従動ギヤ72が取り付けられており、また、軸方向においてクランク軸2の2箇所のクランクピン部22と一致する位置に、2気筒に即して180度位相をずらした計2個のバランスウエイト73を備えている。
【0050】
クランク軸2には、一対の壁部をなす左端側ジャーナル壁15AL、15BLと右端側ジャーナル壁15AR、15BRとの間で、一方の壁部である左端側ジャーナル壁15AL、15BLの内面に対峙するように、4つのクランクウエブ48のうちの左端側クランクウエブ48Lの左側面に隣接してバランサ駆動ギヤ74が嵌着されている。
なお、バランサ駆動ギヤ74のピッチ円74aの径D1は、バランサ従動ギヤ72のピッチ円72aの径D2と同一である。
【0051】
図5、図6に、クランク軸2の左端部側とバランサ駆動ギヤ74が示されるように、クランク軸2に嵌着されたバランサ駆動ギヤ74の左側面、すなわち左端側ジャーナル壁15AL、15BLの内面に対峙する側面のピッチ円74a寄りに、左側のクランクピン部22の軸中心22Laのクランク軸2の軸中心に対する偏位方向と同じ方向に向けた駆動ギヤ基準位置マーク77が設けられている。本実施形態では三角マークが印されているが、マークの形は適宜形状でよく、付け方は刻印、ポンチ、ケガキ等目視容易な適宜なものでよい。
【0052】
バランサ駆動ギヤ74の駆動ギヤ基準位置マーク77と同じ側の側面には、駆動ギヤ基準位置マーク77より運転時の回転方向Rで、所定のピッチ後方側の位置に並んだ2枚の歯の側面、すなわちバランサ駆動ギヤ74の側面のピッチ円74a寄りに、バランサ従動ギヤ72と所定の位相関係で噛み合う位置を示す駆動側噛み合いマーク78が印されている。マークの形は適宜形状でよく、付け方は刻印、ポンチ、ケガキ等目視容易な適宜なものでよい。
【0053】
一方、図7、図8に、バランサ軸70とバランサ従動ギヤ72が示されるように、バランサ軸70にキー70cで固定されたバランサ従動ギヤ72の左側面、すなわち左端側ジャーナル壁15ALの内面に対峙する側面のピッチ円72a寄りであって、バランスウエイト73の位置と所定の位相関係となるピッチの位置の1枚の歯の側面に、バランサ駆動ギヤ74と噛み合う位置を示す従動側噛み合いマーク79が印されている。マークの形は適宜形状でよく、付け方は刻印、ポンチ、ケガキ等目視容易な適宜なものでよい。
【0054】
バランサ駆動ギヤ74の並んだ2枚の歯の側面の駆動側噛み合いマーク78の間に、バランサ従動ギヤ72の1枚の歯の側面の従動側噛み合いマーク79が位置して噛み合わされたとき、両ギヤの同方向の側面に設けられる一組のマークからなる位置合わせマーク80が形成され、バランサ駆動ギヤ74とバランサ従動ギヤ72とが、所定の位相関係をなして組み合わされたものとなり、その結果、クランク軸2とバランサ軸70のバランサウエイト73とが、所定の位相関係をなすように構成される。
【0055】
なお、本実施形態のバランサ従動ギヤ72は、いわゆるセラシ機構を備えている。
すなわち、バランサ従動ギヤ72は、ギヤ軸方向にメインギヤ91およびサブギヤ92の2分割構造とされ、メインギヤ91とギヤ幅の狭いサブギヤ92とが、互いに軸方向に重ね合わされて、ともに他方のギヤであるバランサ駆動ギヤ74と噛み合わせられる。
メインギヤ91は、バランサ軸70にキー70cによって固定支持され、一方、サブギヤ92は、メインギヤ91のボス91a上へ遊転可能に嵌装されている。
メインギヤ91とサブギヤ92は、同径、同ピッチのギヤであり、共にバランサ駆動ギヤ74の同じ歯間に噛合うが、両ギヤの間には付勢部材93が介装され、両ギヤが互いに逆向き方向に回動付勢される。
【0056】
バランサ駆動ギヤ74がバランサ従動ギヤ72を回転駆動する時、バランサ従動ギヤ72のメインギヤ91のギヤ回転方向における歯の後面が、バランサ駆動ギヤ74の歯の前面側で押接される。
一方、メインギヤ91の歯の前面側にはバックラッシュが発生しようとするが、サブギヤ92は、付勢部材93によってメインギヤ91と逆方向に回動付勢されているので、メインギヤ91の歯の前面側の、バランサ駆動ギヤ74の前位の歯の後面側を、サブギヤ92の歯の前面が押接してバックラッシュを実質的に解消する。
【0057】
従って、バランサ従動ギヤ72は、バランサ駆動ギヤ74との噛み合い部において、ガタ無しに噛合うことができるので、バランサ従動ギヤ72に回転動力が伝達される際の、ギヤ鳴り等が発生することが防止されるものとなる。特に、クランク軸2等、振動成分を含む回転軸との回転動力伝達に際して効果的である。
