説明

透光性導電塗料及び透光性導電膜

【課題】 透光性と導電性に優れた透光性導電膜の形成が可能な透光性導電塗料を提供すると共に、この透光性導電塗料を用いて形成する透光性と導電性に優れた透光性導電膜を提供する。
【解決手段】 透光性導電塗料は、金属酸化物がドープされた酸化インジウムからなる2種の導電性酸化物針状粉末AとBを含んでいる。上記粉末Aは、比表面積が4〜20m/gで、L表色系における粉体色がL=82〜91、a=−8〜2、b=0〜10である。上記粉末Bは、比表面積が4m/g未満で、同じく粉体色がL=82〜91、a=−8〜2、b=15〜20である。また、上記粉末Aと粉末Bの重量比は、A:B=35:65〜20:80である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば分散型エレクトロルミネッセンス素子(分散型EL素子)の透明電極等の形成に適用される透光性導電塗料に係り、特に、透光性と導電性に優れ、しかも膜の着色が防止される透光性導電塗料と透光性導電膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
EL素子の透明電極等に適用される透光性導電膜は、バインダーを含む溶剤中に導電フィラーが分散された透光性導電塗料を塗布することにより形成される。そして、透光性導電塗料の導電フィラーとしては、従来から、インジウム−錫酸化物(以下、ITOと称することがある)、錫−アンチモン酸化物(以下、ATOと称することがある)等の酸化物系フィラーが用いられており、中でもITOはATOに比べて抵抗値が低いために最も優れている。
【0003】
上記透光性導電塗料において、導電フィラーの含有量は少ないほど好ましい。その理由は、塗料成分の一つである透明樹脂(バインダー)に比べ、導電フィラーである酸化物の光吸収が遥かに大きいからである。従って、低抵抗値の導電膜が得られる限り、透明樹脂に対して出来るだけ少量の酸化物フィラーを用いることで、その導電膜の光線透過率を向上させることができる。このような理由から、球状や粒状の導電フィラーに比べて、針状又はりん片状の導電フィラーの方が、少量の添加で低抵抗値の膜が得られるため、コスト面、膜強度、耐候性等の面で優れている。
【0004】
上記りん片状の酸化物粉末を得る方法としては、無機酸化物、含水無機酸化物等のコロイド溶液を凍結し、コロイド溶液の溶媒の結晶面と結晶面の間隙に無機酸化物粒子や含水酸化物粒子を析出させた後、乾燥して脱溶媒し、含水酸化物の場合は更に焙焼して製造する方法(特許文献1:特開昭62−3003号公報)が知られている。
【0005】
また、上記針状の酸化物粉末を得る方法としては、針状の蓚酸錫を加熱分解して針状錫酸化物を得る方法(特許文献2:特開昭56−120519号公報)、硝酸インジウムの高温加熱濃縮スラリーから回収される白色針状インジウム化合物粉末を加熱分解して針状のインジウム−錫酸化物粉末を得る方法(特許文献3:特開平6−293515号公報)等が提案されている。
【0006】
特に上記特許文献3の方法で得られるインジウム−錫酸化物(ITO)針状粉末は、透光性導電膜として優れた導電性と透明性を実現できるため最も好ましいと考えられる。尚、上記特許文献3記載の方法で得られたインジウム−錫酸化物(ITO)針状粉末については、これを導電フィラーとして適用した透光性導電塗料(導電ペースト)と透光性導電膜も既に提案されている(特許文献4:特開平6−309922号公報)。
【0007】
しかしながら、上記特許文献3に記載されたITO針状粉末を得る方法においては、硝酸インジウムの高温加熱濃縮スラリーに錫化合物を添加して錫含有白色針状インジウム化合物粉末を得た後、これを仮焼することによりITO針状粉末にしているため、酸化錫のドープ量の制御が難しく、大量生産には向いていないという欠点があった。
【0008】
このため、実際に利用されるITO針状粉末の多くは、硝酸インジウムの高温加熱濃縮スラリーから白色針状インジウム化合物粉末を回収し、これを大気中で仮焼して酸化インジウムの針状粉末を得ておき(特許文献5:特開平6−293516号公報)、次に、その酸化インジウム針状粉末に酸化錫をドープする方法(特許文献6:特開平6−293517号公報、特許文献7:特開平10−17326号公報)により製造されている。
【0009】
