説明

送信電力増幅装置

【課題】送信電力増幅部が過熱状態になった場合においても、発熱量を減少させることによって電力素子の焼損や破壊を防止しつつ送信機能を維持できるように構成した送信電力増幅器を提供する。
【解決手段】
高周波電力増幅部の出力電力Poutを検出する手段、供給電流I・電圧Vとから送信電力増幅器供給電力Pin検出手段、PinとPoutとの差から熱電力量Pheatを算出する手段、熱電力量Pheatが設定した許容発熱電力閾値を越えた場合、高周波電力増幅部に供給する電源電圧を制御する手段備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は送信電力増幅装置に関し、詳しくは、過熱状態においても送信を継続可能な無線送信機の電力増幅装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無線送信機の電力増幅装置、特に、終段電力増幅部の増幅素子(パワートランジスタ等)は、通常発熱量が大きく、その冷却のために種々の放熱手段が設けられている。例えば、増幅素子をアルミニュームや銅等の熱伝導性の高い金属で作られた放熱器に熱伝導性ペーストを塗布して密着させるように固定する方法が一般的であるが、更に、放熱効果を高める必要がある場合は、強制空冷用のファンを取り付ける場合や、液体冷却手段を備える場合もある。
また、無線送信機の電力増幅装置は、通常、増幅した高周波信号をアンテナに供給するが、電力増幅装置とアンテナとのインピーダンスの整合状態が損なわれると、その不整合度合いに応じてアンテナ端から送出電力の一部が反射し、増幅素子において熱となって発熱量が大きくなる。特に、移動無線用送信機では、通常、棒状の単一アンテナ(ホイップアンテナと称される)が使用されるが、ホイップアンテナは周囲環境によってアンテナインピーダンスが大きく変動する傾向があるので、インピーダンス不整合状態が頻発し、それに伴う発熱も大きくなる。
過熱状態が継続すると、パワートランジスタ等の半導体の接合部(ジャンクション)が破壊されて使用不可能になる。
【0003】
そこで従来から送信電力増幅装置では、一定値以上に高温度になると強制的に電力供給を遮断して半導体増幅素子の破壊を防止する機能が備えられている。なお、従来から無線送信機には、周囲の温度変化や電源電圧の変動、あるいはアンテナと送信電力増幅装置との間のインピーダンス整合状態変化に伴う出力電力レベルの変動を補正して、送信電力値を一定に保つための手段が備えられている場合が多いが、その目的は、過熱状態に対応して送信電力レベルを制御するものではない。
このような送信電力値を一定に保つことを目的とするものとしては、例えば、特許文献1に記されたものが開示されている。
特許文献1は、周囲温度が変動しても送信電力レベルを一定に保つために、増幅器の利得制御を行うもので、増幅器の利得制御信号を、感温素子(サーミスタ)により補正し、温度変化に伴う出力電力の変動を一定にするように構成したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−7149公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の送信電力増幅装置は、送信電力レベルを一定に保つことを目的としたもので、送信電力増幅装置が過熱状態になった際には強制的に送信を停止するものであった。このため、例えば、緊急時であっても送信電力増幅装置が過熱状態になると、一切、通信が不可能になるという問題があった。また、緊急時以外でも、通信を継続できれば便利な場合も多々存する。例えば、アマチュア無線通信運用において、希にしか通信できない遠隔地の珍しい無線局と連絡がとれた場合には、少なくとも互いのロケーションや通信レポート等の交換が完了できれば非常に便利である。
従来のように、増幅器の利得を制御して送信電力を減少することによって増幅器の発熱量を小さくできる場合があるが、アンテナインピーダンスとの不整合に起因する発熱は、利得を小さくしても低減できない場合があった。