なお、本実施形態においては、図2に示されるように、プライマリドライブギヤ24においてもセラシ機構が備えられている。プライマリドライブギヤ24は、バランサ従動ギヤ72とは逆に駆動側ギヤであるが、セラシ機構の機能は同様である。
【0058】
図9に、バランサ機構7が組み立てられた状態での、上側クランクケース10Aと、バランサ駆動ギヤ74とバランサ従動ギヤ72のみが、取り出されて示されている。
組み立てに際しては、バランサ駆動ギヤ74の並んだ2枚の歯の側面の駆動側噛み合いマーク78の間に、バランサ従動ギヤ72の1枚の歯の側面の従動側噛み合いマーク79が位置して噛み合わされた状態で、クランク軸2とバランサ軸70とが、上部クランクケース10Aに組み込まれる。
その状態で、クランク軸2とバランサ軸70とが所定の位相関係となることは上述したとおりである。
【0059】
上記の状態で、クランク軸2に取り付けられたバランス駆動ギヤ74に印された駆動ギヤ基準位置マーク77を、上側クランクケース10Aと下側クランクケース10Bとの分割面10aに位置させた時の、駆動側噛み合いマーク78と従動側噛み合いマーク79からなる一組の位置合わせマーク80の位置に合わせて、左端側ジャーナル壁15ALに貫通孔81が設けられている。
すなわち、その状態の位置合わせマーク80に対峙する左端側ジャーナル壁15ALにおける、バランサ駆動ギヤ74とバランサ従動ギヤ72のピッチ円74a、72a上の両方の側面に共に臨む位置に、左端側ジャーナル壁15ALを貫通する貫通孔81が設けられている。
【0060】
したがって、貫通孔81を通して、位置合わせマーク80を左端側ジャーナル壁15ALの外側正面から目視可能となる。
すなわち、クランクケース10の一対の壁部をなす左端側ジャーナル壁15ALと右端側ジャーナル壁15ARの間にバランサ駆動ギヤ74とバランサ従動ギヤ72が配置されていても、位置合わせマーク80と対峙する左端側ジャーナル壁15ALに、位置合わせマーク80を確認する貫通孔81が、バランサ駆動ギヤ74とバランサ従動ギヤ72のピッチ円74a、72a上の両方の側面に共に臨む位置に配置されているので、貫通孔81を通して正面からバランサ駆動ギヤ74とバランサ従動ギヤ72の両ギヤのタイミング(所定の位相関係)を合せるための位置合わせマーク80の合致を容易に確認できる。したがって、バランサ機構70の組付けが容易となり、組み立ての正確さ、コスト低減に資するものとなっている。
貫通孔81のその効果は、内燃機関のクランクケースの形態によらず有効である。
【0061】
なお、貫通孔81は、バランサ駆動ギヤ74とバランサ従動ギヤ72のピッチ円74a、72aの周方向に沿って長い長円に形成されているので、確認できる範囲が広いものとなり、位置合わせマーク80の合致の確認がより容易なものとなっている。
【0062】
また、バランサ駆動ギヤ74のピッチ円74aの径D1は、バランサ従動ギヤ72のピッチ円72aの径D2と同一であるので、貫通孔81の位置は、クランク軸2の軸中心とバランサ軸70の軸中心とから等距離に配置されており、貫通孔81が、左端側ジャーナル壁15AL、15BLに設けられたクランク軸左支持孔2HLとバランサ軸70のバランサ軸右支持孔70HLのいずれか側に偏ることが無く、クランクケース10の剛性が確保されたものとなっている。
【0063】
本実施形態のクランクケース10は、クランク軸2を中心に分割面10aで上下に分割される構造であり、バランサ軸70は、分割面10aから離れて上側クランクケース10Aに軸支されている。
したがって、クランク軸2とバランサ軸70との中間に位置する貫通孔81は、分割面10aから離れた閉じた孔とすることができ、分割面10aに貫通孔を設けた場合のような切欠き状とならないので、クランクケース10の剛性が確保されている。
【0064】
なお、本実施形態のクランクケース10は、左右に分割される構造ではないので、従来、バランサ駆動ギヤ74とバランサ従動ギヤ72の噛み合い部分をクランクケースの反対側から正面視して位置合わせマークの合致を確認することが困難になるおそれがあったが、本実施形態のように貫通孔81を設けたことにより、本実施形態の上下割り構造のクランクケース10において、バランサ駆動ギヤ74とバランサ従動ギヤ72の噛み合い部分を正面視して、位置合わせマーク80の合致を容易に確認することができるようになった。
【0065】
