説明

送信回路及び通信機器

【課題】AM/PM歪みを補償し、低歪みかつ高効率に動作する送信回路を提供する。
【解決手段】補償部22は、LPF14,15を通過したIPL、QPL信号のベクトルの大きさを示す振幅信号Mを算出することで、IP',QP'信号がLPF12,13を通過することによって発生する高周波信号Piの包絡線の変動を予測する。補償部22は、算出した振幅信号Mに基づいて、位相補償量θcompを算出し、位相信号θに位相補償量θcompを加算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話や無線LAN等の通信機器に用いられる送信回路、及び通信機器に関し、より特定的には、低歪みかつ高効率に動作する送信回路、及びそれを用いた通信機器に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話や無線LAN等の通信機器は、出力信号の精度を確保しつつ、かつ低消費電力で動作することが求められている。このような通信機器には、低歪みかつ高効率に動作する送信回路が求められる。
【0003】
図12は、特許文献1に開示された従来の送信回路に用いられる信号生成部500の構成を示すブロック図である。図12において、従来の信号生成部500は、信号出力部501、デジタルフィルタ502,053、及びASIC(application specific integrated circuits)504を備える。信号出力部501は、I信号(in-phase signal),及びQ信号(quadrature phase signal)を出力する。I,Q信号は、デジタルフィルタ502,503に入力される。デジタルフィルタ502,503は、I,Q信号から不要な成分を除去し、It,Qt信号として出力する。It,Qt信号は、ASIC504に入力される。
【0004】
ASIC504は、It,Qt信号に基づいて、振幅信号AMを算出する。また、ASIC504は、It,Qt信号を振幅信号AMで割り算することで、規格化されたIp,Qp信号を生成する。ASIC504は、(式1)で表される振幅信号AM、及び(式2)で表されるIp,Qp信号を出力する。
【0005】
【数1】

【数2】

【0006】
特許文献1には、信号生成部500をポーラ変調回路に適用した例は開示されていないが、上述した信号生成部500をポーラ変調回路に適用することも想定される。以下、信号生成部500を適用したポーラ変調回路を従来の送信回路510と記す。従来の送信回路510は、図13のように構成することが想定される。図13において、従来の送信回路510は、信号生成部500、LPF511〜513、直交変調器514、及び振幅変調器515を備える。
【0007】
信号生成部500は、上述したように、振幅信号AM、及び規格化されたIP,QP信号を出力する。振幅信号AMは、LPF511に入力される。LPF511は、振幅信号AMから不要な成分を除去する。振幅信号AMは、LPF511で不要な成分が除去された後、振幅変調器515に入力される。
【0008】
P,QP信号は、LPF512,513に入力される。LPF512,513は、IP,QP信号から不要な成分を除去する。具体的には、LPF512,513は、IP,QP信号がデジタル信号であれば、IP,QP信号から量子化雑音を除去し、IP,QP信号がアナログ信号であれば、IP,QP信号からイメージ信号を除去する。
【0009】
P,QP信号は、LPF512,513で不要な成分が除去された後、直交変調器514に入力される。直交変調器514は、LPF512,513を介して入力されたIP,QP信号を直交変調し、高周波信号Piを出力する。高周波信号Piは、振幅変調器515に入力される。振幅変調器515は、高周波信号Piを振幅信号AMで振幅変調し、送信信号Poを出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6078628号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した送信回路510では、IP、QP信号がLPF512,513を通過していた。そのため、LPF512,513のカットオフ周波数によっては、IP、QP信号の高周波成分が失われ、LPF512,513の後ろでは、IP,QP信号で構成されるベクトルの大きさが変動していた。これにより、図14に示すように、直交変調器514が出力する高周波信号Piの包絡線が変動し、振幅変調器514の相対通過位相が変化していた。ここで、相対通過位相は、線形領域での位相変化がない領域を0と規格化したときに、非線形領域での0からの変化量によって定義される。