ところで、上記特許文献6や特許文献7に記載された方法においては、後からドープした酸化錫成分を酸化インジウムに固溶させるため、焼成処理を行う必要がある。この焼成処理の温度条件については、700℃以上の任意温度を選定できるとされていが、実際には酸化錫成分を酸化インジウムに完全に固溶させて高い導電性にする必要性から、1000〜1300℃の極めて高温で焼成処理が行われている。
【0010】
このような高温での焼成処理によって、ITO針状粉末の導電性を十分に高めることはできるが、その反面、ITO針状粉末中の一次粒子が0.25〜1.0μm程度(比表面積換算で約3〜0.8m/g)まで粒成長するため、ITO針状粉末が黄緑色に着色してしまうという問題があった。
【0011】
また、このITO針状粉末が適用された透光性導電塗料を用いると、形成される透光性導電膜も黄緑色に着色してしまう。そして、透光性導電膜が黄緑色に着色してしまうと、例えば、この透光性導電膜を分散型EL素子の透明電極に適用した場合、EL素子の発光色が本来の蛍光体の発光色と異なるという現象が生じるという問題が存在した。
【0012】
この問題の解決手段として、ITO針状粉末の製造工程において従来よりも焼成温度を低下させ、例えば500〜900℃程度で焼成し、且つ還元条件を制御することにより、ITO針状粉末の色を白色(ニュートラル)に近くなるようにする方法(特許文献8:特開2005−322626号公報)が提案され、これによりITO針状粉末の着色問題は改善されている。
【0013】
【特許文献1】特開昭62−3003号公報
【特許文献2】特開昭56−120519号公報
【特許文献3】特開平6−293515号公報
【特許文献4】特開平6−309922号公報
【特許文献5】特開平6−293516号公報
【特許文献6】特開平6−293517号公報
【特許文献7】特開平10−17326号公報
【特許文献8】特開2005−322626号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記した低温焼成のITO針状粉末を用いた透光性導電塗料では、得られる透光性導電膜の膜厚を厚くした場合、高温焼成処理したITO針状粉末の透光性導電塗料により得られる透光性導電膜と比べて、表面抵抗値が高いという問題を有していた。一方、高温焼成処理したITO針状粉末を用いた透光性導電塗料の場合は、上記した着色問題と共に、得られる透光性導電膜の膜厚が薄くなると、表面抵抗値が急激に上昇するという問題があった。
【0015】
本発明は、このような従来技術の問題点に着目してなされたものであり、従来よりも透光性と導電性に優れた透光性導電膜の形成を可能とする透光性導電塗料を提供すると共に、この透光性導電塗料を用いることにより、透光性と導電性に優れた透光性導電膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明者は、導電性酸化物針状粉末の製造条件を詳細に検討した結果、酸化錫をドープした酸化インジウム針状粉末を焼成する際に低温焼成した粉末と高温焼成した粉末を組み合わせることによって、透光性と導電性に優れた透光性導電膜の形成を可能になることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0017】
即ち、本発明が提供する透光性導電塗料は、金属酸化物がドープされた酸化インジウムからなる導電性酸化物針状粉末がバインダーを含む溶剤中に分散した透光性導電塗料において、上記導電性酸化物針状粉末が、比表面積が4〜20m/gで且つL表色系における粉体色(光源:D65、視野角:10°)がL=82〜91、a=−8〜2、b=0〜10である導電性酸化物針状粉末Aと、比表面積が4m/g未満で且つL表色系における粉体色(光源:D65、視野角:10°)がL=82〜91、a=−8〜2、b=15〜20である導電性酸化物針状粉末Bとを含み、導電性酸化物針状粉末Aと導電性酸化物針状粉末Bの重量比がA:B=35:65〜20:80であることを特徴とする。
【0018】
上記本発明による透光性導電塗料において、導電性酸化物針状粉末Aの格子定数は1.0118〜1.0120nmであることを特徴とし、また、導電性酸化物針状粉末Bの格子定数は1.0121〜1.0123nmであることを特徴とする。更に、導電性酸化物針状粉末Aと導電性酸化物針状粉末Bのアスペクト比は、共に5以上であることが好ましい。
【0019】