また、図9に示されるように、貫通孔81の外周は、リブ81aによって囲まれており、貫通孔81の周囲が補強され、クランクケース10の強度向上が図られているほか、貫通孔81の外周を囲むリブ81aが、その周囲で、左端側ジャーナル壁15ALの減速ギヤスピンドル取付け孔67Hの補強リブ68のうちの上下方向に延びる縦リブ68aに接続しており、貫通孔81周囲のリブ81aがさらに補強されている。
【0066】
なお、上側クランクケース10Aと下側クランクケース10Bを締結するスタッドボルト17の雌ネジ孔18が、図9に示されるように、左端側ジャーナル壁15ALのクランク軸左支持孔2HLの前後に分割面10aから上に向けて設けられ、後方の雌ネジ孔18の先端が、貫通孔81に貫通している。
そのため、雌ネジの加工時に、切り粉を容易に取り除けるので、加工が容易となるほか、スタッドボルト17の螺合緊締により雌ネジ孔18周辺に作用する応力集中を低減することができ、クランクケース10の強度向上が図られている。なお、その目的のため、前方の雌ネジ孔18の先端も別の貫通孔に貫通させている。
また、貫通孔81は、上側クランクケース10Aの鋳造時に、鋳抜きにより型成形されており、鋳抜き成形することで、機械加工が省けて加工工数が低減される。
【0067】
本実施形態の内燃機関1においては、バランサ軸70とメイン軸50はクランクケース10の分割面10aより上方で、上側クランクケース10Aに軸支されているので、分割面10aを利用した取り付けができない。
そこで、図3に示されるように、バランサ軸(本発明の「回転軸」)70は、右軸端部70bを、クランクケース10の一対の壁部のうちの右側の壁部となる右端側ジャーナル壁(本発明の「壁部」)15ARのバランサ軸右支持孔70HRに遊貫させた状態で、左側の壁部となる左端側ジャーナル壁15ALのバランサ軸左支持孔70HLに左軸端部70aを左軸受71Lを介して支持させた後、バランサ軸右支持孔70HRに右側から、右軸受(本発明の「軸受」)71Rをバランサ軸70の右軸端部70bを挿通させて嵌装することで、バランサ軸70の右軸端部70bを右端側ジャーナル壁15ARに支持させている。
【0068】
メイン軸(本発明の「他の回転軸」)50も同様に、右軸端部50bを、クランクケース10の一対の壁部のうちの右側の壁部となる右端側ジャーナル壁15ARのメイン軸右支持孔50HRに遊貫させた状態で、左側の壁部となる左端側ジャーナル壁15ALのメイン軸左支持孔50HLに左軸端部50aを左軸受51Lを介して支持させた後、メイン軸右支持孔50HRに右側から、右軸受(本発明の「他の回転軸の軸受」)51Rをメイン軸50の右軸端部50bを挿通させて嵌装することで、メイン軸50の右軸端部50bを右端側ジャーナル壁15ARに支持させている。
【0069】
すなわち、バランサ軸70も、メイン軸50も、右端側ジャーナル壁15ARのそれぞれの右支持孔70HR、50HRに、それぞれの右軸受71R、51Rが嵌入固定され、それぞれの右軸受71R、51Rに、それぞれの右軸端部70b、50bが回転自在に支持されている。
したがって、それぞれの右軸受71R、51Rは、右側の壁部である右端側ジャーナル壁15ARに右側から嵌入固定されてはいるが、内燃機関1の運転の振動等による万一の脱落を防止する必要があり、右端側ジャーナル壁15ARの右面に軸受規制部材100が取り付けられている。
【0070】
本実施形態において、軸受規制部材100は、図4に示されるように、取り付けられた状態で、バランサ軸70の右軸受71Rの外周寄り側面に沿って配置されるとともに、メイン軸50の右軸受51Rの外周寄り側面まで延出して配置される形状に形成され、バランサ軸70の軸受規制部材100がメイン軸50の軸受規制部材を兼ねるものとなっており、右端側ジャーナル壁15ARの右面にボルト101で締結されている(図10、図11も参照)。
そのため、メイン軸50の右軸受51Rの軸受規制部材を、個別に設けることなく兼用できて、部品点数の削減が可能となる。
【0071】
また、図3に示されるように、シフトフォーク支持軸(本発明の「他の軸」)56は、右端側ジャーナル壁15ARのシフトフォーク支持軸右支持孔56HRに右側から挿入されて貫通し、その左軸端部56aを左端側ジャーナル壁15ALのシフトフォーク支持軸左支持孔56HLに嵌入させて支持され、右軸端部(本発明の「他の軸の軸端部」)56bはシフトフォーク支持軸右支持孔56HRで、クランクケース10の右側の壁部である右端側ジャーナル壁15ARに支持される。
【0072】