【0012】
すなわち、従来の送信回路510では、図14に示すように、振幅変調器514のAM/AM特性の飽和領域を使用するが、AM/AM特性の飽和領域ではAM/PM特性も飽和しており、高周波信号Piの包絡線が変動することで、振幅変調器514でAM/PM歪みが発生することになる。このように、従来の送信回路510には、振幅変調器515でAM/PM歪みが発生するという問題点があった。
【0013】
それ故に、本発明の目的は、上記従来の問題点を解消し、AM/PM歪みを補償し、低歪みかつ高効率に動作する送信回路、及びそれを用いた通信機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の目的は、送信信号を出力する送信回路に向けられている。そして、上記目的を達成させるために、本発明の送信回路は、入力信号に所定の信号変換処理を施し、第1のI、Q信号と、入力信号の位相成分を示す位相信号と、入力信号の大きさを示す第1の振幅信号とを生成する信号生成部と、位相信号を第2のI,Q信号に変換するIQマッピング部と、第2のI,Q信号の不要成分を除去する第1のLPFと、第1のLPFを介して入力された第2のI,Q信号を直交変調し、高周波信号を出力する直交変調器と、高周波信号を第1の振幅信号で振幅変調し、送信信号として出力する振幅変調器と、第1のI,Q信号に基づいて、送信信号に含まれるAM/PM歪みを補償する補償部とを備える。補償部は、第1のLPFと同様の特性を有する第2のLPFと、第2のLPFを介して入力された第1のI,Q信号の大きさを示す第2の振幅信号を算出する振幅演算部と、第2の振幅信号の大きさに対応した係数が予め格納されているLUTと、第2の振幅信号の大きさに対応した係数をLUTから読み出し、当該読み出した係数に基づいて、第2の振幅信号に対応した位相補償量を算出する制御部と、第1の位相信号に、位相補償量を加算する加算器とを備える。
【0015】
また、制御部は、第2の振幅信号の大きさ近傍の係数をLUTから読み出し、当該読み出した係数を補間することで、第2の振幅信号に対応した位相補償量を算出してもよい。
【0016】
LUTには、振幅変調器の相対通過位相と逆特性の関係を有する係数が格納される。
【0017】
また、LUTには、第1の振幅信号の大きさ、及び第2の振幅信号の大きさに対応した係数が格納されてもよい。この場合、制御部は、第1の振幅信号の大きさ、及び第2の振幅信号の大きさに対応した係数をLUTから読み出し、当該読み出した係数に基づいて、第1の振幅信号及び第2の振幅信号に対応した位相補償量を算出する。
【0018】
また、制御部は、第1の振幅信号の大きさ、及び第2の振幅信号の大きさ近傍の係数をLUTから読み出し、当該読み出した係数を補間することで、第1の振幅信号及び第2の振幅信号に対応した位相補償量を算出してもよい。
【0019】
信号生成部は、入力信号を位相信号と、第1の振幅信号とに変換する第1の信号変換部と、位相信号を第1のI,Q信号に変換する第2の信号変換部とを備える。入力信号をI,Qで表し、位相信号をθで表し、第1のI,Q信号をIP,QPで表し、第1の振幅信号をmで表すと、I,P、θ、IP,QP、mの間には、下記式の関係が成立する。
【数9】

【0020】
好ましくは、送信回路は、直交変調器と、振幅変調器との間に、高周波信号の包絡線の変動を抑えるリミッタをさらに備える。
【0021】
