説明

透明スタンパ

【課題】本発明の目的は、複数回の使用可能な多層記録媒体の製造用に用いられる透明スタンパにおける、ヒート型レジストに凹凸パターンを形成するための露光する照射時間を短縮できるような透明スタンパのスタンパ基材を提供するものである。
【解決手段】上記課題を解決するため本発明は、透光性を有する基板上に透光性を有する凹凸パターンが形成された無機レジストが形成された、多層光記録媒体に用いられる透明スタンパであって、基板に用いられる材料が、フッ素系樹脂、COP樹脂、ソーダライムガラスであることを特徴とする透明スタンパである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光記録媒体の製造に用いる透明スタンパに関する。
【背景技術】
【0002】
音声信号をデジタル信号として記録する光記録媒体として開発されたコンパクトディスク(以下、CDと略す)は、音声信号以外のデジタル信号の記録媒体としても使用されている。デジタル信号を記録する媒体は、パーソナルコンピューターのバックアップ、画像記録等の要求により、記録密度の向上が求められ、デジタル多用途ディスク(Digital Versatile Disc:以下、DVDと略す)が開発された。
【0003】
しかしながら、地上波デジタル放送など高画質なコンテンツの記録媒体として、より大きな記録容量が必要となっている。
【0004】
一般的な光記録媒体は、基板上に形成された記録膜へ、光エネルギーや磁気エネルギーによって信号パターンが記録される。また容量を更に増すため、2層以上の記録膜を有する多層光記録媒体などがある。
【0005】
光ディスクのトラック記録密度の高密度化は、記録・再生を行う光学系のレーザー波長λ及び対物レンズの開口数NAに大きく依存し、信号再生時の空間周波数は、NA/λ程度が検出可能な限界である。従って従来の光ディスクで高密度化を実現するためには、再生光学系のレーザー波長λを短くし、対物レンズの開口数NAを大きくすることで、よりトラック記録密度を高めることが可能である。
【0006】
しかしながら、開口比を大きく取ることによって、ビームのスポットを波長限界まで小さくすることが可能となるが、開口比が高いほど焦点距離は短くなる。このために、光入射側の基板を薄くする必要がある。
【0007】
レーザーの波長を短波長化し、開口比を高くとった光記録媒体としブルレイディスク(登録商標:以下、BDと略す)がある。BDの記録容量を更に大きくするために記録層を、多層化することが提案されている(特許文献1及び2)。
【0008】
以下、特許文献1に開示されている、フォトポリマー法(以下、2P法と略す)を用いた多層光記録媒体の製造方法を、図2の模式的工程断面図を用いて説明する。
(1)射出成型法によってスタンパ14上に形成された信号パターンを、基板1上に転写する。
(2)信号パターン上に1層目の記録膜4を形成する。
(3)基板1と同様に、透明スタンパ2を射出成型によって製造する。透明スタンパ2上には、基板1と同様に2層目の信号パターンが形成されている。基板1上に、紫外線硬化樹脂からなる2P樹脂3を、塗布法を用いて形成し、透明スタンパ2を2P樹脂3上に張り合わせ、紫外線で硬化させることによって2P樹脂3上に2層目の信号パターンが転写される。
(4)透明スタンパ2を剥離する事で、中間層6が形成される。
(5)2層目の信号パターン上にさらに2層目の記録膜5を形成する。
(6)その後、有機保護膜7を形成する事で2層光記録媒体となる。
【0009】
2層以上の多層媒体もこの方式で作成可能である。即ち、記録膜5を形成後、上層となる信号パターンに対応する透明スタンパを使って、前記と同様に2P法によって中間層を形成する工程を繰り返すことによって更なる多層光記録媒体を製造することが可能となる。
【0010】
上記の説明の工程で呼ばれる透明スタンパ2は、スタンパ14と同様に精密金型から射出成形法によって作られた透明樹脂基板であり、そこに転写された信号パターンを更に紫外線硬化樹脂3を介して、記録膜4上に信号パターン面を転写するものである。
【0011】
しかし、この方法では、ポリカーボネイト(PC)樹脂を透明スタンパ2の材料として用いた場合、透明スタンパ2は、紫外線で2P樹脂を硬化する際にUV光により透明スタンパ2が劣化するため1回の使用で使い捨てにされる。