上記本発明の透光性導電塗料において、酸化インジウムにドープされる金属酸化物は、酸化錫、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化タングステン、酸化チタンから選ばれた少なくとも1種を用いることができる。また、上記本発明の透光性導電塗料において、導電性酸化物針状粉末とバインダーの重量比は、導電性酸化物針状粉末:バインダー=40:60〜90:10の範囲が好ましい。
【0020】
また、本発明は、上記した本発明の透光性導電塗料を用いて形成された透光性導電膜を提供するものであり、その透光性導電膜の表面抵抗は、透過率72%において1000Ω/□(オーム・パー・スクエア)以下であり、且つ透過率81%において10000Ω/□(オーム・パー・スクエア)以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、膜厚にかかわらず透光性と導電性の両方に優れる透光性導電膜を得ることができ、この優れた透光性導電膜の形成に用いる透光性導電塗料を提供することができる。従って、本発明による透光性導電膜を分散型EL素子の透明電極に適用することによって、透明性と同時に導電性にも優れた、高性能のEL素子が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明に係る透光性導電塗料に適用される2種類の導電性酸化物針状粉末について、酸化錫がドープされた酸化インジウムにより構成された導電性酸化物針状粉末(ITO針状粉末)を例に挙げ、従来技術と対比しながら詳しく説明する。
【0023】
まず、導電性酸化物針状粉末の製造方法について説明する。インジウムメタルを硝酸に溶解した後、液温130〜150℃で加熱濃縮することにより、系内から水及び硝酸を蒸発させて濃厚な白色のスラリーとする。この白色スラリーを、高温のまま濾過した後、多量の純水で洗浄することにより、白色針状インジウム化合物粉末を得る。この白色針状インジウム化合物粉末は、インジウムの塩基性硝酸塩と考えられ、通常、Inを55〜68重量%及びNOを5〜23重量%程度含有している。
【0024】
上記白色針状化合物粉末を大気中にて300℃以上で仮焼することにより、酸化インジウム針状粉末とする。得られた酸化インジウム針状粉末は、平均粒径が0.01〜0.07μm程度の1次粒子で構成された針状の2次粒子からなり、その1次粒子間に細孔が形成されている。
【0025】
次に、この酸化インジウム針状粉末の細孔中に四塩化錫を毛管凝縮させた後、大気中の湿度で加水分解させ、焼成することによって、錫酸化物がドープされた酸化インジウムからなる導電性酸化物針状粉末(以下、ITO針状粉末とも称する)が得られる。尚、ITO針状粉末中の錫の含有量は、導電性の観点から、1〜12重量%が好ましく、2〜10重量%が更に好ましい。
【0026】
上記焼成工程において、上記特許文献7に記載の方法に従って、1000〜1300℃で焼成した後、還元性ガス雰囲気下で還元処理を行うことにより、比表面積が4m/g未満であり、且つL表色系における粉体色(光源:D65、視野角:10°)がL=82〜91、a=−8〜2、b=15〜20である導電性酸化物針状粉末(ITO針状粉末)Bが得られる。この方法で得られた導電性酸化物針状粉末Bの格子定数は、1.0121〜1.0123nmの範囲内にある。
【0027】
また、上記焼成工程において、上記特許文献8に記載の方法に従って、焼成温度を500〜900℃程度とし、且つ得られたITO針状粉末の還元処理条件において還元ガスの種類(水素、アルコールなど)、ガス流量、処理温度、処理時間等を調整することにより、比表面積が4〜20m/gであり、且つL表色系における粉体色(光源:D65、視野角:10°)がL=82〜91、a=−8〜2、b=0〜10となる導電性酸化物針状粉末(ITO針状粉末)Aが得られる。この導電性酸化物針状粉末Aの格子定数は、1.0118〜1.0120nmの範囲内にある。
【0028】
また、上記導電性酸化物針状粉末A、Bについて、980Pa(100kgf/cm)の圧力を加えてペレット状にしたときの比抵抗(以下、圧粉抵抗と称する)は、ITO針状粉末Aでは0.02〜0.2Ω・cm程度が得られ、0.02〜0.12Ω・cmの範囲内に制御することが好ましい。また、ITO針状粉末Bでは0.01〜0.1Ω・cm程度の圧粉抵抗が得られ、0.01〜0.05Ω・cmの範囲内に制御することが好ましい。