また、本発明は、上述した送信回路を備える通信機器にも向けられている。通信機器は、送信信号を生成する送信回路と、送信回路で生成された送信信号を出力するアンテナとを備える。また、通信機器は、アンテナから受信した受信信号を処理する受信回路と、送信回路で生成された送信信号をアンテナに出力し、アンテナから受信した受信信号を受信回路に出力するアンテナ共用部とをさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の送信回路によれば、補償部は、第2のLPFを通過したIPL、QPL信号のベクトルの大きさ(すなわち、振幅信号M)を算出することで、第1のLPFによって発生する高周波信号Piの包絡線の変動を予測する。そして、補償部は、算出した振幅信号Mに基づいて、振幅変調器の相対通過位相Φを補償するための位相補償量θcomp(−Φ)を算出し、位相信号θに位相補償量θcompを加算する。。このようにして、送信回路は、補償部が送信信号Poに含まれるAM/PM歪みを補償するので、低歪みかつ高効率に動作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る送信回路1の構成の一例を示すブロック図
【図2】信号生成部10の詳細な構成の一例を示すブロック図
【図3A】振幅変調器17の相対通過位相Φの一例を示す図
【図3B】LUT20の格納されている係数θcomp0の一例を示す図
【図4】本発明の第1の実施形態に係る送信回路1aの構成の一例を示すブロック図
【図5】本発明の第2の実施形態に係る送信回路2の構成の一例を示すブロック図
【図6A】振幅変調器17aの相対通過位相Φの一例を示す図
【図6B】LUT20aの格納されている係数θcomp0の一例を示す図
【図7】本発明の第1の実施形態に係る送信回路2aの構成の一例を示すブロック図
【図8】本発明の第3の実施形態に係る送信回路3の構成の一例を示すブロック図
【図9】本発明の第3の実施形態に係る送信回路3aの構成の一例を示すブロック図
【図10】振幅演算部18で算出される振幅信号Mの時間波形の一例を示す図
【図11】本発明の第4の実施形態に係る通信機器200の構成の一例を示すブロック図
【図12】従来の送信回路に用いられる信号生成部500の構成を示すブロック図
【図13】従来の送信回路510の構成を示すブロック図
【図14】従来の送信回路510の特性を示す図
【発明を実施するための形態】
【0024】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る送信回路1の構成の一例を示すブロック図である。図1において、送信回路1は、信号生成部10、IQマッピング部11、LPF(low-pass filter)12〜15、直交変調器16、振幅変調器17、振幅演算部18、制御部19、LUT(look-up table)20、及び加算器21を備える。ここで、LPF14,15、振幅演算部18、制御部19、LUT20、及び加算器21は、AM/PM歪みを補償するための構成であるので、補償部22と記すことができる。
【0025】
信号生成部10は、入力信号に基づいて、振幅信号m、IP,QP信号、及び位相信号θを生成する。ここで、入力信号は、I成分(in-phase component)からなるI信号(in-phase signal)、及びQ成分(quadrature phase component)からなるQ信号(quadrature phase signal)である。振幅信号mは、(式3)を用いて表すことができる。IP,QP信号は、(式4)を用いて表すことができる。位相信号θは、(式5)を用いて表すことができる。
【0026】
【数3】

【数4】

【数5】

【0027】
図2は、信号生成部10の詳細な構成の一例を示すブロック図である。図2において、信号生成部10は、信号変換部101、102から構成される。信号変換部101は、I,Q信号を、極座標系の信号であり、I,Q信号の大きさを示す振幅信号m、及びI,Q信号の位相成分を示す位相信号θに変換する。振幅信号mは、上述した(式3)で表すことができる。位相信号θは、上述した(式5)で表すことができる。信号変換部102は、位相信号θをI成分、及びQ成分からなる信号である、IP、QP信号に変換する。IP、QP信号は、上述した(式4)を用いて表すことができる。
【0028】
信号生成部10から出力された位相信号θは、加算器21に入力される。加算器21は、位相信号θと、制御部19の出力信号θcompとを加算して、位相信号θ'を出力する。位相信号θ'は、(式6)で表すことができる。制御部19の動作の詳細については後述する。
【0029】
【数6】

【0030】