本発明は、このような従来の送信電力増幅装置に関する諸事情に鑑みてなされたものであって、過熱状態になる前にその予兆を検出し、送信電力増幅装置に供給する電源電力を低減することによって、送信動作を継続可能にした送信電力増幅装置、又は、過熱状態になっても送信を継続できるように工夫した送信電力増幅装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の問題を解決するために、本発明に係る送信電力増幅装置は、高周波電力増幅部と、可変電圧電源供給部と、高周波電力増幅部から外部に出力される出力電力Poutを検出する手段を含む送信電力増幅装置において、前記高周波電力増幅部に供給する電流Iと電圧Vとから高周波電力増幅部への供給電力Pinを求める手段と、高周波電力増幅部への供給電力Pinと出力電力Poutとの差から高周波電力増幅部において熱として消費される熱電力量Pheatを算出する手段と、求めた熱電力量Pheatと予め設定した許容発熱電力閾値Pcomとを比較する手段と、熱電力量Pheatが許容発熱電力閾値Pcomを越えた場合、可変電圧電源供給部から高周波電力増幅部に供給する電源電圧Vを制御する手段と、を備えたことを特徴とする。
この構成によれば、増幅素子の許容損失電力(許容熱電力)に対応して閾値(Pcom)を決定し記憶しておき、送信電力増幅装置が動作中に計算するPheat(=Pin−Pout)が前記閾値(Pcom)を越えた場合、可変電圧電源を制御して、送信電力増幅部1に供給する電力の電圧値を低下させ、実際に増幅素子が過熱(オーバヒート)する前に、その可能性(予兆)を推定して送信電力増幅部1に供給する電力量が減少するので、送信動作を継続することができる。
一般的に、増幅素子に供給する電力による熱が、放熱器を含む増幅素子の全体に及ぶまでには僅かであるが時間を要するので、過熱状態をもたらす電力量を検出して、それを減少させれば、過熱状態を回避できる。即ち、温度センサにより放熱器の温度を検出するまでに所用の時間を要することから、高温度が検出された後に供給電力を低減しても、直ちに温度が低下しない。一旦、過熱状態になると継続して送信動作を維持することが困難であるが、本発明では過熱状態になる前に、その予兆を検出して発熱量を低減するので、熱的ストレスを伴うことなく送信動作を継続することが可能である。
【0007】
また、本発明の送信電力増幅装置は、高周波電力増幅部と、可変電圧電源供給部と、前記高周波電力増幅部から外部に出力する出力電力Poutを検出する手段を含む送信電力増幅装置において、前記高周波電力増幅部に近接配置した温度検出手段と、求めた温度と予め設定した許容発熱温度閾値とを比較する手段と、高周波電力増幅部の温度が許容発熱温度閾値を越えた場合、可変電圧電源供給部から高周波電力増幅部に供給する電源電圧を制御する手段と、を備えたことを特徴とする。
この方法によれば、前記発明に比して、電流検出手段や電圧検出手段が不要となるのでコスト低減や小型化が可能である。なお、過熱状態(オーバーヒート)を避けるために、電源電圧を低減する時期を検出するための許容発熱温度閾値を比較的低めに設定しておけば、前記発明と同様にオーバーヒートすることなく送信動作を継続することが可能であろう。但し、前記発明と比較して反応速度や精度の低下を招く可能性が多少高くなることを考慮しておくべきある。
【0008】
また、本発明では、既に説明した高周波電力増幅装置において、更に、高周波電力増幅部に供給する信号のレベルを制御する手段を備え、高周波電力増幅部に供給する電源電圧と同時に信号のレベルを制御するように構成したことを特徴とする。
この構成によれば、供給電源電圧を低下したことによる飽和歪みを小さくすることができるので、増幅器の直線性を要するAM変調等の信号の送信電力増幅装置として適したものとなる。
【0009】
また、本発明の送信電力増幅装置では、前記の各発明において、更に、増幅する信号の変調形式信号供給手段と、供給された変調形式に応じて可変電圧電源供給部から高周波電力増幅部に供給する電源電圧の制御値を変更するように構成したことを特徴とする。
この構成によれば、AM変調方式やFM変調方式のように、増幅回路に要求される直線性が異なる場合に、自動的に夫々の変調方式や電波形式に応じて適した電源電圧の制御が可能となる。
【0010】