【0029】
一般に、金属酸化物がドープされた酸化インジウムにより構成された導電性酸化物針状粉末は、アスペクト比を5以上とすることが、バインダーに対し少量の粉末で十分な導電性が得られるため好ましい。アスペクト比が5未満では、粉末の添加凌駕少ないと透光性導電膜の比抵抗を5.0Ω・cm以下にすることが困難となる。尚、アスペクト比は高い方がよく、10以上が更に好ましい。上記した導電性酸化物針状粉末A、Bは、共に、長径(長さ)が5〜300μm程度、アスペクト比が5以上であり、濃縮条件によりアスペクト比が30程度のものまで得ることができる。
【0030】
導電性酸化物針状粉末の長径(長さ)に関しては、特に制限はないが、1〜300μmが好ましく、5〜100μmが更に好ましい。長径が大きい程、粒子同士の接点の数が少なくて低抵抗の膜が得られるからである。例えば、分散型EL素子に用いる場合、塗布面の蛍光体層は5〜30μm径の硫化亜鉛粒子を用いているため、その表面に数μm程度の凹凸が存在する。従って、長径が1μm以上あると、このような凹凸が存在しても針状粒子同士の接触が保たれ、必要な導電性が得られるからである。
【0031】
一方、長径が300μmを超えると、スクリーン印刷時にスクリーンの網目を通り難くなり、印刷に支障を来す場合がある。一般的には、100μm以下の長径のものが好ましい。ただし、100メッシュ以下の粗い目のスクリーンを用いて印刷する場合には、この限りではない。本発明に係る透光性導電塗料は長径(長さ)が比較的大きいが、200μm程度の幅の線をスクリーン印刷することは可能である。
【0032】
尚、上記した導電性酸化物針状粉末の製造方法において、酸化インジウムにドープされる金属酸化物としては、上記酸化錫以外に、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化タングステン、酸化チタン等が挙げられ、これらを単独で使用するか、あるいは複数を組み合わせて使用することができる。また、本発明における導電性酸化物針状粉末は、上述した方法以外の製造方法、例えば、硝酸インジウムと硝酸錫の溶液から尿素による均一沈殿法により針状水酸化物を形成し、この針状水酸化物を仮焼する方法等により、長径(長さ)1〜5μm程度の粉末を得ることが可能である。
【0033】
次に、本発明に係る透光性導電塗料の製造方法について説明する。まず、導電性酸化物針状粉末A、Bを、バインダー及び溶媒と混合し、必要に応じて分散剤等を添加した後、分散処理を行う。その際、導電性酸化物針状粉末Aと導電性酸化物針状粉末Bの比率(重量比)は、A:B=35:65〜20:80の範囲とする。この範囲を外れると、良好な導電特性が得られず、特に導電性酸化物針状粉末Bの比率が高いと、透光性導電膜が着色するため好ましくない。
【0034】
また、透光性導電塗料中の導電性酸化物針状粉末とバインダーの重量比は、導電性酸化物針状粉末:バインダー=40:60〜90:10の範囲が好ましく、60:40〜80:20の範囲が更に好ましい。上記導電性酸化物針状粉末:バインダーで40:60よりもバインダーが多いと、得られる透光性導電膜の抵抗が高くなり過ぎる場合があり、導電性酸化物針状粉末:バインダーで90:10よりもバインダーが少ないと、透光性導電膜の強度が低下するだけでなく、針状粒子同士の接触が不十分となって導電性が低下するからである。
【0035】
透光性導電塗料に用いるバインダーとしては、従来から透光性導電膜に使用されている無機バインダー、有機バインダーを用いることが可能である。例えば、アクリル、ポリエステル等の熱可塑性樹脂、エポキシ、ウレタン等の熱硬化性樹脂、アクリル系、ウレタン系、エポキシ系の紫外線硬化樹脂等を用いることができる。
【0036】
また、透光性導電塗料に用いる溶媒としては、使用するプラスチック基板に対する溶解性や成膜条件を考慮して、適宜選定することができる。