IQマッピング部11は、位相信号θ'をI成分からなるIP'信号、及びQ成分からなるQP'信号に変換する。IP',QP'信号は、(式7)を用いて表すことができる。
【数7】

【0031】
P',QP'信号は、LPF12,13に入力される。LPF12,13は、IP',QP'信号を所定のカットオフ周波数で帯域制限し、IP',QP'信号から不要な成分を除去する。具体的には、LPF12,13は、IP',QP'信号がデジタル信号であれば、IP',QP'信号から量子化雑音を除去し、IP',QP'信号がDA変換したあとのアナログ信号であれば、IP',QP'信号からDA変換による高調波であるイメージ信号を除去する。ここで、LPF12,13は、互いに同様の特性を備えるものとする。IP',QP'信号が互いに直交するだけで同様の性質の信号であるからである。そのため、LPF12,13は、1つのフィルタによって構成されてもよい。
【0032】
P',QP'信号は、LPF12,13で不要な成分が除去された後、直交変調器16に入力される。直交変調器16は、LPF12,13を介して入力されたIP',QP'信号を直交変調し、高周波信号Piを出力する。高周波信号Piは、振幅変調器17に入力される。振幅変調器17は、高周波信号Piを振幅信号mで振幅変調し、送信信号Poを出力する。
【0033】
ここで、直交変調器16に入力されるIP',QP'信号は、LPF12,13を通過しているため、IP',QP'信号の高周波成分が失われ、LPF12,13の後ろでは、IP',QP'信号で構成されるベクトルの大きさが変動することになる。このため、図14で示したように、直交変調器16が出力する高周波信号Piの包絡線が変動し、振幅変調器17の相対通過位相が変化することになる。ここで、相対通過位相は、線形領域での位相変化がない領域を0と規格化したときに、非線形領域での0からの変化量で定義される。この相対通過位相をΦとすると、補償部22が動作しなければ、振幅変調器17が出力する送信信号PoにはΦのAM/PM歪みが含まれることになる。
【0034】
補償部22は、IP',QP'信号がLPF12,13を通過することによって発生する高周波信号Piの包絡線の変動を予測し、当該予測した包絡線の変動に基づいて、送信信号Poに含まれるAM/PM歪みを補償する。以下、補償部22の動作について説明する。
【0035】
補償部22において、LPF14,15は、LPF12,13と同様の特性を有する。これは、LPF14,15を用いて、LPF12,13を通過することによって発生する高周波信号Piの包絡線の変動を予測するためである。LPF14,15には、信号生成部10からIP,QP信号が入力される。LPF14,15は、IP,QP信号を所定のカットオフ周波数で帯域制限し、IPL、QPL信号を出力する。
【0036】
また、LPF14,15は、互いに同様の特性を備えるものとする。これは、IP,QP信号が互いに直交するだけで同様の性質の信号であるからである。そのため、LPF14,15は、1つのフィルタによって構成されてもよい。
【0037】
P,QP信号は、LPF14,15を介して、IPL、QPL信号として、振幅演算部18に入力される。振幅演算部18は、IPL,QPL信号から振幅信号Mを算出する。振幅信号Mは、(式8)を用いて表すことができる。
【数8】

【0038】
制御部19には、振幅演算部18が出力する振幅信号Mと、信号生成部10が出力する位相信号θとが入力される。制御部19は、振幅信号Mの大きさに対応した係数θcomp0をLUT20から読み出し、当該読み出した係数θcomp0に基づいて、振幅信号Mに対応した位相補償量θcompを算出する。また、制御部19は、振幅信号Mの大きさ近傍の係数θcomp0をLUT20から読み出し、当該読み出した係数θcomp0を補間することにより、振幅信号Mに対応した位相補償量θcompを算出してもよい。ここで、LUT20に格納された係数θcomp0について説明する。
【0039】
図3Aは、振幅変調器17の相対通過位相Φの一例を示す図である。図3Aに示すように、振幅変調器17に入力される高周波信号Piの包絡線の大きさが、Pi1〜Pinと変化するに従って、相対通過位相ΦもΦ1〜Φnと変化する。ただし、nは任意の自然数を表す。
【0040】