したがって、シフトフォーク支持軸56は、万一の脱落を防止するために、その右軸端部56bを規制する抜け止め手段を設ける必要があるが、本実施形態では、図4に示されるように、軸受規制部材100が、取り付けられた状態で、シフトフォーク支持軸56の右軸端部56bまで延在して、その後端延出部100eが右軸端部56bに当接するように形成されている(図3、図10、図11も参照)。
そのため、シフトフォーク支持軸56の抜け止め手段を個別に設けることなく、軸受規制部材100で兼用できて、部品点数の削減が可能となる。
【0073】
本実施形態の内燃機関1のように、上下割りのクランクケース10として構成され、その下部にオイルパン14が設けられ、上側クランクケース10Aにバランサ軸70やメイン軸50が設けられたものでは、変速機5の軸受やギヤの一部をオイルに浸るようにして潤滑を行うことは困難であり、オイルポンプによる潤滑用のオイルの供給が行われる。
本実施形態においても変速機5のメイン軸50には、その左右軸受51L、51Rや変速ギヤ群50g等の潤滑のため、オイル給油手段としてオイルポンプからオイルが供給される油路50cが軸内に設けられている。
【0074】
しかし、本実施形態の内燃機関1においてバランサ軸70の軸受部には、クランクケース10の右側の壁部である右端側ジャーナル壁15ARにオイル受け部110を設けた、軸受部の潤滑構造が備えられている。
すなわち、図10に示されるように、バランサ軸右支持孔70HRに、二点鎖線で示すようにバランサ軸70の右軸受71Rが嵌入された状態で、右軸受71Rの軸中心よりも下方の外周71Raの外側の右端側ジャーナル壁15ARの右面に、外周71Raに沿って一定の高さに台状に隆起して形成されたオイル受け部110が備えられている。
また、前述のように、右軸受71Rの外輪部71Rbの側面には、右軸受71Rの脱落を抑制する軸受規制部材100が備えられている。
【0075】
オイル受け部110は、右軸受71Rの軸中心よりも下方の右端側ジャーナル壁15ARにおいて、外周71Raに沿って延在して、上方に向けて凹部をなす円弧状に形成されている。
また、右端側ジャーナル壁15ARの右面には、バランサ軸70の上方と下方、およびメイン軸50の前後に、上記順で、板状の軸受規制部材100の締結手段のボス部111A、111B、111C、111Dが形成されており、各ボス部に軸受規制部材100がその取付け孔102(図11参照)を挿通させたボルト101(図4参照)で締結されることで、オイル受け部110の右面上に固定されている。
【0076】
軸受規制部材100は、右軸受71Rの抜け止めの機能を備えるが、オイル受け部110に取り付けられた状態で、オイル受け部110と軸受規制部材100に亘ってオイル貯留部115(図11、図12参照)が形成されて、オイルを溜めることができ、右軸受71Rの潤滑が可能となる。
また、軸受規制部材100は、オイル受け部110よりバランサ軸70の右軸受71Rの軸中心に向けて延出して、右軸受71Rの外周71Ra寄り側面に沿うように形成されているので、オイル貯留部115の容量が増し、右軸受71Rへのオイル供給がより好ましく行われる。
【0077】
すなわち、図12にバランサ軸70の右軸端部70bにおける、右軸受71Rとオイル受け部110と軸受規制部材100の取り付け状態を模式的に示すと、締結されてオイル受け部110の右面上に固定された軸受規制部材100は、嵌入された軸受が緩んだ場合の抜け止め部材であるから、軸受規制部材100は右軸受71Rの外輪部71Rbを圧接するものではなく、外輪部71Rbの側面との間には、オイル受け部110の隆起にしたがって一定の間隙112が存在し、オイル貯留部115が形成される。
【0078】
そのため、クランクケース10と右クランクケースカバー47Rの間を飛散し、右端側ジャーナル壁15ARの表面に付着した潤滑用のオイルが壁面を伝って流れ落ちて、オイル受け部110上で、右軸受71Rの外周71Ra寄り側面と軸受規制部材100との間の間隙112、すなわちオイル貯留部115に溜まり、且つ、右軸受71Rに流入することで、バランサ軸70の軸受部の潤滑が可能となる。
【0079】
したがって、特別なオイル供給手段を設けることなく、軸受規制部材100を利用して、バランサ軸70の右軸受71Rを潤滑できる簡素なオイル供給手段を備えた軸受部の潤滑構造となる。
そして、オイル受け部110が、右軸受71Rの外周71Raに沿って上方に向けて凹部をなす円弧状に形成されているから、オイル貯留部115として溜めるオイル量を増大することができる。