更に本発明は、上述した送信電力増幅装置において、高周波電力増幅部から外部に出力する出力電力Poutを検出する手段が方向性結合器であり、この方向性結合器により進行波レベルと反射波レベルを検出することによって高周波電力増幅部とアンテナとのインピーダンス整合状態を判断し、可変電圧電源供給部から高周波電力増幅部に供給する電源電圧を制御する際に、整合状態が改善される電源電圧になる値に制御することを特徴とする。即ち、電源電圧値を変更すると多くの場合は整合ずれを起こすが、稀に、整合状態が改善される場合があるので、本発明に従って電源電圧を変更する際に、整合状態を監視しながら電源電圧を低減し、整合状態が改善される状態が検出された場合は、その値に設定する。整合状態が改善されれば、改善の度合いに応じて発熱量が減少するので、電源電圧の減少量を小さくして送信電力の減少分量を少なくすることができる。この方法によれば、整合回路の再調整を行うことなく、あるいは再整合が必要な場合であっても、整合処理時間を短縮できる可能性がある。
【0011】
また本発明の送信電力増幅装置は、上記各発明において、高周波電力増幅部とアンテナ端子間に、機械的又は電子的にインピーダンスを変化させるインピーダンス可変素子回路を挿入し、可変電圧電源供給部から高周波電力増幅部に供給する電源電圧を制御する際に、整合状態が改善されるようにインピーダンス可変素子回路を制御するように構成したことを特徴とする。
この構成では、上記発明において電源電圧値を低減した結果、整合状態が改善されない場合、あるいは整合状態が劣化した場合に、整合回路(送信フィルタも含む)等で再整合を行うことにより、高周波電力増幅部とアンテナとのインピーダンス整合状態を改善するものである。従って、より一層正確にインピーダンス整合状態を図ることが可能であり、増幅素子における発熱量を小さくすることができるので、継続して送信する電力レベル低下を防止する上で効果がある。
【発明の効果】
【0012】
本発明は以上説明したように、過熱状態、又はその可能性があるとき、送信電力増幅装置の増幅素子に供給する電源電圧を低減するように構成したので、発熱量が小さくなり、送信動作を継続することが可能となる。従って、緊急通信時等に、増幅素子の焼損や熱劣化を防止しつつ、送信を継続することが可能である。特に、過熱する前に発熱の原因となる電力量を検出し、実際に増幅素子が過熱する前に発熱量を低減できるので、増幅素子の熱による劣化を防止する効果もある。なお、その状態で送信動作を維持するが、その後検出する熱電力量が閾値以下になれば、再び、供給電源電圧を通常値に戻して定格電力による送信を行えばよい。また、温度検出手段を備えた発明では、温度が閾値以下に低下した場合に、再び、供給電源電圧を通常値に戻して定格電力による送信を行うように構成することもできる。なお、無線送信機の送信電力値の上限値、下限値は電波法や関連法規に規定されているので、その範囲内で制御すべきことは言うまでもないが、下限値は上限値に比べて比較的広範囲に規定されている場合が多いので、本発明を実施する上では何等不都合は無いであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る送信電力増幅装置の一例を示すブロック図。
【図2】本発明に係る送信電力増幅装置の変形例を示すブロック図。
【図3】本発明に係る送信電力増幅装置の変形例を示すブロック図。
【図4】本発明に係る送信電力増幅装置の変形例を示すブロック図。
【図5】本発明に係る送信電力増幅装置の変形例を示すブロック図。
【図6】本発明に係る送信電力増幅装置の変形例を示すブロック図。
【図7】従来の送信電力増幅装置の発熱量を検討するためのブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について説明するが、その前に、送信電力増幅装置における発熱について考察する。
【0015】
今、例えば図7に示すような送信電力増幅装置を想定する。即ち、図7において、101は高周波電力増幅部であって、その出力端を、方向性結合器(CM)102と、送信フィルタ103を介してアンテナ接続端104に接続し、電源部105から前記送信電力増幅部101に電力を供給する。更に、高周波電力増幅部101への電力供給ルート中に電流検出手段(A)106と電圧検出手段(V)107を設け、それらの検出信号及び前記方向性結合器102の検出信号に基づいて熱量計算を行う演算回路(CPU)108と、前記高周波電力増幅部101の信号入力端に設けた可変減衰器(VATT:Variable ATT)109を備えるように構成したものである。