図3Bは、LUT20の格納されている係数θcomp0の一例を示す図である。図3Bに示すように、LUT20には、振幅演算部18が出力する振幅信号Mの大きさ(Pi1〜Pin)に対応した係数θcomp0(−Φ1〜−Φn)が予め格納されているものとする。すなわち、LUT20には、上述した振幅変調器17の相対通過位相Φと逆特性の関係を示す係数θcomp0が格納される。
【0041】
加算器21は、位相信号θと、制御部19の出力信号(すなわち、位相補償量θcomp)とを加算して、位相信号θ'を出力する。位相信号θ'は、(式6)を用いて表したとおりである。
【0042】
このように、補償部22は、LPF14,15を通過したIPL、QPL信号のベクトルの大きさ(すなわち、振幅信号M)を算出することで、IP',QP'信号がLPF12,13を通過することによって発生する高周波信号Piの包絡線の変動を予測する。そして、補償部22は、算出した振幅信号Mに基づいて、振幅変調器17の相対通過位相Φを補償するための位相補償量θcomp(−Φ)を算出し、位相信号θに位相補償量θcompを加算する。これによって、補償部22は、送信信号Poに含まれるAM/PM歪みを補償する。
【0043】
以上のように、本発明の第1の実施形態に係る送信回路1によれば、補償部22が送信信号Poに含まれるAM/PM歪みを補償することで、低歪みかつ高効率に動作することができる。
【0044】
なお、送信回路1は、図4に示す送信回路1aのように、DAC(digital to analog converter)23〜25、及びLPF26をさらに備える構成であってもよい。DAC23、24は、IQマッピング部11が出力したIP',QP'信号をデジタル−アナログ変換する。DAC25は、信号生成部10が出力した振幅信号mをデジタル−アナログ変換する。LPF26は、アナログ信号である振幅信号mから、イメージ信号を除去する。
【0045】
また、補償部22は、LUT20を必ずしも備える必要はなく、制御部19が所定の演算によって、位相補償量θcompを算出するものであってもよい。
【0046】
(第2の実施形態)
図5は、本発明の第2の実施形態に係る送信回路2の構成の一例を示すブロック図である。図5において、第2の実施形態では、振幅変調器17aの相対通過位相Φが、振幅変調器17aに入力される高周波信号Piの包絡線の大きさに加えて、信号生成部10が出力する振幅信号mの大きさによっても変化することを想定する。第2の実施形態に係る送信回路2は、補償部22aの動作が、第1の実施形態と異なる。以下、補償部22aの動作について説明する。
【0047】
図6Aは、振幅変調器17aの相対通過位相Φの一例を示す図である。図6Aに示すように、振幅変調器17aの相対通過位相Φは、振幅変調器17aに入力される高周波信号Piの包絡線の大きさ、及び振幅信号mの大きさによっても変化する。例えば、振幅信号mの大きさがm1であるとき、高周波信号Piの包絡線の大きさがPi1〜Pinと変化するのに従って、相対通過位相ΦもΦ11〜Φn1と変化する。また、振幅信号mの大きさがmsであるとき、高周波信号Piの包絡線の大きさがPi1〜Pinと変化するのに従って、相対通過位相ΦもΦ1s〜Φnsと変化する。ただし、n,sは、任意の自然数である。
【0048】
図6Bは、LUT20aの格納されている係数θcomp0の一例を示す図である。図6Bに示すように、LUT20aには、振幅演算部18が出力する振幅信号Mの大きさ(Pi1〜Pin)、及び振幅信号m(m1〜ms)の大きさに対応した係数θcomp0(−Φ11〜−Φns)が予め格納されているものとする。すなわち、LUT20aには、上述した振幅変調器17aの相対通過位相Φと逆特性の関係を有する係数θcomp0が格納される。
【0049】
制御部19aには、振幅演算部18が出力する振幅信号Mと、信号生成部10が出力する位相信号θに加えて、信号生成部10が出力する振幅信号mが入力される。制御部19aは、振幅信号Mの大きさ、及び振幅信号mの大きさに対応した係数θcomp0をLUT20aから読み出し、当該読み出した係数θcomp0に基づいて、振幅信号M及び振幅信号mに対応した位相補償量θcompを算出する。また、制御部19aは、振幅信号Mの大きさ、及び振幅信号mの大きさ近傍の係数θcomp0をLUT20aから読み出し、当該読み出した係数θcomp0を補間することにより、振幅信号M及び振幅信号mに対応した位相補償量θcompを算出してもよい。この他の動作は、第1の実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0050】
