説明

軽量無機質板およびその製造方法

【課題】フェノール樹脂前駆体の添加量を減らして、材料コストの安い、強度が大きな軽量無機質板を提供する。また、吸放湿性を阻害することなく板の強度の向上を図る。
【解決手段】ケイ酸カルシウム水和物と木質補強材とを主成分とするスラリーを調整し、抄造脱水成形して得られた板状硬化成形体の表面および/または裏面に熱硬化性樹脂プレポリマーを含浸したシートを当接し、熱圧してシートを接着するとともに含浸されている熱硬化性プレポリマーを硬化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はケイ酸カルシウム水和物と木質補強材とを主成分とする軽量無機質板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からケイ酸質原料と石灰質原料とを含むスラリーを高温高圧下で反応せしめてケイ酸カルシウム水和物を生成し、該ケイ酸カルシウム水和物を含むスラリーを抄造脱水成形し、得られた板状成形体を養生硬化せしめることによって製造される軽量無機質板が提供されている。
上記軽量無機質板は軽量ではあるが硬く脆い性質を有し、曲げ強度および剛性が不足している。
そこで該軽量無機質板の強度および剛性を向上せしめるために原料混合物にフェノール樹脂前躯体(プレポリマー)を添加し、養生硬化中に該フェノール樹脂前躯体を硬化(樹脂化)する方法が提案されている(例えば特許文献1,2,3参照)。
【0003】
【特許文献1】特許第3448121号公報
【特許文献2】特開平5−294704号公報
【特許文献3】特開2004−75462号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記軽量無機質板の原料混合物にフェノール樹脂前躯体を添加し、硬化することによって強度を向上せしめる方法は、顕著な強度向上効果を得るために、フェノール樹脂前躯体の添加量を多くする必要があった。
しかしフェノール樹脂前躯体の添加量を多くすると、原料費が高くなり、軽量無機質板が安価に提供出来なくなる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記従来の課題を解決するための手段として、ケイ酸カルシウム水和物と木質補強材とを主成分とする板状硬化成形体の表面および/または裏面に熱硬化性樹脂含浸シートを接着した軽量無機質板を提供するものである。
該木質補強材は、径5μm以上および/または長さ1.5mm以上の太径長繊維木質補強材と、径0.1μm以下および/または長さ1.5mm未満の微細径短繊維木質補強材との混合物であることが望ましく、また該主成分には更に水硬性無機物質が添加されていることが望ましい。
更に本発明はケイ酸質原料と、石灰質原料とを主成分とする原料混合物を水に分散せしめてスラリーを調製し、該スラリーを高温高圧下で上記ケイ酸質原料と石灰質原料とを反応せしめてケイ酸カルシウム水和物を生成し、該ケイ酸カルシウム水和物を含むスラリーを抄造脱水成形し、得られた板状成形体の表面および/または裏面に熱硬化性樹脂プレポリマーを含浸したシートを当接し、該板状成形体を熱圧することによって該板状成形体と該シートに含浸されている熱硬化性樹脂プレポリマーとを硬化せしめ、該シートを該板状成形体に接着せしめる軽量無機質板の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
〔作用〕
本発明にあっては、熱硬化性樹脂を軽量無機質板の内部に添加するのではなく、板の表面および/または裏面に熱硬化性樹脂含浸シートを接着するので、熱硬化性樹脂による強度の向上効果が顕著に発現する。したがって熱硬化性樹脂の使用量を内部添加方式よりも大巾に減らすことが出来かつ、内部添加と同等の機械的挙動を得ることが可能となる。
【0007】
〔効果〕