【0016】
この回路において、高周波電力増幅部101への供給電力Pinは、電流検出器(A)により検出される電流値Iと、電圧検出器(V)により検出される電圧値Vの積(Pin=I・V)となる。また、方向性結合器102により、高周波電力増幅部101から出力される高周波信号の進行波レベル(Pout)を検出することができることは周知である。この状態において、高周波電力増幅部101に供給される電力Pinからアンテナ側に出力される送信電力(進行波成分Pout)を減じたものが高周波電力増幅部101において熱となる電力量であるとみなし得る。そこで、CPU108に電流検出値Iと、電圧検出値Vと、進行波検出値を供給し、必要な演算を行って、高周波電力増幅部101における発熱量に起因する熱電力量Pheat(=Pin−Pout)を求めることができる。なお、方向性結合器の構成や使用方法によって、進行波電力成分に反射電力成分が含まれる場合は、進行波電力成分から反射電力成分を差し引いた値が、ここで云うアンテナ側に出力される送信電力(進行波成分Pout)になる。
この回路において、可変減衰器(VATT)109によって高周波電力増幅101に入力する信号レベルを制御する場合を考えると、高周波電力増幅部101の出力電力値は増減できるが、必ずしも発熱量を減少させる効果が得られない。例えば、変調方式がAM(Amplitude Modulation)変調方式である場合は、増幅器として直線性を保つために入力信号の有無に拘わらず大きなバイアス電流(バイアス電圧)が設定されたA級増幅動作を行うので、入力信号レベルを減少させても送信電力増幅部における熱消費電力が減少する効果は少ない。
【0017】
図1は、本発明に係る送信電力増幅装置の一実施例を示すブロック図である。
この例に示す送信電力増幅装置は、電力増幅部1の出力端を、方向性結合器(CM)2と、送信フィルタ3を介してアンテナ接続端4に接続する。なお、前記方向性結合器(CM)2は、送信フィルタ3とアンテナ接続端4との間に配置しても良いが、ここでは送信電力増幅部1と送信フィルタ3の間に配置する場合を示している。但し、方向性結合器を本発明にのみ使用するのではなく、アンテナとインピーダンス整合状態の検出にも使用する場合は、送信フィルタとアンテナ端子間に挿入する方が好ましい場合もあるので、適宜方向性結合器の挿入場所は目的に応じて設定する。このことは以下の実施例においても同様である。
更に、この例では図7に示した例と異なり、電源部5として出力電圧を変更できる可変電圧電源を備え、高周波電力増幅部1に電力を供給するルートに電流検出手段(A)6と電圧検出手段(V)7を設け、それらの検出信号及び前記の方向性結合器2の検出信号を供給する演算回路(CPU)8と、以下詳述するような予め設定した閾値を記憶した閾値メモリ9を備えたものである。
【0018】
この構成において、CPU8により、電流検出手段(A)6の検出値I(アンペア)と電圧検出手段(V)7の検出値V(ボルト)とから、高周波電力増幅部1に供給される総合電力Pinを両者の積、Pin=I・V(ワット)として求めることができる。また、方向性結合器2によって、高周波電力増幅部1からアンテナに出力される高周波信号電力(進行波電力)Poutを求め、両者の差から、高周波電力増幅部1において熱となる電力量であるPheat(=Pin−Pout)を計算できることは、図7を使用して説明した場合と同様である。
この実施例では、前記閾値メモリ9に、高周波電力増幅部1に備えた放熱手段や使用する増幅素子(トランジスタやFET)の許容損失電力(許容熱量に依存する電力)、耐熱温度等の定格値に基づいて、許容温度に換算した消費電力値、即ち、高周波電力増幅部1において熱となる電力量であるPheat(=Pin−Pout)の許容値範囲のなかの値を閾値(Pcom)として記憶しておき、動作中に常時、又は、所用周期で計算するPheat(=Pin−Pout)を閾値(Pcom)と比較する。そして、Pheat(=Pin−Pout)が閾値(Pcom)を越えた場合、可変電圧電源5を制御して、高周波電力増幅部1に供給する電力の電圧値を低下させる。
【0019】