このように、補償部22aは、LPF14,15を通過したIPL、QPL信号のベクトルの大きさ(すなわち、振幅信号M)を算出することで、IP',QP'信号がLPF12,13を通過することによって発生する高周波信号Piの包絡線の変動を予測する。そして、補償部22aは、算出した振幅信号Mと、信号生成部10が出力した振幅信号mとに基づいて、振幅変調器17の相対通過位相Φを補償するための位相補償量θcomp(−Φ)を算出し、位相信号θに位相補償量θcompを加算する。これによって、補償部22aは、送信信号Poに含まれるAM/PM歪みを補償する。
【0051】
以上のように、本発明の第2の実施形態に係る送信回路2によれば、補償部22aが送信信号Poに含まれるAM/PM歪みを補償することで、低歪みかつ高効率に動作することができる。また、送信回路2は、第1の実施形態と比較して、振幅信号mの変動が大きい場合にも、送信信号Poに含まれるAM/PM歪みを精度よく補償することができる。
【0052】
なお、送信回路2は、図7に示す送信回路2aのように、DAC(digital to analog converter)23〜25、及びLPF26、27をさらに備える構成であってもよい。DAC23、24は、IQマッピング部11が出力したIP',QP'信号をデジタル−アナログ変換する。DAC25は、信号生成部10が出力した振幅信号mをデジタル−アナログ変換する。LPF26は、アナログ信号である振幅信号mから、イメージ信号を除去する。LPF27は、デジタル信号である振幅信号mから量子化雑音を除去する。
【0053】
(第3の実施形態)
図8は、本発明の第3の実施形態に係る送信回路3の構成の一例を示すブロック図である。図8において、第3の実施形態に係る送信回路3は、第1の実施形態に係る送信回路1と比較して、直交変調器16と振幅変調器17との間にリミッタ(limiter)27をさらに備える。リミッタ28は、直交変調器16が出力する高周波信号Piの包絡線の変動抑える働きをする。
【0054】
補償部22bは、振幅変調器17で発生するAM/PM歪みを補償する代わりに、リミッタ28でのAM/PM歪みを補償する。具体的には、補償部22bは、LPF14,15を通過したIPL、QPL信号のベクトルの大きさ(すなわち、振幅信号M)を算出することで、IP',QP'信号がLPF12,13を通過することによって発生する高周波信号Piの包絡線の変動を予測する。そして、補償部22bは、算出した振幅信号Mに基づいて、リミッタ28でのAM/PM歪みを補書するための位相補償量θcomp(−Φ)を算出し、位相信号θに位相補償量θcompを加算する。これによって、補償部22bは、送信信号Poに含まれるAM/PM歪みを補償することができる。他の動作は、第1の実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0055】
以上のように、本発明の第3の実施形態に係る送信回路3によれば、リミッタ28には、振幅信号mが入力されないので、AM/PM特性が安定しており、良好な歪み補償が可能となる。
【0056】
なお、送信回路3は、図9に示す送信回路3aのように、DAC(digital to analog converter)23〜25、及びLPF26をさらに備える構成であってもよい。DAC23、24は、IQマッピング部11が出力したIP',QP'信号をデジタル−アナログ変換する。DAC25は、信号生成部10が出力した振幅信号mをデジタル−アナログ変換する。LPF26は、アナログ信号である振幅信号mから、イメージ信号を除去する。
【0057】
なお、第1の実施形態に係る送信回路1は、振幅信号m(すなわち、送信信号Poの包絡線)の変動が比較的小さい変調方式に適用するのに有用である。振幅信号mの変動が小さい変調方式としては、例えば、GSM(Global System for Mobile Communications)やEDGE(Enhanced Data GSM Environment)等の通信方式がある。