本発明は軽量無機質板の表面および/または裏面に熱硬化性樹脂含浸シートを接着することによって板の強度向上を図るので、該熱硬化性樹脂の必要量を最小限にとどめることが可能であり、したがって材料コストを低減することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明を詳細に説明する。
〔ケイ酸質原料〕
本発明で用いられるケイ酸質原料としては、例えばケイ酸、無定形ケイ酸、ケイ砂、ケイ石粉、ケイ藻土、石英、長石類、粘土鉱物、白土、フライアッシュ、パーライト等のSiO2 を主成分とする原料である。
【0009】
〔石灰質原料〕
本発明で用いられる石灰質原料とは消石灰、生石灰、カーバイト滓等のCaOを主成分とする原料である。
【0010】
〔木質補強材〕
本発明に使用される木質補強材としては、例えば木質パルプ、木質繊維束、故紙解繊または粉砕物、マイクロフィブリル化したセルロース(MFC)等が例示される。
望ましい木質補強材としては、ダブルディスクリファイナー(DDR)で処理した木質パルプ(平均繊維長1.5〜3mm、径5〜25μm)、故紙解繊物(平均繊維長0.5〜1.5mm未満、径5〜25μm)、MFC(平均繊維長0.1〜1mm、径0.01〜0.1μm)がある。上記木質補強材のソースとしては、針葉樹未晒し(NU)、針葉樹晒し(NB)、広葉樹未晒し(LU)、広葉樹晒し(LB)等が適宜選択される。
上記木質補強材は径や長さの異なるものを二種以上混合使用することが望ましい。望ましくは径5μm以上および/または長さ1.5mm以上の太径長繊維木質補強材と、径0.1μm以下および/または長さ1.5mm未満の微細径短繊維木質補強材との併用であり、具体的には、例えば径5〜25μmの木質パルプあるいは故紙解繊物と、径0.01〜0.1μmのMFCとの組合わせがある。
上記組合わせにおいて、太径長の繊維は板の補強と共にスラリーの濾水性を向上させて良好な抄造性を付与し、微細径短の繊維は板の補強と共に板の構造を緻密にすることにより強度物性を向上せしめる。更に二種以上を組み合わせることで、濾水性を損なうことなく固形分捕捉を向上することが可能となり、マツト成形性、ブレス成形性を確保しつゝ安定した物性の板が得られる。
【0011】
〔熱硬化性樹脂含浸シート〕
本発明に使用される熱硬化性樹脂含浸シートは多孔質シートに熱硬化性樹脂プレポリマーを含浸することによって得られる。上記熱硬化性樹脂プレポリマーとしては、フェノール樹脂初期縮合物、メラミン樹脂初期縮合物、尿素樹脂初期縮合物、ウレタン樹脂プレポリマー、ポリイソシアナート、エポキシ樹脂プレポリマー等が例示される。円滑に硬化(樹脂化)する点からみて、フェノール樹脂初期縮合物および/またはエポキシ樹脂プレポリマーを使用することが望ましいが、コストの面、作業性の面からみるとフェノール樹脂初期縮合物の使用が望ましい。
上記熱硬化性樹脂プレポリマーは粉末、あるいは水溶液、あるいは有機溶剤溶液あるいは100%液状物として提供される。
上記熱硬化性樹脂プレポリマーは多孔質シートに散布または含浸される。該多孔質シートとしては不織布、繊維編織物、紙、多孔質プラスチックシート等が例示される。該多孔質シートの厚みは50〜500μmであることが望ましく、また該シートに対する該プレポリマーの含浸率は固形分として0.005〜0.1g/cm2であることが望ましい。
【0012】
〔水硬性無機物質〕
本発明で使用される水硬性無機物質としては、例えば高炉スラグ、高炉スラグセメント、フライアッシュ、シリカヒューム、ポルトランドセメント等がある。
【0013】
〔第三成分〕
上記原料以外に、本発明では例えばパーライト、石膏粉末、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、木質セメント板廃棄物粉末等の充填材、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維、アセテート繊維、綿繊維等の有機繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、岩綿、金属繊維等の無機繊維等の補強材が添加されてもよい。また耐水性または内部接合力の向上を目的としてアクリル樹脂エマルジョン、スチレン−ブタジエン共重合体樹脂エマルジョン、ウレタン樹脂エマルジョン等の合成樹脂エマルジョンを添加してもよい。
