説明

農作業機

【課題】椅子部を容易に回動できる農作業機を提供する。
【解決手段】農作業機は、圃場を走行する走行機体2を備え、この走行機体2には作業者が座る椅子体21を設ける。椅子体21は、走行機体2に対して昇降し走行機体2に対して上下方向の回動中心軸線Xを中心として回動する椅子部23を有する。走行機体2には下側係合部24を設け、椅子部23には下側係合部24に対して係脱する上側係合部25を設ける。下側係合部24と上側係合部25とが互いに係合した状態時には、椅子部23は走行機体2に対して回動しない。椅子部23を持ち上げて下側係合部24と上側係合部25との係合を解除すれば、椅子部23を走行機体2に対して回動させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、椅子部を容易に回動させることができる農作業機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば圃場を走行する自走式の走行機体と、走行機体に設けられ圃場の農作物を収穫する掘取りコンベヤ装置等の作業手段と、走行機体に設けられた椅子体とを備えた農作業機が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−168305号公報(図1等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の農作業機の椅子体では、例えば作業者が座る椅子部の位置を変更するために椅子部を走行機体に対して回動させる場合に、椅子部を走行機体に対してロックするロックピンを抜き差しする必要があり、椅子部の回動に手間がかかるおそれがある。
【0004】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、椅子部を走行機体に対してロックするロックピンの抜き差しが不要で、椅子部を容易に回動させることができる農作業機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の農作業機は、圃場を走行する走行機体と、この走行機体に設けられた作業手段と、前記走行機体に設けられた椅子体とを備え、前記椅子体は、前記走行機体に対して昇降し、前記走行機体に対して少なくとも1つの上下方向の回動中心軸線を中心として回動する椅子部と、前記走行機体に設けられた下側係合部と、前記椅子部に設けられ、前記下側係合部に対して係脱する上側係合部とを有し、前記下側係合部と前記上側係合部とが互いに係合した状態時には、前記椅子部の前記走行機体に対する回動が規制され、前記椅子部が前記走行機体に対して持ち上げられて前記下側係合部と前記上側係合部との係合が解除された状態時には、前記椅子部の前記走行機体に対する回動が許容されるものである。
【0006】
請求項2記載の農作業機は、請求項1記載の農作業機において、椅子体は、椅子部を下方に向けて付勢する付勢手段を有するものである。
【0007】
請求項3記載の農作業機は、請求項1または2記載の農作業機において、下側係合部の上面には、椅子部の回動中心軸線を中心として放射状に位置する複数の凹部分が形成され、上側係合部の下面には、前記椅子部の回動中心軸線を中心として放射状に位置し、前記凹部分に対して嵌脱する複数の凸部分が形成されているものである。
【0008】
請求項4記載の農作業機は、請求項1ないし3のいずれか一記載の農作業機において、椅子部は、走行機体に対して昇降し、前記走行機体に対して上下方向の回動中心軸線を中心として回動する支持部材と、この支持部材に上下方向の中心軸線を中心として回動可能に取り付けられた椅子部材とを有するものである。
【0009】
請求項5記載の農作業機は、請求項1ないし4のいずれか一記載の農作業機において、椅子体は、椅子部を持ち上げる際に把持する取手を有するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、下側係合部と上側係合部とが互いに係合した状態時には椅子部の走行機体に対する回動が規制され、椅子部が走行機体に対して持ち上げられて下側係合部と上側係合部との係合が解除された状態時には椅子部の走行機体に対する回動が許容される構成であるから、椅子部を走行機体に対してロックするロックピンの抜き差しが不要で、椅子部を容易に回動させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の農作業機の一実施の形態を図面を参照して説明する。
【0012】
図1において、1は農作業機で、この農作業機1は、例えば圃場上を前方に向って前進走行しながら圃場の農作物(馬鈴薯、玉葱、ビート、里芋等)を収穫する自走式の農作物収穫機である。
【0013】