【0058】
また、第2の実施形態に係る送信回路2は、振幅信号m(すなわち、送信信号Poの包絡線)の変動が比較的大きい変調方式に適用するのに有用である。これは、振幅信号mの変動が大きいほど、AM/PM歪みも大きくなるからである。振幅信号mの変動が大きい変調方式としては、例えば、UMTS(Universal Mobile Telecommunications System)や、3GLTE/WiMAX(3rd Generation Long Term Evolution / Worldwide Interoperability for Microwave Access)等の方式が挙げられる。
【0059】
次に、第1〜3の実施形態に係る送信回路におけるLUT20、21aに格納される係数θcomp0の設定方法について説明する。図10は、振幅演算部18で算出される振幅信号Mの時間波形の一例を示す図である。第1の方法は、図10に示すように、振幅信号Mの大きさが変動する全範囲(すなわち、A1の範囲)に渡って、LUT20,21aに係数θcomp0を設定する方法である。第1の方法では、LUT20,20aのメモリサイズが大きくなるが、細かな制御が可能となる。
【0060】
第2の方法は、所定の存在確率以上の振幅信号Mの大きさの範囲(すなわち、A2の範囲)にだけ、係数θcomp0を設定する方法である。なお、振幅信号Mの大きさがA2の範囲をはみ出した場合には、はみ出した振幅信号Mに最も近い係数θcomp0を使えばよい。第2の方法では、LUT20,20aのメモリサイズを小さくすることができる。
【0061】
(第4の実施形態)
図11は、本発明の第4の実施形態に係る通信機器200の構成の一例を示すブロック図である。図9を参照して、第4の実施形態に係る通信機器200は、送信回路210、受信回路220、アンテナ共用部230、及びアンテナ240を備える。送信回路210には、上述した第1〜3の実施形態に記載の送信回路が用いられる。アンテナ共用部230は、送信回路210から出力された送信信号をアンテナ240に伝達し、受信回路220に送信信号が漏れるのを防ぐ。また、アンテナ共用部230は、アンテナ240から入力された受信信号を受信回路220に伝達し、受信信号が送信回路210に漏れるのを防ぐ。
【0062】
従って、送信信号は、送信回路210から出力され、アンテナ共用部230を介してアンテナ240から空間に放出される。受信信号は、アンテナ240で受信され、アンテナ共用部230を介して受信回路220で受信される。第4の実施形態に係る通信機器200は、第1〜3の実施形態に係る送信回路を用いることで、送信信号の線形性を確保しつつ、かつ無線装置としての低歪みを実現することができる。また、送信回路210の出力に方向性結合器などの分岐がないため、送信回路210からアンテナ240までの損失を低減することが可能であり、送信時の消費電力を低減することができ、無線通信機器として、長時間の使用が可能となる。また、通信機器200は、送信回路210が受信帯域と重なる帯域に含まれる雑音を低減することで、送信回路210で発生した雑音が、受信回路220の受信品質に悪影響を与えることを防止することができる。なお、通信機器200は、送信回路210とアンテナ240とのみを備えた構成であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に係る送信回路は、携帯電話や無線LAN等の通信機器等に適用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1〜3 送信回路
10 信号生成部
11 IQマッピング部
12〜15、26、27 LPF
16 直交変調器
17 振幅変調器
18 振幅演算部
19、19a 制御部
20、20a LUT
21 加算器
22、22a、22b 補償部
23〜25 DAC
28 リミッタ
101、102 信号変換部
200 通信機器
210 送信回路
220 受信回路
230 アンテナ共振器
240 アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信信号を出力する送信回路であって、