【0014】
〔ケイ酸カルシウム水和物スラリーの調製〕
上記ケイ酸質原料と石灰質原料とを水に分散させてスラリーとし、該スラリーのpHを苛性ソーダ等のアルカリにより調整した後、高温高圧下で攪拌すると、ケイ酸カルシウム反応によって該スラリー中にトバモライト(5CaO・6SiO2・5H2O)あるいはゾノトライト(6CaO・6SiO2・H2O)あるいはトバモライトとゾノトライトとの混合物が生成する。
上記トバモライトはケイ酸質原料と石灰質原料との比率をCa/Si=0.65〜1.2になるような範囲に設定し、反応温度を150〜200℃の範囲に設定することによって生成し、上記ゾノトライトはケイ酸質原料と石灰質原料との比率をCa/Si=0.75〜1.5になるような範囲に設定し、反応温度を170〜300℃の範囲に設定することによって生成する。
上記水硬性無機物質を添加する場合、通常上記ケイ酸カルシウム反応によってケイ酸カルシウム水和物が生成された後に添加する。上記水硬性無機物質は該スラリー固形分に対して通常20〜50質量%程度添加される。
上記木質補強材、水硬性無機物質以外の第三成分も、通常上記ケイ酸カルシウム水和物の生成後に添加する。上記木質補強材は通常スラリー固形分中3〜20質量%程度添加されるが、10質量%以下の添加量で充分な補強効果が得られる。
【0015】
〔抄造〕
抄造はフローオン方式、ハチェック方式、脱水プレス方式等公知の装置を用いた方法で行なわれるが、抄造に際してはスラリー中の固形分濃度は通常1〜15質量%程度に調節される。そして抄造されたマットは真空吸引あるいはプレスにより脱水され、所望なればメイキングロール等を用いて該マットを所定枚数積層してもよい。
【0016】
〔プレス成形〕
上記抄造されたマットは所望なればプレス成形によって所定の形状に成形される。この場合の成形圧力は通常0.5〜5.0MPaである。
【0017】
〔養生硬化〕
上記抄造され望ましくは成形された成形物は養生される。養生条件は通常50〜80℃で6〜24時間行なわれる。養生温度が低い場合は勿論養生時間は長くなる。上記養生工程において、水硬性無機物質を添加した場合は、該水硬性無機物質中に含まれる活性SiO2 がスラリー中の石灰質原料から溶出したアルカリ、主としてCa++イオンと反応してケイ酸カルシウムあるいはアルミン酸カルシウムゲルを生成して硬化する。
養生後は通常80〜120℃、2〜5時間程度加熱乾燥を行なって製品とする。
【0018】
〔熱硬化性樹脂含浸シートの接着〕
上記プレス成形後あるいは養生硬化後において、上記熱硬化性樹脂プレポリマーの含浸シートを成形体の表面および/または裏面に当接する。
上記熱硬化性樹脂プレポリマーの散布または塗布量は、表裏面に散布または塗布する場合には、通常片面に固形分として0.03〜0.08g/cm2、片面のみに塗布する場合には、通常固形分として0.05〜0.15g/cm2程度に設定する。
熱硬化性樹脂プレポリマー含浸シートを該成形体表面および/または裏面に当接した後は、該成形体を通常圧力0.5〜5.0MPa、温度を該熱硬化性樹脂プレポリマーの硬化(樹脂化)温度に設定してプレスを行なう。フェノール樹脂初期縮合物の場合は、通常160〜220℃で10分間の熱プレスが行なわれる。
プレス後は自然乾燥、所望なれば加熱乾燥して軽量無機質板製品を得る。
【0019】
〔実施例1〜8、比較例1,2〕
実施例1〜7については、ケイ石粉と消石灰とを水に分散させて固形分濃度30質量%のスラリーを調製する。該ケイ石粉と消石灰との混合比率はケイ石粉に含まれるSiO2と消石灰に含まれるCaOとのモル比が5:5になるようにする。