【0012】
このために、透明スタンパが1回の使用で使い捨てにされるため、産業廃棄物の増大につながるという問題を抱えていた。
【0013】
一方、BDの場合、信号パターンの寸法が小さくなるために、信号パターンの形成を、従来のフォトレジストに変えて、無機材料からなるヒート型レジスト(以下、無機レジストと略す)を用いることを出願人は、特願2006−020895号で提案した。
【0014】
特願2006−020895号で提示した、無機レジストを用いた、透明スタンパの製造方法を図1の模式的工程断面図を用いて説明する。
(1)スタンパ基材13を準備する。スタンパ基材13は洗浄を行う事がより好ましく、スタンパ基材13表面へのゴミを取除ければ、ウェット法、ディッピング法、あるいは、ドライ法等のいかなる方法であっても構わない。
(2)その後スパッタリング法を用いてスタンパ基材13上に無機レジスト膜8を形成する。
(3)光ビーム9によって所定の凹凸パターンの露光を行う。露光はターンテーブルによりスタンパ基材13が角速度一定或いは線速度一定で回転し、一定速度でスライドする移動光学台を有した、露光装置を用いることができる。
(4)露光部10あるいは未露光部11を選択的にエッチングし、スタンパ基材13上に凹凸パターンを形成する。このときに用いる材料としては、アルカリ溶液あるいは酸溶液、純水、有機溶剤など無機レジストに最適なものを選択することが可能であり、特に限定するものではない。また場合によっては、ドライエッチング方式によって凹凸パターンを形成することも可能であり、用いるエッチャントガスは無機レジスト8材料の露光部10あるいは未露光部11で必要な選択比を得られる物を選べばよい。
【特許文献1】特開2003−203402号公報
【特許文献2】特開2002−260307号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
石英ガラス(以下、SiO2と表記する場合がある)の様な透明な基板上に紫外線を透過するヒート型レジストを形成することで使い捨てにしないでも良い透明スタンパが得られる。しかしながら、PC樹脂上のヒート型レジストを露光する際のレーザーのエネルギーで、石英ガラス(SiO2)上のヒート型レジストを露光する場合、線速度を遅くする必要があった。線速度を遅くすると、1枚の基板を露光する時間が長くなるので、露光装置のスループットが下がるという問題がある。
【0016】
そこで本発明の目的は、複数回の使用可能な多層記録媒体の製造用に用いられる透明スタンパにおける、ヒート型レジストに凹凸パターンを形成するための露光する照射時間を短縮できるような透明スタンパのスタンパ基材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、透光性を有する基板上に透光性を有する凹凸パターンが形成された無機レジストが形成された、多層光記録媒体に用いられる透明スタンパであって、
前記基板に用いられる材料が、フッ素系樹脂、COP樹脂、ソーダライムガラスであることを特徴とする透明スタンパである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の基板材料を用いることで、露光装置のスループットを下げることなく、複数回の使用に耐える透明スタンパを得ることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明者は、検討の結果、無機レジストの露光条件の違いが、基板の熱伝導率によるものであること導き出した。
【0020】
熱伝導率が高い場合、同一のパワーで露光を行っても必要とする凹凸パターン形状を得られない。これは無機レジストの結晶/非結晶の相変化に必要な熱量が、基材の材料によって吸収あるいは拡散するためと考えられる。そのため相変化を起こす前に、基材へ熱が逃げてしまい、必要とする熱が、無機レジスト上に残らなくなってしまうと考えられる。
【0021】