入力信号に所定の信号変換処理を施し、第1のI、Q信号と、前記入力信号の位相成分を示す位相信号と、前記入力信号の大きさを示す第1の振幅信号とを生成する信号生成部と、
前記位相信号を第2のI,Q信号に変換するIQマッピング部と、
前記第2のI,Q信号の不要成分を除去する第1のLPFと、
前記第1のLPFを介して入力された前記第2のI,Q信号を直交変調し、高周波信号を出力する直交変調器と、
前記高周波信号を前記第1の振幅信号で振幅変調し、前記送信信号として出力する振幅変調器と、
前記第1のI,Q信号に基づいて、前記送信信号に含まれるAM/PM歪みを補償する補償部とを備え、
前記補償部は、
前記第1のLPFと同様の特性を有する第2のLPFと、
前記第2のLPFを介して入力された前記第1のI,Q信号の大きさを示す第2の振幅信号を算出する振幅演算部と、
前記第2の振幅信号の大きさに対応した係数が予め格納されているLUTと、
前記第2の振幅信号の大きさに対応した係数を前記LUTから読み出し、当該読み出した係数に基づいて、前記第2の振幅信号に対応した位相補償量を算出する制御部と、
前記位相信号に、前記位相補償量を加算する加算器とを備える、送信回路。
【請求項2】
前記制御部は、前記第2の振幅信号の大きさ近傍の係数を前記LUTから読み出し、当該読み出した係数を補間することで、前記第2の振幅信号に対応した前記位相補償量を算出することを特徴とする、請求項1に記載の送信回路。
【請求項3】
前記LUTには、前記振幅変調器の相対通過位相と逆特性の関係を有する係数が格納されることを特徴とする、請求項1に記載の送信回路。
【請求項4】
前記LUTには、前記第1の振幅信号の大きさ、及び前記第2の振幅信号の大きさに対応した係数が格納されることを特徴とする、請求項3に記載の送信回路。
【請求項5】
前記制御部は、前記第1の振幅信号の大きさ、及び前記第2の振幅信号の大きさに対応した係数を前記LUTから読み出し、当該読み出した係数に基づいて、前記第1の振幅信号及び前記第2の振幅信号に対応した前記位相補償量を算出することを特徴とする、請求項4に記載の送信回路。
【請求項6】
前記制御部は、前記第1の振幅信号の大きさ、及び前記第2の振幅信号の大きさ近傍の係数を前記LUTから読み出し、当該読み出した係数を補間することで、前記第1の振幅信号及び前記第2の振幅信号に対応した前記位相補償量を算出することを特徴とする、請求項5に記載の送信回路。
【請求項7】
前記信号生成部は、
前記入力信号を前記位相信号と、前記第1の振幅信号とに変換する第1の信号変換部と、
前記位相信号を前記第1のI,Q信号に変換する第2の信号変換部とを備え、
前記入力信号をI,Qで表し、前記位相信号をθで表し、前記第1のI,Q信号をIP,QPで表し、前記第1の振幅信号をmで表すと、I,P、θ、IP,QP、mの間には、下記式の関係が成立することを特徴とする、請求項1に記載の送信回路。
【数9】

【請求項8】
前記直交変調器と、前記振幅変調器との間に、前記高周波信号の包絡線の変動を抑えるリミッタをさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の送信回路。
【請求項9】
通信機器であって、
送信信号を生成する送信回路と、
前記送信回路で生成された送信信号を出力するアンテナとを備え、
前記送信回路は、請求項1に記載の送信回路であることを特徴とする、通信機器。
【請求項10】
前記アンテナから受信した受信信号を処理する受信回路と、
前記送信回路で生成された送信信号を前記アンテナに出力し、前記アンテナから受信した受信信号を前記受信回路に出力するアンテナ共用部とをさらに備えることを特徴とする、請求項9に記載の通信機器。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−103536(P2011−103536A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257077(P2009−257077)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.GSM
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】