例えば、メタノール(MA)、エタノール(EA)、1−プロパノール(NPA)、イソプロパノール(IPA)、ブタノール、ペンタノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコール(DAA)等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチル等のエステル系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル(MCS)、エチレングリコールモノエチルエーテル(ECS)、エチレングリコールイソプロピルエーテル(IPC)、プロピレングリコールメチルエーテル(PGM)、プロピレングリコールエチルエーテル(PE)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGM−AC)、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート(PE−AC)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル等のグリコール誘導体、ホルムアミド(FA)、N−メチルホルムアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、γ−ブチロラクトン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン(THF)、クロロホルム、メシチレン、ドデシルベンゼン等のベンゼン誘導体等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
また、分散剤としては、シリコンカップリング剤等の各種カップリング剤、各種高分子分散剤、アニオン系、ノニオン系、カチオン系等の各種界面活性剤が挙げられる。これら分散剤は、用いる導電性酸化物針状粉末の種類や分散処理方法に応じて適宜選定される。尚、分散処理には、超音波処理、ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ビーズミル、スリーロールミル等の汎用の方法を適用することができる。
【0038】
本発明の透光性導電塗料は、通常の手法により基板上に塗布することにより、透光性導電膜を形成することができる。透光性導電塗料の塗布方法としては、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、ワイヤーバーコーティング法、ドクターブレードコーティング法、ロールコーティング法等を用いることができる。
【0039】
このようにして得られた本発明の透光性導電膜は、上記2種類の導電性酸化物針状粉末で構成されているため、膜の着色を抑制できると同時に、膜厚にかかわらず高い透光性と導電性とを有している。具体的には、本発明の透光性導電膜の表面抵抗値は、透過率72%において1000Ω/□(オーム・パー・スクエア)以下であり、且つ透過率81%においては10000Ω/□(オーム・パー・スクエア)以下であって、高い透光性と導電性を兼ね備えている。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の記述における「%」は、透過率及びヘイズ値の%を除いて、「重量%」を示している。
【0041】
尚、粉末の粒径は、JEOL(株)社製の走査電子顕微鏡で測定した。1次粒子間の平均細孔径、細孔容量、比表面積は、Quantachrome社製のQuantasorbQS−10を用いて測定した。粉末の格子定数は、NIST製Si標準粉を内部標準とした広角X線回折測定(Si標準粉:ITO針状粉末[重量比]=30:70〜40:60の配合割合で混合)を行った後、Rietveld解析により求めた。圧粉抵抗値は、電極断面積2cmの専用ホルダーに粉末を挿入後、所定の圧力(100kgf/cm)を印加して、その電極間抵抗を測定して求めた。
【0042】
表色系における導電性酸化物針状粉末の粉末色と透光性導電膜の膜色は、日本電色工業(株)社製の簡易型分光色差計NF333を用いて測定した。塗料の粘度は、塗料温度25℃で、B型粘度計を用いて測定した。また、透光性導電膜の表面抵抗は、三菱化学(株)社製の表面抵抗計ロレスタAP(MCP−T400)を用いて測定した。更に、透光性導電膜の透過率(可視光)及びヘイズ値は、村上色彩技術研究所製のヘイズメーターHR−200を用いて測定した。尚、上記透光性導電膜の膜色の測定は、まず透光性導電膜を形成していない基板だけを校正用白色板(L*=95.5)上に設置してキャリブレーション(白色校正)した後、次に上記校正用白色板上に透光性導電膜を形成した基板を設置して行った。
【0043】
[実施例1]