このように構成すれば、高周波電力増幅部1に供給する電力量が減少するので、入力信号値が一定ならば電源電圧の飽和度が増し、増幅効率が向上することになり、発熱量が小さくなった状態で送信動作を継続することができる。また、この方法によれば、増幅素子が実際に過熱する前に発熱の原因となる電力量を検出し、必要に応じて電力制限を行うので、増幅素子の熱による劣化を防止する効果もある。なお、電力量を制限後、上述した演算を周期的に繰返し、反射電力が減少し、Pheat(=Pin−Pout)が閾値(Pcom)を下回る状態が一定時間継続したら、可変電圧電源5を制御して高周波電力増幅部1に供給する電力の電圧値を定格値に復帰すれば、通常の電力での送信が可能となる。既に説明したように移動無線通信の運用では、アンテナのインピーダンスが周囲環境によって大幅に変動するので、一時的にインピーダンス整合状態が悪化して高周波電力増幅部の発熱量が増加することがあるので、本発明により、その間送信電力を低減して発熱量を抑制する効果は顕著である。
更に、周囲温度(気温)を検出する手段を備え、その温度検出データを参照して比較すべき閾値を補正するように構成すれば、精密な制御が可能であろう。即ち、周囲温度が高いときは、閾値電力量を小さくし、逆に、周囲温度が低いときは、ある程度大きな熱電力が発生しても冷却量が大きくなるので、許容できる熱電力を大きく設定することができる。
【0020】
また、前記方向性結合器2により進行波電力と反射電力が同時に検出できる場合は、進行波電力と反射電力との関係から、高周波電力増幅部1とアンテナ間の整合状態を検出し、整合状態が改善される状態の電源電圧値に制御することもできる。つまり、上述したように電源電圧を変化させると高周波電力増幅部1の出力インピーダンスが変化するが、不整合状態にあったインピーダンスマッチングが改善される可能性がある。そこで、本発明に従って電源電圧を変更する際に、整合状態を監視しながら電源電圧を低減し、整合状態が改善される状態が検出された場合は、その値に設定すれば、整合回路の再調整を行うことなく整合状態を改善できる場合があり得る。あるいは再整合が必要な場合であっても、整合状態が僅かでも改善されれば、再整合処理時間を短縮できる可能性がある。
しかし電源電圧を変更すれば、多くの場合は整合ずれを起こすので、整合回路(送信フィルタも含む)等で再整合を行うことで高周波電力増幅部とアンテナとのインピーダンス整合状態を最適化することができる。この手段については後述する。
【0021】
図2は、本発明に係る送信電力増幅装置の変形実施例を示すブロック図である。この実施例では、構成を簡略化することを目的として、図1に示した実施例から、高周波電力増幅部1と可変電圧電源5との間に配した電流検出手段(A)6と、電圧値検出手段(V)7を除去し、代わりに、温度センサ(temp)10を高周波電力増幅部1の増幅素子や放熱器に密接して配置するとともに、その検出信号をCPU8に供給する。更に、前記閾値メモリ9には、閾値(Pcom)として、増幅素子等の許容温度データに基づいて閾値温度(許容発熱温度閾値;Tcom)を格納しておく。温度センサとしては、例えば、サーミスタの温度による変化を利用するものが考えられる。
そして、温度センサ10の検出値(Ttemp)と閾値温度(Tcom)とを比較し、検出温度が閾値を超えた場合、上述した例と同様に、送信電力増幅部1への供給電源電圧を低下させる。この例によれば、電流検出手段や電圧検出手段、方向性結合器が不要になり、装置構成を簡略化できるので装置の小型化とコスト低減効果が得られる。また、閾値温度(Tcom)を若干低めに設定しておけば、深刻な過熱状態になる前に発熱電力量を低減できるので、図1の場合と同様に、過熱のストレス無しに送信継続可能となる。
【0022】
図3は、更に本発明に係る送信電力増幅装置の他の実施例を示すブロック図である。
この例では、高周波電力増幅部1の入力端に、可変減衰器(VATT)11を付加し、その制御をCPU8によって行うように構成した点が特徴的であり、その他の構成や動作は、図1に示したものと同じであるので、重複する説明は省略する。この例のように、高周波電力増幅部1に供給する信号のレベルを、電源電圧を制御する際に同時に制御すれば、電源電圧低下に伴う飽和歪みを小さくすることができる。従って、AM変調信号のように、増幅回路に直線性が要求される変調信号に対して本発明を実施する場合に適したものとなる。
【0023】