これを改善するためには、更に強い露光エネルギーでスタンパ基材内と無機レジスト膜上に必要とする。これは露光装置の光源から、より強いパワーを出射することになり、レーザー光源への負担や、構成する光学部品の負担を増やす事となると同時に、場合によっては光源そのものを交換しなくてはいけない。これは無機レジストを使用するために不必要な設備投資を強いることになり、生産コストの上昇となってしまう。また露光光源のパワーを上げる方法として、露光条件の一つである線速を落とすことで、無機レジスト膜上のパワー向上を図ることができるが、露光装置のスループットを落とすことになり、実用的ではない。
【0022】
図1の模式的工程断面図を用いて透明スタンパの製造方法を説明したが、スタンパ機材3は、
1.厚さに関しては透明スタンパとして、剛性を保持できる事が必要であり、0.3mm以上有ればよく、より好ましくは0.6mm以上である事が生産時の扱いの面から好ましい。
2.スタンパ基材13の形状は、特に限定する物ではないが円形状あるいは、基板形状であることが望ましい。一般的な基板形状の場合、外径はφ120mmであり、内径はφ15.0mmの中心穴を有している。
【0023】
露光工程により同心円あるいはスパイラル状の凹凸パターンを形成するが、露光時において中心穴あるいは、外形と凹凸パターンとの偏芯位置精度をより高くするため、内外径公差や面取り部の加工精度が一定である事が好ましい。
【0024】
透明スタンパを介して紫外線(以下、UV光と略す)を照射し、中間層を硬化させるので、基材の紫外線透過率が低いと、硬化時間が長くなり、スループットが下がるので、UV光を十分に透過できることが好ましい。
【0025】
更に、PC樹脂からなる基板がUV光により劣化する原因は、PC樹脂がUV光に対し吸収を持っているために劣化が進行するためと考えられる。このため、PC樹脂等の有機樹脂を基板として用いる場合は、UV光に対する透過率が高いことが好ましい。
【0026】
このため、スタンパ基材のUV光における透過率が94%以上有することがより好ましい。
【0027】
これらの条件を満たす材料として、コオレフィンポリマー樹脂(以下、COP樹脂と略記する場合がある)やフッ素系樹脂等の樹脂材料、あるいは石英ガラスなどが含まれる。
【0028】
無機レジストとして用いられる材料としては、熱により結晶/非結晶の相変化を示す材料が好ましい。例えば、Te、In、Ga、Sb、Se、Pb、Ag、Au、As、Co、Ni、Mo、W、Pd、Ti、Bi、Zn、Si等の材料の少なくとも1種類以上からなる合金、あるいは酸化物、窒化物等などが幅広く一般的に知られている。すでに多くの材料が公知の技術として存在するが、後工程として凹凸パターンを形成するので、露光部・未露光部で選択比が大きく取れ、紫外線を透過する透光性を有する材料が好ましい。特に、酸化タングステンの不完全酸化物が好ましい。レジストの形成方法として、スパッタリング法以外にも、蒸着法、CVD法等を選択することも可能であり、特に指定するものではない。
【0029】
(実施例)
透明スタンパ2を用いて、紫外線硬化樹脂に信号パターンの転写を行った。
【0030】
透明スタンパ2は、図1の製造方法を用いて製造した。スタンパ基材13は、厚さが1.0mm〜20mm、直径80〜120mm、中心孔径10〜15mmのものが好適である。レジストの膜厚としては、20nm〜1000nmとすることが好ましい。
【0031】
スタンパ基材の材料としては、表1に示される、単結晶シリコン(Si)、ニッケル(Ni)、ソーダライムガラス、石英ガラス(SiO2)、PC樹脂、PMMA樹脂、COP樹脂、及び、フッ素系の樹脂を用いた。本実施例では、基板の膜厚を5mm、直径120mm、中心孔径12mmとし、無機レジストは、スパッタリングにより成膜した膜厚300nmの透光性を有する酸化タングステンの不完全酸化物を用いた。各材料の、熱伝導率(W/m・K(300°K))及び透過率を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
露光装置は、一定の線速度でレーザー露光可能な装置を用い、ランド・グルーブからなる信号パターンの露光を行った。
【0034】
現像には、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH):2.38%の溶液を純水により5倍希釈した溶液に3分間浸漬させた。これにより溝深さ25nmの凹凸パターンを形成した。
【0035】
上述の、現像条件で、材料毎の、溝の深さが25nmとなる露光条件は、
単結晶シリコン:条件なし
ニッケル:
石英ガラス:1400μW 0.5m/sec、2400μW 1.0m/sec、
ソーダライムガラス:2300μW 2.0m/sec、
PC樹脂:1600μW 1.0m/sec、2000μW 2.0m/sec、2300μW 2.5m/sec、2700μW 3.0m/sec、
PMMA樹脂:1600μW 1.0m/sec、2000μW 2.0m/sec、2300μW 2.5m/sec、2700μW 3.0m/sec、
COP樹脂:1600μW 1.0m/sec、2000μW 2.0m/sec、2300μW 2.5m/sec、2700μW 3.0m/sec、
フッ素系の樹脂(製品名アフレックス(旭硝子社製)):1600μW 1.0m/sec、2000μW 2.0m/sec、2300μW 2.5m/sec、2700μW 3.0m/sec、であった。
【0036】
スタンパ基材13に、石英ガラス(SiO2)を用いた透明スタンパ2では、信号パターン転写を10回行ったが、いずれの基板においても支障なく信号を得ることが出来た。(石英ガラスでも大丈夫なので削除) スタンパ基材13に、フッ素系樹脂:製品名アフレックス(旭硝子社製)のシート基材を用いた透明スタンパ2は、信号パターン転写を複数回行ったが、いずれの基板においても支障なく信号を得ることが出来た。また、透明スタンパも破損無く使用することが出来た。
【0037】
表2に、現像条件の一覧を示す。
【0038】
【表2】

【0039】
材料にシリコンを用いた場合、今回の実験に使用した露光装置では、露光条件が見いだせなかった。
【0040】
表3から、熱伝導率が高い場合、同一のパワーで露光を行っても必要とする凹凸パターン形状を得られない。これは無機レジストの結晶/非結晶の相変化に必要な熱量が、基材の材料によって吸収あるいは拡散するためと考えられる。そのため相変化を起こす前に、基材へ熱が逃げてしまい必要とする熱が、無機レジスト上に残らなくなってしまうと考えられる。
【0041】
また本発明者が検討を行った中で、透明基材との比較としてスタンパ基材にSi、あるいはNiなど熱伝導率の高い材料を用いた場合、上記の基板側への熱移動はより顕著となる結果が判明している。これに対し、熱伝導率が低い樹脂系材料に無機レジストを形成した場合はより低い露光量で行う事が可能であった。更に、透明スタンパとしての機能を持たせるために、前記UV透過率は高い程、硬化時間及び紫外線照射パワーを抑えることができる。具体的には、透明スタンパのスタンパ基材の紫外線に対しする透過率が、90%以上があることが好ましい。これらの条件のうち両方を満たす材料としては、ソーダライムガラス、COP樹脂、フッ素樹脂材料が挙げられるが、上記条件を満たす物であれば、特に限定する物ではない。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明におけるスタンパの製造方法の模式図の一例
【図2】従来方式における、多層光記録媒体の製造方法の模式図の一例
【符号の説明】
【0043】
1 基板
2 透明スタンパ
3 2P樹脂
4 記録膜
5 記録膜
6 中間層
7 有機保護膜
8 無機レジスト
9 レーザー光
10 露後部
11 未露光部
13 スタンパ基材
14 スタンパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性を有する基板上に透光性を有する凹凸パターンが形成された無機レジストが形成された、多層光記録媒体に用いられる透明スタンパであって、
前記基板に用いられる材料が、フッ素系樹脂、COP樹脂、ソーダライムガラスであることを特徴とする透明スタンパ。
【請求項2】
前記無機レジストが、タングステンの不完全酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の透明スタンパ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−20931(P2009−20931A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−181044(P2007−181044)
【出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】