ITO針状粉末Aとして、住友金属鉱山(株)製のSCP−X700Bを用いた。このITO針状粉末Aは、平均長径が約50μm、短径に対する長径の比(アスペクト比)が約14、錫含有量が2.5重量%、比表面積が9.0m/g、格子定数が1.01191nm、L表色系における粉体色(光源:D65、視野角:10°)がL=83.4、a=−4.2、b=6.1である。また、980Pa(100kgf/cm)の圧力でペレット状にして測定した圧粉抵抗値は0.06Ω・cmである。
【0044】
また、ITO針状粉末Bとして、住友金属鉱山(株)製のSCP−X1200を用いた。このITO針状粉末Bは、平均長径が約50μm、短径に対する長径の比(アスペクト比)が約14、錫含有量が2.5重量%、比表面積が1.0m/g、格子定数が1.01221nm、L表色系における粉体色(光源:D65、視野角:10°)がL=85.8、a=−5.9、b=17.7である。また、980Pa(100kgf/cm)の圧力でペレット状にして測定した圧粉抵抗値は0.02Ω・cmである。
【0045】
次に、上記ITO針状粉末AとBを、A:B=50:50(重量比)の割合で混合し、バインダー(ウレタン変性ポリエステル樹脂)が溶解した溶剤(エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート)、硬化剤(イソシアネート)及び分散剤に分散させて、実施例1に係る透光性導電塗料(ITO針状粉末A:14%、ITO針状粉末B:14%、ウレタン変性ポリエステル樹脂:15.1%、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート:55.6%、硬化剤:1.0%、分散剤:0.3%)を調製した。尚、この塗料の粘度は、5000mPa・sであった。
【0046】
この実施例1に係る透光性導電塗料を、基板としての東レ(株)社製のPETフィルム(商品名:ルミラー、厚さ:100μm)上に、メッシュサイズ及びスキージの掃引速度を変えスクリーン印刷し、120℃で20分間加熱することにより、膜厚の異なる複数の透光性導電膜を得た。
【0047】
これら実施例1による複数の透光性導電膜について、透過率と表面抵抗値の関係を図1に示す。これらの透光性導電膜のヘイズ値は、60〜95%の範囲にあった。また、これら複数の透光性導電膜のL表色系における膜色(光源:D65、視野角:10°)は、透過率60〜85%の範囲において、L=92〜97、a=−5〜−2.5、b=8.5〜15の範囲にあった。
【0048】
尚、透光性導電膜の透過率(可視光)及びヘイズ値は、透光性導電膜だけの値であり、それぞれ下記計算式により求められる:
透光性導電膜の透過率(%)=[(透光性導電膜付き基板ごと測定した透過率)/(基板の透過率)]×100
透光性導電膜のヘイズ値(%)=(透光性導電膜付き基板ごと測定したヘイズ値)−(基板のヘイズ値)
【0049】
[実施例2]
上記ITO針状粉末AとBの重量比をA:B=30:70にした以外は実施例1と同様にして、膜厚の異なる複数の透光性導電膜を得た。これら実施例2による複数の透光性導電膜について、透過率と表面抵抗値の関係を図2に示す。これらの透光性導電膜のヘイズ値は、60〜95%の範囲にあった。また、これら複数の透光性導電膜のL表色系における膜色(光源:D65、視野角:10°)は、透過率60〜85%の範囲において、L=92〜97、a=−6〜−2.7、b=9〜18の範囲にあった。
【0050】
[比較例1]
上記ITO針状粉末Aのみを用いた以外は実施例1と同様にして、膜厚の異なる複数の透光性導電膜を得た。これら比較例1による複数の透光性導電膜について、透過率と表面抵抗値の関係を図1〜3に示す。これらの透光性導電膜のヘイズ値は、60〜95%の範囲にあった。また、これら複数の透光性導電膜のL表色系における膜色(光源:D65、視野角:10°)は、透過率60〜85%の範囲において、L=92〜97、a=−4.5〜−2、b=8〜13の範囲にあった。
【0051】
[比較例2]
上記ITO針状粉末Bのみを用いた以外は実施例1と同様にして、膜厚の異なる複数の透光性導電膜を得た。これら比較例2による複数の透光性導電膜について、透過率と表面抵抗値の関係を図1〜2に示す。これらの透光性導電膜のヘイズ値は、60〜95%の範囲にあった。また、これら複数の透光性導電膜のL表色系における膜色(光源:D65、視野角:10°)は、透過率60〜85%の範囲において、L=92〜97、a=−7〜−3、b=9.5〜22の範囲にあった。
【0052】
[比較例3]