図4は、更に本発明の変形実施例を示す送信電力増幅装置のブロック図である。この例では、図2に示した温度センサを用いる実施例において、高周波電力増幅部1の前段に可変減衰器(VATT)11を付加し、その制御をCPU8によって行うように構成した点が特徴的であり、その他の構成や動作は、図2に示したものと同じであるので、重複する説明は省略する。
この例の構成によれば、図3と同様に、高周波電力増幅部1に供給する信号のレベルを、電源電圧と同時に制御すれば、電源電圧低下に伴う飽和歪みを小さくすることができ、直線性が要求される振幅変調信号に対して本発明を適用する上で有用である。
【0024】
図5及び図6は、更に、本発明の変形実施例を示すブロック図であり、図5は前記図1、図3の変形例、図6は図2、図4に示したものの変形例であり、夫々、変調方式設定手段12を付加した点が特徴的である。
既に説明したように、電波形式、あるいは増幅すべき送信信号の変調方式によって、要求される増幅器の直線性が異なり、それに伴って増幅回路の方式が異なる。例えば、AM変調の振幅変調信号に対する増幅は直線性に優れたA級増幅回路が使用されるが、FM(Frequency Modulation:周波数変調)では効率が高くなるように電源電圧を飽和させて使用するC級乃至F級増幅回路が使用される。従って、本発明の実施にあたっては、必要に応じて電源電圧を制御する際に、変調方式や電波形式に対応して電源電圧の制御量を変更することが望ましい。特に、電源電圧を低減する場合は、電源電圧低下に伴う飽和歪みに注意する必要があるので、図5、図6に示すようにその時増幅対象とした信号の電波形式、あるいは変調方式を指定する変調方式設定手段12を備え、その信号をCPU8に供給することによって、不具合な飽和歪みが発生しないように電源電圧値を低減するように構成する。
【0025】
より具体的には、例えば、図示を省略したメモリに、変調方式や電波形式に対する電源低下率や減少幅を対応付けたデータ(対照表、マトリクス表)を記憶しておき、変調方式設定手段から変調方式が指定された際、メモリを参照して低減する電圧値を決定する。なお、変調方式設定手段を、図示を省略した無線機の制御手段を操作して変調方式、電波形式が切替えられた際の信号に連動するように構成すれば、無線通信機運用時に、自動的に変調方式が設定される。なお、電源電圧を変更する形態としては、FM変調信号のように電源電圧を飽和状態で使用する変調方式の場合にのみ電源電圧を低減させ、AM変調のように増幅器の直線性が必要な場合は電圧を低減しないか、あるいは電源電圧が飽和しない範囲内で電源電圧を低減することも考えられる。歪みの発生度合いは、例えば、方向性結合器により反射電力を監視することによっても検出することができる。
図5、図6の例のその他の動作については、既に説明した他の実施例と同様であるので説明は省略する。
【0026】
本発明は、以上説明した実施例に限定する必要はなく、種々変形が可能である。
例えば、前記方向性結合器2によってアンテナに出力する電力量を検出する場合を示したが、もし、方向性結合器2において反射電力量を同時に検出可能である場合は、電流、電圧計測手段や温度センサを使用することなく、反射電力と進行波電力との関係から、そのときの送信電力増部の発熱量を推定して、電源電圧を低減することも可能であろう。あるいは、その手段と、電流・電圧検出による発熱電力算出手段、温度センサによる温度検出手段を適宜組み合わせて、より精密に熱電力量の発生を推定することも可能であろう。
【0027】
また、前記高周波電力増幅部とアンテナ端子間に、機械的又は電子的にインピーダンスを変化させる可変容量等のインピーダンス可変素子回路を挿入し、可変電圧電源供給部から高周波電力増幅部に供給する電源電圧を制御する際に、アンテナとのインピーダンス整合状態が改善されるように、インピーダンス可変素子回路を制御してもよい。この整合回路は、コイルと可変容量ダイオードとの逆L回路やπ回路であれば目的を達成することができる。更に、整合回路中の可変容量ダイオードに印加する制御電圧を所用電圧範囲で変化させることによって整合状態が改善されるポイントを探して設定することもできる。
この構成によれば、より一層、インピーダンス整合状態を改善することになり、増幅素子における発熱量を小さくすることができるので、継続する送信電力のレベル低下を防止する上で効果がある。