該スラリーのpHを苛性ソーダ等のアルカリにより調整した後アジテーターのついた水熱合成用のオートクレーブ中で2MPaの圧力下、200℃の温度に加熱し、攪拌しつゝ9時間反応させる。該反応によりケイ石粉のSiO2と消石灰のCaOとが反応してゾノトライトが生成され、またスラリー中にはケイ酸カルシウム反応中間生成物が存在する。
実施例8については、SiO2とCaOとのモル比が7:3になるように調節し、オートクレーブ中で250℃の温度で10時間反応させることによってトバモライトを生成せしめる。
上記ゾノトライトまたはトバモライトスラリー中に表1に示す木質補強材、水硬性無機物質等を表1に示す量で配合し、固形分濃度10質量%のスラリーを調製する。
上記混合スラリーはハチェック式抄造機によって抄造脱水されてマットとされ、該マットを1.5MPaの圧力でプレスして所定形状に成形する。
実施例1〜8については、プレス成形後に成形物表裏面にフェノール樹脂初期縮合物を0.07g/cm2の割合で含浸せしめた厚み250μmの紙を接着し、圧力0.8MPa、温度200℃で10分間熱プレス成形し、その後自然乾燥、自然養生した。
比較例1,2については実施例と同様に表1の配合のスラリーを抄造脱水成形し、フェノール樹脂初期縮合物含浸シートを当接することなく熱プレス成形後自然乾燥、自然養生した。
実施例1〜8、比較例1,2の軽量無機質板の物性を表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
表1を参照すると、フェノール樹脂初期縮合物含浸シートを接着した実施例1〜8はフェノール樹脂初期縮合物含浸シートを接着しない比較例1,2に比べると曲げ強度、ヤング率共に大巾に向上している。またポルトランドセメントと高炉スラグからなる高炉スラグセメントを添加した実施例4〜6は実施例1〜3に比べ曲げ強度において向上がみられ、アクリル樹脂エマルジョンを添加した実施例7はアクリル樹脂エマルジョンを添加しない実施例5に比べて曲げ強度、ヤング率において向上がみられる。またフェノール樹脂含浸紙の積層枚数が増えるにつれ、強度向上効果は大きくなることが認められる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明では高強度でかつ軽量な不燃性の無機質板が得られる。該軽量無機質板は建築板等に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ酸カルシウム水和物と木質補強材とを主成分とする板状硬化成形体の表面および/または裏面に熱硬化性樹脂含浸シートを接着したことを特徴とする軽量無機質板。
【請求項2】
該木質補強材は、径5μm以上および/または長さ1.5mm以上の太径長繊維木質補強材と、径0.1μm以下および/または長さ1.5mm未満の微細径短繊維木質補強材との混合物である請求項1に記載の軽量無機質板。
【請求項3】
該主成分には更に水硬性無機物質が添加されている請求項1または2のいずれかに記載の軽量無機質板。
【請求項4】
ケイ酸質原料と、石灰質原料とを主成分とする原料混合物を水に分散せしめてスラリーを調製し、該スラリーを高温高圧下で上記ケイ酸質原料と石灰質原料とを反応せしめてケイ酸カルシウム水和物を生成し、該ケイ酸カルシウム水和物を含むスラリーを抄造脱水成形し、得られた板状成形体の表面および/または裏面に熱硬化性樹脂プレポリマーを含浸したシートを当接し、該板状成形体を熱圧することによって該板状成形体と該シートに含浸されている熱硬化性樹脂プレポリマーとを硬化せしめ、該シートを該板状成形体に接着せしめることを特徴とする軽量無機質板の製造方法。

【公開番号】特開2006−231711(P2006−231711A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−49856(P2005−49856)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(000110860)ニチハ株式会社 (182)
【Fターム(参考)】