上記ITO針状粉末AとBの重量比をA:B=70:30にした以外は実施例1と同様にして、膜厚の異なる複数の透光性導電膜を得た。これら比較例3による複数の透光性導電膜について、透過率と表面抵抗値の関係を図3に示す。これらの透光性導電膜のヘイズ値は、60〜95%の範囲にあった。また、これら複数の透光性導電膜のL表色系における膜色(光源:D65、視野角:10°)は、透過率60〜85%の範囲において、L=92〜97、a=−4.5〜−2、b=8〜14の範囲にあった。
【0053】
上記した実施例1及び2と比較例1及び2を比較すると、ITO針状粉末AとBとを混合することによって、透光性導電膜の着色を抑制できると共に、図1及び図2から分るように、低透過率から高透過率の範囲において低抵抗の透光性導電膜が得られる。
【0054】
また、図3から分るように、比較例3の透光性導電膜の導電特性は比較例1と同様であることから、導電性酸化物針状粉末AとBの重量比がA:B=35:65〜20:80の範囲外では、導電特性は改善されないことが分る。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施例1と比較例1、2で得られた複数の透光性導電膜における透過率と表面抵抗値の関係を示すグラフである。
【図2】実施例2と比較例1、2で得られた複数の透光性導電膜における透過率と表面抵抗値の関係を示すグラフである。
【図3】比較例1、3で得られた複数の透光性導電膜における透過率と表面抵抗値の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物がドープされた酸化インジウムからなる導電性酸化物針状粉末がバインダーを含む溶剤中に分散した透光性導電塗料において、上記導電性酸化物針状粉末が、比表面積が4〜20m/gで且つL表色系における粉体色(光源:D65、視野角:10°)がL=82〜91、a=−8〜2、b=0〜10である導電性酸化物針状粉末Aと、比表面積が4m/g未満で且つL表色系における粉体色(光源:D65、視野角:10°)がL=82〜91、a=−8〜2、b=15〜20である導電性酸化物針状粉末Bとを含み、導電性酸化物針状粉末Aと導電性酸化物針状粉末Bの重量比がA:B=35:65〜20:80であることを特徴とする透光性導電塗料。
【請求項2】
上記導電性酸化物針状粉末Aの格子定数が1.0118〜1.0120nmであることを特徴とする、請求項1に記載の透光性導電塗料。
【請求項3】
上記導電性酸化物針状粉末Bの格子定数が1.0121〜1.0123nmであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の透光性導電塗料。
【請求項4】
上記導電性酸化物針状粉末Aと導電性酸化物針状粉末Bのアスペクト比が共に5以上であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の透光性導電塗料。
【請求項5】
上記金属酸化物が、酸化錫、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化タングステン、酸化チタンから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1に記載の透光性導電塗料。
【請求項6】
上記導電性酸化物針状粉末とバインダーの重量比が、導電性酸化物針状粉末:バインダー=40:60〜90:10であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の透光性導電塗料。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の透光性導電塗料を用いて形成された透光性導電膜であって、透光性導電膜の表面抵抗が、透過率72%において1000Ω/□以下であり、且つ透過率81%において10000Ω/□以下であることを特徴とする透光性導電膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−140559(P2008−140559A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−322815(P2006−322815)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】