なお、電圧可変電源としては、種々のものが考えられるが、例えば、パルス幅変調方式の電源回路によれば、迅速に、しかも任意の電圧に電源電圧を変更できるので、本発明の電圧可変電源手段として使用可能であろう。
【符号の説明】
【0028】
1、PA 高周波電力増幅部、2 方向性結合器、3 送信フィルタ、4 アンテナ接続端、5 可変電圧電源、6 電流計(電流検出手段)、7 電圧計(電圧検出手段)、8 CPU、9 閾値メモリ、10 温度センサ、11 可変減衰器、12 変調方式設定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波電力増幅部と、可変電圧電源供給部と、前記高周波電力増幅部から外部に出力される出力電力Poutの検出手段を含む送信電力増幅装置において、前記高周波電力増幅部に供給する電流Iと電圧Vとから送信電力増幅器への供給電力Pinを求める手段と、前記送信電力増幅器供給電力Pinと出力電力Poutとの差から当該高周波電力増幅部において熱として消費される熱電力量Pheatを算出する手段と、求めた熱電力量Pheatと予め設定した許容発熱電力閾値Pcomとを比較する手段と、熱電力量Pheatが許容発熱電力閾値Pcomを越えた場合、前記可変電圧電源供給部から高周波電力増幅部に供給する電源電圧Vを制御する手段と、を備えたことを特徴とする送信電力増幅装置。
【請求項2】
高周波電力増幅部と、可変電圧電源供給部と、前記高周波電力増幅部から外部に出力する出力電力Poutの検出手段を含む送信電力増幅装置において、前記高周波電力増幅部に近接配置した温度検出手段と、求めた温度と予め設定した許容発熱温度閾値とを比較する手段と、高周波電力増幅部の温度が許容発熱温度閾値を越えた場合、前記可変電圧電源供給部から高周波電力増幅部に供給する電源電圧を制御する手段と、を備えたことを特徴とする送信電力増幅装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の送信電力増幅装置において、更に、前記高周波電力増幅部に供給する信号レベルを制御する手段を備え、高周波電力増幅部に供給する電源電圧と同時に信号レベルを制御するように構成したことを特徴とする送信電力増幅装置。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれか一項記載の送信電力増幅装置において、更に、増幅する信号の変調形式信号供給手段を備え、供給された変調形式に応じて前記可変電圧電源供給部から高周波電力増幅部に供給する電源電圧の制御値を変更するように構成したことを特徴とする送信電力増幅装置。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれか一項記載の送信電力増幅装置において、前記高周波電力増幅部から外部に出力する出力電力Poutを検出する手段が方向性結合器であり、該方向性結合器により進行波レベルと反射波レベルを検出することによって高周波電力増幅部とアンテナとのインピーダンス整合状態を判断し、前記可変電圧電源供給部から高周波電力増幅部に供給する電源電圧を制御する際に、整合状態が改善される電源電圧値に制御するように構成したことを特徴とする送信電力増幅装置。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれか一項記載の送信電力増幅装置において、前記高周波電力増幅部とアンテナ端子間に、機械的又は電子的にインピーダンスを変化させるインピーダンス可変素子回路を挿入し、前記可変電圧電源供給部から高周波電力増幅部に供給する電源電圧を制御する際に、整合状態が改善されるようにインピーダンス可変素子回路を制御するように構成したことを特徴とする送信電力増幅装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−10082(P2012−10082A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143843(P2010−143843)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(396007982)株式会社ネットコムセック (13)
【Fターム(参考)】