農作業機1は、圃場を走行する走行機体2を備えている。走行機体2は、機枠3を有し、この機枠3にはエンジン等の駆動源(図示せず)からの動力で作動する走行手段であるクローラ4が設けられている。また、機枠3には、複数の操作レバー5等を有する操縦手段6が設けられている。さらに、機枠3には、収穫した農作物を入れる容器であるコンテナ7が載置されるコンテナ載置台8,9が設けられ、一方のコンテナ載置台8は機枠3の前部に取り付けられ、他方のコンテナ載置台9は機枠3の後部に取り付けられている。
【0014】
また、走行機体2の機枠3には、圃場の農作物を掘り取って搬送する作業手段10が設けられている。作業手段10は、前方に向って下り傾斜する傾斜状のロッドコンベヤ等からなる第1コンベヤ11と、第1コンベヤ11の搬送終端部に連設された水平状のロッドコンベヤ等からなる第2コンベヤ12と、第1コンベヤ11の搬送始端部に連設された先金等の掘取刃13とを有している。また、第1コンベヤ11の中間部には、収穫対象畝の傾斜両肩部に転接する左右一対のホイール14を有する畝追従装置15が取り付けられている。
【0015】
さらに、走行機体2の機枠3には、例えば作業手段10の第1コンベヤ11上の農作物の選別作業を行う作業者(図示せず)が座る椅子体21が設けられている。
【0016】
椅子体21は、図2ないし図4に示すように、走行機体2の機枠3のフレーム状の椅子取付部3aに対して昇降しその椅子取付部3aに対して上下方向の回動中心軸線Xを中心として回動する椅子部23と、椅子取付部3aの上面に固設された位置決め用の下側係合部(菊座等のクラッチ)24と、椅子部23の下面に下側係合部24と対向した状態に固設され椅子部23の椅子取付部3aに対する下降および上昇に応じて下側係合部24に対して係脱する位置決め用の上側係合部(菊座等のクラッチ)25と、椅子部23を椅子取付部3aに対して下方に向けて付勢して下側係合部24と上側係合部25とを互いに係合させる付勢手段であるコイルばね26と、作業者が椅子部23を持ち上げる際に把持する取手27とを備えている。
【0017】
そして、図3に示すように、圧縮ばねであるコイルばね26の付勢力を受けて下側係合部24と上側係合部25とが互いに係合、例えば嵌合した状態時には、これら下側係合部24と上側係合部25との係合、例えば嵌合により椅子部23の椅子取付部3aに対する回動中心軸線Xを中心とする回動が規制される。また、図2に示すように、作業者が取手27を握ることによってコイルばね26の付勢力に抗して椅子部23が椅子取付部3aに対して若干持ち上げられて下側係合部24と上側係合部25との係合、例えば嵌合が解除された状態時には、椅子部23の椅子取付部3aに対する回動中心軸線Xを中心とする回動が許容され、椅子部23はその回動によって位置変更可能となっている。
【0018】
なお、作業者が取手27から手を離して椅子部23の持ち上げを解除すると、椅子部23等の自重およびコイルばね26の付勢力によって椅子部23が若干下降して、下側係合部24と上側係合部25とが互いに係合した状態に戻る。
【0019】
ここで、椅子部23は、走行機体2の機枠3の椅子取付部3aに対して昇降しその椅子取付部3aに対して上下方向の回動中心軸線Xを中心として回動する支持部材31と、この支持部材31にこの支持部材31に対して上下方向の中心軸線Yを中心として回動可能に取り付けられた椅子部材32とを有している。椅子部材32は、ピン33の抜き差しにより支持部材31に対して上下位置調整可能となっている。
【0020】
支持部材31は、側面視略L字状をなすもので、水平方向長手状の水平部(ステー)35と、この水平部35の先端部から上方に向って突出する円筒状で上下方向長手状の鉛直部(外側パイプ)36とを有している。
【0021】
支持部材31の水平部35の基端部は、回動中心軸線Xが軸芯を通る上下方向の軸部材38の上部にこの軸部材38に対して回動可能に取り付けられている。軸部材38は、機枠3の椅子取付部3aの孔部39に貫通状でスライド可能に挿通され、この軸部材38は椅子取付部3aに対して昇降可能となっている。軸部材38は、上下方向の軸部41と、軸部41の下端部に設けられた下鍔部42と、軸部41の上端部に設けられた上鍔部43とにて構成されている。下鍔部42は、軸部材38の下面にボルト44にて固着された座金45にて構成されている。そして、機枠3の椅子取付部3aのばね受部分46と軸部材38の下鍔部42との間に、椅子部23を軸部材38を介して下方に向けて付勢するコイルばね26が圧縮された状態で配設されている。
【0022】
なお、支持部材31の水平部35の基端部に取手27が固設されている。取手27は、支持部材31の水平部35の基端部から上方に向って立ち上がった立上部27aと、この立上部27aから軸部材38の上方部に向って水平状に突出し回動中心軸線X上に位置する取手部27bとにて構成されている。
【0023】