【0080】
また、軸受規制部材100は、オイル受け部110より右軸受71Rの軸中心に向けて延出する部分が、右端側ジャーナル壁15ARに固定される右軸受71Rの外輪部71Rbを越えて右軸受71Rの軸中心側に延出する中心側延出部100dを有するように形成されている(図11、図12参照)。
したがって、右軸受71Rの外輪部71Rbより軸受の軸中心側に延出する中心側延出部100dによって、オイルが積極的に右軸受71Rのボール転動部71Rcの摺動箇所へ供給され、潤滑がより好ましく行われる。
【0081】
また、図10、図11に示されるように、バランサ軸70の上方で、軸受規制部材100を右端側ジャーナル壁15ARに取り付ける締結手段のボス部111Aは、バランサ軸70の右軸受71Rの軸中心の直上(図11中、A方向)からずらして配置されている。
バランサ軸70の上方のボス部111Aが、右軸受71Rの軸中心の直上Aにある場合には、オイル受け部110へのオイル流入が阻害されることが生じるおそれがあるが、本実施形態では、そのような不具合が抑制され、安定した潤滑が図られる。
【0082】
さらに、軸受規制部材100は、バランサ軸70の上方と下方とに延在し、後方側は上方の部分100aと下方の部分100bが繋がり、さらにメイン軸50の上方に延在しているが、バランサ軸70の前方側は、バランサ軸70より上方の部分100aと下方の部分100bの間の部分が、切欠かれた切欠き部100c(図11参照)を形成している。
軸受規制部材100がバランサ軸70の周りに環状に形成された場合は、オイルが環状部の周りを伝わって流下してしまい、オイル受け部110内に入り難くなるおそれがあるが、本実施形態では、軸受規制部材100の上方の部分100aと下方の部分100bの間の部分が切欠かれて切欠き部100cが形成されたので、切欠き部100cからオイルがオイル受け部110に流入し易くなり、安定した潤滑が図られる。
【0083】
なお、軸受規制部材100を締結するための前述したバランサ軸70の下方のボス部111Bは、右端側ジャーナル壁15ARにおいてオイル受け部110と一体に成型されており(図10、図11参照)、締結手段のボス部111Bが一体化されることで、オイル受け部110周りの剛性が向上している。
【0084】
以上、本発明の一実施形態の軸受部の潤滑構造につき述べたが、本発明は各請求項の要旨の範囲内で、上記実施形態と異なる態様を含むことは勿論である。
例えば、本発明の軸受部の潤滑構造を備える内燃機関は、上記実施形態の水冷直列2気筒の4ストロークサイクル内燃機関に限定されず、請求項1の構成を備える多様な内燃機関でよく、車両搭載の場合は自動二輪車に限定されず、また、車両搭載用内燃機関に限定されない。また、回転軸の軸受に対する「軸受規制部材」を備えるクランクケースであれば、実施形態の構造に限定されず、多様な構造のクランクケースの場合においても、本発明は有効に適用される。
各請求項における「壁部」は実施形態の右端側ジャーナル壁に限定されず、「軸受」、「回転軸」はバランサ軸に限定されず、「他の回転軸」はメイン軸に限定されず、「他の軸」はシフトフォーク支持軸に限定されず、各請求項の要旨に合致する他のものの場合においても、本発明は有効に適用される。
【符号の説明】
【0085】
1…内燃機関(バランサ付き内燃機関)、2…クランク軸、3…ピストン、5…変速機、7…バランサ機構、10…クランクケース、10a…分割面、10A…上側クランクケース、10B…下側クランクケース、14…オイルパン、15A…ジャーナル壁、15B…ジャーナル壁、15AL…左端側ジャーナル壁(一対の壁部のうち左側の壁部)、15BL…左端側ジャーナル壁(一対の壁部のうち左側の壁部)、15AR…右端側ジャーナル壁(一対の壁部のうち右側の壁部、本発明の「壁部」)、15BR…右端側ジャーナル壁(一対の壁部のうち右側の壁部)、47R…右クランクケースカバー、50…メイン軸(本発明の「他の回転軸」)、50b…右軸端部、50b…右軸端部、51R…右軸受(本発明の「他の回転軸の軸受」)、51Rb…外輪部、52…カウンタ軸、54…シフトスピンドル、55…シフトドラム、56…シフトフォーク支持軸(本発明の「他の軸」)、56b…右軸端部(本発明の「他の軸の軸端部」)、60…摩擦クラッチ、70…バランサ軸(本発明の「回転軸」)、70b…右軸端部、70HR…バランサ軸右支持孔、71R…右軸受(本発明の「軸受」)、71Ra…外周、71Rb…外輪部、71Rc…ボール転動部、100…軸受規制部材、100a…上方の部分、100b…下方の部分、100c…切欠き部、100d…中心側延出部、100e…後端延出部、110…オイル受け部、111A〜111D…ボス部、112…間隙、115…オイル貯留部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁部(15AR)を有するクランクケース(10)と、