また、支持部材31の鉛直部36には、ピン33が抜き差しされる複数、例えば3つのピン用孔48が間隔をおいて上下方向に並設されている。複数のピン用孔48の中から選択された1つのピン用孔48にピン33が差し込まれ、この差し込まれたピン33にて椅子部材32が支持部材31に対して回動可能に支持されている。なお、椅子部材32の支持部材31に対する回動を規制する規制手段を設けてもよい。
【0024】
椅子部材32は、クッション材等からなる座部51と、背もたれ部52と、座部51の下面から下方に向って突出し支持部材31の鉛直部36内にスライド可能に挿入された円筒状で上下方向長手状の突出軸部(内側パイプ)53とにて構成されている。背もたれ部52は、座部51から後方に向って突出し互いに離間対向する棒状部分54と、この棒状部分54の後端部から上方に向って突出する略コ字状の背もたれ部分55とを有している。
【0025】
一方、図5に示すように、走行機体2の機枠3の椅子取付部3aの上面に固設された下側係合部24は軸部材38の軸部41が挿通される挿通孔61を有する略円形環状で板状に形成されており、この下側係合部24の上面には、椅子部23の回動中心軸線Xを中心として放射状に位置する複数の凹部分62が下側係合部24の周方向に等間隔をおいて形成されている。
【0026】
なお、椅子部23の支持部材31の水平部35の基端部の下面に固設された上側係合部25は、下側係合部24と同一形状のもので、軸部材38の軸部41が挿通される挿通孔63を有する略円形環状で板状に形成されている。そして、この上側係合部25の下面には、下側係合部24の凹部分62に対応して、椅子部23の回動中心軸線Xを中心として放射状に位置する複数の凸部分64が上側係合部25の周方向に等間隔をおいて形成されている。なお、互いに接離する下側係合部24と上側係合部25とにて、回動規制手段65が構成されている。
【0027】
次に、上記農作業機1の作用等を説明する。
【0028】
農作業機1を使用して圃場の農作物の収穫作業をする場合において、ある作業者は、椅子体21の椅子部23の座部51に座った状態で、作業手段10の第1コンベヤ11にて搬送されてくる農作物の選別作業を行う。
【0029】
作業者が椅子部23の座部51に座っている状態では、作業者の体重およびコイルばね26の付勢に基づいて下側係合部24の凹部分62と上側係合部25の凸部分64とが互いに嵌合しているため、椅子部23が椅子取付部3aに対して回動中心軸線Xを中心として回動することはない。なお、椅子部材32を支持部材31に対して中心軸線Yを中心として回動させることは可能である。
【0030】
また、作業者が立ち上がった状態でも、コイルばね26の付勢に基づいて下側係合部24の凹部分62と上側係合部25の凸部分64とが互いに嵌合しているため、椅子部23が椅子取付部3aに対して回動中心軸線Xを中心として回動することはない。
【0031】
また一方、例えば作業者の体格等に応じて椅子体21の椅子部23の座部51の位置を変更する場合、作業者は、取手27の取手部27bを把持して、コイルばね26の付勢力に抗して椅子部23を軸部材38とともに椅子取付部3aに対して持ち上げる。
【0032】
取手27を利用して椅子部23を持ち上げると、図2に示すように、下側係合部24と上側係合部25との嵌合が解除され、これら下側係合部24および上側係合部25間に隙間が形成される。よって、作業者は、図4に示すように、椅子部材32を支持部材31に対して中心軸線Yを中心として回動させつつ椅子部23を椅子取付部3aに対して回動中心軸線Xを中心として回動させることにより、椅子部材32の向きを一定にしたまま、椅子部23の座部51の位置を変更することができる。なお、下側係合部24の凹部分62および上側係合部25の凸部分64の数に対応して、椅子部23の座部51の位置を小刻みに変更可能となっている。
【0033】
作業者が取手27の取手部27bから手を離すと、椅子部23等の自重およびコイルばね26の付勢力によって椅子部23が下降し、下側係合部24の凹部分62と上側係合部25の凸部分64とが互いに嵌合し、椅子部23を椅子取付部3aに対して位置決めされる。
【0034】
なお、ピン用孔48に対するピン33の抜き差しによって椅子部材32の支持部材31に対する上下位置を調整することで、椅子部23の座部51の高さの調整を行うことができる。
【0035】
このように農作業機1によれば、下側係合部24と上側係合部25とが互いに係合した状態時には椅子部23の走行機体2に対する回動が規制され、椅子部23が走行機体2に対して持ち上げられて下側係合部24と上側係合部25との係合が解除された状態時には椅子部23の走行機体2に対する回動が許容される構成であるから、椅子部を走行機体に対してロックするロックピンの抜き差しが不要で、椅子部23を走行機体2に対して容易に回動させることができ、椅子部23の座部51の位置を簡単に変更できる。
【0036】
また、椅子体21が椅子部23の支持部材31を下方に向けて付勢するコイルばね26を有するため、支持部材31が走行機体2に対して不用意に回動することがない。
【0037】
さらに、下側係合部24の上面には複数の凹部分62が下側係合部24の周方向に等間隔をおいて放射状に形成され、上側係合部25の下面には複数の凸部分64が凹部分62に対応して上側係合部25の周方向に等間隔をおいて放射状に形成されているため、椅子部23の座部51を所望の位置に変更できる。
【0038】
また、取手27の取手部27bが椅子部23の回動中心軸線X上に位置するため、その取手部27bを把持して椅子部23を軸部材38とともに椅子取付部3aに対してスムーズに持ち上げることができる。
【0039】
なお、作業手段10が農作業として収穫作業をする農作物収穫機には限定されず、農作業機の種類は問わない。
【0040】
また、椅子部23が支持部材31とこの支持部材31に回動可能に取り付けられた椅子部材32とを有する構成について説明したが、例えば支持部材31と椅子部材32とを一体化した構成等でもよい。
【0041】
さらに、下側係合部24の凹部分62と上側係合部25の凸部分64との嵌合によって椅子部23の椅子取付部3aに対する回動を規制する構成には限定されず、例えば下側係合部24のゴム製の当接面部と上側係合部25のゴム製の当接面部との係合当接によって椅子部23の椅子取付部3aに対する回動を規制する構成等でもよい。
【0042】
また、例えば椅子部23が走行機体2に対して複数、例えば2つの上下方向の回動中心軸線を中心として回動する構成でもよい。すなわち例えば支持部材31の水平部35の中間部に回動支点を設けて水平部35がくの字状に屈曲するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施の形態に係る農作業機の側面図である。
【図2】同上農作業機の椅子体の側面図である。
【図3】同上椅子体の部分側面図である。
【図4】同上椅子体の平面図である。
【図5】同上椅子体の下側係合部の平面図である。
【符号の説明】
【0044】
1 農作業機
2 走行機体
10 作業手段
21 椅子体
23 椅子部
24 下側係合部
25 上側係合部
26 付勢手段であるコイルばね
27 取手
31 支持部材
32 椅子部材
62 凹部分
64 凸部分
X 回動中心軸線
Y 中心軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場を走行する走行機体と、
この走行機体に設けられた作業手段と、
前記走行機体に設けられた椅子体とを備え、
前記椅子体は、
前記走行機体に対して昇降し、前記走行機体に対して少なくとも1つの上下方向の回動中心軸線を中心として回動する椅子部と、
前記走行機体に設けられた下側係合部と、
前記椅子部に設けられ、前記下側係合部に対して係脱する上側係合部とを有し、
前記下側係合部と前記上側係合部とが互いに係合した状態時には、前記椅子部の前記走行機体に対する回動が規制され、
前記椅子部が前記走行機体に対して持ち上げられて前記下側係合部と前記上側係合部との係合が解除された状態時には、前記椅子部の前記走行機体に対する回動が許容される
ことを特徴とする農作業機。
【請求項2】
椅子体は、椅子部を下方に向けて付勢する付勢手段を有する
ことを特徴とする請求項1記載の農作業機。
【請求項3】
下側係合部の上面には、椅子部の回動中心軸線を中心として放射状に位置する複数の凹部分が形成され、
上側係合部の下面には、前記椅子部の回動中心軸線を中心として放射状に位置し、前記凹部分に対して嵌脱する複数の凸部分が形成されている
ことを特徴とする請求項1または2記載の農作業機。
【請求項4】
椅子部は、
走行機体に対して昇降し、前記走行機体に対して上下方向の回動中心軸線を中心として回動する支持部材と、
この支持部材に上下方向の中心軸線を中心として回動可能に取り付けられた椅子部材とを有する
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一記載の農作業機。
【請求項5】
椅子体は、椅子部を持ち上げる際に把持する取手を有する
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一記載の農作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−168689(P2008−168689A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−1656(P2007−1656)
【出願日】平成19年1月9日(2007.1.9)
【出願人】(000188009)松山株式会社 (285)
【Fターム(参考)】