前記壁部(15AR)に固定された軸受(71R)と、
同軸受(71R)によって回転自在に支持される回転軸(70)と、
前記軸受(71R)の外輪部(71Rb)側面に配置されて同軸受(71R)の脱落を抑制する軸受規制部材(100)とを備えた内燃機関(1)の軸受部の潤滑構造において、
前記軸受(71R)の軸中心よりも下方の外周(71Ra)の外側に、外周(71Ra)に沿って前記壁部(15AR)に隆起して形成されたオイル受け部(110)を設け、
同オイル受け部(110)と前記軸受規制部材(100)に亘りオイル貯留部(115)を設けたことを特徴とする軸受部の潤滑構造。
【請求項2】
前記軸受規制部材(100)は、前記オイル受け部(110)に取り付けられた状態で、同オイル受け部(110)より前記軸受(71R)の軸中心に向けて延出して、少なくとも前記軸受(71R)の外周(71Ra)寄り側面に沿うように形成されたことを特徴とする請求項1記載の軸受部の潤滑構造。
【請求項3】
前記オイル受け部(110)は、前記軸受(71R)の外周(71Ra)に沿って延在して上方に向けて凹部をなす円弧状に形成されたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の軸受部の潤滑構造。
【請求項4】
前記軸受(71R)は前記壁部(15AR)に固定される外輪部(71Rb)を有し、前記軸受規制部材(100)は、前記オイル受け部(110)より前記軸受(71R)の軸中心に向けて延出する部分が、前記外輪部(71Rb)を越えて前記軸受(71R)の軸中心側に延出するように形成されたことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか記載の軸受部の潤滑構造。
【請求項5】
前記軸受規制部材(100)は、前記回転軸(70)と隣り合う他の回転軸(50)の軸受(51R)の軸受規制部材を兼ねることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか記載の軸受部の潤滑構造。
【請求項6】
前記軸受規制部材(100)は、前記壁部(15AR)に支持された他の軸(56)の軸端部(56b)まで延在して、同軸端部(56b)に当接するように形成されたことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか記載の軸受部の潤滑構造。
【請求項7】
前記軸受規制部材(100)を前記オイル受け部(110)に取り付ける締結手段のボス部(111B)が、前記壁部(15AR)において前記オイル受け部(110)と一体に成型されたことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか記載の軸受部の潤滑構造。
【請求項8】
前記回転軸(70)の上方で前記軸受規制部材(100)を前記壁部(15AR)に取り付ける締結手段の他のボス部(111A)が、前記回転軸(70)の軸受(71R)の軸中心の直上からずらして配置されたことを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか記載の軸受部の潤滑構造。
【請求項9】
前記軸受規制部材(100)は、前記回転軸(70)より上方の部分(100a)と下方の部分(100b)の間の部分の、同回転軸(70)を挟む一方の側が切欠かれて形成されたことを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか記載の軸受部の潤滑構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−24398(P2013−24398A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162877(P2011−162877)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】